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異邦人モリサキ
[499]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:46:30 ID:??? 「……はい」 ソフィアは、しっかりと森崎の目を見て頷いた。 森崎の言いたいことは余さず伝わったようだった。 賢い子だ、と思う。 「モリサキさん」 派手な格好の男に付き添われて会場の裏口に入っていく寸前、ソフィアが森崎に笑って、言った。 「応援……して下さいね」 ***
[500]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:47:31 ID:??? 「皆様、たいっっへん長らくお待たせいたしましたぁーッ!!」 新緑の薫りも爽やかな青空の下、甲高くもよく通る声が響く。 と、同時。五月祭の催し物が開かれる広場の中でも一際大きく設営された特別会場の舞台に、 目が痛くなるような黄色のモーニングを着込んだ男が飛び出してきた。 声は、男が発したものである。 『あ、あの人!』 「司会だったのかよ、あのオッサン……」 呟く森崎が座るのは、舞台上で喋る男が用意したという席である。 ちょうど舞台正面、最前列でこそないものの顔がしっかりと見える程度には近い距離という上席だった。 司会の男の顔もよく見える。 つるりと広い額を撫でた男が、大きな身振りと共に口を開いた。 「これより五月祭のメインイベント、『五月の花嫁コンテスト』を開催いたします! 野郎ども、麗しの令嬢を迎える準備はいいかあぁぁ!?」 うおおおお、と地鳴りのような声が応える。 席という席を埋め尽くし、立ち見までびっしりと詰まった千を超える群衆の殆どは男性である。 「うるせえな……」 『歓声が野太いよ……』 あまりの温度差についていけない森崎をよそに、舞台上の男はてきぱきと場を進行していく。 幾つかの注意事項を述べた後、審査員たちの紹介を終えると、いよいよ出場者の呼び込みである。 「まずは一番手! 城南市場の看板娘! モバー・モビー姉妹が登場だぁー! はりきって、どうぞー!!」
[501]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:48:32 ID:??? うおおおお。 さながら地鳴りを抑える巫女のように袖から現れた二人の女性を見て、しかし森崎は拍子抜けする。 「……大したことねえな、おい」 『うーん……フツー、だね』 思わず漏らした声は周囲の歓声にかき消される。 が、しかし何度見ても舞台上にいるのは実にありふれた容姿の、それも少しばかり歳のいった姉妹である。 身につけるドレスも豪奢というには程遠い、おそらくは先祖代々受け継がれてきたものであろう 時代がかった色味とデザインの、有り体に言えば単なるトルキア地方の民族衣装である。 照れ笑いを浮かべながら手を振る姿も見事に垢抜けない。 「まあ、公募抽選って言ってたしな……こんなもんか」 『もう結婚しちゃってる人は出られないだろうしねえ』 その言葉通り、しばらくは退屈な時間が続いた。 出てくるのは下町の売り子だの、ご町内最後の独身娘だのといった面々である。 「っかし、ロクなのがいねえなあ……この調子ならソフィアもかなりイイ線行くんじゃないか?」 『そうだねえ……優勝だって狙えちゃうかも?』 欠伸を噛み殺すこともない森崎が、肩を揉みほぐしながら言う。 そんな弛緩した空気は、しかし一変することとなる。 「―――大家族の末娘、モバック嬢でした! ありがとうございましたっ!」 大袈裟な身振りと共に出場者を袖へと送り出した司会の男が、言ったものである。 「さあ、盛り上がってまいりました! ……ここからは主催者推薦の面々が登場だぁッ! 興奮しすぎてくたばるんじゃねえぞ、野郎どもッッ!」
