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【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】
[109]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:18:49 ID:??? ひとが走る姿を美しいと感じたのは、森崎有三の人生で初めてのことである。 その足で大地を踏みしめ駆け行く、それはヒトという生物の極みの体現であると、 少女の疾走は雄弁に物語っていた。 全身、ただそれを成すためだけに神の手によって配されたような骨格が、筋肉が、腱が、 精緻に制御され厳密に駆動し、質量を大気の中に振り捨てるように加速していく。 (これ、は……) ジーンが、無理やりにでもこれを見せようとした気持ちが、今なら理解できる。 そこにあるのは打算や計算ではない。 その本質は、彼女自身の言葉通り、子供じみた自慢なのだ。 こんなにも綺麗な宝物を私は持っていると、秘めやかに、しかし誇らしく語るときの、 あの高揚を味わいたかったのだ。 むべなるかな、と森崎は思う。 いま薄闇の中、夜に融けるように走る少女は、至宝だ。 遠ざかっていく、赤土にまみれながらなお白い背を、大きな弧を描いて戻ってくる躍動する肉体を、 たとえば自分だけが目にしてしまったとして、堪えることができようか。 「……遠いな、ハンナ」 ぽつりと口をついたのは、真白き背を追う少女の名である。 彼女の前を往く者は、掛け値なしの才気だ。 差は歴然、このままでは勝負にならぬと豪語されたその言は、何の誇張もなく正しい。 走れば走るほどに差の開く、終わりのない競争のようにすら、思える。
[110]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:19:49 ID:8W8eRwNs しかし。 しかし、勝ちたい、と。 ハンナは言ったのだ。 一敗地に塗れ、苦渋辛酸を舐めながら、少女の牙は折れてはいなかった。 それを愚かしいと嘲うことは、森崎にはできない。 抗うことをつまらぬ意地と断じ、敗北を諦念の内に肯んじるのなら、今の森崎はここにはいない。 ならば。 ならば森崎にできることは、眼前の勝者、圧倒的な優越者から目を離さぬことだ。 この奇貨を糧とし、巡り来る機会に備えることだけだった。 (優れていること、秀でていること、何でもいい……探せ、盗め!) 俄に鋭く目を細める森崎の、リンダ・ザクロイドに見たものは――― *選択 A コーナーを抜けた瞬間の加速だ。 B 後半の安定したペースだ。 ※リンダの走りからハンナのスキル習得のヒントを得ます。 獲得したヒントはストックされ、次回のコーチ機会にハンナがスキルを習得します。 森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。 その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。 期限は『11/19 24:00』です。
[111]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/19(月) 19:20:56 ID:??? ****** 一応これが10月最後の選択となります、といったところで 本日の更新はこれまでとさせていただきます。 お付き合い、ありがとうございました。 それではまた、次回更新にて。
[112]◆W1prVEUMOs :2012/11/19(月) 19:36:40 ID:??? ハンナは持久力に不安があるのでBで相殺したいです
[113]さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/19(月) 21:12:23 ID:??? Aハンナはスタートそこそこ良かったので、ここを改善出来て前半部分を食いつければ後半勝負出来るかも知れないかなと思います。
[114]◆9OlIjdgJmY :2012/11/19(月) 22:16:27 ID:??? A リンダに先行されるとスキル発動されるので、前半優先で。
[115]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:25:58 ID:??? 皆様、ご回答ありがとうございます。 それでは早速、>>110の選択については…… >>114 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます! お三方とも納得の理由だったのですが、中でもまったくその通り、というシンプルなお答えでした。 リンダの現スキルは発動すると手がつけられなくなっていくタイプですからね。 CP3を進呈いたします。 >>112 はい、それもハンナのウィークポイントですからね。 ご覧のとおり圧倒的な実力差を徐々にスキルで埋めていくというのが基本線になりますので、 どの段階でどの長所を伸ばし、あるいは短所を潰していくかは思案のしどころです。 >>113 そうですね、スタートにはプラスのスキルがありますので、まずは離されずに食いつくことが重要です。 現時点で勝利するにはちょっとどころではない奇跡が必要になってしまうかもしれませんが、 ビジョンを持った成長計画があれば後々になって活きてくるでしょう。
