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【SSです】幻想でない軽業師
[189]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:41:27 ID:??? 小町に話を振られた椛は、苦笑をしながらそう返答するのが精いっぱいだった。 元々、オータムスカイズに所属をしていたとはいえ、椛と反町の仲は決して深いものではない。 少なくとも彼女が見てきた内では逆はあっても、反町が早苗に好意を抱いているとは思えなかったのだが……断言はできなかった。 椛「(っていうか、そもそもそういう色恋沙汰に興味があるとは思わなかったッスよ……)」 むしろサッカーにしか興味が無いんじゃないか、と心の片隅で思っていたのは内緒である。 ムラサ「はいおかわりお待たせっと。 で、聖はまだ帰ってこないのかしらね」 星「お昼までには戻ってくるとは言ってましたが……」 白蓮「ただいま戻りました〜」 ナズーリン「噂をすればなんとやらだね」
[190]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:42:50 ID:??? ……… …… … ナズーリン「お疲れさま、話し合いは上手くいったかい?」 白蓮「ええ。 話し合いと言っても、難しいものではありませんでしたので……ああ、いい匂いですね」 ムラサ「あっ、お昼ご飯まだ? すぐに用意するわ」 白蓮「ええ、ありがとう」 一同が昼食を取っていた広間に、この命蓮寺の主人――住職である聖白蓮が帰ってきた。 ここまで星たちが言っているように、彼女は朝方から、とある会合へと出席していたのである。 朝方から食事を取っていなかった白蓮は広間に香る強烈な匂いに鼻を鳴らし、 早速白蓮へとムラサがお手製カレーを配膳すると、白蓮は瞑目し合掌をしてから匙を手に取った。 星「……聖、話し合いの内容とはなんだったのですか?」 白蓮「はい?」 早速匙で白米とルーを小さく混ぜ合わせ、パクり。 余程お腹が空いていたのか、黙々と食べ勧める白蓮に対し、星もまた匙を動かしたまま問いかける。 ちなみに星は既に7皿目に突入しようとしていた。 小町「八雲紫主催の会合なんだ。 内容が気になるのは皆同じだよ」 ナズーリン「ああ……しかも、集められたのは各勢力の代表なんだからね」
[191]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:44:43 ID:??? この日、白蓮が参加をした会合にはナズーリンの言うように各勢力の代表が集まっていた。 即ち、紅魔館のレミリア=スカーレット。白玉楼の西行寺幽々子。永遠亭の蓬莱山輝夜。 守矢神社の八坂神奈子。地霊殿の古明地さとり。更には地獄から四季映姫。 ……そして、命蓮寺の聖白蓮に、主催である八雲紫である。 幻想郷の重鎮達を集めた場で、一体何が話し合われていたのか。 一同が気になるのも自然な話であった。 ルーミア「おかわり〜」 星「すみません、こちらもおかわりを」 ちなみにまるで気にせず食事をするもの、気にしながら食事をするものもいた。 白蓮「内容ですか……そうですね。 別に、そんなに恐ろしいような……多分皆が考えているような、物騒な事じゃありませんでしたよ」 ムラサ「そうなの?」 白蓮「ええ。 今回紫さんが私達を集めたのは、サッカーについて……」 ナズーリン「サッカー?」 ナズーリンの言葉に首を縦に振りながら、白蓮は続ける。
[192]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:46:00 ID:??? 白蓮「各勢力から各々選手を一名ずつ……外界へとサッカー留学させないか、という提案だったのです」 椛「サッカー留学……ッスか!?」 そして放たれた言葉は、一同が驚愕するに値する、衝撃的なものだった。 元々、先のJrユース大会に幻想郷と魔界が参加をし、 更には各国に選手たちが派遣された事からも――外界と幻想郷との間に、大きな隔たりというものは無くなってきている。 とはいえ、それでもやはり幻想郷と外界とは違う世界。 