[502]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:49:53 ID:??? グオォォォォ――― 突如、地鳴りが山崩れへと変化した。 周囲の男たちが、最早堪え切れぬとばかりに立ち上がる。 「な、何だァ!?」 『この人たち、まだこんなに盛り上がれたんだね……』 目を白黒させる森崎。 「まず最初にお目見えは北欧からの刺客、白き森の守護者、リューリ・ハルティカイネン嬢!! ―――どうぞッ!」 しゃん、と。 その蒼白のドレスを纏った女性の、歩を進める音が、森崎の耳に聞こえた。 地鳴りも、山崩れも、どこか地平の彼方へ消えていた。 凍りついたような静寂の中を歩むその女性は、一目見ただけでこれまでの出場者とは 根本的にレベルが違うことがわかる。 蒼のマーメイドラインに包まれるのはまるで繊細な細工物のような白い肌と細い腰。 白銀のティアラの下、濃いシャドウで強調される切れ上がった目元は刃物の如く鋭い。 薄い唇を彩るのは、紫の口紅である。 物語から抜けだしてきた雪の女王と言われれば信じてしまいそうな女性が舞台の中央へと進むと、 司会の男が駆け寄った。 「ではリューリ嬢、客席と審査員に向けて一言アピール、どうぞ!」 言われた女性が、見事な刺繍を施された本繻子の肘まである手袋に覆われた細い指を口元に当てると、 僅かに視線を動かした。 触れなば斬れん、というような瞳が、会場を睨め付ける。 一瞬の後、凍土を吹く烈風のような声が響いた。 「……誰も彼も間抜け面を並べて。生きているのが恥ずかしくないのかしら」
[503]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:50:54 ID:??? きぃん、と。 氷室から取り出した氷が、外気に触れて罅割れるような音が、聞こえた気がした。 ほんの僅かの間を置いて。 罅の中から漏れ出したのは、歓喜の叫びである。 ウゥゥゥオオオオォォォォォォォ――― ほとんど涙を流さんばかり、もしも尻尾があれば根本から千切れんばかりの勢いで ぶんぶんと揺らしているに違いない表情で喜ぶ男たち。 「こ、こいつら……怖ぇ」 『……そういうキミも、どうして立ち上がって手なんて振ってんのさ』 「なにィ!?」 愕然とする森崎に、ピコの視線が突き刺さる。 そんな様子にも当然ながら取り合うことなく、場は進んでいく。 氷の如き女性は既に袖へと帰っていた。 「駄犬ども! 存分に嬉ション漏らしたか!? 俺っちも今すぐ着替えてきたい! が、そんな暇は与えないぞ! お次はこの人! カミツレの自然が育んだ天然砲弾、 ミス=ブレイクアップ、エッラ・ブロッジーニ嬢の登場だぁ!!」 「ハァ〜イ!」 呼び込みの声と共に舞台へと飛び出したのは、先ほどの凍てつく美貌とはあらゆる意味で対照的な女性である。
[504]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:52:07 ID:??? 「ん〜、チュッ♪」 舞台中央へと走り込むや客席へと投げキッスをしてみせた、その唇はぷるんと厚い。 日に焼けて褐色に近くなった肌に絡むブルネットの髪はどこまでも艶っぽく、そして何より 朱を基調としたベルラインのドレスに包まれた肢体はそれ自体が強烈に男性へのアピールとなる、 破壊力に溢れるものであった。 豊満なバストから視線を下ろせば、引き締まった腰回りから肉感的な骨盤周辺へと張りのある肉が みっしりとその存在感を主張している。 男と生まれたからにはその肉に手指を埋め、顔を埋め、汗と快楽の海に溺れたいと夢想せずにはいられない、 ある種の魔力に満ちた体つきであった。 「こ、こいつぁ……ゴクリ」 『……キミ、いい加減にしないと怒るよ』 「痛ぇ! 何すんだ!」 『ふん』 大胆にカットされた裾から垣間見える魅惑の太腿と弾力溢れるふくらはぎを凝視していた森崎が、 ピコに後頭部を叩かれた衝撃で我に返る。 舞台の上ではまるでその隙を縫うとでもいうように、女性がくるりと回転すると、 最後に前屈みになって口づけの真似、更には軽く舌を出してみせるポーズ。 ッググゴォォォォォォ――― 溢れそうな褐色の谷間と突き出された赤い唇、そして桃色の柔らかくも淫靡に蠢く舌の組み合わせを受けた 会場の雄叫びは、ほとんど咆哮と呼ぶのが相応しい。 「エッラ嬢、色々ありがとうございましたッ! ホントにありがとうございましたッッ!」 入って来たときとは逆にゆっくりと時間をかけて退場していく女性と目が合い、手を振られ、 投げキッスの直撃を受けた男たちがバタバタと倒れていく。 舞台の中央へと戻った司会の男はその惨状をあっさり無視すると大袈裟な身振りを更に加速させ、 踊り狂うようにしながら観客を煽り立てる。
