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【SSです】幻想でない軽業師
[102]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:08:45 ID:??? その日の事である。 守矢神社での夕食を終え、早苗に送ってもらい帰路についた反町。 帰宅した頃は既にチームメイトの全員が(幽香だけは、Jrユース大会が終わってからも帰宅をいていなかったが)寝静まる中、 反町は自室でこれからの身の振り方について改めて考え直していた。 反町「(俺には3つの道がある。 1つは、外の世界に戻る事……)」 今更東邦学園に戻るというつもりは無い。 以前にも考えた事であるが、やはり日向が牛耳る学園に残るという気持ちは彼には微塵もなく。 しかし、外の世界には友人や両親も確かにいた。 どの高校に進学をするかはともかくとして、安寧に暮らすならばそれが1番最良の選択肢だっただろう。 反町「(2つ目は……この幻想郷に残って、オータムスカイズのキャプテンとしてこれからも活動を続けていく事)」 自分がこの幻想郷へと呼ばれたのは、正に自身の人生において1番大きな転機であった。 これからどんな分かれ道が現れようと、それは間違いのないものである。 きっとあのまま全日本Jrユースにいたままならば、自分は恐らく、十把一絡げのその他大勢役。 なんでもこなせるFWと言われながらその実ただの器用貧乏。 見る所のないまま、ユース世代で消えて行ってしまっていたと言っても過言ではない。 そんな自分が変われたのは、やはり幻想郷へとやってきたお蔭である。 オータムスカイズを設立し、このチームを、『和を大切にするチーム』として運営しようとし、 仲間たちと切磋琢磨をしてここまで大きくした。 結果、反町も……そしてチームも、名門と呼ばれる程にまで成長を遂げる事が出来た。 迷いながら、それでも、これまでの反町ならば2つ目の選択肢に比重がやや傾いていた。 ただ、今日、知ってしまった……3つ目の選択肢がある事に。 反町「(そして……3つ目。 幻想郷に残り……守矢フルーツズに移籍をする……)」 ………
[103]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:09:54 ID:??? コンコンッ! 反町「え? は、はい!(誰だ?もうみんな寝てる時間だぞ)」 考え事をする室内に、やや大きめのノックの音が響く。 その音量に少しばかり驚きながらも、反町は返事をしてドアを開け……。 穣子「こんばんわ。 と、ついでにおかえりなさいね」 反町「穣子?」 そこにいたのは、秋穣子。 こんな時間にどうしたのだろうか、と首を傾げる反町に対し、穣子は苦笑しながら中に入れるかどうか問う。 立ち話というのもなんだし、と……反町は了承をし穣子を部屋の中に招き入れ……。 穣子「にしても……相変わらず殺風景ねぇ、あんたの部屋」 反町「うるさいなぁ……」 穣子はその部屋の中を見て、一つそう呟いた。 確かに反町自身、殺風景ではあると思う。 何せ部屋の中にあるのは既にいつでも寝る準備が出来るようにとしていたお布団。 それに簡易的な机と、時計くらいなものだ。 生活する上で必要最低限のものしか置いていない、と言えるだろう。 趣味や道楽に使っているような――人間味のある内装では、少なくとも無かった。 何せこれまで、この幻想郷に来て、ずっと反町は突っ走っていたのだ。 弱小チームを中堅に、強豪に――そして、名門へと育て上げるまで。 練習をし、練習をし、また練習をして。 弱い自分たちが強くなる為には練習をするしかないと、ただそう信じて時間のほぼ全てを練習へと注ぎ込んだ。 結果、反町がそれらしい装飾なりを買いそろえる時間は無かったと言える。 アルバイトなどを探し、ポケモンなどを売り払おうと考えた事もあったが、結局それも中途半端であった。