反町一樹が当初、外の世界に戻るか幻想郷に残るか迷ったように。 本来ならばそう簡単に行ったり来たりができるような関係性ではないのだ。 よりにもよって幻想郷の秩序というものを何よりも大切にしている八雲紫が提案するようなものとは思えない。 小町「……胡散臭いねぇ。 なんだってそんな事を提案したんだい?」 白蓮「先のJrユース大会で、外の世界と交流を深めた事で幻想郷の人妖にもいい影響があったからと聞いてます。 それに、幻想郷サッカーというものは閉鎖的なもの。 外界に選手を留学させ、見聞を広め吸収させる事によって新たなカンフル剤としたいと言っていました」 ナズーリン「(胡散臭い……)」 ムラサ「(胡散臭い……)」 星「なるほど! 確かに、幻想郷サッカーは頻繁に移籍があるといえど、主だった選手というのは変わりありませんからね。 それに我々は前回魔界Jrユースとしての参加でしたから、外界の方々とはあまり大きく接触してません。 新たに交流が出来るというのは、とてもいい事かもしれませんね」 ルーミア「そーなのかー」 一応理由を聞いてみるものの、その内容はやはり完全に信用出来る――とは言い難いものだった。 ……信頼しきっている者も一部にはいたが。
[193]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:47:44 ID:??? ムラサ「っていうか、外界にサッカー留学って言っても……幻想郷の方が強いんじゃないの?」 白蓮「そうでもないようですよ。 実際、派遣選手が各国へと渡ってからの1か月間で、 外の世界の選手たちは大きく成長を遂げていましたし、ぽてんしゃるというものがあるらしいのです。 既に一定の実力となった以上、ここからはより一層外の世界の選手たちも強くなるだろうというのが紫さんの見解でした」 椛「…………で、それって受けるんスか?」 白蓮「ええ。 各勢力で1名ずつ、という条件ですが賛成多数で可決されました。 我が命蓮寺からも、誰かを外界へと送らなければなりません」 星「なるほど……それで、期間の程は?」 白蓮「およそ3年間、と聞いています」 3年――という言葉を聞いた途端、一同には衝撃が走った。 精々長くても数か月程度、と思っていた者が多かったのである。 幻想郷から3年もの間離れる……永きを生きてきた者たちばかりとはいえ、それでもその歳月は決して短いものではない。 特に、聖を封印から解放し、ようやく共にいる事が出来た命蓮寺のメンバー達にとっては尚更であった。 とはいえ、白蓮が持ち帰った話である。 ここで誰も行かない――という選択肢も、恐らくはつける事が出来るのだろうが……。 ナズーリン「(うちは他所の勢力と比べても結構な大所帯だからね……さて、断った所でどうなるか)」 幻想郷全土で見ても、命蓮寺はかなりの大所帯を持つ勢力である。 椛や小町、ルーミアという他勢力からの移籍組を除いても6名。 これだけの人数がいて態々八雲紫が集めて発表した提案を断る、となれば……相応の理由というものが必要となるだろう。 まさか聖から離れたくありません、というだけで認めてくれるとも思えない。 小町「先手を取って言わせてもらうけど、あたいはパスだよ。 映姫様も呼ばれてたんだろ?」 そして、まず己の意志を表示したのは小町であった。 そもそも移籍組であり、かつ、明確に他所に上司を持つ彼女が断りを入れるのは道理。 一同もそれを理解していたのか、特に小町を責める事は無かった。
[194]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:49:21 ID:??? 小町「(とはいっても、映姫様の持つ方の留学権とやらで飛ばされるのもやだな〜……。 外界にわざわざ行くって事は毎日サッカー漬けになるんだろうし。 嫌いじゃないけど、そこまで必死こくのはねぇ……)」 もっとも、当人は例え映姫の言葉があっても外界へ留学するというのは断るつもりであったが。 ナズーリン「(そして……まあ、ルーミアもまずアウトだな)」 ルーミア「?」 この命蓮寺に身を寄せている間は大人しくしているとはいえ、ルーミアの根本は人食い妖怪である。 