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屁理屈推理合戦withキャプ森2
[149]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:23:24 ID:??? その上、反則を取った筈の園児は、ゴールを決められなかった悔しさや押された時の痛さで、 所かまわずわんわんと泣きだしてしまう。保母さんは必死にあやし付けるが、言う事を聞いてくれない。 保母さん「困ったわねぇ……。反町さん、次のフリーキック、貴方にお願いできるかしら? この子、いつも泣き出したら中々止まらないのよ」 反町「え、俺がですか!? 別にまあ、良いですけど……」 ――そこで、反町に白羽の矢が立ったのである。 形式的には試合に参加していた反町だったが、大分手を抜いていた上に、 怪我の恐れがあるシュートは封印して来たが故に、腰が引けてしまう。 保母さん「良かった。この子も他の皆も、日本代表のサッカー選手のシュートが見れたら、 きっと凄い凄いって喜んでくれると思うから。よろしくお願いしますね?」 反町「は、はぁ……(日本代表って……俺、ワールドユースにすら出れてないんだけど……)」 サッカーについてどこまで詳しく分かっているのかすら怪しい保母さんに従って、 反町はペナルティエリアの少し手前にボールを置き、フリーキックに備える。 ライバルの子ども達は11人全員で壁を作ろうとしているが、背の低い子どもが作る壁など、たかが知れている。 反町「(どうしよう。軽〜いループシュートを撃つにして、わざとポストか枠外にしといた方が良いのか……)」 保母さんはああ言ったものの、何かが起きた場合に責任を取るのは自分だし、 そもそも保育園児相手に全力になるのもばかげている。そう考えて緩く右脚を振り上げようとした反町だったが――。
[150]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:25:57 ID:??? サトリーヌ「……………」 ギンッ! ゴールマウスでシュートに備えている小柄な幼女は、そんな反町の考えを見透かしたかのように、彼を強く睨んでいた。 反町「(……あの子。さっきメイドさんが言っていた子だったな……小さいのに、凄い眼力だ……)」 そう意識を向けると、サトリーヌは反町に対して幼い敵意をますます強く発信する。 私を侮らないで下さい。彼女は反町の心を読んだ上で、そう言っているように思えた。 ――お嬢様は意固地で諦めないのです。 彼女のメイドが、幼き主をそう評している理由が、今はよく理解できる。 そして同時に、かつて敵として対峙し、肩を並べ、今や遥か彼方の高みに居る男の名を、反町は思い出す。 反町「(……諦めない、か。まるで森崎みたいだな。あいつも保育園児だか幼稚園児の時から、そうだったのかな)」 そいつは、自分とまるで正反対だと思った。 サッカーの名門・東邦学園のホープとして温室育ちだった自分と、当時は無名の南葛SCから這いあがった森崎。 日向に対して屈服し、その舎弟と成り下がった自分と、その牙を力づくで引っこ抜き、自らの天下取りの礎とした森崎。 全日本のナンバーFWとして一定の位置に居た筈が凋落し、ワールドユースでは選抜すらされなかった自分と、 若島津・若林というライバルに蹴落とされる危機を乗り越え、不動の正GKとして輝き続けた森崎。 ――その大きな違いは何だったのか? 反町はこの違いが分からずにずっと苦しんで来たが、今、自分よりもずっと幼い少女の眼差しを見て、はっきりと分かった。 ……試合前にちくりと抱いたあの自嘲こそが、自分の停滞の正体だったのだ。
[151]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:27:04 ID:??? 反町「(そう。俺はいつでも諦めていた。……自分ではクレバーな紳士を気取っていたが、 全日本や世界という戦場の中では、俺は単なる臆病なチキン野郎だった。 こんな小さな子すら出来る覚悟を、俺はずっとずっと、諦めて、保留して、後回しにし続けていたんだ……!)」 そして、自分は今も、世界の舞台で活躍する事を諦めて、JSLからのスカウトの声を保留し、 自分はどう在りたいか、という問いについて後回し続けている。 反町「(――三杉のような天才ですら、手術とリハビリに費やした3年の壁は分厚いと嘆いていた。 だとしたら、俺が諦め始めた、全国サッカー大会からの5年以上の壁はもっと分厚いだろうな。 ……だけど、だからと言って嘆いてちゃいられない、か)」 サトリーヌ「………………」 彼の逡巡を知ってか知らずか、ゴール前に立つサトリーヌは不敵な笑みすら漏らした。 反町もいつの間にか、笑っていた。他者に合わせる為の愛想笑いでは無い、こんな爽やかな笑い方をしたのは、 果たして何年ぶりだっただろうか。 ――彼は、自分の眼前に立つ小さくて大きく分厚い壁に、挑戦を始める事にした。 反町「……さあ、これからが本番だ!」 グワァァァァァァァァァァ……ッ! 彼は思いっきりその右脚を振り上げる。普段夢想しているような、魔王の如きキレは無い。 破壊的な威力も速度も技術も無い。しかしそれは、彼にとって乾坤一擲の一撃だった。 反町「(これは、恐怖の記憶(トラウマ)から目覚めて起き上がった俺の、初めてのシュート……!)」 反町が放とうとしていたシュートは、これまで公式試合でも一度も見せた事は無い。 自分では到底成功しないと思っていたし、無理に使わずとも大学サッカー程度では充分に活躍出来たからだ。 また、これは反町にとって、森崎と同じ位に畏敬の念を抱く選手の代名詞たる技だった故に、 自分如きが使いこなせる筈はない、という諦観が残り続けていたシュートでもあった。 ――しかし、今の自分ならば問題ない。むしろ、誰も注目されない中での新たな一歩を踏み出すに相応しい。
