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【いつか】キャプテン森崎38.1【通り過ぎた道】
[68]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 17:45:14 ID:lbb4EV7V 森崎「なあ…アイツ、井出の情報だと元格闘家だよな…?」 中山「の、筈だったな…」 次藤「うむ」 森崎「格闘家って、あんなに泣き虫でも勤まるモンなのか?」 若島津「俺を見るな。空手とムエタイでは違う…のかも知れん」 中里「精神修養がなっておらぬ。あれでは敵に軽んじられる」 松山「い、いやほら、泣きたくなる程の大敗だろ?向こうからしたら」 三杉「そういう時こそキャプテンたる者、皆を勇気付けるべきじゃないかい?」 山森「同感です(やたらと挑発したがるキャプテンもキャプテンだけど)」 岬「…とにかく、初戦を大勝で飾ったんだ。今はそれを素直に喜ぼうよ」 政夫「へへー、最初から2ゴールとは幸先良いぜ!」 和夫「チェッ。ツインシュートは0.5得点と0.5アシストにしてくれりゃいいのに」 森崎「…そうだな。余裕過ぎて退屈な位だったぜ(翼と日向抜きだと 攻撃力が足りないかと思ったが、案外そうでもなさそうだな。 今頃あの二人はどうしてるんだろう?特に日向は何処に居やがるんだ?)」 こうして全日本ユースのアジア突破に向けた第一歩は何処か間抜けな雰囲気と共に終わった。 彼らは知らない。もし翼か日向が合流していたら、こんな軽い雰囲気にはとてもならなかったであろう事を。
[69]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 17:47:39 ID:lbb4EV7V いったんここまで。
[70]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:37:11 ID:lbb4EV7V 〜ブラジルサンパウロ州、サンパウロFC練習グラウンド〜 数年前サンパウロFCの少年部に突如現れた大空翼。 彼は瞬く間にチーム内でエースの座を不動の物とし、日本人にサッカーが 出来る筈がないと言う偏見を恐ろしいまでもの実力と実績で悉く跳ね返していった。 特にプロチーム昇格直前のリオカップでは前代未聞の大活躍を成し遂げ、 その功績を認められトップチームではいきなりキャプテンから自らの背番号10を託された。 即戦力間違いなし、将来の栄光は確約済、サンパウロの新黄金時代の礎… 当時のマスコミは言葉を惜しまずに彼を褒めちぎっていた。一部のオーバーな評論家達は 彼をあのジャイロにすら例え、将来の日本がブラジルの強敵となるであろうと言い切った。 約半年後、彼がベンチ外に追いやられ全く出番無しになるとは誰も想像していなかった。 だがそれが今の大空翼の現実であり、抜け出せない境遇であった。 ピィーーー! 監督「今日の練習はこれで終わりだ!明日の試合も勝ちに行くぞ!」 サンパウロメンバー『はい!』 ゾロゾロゾロ… バビントン「明日も勝ちに行く、かあ。今からでも逆転優勝できるかな?」 マウリシオ「ちょっと厳しいッスね。残りを全部連勝しても」 アマラウ「それでも今の1位と2位が何処かで躓いてくれないとな」 ドトール「シーズンの中盤でモタついたのが響いたな」
[71]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:37:25 ID:lbb4EV7V 昨年サンパウロはブラジル全国選手権を制していた。しかし今年は他クラブに先行されており、 シーズン後半の現在は3位に留まっていた。悪くは無いが良いとも言えない成績である。 リオカップ後にプロ契約し、然程苦労せずにレギュラーもしくは準レギュラーに定着した バビントン、マウリシオ、アマラウ、ドトールのルーキー4人組。彼らはともすれば昨年比の成績低下を 自分たちのせいにされかねなかったが、幸か不幸かより目立つ存在が彼らの風除けとなっていた。 それは勿論、翼である。 翼「………」 マウリシオ「(今日も元気ないなあ…最近すっかり話していないし)」 バビントン「(ツバサ…)」 チームメイトの視線から背けているその顔は焦燥しきっており、ユース時代の張り詰めた冷静さすらない。 誌的に表現するなら、焦る事にすら疲れた顔だろうか?それは19歳とは思えない程老けてみえた。 周囲の期待とは裏腹にプロ昇格後の翼はパッとしないスタートを切り、冴えない結果しか出せなかった。 まだプロ生活に慣れていないだけだ、足を引っ張っている訳ではないのだからじっくり育てていけば良い… 当初は周囲もそんな寛大な視線を向けてくれたが、やがて翼のパフォーマンスがどんどん落ちていき チームの成績に影響を及ぼす様になると白い目は増えていき、反対に出場機会は減っていった。 そして今、ユース時代の同僚ですら彼に話しかけられず遠巻きに眺める事しか出来ない。 しかしそれはまだ良い方で、怒りを露に歩み寄る者も居た。 オリベイラ「良い身分だな、ツバサ」 翼「キャプテン…」 アマラウ「(ゲッ…こりゃ不味いか?)」 ドトール「(いや、止めておけ。俺たちが行っても事態は悪化する)」
