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【秋空模様の】鈴仙奮闘記36【仏蘭西人形】
[789]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/16(木) 01:06:19 ID:9jEN4p+g ピエール「……確かに、この結果に新経営陣は納得しないだろうな。 だけど、そもそも――見せしめを行うにしても、こんな試合を開いたのは、俺の独断だった。 大人たちは、もう少し穏便な方法での問題解決を意図していたんだ」 早苗「……そうだったんですか。私は、てっきり貴方が大人たちの操り人形になっていたのかと」 ピエール「それは間違ってはいない。事実、大人たちは俺達の勝利を疑っていなかったし、 勝利すれば、大きな見返りを得る事ができた。 ノーリスク、とは言えないが、ローリスクハイリターンの次善策として、彼らも支持してくれていた。 だが……今にして思えば。この時点で俺は、今のような展開になる事を、望んでいたのかもしれない」 早苗「今のような展開――って、つまり。仲間達が信じあって、強大な敵を打ち倒す……みたいな展開のことです? 私達が強大な敵側なのが、なんだか寂しい気もしますけど」 ピエール「……ああ」 おどけるような早苗の相槌に、ピエールは静かに頷いた。 ピエール「俺は常日頃感じていた。Jr.ユースで一緒に戦った仲間達は、本当に、仲間なのだろうかと。 心を許し合ったようでいて、単なる打算と利害関係で付き合うだけの、そんな空虚な関係なのではないかと。 俺を尊敬し、一緒に笑いあってくれる仲間達との関係が深まる程、そうした疑念が膨れ上がって来た。 だから――俺は一度、試してみたかったのかもしれない。 俺の仲間達は、何があっても本当に仲間同士信じあえるのか。あの時の笑顔は、涙は。本物なのだろうかと」
[790]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/16(木) 01:17:56 ID:9jEN4p+g 早苗「……そんなの、どうやっても分かりっこないですよ。人の本心なんて、さとり妖怪でも無い限り分かりません。 あるのはただ、仲間同士が互いを信じあえるという、そんな信仰があるだけです。 知ってますか? 信仰ってのは、決して神様に対してするものだけじゃあ無いんですよ。 いや、むしろ、空気みたいに常識すぎて、誰も意識していない位だと思います」 ピエール「信仰という行為を神聖化せず、普遍的に捉えるのか、君は。 ――だったら教えて欲しい。俺は、どうやって彼らを信仰すれば良かった? どうすれば俺は、こんな試合を通さずとも、皆を信じられるようになれた?」 早苗は、思い悩むピエールの姿を見て、明るくそう応えた。 かつて幻想郷において、信仰の在り方に思い悩む早苗を支えようとしたピエールは、 今度は逆に、正しき信仰を見つけた少女に助けを求めていた。 早苗「……信仰だなんて言っちゃうと、語弊があるかもしれないですね。 そうね。仲間同士に生じる、互いに互いを信じあう為の信仰を得る為には……」 そう前置きした上で、早苗はシンプルな答えを導き出した。 早苗「――ピエール君が、フランスの皆ともう一度、『トモダチ』になる事だと思います!」 ピエール「フッ……ハハハ。そうか、そうだったな。社交界の権力だの、利害関係の維持だの、 そんなどうでも良い事ばかりを並べ立てて。俺は、一番肝心な事を忘れていたみたいだったな……」 ピエールは、初めて年相応の少年らしい笑みを零した。 ――今回、フランスのサッカースクールで起きた学園紛争。 それは、少年の人知れぬ孤立が引き起こした、滑稽かつ悲劇的。矮小かつ遠大な信仰の儀式だった。
[791]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/16(木) 01:22:24 ID:9jEN4p+g ピエール「――俺は全て話した。だから、と言う訳では無いが教えて欲しい。 ……サナエ。君は何故、俺に手を貸してくれた? 君はソリマチの事が……」 最後にピエールは、そう早苗に問いかけた。 実は、ピエールは彼女が何故レジスタンスでは無く、自分達に加担してくれたのか。その真なる理由を知らなかった。 彼女はいつも通りの明るさを保ちながら、そうした当然の疑問を拒絶し続けていたからだ。 早苗「それは……幾らピエール君でも、言えません。だって、それだけ色々考えてたピエール君と違って、 私がここに参戦した理由なんて、めちゃくちゃショボイし、しかも色々とアレな理由だし」 それは今になっても同じだった。彼女は照れくさそうに指を合わせながら、もじもじと言葉を渋る。 そして、ピエールは少女の秘め事を根掘り葉掘り聞きたいようなタイプの男では無かったため、早苗の秘密は今も尚隠される。 早苗「さ! そんな詰まらない事よりも、私達のキックオフですよ! 色々語ってスッキリしたんだし、折角だから、この試合を最後まで楽しまないと!」 最後の最後まで自分の本心を隠し、明るく周囲を照らし続けようとする早苗の背中を見て、 ピエールはこうも付け足した。 ピエール「……仕方ないとは言え、彼女のような子を放っておくなんて。――ソリマチの奴は本当に罪な男だな」 その言葉の意図は、紳士的な観点からの感想なのか、あるいは反町に対する少年らしい嫉妬なのか。 ――それを知るのはピエールの本心のみだった。
[792]森崎名無しさん:2016/06/16(木) 18:07:56 ID:??? 実は真に孤独なのはアリスさんではなくピエールだった そしてアリスさんは>112におけるピエールの友情論が 実は自分自身すら騙しきれていないうわべだけのものであるとアリスさんは本能で感じ取った! だからアリスさんはピエールとは友達になれないと思ったんだよ! 結論!YAS!
