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異邦人モリサキ
[280]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:03:13 ID:??? 『……あの人、でいいんだよね……?』 「ああ、多分な……」 不安げに言うピコと目を見交わした森崎が視線を戻した先。 ぴょこぴょこと跳ねるように辺りを見回しているのは、一人の女性である。 春の陽気にも肌の露出を極力抑えるような黒の長袖にロングスカート。 ヒールの低い編み上げの革靴を履いた足は忙しげにあちらこちらへと歩を運んでいる。 布を巻いた頭の後ろからは一本にまとめた長い髪の束が覗いており、女性がその向きを 変えるたびに馬の尾のように揺れていた。 「旦那様ぁ〜! ……んもう、どーこ行っちゃったのかなー、あのおジイちゃんってば! ちょっと水を汲みに行ったらいなくなるんだもん。とうとうボケちゃったかな?」 主を呼ぶ声とほとんど変わらぬ大声で雑言を漏らしたその表情には、 遠目にも不安が浮かんでいるようには見えない。 「……本当にアレだよな?」 『あ、行っちゃうよ!』 声をかけそびれていると、女性は他の場所を探そうというのか、森崎の方から遠ざかっていこうとする。 慌てて呼びかける森崎。 「おい、あんた!」 「ひゃあ!? な、何!?」 それほど大きな声を出したつもりはない。 特に奇抜なことを口走ったわけでもない。 しかし突然背後から声をかけられた女性は大層驚いた様子で、文字通り飛び上がっていた。
[281]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:04:14 ID:??? 「うお……」 『なんか、スゴい反応だったけど……』 女性は振り返って辺りを見回し、周囲には森崎しかいないと確認するや、血相を変えて猛然と駆けてくる。 思わず逃げ出しそうになる森崎だったが、何のために声をかけたのかを思い出し、 かろうじて自制した。 「ちょっと、そこのアンタ! もう! イタズラなら―――」 「ああ、驚かせちまったんならすまない。ひとつ確認したいんだが……」 眦を決して迫ってくる女性を手振りで制し、用件を伝えようとした森崎だったが、 女性の口から次に飛び出す一言に絶句することになる。 「―――イタズラなら、わたしも混ぜてよね!」 「え? ……混ぜ?」 「で! 次は何やるの!? 落とし穴? 看板の書き換え? トレンツの泉の小銭拾って 塔みたいに積み上げて、ネコババしようとするヤツを脅かす遊びは先月もやったばっかりだから あんまりオススメできないけど、あ、でも逆に……」 女性の目に宿る意気込みは、本気だった。 本気で森崎が自分を驚かせたのだと思い、本気でそれが悪戯だと信じ、そしてまた、 本気で次の悪戯に自分も参加せんとする、それは瞳だった。 『やっぱり、人違いじゃないかな……。何だか、あんまり関わっちゃいけないニオイがするよ……』 「……。や、そうじゃなくてよ」 ピコの囁きに同意しかけた森崎が、一人迎えを待つ老爺の姿を思い出して小さく首を振る。 大きな瞳をキラキラと期待に輝かせる女性に向かって、意を決したように言った。
[282]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:05:39 ID:??? 「なあ、あんたが捜してるのって、こんな髭生やした爺さんか?」 「え? なんで知ってるの? ……まさか! 誘拐犯!? 身代金目的!?」 「違ぇよ!」 放っておけば際限なく膨らみそうな妄想を一刀のもとに斬って捨てた森崎の言葉に 女性は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべると、すぐに真剣な顔つきになり、 そしてすぐに照れたように笑って手を振る。 「じゃあ、まさか! ……新手のナンパ!? やだもう、それならそうと言ってよー! うーん……外国人かあ、どうしよっかなあ……ね、じゃあご飯、おごってくれる? わたし、キャラウェイ通りに言ってみたいお店があってさ、この間お姉ちゃんが 友だちと行ってすっごい良かったとか言ってて、」 「爺さんの話はどこ行ったんだよ! ていうか人の話聞けよ!」 一言、二言で済む説明に要した時間は、ゆうに数分を超えたという。 ***
[283]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:06:40 ID:??? 「あ、いたいた! もう、えっらい捜したよ、旦那様〜! 旦那様に何かあったら大奥様にも家令さんにも、大目玉じゃ済まないんですから〜!」 隙あらば無駄に喋り倒し、何かを見つけては駆け出して余計なことをしようとした挙句、 最後にはほとんど森崎に引きずられるようにしてきた女性が老爺を見つけるや言ったものである。 「おお、キャロル……面倒をかけたな」 「本当にもう、ダメですよ〜。子供じゃないんですから、あっちこっち出歩いちゃ」 「……」 『疲れてるね……』 もはや何を言う気力もない、といった体で首を振った森崎が、しかし女性の言葉に ふと老爺を見やる。 「旦那様、大奥様に家令……って、そういや爺さん、あんた何者だ? やっぱこの近くに住んでる貴族か何かか?」 「おお、そうか。名乗りが遅れたの。儂は……」 老爺が告げた、己の正体とは―――