命蓮寺を離れ、人々が暮らす外界へと1人放り出すというのは、餓えた獣を放つというのと同義であった。 よって、こちらも話が出る前に、多くの者たちにとって『無し』となる。 星「……では、私が参りましょう! 不肖、この寅丸星! この命蓮寺の為ならば!」 ナズーリン「……いや、流石に本尊であるご主人がいなくなっちゃ駄目だろう」 星「……そういえばそうですね」 椛「(そういえばって……)」 では結局命蓮寺に住まう者たちから出さなければならないのか、とここで一番に名乗りを上げたのは寅丸星である。 本人もやる気は満々であったが、生憎と彼女はこの命蓮寺の本尊であった。 当然ながらそんな立場の者が3年間も命蓮寺を離れる訳にはいかない、と、即座に却下される。 そして、星が残るというのならば、その星の監視役でもあるナズーリンが離れる訳にもいかない。 ムラサ「私も船の修理とか色々あるしなぁ……」 次に口を開いたのはムラサであったが、こちらも問題があって留学には行けないというものだった。 現在彼女たちが住居兼寺として使っている命蓮寺は、元々は彼女が扱う船である。 魔界Jrユースへ合流する際、船へと変形させて使用し、また戻ってきてからは寺として使った為、 この命蓮寺のあちこちは色々と不具合が発生してしまっている。 現在、河童などの力も借りて修復中ではあるが、陣頭指揮を執るムラサがいなくなるというのは問題だ。
[195]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:51:11 ID:??? ムラサ「ぬえはどうなの? あんたなら身軽でいいでしょ」 ぬえ「ん……」 そして話を振られたのは、この命蓮寺に居候をしているぬえである。 ムラサの言う通り、彼女はこの命蓮寺において大きな役割というものは持っていない。 住んではいるが、お勤めを手伝う訳でもなく。日がな一日ぶらぶらしている。 一番身軽であり、一番暇を持て余しているのがぬえだった。 ならば留学に行って貰っても問題無いのではないか、というムラサの意見は至極まっとうなものだったが……。 ぬえ「……留学ってさ、要は強くなりに行くって事だぬぇ?」 小町「そりゃそうだろう。 交流だなんだってのも目的としちゃあるだろうが、強くなるのが1番の主目的さ」 ぬえ「(強くなる、強くなるぬぇ……)」 ぬえ本人としても、今以上にサッカーの実力をつけたいとは思っている。 そういった意味では、このサッカー留学というものも悪くは無いと考えていた。 ただ、例えば――この留学をしてぬえがレベルアップをして帰還をした所で、 果たしてそれが命蓮寺を一気に強豪クラスのチームに押し上げるかというと疑問に思う。 ぬえ「(永遠亭は今でもなんとかなるとは思うけど……紅魔館はうちよりも強いだろうし。 他にも橋姫のチームや地霊殿とかは……うん、厳しそう。 何より守矢にはまず勝てぬぇよね)」 意地が悪くて天邪鬼であるぬえであったが、その根本は仲間への思いやりで溢れていた。 普段の生意気な口の利き方なども、要はその裏返しである。 故に、この時も彼女は全体として――俯瞰的にチームの事を見て、自身に出来る事を探していた。 確かに留学をしてぬえ自身が強くなる事も一つの手である。だが、それは他の者にも出来る。 ぬえ「(……うちの強みって、オータムスカイズみたいに全員を名有りで固められてるって事だぬぇ。 戦争は数だよって偉い人も言ってたし、うん……)私もやりたい事があるからパスだぬぇ!!」 ムラサ「えー……」 よって、ぬえまでもこの留学の件を断った。
