キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
キャプテン森崎まとめ掲示板TOP

■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 最新50
【そんなタイトルで】アナザー カンピオーネ1【大丈夫か?】

66 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:06:10 ID:???
1-8)LOST BOY

ガチャ…
ホテルのドアを開けると、そこにはあの少年が居た。
椅子に座って、何をするでもなく、何を見るでもなくボーッとしていた。


…あれからジョアンはBJと事の成り行きを確認し合った。
その中で少年の事が話に出てきた時、ようやくジョアンは多くを思い出した。

スタジアムで偶然あの少年と家族を目にして驚いた事、
もしかして縁があるのではと考えた後、バカバカしいと自嘲しながら否定した事、
レッドスターの選手達の強さは本物で、フィジカル、知性にも穴はなく舌を巻いた事、
そしてハーフタイム中に起こった乱闘…瞬く間に伝播した憎しみと暴力、
人波に呑まれていった親子、それを追った自分、刃物で刺された少年の父親、
茫然となった母子、叫ぶ自分、パイプで殴打されながらも走る母、自分に少年を託して崩れ落ちた。

仔細を少しずつ思い出すに従い、胃と胸が激しく悲鳴をあげた。
そう言えば、目覚める直前にそんな夢を見ていた気がした。
残念ながら夢では無かったが…。

67 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:07:12 ID:???
BJの話によれば、少年には外傷が認められず、今のところ命に別状はないそうだった。
ただ、ジョアンが目を覚ます前に、何が起こったか調べると、色々と解せない部分が出てきたらしい。
それ故 少年を病院に置かず、自分の宿泊しているホテルへと移したという事だった。
解せない部分についてはジョアンも色々と思うところがあり、BJの話と合わせると、
どうやら少年の命は別の意味で危険かも知れないという予測が立っていた。


・・・・・。

BJ「説明した通り外傷は全く無い、無論 殴打もされていないだろう。
   だが……  おぅい坊や、爺さんを連れて来たぞ!」

このBJの呼びかけに対して少年の反応は希薄…
僅かに視線を向けただけで、それ以外は全く反応が見られなかった。

BJ「……ご覧の通りさ。」

68 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:08:19 ID:???
ジョアン「これは………。」

思わず絶句してしまうジョアン。少年の異常はただ反応が乏しいだけの物ではなかった。
覗う事が出来た彼の表情には生気、活力と言った物を見出すことが出来なかったのだ。

BJ「心因的な物だな。 度を超えたストレス、ショックに直面した人間に時折見られる。
   病名としては“全生活史健忘症”…アンタの記憶が混濁していたのも程度は違えど同じ物さ。」

ジョアン「つまり……?」

BJ「まぁ理解り易く言えば記憶喪失ってやつだ。」

本や映画の中でしか耳にした事の無い単語にジョアンは耳を疑った。
だがこれまでの会話から、BJが与太を話すような人物でない事は明らかだった。

ジョアン「…治す方法は?」

BJ「自然治癒を待つよりないな、無理に思い出させようとすれば人格崩壊やショック死の恐れがある。
   そもそもそう言った最悪の状況から逃れるため、脳が自ら防衛に働いた結果がコレなのさ。」

69 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:10:25 ID:???
ジョアン「そう…か。」

BJ「…で、どうするんだい?」

ここでBJが心なしか厳しい口調でジョアンに問うてきた。
この問いに対して、ジョアンは自信を持って言える答えはなかった。
その意を力なく聞き返すのが精一杯であった。

ジョアン「どう……とは?」

BJ「アンタはこの少年を母親から託され、そしてこの子の命は助かった。
   …だがこの通り。 それでアンタはどうするつもりだ? これでおさらばかい?」

畳みかけるように言葉を紡いでくるBJ。
ジョアンにとってその言葉は一つ一つが堪えた。
命さえ助かれば、あとはサッカーがこの少年の人生を切り開く…そう考えていた。
だが事はそんなシンプルに終わらない事態であるのは明らかだった。

70 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:11:29 ID:???
サポーター同士の乱闘で刃物が飛び出す事がまず異常だった。
女子供がパイプで叩かれようとしていたのも信じられなかった。
ジョアンがさらに驚いた事に…BJに見せられた新聞では、あの事件はこう報道されていた。
『怪我人:多数、死者:0、行方不明者:0』と。

BJ「さあ、どうなんだ?」

痺れを切らしたBJが再びジョアンに回答を迫った。

ジョアン「私は………。」

だがジョアンは答えられない。
そう、ジョアンに考えられる答えはたった一つだけしかなかった。
だがそれを口に出せる自信がなかった。
ロベルトを破滅させ、その後も何の力にもなれなかった自分。
そんな自分に人…子供を導く資格など、二度と有り得ないと思っていた。

ハァ…と呆れたような溜息をBJが吐いた。
そしてジロリとジョアンの目を睨みつけ、こう言い放った。

71 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:12:49 ID:???
BJ「アンタ…あの夜 自分が死んでも構わないと言ったな。」

ジョアン「……。」

BJ「もしやと思っていたが、どうやら間違いない。 アンタはあの時ホントに
   自分“なんか”死んでもいいと思っていたんだ! 違うか!?」

ジョアンはグゥの音も出ない。
「違わない」と、擦(かす)れる声を精一杯だした。

BJ「自分に生きようとする意志の無い者が、人を生かしたいだって?
   笑わせるな! アンタはこの子の母親に託され、それを受けたんだ!
   アンタは死を以って少年を助ける『覚悟』があったつもりなんだろうが、
   そんな物は『覚悟』ではないぞ! 思考停止だ! 自暴自棄の根性だ!」

ジョアン「………。」

BJ「……。」

72 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/25(月) 19:13:57 ID:???
ジョアンは何も言えなかった。
BJもそれ以上は言わなかった。
少しの沈黙のあと、BJが再び口を開いた。

BJ「一ヶ月だ…! 私は自分の用事で一ヶ月この国を巡る。
   せめてその間だけでも、アンタがこの子の面倒を見るんだ。
   その後は好きにするがいいさ。 あとこの部屋は自由に使え、代金は先に払っておく。」

吐き捨てるようにしてBJは部屋を後にした。
残されたのはジョアンと少年。
うな垂れるジョアンと…そして今の騒ぎにも全く無反応な少年の二人だけだった。

513KB
続きを読む

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2007-01-24