[116]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:27:37 ID:??? *** A コーナーを抜けた瞬間の加速だ。 リンダの疾走をしっかりと瞼に焼き付けながら、森崎が最初に感じ取ったのはそれである。 無数の情報の中から最初に拾い上げられたものには、何らかの意味がある。 そう考える程度には、森崎は自身の嗅覚を信頼している。 (スタートから……第一コーナー。ここは、そうハンナと変わらねえ。問題は……) いま眼前に近づいてくる実際のリンダをしっかりと頭に納めながら、同時に森崎の瞳の奥では 記憶の中のリンダの走りが幾度も繰り返されている。 思考し、分析し、導いた回答を徹底的に反復して体に覚え込ませる、それは森崎がこれまで 自らに課してきた鍛錬の手法、ほとんど癖ともいえるような作業だった。 (そう、コーナーを抜けた後、そこから……) 地力の違いがあるとはいえ、カーブの処理自体は素人目にはそれほどの差異があるように思えない。 しかしその後の結果が、決定的に異なっている。 落とした速度を取り戻せないハンナと比べ、リンダはむしろ縮めた撥条を弾くように加速していく。 その差が、どこから生まれるのか。 (重ねろ……) 先月に見たハンナの走りと、まさにいま眼前に得たリンダの走り。 二つを記憶の中で近づけていく。 少女二人の躍動はやがて同じ色となり同じリズムとなり、近づいては遠ざかり、遠ざかっては近づいて、 交錯し行き違い、戻っては離れ、しかし次第にそれらの波は薄れていき、遂に重なったとき―――。 「……ここだ! この瞬間だ!」
[117]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:29:18 ID:??? 思わず声を上げた森崎を、隣のジーンがぎょっとしたように見やる。 気にしている暇はなかった。 掴んだはずのイメージは、しかしその刹那を頂点として霞のように消えていく。 そうなる前に、それらをかき集め具体化し、刻みつけなければならなかった。 「体重移動……ここ、この左足、それと連動して腰から前傾する……のか?」 「お、おい……?」 ぶつぶつと何事かを呟く森崎を、ジーンは不気味そうに見ていたが、声をかけても 無反応なことに呆れたのか、すぐに何も言わなくなった。 「ああ……ここの鍛え方が足りねえのか。だから、ハンナは……なるほど、そういう……」 「……」 「うん、そうだな間違いねえ。……よし、わかった! はは、畜生てこずらせやがって!」 「……何だか知らねえが、おめでとさん」 「ん? おお、ジーン。悪いな、聞いてなかった」 「だろうよ」 呆れたように言うジーンに、森崎は怪訝そうな顔を向けるのだった。 ****** 陸上スキル『バックストレート・アクセル』をストックします。 次回のコーチ機会にハンナがスキルを習得します。 効果:バックストレート1のダイスを20プラスする。 この効果は『逆境』と名のつくスキルの発動条件に影響を与えない。 ******
[118]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:30:20 ID:??? ****** 「……ところで、俺はどうやって帰りゃいいんだ」 「おう、そのことだがよ」 まるでリンダがゴールラインを越えるのを待っていたように、辺りを朱に包んでいた陽の欠片は 城壁の描く稜線の向こうへとすっかり消えてしまっている。 明かりもない屋外のこと、すぐ近くにいるはずのジーンの顔もよく見えない。 声だけが、無闇に明るく響いた。 「そもそも俺は、お嬢の迎えってことで車を回してたんだった。 ってわけで、帰りはお前のことは送れないぜ。悪く思うなよ」 「なにィ!? ってまあ、そらそうだろうな……悪くは思うけどな!」 どうせこんなことだろう、と予想はしていたものの、しかし実際に言われてみると秋の夜風は身に染みる。 渋面を作った森崎の背を、ジーンの掌がばしんと叩いた。 「ははは、んな顔すんなよ、色男!」 「見えてねえだろ!」 「だいたい分かるぜ」 「ああ、そうかい……」 不毛な会話を打ち切って踵を返そうとした森崎を、しかしジーンが腕を掴んで引き止める。 「まあ、待てって」 「……?」 「もう一台、うちらの馬車を回してある。ま、お嬢専用のこいつほどじゃねえが、 ザクロイドの御用車だ、乗り心地もなかなかだぜ」 「マジか……」 「大マジよ。しかも今度は御者台じゃなくて客席に座れるぜ」 ぽん、と叩かれた腕がじんわりと温かい。
[119]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:31:23 ID:??? 「お前が初めていい女に見えてきたよ……」 「そりゃどうも。って見えてねえだろ」 「見えてたら思わず求愛してたかもしれねえ。夜で良かったぜ」 「はは、地獄に堕ちやがれ」 軽快に言い合って、しかしふと森崎が首を捻る。 「……でもよ、よく考えたらこの事態そのものがお前のせいだよな」 「悪ぃ、悪ぃ」 言葉とは裏腹に、声音はどこまでも軽い。 にやりと口角を上げた表情までが闇の向こうにはっきりと見えるようだった。 「詫びってんじゃねえが、今日の晩メシ代はどこで食うにせよ、ザクロイドの厩務係にツケといて構わねえからよ」 「ぐ、それで水に流しちまいそうな自分が情けないぜ……」 『そうと決まればさっさと帰って、美味しいもの、食べよ』 「お前、タダ飯の話になったら出てくるのかよ!」 今までどこをふらついていたものか、唐突に頭上から声を降らせた相方に、森崎が思わず答えてしまう。 「……? ヘンなヤツだな……ま、いいや。車は向こう、話は通してあるからよ」 「あ、ああ……」 「じゃあな、縁があったらまた会おうぜ」 バツの悪さに口を濁した森崎を胡乱げに見ながら、しかし快活に言ってジーンはあっさりと去っていく。 本来の仕事、リンダの元へと戻るのだろう。 ため息を漏らせば、息は微かに白い。 決戦は、来月。 宵闇に沈む広い芝生はそのまま何かを暗示しているように思えて、森崎は振り払うように天を仰いだ。 輝きはじめた星の下、家路は、遠い。
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0ch BBS 2007-01-24