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【秋空模様の】鈴仙奮闘記36【仏蘭西人形】
[820]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:41:20 ID:??? 岬「――だとしても、資金確保は既に成功しているよ。ほら、見てごらん」 岬は中西に一枚の通帳を渡してみせた。中西が訝りながらそれを開くと、たちまち目を見開いた。 中西「な……なんや。いつの間にか大量にカネが入っとるやないかい!? どうしたんや!?」 岬「詳しくは言わないけれど。僕はこの試合に敗北した時を見据えて色々手を回していた……とだけ言っておこうかな。 特に手を組んでいた某金持ちの家の当主さんからは、多額のキャッシュをむしり取る事が出来たよ。彼ら、親子そろってカモだね」 中西「色々って……。お前さん、やっぱりワルやな。ワイらの中でも群を抜いてワルや」 岬「そんな事無いさ。だって僕にお金を『寄付』してくれた人も、僕が彼の不法行為を口止めする事を約束したら、 泣いて喜んでくれたよ。そして僕達もこのお金で笑顔になれる。ついでに、ピエールやその仲間達も笑顔になれる。 ……ほら。誰ひとり損はしていない。皆笑顔じゃないか。僕のスタンスはこれ。これだけは何も変わりはしないよ」 能面のような笑顔を見せ、岬は全く悪びれずにそう主張する。 所詮は一個の商売人に過ぎない中西は、かつて日本最古の政治家とも肩を並べた事すらある岬太郎の精神に、 ただただ戦慄する事しかできなかった。
[821]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:42:46 ID:??? 美鈴「(……ぽっと出の出番で負けちゃたけれど、ある程度は活躍する事ができた。 これまでは上にお嬢様とか咲夜さんとかが居たから、何となく萎縮しちゃってたけれど、 今日の試合のお蔭で、何となく自信がついたかも)」 他との交流が希薄だった美鈴だったが、彼女は彼女なりに、この試合において何かしらの実感を身に着けていた。 個人技が重視されるサッカーにおいて、スクールにすら所属せずあくまで身一つで技を磨いた彼女は、 ある意味ではシャンパンサッカーをこの場で最も体現している人物かもしれなかった。 美鈴「(ハッ!? まさかお嬢様は最初からこうなる事を見越して私をフランスに……!? って、そりゃあないか。しかし、他の皆は大丈夫なのかなぁ。陸君とか咲夜さんは大丈夫そうだけど、 妹様がどう思っているか……)」 マイペースで何も持たない美鈴が、この試合においてそれ以上の深い思いを抱く事はない。 しかし、この試合における成功体験が彼女に大きな成長を促した事だけは確かだった。
[822]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:44:06 ID:??? 早苗「(……さようなら、反町君)」 ――そして、早苗は一人残された。 彼女は反町への想いを告げる事なく、勝手に嫉妬し勝手に対立した自分自身を恥じていた。 仕方のない事情があったピエールとは違い、早苗は完全なる自分の意思で反町と対立した。 ……そんな自分が、許される筈がない。 早苗「(――今日、この学校を出よう。そして何も変わらぬ笑顔で全幻想郷チームに合流すれば良い。 そうしたら、私はまたいつもの明るくて楽しい風祝の早苗に戻れる……)」 ――この学校での思い出は、きっと無かった事なのだ。 自分は守矢神社に仕える風祝。全幻想郷においては霊夢を補佐する影のゲームメイカー。 それ以上でもそれ以下でも無く、普通の女子高生のような生活をする事など、あり得ない。 だから、早く幻想郷に帰って、いつも通りの自分に戻りたい。早苗はそう思って――。 ガシッ。 アリス「――ほら、あんたも私のブレインメディカルなサッカー理論に聞き惚れるのよ! 良いかしら? まずあんた、ボールくんは見える? ほら、ここに『いる』んだけど、見える? まあ愛が無ければ見えないんだけどね。そもそも私とボールくんとの馴れ初めは……」 早苗「あの、えっと、アリスさん……?」