[72]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:37:38 ID:lbb4EV7V パウロ・ルイス・デ・オリベイラ。精悍な20代後半の黒人選手であり、ブラジル代表に何度も選ばれている実力者でもある。 そして彼はサンパウロFCの現キャプテン、即ちデビュー直後の翼に自分の10番を託した男だ。 オリベイラ「試合の役に立たないのなら、せめて心配してくれる者達の前で明るく振舞ったらどうだ。 自分の調子が悪くてもそれを周りに伝染さない。その程度のプロ精神すらないのかお前は?」 翼「っ………」 オリベイラ「何か言え。お前にはルーキーには破格の年俸が払われている。だんまりでは済まされないんだぞ」 翼「それは…」 バモラ「ストップストップ!オリベイラ、そんな事言われても言い返せる奴なんかいないヨー」 この日翼は何時も以上に厳しく詰問され、逃げ場を塞がれたがそこに助けが入った。 帽子を被った黒人GKバモラ(本名バウデニール・モンテイロ・ラモス)、陽気な彼は チームのムードメーカーであり翼に対し最も優しく接してくれる主力選手だった。 オリベイラ「庇うなバモラ。こいつを甘やかしてもいい事はない」 バモラ「だからと言ってルーキー苛めても良くないデショ。君はスパルタ過ぎるって」 翼「バモラさん…」 ネルソン「そうだオリベイラ。キャプテンはただ悪者になればいいだけではない」 オリベイラ「…運が良かったなツバサ。今日はこれ位にしておいてやる」 ザッ、ザッ、ザッ…
[73]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:37:53 ID:lbb4EV7V 更にチーム最年長(41歳)のベテランである白人MFのネルソン・ベベットも仲介すると、 オリベイラは見るからに不承不承そうな表情で翼から離れていった。 最近のサンパウロFCで似たようなシーンが起きる事は珍しくない。 翼「ネルソンさん…すみません、二人とも…」 バモラ「なーに、気にしない気にしない。オリベイラも君も真面目過ぎるんだヨ」 翼「でも、オリベイラさんは俺が合流する前から色々便宜を図ってくれました… 皆が見ている前でわざわざ10番までくれたのに…俺がどれだけ迷惑をかけているか…」 バモラ「だから真面目すぎるって!サッカー人生山アリ谷アリ。どんなスーパースターだって 不調な時もあるし、スターになれそうだったけどなれなかった奴なんか星の数程居るサ!」 翼「それはそうですが…」 バモラ「なーに心配するなって!ツバサの腕ならサンパウロをクビにされても 別のクラブが拾ってくれるよ!年俸はぐぐっと下がっちゃうだろうけどネ!」 翼「そ、それは…励ましなんですか?」 バモラ「モチロン!おっといけない、オリベイラの機嫌を取ってくるヨ。ピンガ買ってやるかナー」 タッタッタッタッタッ… 次にバモラもオリベイラの後を追っていき、翼はネルソンと二人きりになった。 ネルソン「相変わらずだなバモラも…だがチームに一人はああいう選手が居た方がいい」 翼「そうですね…」 ネルソン「そして今の君は、チームに居ない方が良い選手なのも事実だ」 翼「………」
[74]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:38:07 ID:lbb4EV7V バモラに分けてもらった元気を奪い取る様な言葉を浴びせるネルソン。 再び黙りこんだ翼は僅かに顔を顰めたが、それに構わず彼の言葉は続いた。 ネルソン「オリベイラは決して私怨で君を責めているんじゃない。 君をエースにしようと監督や経営陣に推薦したのが結果的に間違いだったとしても、 彼にはその程度では揺らがない程の実績と信頼がある」 翼「…はい」 ネルソン「オリベイラとバモラ二人が今日言った事は紛れもない事実なんだ。 このままチームのお荷物であり続ければ、給料泥棒として他のクラブに叩き売りされるだけだよ」 翼「分かっています」 ネルソン「分かっているならなんとかするんだ。もうあまり時間は残されていないよ」 ザッ、ザッ、ザッ… 翼「分かっている…分かっているよ。でも、どうしたらいいんだ…」 そしてネルソンも引き上げると翼はまた一人になった。 バビントン達も何時の間にか居なくなっており、彼しか居ないグラウンドはとても広く見えた。 翼「もし森崎なら、こんな時どうするんだろう…いや、あいつには”こんな時”なんて来ないのかも知れない。 失敗を嘆く事はあっても、それでスランプになるなんて想像できないな…今の俺を見たらあいつは きっと笑うだろうな。”日本は俺の力でワールドカップで優勝させてやるよ、安心してTVで見ていな”とか言って…」 地球の反対側でアジア予選を戦っている筈のライバルを思い、ため息がひとつ出てくる。 翼「あいつの事を思い出しても腹立たしくないなんて…今の俺って、何なんだろう…」
