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【バグサッカー】きれぼしサッカー【やりまーす】
[147]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/10(日) 17:26:39 ID:??? 陽子「私が2年前に大学の修士号を得たのは知ってるでしょう。 あの後片桐グループの後継者になるための教育を今までずっとされてきたんだけど、 その『学習』の間は軟禁されているも同然で、ほとんど何もできなかった」 片桐「そうか……」 陽子「そして1か月前に母さんから、近々後継者と選定するらしいって言われたの。 今までの様子から父さんは私を選ぶつもりだって確信していたから、 必死で逃げだしてここまで来たの……でも、でも!」 話を続けていくうちにまたも恐怖に襲われ、震えが再び始まる。 陽子「飛行機を降りて兄さんのいるホテルに向かう途中で、知らない人達が現れて私を連れ戻そうとしたの。 必死に逃げ回って何とか来れたけど、持ち物は全て置き捨ててきちゃったし、 街の人がみんな私をつけているみたいで、怖くて、怖くて……」 片桐「……自分が生きたいように生きていきたいのか」 語りかけるような呟いたような、ポツリと漏らす片桐に、陽子は小さく頷いた。 ――――――――――――― ――――――――― ――――――
[148]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:14:45 ID:??? ―――――― ――――――――― ――――――――――――― 陽子が片桐家から脱出して数年後。 陽子は賀茂と共にサンパウロのとある料理店から立ち去ろうとしていた。 店では主に彼女が担当している業務と、 将来の日本サッカーの柱石となるであろう森崎と翼に対する分析の報告を、夕食をとりながら行っていた。 外はとうに暮れている。一日の仕事を全て終え空腹も程よく満たされた事もあって、陽子の瞼に眠気が漂う。 鈍くなった相手の様子から察した賀茂は、ポケットから車のキーを陽子へと放り投げた 。急にキーが投げられて一瞬陽子は動揺したが、何とか落とさずにキーを受け取れた。 賀茂「先に車で休んどけ、勘定はこっちで済ませておく。半額は後でいただくけどな」 陽子「え?いい年した大人が未成年の女の子と割り勘にするんですか」 賀茂「お嬢様が素寒貧にたかるんじゃねえ、四の五の言わずとっとと行け」 陽子「はーい」 賀茂とのやり取りでやや眠気を覚まし、陽子は車へ向かう。 解錠してドアを開け、助手席に座ると再び睡魔が襲いはじめ、うとうととまどろみ始めた。 勘定を済ませようとカウンターへ向かっていた途中、店員から賀茂は呼び止められる。 店員「コム・リセンカ(すみません)、あなたがミスター・ガモーでしょうか」 賀茂「ああ、そうだ」 店員「ミスター・カタギリより、お客様へのお電話を頂いております」 賀茂「片桐から?なんであいつがここにいるって分かったんだ」 ブラジルから遠く離れているはずのグラサン御曹司が何の因果か、面倒な手段で連絡を取ってきた。 せいぜいどやしてやれと受話器を取ったところで、聞き覚えのない男の声が聞こえてきた。 宗義「君が賀茂港君かね?私は片桐総合グループの総帥、片桐宗義だ」
[149]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:18:37 ID:??? 賀茂「んう?」 思いもせぬ相手の声に間抜けな反応をしてしまう。片桐の父が隠れも無き日本経済界の雄であり、 雲の上の人間である事は既に聞いていた事ではあるが、そんな人物から不意に声がかかって、 動揺を隠す事はできなかった。相手はその反応を受け、小馬鹿にしたような様子を交えた。 宗義「そして陽子の父親でもある。父親として言うならば、 君達は娘のお守りをしっかりとこなしてもらって、大変に感謝している」 賀茂「お守り?その哺乳瓶にはビールが入っているけどな」 宗義「はっはっ、いやこれは失礼した」 純粋にユーモアで返されたと思ったか、笑って返答をさらに返す。 宗義「お守りと言ったは失礼した。私達の元へいた頃の娘の陰鬱を取り払い、 明朗を取り戻させた君達の働きを、大変感謝する」 賀茂「あーそうかい、先に言っておくが、 そのあんたの娘さんは金輪際家に戻るつもりはないそうだぜ。他ならぬあんたのせいでな」
[150]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:19:57 ID:??? 宗義「その事については私も深く反省している。急いて事を仕損じかけた。 だが今度はそうした事も考慮して教育に当たっていく積りだ。娘は返してもらう」 賀茂「どう手心を加えようがあいつの心は変わらんよ。 それに既にサッカー協会の一員として期待されている人間の1人なんだ、 これは俺だけじゃない、もっと上の人間にかけあっても同じだぜ」 精一杯気づかれぬように凄んでみせる賀茂。 そんな空威張りを宗義は軽く鼻で笑ってから、冷ややかに話を続けた。 宗義「君達には失望したよ。やはりこんなところで油を売らせるより、 一流の人間が揃った環境の中でいさせるのが一番良かったんだ。君達はもう娘に何もしなくていい。 ドナルド・トランプ流に言うと、こういう事だ。残念だが、クビだ」 口元に笑みを浮かべ、宣言した。音吐の冷えに胸騒ぎを覚えた賀茂が自らの車に目を向けると、 陽子以外の赤の他人がドアを開けて乗り込んでいた。瞬間、賀茂は受話器を放り投げ車へ向け駆け出した。 バックライトは光っている。賀茂が着く前に走り出すだろう。
