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異邦人モリサキ
[317]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:12:54 ID:??? 『……』 そこには、小さな幻想の精がいた。 はたり、はたりと、籠った空気を撹拌するように羽ばたく、透明な翅。 その翅が、飾り窓の隙間から射す薄明かりを反射していたのだった。 「……いや、待て。ちょっと待て。よく考えろ、俺」 くらくらと甘い香りに満たされていた頭の中に、目から入った光が差し込む。 清水が泥を落とすように、光の欠片は森崎の脳髄を洗い流していく。 「俺……何やってんだ? ここ、どこだ? 何でこんなことになってる?」 流行。若者文化。明るい街並み。道行く笑顔。きらびやかな店。 モード。アヴァンギャルド。ファッションリーダー。 それは何かと、問う。 答えは返らぬ。 返らぬのも、当然であった。 森崎の中に、つい今しがたまでそんなものは存在しなかった。 得体の知れぬ言葉たちが、蠱惑的な女の口を借りて森崎をぐるぐると縛っているに過ぎなかった。 「そうだ……! 俺は、俺はただ、下着の替えを買いに来たんだよ! それがどうして、こんな格好しなきゃなんねえんだ……っ!」 己を縛る鎖の束を引き剥がすように、叫ぶ。 立ち上がった森崎の目には、既に極彩色の服は映っていない。 それは単に奇天烈な布地の塊、糸で縫い合わされた得体の知れぬ言葉たちの集合体でしかなかった。 『……ていうかキミ、そんな冒険するほど若くないからね』 「なにィ!?」 ぼそりと呟いたピコの言葉が、トドメだった。
[318]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:13:54 ID:??? *** 「せっかく期待してもらってるところ悪いが、俺はこいつを貰うぜ」 完全に我に返った森崎が、綿のシャツとスラックス、そしてこざっぱりとした下着を手にとって言う。 「……あらン、残念」 ほんの僅か、眉尻を下げた女の口から出た言葉は、それだけであった。 小さく肩をすくめた拍子に、たわわな双丘がゆるりと揺れた。 『……』 「……」 再び囚われかけた視線を二秒で逸らしたのが、森崎の精神力の発露といえようか。 「ここで着替えていってもいいわよン」 「いや、新しい服に袖を通すのは、水を浴びてからにするよ」 襟元に指を入れ、空気を送る仕草をしてみせる森崎。 その様子にノエルが頷き、扉を指し示す。 「ま、それもそうねぇ。お帰りはあちら……次に来たときには、また期待しちゃうわン」 「次もまたこういうのを貰うさ」 言って、森崎が厚い木製の扉を開ける。 ぎい、と軋んだその向こうから溢れ出す午後の陽光に目を細めた森崎が振り返ると、 元より薄暗かった店内がまるで闇に閉ざされているように錯覚する。 音のない屋内には、既に女の姿は見えなかった。
[319]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:15:00 ID:??? ****** ※称号『無難派オサレ・初級』を獲得しました。 効果:魅力+5。 ******
[320]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:16:18 ID:??? 『……今度は急に田舎臭くなってきたね』 「だな。まだ、さっきのロムロ坂からそんなに離れてねえはずなんだけどな」 ついに目的の買い物を果たした森崎が、傾きかけた日を浴びながらのんびりと歩いている。 春を謳歌する鳥たちの囀りや遠くから聞こえる牛の鳴き声が、やわかな陽射しと相まって 張り詰めた精神を解きほぐしていく。 『ケモノの臭いがするよ……あ、そこ牛の糞、気をつけて』 「なにィ!?」 慌てて飛び退く森崎の足元には石畳など敷かれていない。 かろうじて大きな石ころだけが取り除かれているだけの、土がむき出しの田舎道である。 「つーかまあ、農道だよな、これ」 広々とした視界にはまばらな人家とそれを囲む畑や果樹園が広がっている。 その向こうでは放牧されている牛がのそのそと草をはみ、文字通りの牧歌的な光景を醸し出していた。 そんな光景を見渡してぽそりと呟いた森崎が、木と草と土と堆肥と家畜の臭いの入り混じった空気を 大きく吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。 城北、カミツレ地区。 山林と高原で構成された、農林業でドルファンという都市の人口を支える地域である。
