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【赤と8ビットの】キャプテン岬【物語《ロマン》】
[325]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:10:26 ID:4HTfgGS2 見慣れぬ外国人の相手に戸惑う態を見せ、声を堅めに返事をする。 年相応の純朴な子供だとさりげなく印象付け、余計な警戒を抱かせない仕草。 日本にいるころ年配者と相対する場面でこう振舞って歓心を得て心理的に相手の懐に入り込み、 父さんと共に肉体の懐にしまわれた財布を相手から差し出させてきた。 そんな一連の流れを見た相手は、一瞬にやりと笑った後、ハッハッハッと芝居気かかって笑い出した。 マルシェ「やはりです、ミサキの息子さんは大変素晴らしい。よく大人への礼儀をわきまえている」 岬「(えっ)」 見抜かれたか。しかしなぜ。 マルシェ「見知らぬ相手に浮かべる迷いと憂いの表情、ほんのわずかに外れる視線と声のトーン、 そして失礼のないようにと緊張して体を強張らせる姿。 さすがはミサキの愛息子。将来が楽しみだ」 よくやったぞといった様子で僕の頭を撫でた後、父さんの方へと向きなおして安心した 声音で語る。 マルシェ「これで安心しました。この歳でここまで自然に振舞えるならば、 さぞ日本で『階級敵』から人民の資産を『取り戻した』でしょう」 岬父「いやいやまだまだ拙いものです。慣れない異国の地であなたの助けが得られれば何とか」 マルシェ「ご心配なさらずに。決して無下にはしません。おっと」 僕らの方へヘッド・ウェーターと思わしき人がいつのまにか近くに来ている。 マルシェ「続きは食事の場で行いましょう。今日の料理はさぞ美味になるでしょうな」 僕達の事はとっくに承知済みだった。このパリの偉い人も父さんとそう変わらない、変わり者らしい。
[326]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:12:46 ID:4HTfgGS2 給仕「こちらドラモットのブラン・ド・ブランになります。料理が出来上がるまで、今しばらくお待ちください」 食前酒にシャンパンが(僕にはガス抜きの水が)運ばれ、並々とグラスに注がれる。 グラスが置かれたテーブルのクロスはアラベスク模様の白レースで、 下に敷いている深紅色のサテンも相まって、しっとりとした煌びやかさを放っている。 父さんとマルシェはウェイターに軽く会釈を交わした後、グラスを目の上に挙げる。 マルシェ「日仏社会主義の連帯に」 岬父「代わることの無い両党の友好に」 マルシェ「A votre sante」 岬父「ア・ヴォートル・サンテ」 岬「乾杯」 互いに視線を交わした後、すっと飲み干しグラスを空にする。 グラスをテーブルに置きちらりとウェイターの不在を確認した後、 相手はおもむろに懐から厚く膨れた封筒を取り出し、父さんに差し出した。 マルシェ「早速ですが、こちらを受け取っていただきたい。ここにあなたの仕事に不可欠な 同志の住所、電話番号、職業、人脈等個人情報が記載されている」 父さんが封筒を開けると、何枚もの紙には全て達筆なフランス語がぎっちり詰まっていた。 文章をじっくりと熟読している間、僕はさりげないほほ笑みを浮かべながら、じっと黙っていた。 内容からして真っ当な仕事でない以上、迂闊に話すと迷惑になる。 気にはなるが相手が話を振るまで待つほかない。
[327]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:14:57 ID:4HTfgGS2 しばらくして父さんは紙を収めて封筒に戻し、自らの懐へ入れた後、目の前の協力者に感謝の言葉を伝えた。 岬父「ありがとうございます。これで明日からでも仕事ができそうです」 マルシェ「それは良かった。不足したところは」 岬父「ありません」 マルシェ「おお、その言葉を聴いて安心しました。これで我が党の完全な独立も、遠いものではなくなるでしょう」 相手は笑みを浮かべている。ただ初体面の時とは違いどこか皮肉めいているというか、どこかに 影がかかったような笑顔である。 ヤレヤレといった風に軽く両手をハの字に広げた後、僕に向かっておどけた様子で話しかける。 マルシェ「モン・プサン、いやそれでは君に失礼だ、ムッシュー・プティ・ミサキ。 ここで少し我が党の弁解を許してもらいたい。 これからの父君の『仕事』の意義を、知ってもらいたいのだ」 そう言って改めて周りを見回した後、彼が言う「弁解」を清聴する機会に恵まれた。