[104]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:10:55 ID:??? 穣子「ま、いいわ。 とりあえず座りなさいよ」 反町「俺の部屋だぞ? ……まあ座るけど」 穣子「うん、よろしい」 穣子に促されるまま、着席をする反町。 穣子もまた、その対面に座り……再び、口を開く。 穣子「で? 八坂様達に会ってきたのよね? ちゃんとご挨拶出来た? 粗相はしなかったでしょうね?」 反町「小学生じゃないんだぞ、そんな言い方ないだろ……まあ、緊張はしたけどちゃんと話は出来たと思う」 穣子「そう? なら、いいけど」 相も変わらず反町を子ども扱いしているとしか思えない言葉に辟易しながら、 ともかく今日あった事を反町は説明した。 早苗がわざわざ迎えに来てくれた事、諏訪子がにまにましながらも愛想よく反町を歓迎してくれた事、 カルツ――もとい、西尾?が謎の郷土愛を見せながら、守矢フルーツズに残っていた事。 そして――。 反町「神奈子さんから言われた」 最初は不機嫌そうで、反町に対してやけに敵意を剥き出しにしていた神奈子が――。 しかし、やがて、早苗についてのこれまでを語り……これからの事について語った事を。即ち……。 反町「……守矢フルーツズに、移籍をしないかって」 穣子「……そう」
[105]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:12:40 ID:??? 正直な所を言って、これを穣子に対して話すべきかどうかも、反町は迷った。 オータムスカイズのキャプテンである反町は、それ相応の責任というものも持ち合わせている。 そんな反町が他所からの引き抜きがあり、それに対して迷いを見せているとなれば……。 神奈子と反町、双方にとっても、あまりいい噂は立たないだろう。 だが、それでも……反町は穣子には話しておきたかった。 それが穣子がこんな事を誰にも話さないと信じての事だったのか。 はたまた、迷いを誰かに打ち明けて楽になりたいという気持ちがあったのか。 それはわからないが――いずれにせよ、反町が穣子の事を信頼しての吐露であったのは違いない。 そんな告白に対して、穣子は少しだけ驚いた様子を見せながら……。 穣子「で? あんたはどうするの?」 反町「…………こんな事言ったらどうかと思われるかもしれないけど、迷ってる」 外の世界に帰るか。オータムスカイズに残るか。守矢フルーツズに移籍をするか。 3つの選択肢は、提示された時から、ずっと反町の脳裏に焼き付いて離れなかった。 これがもし、自分の中に小さな自分たちがいて、それらが多数決を取り決定するという方式なら……反町はここまで迷っていなかっただろう。 しかし、当然ながら反町の中にはそんな便利な機能などついていない。 故に迷う。
[106]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:14:28 ID:??? 反町「どれもこれも……選べないんだ。 どれが正しいのかもわからない。 神奈子さんに話を聞いた時は、確かにそれも魅力的だなって思った。 でも、こうして穣子の顔を見たら……この家に帰ってきたら、やっぱりオータムスカイズにいたい。 ……両親の顔を見たら、多分外の世界に戻りたいと思うんだろうな」 優柔不断なんだ、と、自嘲気味に言う反町に対して……。 穣子「空中☆お芋チョップ!」 ぺちっ 反町「いてっ!」 穣子はその必殺技をぶちかました。
[107]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:16:20 ID:??? ぺちん、といい音を立てて反町の額に突き刺さる穣子の手刀。 いや、手刀でぺちんなんて音は立たないだろと思いながらも反町は首を傾げながら額を摩り……穣子を見やる。 穣子「男ならとっとと決めなさい! 情けない!!」 反町「うっ……しょ、しょうがないだろ。 一生を決める事なんだから!!」 そう、一生を決める事だ。 厳密にいえばそれは外の世界に帰るか否かの選択が主ではあるのだが、 仮に幻想郷に残るとしてもオータムスカイズに残るか守矢フルーツズに移籍をするかではやはり大きな違いがある。 だからこそここまで反町は悩みに悩んでいたのだが、穣子はそんな言葉を鼻で笑い飛ばした。 穣子「一生を決める事だからって、うじうじ考えてるだけじゃ埒あかないでしょ! 大体がさ……一生を決める事って言っても、あんたが考えてるのずっとずっと、すぐそこの事ばっかじゃない」 反町「はぁ? どこがだよ!?」 穣子「外の世界に帰ったら両親や友人がいる。 ええ、いるでしょうね。 いつまで? 外の世界に戻ったら、ずっとその人たちと生活するの?」 反町「それは……いや、そういう話じゃないだろ!?」 穣子「そういう話よ、これは」 些か乱暴ではある、あるが――穣子の言葉にも、一理くらいはある。 今の反町は、あくまで立場としては中学生。 当然ながら親元で過ごし、そして友人らと仲良く遊ぶというのが普通だ。 だが、反町も大人になれば親元は離れる。進路が違えば友人と会う機会も少なくなる。 穣子「要は早いか遅いかの話でしょ? 違う?」 反町「いや……」 穣子「幻想郷に残るにしたってそうよ。 オータムスカイズを離れたくない、 って言ったって、このチーム出来てまだ半年すら経ってないくらいよ?」 反町「………………」 穣子「私だって愛着はある。 でも、それに引きずられてちゃ駄目でしょ」