[321]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:17:20 ID:??? 『さっきよりよっぽどリラックスしてるねえ』 「ま、こっちのが性に合ってんのは否定しねえさ」 『で、キミの性に合ってるこの長閑な風景の向こうには何があるの?』 ピコの言葉に手元の地図を見なおした森崎が、書いてある文字をそのまま読み上げる。 「この辺にあるのは……地下墓地に神殿跡、だってよ」 『何それ?』 「旧トルキア時代より更に前、古代の遺跡らしいぜ。まあ観光スポットだな」 『ふうん。で、何か売ってるの?』 「土産物とかじゃねえか」 『ほしい?』 「いらねえなあ」 肩をすくめた森崎の手元に、ピコがふわりと舞い降りる。 腕に腰掛けて、地図を覗き込んでいるようだった。 『この、銀月の塔っていうのは?』 「それも遺跡だな。ただ他よりは新しくて、観光スポットってよりはどっちかっつーとデートスポットらしい」 『遺跡なのに?』 「山の上に立ってる塔で、見晴らしがいいんだと。ドルファン全体が見渡せるとか」 『は、はぁ〜ん』 そこまでを聞いて、ピコが森崎の腕に腰掛けたままにやりと笑うと、うんうんとわけ知り顔で頷く。
[322]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:18:21 ID:??? 「……何だよ」 『街を一望できる……つまり、夜景もバッチリってことだよね』 「だな」 『で、周りは静かで、デートスポットとして有名で……』 「……」 『もう! コレ以上言わせないでよこのスケコマシ!』 きゃー、と頬を赤く染めながら小さな手でぱしぱしと森崎の腕を叩くピコ。 そんなピコの襟首を摘み上げると、森崎は無言でその小さな相棒を中空へと放り出す。 『ひゃあっ!? な、何するんだよ!』 「いいから、行くぞ」 『もう! レディはもうちょっと丁寧に扱ってよね!』 はたはたと透き通る翅をはためかせて戻ってきたピコが、森崎の頭にしがみつくと 拳を固めてぽこぽこと叩く。 小石が当たるどころか、髪が風にそよぐ程度の衝撃でしかなかった。 「こっちは腹減ってんだよ。いくら目的を果たしたっつっても、だらだら歩いてたら 帰る前に日が暮れちまう」 『お昼、食べたじゃない!』 「食った気がしねえんだよ。それにあれから結構歩いてるだろ」 ぷりぷりと怒るピコを無視して歩き出した森崎が、ふと何かを思い出したように手元の地図に目をやった。 「そういや、あっちの山には燐光石の採掘場があるらしいな。てことは、飯場もあるか……」 『えー』 「何だよ」 即座に抗議の意を表明した相棒に、森崎が渋面を作る。
[323]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:19:24 ID:??? 『採掘場って、炭鉱みたいなものでしょ?』 「基本、同じだろうな」 『そんな男祭りの会場みたいなとこ行くの、ヤだ』 「あァ?」 『クサそうだもん。せっかく買った服も汚れちゃうかもよ』 あくまで抗戦の構えを見せるピコの主張を、しかし森崎は取り合おうとしない。 「言いたいことはそれだけか? じゃ、行くか」 『ちょっと! あたしの話、聞いてる!?』 「あんまり腹が減ると、お前を塩とバターで食っちまうぞ」 『もう! いーだ!』 爪の先ほどの小さな白い歯を剥きだすピコにひらひらと手を振って、森崎は歩き出すのだった。 *** 燐光石とは欧州全土で照明に使われる物質である。 化学反応により生じる独特の白色光は炎より格段に明るく、また熱をほとんど発しないため 一般家庭でも生活必需品として使用されている。 カミツレ東第三鉱山第四採掘場、通称ヒガシの山はドルファン国内では非常に貴重な、 質の良い燐光石を多量に産する鉱山であった。 燐光石の鉱脈は山中を縦に貫くように形成されることが多く、従ってその坑道は深く、険しい。 採掘は文字通りの命懸けであり、従事する男たちは高い賃金を目当てに集まってきた 命知らずの力自慢どもである。 『そういう意味じゃ、傭兵と似てるよね』 「基本くたばる俺らと、たまにくたばるこいつらって違いはあるけどな」 『……あんまり似てないかもね』