[284]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/10(日) 03:08:18 ID:ioLiSuAo *ドロー 越後のちりめん問屋? → !card ※ !と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。 結果によって展開が分岐します。 スペード・ハート→「しがない隠居の身よ。かつては白騎士などと呼ばれたこともあったがのう」 ダイヤ・クラブ→「……亡国の爺ぃじゃよ。革命の火は儂からすべてを奪っていった……」 JOKER→「この顔を忘れたか、森崎」「ま、まさか、あんた……明和の大虎、吉良耕三……か!?」 *** 本当はこの時代にはまだ男性につくのは近侍であって、メイドさんではなかったと思います。 夢物語。といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。 夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。 それではまた、次回更新にて。
[285]森崎名無しさん:2012/06/10(日) 03:10:37 ID:??? 越後のちりめん問屋? → ダイヤ8
[286]Q513 ◆RZdXGG2sGw :2012/06/10(日) 08:34:35 ID:??? 越後のちりめん問屋? → ダイヤ10
[287]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:25:41 ID:??? >>286 ドローありがとうございます。 EP1を進呈いたします。 *** 越後のちりめん問屋? → ダイヤ10 「……儂はアルメイト・オライリー。今となっては何者でもない、亡国の爺ぃじゃよ」 訥々と語る老人の言葉は、聞く者に沈黙を強いるだけの重さで満ちている。 「もう、十数年にもなるかのう……。革命の火は儂からすべてを奪っていった……愛する妻、 息子たち、美しき我が所領と民……誇りある国の名すら」 「……」 『革命……っていうと……』 呟くピコの声も、独り言じみて低く響き、梢のざわめきに溶けていく。
[288]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:26:42 ID:??? 「ボルキアの、亡命貴族……」 「……」 ピコの言葉を引き継ぐように漏らした森崎の言葉にも、老爺はただ目を閉じ、ゆっくりと首を振る。 それはおそらく、森崎の言葉を否定するものではなかった。 肯んじ得ぬ何か、たとえばそれは時であり、世の潮流であり、運命とさえ呼び習わされる 大きな何かへと向けられた、拒絶の意思であった。 再び、沈黙が降りる。 しかし強いられた沈黙など、意にも介さない者がいた。 勿論、老爺を捜していたメイドである。 けらけらと甲高い笑いで静寂の幕を切り払いながら、言う。 「なーに格好つけてるんですか旦那様。あ、この方、昔はベージャ侯爵っていって、 ボルキアでは結構偉い貴族だったのよ。だからアンタも粗相しちゃダメだかんね!」 「……」 「……」 唖然とする森崎の腕をばんばんと叩いて笑うメイドの言葉に、脇に座る老爺が 脱力したように肩を落とす。 しかしそれは、呆れ果てたのでも弛緩したのでもなく、水槽に溜まった汚水を洗い流すような、 決して悪くない力の抜け方であるように、森崎には見えた。 このメイドの、ある種底抜けの精神は存外老爺にとっての救いであるのかもしれない。 そんなことを考える森崎に、メイドがその大きな目をくるくると回しながら口を開いた。 「あ、名乗ってなかったよね? アタシはキャロル・パレッキー。旦那様の身の回りのお世話してんだ。 あ、下のお世話はするけどアッチの方はナシの契約だよ! っていっても、旦那様のは もう全ッ然、役に立たないけどね! キャハハ!」 「……むぅ……」 キャロルと名乗ったメイドの、あまりにもあけすけな言葉の羅列に、唸り声ともため息ともつかぬ音が 老爺の喉の奥から漏れた。 同情するように眉根を寄せた森崎が、小声で囁く。
[289]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:27:44 ID:??? 「爺さん……あんたのとこ、人手が足りねえのか……?」 「これで仕事はよくできるんじゃよ、仕事はの……」 『……この人にできる仕事って、どんな仕事だろ?』 ピコの疑問は森崎にもまったく答えが出せないものであったが、しかし雇い主が言うのであれば それなりに間違いのないことなのであろうと、肩をすくめる。 「ほら、帰りますよ、旦那様〜! じゃ、そこのアンタも、ありがとね!」 そんな森崎たちの内心など知る由もなく、キャロルは老爺の脇に立つと、肩を担ぐようにして 無理なく立ち上がらせる。 その手際だけをみれば、確かに慣れた仕事のようでもある。 「……おお、そうじゃ、お主。何か困ったことがあったら、儂の名を出してみるといい。 ただの爺ぃにも、古い友人はおるでな。役に立つこともあるじゃろうて」 去り際、老爺は森崎にそんな言葉を残していった。 こうして国立公園の散歩は、森崎にとって様々な意味で忘れ得ぬものとなったのである。 ******
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0ch BBS 2007-01-24