キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【そんなタイトルで】アナザー カンピオーネ1【大丈夫か?】
33 :
アナカン
◆w2ifIqEU72
:2010/10/23(土) 15:08:06 ID:???
1‐4)シャペウ・ド・ファルカン
ボールの複雑な軌道がジョアンの目に入ってきた。
ジョアン(ふむ…)
それなりにかかっていた強い回転を突風が煽り、このような軌道になっている事は簡単に解った。
ジョアンはボールの軌道を読み、そして柔らかく、吸い付くようなトラップでボールを足元に収めた。
少年「わぁ…!」
少年が感嘆の声をあげるのをジョアンは聞き逃さなかった。
理屈が解る事と、軌道を読み回転や勢いを吸収せしめるトラップをやってみせる事は別。
ジョアンが軽くやって見せたトラップの中には、彼の芸術の片鱗が散りばめられており…
少年はその事を正しく理解してみせたという事だ。
ジョアン(まさか…な。)
だがこのくらいの小さな少年の場合、普通なら派手な足技やシュートにばかり目が行くもの。
トラップ、ボールタッチについてなど、そこまで関心を引く事は無い。
34 :
アナカン
◆w2ifIqEU72
:2010/10/23(土) 15:09:27 ID:???
クラブチームで指導を受けているならばその限りではないが…
しかしながら目の前の少年はどう見てもそんな年齢には見えなかった。
(当時ユーゴの下部組織に所属するのは普通14歳くらいからだが、目の前の少年はどう見ても10歳弱。)
ジョアンは目の前で目を輝かせている少年に興味を持ち始めていた。
試してみるか…と、ボールに足をかけた。
すると、少年もすぐにジョアンの意図に気付き、グッと膝を落とした。
ジョアン(広場の端…言わば右サイドラインの際だ。 …と、なれば。)
ジョアンは指でチョイチョイと少年にジェスチャーを見せた。
つまりは「かかって来なさい」という事である。
それを見た少年は、顔に喜色を湛(たた)え遠慮なく飛び掛ってきた。
ジョアンはボールに乗せていた左足裏を滑らせ、逆足側にボールを移動させた。
そのボール逆足(右)でダブルタッチ…と見せてアウトからインまたぐ。
少年が「あれ!?」という声をあげて体勢を崩したのをジョアンは見逃さず…
またいだ右足の足裏ですぐさま転がるボールを止め、同時に左足の方向へボールを転がし、
そのままアウトサイドでコントロールして抜き去った。
これがシャペウ・ド・ファルカン……ファルカンフェイントとも呼ばれるこの技は、
サイドでボールを受けて、スピードに乗る前に相手と対した時にこそ真価を発揮する。
今も丁度、ジョアンはサイドの袋小路から抜け出したような形になっていた。
35 :
アナカン
◆w2ifIqEU72
:2010/10/23(土) 15:10:28 ID:???
少年「すっごい! おじさん、今のどうやったの!?」
少年が満面の笑みでジョアンに問いかけてきた。
太陽のように明るい笑顔がジョアンの目には眩しすぎるよう映った。
ジョアン「教えて欲しいかい?」
少年「うん!」
ジョアン「もう一度だけやるよ、よく見ていなさい。」
そう言うと、ジョアンは先程のフェイントを再び少年に見せた。
今度は2連続でフェイントをかけ、左ではなく右から抜くというおまけ付きで。
ジョアンはすぐに振り返り、少年にパスを送った。
ジョアン「ポジションは真ん中?」
少年「うん、センターハーフ!」
ジョアン「そうか、がんばりなさい。」
少年「うん!!」
36 :
アナカン
◆w2ifIqEU72
:2010/10/23(土) 15:11:42 ID:???
それだけの会話を交わし、ジョアンは少し先のホテルへと向かった。
ホテルの扉の前でチラリと後方を窺うと、少年は一心不乱にボールと格闘していた。
正しい子供の姿だなと確認し、ジョアンはホテルに入ってチェックインを済ませた。
少し休んだら様子を見ることにしようと思っていたが、長距離移動の疲れが思いのほか大きかったのか、
ジョアンは部屋に入るとベッドに倒れこんで眠りについてしまった。
…彼が目を覚ました時、既に時計は19時を回っていた。
窓から広場を覗いてみると、何人かでストリートサッカーが繰り広げられていた。
ジョアンは目を凝らしてあの少年を探してみたが、その姿は見当たらない。
どうやら既に家へと帰ってしまったようだ。
ジョアン(寝過ごしたのか…。)
ジョアン見たかったものを見逃した事を理解した。
歳を取ると疲れやすくて困るな…と自嘲を浮かべつつ、仕方なくジョアンはTVのスイッチを点けた。
大きな失態にも関わらずジョアンの心には後悔の念が生じていなかった。
これも一つの縁、自分の目が正しければ自分が関わらずとも世に出てくる筈と思えたからだ。
明日同じ時間に広場に居れば、また会えるとも思ったが、既にジョアンはそうするつもりもない。
電源がonになったTVの画面を見ると、そこには2匹のネズミが映し出されていた。
正確には、青い蝶ネクタイと赤いチョッキを身に着けた、ネズミのアニメーションだ。
有名なアニメーションだが、ジョアンは特に興味を持った事はない。
彼はチャンネルを変更し、ニュース番組を観る事にしたのだった。
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