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【追う蜃気楼は】鈴仙奮闘記39【誰が背か】
[336]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:34:28 ID:??? 根は生真面目で融通が利かず、組織の和に従ってはいるが上には決して媚びを売らない。 天狗にしては珍しいタイプの彼女は、『特命任務』と称し、必要なのかどうか分からない業務に従事させられる事が多かった。 彼女が今こうして、11歳の少年と戯れているのも、その業務の一環だった。 アヤソフィア「(『アヤソフィア・アントゥーナ・コインブラ。18歳。病気がちの養父と、 未だ幼い弟の生活費を稼ぐために新聞配達とバーのアルバイトをこなす傍ら、 ジャーナリストを目指して写真と記事を編集社に寄稿しては落選している。』 ……何なのよ、この設定)」 幻想郷を離れた外の世界には当然、天狗など存在しない。 万一存在したとしても、幻想が科学によって否定されたこの世界において、 幻想郷の内部と同じような神通力を発揮できる訳がない。 このブラジルの地において、誇り高き天狗である射命丸は、その設定通り、 ただの18歳の人間の小娘として、情報を仕入れ大天狗達に報告せざるを得なかった。 アルツール「くらえ、『マッハシュート』!」 グワァァッ! バギュウウウンンッ! キラキラキラッ……シュンッ! アヤソフィア「なにィ!? ボールがきえた!?」デデデデデン!←2の初マッハシュートの時の演出SE ……そのため、彼女は『設定』に準じる必要がある。そうでなくては怪しまれ、 怪しまれれば自らを守る術はなく、自らを守る術がなくては、他に守ってくれる者もいないからだ。 アヤソフィアは弟思いの姉という設定に忠実に、楽しげに笑いながら弟のサッカー遊びを見守っていた。
[337]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:36:59 ID:??? アルツール「……なあ、アヤお姉ちゃん。俺、スーパーストライカーになれるかな。親父が昔そうだったみたいにさ」 アヤソフィア「ええ。勿論できますとも。私が仕込んだ『高速ドリブル』も、『スピードタックル』も。 弟くんはあっという間にモノにしてしまいました。……この年齢で、です。 きっと、10年後……ううん、それよりもっと早くには、間違いなくプロ入りしてるでしょう」 アルツール「あたり前だっての! その位じゃねーと、むしろプロじゃやってけないぜ!」 アヤソフィア「おやおや頼もしい。ですがそれも、きちんとした日々の努力あってこそ、ですよ。 そうでなければ、折角の才能も台無しですから」 アルツール「それも分かってるってば! んもー、お姉ちゃんまで親父と同じ事ばかり言うんだからな!」 幻術をもって、ごく平凡な貧しい家庭に紛れ込んだアヤソフィアだったが、 偶然にも、この家庭が特別なものであった事を悟ったのは暫くしてからだった。 アヤソフィア「(伝説のスーパーストライカー・ジャイロ……そして、その養子アルツール。 彼らのサッカーに関する素養は間違いなく最高であり、天才的。 それこそ、人間の身でありながら鬼や天狗の域にまで達し得る程に)」 アヤソフィアの養父という設定の壮年男性は、現在こそは体調を崩しがちではあるが、 かつては国内きってのストライカーであり。そして、その養子もまた、彼の教えの元で高い基礎能力を有していた。 天狗としての能力の殆どを失いつつも、足の速さには自信のあったアヤソフィアだったが、 それを自慢した数日後、アルツールはその足の速さを活かしたプレーを全て自分の物にしていた。
[338]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:38:13 ID:??? アルツール「――俺。アヤお姉ちゃんにはホントに感謝してるんだ」 アヤソフィア「……あや?」 ――ある日、強気な彼が珍しくそう漏らした事がある。 この奇妙な姉弟関係が始まってから、恐らく数か月程が経った頃だろうか。 その日は確か、フラメンゴのデンチ・デレイチ部門の入団テストを翌日に控えた日 ――つまり、アルツールがフラメンゴのデンチ・デレイチに入団してから、1年が経とうとしていた時だった。 アルツール「……俺、チームに入ってばかりは、全然サッカーが楽しくなかったんだ。 皆、俺がうますぎるからって、化け物を見るような目で見てさ。 友達も一人も出来なかったし、それに、上手くできても誰も褒めてくれなかった。 