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異邦人モリサキ
[289]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:27:44 ID:??? 「爺さん……あんたのとこ、人手が足りねえのか……?」 「これで仕事はよくできるんじゃよ、仕事はの……」 『……この人にできる仕事って、どんな仕事だろ?』 ピコの疑問は森崎にもまったく答えが出せないものであったが、しかし雇い主が言うのであれば それなりに間違いのないことなのであろうと、肩をすくめる。 「ほら、帰りますよ、旦那様〜! じゃ、そこのアンタも、ありがとね!」 そんな森崎たちの内心など知る由もなく、キャロルは老爺の脇に立つと、肩を担ぐようにして 無理なく立ち上がらせる。 その手際だけをみれば、確かに慣れた仕事のようでもある。 「……おお、そうじゃ、お主。何か困ったことがあったら、儂の名を出してみるといい。 ただの爺ぃにも、古い友人はおるでな。役に立つこともあるじゃろうて」 去り際、老爺は森崎にそんな言葉を残していった。 こうして国立公園の散歩は、森崎にとって様々な意味で忘れ得ぬものとなったのである。 ******
[290]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:29:28 ID:??? 称号『亡命貴族の知己』を獲得しました。 効果:評価+10。 現在の称号は「気のいい亡命貴族の知己」です。 ※スキル「旧ボルキアの人脈」が一度だけ使えるようになりました。 旧ボルキア亡命貴族はドルファンとの政治的関係が深く、特定の判定に影響を及ぼします。 使用のタイミング、用途は任意に設定できます。 いざというとき、選択への回答に使用する旨を記載して下さい。 回答が採用された場合のみ、使用回数が消費されます。 【チャレンジ】でも使用可能です。その場合も採用時のみ使用回数が消費されます。 ***
[291]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:30:58 ID:??? 「ここを抜けて、もうちょっと行けば……ぐむむ、広すぎるんだよこの街!」 『まあ、一国の首都だからね……』 老爺とそのメイドと分かれ、しばらくの後。 支給されている簡単な地図を片手に悪戦苦闘していた森崎だったが、 ようやく正しい道を見出したようで、喜びの声を上げる。 「あそこを曲がって……ほら着いたぞ、次の目的地だ!」 『うわあ……』 角を曲がった森崎を出迎えたのは、瀟洒な街並みである。 一本の大きな坂をメインストリートとして左右には多種多様な色彩の店が所狭しと躍動していたが、 よく手入れの行き届いた街路樹が等間隔に配置され、雑然とした印象は与えない。 整備された石畳は落ち着いた色調で計算された景観を演出している。 明るい色調で並ぶ店構えは坂の下から見上げる森崎に近い方から画廊、喫茶店、菓子屋に小物屋、 小洒落た服屋に軽食店。 どれも明るい色調と可愛らしい装飾に彩られ、埃っぽさや胡散臭さとは無縁の佇まいである。 「マリーゴールド地区、ロムロ坂……。若者に人気の通りとは聞いてたが……。 な、なかなかハイカラじゃねえか……」 『オシャレさんの街だね……』 「つーか、すげえ浮いてんぞ俺……」
[292]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:32:26 ID:??? どんよりとした顔で呟いた森崎は、言葉通り行き交う人々に奇異の視線を向けられている。 坂を登り、あるいは降りてくる人々は皆、垢抜けた身なりとこざっぱりとした流行の髪型で、 そして何より順風の生を謳歌する者たちに特有の、内側から湧き出すような笑みを浮かべている。 薄汚れた格好に殺伐とした顔つきで立ち尽くす森崎は、そんな彼らとはまさに対照的であった。 『仕方ないね……』 「てか、くそ……せめてこっち、見ろよ……」 刺のある視線を突き刺してくるのなら、まだいい。 跳ね返すことも、逆に突き返すこともできる。 しかしこの明るい街を行く者たちは皆、森崎を一顧だにしようとしないのである。 避けるでもなく、意図して無視するわけでもなく、単に目に入らぬというように、 あくまでも自然な様子で森崎を『ないもの』として扱うようであった。 それはいわば、満ち足りた者たちだけが交わす、そうでない者には見えず聞こえない信号が 頭の上を飛び交っているような、どうしようもない座りの悪さを森崎に与えていた。 『で、どうするの?』 「ぐぬぬ……こうなったら……」 しばらく唸っていた森崎が、意を決したように顔を上げる。 「……こうなったら、行くかピコ! 戦略的転し……」 『うん、逃げるんだね』 言いかけたところへさらりと被せられ、森崎の言葉が止まる。
[293]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:33:45 ID:??? 「に、逃げ……」 『逃げるんだよね?』 「ぐ、ぬぅ……」 機先を制された森崎が、奇妙な声で呻く。 このとき、彼の中に巣食う天邪鬼が盛大に騒いだのだろうか。 口を開いて出てきた言葉は、心中とは正反対の代物であった。 「……ハン、に、逃げるだって!? この俺が!? 森崎有三様が若僧どもの街なんぞにビビってるとでも!?」 『……違うの?』 「そんなわけあるか! 平気の平左だぜ!」 ぎぎぎ、と軋みを上げそうな仕草のまま踏み出した森崎の顔は、見事に強張っている。 『あーあ、無理しちゃって……』 「ほら何してんだピコ、迷子になっても捜してやんねえぞ!」 『はいはい……』 自らを奮い立たせるような怒鳴り声を、ぱたぱたと小さな翅が追いかけるのだった。 ***