[324]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:20:24 ID:??? ガヤガヤと喧しく声の響く、天井の低い飯場を見回してピコが言うのへ、森崎が答える。 軽く一歩を退いたその脇を、どけどけ、と怒鳴りながら胸板の分厚い禿頭の男が通り過ぎていく。 「ま、傭兵稼業つっても、適当ないくさ場の見つからないときはこの手の仕事で 糊口をしのぐことも多いしな。かく言う俺もその一人だが」 『う〜ん、でもやっぱりこのニオイは慣れないよ……』 くい、とその針の穴のような鼻をひくつかせたピコが不快げに呟く。 居並ぶ男たちが抱える皿から湯気を上げる、油ぎった揚げ物の匂いの他に飯場に満ちるのは、 他ならぬその男たちの放つ臭気。 即ち、汗と垢と土埃の入り混じった臭いである。 「そうか? 鉄と火薬と、それから臓物、血反吐の臭いが加わればいくさ場と同じだろ」 『言っとくけど、そっちにはもっと慣れないよ!』 言い放ったピコが、跳ねるように低い天井ギリギリまで舞い上がる。 そのすぐ下を潜るように飯場へと入ってきたのは、鉄板入りの靴音も激しい男たちの一群であった。 めくり上げた袖から覗く二の腕や胸板は例外なく逞しいが、陽光射さぬ鉱山労働のこと、 どの顔も不気味なほど日焼けをしていない。 『すっごい不健康そうだよね……』 「長けりゃ長いほど生ッ白くなってく仕事だ、日に焼けてんのは新米の証拠みたいなもんだぜ」 『で、キミはその新米に紛れてるってわけ?』 「慣れたもんだろ」 野太い笑い声が間近で弾ける中、森崎が食事の列に並んでいく。 笑い声が野戦砲の爆風なら、矢や小銃弾の替わりに飛び交うのは猥談である。 飯場に併設された娼館の女たちの具合の良し悪しから、寝物語に聞いた互いの寝技のキレについて、 或いは男としての前後優劣など、良家の子女が聞けば卒倒する以前に意味を理解できないような おそろしく程度の低い、しかし当事者たちにとっては愉快極まりないのであろう文言が 音の波となって飯場全体を覆い尽くしている。
[325]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:21:29 ID:??? 『……キミは、ギャハハって笑うようにはならないでね』 「善処するよ。……っと、飯だ飯! さて、今日のメニューは何かなっと」 列が進み、順番が来た森崎の前に出されたのは…… *ドロー !と food の間のスペースを消して、メニューを決めて下さい。 フライドチキンと、あとなーに? → !food ※今回の更新が終わった後にドローして下さい。 処理は次回更新時に行われます。 まともな食事であればガッツが回復します。 肉類であれば大きく回復します。 ゲテモノの場合はガッツは回復しません。 ***
[326]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/13(水) 03:22:36 ID:??? 「ふぃ〜、食った食った……と。……お? 何だ?」 空の皿を抱える森崎の耳に飛び込んできたのは、荒々しい物音である。 何か、硬いもの同士がぶつかる音。 それから陶器の割れる音と、飯場のざわめきを圧するような、聞くに堪えない罵声。 声の主は二人いるようだった。 『……喧嘩みたいだね』 ピコが呟く。 罵声の応酬はすぐに怒号に変わり、更には咆哮に近い叫び声へと変じていく。 今や飯場の視線を釘付けにするその騒動の元を見る森崎。 「デカいのとちっこいのがやり合ってるのか。……まあ、無理だな」 森崎が呟いた通り、体格差は如何ともし難いようだった。 周囲が迷惑そうに場所を開ける中、ポッカリと空いた空間で取っ組み合いを始めた二人だったが、 すぐに体躯の小さい方が組み敷かれる。 馬乗りになった巨躯の男は拳を振り上げると、容赦なく小さい方の男へと振り下ろす。 ぐしゃりと、顔にめり込んだ。 鼻筋が砕けたようで勢い良く血を噴き出し始めた小さい方の顔面へ、追撃の一発。 ぐう、と喉の奥から濁った音を漏らして、小さい方が首を振り、何事かを叫ぶ。 謝罪のようだった。 許しを請う小さい方の言葉にも、しかし巨躯の男はますます憤慨した様子で顔を赤くすると、 石塊のような拳を更に振り上げる。 『わ、あの人、あれ以上やられたら死んじゃうかも……誰も止めないのかな?』 「まあ、こういう場所での喧嘩は人死にが出ることも珍しくないからな……」 『う〜ん……どうする?』
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0ch BBS 2007-01-24