親父は居たけど、体調を崩しがちだったからグラウンドまでは来てくれなかったし」 アヤソフィア「(そう……でしたね)」 アヤソフィアは良く知っている。この家の養女として彼と初めて出会った時の寂しい瞳を。 望まないにも関わらず他者から疎んじまれ、友人を失い続けて来た、人を信じる事のできない孤独な光を。 そんな彼と、上司から疎まれ閑職を強いられる自分とに、都合の良い共感を覚えただけだったのかもしれないが。 ――彼女は、何時の間にか、設定ではなく心から、アルツールを弟として案じるようになっていた。 アルツール「だけど。アヤお姉ちゃんが来てからは変わった。相変わらずチームの皆とは上手くいかないけれど。 でも、サッカーで上手く行ったら、誰よりも喜んでくれたし、上手くいかなかったら一緒になって悲しんでくれた」 アヤソフィア「上手くいかなかったとき……ああ、先月の試合でしたか。確かにあの時は、失敗が多かったですねぇ」
[339]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:39:54 ID:??? アルツール「アイツら、その時はもっと酷かった! 普段は俺が上手くて文句を言うくせに、いざ失敗したら馬鹿にしやがる! 『アルツールって案外大したことなくね?』って笑って来やがるんだ! 本当に殴ってやろうかと思った!」 アヤソフィア「でも、それで殴らなかった弟くんは立派でしたよ? 私は腹が立って『やめろォ!』って連呼してましたけど」 アルツール「ハハハ……。でも、俺が殴らなかったのは、そうやってアヤお姉ちゃんが代わりに怒ってくれたからだよ。 自分は一人じゃない。誰かが自分の傍に居てくれるんだって。 ……そう思うだけで、サッカーが楽しいって思えるようになれた。本当だよ。 あと、お姉ちゃんが親父の面倒を見てくれるお蔭で、体調も良くなったって言ってたし。 今度の試合があれば、自分も俺の活躍を見に行きたいって言ってくれた!」 アヤソフィア「(本来、この少年と私は関わりあう事は無い。彼は現実に生き、私は幻想に生きる身だから。 もしも、私という幻想が無ければ、彼はきっと潰れていたかもしれない。いや、彼だけじゃない、彼の養父も……。 ――だから、これはきっと、良かった事なのよね)」 そして、アルツールもまた、アヤソフィアの影響を受け、本来の真っ直ぐで素直な少年へと戻りつつあった。 彼の才能への妬みからくる陰湿な虐めは続いていたが、それを理由をサッカーを嫌いになり、 力を得る事に対し虚無感を抱くような事態にはならないでいた。 アルツール「明日、入団テストなんだ。……俺と同い年や年下、ひょっとしたら年上の奴が、 新しくチームに入ってくると思う」 アヤソフィア「入団テスト、ですか。弟くんは、去年のテストで合格したから……後輩ができるんですね?」 アルツール「後輩とか、そんなんは関係ないって。実力があるヤツが無いヤツよりも上ってだけで、 年齢は、デンチ・デレイチとかジュベニールとかを分けるだけでしかないし」 アヤソフィア「うーむ。そんなもんなんですねぇ」 アルツール「そんなもんだって。シロートは口突っ込むんじゃねえよ。 そもそもデンチ・デレイチって言っても一言では言えなくてだな……」
[340]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:41:10 ID:??? 年頃の少年らしい生意気な口調で、アルツールはアヤソフィアにブラジルサッカー界について 講釈を垂れようとしている。本当はアヤソフィアも事前知識として仕入れている情報が多かったのだが、 寡黙だった彼が、熱っぽく好きな事を話している横顔を見ていると、止める気がしなくなっていた。 アルツール「……って事だから、プロって言っても大多数は上手くいかないんだ。 勿論、俺はその中でスーパーストライカーになってみせるけどな」 アヤソフィア「ふふ。……そうですか。期待していますよ (流石にその頃には、私も任務完了で幻想郷に戻っていると思うけどね……)」 アルツール「お、おう……」 アヤソフィアは少しだけ寂しそうに微笑むが、アルツールは気にしていないようだった。 いや……正確に言えば、これまで色々と話しているのも、気にしている別の『何か』を、意識して隠しているようだった。 そして、これまでの短い姉弟関係からでも、アヤソフィアはそれが何であるかを理解していた。 アヤソフィア「……トモダチ、出来ると良いですね」 アルツール「……んなっ! そ、そんなの何も思ってねーし!!」 ――純粋な悪戯心から、その内容を呟いてみる。明らかに顔を真っ赤にした事から、図星のようだった。
