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【追う蜃気楼は】鈴仙奮闘記39【誰が背か】
[257]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:08:15 ID:??? こんばんは、遅くなりましたが更新再開します。 今回のクイズの正解でしたが、犯人はさとりで、理由は自分自身の心を読んでいないから、でした。 (>>248のトリップ #犯人はさとり、>>249のトリップ #自分の心を読んでない) コメント頂いた方はありがとうございました。 >>250 参加ありがとうございました。伏線を回収しつつ、さとり様のヒロイン力を出していきたいですね。 >>251 松山も出て来る予定です。 >>252-253 そこまで考えてませんでしたw 「読者が犯人」「作者が犯人」あたりは既にネタが出ているみたいですね… >>254 参加ありがとうございました。ただすみません、松山への害意は考えていませんでした。 >>255 そうですね。その辺りの描写も大事でしたね… >>256 さとり様伝説の勇者ロト説
[258]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:09:25 ID:??? >さとり様 あたいは真面目に、犯人が誰かを考える。 まず、外部犯はいない。【館の中には、今客室に居る以外の人間は存在しない】。これは間違いないだろう。 次に、内部犯もいない。【さとりが能力で読み取る限り、客室には矢車への害意を持つ者はいない】。 ……で。こうなると外部にも内部にも犯人が居ないって話になるんだけど。 「……いんや。一人だけ除外されてない人物がいる」 そして、あたいは……真面目に考えた結果、一番あり得ない選択肢に辿り着かざるを得なかった。 さとり様は、そんなあたいの内心を読んでくれたように優しく頷き。 「そう。……とどのつまり、これは推理ではなく茶番だったのですよ。お燐」 「――そんな。でも、一体どうして……?!」 世の中には知らない方が良い真実も沢山あるって言うけれど。 まさか、この事件の真相がそうだったなんて。 「でも、おかしいですよ。さとり様! だって、あたいは知っている。心を読む能力なんて無くたって、分かってた!」 だから、思わずあたいは叫びそうになっていた。 「さとり様。貴女はあの男に同情していた。周囲の悪意に絶望し、心を閉ざしてしまった矢車くんに! いいや、同情だけじゃない。それは共感や親愛の情にも繋がっていたし。何だったら――!」 「お燐」 これ以上は言わせないと、さとり様は静かに制する。そしてその代わりに、彼女は厳かに自白した。 「私は――矢車君を殺しました。いえ。凌辱などではなく……殺したのです。 【私はここで、矢車想という人間を殺した】のです」
[259]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:10:34 ID:??? ***** 〜???〜 こいし「そうだよ。矢車さんを殺したのは、お姉ちゃんなんだよ」 不意に声がして、さとりはページを捲る手を止めた。 さとり「……」 暗い室内には、手元に点けられた蝋燭くらいしか光源がなく、 恐らく自分の背後に居るであろう、その姿は見えない。 さとり「……ええ。漸く分かったわ。あんたがずうっと、どこに隠れていたのかも。 そして……私が何故、このイギリスの地で、矢車君に導かれたのかも」 こいし「どうでも良いけどさー、お燐って推理小説のセンス皆無だよねぇ。 大事な情報は書かない割に、自分が書きたいどうでも良い事には紙面を割きまくるし。 エッセイストとか私小説とかまだしも、推理小説を名乗っててこれは最悪だよ」 さとり「それにはついては私も同意見だけれど。……今は、そうした楽しい会話をしている暇はないのよ」
[260]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:11:41 ID:??? さとりは、手元にある小説――いや、そう呼ぶにも本来ならば烏滸がましいレベルの紙束を一心不乱に読みふける。 愛しい妹との再会を祝うよりも、彼女はまず、贖罪を行う必要があったのだ。 さとり「私は……彼に。矢車君に会いたいと思っていた。だけど、それは間違いだった。だから私は――矢車君を殺すしかなかった」 こいし「うん。そうだったね。……でも、お姉ちゃんは自ら手を下す事が出来ず、病んでしまった。 だから、お燐に頼んだんだよね。『お姉ちゃんが矢車さんを殺す筋書きの小説を作る』ことを。 こうしたら、お姉ちゃんは自分の手を汚さずとも、矢車さんを殺す事ができるから。 ほら。話してごらんよ。お姉ちゃんはなぜ、矢車さんを殺したかったのかをさ?」 さとり「…………」 こいしの話す内容に偽りはない。そう知っていたさとりは敢えて何も答えない。 いや。さとりは小説の続きを読む事で、こいしの問いかけに応じようとした。
