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【深遠なる】鈴仙奮闘記24【蒼きフィールド】
[173]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:00:31 ID:WbgK50x2 そんな松山達の感情を読み取っていたさとりは、ひそひそ声でその全てを鈴仙に伝えてくれる。 感情を筒抜けに読み取られる方は堪った物では無い気もしたが、 鈴仙は素直に、その能力の便利さの恩恵にあずかる事にした。 鈴仙「……しかし。 こうなると松山の地獄の原因は、こうした深い自責の念があるから……なんでしょうか? それともやっぱり、かつての仲間達からの仕打ちに耐えられなかった……とか」 さとり「……そうね。 恐らくはそれも多分にあるでしょう。 十数年も生きていない人間の子どもに対しては、恐らくこの学校、この地域というのが彼にとっての全て。 その全てから罪を糾弾され、そして否定されては――如何に彼の精神が気丈であっても、さぞかし辛い事であったでしょう。 ですが……この程度の話、言ってしまえばどこにもある話。 これだけで、ああも捻くれた人格が出来てしまうとは、あまり考えづらいのだけれど……」ヒソヒソ 鈴仙「……あっ! 二人が出ていきますよ。 追いかけましょ!」ヒソヒソ 小田に連れられるように、松山はその後を追って更衣室を去って行く。 鈴仙とさとりも、気配を殺しながら慌ててこの二人を追いかけようとするが――。 ブウウ……ンッ! ……ゴオオオオッ……! 鈴仙「――きゃっ!?」 ――突如、世界が黒く歪んだ。 これまでも、世界の端々にちょっとした歪みや黒い魔物の出現はあったが、 今回のひずみは、あまりに規模が大きすぎた。 地面が割れ、壁は溶け、ロッカーや照明など、周囲の物は禍々しく変質する。 さとり「世界が今までに無く、ひどく歪んでいます……! そして恐らくは、この歪みの先にある何かこそが、彼の心を歪める決定的な切欠。 ――さぁ、自我をしっかりと持って、私の手を握って。 決して、彼の心に取り込まれないようにしてください。 さもなくば……!」 鈴仙「さ、さもなくば……!?」
[174]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:01:36 ID:WbgK50x2 さとり「――自発的に体中に鎖を巻き付けたり、褒められてるペットの犬猫に嫉妬したり、好きな人に吹き飛ばされて消し飛んだり。 最終的には、ネックレスを強奪した挙句、そのネックレスの副作用でおぞましい虫の怪物になるとかなんとか……」 鈴仙「そ、それは恐ろしいですね……ネックレスがどうとかは意味不明ですけど」 さとりに促されるまま、鈴仙は彼女の小さな手を握り、溢れる暗闇の襲撃から自身の身を守る事に専念する。 ともすると自己すらも喪ってしまいそうな奔流を受けて……やがて、その襲撃は俄かに終わりを告げる。 ブウ……ッン。 ―――――――。 鈴仙「お、終わった……?」 さとり「……そのようですね。 世界はすっかり学校でも無く暗闇ですが……しかし、先程までの混沌とは違った、静かな暗闇です。 私達に危害を加える可能性は、さしあたり無いと断言して良いでしょうか。 そして――ここは松山君の精神のより深層。 恐らく、ここに松山君の本心が隠されていると思います」 辿り着いた先は、一面の暗闇だった。 地面も天井も壁も無い、全くの黒。 光が無いにも関わらず、鈴仙の数歩先に居るさとりの輪郭がしっかりと見えているのが不思議ではあったが、 その時の鈴仙にはそこまで考える余力など無かった。 鈴仙「……兎に角、歩いてみましょうか。 他に手がかりも無い訳だし」 さとり「ええ」 足音も無く、地面を踏んだという感触も薄く、二人は暗闇を進んで行く。 何分、いや何時間。 何メートル、いや何キロメートル歩いただろうか。 時間や距離の感覚までもが薄らいだ頃に――果たして、二人は松山と邂逅した。
[175]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:02:49 ID:WbgK50x2 松山「……なんだ。 あんた達か」 松山は虚ろに呟いた。 松山は体育座りをして、鈴仙達に視線を向ける気力も無く、膝の間に顔をうずめていた。 ……その右手には、ボロボロになった布切れが握られていた。 さとり「……私が貴方を発見した時に持っていたハキマキの切れ端。 それは、貴方がかつて犯した罪の証だったのですね」 松山「……森崎――俺がハチマキを間違って渡した相手――は、ビリビリに破いて投げ捨てたって言っていたけれど。 気付いたら、俺の手の中に戻って来ていた。 