キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【そんなタイトルで】アナザー カンピオーネ1【大丈夫か?】

87 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:04:45 ID:???
1-10)Alcyone

ポン・・・・・・
    ポン・・・・・・

静けさの中、ボールを蹴る音が周囲に響き渡っている。
日が落ちてから既に3〜4時間は経過しており、誰もが家で団欒を楽しんでいる時間…
ジョアンと少年は、こんな夜中に人目を避けてサッカーを楽しんでいた。

ジョアン「すまんな、本当は昼間に大人数でやるのがキミにとって一番なのだが。

少年「大丈夫…!」

フルフルと首を横に振りながら少年は答えてくれた。
その顔は無表情ではなく、ぎこちない笑顔が作られていた。
これでも十分だと伝えようとしているのだろうか。
少なくとも悪い奴らから追われている身だという話は理解してくれているようだ。

88 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:05:51 ID:???
………。

二人とも20日間まともに運動をしていなかった為、思うように身体は動かなかった。
ぎこちなくパスを出し合うだけの遊び…けれどこのパスには少年の生きる意志が感じられるように思えた。
それだけでジョアンにとってはロベルトを失って以来、これほど喜びを感じた日は無かった。

ジョアン(考えてみれば記憶を失っているんだ。“好き”という感情だけは残っていたが、
      サッカーの技術や思考力は失われたと考えるのが当然の話だな。

サッカーがこの子の人生を切り開いてくれるなど、愚かで他人任せな考えだ。
ジョアンは今更ながらにそう思っていた。
資格があろうがなかろうが、少年には頼れる人間が他に居ないのだ。
ジョアンはこの少年と共に生きたいと思い始めていた。

ジョアン(…自信は無い、ロベルトへの罪の意識も当然消えはしない。
      だが自信はこれから培う事が出来る。そして罪は一生背負うべき業だ。
      一生この罪を隣人として生きていく、その覚悟を私は持たねばならなかった。)

ジョアンは自分が自己を取り巻く全てから逃げていた事を理解した。
そして罪によって覆われた未来という、暗闇の荒野を切り開く覚悟を手にしていた。

ジョアン(いや違う、暗闇の荒野なものか。 どんな未来が待ち受けていても…)

…私には光がある。

89 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:07:23 ID:???
いつの間にか満面の笑みを湛えていた少年の顔を見て、ジョアンは目を潤ませた。
…と、視界がぼやけ 少年が出してくれたパスを見失ってしまった。

トン…!
   トン……トン…

トラップのタイミングを損ない、弾かれたボールが転がっていく。

ジョアン「やっ、すまんすまん。」

少年「ボクが取ってくる…!」

そう言ってジョアンを制し、少はがボールを取りに走って行った。
ジョアンは少年の言葉に笑顔で頷き…そして少しだけ夜空を仰いだ。
暗闇の夜を必死で照らしてくれる星達が瞬いている。
その星々の中から一角がジョアンの目に留まった…プレアデス星団である。

夏の間は太陽に隠され、この季節に再び現れて夜を照らしてくれる。
地球から離れているためこの程度だが、その光は本当ならば太陽を凌ぐだろう。
その中で最も力強く輝く星の名をAlcyone(アルキオネー)、
ジョアンの母国の言葉では“アルシオン”と言った。

90 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:08:29 ID:???
ジョアン(……)

少年「おじさん…!」

少年の呼ぶ声にジョアンは意識を引き戻された。 見ると、少年が手招きをしている。
何のつもりか直ぐには解らなかったが、やがてそれが「かかってきなさい」だと理解した。
一対一をしようと言っているのだ。

ジョアン「よし、行くよ。」

微笑みながら少年へと向かっていくジョアン。
その微笑みは数秒の後に驚愕へと変わる。

シュシュッ……パッ…!
    …トン…! ダダダッ…!

ジョアン「い、今のは……!!!」

91 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:09:32 ID:???
“シャペウ・ド・ファルカン”…あの日少年に教えた技に、ジョアンは目を疑った。
そしてジョアンは自分が今立っている場所が壁際という事実に更なる衝撃を受けた。
シャペウ・ド・ファルカンという技の特性を、少年が理解して使ったという事実に。
あの日一番見たかった物、それを今この時見れるなど、砂粒ほども考えていなかった。
だが何よりまずジョアンは叫んでいた。

ジョアン「記憶が戻ったのかい!?」

その問いに対して首を横に振る少年。
ジョアンは自分の身体が心底震えているのを実感していた。

ジョアン(サッカーの神様……貴方はこの子にサッカーだけを残して下さったのか…)

ジョアンはしばらくの時間 立ち竦むしかなかった…
少年はその様子を心配してか、ボールを置いてジョアンの側まで寄っていた。
瞳を閉じるジョアン、その手に温かいものを感じていた。 少年が手を握ったのだ。

92 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:10:54 ID:???
ジョアン「名前……。」

少年「え……?」

ジョアン「名前、どうしても思い出せないかい?」

少年「………うん…。」

ジョアン「アルシオン…。」

少年「えっ…?」

ジョアン「名前…アルシオンはどうだろう? キミをどう呼んでいいか分からないと困る…。」

少年「…………うん。」

照れ臭そうな顔でアルシオンが微笑んだ。
気に入ってくれたのかも知れない。
その顔を見た時、本当の意味でジョアンは全ての覚悟は据わった。

93 :アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/27(水) 21:12:01 ID:???
ジョアン「悪い奴らに追われているのは解ってるね?」

コクン、とアルシオンが頷く。

ジョアン「サッカーは好きかい?」

当たり前と言わんばかりに強く頷く。

ジョアン「太陽の下でみんなとサッカーをしたいか?」

アルシオン「できるの…?」

ジョアン「10年間 夜を歩けるなら…必ず私が連れて行ってみせる。」

アルシオン「行くっ!」

間髪ない回答だった。
その瞳がキラキラと輝いている。

ジョアン「夜は怖くて寂しいものだぞ?」

アルシオン「怖くないよ!」

アルシオンは握っているジョアンの手を、さらに強く強く握った。
ジョアンはその手を負けないくらい強く握り返した。

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