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【追う蜃気楼は】鈴仙奮闘記39【誰が背か】
[259]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:10:34 ID:??? ***** 〜???〜 こいし「そうだよ。矢車さんを殺したのは、お姉ちゃんなんだよ」 不意に声がして、さとりはページを捲る手を止めた。 さとり「……」 暗い室内には、手元に点けられた蝋燭くらいしか光源がなく、 恐らく自分の背後に居るであろう、その姿は見えない。 さとり「……ええ。漸く分かったわ。あんたがずうっと、どこに隠れていたのかも。 そして……私が何故、このイギリスの地で、矢車君に導かれたのかも」 こいし「どうでも良いけどさー、お燐って推理小説のセンス皆無だよねぇ。 大事な情報は書かない割に、自分が書きたいどうでも良い事には紙面を割きまくるし。 エッセイストとか私小説とかまだしも、推理小説を名乗っててこれは最悪だよ」 さとり「それにはついては私も同意見だけれど。……今は、そうした楽しい会話をしている暇はないのよ」
[260]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:11:41 ID:??? さとりは、手元にある小説――いや、そう呼ぶにも本来ならば烏滸がましいレベルの紙束を一心不乱に読みふける。 愛しい妹との再会を祝うよりも、彼女はまず、贖罪を行う必要があったのだ。 さとり「私は……彼に。矢車君に会いたいと思っていた。だけど、それは間違いだった。だから私は――矢車君を殺すしかなかった」 こいし「うん。そうだったね。……でも、お姉ちゃんは自ら手を下す事が出来ず、病んでしまった。 だから、お燐に頼んだんだよね。『お姉ちゃんが矢車さんを殺す筋書きの小説を作る』ことを。 こうしたら、お姉ちゃんは自分の手を汚さずとも、矢車さんを殺す事ができるから。 ほら。話してごらんよ。お姉ちゃんはなぜ、矢車さんを殺したかったのかをさ?」 さとり「…………」 こいしの話す内容に偽りはない。そう知っていたさとりは敢えて何も答えない。 いや。さとりは小説の続きを読む事で、こいしの問いかけに応じようとした。
[261]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:13:20 ID:??? ***** 「そんな、さとり様が犯人だなんて。でも一体どうして、そんな事に……?」 「あの人は……変わってしまったわ」 「ええっ、矢車がですか? こんな迷惑な催しを開いてる時点で充分変わってるというか。 ああいや、前から変わっていないっていうか」 この場の雰囲気を少しでも和らげるため、おどけるようにあたいはそう返してみせるが効果はない。 さとりは違うの、と言う代わりに首を振りながら、こう続けた。 「彼はもう、私の知る矢車君ではなくなっていった。……彼は私達の保護から離れ、人との関わりを思い出し。 ――そして、完全なる調和を愛する好青年へと変貌していたわ」 「完全なる調和……ですか。なんかまた、前とは別な意味で胡散臭いですけど。 でも、……そうか。さとり様は一人で会いに行ってたんですね。事件が起きる前、矢車に」 「ええ……そうよ。そして、事件は……その時に起きました」 さとり様は首肯する。そして、その時のやりとりを回想しつつあたいに話してくれた。
[262]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:15:38 ID:??? ***** こいし「そうそう。イギリス行きが決まったお姉ちゃんは、周囲のサッカー関係者の心を読み取って、 松山くんも一緒にイギリスでサッカー留学してるって事を知ったんだったよね。 で、お燐に内緒でコッソリ会いに行った。なるほどなぁ。現実とリンクしてるんだねぇ、この小説」 さとり「……そうよ」 ページを捲る手を止めないまま、さとりはぶっきらぼうに肯定する。 そうだ。そうでなくてはいけない。そうでなければ、自分は矢車を殺す事など、出来ないのだから。 少なくとも、自分の内心で――しかもお燐にお膳立てして貰った上で殺せなければ、さとりは永遠にこの牢獄から抜け出せない。 さとりは、意を決したまま次のページを読み始めた。 ***** 「やあ、さとりさん。俺の事を心配して来てくれただなんて、嬉しいな」 「……え?」 一人でコッソリ矢車に会いに行ったさとり様は面喰ったらしい。 ボロボロの衣服で隙あらば自分を罰しようとする矢車が……なんか、違う。目の前に居たのは、完璧を愛する、一人の好青年だった。 「ハハ、やっぱり驚くよなァ、前の俺を知ってるさとりさんじゃあ。 でも俺、変わったんだ。あれから全日本に戻り、兄弟……松山と共にサッカーの腕を磨き、 そして一度は嫌われた周囲の信頼を再び取り戻せた。それから、俺は気付いたんだ。 サッカーとは調和……完璧なる調和が無ければ成り立たないってさ」 「そ、そうですか……」 昔みたいに、意味不明な彼をボロクソにけなしてやりたい。そして彼の不器用さと誠実さを理解してあげたい。 そう思っていたさとり様は、彼の成長を前に……少しの安心と、それ以上の寂しさを感じていた。