[328]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:16:45 ID:4HTfgGS2 マルシェ「知っての通りフランスという国名はラテン語のFrancia、『フランク人の国』を意味する女性名詞だ。 女性と言ってもローマの昔から侵略者をただ黙って迎えはしない、 馬上で槍を握って我さきへと敵に向かっていく敢然とした女性だ。 この遺伝子は我が共産党にも濃厚に受け継がれている。 先の大戦で侵略者達に国土を踏みにじられた後、他のブルジョア政党はただ右往左往するばかりだったが、 我が党の偉大なる闘士たちは何度苛烈な弾圧を受けても銃弾をもって抵抗し、 我が国の開放に大いに貢献したものだ。たとえば」 滔々とフランス共産党の偉大なる抵抗の業績を語る姿を、初めて凄い話を聞いたような顔をして顔を向ける。 思う所はあるが、今は清聴だ。そう思っていると、相手がふっと最初に見せたような皮肉を含んだ笑顔に戻っていた。
[329]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:18:46 ID:4HTfgGS2 マルシェ「だが、現在はそうではない。現在の我が党指導部、私的関係でいえば私の兄上は、 国内で右往左往し、国外で貞淑さを示すばかりだ。 社会党の内閣に入閣したはいいものの、ゴタゴタと揉めてばかりで 影響力を発揮するどころか、今にも離脱してしまいそうだ。 目を外に向けると、4年前のソ連のアフガン侵攻、3年前のポーランド干渉など、 共産主義の理想を逸脱した覇権主義的行為に対し、 我々は真にさようでございますと、父親の、ソ連に恭しくしているばかりだ」 父親の、といったあたりからか、相手の顔に険が、声にトゲが混ざりはじめた。ちょうどここまで話し終わったところで、 ウェイターが前菜を持って現れ、テーブルに並べはじめた。 口にして見ると、中身は液状にした牡蠣のキャビアのせといった所だろうか。濃厚な牡蠣の味が 舌にしみわたる。 ただあまりにも液化しているため牡蠣を食べるというよりスープをすすっているような気分だ。 マルシェ氏も父さんも黙って牡蠣のスープをすすっていたが、先に食べ終わったマルシェ氏が 口をハンカチで拭いた後、再び柔らかな口調で語りを再開した。
[330]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:23:56 ID:4HTfgGS2 マルシェ「すまない、少々興奮しすぎて、見苦しい所を見せてしまった」 岬父「いえいえ、お陰で私にかけてくださっている期待の大きさが分かりました」 マルシェ「そういってもらえると有難い。問題は深刻だがその原因の1つが資金源だ。ここだけの話だが」 ここまで語ってふいにマルシェ氏が立ち上がり、こちらに来る。僕らの後ろに立って 身をかがめ、耳元で小声でつぶやく。 マルシェ「ソビエト共産党から多額の金銭援助を受けている。スポンサーに逆らえないのはどこも変わらない。 財政の自立なくして、意志の自立はありえない」 ここまで言った後再び自分の席に戻り、何事もなかったかのように語りを続ける。 マルシェ「とにかく、今後もこちらから情報を提供するし、必要とあれば コネも用意する。どうかそれらを活用して「人民の資産」を回収してほしい。 あなたが得意とする絵画によって。条件はこれでいかがだろうか」 そう言って彼はスッと1枚の紙を取り出し、父さんの前に差し出す。紙には単に 1:2 France:Japon とのみ記されている。 岬父「D’accord.」 即座に父さんは返事をした。ダコード、つまり「承諾した」 仕事で得た収益のうち3分の1を情報紹介などの便宜料としてフランス共産党へ提供するというのだろう。
[331]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:25:13 ID:4HTfgGS2 マルシェ「有難い。これで何の心配もいらなくなって、安心してここの料理に味わえるというものだ。 ここのエシーヌ・フリアンドは絶品でね。ここのを口にすると他のエシーヌは口に入らぬ」 エシーヌ・フリアンド。メニューで見たときはトンカツに似た料理のようだった。 だが実際にはトンカツとは違う。 金モール付きのマホガニーで作られたワゴンで運ばれたエシーヌが、テーブルへと運ばれる。 金縁に赤紫の花が咲くお皿に金のナイフとスプーン。そしてエシーヌの見事なつくりが、 料理というより芸術品を鑑賞しているような気分になる。 豚のカツの上に油で揚げた卵のフライ、二つ割のトマト、ニンニク、バターをのせて焼き上げている。 アーモンドとパルメザンチーズの香りがただようエシーヌをナイフで切り取り口に入れ、 ブクブクとした脂からあふれ出る肉の旨味で、とろけてしまいそうになる。 マルシェ「ああ、旨い。ことにクリームをつけたエシーヌは最高だ」 皿の隣に置かれた生クリーム入り容器から、僕もエシーヌにかけてみる。 心持ち酸味が残る濃い重厚な味がたまらない。 3人こうしてエシーヌ・フリアンドを心行くまで満喫し、食後のデザートとワインも味わい、 そろそろお開きという空気が流れだしたところで、どこからか取り出したのか1冊の雑誌を 持ち出して、今度は僕の目の前へ差し出した。