[823]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:45:27 ID:??? 長い学校生活を経てすっかりキャラ変してしまったアリスさんに捕まった。 早苗はしどろもどろになって捕まったその腕を振りほどこうとするが、アリスさんの瞳は至極真面目だった。 アリスさんは訳知り顔で頷いて、こう静かに言い切った。 アリス「……あんたは、毎日トイレでお弁当を食べてる私を屋上まで案内して、 ランチに誘ってくれたわ。その恩は、決して忘れるもんですか」 早苗「そ、そうっすか……」 ――良い事を言ってるような気はするが、なんかこの場で早苗が求めてるのとは若干違う気がした。 が。……そんなアリスさんの態度に毒気を抜かれたのも確かで。 早苗「(……でも、そうよね。私の想いは結局何も無く終わっちゃったけれど。 ここには沢山のイイヒトがいる。あんなイイヒト達ばっかりだったら……なんか、私ですら許されちゃう気がするし)」 早苗は、もう暫くこの場所に立ち止まってみる事にした。 肩の力を抜いて見た秋の景色は、これまで以上に美しく見えた。 そして、反町は――。
[824]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:47:01 ID:??? 〜エンディング〜 【そして、秋はまた訪れる】 指導教官「えー。これまで皆と共に学んでいた反町君達に東風谷君だが、 兼ねてからの計画通り、留学を終えて母国に帰る事となった」 クラスメート「えーっ」「知ってはいたが、やっぱり寂しいよな」「俺達の事忘れるなよなー」 ――あの激戦から早数日。平穏だが充実して貴重な日々を過ごした反町達は、 いよいよ留学期間を終え、その実力をそれぞれの場所で活かす事となった。 反町「…………」 穣子「やっぱり、皆とお別れするのは寂しいね……」 静葉「終わりがあるからこそ、新たな始まりが待ち遠しくなる。私は、この終わりを大事にしたいわね」 アリス「皆ー! また一緒にサッカーやりましょうねー! ボールは皆のトモダチよー!」 早苗「私は反町君達とは別の立場ですけど、本当にお世話になりました。ありがとうございます」 指導教官「彼らはわが校のカリキュラムをしっかりとこなし、また、自分自身の課題にしっかりと向き合い、 そして大きな成果を出してくれた。君たちも見習うようにな」 指導教官が月並みな激励を掛ける中、反町は一人思い出していた。 つい数日前、レジスタンス対生徒会チームとの試合が終わった夜の出来事を。
[825]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:48:07 ID:??? ***** 反町「あの……穣子さん」 穣子「一樹君。……ほんとに来てくれたんだね。良かった……」 ――反町は試合終了間際に告げられた言葉に従い、夜の校舎で穣子と一緒に居た。 そよ風が木を撫でる音と虫の鳴き声以外に音が無く、 窓の外から覗かせる月と星以外に光が無い世界にたった二人で、他の人は消えてしまったように思えた。 穣子「今日、勝てて良かったね……」 反町「ええ。そりゃあもう。皆のお蔭だとしか言いようが無いです」 普段の素朴で元気な穣子とは違う様子に内心でどぎまぎしながら、 俺は盛大に外しちゃいましたけどね、と反町は苦笑いしながら答える。 穣子はそんな事ないよ1点決めたじゃん、と笑顔で応じてくれたが、やはりぎこちないと思えた。 反町「…………」 穣子「…………」 やがてやってくる沈黙。 反町がお喋りでない以上、穣子が口を閉ざしてしまったら何の会話も生まれない。 暫く二人は、風や虫の音に耳を澄ませるしかなかった。 が、そんな中で不意に穣子が決然と口を開いた。 穣子「……一樹君。やっぱり、あなたは……私達なんかと、一緒にいるべきじゃないよ」
[826]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:49:58 ID:??? ――と、言った所で一旦ここまでです。