[341]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:42:43 ID:??? アヤソフィア「あやや、そんなに恥ずかしがる事じゃあないですよ。トモダチってのは大事なモノですから。 共に同じ道を行き、途中で道を違えても互いを尊重し合い。例えぶつかり合う事があろうとも。 最後にはきっと、必ず同じ頂を仰ぎ見る事ができるような。 ……そんなトモダチが、弟くんにも出来ればいいなって、お姉ちゃん思いますよ?」 アルツール「できねーよ、そんなモン……」 アヤソフィア「あれあれ? 何を根拠にそう『できない』って決めつけてるんです? 『できない』って決めつけるのはザコの特徴って言ってたのは、どこのどなただったかしら? ねぇねぇ、未来のスーパーストライカー様はご存じですかー?」 アルツール「……う、うるさいうるさい! 当たり前だ! トモダチの一人や二人くらい、作ってやらぁ!」 大人ぶる事が多いアルツールだったが、やはりこの辺りは年相応の子どもだ。 アヤソフィアは噴き出すのを堪えながら、よしよしとアルツールの頭をくしゃりと撫でてあげて。 アヤソフィア「それなら安心ですな。明日は迎えに来ますから、是非とも紹介してくださいね? 弟くんの、はじめてのオトモダチ」 アルツール「お、おう! そんなの楽勝だっての、いちいち頭撫でんじゃねー!」 強がる弟の幸せを純粋に願いながら、明日の入団テストの会場へと向かうのだった。 新しいオトモダチと一緒に使える、新品のサッカーボールを鞄に詰め込んで。 この日からすぐに、アヤソフィアは知る事になる。彼に初めてのオトモダチが出来た事を。 彼が真に心からサッカーを愛する少年へと生まれ変わった事を。
[342]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:43:56 ID:??? そしてアヤソフィアは知らずして、勅命により幻想郷へと戻る事となり。 ――奇しくも再び訪れたブラジルの地にて遅れて知る事となった。 彼が、その愛するサッカーにより、奪われてしまったという残酷な事実を。 上司の勅命により、アヤソフィアがブラジルから幻想郷に戻ってから2年後。 政争鳴り止まぬ国内においては日常茶飯事であるため、小さくではあったが、 新聞各社はこのような見出しの記事を書いていた。 「フラメンゴの天才サッカー少年、暴徒に押され交通事故! 重体となり意識回復は絶望的」
[343]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:45:44 ID:??? 〜回想シーン終了〜 カルロス「……あまりに忌々しい記憶だったから、俺はずっと口に出さないようにしていた。 サンタマリアは勿論、ジェトーリオですらも、この事は話題に上げた事がない。 だが、俺は知っている。……アルツールは――俺の親友は、アーサーお姉ちゃんが言う、 『案外大したことなくね?』というフレーズと共に、奪われたと」 アヤソフィア「――私がそれを知ったのは、つい半年前。二度目の機会としてブラジルに訪れた時の事でした。 6年前、突然の勘当という体で飛び出した私の真意を、ジャイロさんと弟くんは 気付いていたのかもしれない。もしそうなら、もう一度会いに行きたい。 そう願って懐かしのスラム街を抜けた先にあったのは、既に売りに出された廃屋でした」 鈴仙「…………」 アヤソフィア「『あの天才のアルツール君の事だ、きっと既にトッププロ入りして、高級マンションにでも住んでいるに違いない』 『惜しくもサッカーを諦めて、その代わり安定した職を見つけて細々と働いているに違いない』 『もしや、ホームレス寸前の生活をしながら、賭けストリートサッカーと無銭飲食で食いつないでいるのかもしれない』 ――調べれば調べる程、私の都合のいい幻想は消え失せていきました。 まず、フラメンゴにもどこのチームにも、アルツール・アンチネス・コインブラという選手は所属していない。 サンパウロ市のどこの企業にも、同名の職員は勤務していない。 浮浪者や好ましくない連中にすら聞いてみましたが、彼という痕跡はどこにも見当たらなかった。 その中で見つけたのが、アルツール君が試合に負けて暴徒化したファンと揉み合いになり、 交通事故に遭ったというニュースでした。……今も、市内の病院で植物人間状態となっています」 カルロス「………………」 その事実を改めて確認し、表情を一層暗くしたのはカルロスだった。 彼は一歩前に躍り出て、半ば懇願するようにアヤソフィアににじり寄り、 カルロス「アーサーお姉ちゃん。もしあなたが弟を失った事への復讐を望んでいるとしたら。それは俺に対してやってくれ!」