[75]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/15(日) 18:38:33 ID:lbb4EV7V いったんここまで。
[76]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/17(火) 00:12:29 ID:nKlThG9C 〜日本沖縄県某所〜 そしてもう一人の全日本ユースの主力選手、日向小次郎は今沖縄にいた。 ゴオオオオッ… ガシャン!! 日向「くそっ…がぁあああ!!」 グワアアアアアアアアアアアッ!! バッギュワァアアアアアアアアアアアアアアアン!!! ゴォオオオオオオオオ! ガッシャン! 全日本ユースから無断で失踪し、そのまま行方不明となっていた日向はかつて自分が 肥満児から超人に生まれ変わった猛暑の地、沖縄で自らに過酷なトレーニングを施していた。 わざわざトレーニングジムを自分専用に買い取り、体調調節の為にスポーツドクターとマッサージ師も雇い、 携帯電話で部下に指示を出す休憩時間以外は全て特訓に当てる偏った生活。 それは世俗的な金の流れを無視すれば禁欲的な修行僧の物にすら見えなくもなかった。 これらは全て自分が世界を獲るに相応しいストライカーであると言う自信を取り戻す為の行いだった。 そしてその甲斐あって元々人間離れしていた彼の身体能力は更に磨きがかかっていった。 しかし日向は満足できなかった。 グワアアアアアアアアアアアッ!! バッギュワァアアアアアアアアアアアアアアアン!!! ゴォオオオオオオオオ! ガッシャン!
[77]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/17(火) 00:12:41 ID:nKlThG9C 日向「(ダメだ…基本的なシュート力を上げるだけじゃ何時まで経っても変わらん…)」 日向の代名詞でもあるネオタイガーショット。フランス国際Jrユース大会で猛威を振るったそれは ブラジル帰りの森崎にあっさり防がれ、ジャパンカップでは複数のシュートに威力で上回られた。 日本の高校サッカーと言う敵が居なかった環境で鈍ったせいなのは確かだったが、こうして数ヶ月を 猛特訓に費やしてもまだネオタイガーショットの威力では横に並んだだけ。日向にはそう思えてならなかった。 日向「(追いついただけじゃ足りねェ。追い抜かなくちゃ意味がねェ。だが…どうしたら ネオタイガーショット以上のシュートを撃てるんだ?今更小細工に頼るなんて出来やしねえ…)」 グワアアアアアアアアアアアッ!! バッギュワァアアアアアアアアアアアアアアアン!!! ゴォオオオオオオオオ! ガッシャン! この悩みを胸に日向は今日も通常のボールの3倍重いブラックボールを蹴り続けていた。 そしてそれは偶然彼に光明を、なおかつ一人の少女に不幸をもたらす事になった。 日向はこのシュート練習をロードワークのコースの途中にある野球用グラウンドで行っていた。 勿論彼の財力ならサッカー専用グラウンドを借りるどころか立てる事すら出来るのだが、 面倒くさいと言う分かり易過ぎる理由で勝手に野球用グラウンドを使っていた。 当然サッカー用ではないグラウンドは荒れ、ボールを何度もぶつけられたゴール代わりの金網フェンスは凹んだが 彼のあまりにも堂々とした振る舞い、見ただけで分かる強靭な肉体、どう見ても優しさとは無縁の風貌、 そして轟音を上げるネオタイガーショットを見た者は皆見て見ぬフリをし、彼に文句など言おうとしなかった。 赤嶺「ちょっとあんた!」 日向「あん?」 だが今日現れた赤嶺真紀と言う少女は気も強く、正義感も尚強い性格だった。 しかも彼女はサッカーが嫌いなソフトボール少女だった。
[78]2 ◆vD5srW.8hU :2010/08/17(火) 00:12:54 ID:nKlThG9C 赤嶺「ここはサッカーじゃなくて野球のグラウンドよ。全くもう、大事なグラウンドこんなに荒らしちゃって」 日向「フン、何か文句あるのか?」 赤嶺「へ〜、そういう態度取る訳?だったらこうしてやるわ!」 キュポン! ジョボボボボボボ… 日向「わっ、俺の大好物のコーラを…!」 赤嶺「フフン、あんたも一応スポーツ選手なら炭酸飲料は体に良くないわよ。 飲むんだったら水かスポーツドリンクにしなさい」 日向「てめえ…」 赤嶺「はい、グラウンド荒らした罰よ。ちょっとキャッチボール手伝ってね」 ポイッ。 日向の注意を引き、有無を言わさず彼のコーラを捨て、更に野球用グラブを放り投げて押し付ける。 彼女を知る者なら間違いなく「ああ、流石男勝りの真紀だ」とその光景に苦笑したであろう。 彼女はこの日の行動を生涯悔いる事になる。 日向「………クククッ」 ブチブチブチブチッ! ビリリィッ!! 赤嶺「ヒッ!?」
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0ch BBS 2007-01-24