[196]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:53:04 ID:??? となれば他に行けそうな人物など、そう多くは残っていない。 この命蓮寺の代表である白蓮を除けば、自然と絞られてくる。 一同は一度、視線を椛へと集中させ――これを受けた椛は、やや俯きながら、苦笑しつつ口を開く。 椛「……申し訳ないッスけど、自分も妖怪の山の仕事がありますから。 3年なんてとてもとても……」 ナズーリン「ああ……まあ、そうなるだろうね」 元々彼女も妖怪の山に所属をしており、手に職を持つ妖怪であった。 哨戒天狗として組織においても下っ端に位置される彼女が、3年間もの長い間……。 仮に守矢神社などからの指令でならばともかく、命蓮寺の為にと仕事を休むという事が出来よう筈もない。 椛「(それに……サッカー留学をしても、ねぇ)」 ただ、それ以上に椛がこの話を受け入れられない理由もあった。 Jrユース大会から既に数日が過ぎていく中、多くの者たちはあの敗戦から立ち直り始めていたが、 椛の中では未だに尾を引いている。 かつてオータムスカイズに在籍をしながら周囲の成長に後れを取り、チームを立ち上げ始めたばかりだった命蓮寺へと移籍。 当初から今まで、得意とするブロックと数少ないサッカー経験者として主にディフェンス陣を引っ張ってきた。 練習などによる成果が芳しくない時もあったが、それでも努力を重ね、 魔界Jrユースではレギュラーとして起用される程には成長をした。 それでも負けた。完膚無きまでに。 椛「(反町さんどころか……魔理沙やリグルのシュートすら止められなかったッス……。 今更、自分がサッカー留学した所で……この差が埋まるんスかねぇ……)」 強くなっても強くなっても、差は縮まるどころか逆に広がるばかり。 自信を喪失しつつあった彼女が乗り気になれないのも、無理からぬ事だった。
[197]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:54:05 ID:??? ならば――と、一同は視線を縁側へと向けた。 ここまで話し合いに一度として参加をしていない……この命蓮寺のキャプテン。 白蓮「佐渡くんは……どうでしょうか?」 佐野「………………」 いつものように名前を間違える白蓮に、もはやツッコミを入れる事なく。 佐野満――椛同様、ボッコボコのケチョンケチョンにしてやられてしまった男は、縁側で静かに黄昏ていた。 ナズーリン「……やめておいた方がいい、聖。 今の彼には心の休養が必要だろう。 それと、彼の名前は佐野だ」 小町「元気だけが取り柄って感じだったのにねぇ……」 椛「(無理無いッスよね……)」 幻想郷へと戻ってきてからというもの、佐野はいつもこうであった。 命蓮寺で生活するようになって規則正しい生活が身についた為に朝は早朝に起床をし、 食事もしっかりと取り、手伝いなどもするものの、暇があればいつも縁側で黄昏るばかり。 無暗やたらとやかましく、根本的にアホで、割と一同からは呆れられる事も多かったかつての姿は潜めていた。
[198]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:56:07 ID:??? その原因といえば、やはりあの大敗が原因なのだろう――と、一同は考える。 反町より後に幻想郷へと呼び出され、命蓮寺へと所属をし、これまで切磋琢磨をしてきた。 幻想郷内の大会で栄光を掴み、かつてからは想像も出来ない程の力をつけた反町に対し、 羨望と嫉妬とを混ぜたような複雑な感情を持ち合わせていた佐野。 そんな彼が初めて反町と対峙をしたのは、命蓮寺としての練習試合。 全幻想郷以上の猛特訓を繰り返して挑んだその試合に――しかし、佐野達はボッコボコにやられた。あまりにもあっさりと。 そこまでならばまだ佐野も立ち上がれた。頼れる仲間と師匠と共に、リベンジの機会を伺った。 だが、そのリベンジの機会がどういう結果になったのかは――先述の通りである。 得意のキープもある程度成功しようと、相手はその上を行く超火力で蹂躙する。 ダブルスコアをつけての大敗。 椛「(普段明るい人程、落ち込んだ時に立ち直るのが遅いって言うッスけど……)」 ぬえ「……バッカみたいだぬぇ。 いつまでもメソメソしててもしょうがないのにさ」 いつものぬえの悪態が鈍る程度には、佐野の気落ちは目に余るものだった。
[199]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:58:19 ID:??? 一旦ここまで。
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0ch BBS 2007-01-24