[261]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:13:20 ID:??? ***** 「そんな、さとり様が犯人だなんて。でも一体どうして、そんな事に……?」 「あの人は……変わってしまったわ」 「ええっ、矢車がですか? こんな迷惑な催しを開いてる時点で充分変わってるというか。 ああいや、前から変わっていないっていうか」 この場の雰囲気を少しでも和らげるため、おどけるようにあたいはそう返してみせるが効果はない。 さとりは違うの、と言う代わりに首を振りながら、こう続けた。 「彼はもう、私の知る矢車君ではなくなっていった。……彼は私達の保護から離れ、人との関わりを思い出し。 ――そして、完全なる調和を愛する好青年へと変貌していたわ」 「完全なる調和……ですか。なんかまた、前とは別な意味で胡散臭いですけど。 でも、……そうか。さとり様は一人で会いに行ってたんですね。事件が起きる前、矢車に」 「ええ……そうよ。そして、事件は……その時に起きました」 さとり様は首肯する。そして、その時のやりとりを回想しつつあたいに話してくれた。
[262]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:15:38 ID:??? ***** こいし「そうそう。イギリス行きが決まったお姉ちゃんは、周囲のサッカー関係者の心を読み取って、 松山くんも一緒にイギリスでサッカー留学してるって事を知ったんだったよね。 で、お燐に内緒でコッソリ会いに行った。なるほどなぁ。現実とリンクしてるんだねぇ、この小説」 さとり「……そうよ」 ページを捲る手を止めないまま、さとりはぶっきらぼうに肯定する。 そうだ。そうでなくてはいけない。そうでなければ、自分は矢車を殺す事など、出来ないのだから。 少なくとも、自分の内心で――しかもお燐にお膳立てして貰った上で殺せなければ、さとりは永遠にこの牢獄から抜け出せない。 さとりは、意を決したまま次のページを読み始めた。 ***** 「やあ、さとりさん。俺の事を心配して来てくれただなんて、嬉しいな」 「……え?」 一人でコッソリ矢車に会いに行ったさとり様は面喰ったらしい。 ボロボロの衣服で隙あらば自分を罰しようとする矢車が……なんか、違う。目の前に居たのは、完璧を愛する、一人の好青年だった。 「ハハ、やっぱり驚くよなァ、前の俺を知ってるさとりさんじゃあ。 でも俺、変わったんだ。あれから全日本に戻り、兄弟……松山と共にサッカーの腕を磨き、 そして一度は嫌われた周囲の信頼を再び取り戻せた。それから、俺は気付いたんだ。 サッカーとは調和……完璧なる調和が無ければ成り立たないってさ」 「そ、そうですか……」 昔みたいに、意味不明な彼をボロクソにけなしてやりたい。そして彼の不器用さと誠実さを理解してあげたい。 そう思っていたさとり様は、彼の成長を前に……少しの安心と、それ以上の寂しさを感じていた。
[263]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:16:41 ID:??? ***** こいし「あっ、ここは現実とは違うね。だって、実際にヨークシャーのクラブハウスに行ったとき、 松山くんは自分の中の矢車さんの人格を取り込んでいたんだからさ。 パーフェクト・ハーモニーがどうとかみたいな性格は一緒だけど、この違いは何を意味しているのかな?」 さとり「それは私の心の弱さ……かしら。私の心の地獄に共感し、同じ視線から歩いてくれる友がもう居ない。 その事実を、受け入れられなかった。 矢車君はまだ、松山君の中に居る。いて欲しい。そんな願望を、お燐は作中に反映してくれたのだと思うわ」 こいし「ふうん。なんかややこしいね」 姉の苦しみに対して、妹はそっけない。しかし、それも仕方がない。 何故ならば―― さとり「矢車君が居ない現実と、矢車君が居て欲しいと願った私の空想。 そのギャップを一度埋めてくれたのが、こいし。