[827]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:02:36 ID:??? 反町「そんな。どう、してそんな事言うんですか。俺達、今まで楽しくやって来たのに……」 だから反町は珍しく感情的になって問いただした。自分は勿論、穣子の事を大切に思っている。 そもそも反町が今ここで修行を続けているのも、穣子と静葉を守りたいという想いがあってこそだ。 だからこそ、反町はそんな自分の想いすら否定しようとする穣子の真意が知りたかった。 穣子「……これまでの学校生活とかさ。今日の試合とかさ、見てて思ったんだよ。 一樹君は、私達みたいな幻想の住人と一緒じゃなくても、普通の人間として、 外の世界の人達と仲良くなれる。一緒にサッカーを楽しめるって。 そして、……その方が、一樹君の人生にとっても良いに決まってるって」 穣子が言わんとする事を、反町は何となく理解できた。 いや、それは穣子が言わずとも反町自身が考えていた事だった。 考えていて、でも今の生活が楽しいから。それで、胸の奥底に閉じ込めていた事だった。 反町「――幻想郷は、現実世界から忘れられた、捨てられた妖怪や人間が住む場所。 だけど俺は、まだ完全に忘れ去られていない。全日本にも親しい奴がいたし、 ここフランスでも、多くの仲間に恵まれた。……だから、穣子さんは。 俺は今の一件が終わったら、外の世界に戻れば良いと。そう思うんですね」 穣子は静かに頷いた。 穣子「元々は私が悪いよ。私が、神様の癖して一樹君の事を好きになっちゃったのが駄目だったよ? でも、その時はそれでも良いと思った。一樹君はひとりぼっちだったし、支えてあげたいって思った。 だけど――フランスに来てから確信したんだ。それは、私の都合の良い思い込みだったんだって。 一樹君は強いよ。だから、私達がいなくてももう、皆と上手くやっていけるんだって……」 反町「それは……」
[828]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:03:39 ID:??? 反町は穣子を否定できなかった。幻想郷で二人と暮らしている時は実感できなかったが、 彼は今まさに、世界から断絶されようとしているのだ。 幻想郷と外界との往来が激しい現状においてはピンと来ない問題ではあるが、 反町はかつて妖怪の山の天狗達から、現状がイレギュラーである事は再三聞かされている。 八雲紫の――あるいは彼女を利用しようとしている『純狐』の――計略や鈴仙の活躍により、 幻想郷の結界が希薄化・崩壊したため、今だけはこうして容易に幻想郷と外界を行き来できる。 しかし、自分が鈴仙達と共に戦い勝利した場合、結界の崩壊は間違い無く修復され、 幻想郷は再び、現実とは混じりようの無い世界へと戻ってしまうだろう。 もしそうなれば……反町が再び、この現実世界で暮らす事が出来るかは不明だ。 反町「……………」 穣子「――ごめんね。変な事言っちゃって。今すぐに決めて欲しい訳じゃないんだよ? でもね。やっぱり一樹君には真面目に考えて欲しかったんだ……」 反町「……………はい」 反町はこれ以上答えられなかった。 何も言わずに彼女を抱き寄せられなかった自分は、臆病なのか賢明なのか。 それすらに分からぬまま、穣子とは何となく疎遠のままに数日が過ぎ――。
[829]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:04:59 ID:??? ***** 指導教官「……と、言う訳だ。間もなく彼らを送るバスが来るから、 それまで皆は、彼らとの最後の時間を過ごして欲しいと思う」 クラスメート「「「「はーい」」」」 反町「(……何時の間にか話が終わってる。結局、俺はあれから何も言えなかったな……)」 クラスメートの合唱を聞いて、反町は意識を現在に戻した。 あれから穣子とは殆ど口を聞けておらず、偶に話す事があっても、どこかよそよそしくぎこちない。 この事について誰かに相談する事も性格上できず、反町は一人思い悩んでいた。 反町「(――これまで忘れていたけれど、俺はやっぱり、恐れている。 皆と離れ離れになって、幻想郷で生涯を終える事を……)」 ――仮にこのまま反町が新チームに合流し、皆で強敵に打ち勝ち、そしてその先は? 昔ならば、幻想郷で和を大切にするチームを作ってサッカーを楽しもうと。 そう無邪気に思えていたかもしれない。しかし、十年先、二十年先の自分はこの選択に後悔しないのだろうか。
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0ch BBS 2007-01-24