[263]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:16:41 ID:??? ***** こいし「あっ、ここは現実とは違うね。だって、実際にヨークシャーのクラブハウスに行ったとき、 松山くんは自分の中の矢車さんの人格を取り込んでいたんだからさ。 パーフェクト・ハーモニーがどうとかみたいな性格は一緒だけど、この違いは何を意味しているのかな?」 さとり「それは私の心の弱さ……かしら。私の心の地獄に共感し、同じ視線から歩いてくれる友がもう居ない。 その事実を、受け入れられなかった。 矢車君はまだ、松山君の中に居る。いて欲しい。そんな願望を、お燐は作中に反映してくれたのだと思うわ」 こいし「ふうん。なんかややこしいね」 姉の苦しみに対して、妹はそっけない。しかし、それも仕方がない。 何故ならば―― さとり「矢車君が居ない現実と、矢車君が居て欲しいと願った私の空想。 そのギャップを一度埋めてくれたのが、こいし。貴女の存在だった」 こいし「そうだよ。私はイマジナリーフレンドの妖怪。心の弱かった松山くんが、自身の中に孤独なヒーローを生み出したように。 お姉ちゃんは、自分のヒーローだった人の抜け殻に、再び自分のヒーローの役割を被せようとしたんだよね。 勿論、そんな事は到底できないんだけど。この私が居るなら話は別だもん」 小説と違い、現実では松山光は松山光であり、矢車想など存在しなかった。 当たり前だ。ここが幻想郷であるならともかく、人間の少年の願望がこの外界で形を取れる筈がない。 しかも、松山光は現実に向き合い、現実で自らを大きく成長させていた。――借り物の人格・矢車想を必要としない程に。 さとり「だから私は……あの時、願ってしまった。『もう一度、あの人に――矢車君と、話したい』と。 それが、最も抱いてはならない願いだと知っていながら」
[264]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:17:43 ID:??? ***** 「私は安心しながらも、何だか、居場所が無いという感覚を覚えていました。 そしてそれは、単に彼が成長したからではなかった」 チャリンと音がして、さとり様の手から何かが落ちる。それはゴテゴテしたシルバーの装飾がついた、ネックレスだった。 「フフ……笑えるでしょう、お燐? これ、私が矢車君への手土産として購入したのよ? 人から嫌われる事を厭わないサトリ妖怪が、特定の一人に好意を持って貰いたいと思って、こんな物を買うなんて」 そもそもこんな中二的なデザインのネックレス買うんじゃねーよ貰った人困るだろとか、普段なら突っ込めるだろうに。 自嘲的な笑みを浮かべるさとり様を、あたいは全く笑えなかった。 「だけれど、それは必要無かった。その理由は……」 さとり様はチラリとベッドで伏せる矢車の手元を見る。そこには銀色の指輪があった。 その意味を、さとり様の内心を、誰がそれ以上追求できようか。
[265]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:18:44 ID:??? ***** こいし「現実の松山くんは、藤沢さんって女の子とよりを戻していたんだっけ。 こりゃあますます、矢車さんって存在は過去の物になったと思うよね。お姉ちゃんも。 お姉ちゃんが好きだったヒーローのお人形は、もう要らないって捨てられたようなモンだもの」 さとり「でも、思えばそれが一番決定的な理由だったかもしれない。 松山くんの輝かしい成長を見れば見る程、私の理解者だった矢車君は消えていくような気がして。 ――それは単なる、私のエゴに過ぎないのに」 こいし「松山くんの現実逃避用の一人格に過ぎなかった矢車さんが、お姉ちゃんにとっては大事な意味を持ってたんだよね。 そりゃあ仕方ないよ。――で、この後小説のお姉ちゃんは。そして現実のお姉ちゃんはどうしたのかな?」 さとり「……現実の私は、マンチェスターのGKとして。そして松山君は、ヨークシャーのMFとして。 練習試合を行う機会があった。そこで、私の願望は、こいしを媒介に暴走しました」 小説はいつの間にか、最後のページまで到達していた。さとりはそれを読みながら、彼女の本来の『今』を思い出す。