[332]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:28:07 ID:4HTfgGS2 マルシェ「私からのプレゼントだ。フランス共産党が発刊しているサッカー雑誌、 Le Miroir de football。きっと参考になると思うよ」 岬「サッカー、雑誌、ですか」 手渡された雑誌を目にして、僕は戸惑いを覚えた。 サッカーが盛んな国であるし、共産党がサッカー雑誌を作っていても おかしくないのかもしれないが、それにしても表紙が奇抜である。 僕位の歳の金長髪の男の子がキーパーウェアを着てしとけなくゴールポストに寄りかかり、 恋人でも見るような眼差しでボールを眺めている。 どう見てもファッション雑誌かアイドル雑誌にしか見えないが、これがサッカー雑誌なのだ。 さすがはフランス、殺人集団たるカンプチア共産党をフランス語に訳すだけで、 クメール・ルージュという化粧品みたいな名前になってしまう国だ。 マルシェ「驚いたかね。さすがにこんなファッショナブルな共産党の雑誌は世界でもこれだけだろう。世界中でそうだが、 若者の共産党への関心は低下するばかりでね。今現在関心を持っている雑誌を大いに参考にしたのだよ。 批判も大きかったがその甲斐はあった。ちょうどパリの党員の子弟に 美男子がいてくれたおかげで、若い女性の入党者数が増えてくれている」 岬「パリ?サッカーをしている共産党の子がいるんですか」 マルシェ「ああ、運がよかったよ。この子はジュスト・アルナルディ(Juste Arnardi)。 パリのサッカークラブサンジェルマンの年少部に所属していて、いずれ育成部門の下部チーム シャンゼリゼかモンマルトルの正キーパーになるだろうという腕前だそうな」 岬「(ジュスト、か、覚えておこう)」
[333]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:29:54 ID:4HTfgGS2 思わぬところで耳にした同年代のフランス人実力者。それがパリにいるのだ。きっと 何かの役に立つだろう。だが次の言葉で現実に引き戻される。 マルシェ「ところで君は、サッカーで世界を目指す気はないかね」 岬「え、も、勿論」 マルシェ「そう言うだろうと思った。思ってなければ日本一にはなれなかっただろうからね。だがここはフランス、 君は外国人だ。残念ながら外国人の少年が世界レベルの大会に出られる機会が殆どない。 このままでは君の、神から与えられた才能が生かされずに朽ちてしまうだろう」 マルシェ氏に指摘されて、心中苦いものが走る。確かにこのままではダメだ。パリ中の年長者に 混ざってプレーするにしても限度がある。フランスは確かに強いが、 ドイツ・イタリア・ブラジルなどといった国と比べると確実に劣る。 何より目標が無ければ、意志を保ち続ける事など至難の業だ。 そう思っていると、マルシェ氏の口から僕の人生を一変させる 言葉が、何の気もなく放たれようとしていた。
[334]キャプテン岬 ◆ma4dP58NuI :2018/05/27(日) 20:32:24 ID:4HTfgGS2 マルシェ「君の父親の友人の1人として私も非常に残念に思う。 こうした現実は全ての人間に平等な機会を与えるべきという共産主義の理念にも反する。 だから。ここを見てほしい」 Spartakiada Mezhdunarodnaya Podrostkami se tenant! マルシェ「タロー・ミサキ。君に国際友好諸国年少者総合体育大会、 通称国際ジュニアユーススパルタキアーダへの参加テスト権を与える」 岬「国際……スパルタキアーダ?」 マルシェ「そうだ。全世界の共産党の子弟で行われるサッカー大会で、2年に1度モスクワで 行われる。西ヨーロッパでは西側諸国の共産党の子弟を集めて作られる。 実のところ言えばこの臨時サッカークラブの創設には国籍事項が無い。外国人が入ることを 想定していなかったころの規約だからだが、この点を突いて君も参加できるよう働きかけてみよう」 岬「えっ、いいんですか!?」 思わず素っとんきょうな声を上げてしまう。この場でこんな声を上げてしまい恥じ入ってしまったが、 マルシェ氏はかわいい孫をたしなめるような顔で、手を軽く振る。
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0ch BBS 2007-01-24