[152]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:28:34 ID:??? 反町「――いくぞ。これが俺の……『ドライブシュート』だぁぁぁッ!」 バッ……ドゴオオオオオオオオオオオンッ! ――ギュウウウウウウウウウウウンッ……! サトリーヌ「…………!」 保母さん「えっ、ええっ……! まさかミスキック?! なんかすごーい高い場所にボールが飛んでるんだけど……!?」 ……反町が満を持して放ったシュートは、今の世界トップクラスのサッカーを知る者にとっては取るに足らない。 何のひねりもない、ただの『ドライブシュート』。 黄金世代の活躍はあっても、未だその中身への理解が乏しい今の日本では珍しがられるかもしれないが、それだけ。 世界では下位クラスのストライカーである新田よりも更に下位のキック力しか持たない反町が放ったところで、 脅威になるのは精々国内と、アジアでも下位クラスの一部チーム位だろう。しかし。 ギュウウウウウウウンッ、ゴオオオオオオオオオッ……! 園児たち「えー!? うそーっ!?」「ボールが急に落ちて来る!!」「とりさんみたい!」「まおうだ! これまおうだよ!」 「これしってる! りょうじょくせいさんきっていうんだよ! まえテレビでみすぎがいってた!」 ――生まれて初めてドライブシュートを間近で見る3、4歳児相手には、 これはまるで御伽噺の魔王が使った、魔法のシュートのように見えているようだった。 子ども達はまるでシュートをUFOか何かのようだと思って、ブロックしようとする発想すら浮かばない。 高空からドライブ回転と共に急降下するシュートは、11人もの壁を易々と飛び越えて。 サトリーヌ「……止めますっ!」 サトリーヌも短い腕を懸命に伸ばすが、当然の如くにシュートには届かない。 反町と近い年代の少女であったならばともかく、彼女はあまりにも幼過ぎた。 スカッ! ……バスッ。 ――ピピイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
[153]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:30:45 ID:??? 反町「……決まったか(蹴り損じだったけど、まあ保育園児が相手なら、俺でも決まるのも当然か……)」 前人未踏の11人抜きゴールを決めた反町は、苦笑いでホイッスルの音を聞く。 幾ら自分の実力が世界では取るに足らないものであっても、 幼児達の世界では、多少の蹴り損じをしても、確実にゴールを挙げられる。 そんなごく当たり前かつ滑稽な事実を前にして笑える程、反町は子供では無かった。 園児R「え、えぇ……そりまちがゴールをきめてる?」 とはいえ、当の子どもにはそうした反町の微妙な気持ちは理解できない。 11人を抜いた奇跡的なゴールを前に、始めは茫然としていた味方や敵、 そして観客だった子ども達は揃って湧き始める。 園児M「すっごーい! わたしワイルドなおとこのひとががタイプなの! そりまち、だいて!」 園児S「みのりこちゃんずるい! じょうしきてきにかんがえて、そりまちさんのかれしはわたしですっ! だいて!」 園児F「いやー、あついシュートだったねぇー! だいて!(←よくわかってない)」 園児R「ふ、ふんっ……! そりまちはエースのつぎにすごいね。 だいて!(←よくわかってない)」 園児?Y「生ぬるいわね。この試合50点差を目指しましょう。抱いて!(←園児サッカー界を凌辱したい)」 反町「は、ハハ……抱いて、って。今どきの子はマセてるんだな……」