[505]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:53:09 ID:??? 「さあ、さあ、さあ、そしてお次はお待たせしました真打ち登場!! 皆様御存知、あのご令嬢の出番だッッ! 野郎ども、その名を称える準備はいいか!?」 ごおおおおお。 咆哮をいなし、煽り、自在に操る様はさながらサーカスの獣使いである。 「それじゃあ行くぜッ! 花嫁コンテスト史上、連覇を果たしているのはこの人だけ! 盤石の体制で狙うか偉業の三連覇! 絶対王者!! その名は―――」 男が、その手を客席に向ける。 声が、揃った。 「―――スー・グラフトン!!!!」 会場が、圧倒的な一体感に包まれていた。 名を呼んだ男たちが、爆発的な咆哮を上げる。 その異様な雰囲気を前に、一人の女性が袖から現れた。 が。 「……ん?」 『あれ……?』 首を傾げる森崎。 その視線の先にいたのは、ごく普通の女性である。
[506]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:54:10 ID:??? くるくるとした巻き毛に少し眼尻の垂れた、どちらかと言えば愛嬌のある顔立ち。 美人というには華が足りず、さりとて決して不細工でもない。 可愛らしくはあったがそれだけで、プリンセスラインを描く純白のドレスも 確かに花嫁衣裳としては相応しいものであるが、特段に高価そうなわけでも、 驚くような趣向を凝らしてあるわけでもないようだった。 手にしたブーケも、小さな花屋でも用意できそうな種類の大衆的な花を集めたもので、 その姿を何度も見直した森崎が、改めて唸る。 「……出番、間違えてねえか?」 『チャンピオン、のはず……だよね』 そんな森崎の目の前で、何の特徴もない女性は何の変哲もなく歩き、何気なく舞台の真ん中に立つと、 「今年こそ―――」 すう、と息を吸って。 「―――結ッッ婚!! してやるんだからああああああっっっ!!」 叫んだ。 瞬間、世界が変わる。
[507]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:55:11 ID:??? 「……ッ!?」 『な、何……? 何が起きてるの!?』 轟、と。 地を奔り、空を駆け、文字通りに轟いたそれは、原初の雄叫びであった。 平凡を絵に描いたような女は、そこにはいない。 そこに立つのは、女の生という死屍累々たるいくさ場に舞い降りた、女神である。 小さな花を寄せ集めただけのブーケはその女が持つとき、神話に謳われる宝剣もかくやと煌めいて 向い立つ者すべてをひれ伏させ、ありふれたデザインのウェディングドレスはその気迫に包まれる時、 星を散りばめたように光り輝く唯一無二の戦装束となるのであった。 「―――」 それは幻想。 それは錯覚。 一人の女の、妄執とも言うべき気迫が生み出した幻である。 しかしそれはまた、この会場のすべてが共有できるだけの実存の確かさを持った、幻であった。 幻想が光を生み、生まれた光が会場を覆い尽くしていく。 「こ、こりゃあ……!」 『何で……? 引き込まれる……!』 溢れる光が、森崎を包んでいく。 真白い光の中で、森崎は歓声をあげていた。 喉も嗄れよと叫ばれるそれは王者を称え、賛美する、咆哮だった。 スー・グラフトン! スー・グラフトン! スー・グラフトン! 俺達の花嫁――― ***
[508]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/28(木) 00:56:12 ID:??? 「……」 『……あ、あれ……? ねえ、ちょっと、キミ!』 「……? ここ……どこだ……」 ピコの声で、気がついた。 慌てて見回せば、そこは元通りの会場である。 ぐったりと、力を使い果たしたように椅子に沈む男たちが目に入る。 森崎自身もひどい脱力感に襲われていたが、全身に鞭を入れるようにして身を起こした。 「……あの人、は……!?」 視線を向ける先には、しかし既に誰もいない。 がらんとした舞台は、まるで何事もなかったかのように変わらず存在している。 叩きに叩いた両手の赤さと痛み、質の悪い風邪でも引き込んだかのようにじんじんと痛む喉、 思う様に踏み鳴らしたせいで時折鈍痛を走らせる足、そういった肉体の感覚だけが、 先ほどまでの高揚感に浮かされたような光景が白昼夢でないことを森崎に教えていた。 「今の……何だったんだ?」 『わかんないけど……。チャンピオンって、すごいんだね……』 「そう……、だな……」 ぼそりと呟きあった森崎の目に、原色の黄色が映る。 舞台の端からよろよろと進み出る、司会の男であった。 どうやらこの男も王者の光に巻き込まれたらしい。 後退した生え際に浮かぶ脂が、午後の日差しにてらてらと輝いていた。
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0ch BBS 2007-01-24