[151]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:21:42 ID:??? 陽子「…う…ううん………」 陽子の瞼は震え、ゆっくりと開きだす。 キーをもらって車を開け椅子に座った後はうとうととまどろんでいた。 何かの拍子で目が覚めて、横に振り向く。 陽子「!」 運転席を見て驚愕した。ハンドルを握っているのが賀茂ではない。 長身痩躯、黒スーツに黒サングラスと似ても似つかぬ日本人の男だった。 陽子「あ、あなたは!?」 黒服「お気づきになられましたか、陽子お嬢様」 陽子「!!」 この男は追手だ、このままでは父の元へ連れて行かれる。 そう悟った陽子は逃げようとしたが、手足が縛られていて動けない。 うたた寝をしている間に紐で固定され、ドアに手を掛ける事もままならない。 黒服「お静かに願います。ここはまだ路地裏です、外へ出れば大変危険です」 陽子「あなた達の方がずっと危険よ!賀茂さんはどうしたの!?」 黒服「運転手は私に交代いたしました。これより私が責任を持って目的地まで移動いたし…」 陽子「嫌よ!早く車を止めなさい!」 黒服「お断りいたします。いかなる手段を用いてもお嬢様を日本へ連れ戻せとの、 会長直々の御指令がありますので」
[152]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:22:46 ID:??? このままでは日本に戻される。なんとかして車を止めないと。 陽子は倒れこむように男へと飛びかかり、ハンドルを握る男の手に噛みついた。 黒服「っ!」 男は顔をしかめる。陽子の歯は深々と肉に食い込み、唇をつたって血が滴り落ちている。 痛みに耐えかねた男は車を止めて陽子を引き剥がすと、裏拳を水月に撃ちこんだ。 陽子「あぐっ……!」 黒服「お静かに願います」 もうだめだなにもかもおしまいだ。絶望に覆われくず落ちる陽子。 勢い余って座席下に転げ落ち、意識を失ってしまったが、それが陽子にとって幸いとなった。 ガシャアアアアアアアアン! 陽子側の窓ガラスが蹴破られ、飛び込んできた男に黒服の男は外へ押し出された。 何が起こったか分からず呆然としている黒服に、 陽子のよく知っている男はドアを閉める間際に黒服へ吐き掛けた。 賀茂「クビだ」
[153]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:24:19 ID:??? 路地裏を抜け、人通りの多い大通りを走らせているところで、 自動車電話が鳴り響いた。ちょうど信号待ちの時であったため、賀茂が受話器を取る。 宗義「時間だ、ちゃんと陽子は連れてきたか?」 賀茂「生憎だが、まだらしいぜ」 宗義「………」 思いもよらぬ相手に、相手は押し黙る。 賀茂「もういいかげん、嫌がってる娘を無理矢理連れさらおうとするのはやめるべきだと思うけどな」 宗義「……とりあえず君の頑張りぶりを評価するとしよう。 だが、後継者の件については変えるつもりはない。いずれは娘も理解する」 賀茂「もう諦めろ、どうにもならない事でいつまでも拘っていたら、残り少ない老い先がますます短くなるぜ」 宗義「娘は一時の気の迷いになっているだけだ、 落ち着いて思慮分別を養えば必ず我々の意義を重んじるようになる。必ず娘は取り戻す」 ガチャッ。 賀茂「あっ、おい!……切れやがった、言いたいことだけ言いやがって、ガラスの弁償ぐらいしやがれ」 ぶつぶつとはるか遠くの宗義に向かって悪態を吐く賀茂を、 そしてその下の受話器を、助手席からぼんやりと瞳が見つめていた。
[154]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 16:25:35 ID:??? 今日はここまで、このところ忙しくなってなかなか更新できませんが、 週1でも定期的に更新していきたいです。
[155]森崎名無しさん:2013/03/17(日) 16:38:44 ID:??? まさかの賀茂主役!?w
[156]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/03/17(日) 18:28:11 ID:??? いやいやw まあ、迷監督や汚物扱いじゃない賀茂さんがいてもいいじゃないwってことですね。 陽子さんの回想はもう少し続きます。更新はもう少しかかりますが、 彼女の感情の推移をお楽しみください。
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0ch BBS 2007-01-24