それはつまり、俺の罪は永遠に許されないという事の証明だろう……?」 鈴仙「(ここでも「森崎」……か。 中山君と森崎は、一体元の世界でどれだけの人に影響を与えていたんだろう?)」 さとり「……なるほど。 半分くらいは分かりました。 貴方がかつて自己を否定するまで苦しみ。 そして、今なおも自らを縛り、地獄を受け止めようとする理由が。 ――だけど。 これだけでは無いですよね? 松山君」 さとりの淀みない問いかけに対して、松山は無言で肯定した。 松山「……前提として、話しておきたい。 ……俺はサッカーにおいて。 いや、サッカーに限らず人間がより良い生活を営むにおいて――人と人との絆。友情。団結。 そんな物が何より大切であると、信じて疑っていなかった。 ……いや、過去形じゃあない。 今だって、俺は純粋な損得勘定ではなく、数値や結果に表れない、人と人との信頼こそが重要だと強く信じている。 甘いだとか、理想論だとか馬鹿にされようともな」 さとり「……奇遇ね。 私も貴方と同感です」 鈴仙「(これまでの人を食ったような言動から見ると、俄かには信じがたいけどね……)」 さとり「鈴仙さん、今何か思いましたか?」 鈴仙「(ななな、何も思ってませーん!?)」
[176]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:04:11 ID:WbgK50x2 松山が考えていた、鈴仙の知る彼らしからぬ理想を聴き、さとりは共感を示す。 彼女もまた、試合において自身のチームメイトを信じ続け、 そして、地上との親交を深めるという理想論的な目標の達成の為尽力していた。 その理想の裏に隠れた、決して無視できない現実の暗さを知りながら。 さとり「……さて。 前提は分かりました。 即ち、貴方が人の絆を信じる清廉な少年であるという事は。 ですが、今の貴方はどちらかと言えばその反対。 つまり、スタンドプレーを好み、他者との関わりを拒絶している。 この理由は一体どうして? そこまでも、かつての過ちに対する罪の意識が深いから?」 松山「……それは半分正解だ。 俺は、かつての俺の罪を許す事は出来ない。 しかし、それ以上にもっと許せない物がある」 鈴仙「あっ。 それってやっぱり……さっきのチームメイト?」 松山「……違う。 俺にとってもっとおぞましく、そして巨大な存在だ」 ――ピシッ。 ……刹那、世界が再び歪んだ。 暗闇に亀裂が入り、いよいよ松山の本心が露わとなっていく。 松山「……俺は……俺は……!!」 ピシッ、ピシピシッ……! 鈴仙「(胸を締め付けられるような感覚……! これが、松山という少年が抱いていた真の怒りと悲しみ! これまでは混沌に隠されていたけれど、この感情は鋭く。 そして、淋しい……!)」 先程の襲い掛かる暗闇と比べ、今の変化は外面上大人しいと言っても良い。 しかし、今回の変化はその分、鈴仙の心情に深く訴えかけるような錯覚を覚える。 亀裂からは、次第に今までの黒よりも更に黒い色と……そして、不気味さすら覚える美しい白とが見え隠れていた。
[177]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:05:36 ID:WbgK50x2 松山「……俺が、世界で一番許せない存在。 それは過去の罪でも、それを出汁に俺を追い詰めるふらのの皆でも無い。 俺は―――!」 バリイ……ンンッ! やがて、亀裂が完全に割れ、松山の世界は更に深部へと達する。 その世界とはつまり―――完全なる黒と、完全なる白との二色の世界だった。 松山「俺は……過去の罪を許そうとし、あまつさえ自身の罪の責任を無理解なチームメイトに擦り付けようとする。 そんな身勝手な……自分の心に潜む『影』が、一番許せないんだ!」 そして、松山の存在もまた亀裂が入り消えた。 残ったのは松山の『影』だけだった。 鈴仙「……哀れな。 自分を許さない事こそが唯一の正義と信じ切り、 それを許そうとする自分こそが最大の悪と決めつけるなんて。 そんな事をしていては、貴方は永遠に許される事はないというのに!」 松山の影(以降便宜的に『影山』と表記)「……俺は、自分が何よりも神聖と信じているものを、自らの手で穢し、壊してしまったんだ! たとえ誰が俺を許そうとも、サトリ妖怪。 俺を許したい俺が消滅しない以上、お前の行為は全て無駄なんだからな……!」 ――つまり、松山光という少年は人一倍清廉でありたいに関わらず、その為の能力が明らかに欠如していた。 そしてそれ故に、理想と現実との果てなきギャップに苦しみ……それが、彼を地獄へと突き動かした。 他者との関わりを絶ち、自己を含む全てを拒絶する事のみが、自分の唯一の救いであると信じて。 さとり「……だけど貴方は、自分を許さないだけ出なく、自分を許し切る能力すらなかった。 地獄へと堕ちていく自分を肯定する「誰か」が居て欲しかった。 だけど、そんな者は当然この現実には存在しない。 ……まさしく幻想の世界か。 さもなくば――虚構の世界にしか、ね」 影山「そこまで、解っていたんだな……。 ――兄貴の、矢車想の正体までも」 さとり「――お空がお土産で、河童から貰って来まして。 ――これが、矢車君の「モデル」ですよね?」