[793]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/17(金) 00:42:06 ID:??? すみません、早苗さんパートの文章を考えていたら思いのほか長くなりそうなので、更新をお休みします。 >>792 ピエールの動機については当初から考えてましたが、>>112は実はそこまで考えず書いてました(汗) アリスさんとピエールは奇しくも対比的な感じになりましたね。
[794]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/18(土) 01:37:19 ID:??? すみません、今日は更新をお休みします(汗)明日は更新したいです。
[795]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/20(月) 00:12:42 ID:dNkCd+7+ ――ピィイイイイイッ! 早苗「さあさ、試合はまだ最後の一秒まで分かりません! 行きますよ、皆!」 タタタタタッ……ババババッ! ナポレオン「――チイッ!(……ピエールの奴はすっかり戦意喪失気味だが、コイツは逆に生き生きとして来やがった!)」 実況「生徒会チームのキックオフと同時に、試合はいよいよロスタイム! 先程猛威を振るったピエール選手は足を休め、代わりに早苗選手が高いドリブル力で突き進みます!」 反町「早苗さん……最後に聞きたい。一体何故、ピエールに加担を……?」 静葉「――貴女の後ろには狡猾な神々が付いている。彼女達の差し金?」 早苗「違います。神奈子様達は確かに、目的の為ならば手段を選ばぬ所もありますが、 今回については無関係。『折角機会を得たサッカー留学だ、楽しんでおいで』以上には言われてません」 穣子「じゃあ、一体どうして……? 私達、一緒にご飯食べたり、遊んだりしたじゃん。トモダチじゃなかったの……?」 早苗「どうして? ……そんなの、決まってるじゃないですか」 実況「快速ドリブルでナポレオン選手を突破した早苗選手、次は反町選手と静葉選手、 そして穣子選手の三人と対峙し……」 早苗「(――中学時代からずっと、あなたに憧れてた。寡黙だけど紳士的なプレーを見せたあなたを。 ……そして、理想を挫かれても尚、自分の信念を貫こうとしたあなたを……!)」
[796]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/20(月) 00:13:58 ID:??? 〜回想シーン〜 ピィィィ…… 実況「……あ。ホイッスルが……鳴りました。後半23分、明和東のキックオフで試合さいか――」 日向「くたばれ、雑魚が!」 バギイイッ! グシャッ! 英武「ひでぶっ!?」 観客「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」「も、もうやめてくれーー!!」「+‘#$%’#!?」 「血が……臓物が……」「ハハハ、脳ミソってプリンみたいだよなァ、めっちゃ可愛ェ、ハハハ」 実況「……前半に小松選手から交代した英武選手、日向選手の強引なタックルにより吹き飛ばされました。 全身が奇妙な飴細工のように捩れていますが、試合続行です。これは政府のお達しが理由です。 ……あ! 日向選手の強引なドリブルに吹っ飛ばされた?仏選手が起き上がれません。 また背骨が折れでもしたのでしょうか。ですがこれはボール越しのプレーの為、反則ではありません」 反町「(……なんだ。なんだよ。この試合――いや。この文字通りの虐殺は……!)」 早苗(観客席)「外界最後の思い出にと、全国大会に来てみては良いものの……こりゃあ、非常識すぎますね」 ――早苗は幻想入りする前、東邦学園の試合を観戦していた。 地元の宿敵・鳴門中学をアッサリと下したチームがどこまで行くのか、純粋な興味があったからだ。 また、幻想入り直前にして、早苗の存在は現実において虚ろだったため、 こうして無銭で試合を観戦するのは容易だったのも理由としてあった。
[797]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/20(月) 00:15:16 ID:??? 早苗(観客席)「長野県最強GKの渡会君からアッサリゴールを決めちゃった、あの反町君って子も凄いと思ったけど。 ……こうしてみると、彼ですら全国では最優じゃないのね」 そして、彼女はこの時、狂気的な殺戮現場を前に小市民然とした反町に対し、幾許かの失望を抱いていたのも事実だった。 自分達を打倒したチームを圧倒した、全国有数のチームのエースストライカー。 そんな反町ですら、日向小次郎という圧倒的才能を前にしては単なる雑魚に過ぎない。 現に、反町が堅実に稼いでいた大会5ゴールの記録に、日向は僅か1試合で既に並んでいた。 多くの屍の山と共に、彼は全てを蹂躙していた。