[294]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/11(月) 01:39:51 ID:??? といったところで、本日の更新はこれまでとさせていただきます。 連日、選択のないヒキで申し訳ありません。 本来であればロムロ坂にも行く/行かないの選択があったのですが、 既に二回の行動キャンセルがあったため自動選択となっています。 ロムロ坂では国立公園ほどではありませんが小イベントがありますので、 選択を用意できる見込みとなっております。 それではまた、次回更新にて。
[295]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:43:17 ID:??? *** ドルファンにおける若者文化の発信地・ロムロ坂で最も多い業種は飲食店である。 昼間は喫茶店、夜にはアルコールを出す類の店が軒を連ね鎬を削り、栄枯盛衰を体現している。 そんな飲食店の次に多いのが、服飾を扱う店舗であった。 男性向けにはワイルド系からスポーティ、クール、シック、ビビッド、女性向けならキュートにファンシー、 ガーリーやらクラシックやらオーソドックスやらフォーマルやらのドレスにインナー、ジャケット、コート、 シャツにパンツにベルトにシューズ、帽子に時計にアクセサリーと、明日のモードを牽引すべく それぞれの店ごとの特色を前面に押し出して綺羅星の如く並び、覇を競っていた。 無論、森崎にとって、それはさながら異界である。 「……」 『……』 ドレスコードがあるわけではない。 店員が冷たい目で見るでもない。 そもそも、それ以前の問題である。 森崎の行く手を阻むのは、己が心に聳え立つ敷居の高さであった。 「―――」 ごくり、と生唾を飲み込んで一軒目の扉と睨み合うこと二十分。 無理だと悟って二軒目と対峙すること十五分。 駄目だと呟いて向かった三軒目では、十分と保たなかった。
[296]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:44:19 ID:??? 「やっぱり、俺にはまだ早いんだよ……」 『帰るなら止めないけどね……まあ、よく頑張った方じゃない』 四軒目の、流麗な筆記体で新トルキア語ではない文字が躍る看板を三十秒ほど眺めた森崎が そう漏らすと、ピコがそよ風を微塵に刻んだような小さな小さなため息をついて、 森崎の背をぽんぽんと叩いた。 その小さな手の感触に押されるように踵を返した森崎が、とぼとぼと坂を下り出した、そのときである。 「あらン? ……ちょっと、そこのお兄さン」 蕩けるような声とともに森崎を包んだのは、くらくらするような甘い香りだった。 鼻腔の奥にまとわりつくように濃密なそれを麝香だと森崎が看破したのは、 かつて幾度か招かれた高級娼館に漂っていた匂いに酷似していたからである。 振り返ると、そこに女がいた。 「―――」 森崎が、息を呑む。 女性の、女性たる所以をその体一つで表現するような、それは女であった。
[297]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:45:20 ID:??? 波打つ長い髪は陽光に融けてそれ自体が宝飾品であるかのように輝く黄金。 匠が生涯を賭けた一筆に引かれたような切れ長の瞳から真っ直ぐに鼻筋を下ると、 ふっくらと柔らかそうな唇は鮮烈な朱を引かれ、微笑のかたちに囚われている。 細い喉から流れるような肩のラインは青空の下に晒すことが赦されない罪業であるかのように 白くたおやかで、露出した二の腕に填められた大ぶりな黄金の腕輪は、まるでこの女を 誤って天へと登らせぬよう、大地に繋ぎ止めようとする風ですらあった。 ロングノーズの黒いブーツと萌黄色の長い薄布のドレープとに包まれた足は 御簾の向こうにその影だけを映す高貴な姫君のように脚線美だけを浮き上がらせ、 その魅惑の肌を軽々と覗くことを許さない。 衝動に任せて抱けば折れてしまうだろうと思わせる柳腰から視線を上げれば、 そこには楽園が揺れている。 南国の果実の皮を剥いて中からこぼれ出た白く甘い果肉のような、馥郁たる二つの膨らみに、 森崎の目はピンで留められたように固まっていた。 動けない。否、動くことを網膜が、視神経が、それを司る脳髄が、いま視線を動かすことを 徹底的に拒絶していた。 ふわふわと、ふるふると、おそらくは女の呼吸とともに上がり、下がり、揺れるそれを、 森崎の中の男性と呼べるすべてが求めていた。 世界から音が消える。 温度が消え、匂いが消え、色が消え、ただ視覚と触覚だけが残る世界で、森崎が静かに集中を高めていく。 光が、見えた気がした。 その光に向かって手を伸ばそうとした森崎が、 『この……ばかちんがぁ〜っ!!』 「ぐおおっ!?」 盛大に、叩かれた。 突然の衝撃に森崎は受け身も取れず、前のめりに転がる。
[298]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:46:21 ID:??? 「……そんなに驚かれるとは思わなかったわぁ。ごめんなさいねン」 色も音も戻った世界で、女が眦の下がった目を丸くして森崎を見下ろしていた。 「……転んだだけだぜ。で、俺に何か用かい、お嬢さん」 『倒れたままカッコつけようとしても無駄だと思うよ』 じとりとした半目で腕を組んだまま、ピコが言う。 思わずそちらを睨んでしまう森崎だったが、女は意に介した風もなく口を開いた。 「お兄さン、この辺じゃすごぉく珍しいカッコ、してるわねぇ。 私、断然お兄さンに興味持っちゃったのよン」 ねっとりと絡みつくような声音は森崎の耳朶に蠱惑的な響きと熱とを残して溶ける。 その言葉に、森崎がガバリと顔を上げた。 「俺に、興味? ……フフ、フハハ! どうだ! 俺のセンス、見てるヤツはいるってことだ! ロムロ坂、恐るるに足らずだぜ!」 『……センスって、きったないだけじゃない』 ぽつりと悪態をつくピコ。 まるでその言葉が聞こえているかのように、女が微笑んで、言った。 「センス? 何を言ってるのン」 「……え?」 大輪の花が開いたような、甘い魅惑に満ちた笑み。 唇の間から、白い歯が覗いた。
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0ch BBS 2007-01-24