[178]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:07:02 ID:WbgK50x2 さとりはポイと、ポケットから何かを影山へ投げつけた。 鈴仙は影だけと化した松山に近づいて、それが何かを確かめると。 鈴仙「これは確か……姫様も持っていたDVDドラマのケース。 それで、タイトルは……!?」 ――それは少年向けの特撮ドラマのようだった。 しかし、鈴仙が目を丸くした理由はそのタイトルやストーリーでは無い。 そこには間違いなく、あの時の試合に出ていた矢車の姿が映っていたからだ。 さとり「……矢車想とは即ち、外界の特撮ドラマの登場人物が一人。 完全調和という崇高な理想を掲げながらも、主人公への嫉妬心に負けてスタンドプレーを行い、仲間を見殺しに。 信頼していたかつての部下にも裏切られた彼は――地獄の戦士として、同じ境遇をなぞった相棒と共に、 物語上の正義や悪に与せず、自身の生きる意味、戦う意味を孤独に問い続ける。 ……まさに、今の貴方の境遇にピッタリ。 自分を認めてくれる、見捨てないでくれる……理想のヒーロー像ですね」 影山「そうさ。 そうだよ……! 俺は結局、中途半端なんだ! 自分の罪を受け入れる事も出来ない! だからといって、そんな自分を許し切る事も出来ない! だから、俺は――兄貴にだけは、受け入れて、認めて欲しかったんだ……!」 さとり「罪を受けるべきと思う自分と、そこから解放されたい自分とのせめぎ合い。 それを認めて貰うために、第二の人格を作り、そうする内に……本来の自分を見失ってしまったのですね……」 鈴仙「…………!(――松山光。 彼もまた、中山さんとは違う意味でストイック過ぎる人物。 だけど彼は、中山さん以上に崇高な理想を持つ一方で、中山さん程強くは無い。 だから彼は、こうして自己を否定する事しか出来なかった! なんて、悲しい話なの……!)」 松山の本心を聞いた鈴仙は、胸を潰されたような気持ちになった。 この地獄の少年が持つ迷いは、そして怯えは。 完全にとは言えずとも鈴仙にとって共感できる。 鈴仙「(私が……私が、今の松山君に対して、何かを言ってあげる事は出来ないのかしら。 ――私はさとりさん程松山君と親しくないけれど、それでも、これまで色んな経験をして来た。 何か――何か、言える事は……?)」
[179]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2014/12/21(日) 18:09:41 ID:WbgK50x2 鈴仙はどうしても、松山に何かを言いたくて堪らなかった。 誰よりも自身に厳しく、にも関わらず弱い彼を救えずとも、何かを……。 鈴仙「…………」 あまりに強烈な松山の自我を受けて戸惑うさとりを尻目に、鈴仙はこう口を開いた。 A:「私だって、かつて罪を犯した事があるから言うけど。 ――罪やそれを許さない自分も含めて、今の貴方なんじゃない?」 B:「中途半端って言うけれど……中途半端で、一体何が悪いって言うの?」 C:「……私は良く分かんないけど。 また、ラーメンでも食べにいきましょ」 D:「さとりさんとかは、貴方を認めてくれてると思う。 他のチームの人だってきっとそうよ……!」 E:無言でポケットの「愛のハチマキ」を影山に投げ付ける。(渡すとは言ってない) F:その他 自由選択枠 先に2票入った選択肢で進行します。メール欄を空白にして、IDを出して投票してください。 *今回の選択にも特に明確なアタリハズレは定めていません。 ですが、自由選択枠で色々考えて下さった場合、少しだけプラスを上乗せする可能性があります(プラスされない可能性もあります)。
[180]森崎名無しさん:2014/12/21(日) 18:11:59 ID:89HRSoaA B
[181]森崎名無しさん:2014/12/21(日) 18:23:15 ID:gdMJhXp2 B
[182]森崎名無しさん:2014/12/21(日) 18:30:33 ID:??? Wのおやっさんの台詞が思い浮かんだ
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0ch BBS 2007-01-24