[108]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:17:39 ID:??? 穣子「……もっと先の事考えなさいよ」 反町「先の事って……なんだよ?」 穣子「将来、どうなりたいとか。 どうしたいとか、あるんじゃない?」 反町「………………」 将来、と言われても、反町には当然明確なビジョンというものは無かった。 反町一樹15歳、将来を考えてもおかしくない年齢ではあるが、そんなこと考えずアッパラパーに遊び呆けてるのが大半の年代である。 しかし、ことここに至って、反町は考える。 反町「(Jrユース大会の時は……)」 いつだったか、偶然観客席で西ドイツのダブルストライカーと相対した事があった。 即ち、西ドイツの皇帝――カール=ハインツ=シュナイダー。 そして、紅魔館の吸血鬼――レミリア=スカーレット。 彼女たちを前にして、あの大会でNo.1のストライカーとなると宣言をした反町。 実際、反町はその証明として西ドイツに快勝。 それどころか得点王と大会MVPのW受賞までし、名実ともに大会No.1ストライカーとなったのは記憶に新しい。 反町「(シュナイダーやレミリアさん達だけじゃない……)」 ウルグアイのラモン=ビクトリーノことブラックファルコンと、星熊勇儀。 イタリアのフランドール=スカーレット。 フランスのルイ=ナポレオン。 魔界の魅魔と……幽香。 そして、全日本の日向小次郎と比那名居天子。 いずれとも戦い……しかし、ストライカーとして勝利をしてきた。 だが、まだ足りない。
[109]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:18:57 ID:??? 反町「(フランス国際Jrユース大会では……確かに、俺は得点王が取れた。 だけど……あの大会には、ブラジルをはじめとして、他の強豪国と呼ばれるチームも参加はしていなかった。 それに……俺は、森崎から一度もゴールを奪えていない……)」 祝勝会の際、輝夜に対して吐露した心情――森崎有三からゴールを奪えなかった事への、悔しさ。 頂点を掴んだ、掴んだが――それでも、まだ目指すべき場所がある。辿り着きたい境地がある。 反町「俺は……俺は、世界一のストライカーになりたい」 穣子「………………」 反町「誰にも文句を言わせないくらい、お前が一番だって言われるくらいの決定力を手に入れて。 ……そして、どんなキーパーが相手でも負ける事が無い。 世界一のストライカーに、俺はなりたい」 この幻想郷へとやってきたのは、反町からしてみれば偶然であった。 チームを作ったのも、成行きだった。 劇的な成長を遂げたのは、ただ勝ちたいが故だった。 成長をして、強くなり――その上で、自分が何をしたいのか……何になりたいのか。 反町一樹はこの時、初めて考え、結論を出した。 先ほどまで迷っていた三択とは違い、スッパリと、綺麗に。 それを聞いて、穣子は少しだけ寂しそうに笑みを浮かべ……。 穣子「……なら、どうするのが近道か。 わかるんじゃない?」 反町「………………」 言われ、反町は考えた。
[110]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:20:20 ID:??? まず、外の世界へと戻るというもの――強くなる、という一点を考えれば……まずその選択肢は消えた。 『秀才』である反町にはわかっていた。 確かに前回のJrユース大会で、全日本は準優勝という、アジアの島国にしても優秀な成績を収めたと言える。 だが、そもそも世界と日本とのサッカーのレベル差というものは、大きく開いている。 Jrユースレベルならともかく、この先――ユースレベルとなってくるとどうなるのか。 予想をするのは、決して難しい事ではなかった。 ならば取るべき道は、幻想郷へ残るというもの。 オータムスカイズに残るか、守矢フルーツズに移籍をするか――二択に絞られる。 反町「(強くなりたいなら……強くなる、という観点だけを見るなら……)」 練習設備は、守矢フルーツズの方が整っていた。 オータムスカイズが練習で使用をしているのは、人里近くのコート。 