そして――。 日向「ククク……次は貴様だっ!」 阿部士「ひ、ひぃぃぃッ!?」 実況「……日向選手、阿部士選手もドリブルで突破に向かいます。 しかし阿部士選手は先程のプレーで全身を負傷しており、これ以上の続行は危険。 恐らく、もう一度あの直線的ドリブルを受ければ内臓破裂は必至でしょう。 ですがそうした些細な事情など気にせず、日向選手は減速せずに、ボール越しで突破へと向かいます!」 早苗(観客席)「(――これは死にますね、あの阿部士って人……。しかし、サッカーで人が死ぬなんて。 幻想郷だったら、こうした出来事が日常茶飯事になるのかしら……)」 早苗の推察は正しく、堀に代わって明和東のボランチを務める阿部士はこの時死を確信していた。 幾度も無く暴力的プレーを受け、身体はもはや動かない。 しかし、自分に代わる選手はもう居らず、反則のホイッスルが鳴らない以上、 仮に死んだとしても、自分は日向に向かわなければならない。 阿部士はボロボロの全身を辛うじて立たせ、日向に向かってタックルをしようとして――。
[798]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/20(月) 00:16:33 ID:??? 反町「(これ以上人が死ぬ所は見たくない。でも、日向に逆らって死にたくない。 だったら……俺にできる事は……)――くっ、頭がふらついて……」 グラッ……バターンッ! ……ドサッ。 阿部士「あべしっ!?」 ピィィィィィッ! 日向「――チッ。反町の馬鹿め。サッカーは格闘技だぞ。リング上で血が流れるのを見て倒れる奴がどこにいる」 実況「おっと、日向選手が阿部士選手を抜くと思いきや、反町選手の転倒によってホイッスルが鳴りました! これは反町選手の反則で、明和東にフリーキックが与えられた格好です!」 反町「(日向のボール越しの暴力行為が合法で、俺の転倒が反則を取られるのは少し理不尽な気がするけど……。 ――でも兎に角、これで少しは彼の寿命が延びたと思えば……)」 ――日向が人命までをも奪う事になる直前、反町はすんでの事で彼の命を救った。 偶然の立ちくらみが、安倍士を暴力の魔の手から助けだしていたのだ。 これには日向も機嫌悪そうに舌うちをしたが、流石に人名ともあると『後片付け』が大変だからか。 それとも、単なる気まぐれからか、それ以上の追及は無かった。 日向「……フン。どこかの馬鹿のせいで興が削がれた。おいタケシ、これから後は流すぞ」 沢田「ひゅ、ひゅいいいっ!? わ、分かりましたぁ!? ヒューガーバンザーイ!」 更にこれは思わぬ幸運だったが、反町の反則以降、興を削がれた様子の日向はこれ以上の暴行に走らなかった。 ……無論、無数のけが人が今なおフィールドで苦悶の声を上げている現実は変わらないが、 少なくとも反町の行為は、結果としてここにいる11名の生命を守ったのだ。
[799]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/20(月) 00:18:11 ID:??? 早苗(観客席)「(……今のって、もしかして。身を挺して彼の――阿部士君の命を救ったんじゃないかしら)」 そして、こうした反町のプレーに、早苗は興味を抱いていた。 早苗にとっては反町が、圧倒的な才能により、自分のこれまでの全てを否定され、 しかしそれにも関わらず、出来る限りの精一杯をやろうとしている風に映った。 早苗(観客席)「(私も、頑張らなくちゃ。自分達を倒したチームが全国の場でアッサリ敗北しようとも。 ……私の才能が足りず、神奈子様と諏訪子様をこの現実の地に留められなくても。 それでも、できる限りの事をしなくちゃいけない。それが、私の役目である以上は)」 その姿は、自分の才能が井の中の蛙である事を感じていた早苗にとって、勇気付けられる物だった。 例え真実が偶然であったとしても構わない。反町は間違い無く、人の命を救ったのだから。 早苗(観客席)「(……会える事は二度と無いだろうけど。反町君に会えたら、お礼を言わなくちゃいけませんね)」 ――試合は6−0で東邦学園が圧勝した。 この試合によって東京〜埼玉間に不仲が生じ、およそ8億もの経済損失が生じた事や、 ヒューガーが大手広告代理店やマスコミ、果ては政府を利用し、若き少年達への暴行をもみ消した事は、 これから日を待たずに幻想入りした早苗にとってはどうでも良かった。 ただ、華々しくも無いどころか反則を取られるような、そんなしょうもないプレーを通じて、 自分に勇気を与えてくれた少年に、一方的な感謝を伝えたかった。 そんな些細な未練を、早苗はこれまでずっと隠し持ち――。 ……早苗はいつしか、彼に対し、単なる感謝以上の恋慕を抱いている事に気付いてしまった。
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0ch BBS 2007-01-24