[266]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:20:23 ID:??? ***** 「私は……あの時の彼に戻って欲しかった。だから、未練がましくも、泣きながら懇願しました。 勿論、彼にとっては、そんな懇願など困るだけだと言うのに。 混乱した私は、やがて矢車君に詰め寄り、争いとなって――」 「それで……矢車は重傷を負ってしまった。って事ですかい……!?」 さとり様は――目に涙を溜めながら頷いた。……それは、悲しい事件だった。 一人の孤独な少女の未練が。光を掴んだ少年への。そして、それを称賛する人間への嫉妬が生み出した悲劇。 普段は口が止まらないあたいですら、目を伏せ俯く事しかできなかった。 しかし。パンドラの箱を開いた後には、希望も残されていた。さとり様は――最後にこう小さく、しかし、力強く呟いた。 「松山君。お燐。……そしてこいし。ごめんなさい。私はもう、過去には縛られない。 この過ちを最後に――私も、光を掴んでみせるから」 (了)
[267]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:21:33 ID:??? ***** 実況「お〜〜っと! これは一体どうした事か!? 新技『パーフェクトイーグルショット』で貴重な1点を挙げた松山選手、突然頭を抱えて苦しみだす! そして不思議な事に、その身体まで大きく変化して……!?」 矢車「今。俺の事を笑ったのは誰だ……?!」 咲夜「!? あれは、地霊殿サブタレイニアンローゼスに居た飛蝗の妖怪……!」 さとり「……ぁ。矢車、君。私……もう一度、話……し……」 フラリ……バタンッ! お燐「さ、さとり様っ!? どうしてあの人がこんな所に……って、さとり様ーっ!?」 実況「そして同時に、今しがたゴールを奪われたさとり選手も倒れる! 審判が笛を吹いたため、 試合はハーフタイムとなりましたが、一体、大丈夫なのでしょうか〜〜!?」 矢車「俺は……光を認めない。真っ暗闇の地獄の中で、薄汚く永久を生きる。さとり……お前は俺の妹になれ……」
[268]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/06/25(日) 19:23:39 ID:??? ――そうだ。 そうだった。 自分の心を投影した薄暗い牢獄の中、さとりは漸く思い出した。そして、強く自覚した。 さとり「小説では、私は矢車君を殺す事が……彼への未練を断ち切る事ができた。 だけど……私は、現実の矢車君も、殺す必要がある。次はお燐の小説でじゃなく、自分自身の手で……!」 こいし「――お燐は頑張ってくれたよ。心も読めないのに、誰よりもお姉ちゃんの事を良く知っているから。 だから、お姉ちゃんの心を映した小説を書く事が出来た。……文才はないっぽいけど。 でも、それだけじゃあ、お姉ちゃんの無意識に潜む未練は倒しきれなかった。 だからやっぱり――最後は、お姉ちゃんが矢車さんを殺してみせて!!」 さとり「ええ。……どうやらお燐には、どうやら大きな借りが出来たみたいね」 こいし「お姉ちゃん。今、試合は前半終了時点で0−1。 味方にはお燐と、紅魔館の助っ人が居るけれど、やっぱり矢車さんはメッチャ強い! GKのお姉ちゃんが頑張らないと、この試合負けちゃうし。 矢車さんも……私も、ずっとこのままになっちゃうかも! だから……頑張って!」 こいしの――妹の呼びかけがだんだんと薄くなり。 自分の未練という身勝手な動機から妹を犠牲にし、矢車を生み出した自分を罰する為に造った牢獄は、 少しずつ白んでいく。 さとり「何が……『俺は自分を罰する事にした』……ですか。自分で自分を鎖に縛って自己満足だなんて。 ――キモいんですよ。自分を罰するんだったら、自分の殻に籠るんじゃなくって……!」 ……光を掴んだ一人の少年の為にも、妹の為にも、さとりは自分の罪を、自ら罰しなくてはいけない。 しかしそれは、牢獄で小説を読むという逃避であってはならない。 さとり「私は戦います。そして……光を掴んでみせる! 小説ではなく、この現実世界で……!」
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0ch BBS 2007-01-24