決して設備が整っている訳ではなく、そして移動をするのも多少不便ではある。 逆に守矢フルーツズは、専用の練習グラウンドを神社のすぐ近くに設置していた。 乾と坤を創造するらしい二柱が主に手作業と河童たちの手伝いをもとに作ったというそれは、 地面が土の人里近くのコートと違い芝が生え、電気が通っているらしく夜間に練習出来るようライトもある。 おまけに神社からは近い、と文句のつけようがなかった。 反町「(それに……大妖精と早苗さん……)」 そして、反町が主に練習相手としたいのはGK――オータムスカイズならば大妖精、守矢フルーツズなら早苗となる。 どちらも幻想郷を代表するレベルで高い技術を持ったキーパー同士であったが……。 反町「(大妖精……俺のシュート練習にあまり付き合ってくれないんだよな)」 反町も薄々感づいてはいたが、大妖精は反町の事を――。 というよりは、反町のシュートを畏怖している。
[111]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:21:21 ID:??? 元々気弱な性格である大妖精。 反町が何人もの守備陣を吹き飛ばし、派手にゴールを決める所を見て最初は頼もしく見ていたものの、 しかし、やがてそれは自分の身に降りかかったらどうしようという恐怖心と成り下がっていた。 当然ながら、そんなシュートを食らう練習を、彼女が付き合ってくれる道理はない。 逆に早苗ならどうだろう、と反町は思う。 彼女も基本的には好戦的なタイプではないが――だからといって、臆病ではない。 Jrユース大会が始まる以前は、幾度となく反町の暴力的なシュートを受けながら、吹き飛びながらも、 何度も立ち上がり果敢にゴールを守ろうとしていた。 お互い思いを通じ合えたから、というだけでなく。 共にサッカーをするという上でも……練習を行う上でも、彼女はきっと反町の大きな助けになるに違いない。 反町「………………」 2つの事柄を考えるに、強くなる為には――。 穣子「守矢に行きたいんでしょ?」 反町「…………」 守矢に行った方が、一層、レベルアップを図りやすくなる。 少なくとも、反町はそう結論づける事が出来た。 だが、それでもなお――迷う。 反町「俺は……このチームを立ち上げた時、言ったんだ。 『和を大切にするチーム』にしたいって」 穣子「ん、そうね。 覚えてる」
[112]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:22:36 ID:??? チームメンバーを集め、キャプテンに就任した時、反町はそう宣言した。 東邦学園とは違う、全日本とも違う、仲間との協調と和を大切にしたチームにしたいと。 ……実際の所はともかくとして、少なくとも、反町はそうなるよう努めてきたつもりだったし、 これからもそうしていきたいと思っていた。 反町「その俺が、チームを抜けてどうするんだ? ……神奈子さんの話では、吸収合併でも構わないと言ってたけど」 穣子「それは無理ね。 ……私達が抜けるつもりがないから」 反町「……うん」 或いは、まだ、オータムスカイズが守矢に吸収されるという形でならそれもよかったかもしれない。 だが、それは穣子たちが否定をする。 『信仰』 穣子と静葉は、信仰を集める為にサッカーをしている。 無論、吸収合併された所で、彼女たちに出番が来て、相応に活躍をすれば……それなりに集まるかもしれない。 ただ、それはあくまでそれなりだ。 チームの顔は、やはり『守矢フルーツズ』と名乗る以上は、守矢に名を連ねる神々である。 穣子「それに信仰云々は抜きにしたって、私はこのチームに愛着あるしね。 さっきは半年も経ってないとは言ったけどさ」 反町「それを言うなら、俺だって……!!」 穣子「あんたは違うでしょ。 明確に、やりたい事が見つかったんだもん。 ……惰性や責任感で、このチームに残り続けるなんて……そんなのあんたが許しても、私が許さない」 反町がなお縋ろうとしても、キッパリと穣子は言い切った。 穣子「あんたはあんたの夢を追いなさい。 ……ここまでずっと、チームの為に頑張ってきたんだもん。 あんたが多少の我儘を言った所で、バチは当たらないわよ」 反町「……いいのかな」 穣子「とーぜん! この私が『バチが当たらない』って言ってんのよ?」 反町「………………」
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0ch BBS 2007-01-24