[344]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:47:49 ID:??? 土下座に近いポーズすら取って這い蹲り、カルロスは涙でフィールドを濡らす。 サッカーサイボーグとすら呼ばれ、冷静で大人びた立ち振る舞いが特徴的なカルロス・サンターナらしからぬ、 気弱で、孤独で、自信の持てない平凡な少年のような仕草だった。 アヤソフィア「……記事には、『同年代での1位を決める重要な試合で、エースストライカーの選手がミスを連発。 それに対して『案外大したことない』と煽り立てる一部のファンに対し、アルツール君が『やめろォ』! と、噛みついた事により、事件が起きた』と書いてあります。――カルロス君。貴方の事だったんですね」 カルロス「そうです! だからアルツールも……アーサーお姉ちゃんも誰も悪くない! 無論、一番悪いのは暴徒と化したファンだったとしても、……失敗をしたのは俺なんです! だから、もうそんな冷たい瞳をするのは止めてほしい!!」 全てのプライドをかなぐり捨ててでも泣きはらすカルロスに対し、アヤソフィアは――。 アヤソフィア「大丈夫ですよ。カルロス君は何一つ悪くありません。全力を尽くしたって、失敗する時だってありますし。 それで私が、貴方がしくじったせいで弟くんが事故に巻き込まれた、だなんて言う訳がないでしょう? むしろ、感謝さえしています。 ……フラメンゴでずうっと、弟くんの――アルツール君の親友として居続けてくれたのですから」 ――と、恐らくは過去に良く見せていたのであろう、柔らかく穏やかな笑みを浮かべた。 想定していなかった反応に対し、カルロスは一旦冷静さを取り戻す。 カルロス「……では、当時のファンを憎んでいる、と? 確かにあの一件がショックとなり、 アルツールの養父も体調を大きく崩し、昨年には亡くなってしまったが……」 アヤソフィア「ファンの方も、仕方ありません。好きな物を全力で応援したい気持ちは分かりますし、 もう既に遺族への謝罪や賠償など、然るべき措置は取られたと記事にもありました。 それ以上、私刑を加える気もありませんよ」 カルロス「……分からない。では一体、アーサーお姉ちゃんは何を恨んでいるんだ? ずっとブラジルに居れない事情があったとはいえ、どうして今になってさえ、そんな暗い瞳をしているんだ!?」
[345]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:49:47 ID:??? 鈴仙「………あんた、まさか」 ――カルロスとアルツールを巡る過去については何も言えない鈴仙だったが、 会話が核心に近づくにつれ、自分の知る情報と、最近のアヤソフィアの影とが、 これまで提示された過去と組み合わさり、パズルのようにピタリと当てはまる感覚を覚える。 鈴仙「……あんたはこれまで、『案外大したことない』などと馬鹿にするファンの心無い感情を浴び続けて来た。 日本で。幻想郷で。ブラジルで。自分自身に対して。自分以外の人に対して。 マイナスの感情が理不尽に叩き付けられる光景を、何度も見続けて来た!」 アヤソフィア「………」 今度はアヤソフィアが黙る番だった。彼女は小さく頷き、鈴仙に続けるよう促した。 鈴仙「でも、あんた自身に掛けられる声については、あんたは仲間の手を借りながらも乗り越えて来た。 だけど、ブラジルの地で、あんたはこれまでを超える、どうしようも無い理不尽を知った。 辛い目に遭いながらもサッカーを愛し続けた少年が、サッカーが引き起こした感情に殺された事実を知り。 根は生真面目なあんたに、黒い決意を抱かさせるに至った。つまりそれは――」 ここで、アヤソフィアが手を翳して制する。 鈴仙が続けようとした目的の正体を、アヤソフィアは自らの口で語った。 アヤソフィア「……そう。全ての元凶は、『サッカー』というスポーツがあるからこそ起きた。 サッカーさえ無ければ、才能と愛を併せ持つ者が虐げられる事がなく。 そして、理不尽な罵声も、理不尽な暴力からも逃れられるのです。 私は、『サッカー』そのものを憎みます。愛を向ける者に対して唾を吐き、愛無き者への暴力を促すサッカーを。 私は、この手で葬り去ろうと考えているのですよ……!」
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0ch BBS 2007-01-24