[154]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:31:59 ID:??? ――キャッキャッと、反町の回りで園児がはしゃいでいる。 一部は対抗心を燃やす子も居たが、彼の熱いシュートは間違いなく、園児たちの心を掴んだのだ。 始めは「誰?」と言った風の園児達も、今は全員が疑いなく、反町を「すごい人」だと信じて疑っていない。 保母さん「いやー、やっぱり日本代表は凄いんですねぇ。私、次のワールドカップも期待してますよ! やっぱり日向社長とのツートップの相方は、反町選手なんですもんね? だってこんなに凄いシュートが打てて、大学サッカーでも得点王の常連らしいですし!」 反町「い、いや、それは……(ワールドカップだって? ベンチ入りはおろか、出場だって怪しいってのに……)」 そしてそれは、反町にとっては本来あり得ない、過剰すぎる評価である事を自分自身が良く知っていた。 だからこそ、目を輝かせて本気で的外れなエールを送ってくれる保母さんの言葉にも素直に頷けない。 頷けないが故に、反町は淡々と正論を口にする。 反町「……いや。世界の壁は厚いです。今俺が子ども達に見せたドライブシュートだって、 強豪国では小学生や遅くても中学生になると、もう使えて当たり前。 そして大学生にもなってようやくこれを習得した俺は、世界の場では、それこそ幼稚園児レベルだ。 日向――それに森崎、翼、三杉、若林、岬、松山、葵……。 日本代表をしょって立つ奴らは、それに早々に気付いていたから世界で戦えたけれど、 いつまでも大学サッカーという、井の中の蛙でノンビリしていた今の俺は……奴らと、世界と戦う資格は無い」 保母さん「反町……さん?」 愛想笑いでお茶を濁す事が上手い好青年は居ない。 彼女の前に立っているのは、温厚で気弱な、頼りない一人の男だった。 ――だが、今の彼を支配するものは、そうした弱さだけではない。
[155]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:37:59 ID:??? 園児R「つぎはエースのばんだよ! そりまち、つぎはわたしにボールまわしてよね! ねぇ、きいてるのそりまち!」 反町「……ああ、聞いてるよ」 周囲でも一番威勢の良い女の子――保護者席で父親が申し訳なさそうにしている――の頭をくしゃりと撫でながら、 反町は意を決したように、子ども達に向かってこう宣言した。 反町「分かったか。これが魔王の実力だぞ! 皆悔しかったら11人でも22人でも壁を作って止めてみせろよ? でないと10−0で惨敗して、国辱扱いされて酷〜い目に遭うんだからな! ――さあ、これからJSLに挑戦して、そこから世界を目指すこの俺、反町……いや。大魔王、ソリマチ卿のエサとなるが良い!」 園児たち「…………うわーーーっ!」「きゃははは! まおうだってー!」「わーい、まおうだまおうだー!」「にげろー!」 今は、子ども達の間だけの魔王かもしれない。だけど、いつかは俺だって――。 彼は内心で決意しながら、懐き始めた子ども達と共にピッチを駆けまわる。 その目標はあまりにも遠く困難である事は勿論分かっている。それでも、反町は……少なくとも、諦めない事にした。 サトリーヌ「……ふふ」 子ども達とじゃれあいながら魔王を演じる反町を前に、ゴールキーパーの少女は大人っぽく微笑む。 まるで、それが彼女の目的であったかのように。心すら読み取りそうな深い彼女の眼差しは、 既に反町を離れ、秋空の眩しいサッカーコートへと向いていた。 反町「(明日、大学に休学届を出そう。そして……漕ぎ出そう。甘ったるい幻想の世界から、辛く、厳しい現実へ。 正直嫌だし辛いし怖いけど……だけど。諦めないでいよう。あの子のように。森崎のように。……世界で戦う奴らのように。 それから、また新しい幻想を作るんだ。俺だけじゃない、現実の皆を沸かせるような、新たな魔王の幻想を……!)」 現実の反町一樹は、ソリマチ卿のような完全無欠の魔王ではない。 しかしだからこそ、傷つきながらも成長し、新たな幻想を創る事が出来る。 今日は彼の、新しい旅立ちの日となった。 ********************************
[156]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:52:13 ID:??? ……と、言ったところでソリマチ卿のエピソードはこれで終了です。 真相描写はちょっとしたネタにするつもりが、力が入って17.5kbまで膨らんでしまいましたw 本スレエンディング後の反町くんに明るい未来があれば良いなぁ、というifのつもりです。 次の更新は未定ですが、流石にそろそろ鈴仙スレの続きをやりたいなぁと思っていますので、 また気長に参加等して頂ければ幸いです。ゲームに御付き合いいただき、ありがとうございました。
[157]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/10/05(木) 00:54:22 ID:??? 読み返して気付きましたが、>>154で反町が選手名挙げてるシーン、 我らが中山さんの名前が無いのはおかしいですね(滝汗) 申し訳ないですが脳内保管をお願いします…
[158]森崎名無しさん:2017/10/05(木) 00:56:56 ID:??? 乙でした! どん底の反町を救ったのは彼の憧れを救ったのと同じ次世代の笑顔だった……いやはや感慨深い 虚構の魔術師、ソリマチ卿がますます好きになりました
[159]森崎名無しさん:2017/10/05(木) 01:06:50 ID:??? 乙なのです シュート魔王ではなかろうと、我らのソリマチ卿を讃えるのだ乙
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0ch BBS 2007-01-24