貴女の存在だった」 こいし「そうだよ。私はイマジナリーフレンドの妖怪。心の弱かった松山くんが、自身の中に孤独なヒーローを生み出したように。 お姉ちゃんは、自分のヒーローだった人の抜け殻に、再び自分のヒーローの役割を被せようとしたんだよね。 勿論、そんな事は到底できないんだけど。この私が居るなら話は別だもん」 小説と違い、現実では松山光は松山光であり、矢車想など存在しなかった。 当たり前だ。ここが幻想郷であるならともかく、人間の少年の願望がこの外界で形を取れる筈がない。 しかも、松山光は現実に向き合い、現実で自らを大きく成長させていた。――借り物の人格・矢車想を必要としない程に。 さとり「だから私は……あの時、願ってしまった。『もう一度、あの人に――矢車君と、話したい』と。 それが、最も抱いてはならない願いだと知っていながら」
[264]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:17:43 ID:??? ***** 「私は安心しながらも、何だか、居場所が無いという感覚を覚えていました。 そしてそれは、単に彼が成長したからではなかった」 チャリンと音がして、さとり様の手から何かが落ちる。それはゴテゴテしたシルバーの装飾がついた、ネックレスだった。 「フフ……笑えるでしょう、お燐? これ、私が矢車君への手土産として購入したのよ? 人から嫌われる事を厭わないサトリ妖怪が、特定の一人に好意を持って貰いたいと思って、こんな物を買うなんて」 そもそもこんな中二的なデザインのネックレス買うんじゃねーよ貰った人困るだろとか、普段なら突っ込めるだろうに。 自嘲的な笑みを浮かべるさとり様を、あたいは全く笑えなかった。 「だけれど、それは必要無かった。その理由は……」 さとり様はチラリとベッドで伏せる矢車の手元を見る。そこには銀色の指輪があった。 その意味を、さとり様の内心を、誰がそれ以上追求できようか。
[265]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:18:44 ID:??? ***** こいし「現実の松山くんは、藤沢さんって女の子とよりを戻していたんだっけ。 こりゃあますます、矢車さんって存在は過去の物になったと思うよね。お姉ちゃんも。 お姉ちゃんが好きだったヒーローのお人形は、もう要らないって捨てられたようなモンだもの」 さとり「でも、思えばそれが一番決定的な理由だったかもしれない。 松山くんの輝かしい成長を見れば見る程、私の理解者だった矢車君は消えていくような気がして。 ――それは単なる、私のエゴに過ぎないのに」 こいし「松山くんの現実逃避用の一人格に過ぎなかった矢車さんが、お姉ちゃんにとっては大事な意味を持ってたんだよね。 そりゃあ仕方ないよ。――で、この後小説のお姉ちゃんは。そして現実のお姉ちゃんはどうしたのかな?」 さとり「……現実の私は、マンチェスターのGKとして。そして松山君は、ヨークシャーのMFとして。 練習試合を行う機会があった。そこで、私の願望は、こいしを媒介に暴走しました」 小説はいつの間にか、最後のページまで到達していた。さとりはそれを読みながら、彼女の本来の『今』を思い出す。
[266]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:20:23 ID:??? ***** 「私は……あの時の彼に戻って欲しかった。だから、未練がましくも、泣きながら懇願しました。 勿論、彼にとっては、そんな懇願など困るだけだと言うのに。 混乱した私は、やがて矢車君に詰め寄り、争いとなって――」 「それで……矢車は重傷を負ってしまった。って事ですかい……!?」 さとり様は――目に涙を溜めながら頷いた。……それは、悲しい事件だった。 一人の孤独な少女の未練が。光を掴んだ少年への。そして、それを称賛する人間への嫉妬が生み出した悲劇。 普段は口が止まらないあたいですら、目を伏せ俯く事しかできなかった。 しかし。パンドラの箱を開いた後には、希望も残されていた。さとり様は――最後にこう小さく、しかし、力強く呟いた。 「松山君。お燐。……そしてこいし。ごめんなさい。私はもう、過去には縛られない。 この過ちを最後に――私も、光を掴んでみせるから」 (了)
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0ch BBS 2007-01-24