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【SSです】幻想でない軽業師
[195]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:51:11 ID:??? ムラサ「ぬえはどうなの? あんたなら身軽でいいでしょ」 ぬえ「ん……」 そして話を振られたのは、この命蓮寺に居候をしているぬえである。 ムラサの言う通り、彼女はこの命蓮寺において大きな役割というものは持っていない。 住んではいるが、お勤めを手伝う訳でもなく。日がな一日ぶらぶらしている。 一番身軽であり、一番暇を持て余しているのがぬえだった。 ならば留学に行って貰っても問題無いのではないか、というムラサの意見は至極まっとうなものだったが……。 ぬえ「……留学ってさ、要は強くなりに行くって事だぬぇ?」 小町「そりゃそうだろう。 交流だなんだってのも目的としちゃあるだろうが、強くなるのが1番の主目的さ」 ぬえ「(強くなる、強くなるぬぇ……)」 ぬえ本人としても、今以上にサッカーの実力をつけたいとは思っている。 そういった意味では、このサッカー留学というものも悪くは無いと考えていた。 ただ、例えば――この留学をしてぬえがレベルアップをして帰還をした所で、 果たしてそれが命蓮寺を一気に強豪クラスのチームに押し上げるかというと疑問に思う。 ぬえ「(永遠亭は今でもなんとかなるとは思うけど……紅魔館はうちよりも強いだろうし。 他にも橋姫のチームや地霊殿とかは……うん、厳しそう。 何より守矢にはまず勝てぬぇよね)」 意地が悪くて天邪鬼であるぬえであったが、その根本は仲間への思いやりで溢れていた。 普段の生意気な口の利き方なども、要はその裏返しである。 故に、この時も彼女は全体として――俯瞰的にチームの事を見て、自身に出来る事を探していた。 確かに留学をしてぬえ自身が強くなる事も一つの手である。だが、それは他の者にも出来る。 ぬえ「(……うちの強みって、オータムスカイズみたいに全員を名有りで固められてるって事だぬぇ。 戦争は数だよって偉い人も言ってたし、うん……)私もやりたい事があるからパスだぬぇ!!」 ムラサ「えー……」 よって、ぬえまでもこの留学の件を断った。
[196]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:53:04 ID:??? となれば他に行けそうな人物など、そう多くは残っていない。 この命蓮寺の代表である白蓮を除けば、自然と絞られてくる。 一同は一度、視線を椛へと集中させ――これを受けた椛は、やや俯きながら、苦笑しつつ口を開く。 椛「……申し訳ないッスけど、自分も妖怪の山の仕事がありますから。 3年なんてとてもとても……」 ナズーリン「ああ……まあ、そうなるだろうね」 元々彼女も妖怪の山に所属をしており、手に職を持つ妖怪であった。 哨戒天狗として組織においても下っ端に位置される彼女が、3年間もの長い間……。 仮に守矢神社などからの指令でならばともかく、命蓮寺の為にと仕事を休むという事が出来よう筈もない。 椛「(それに……サッカー留学をしても、ねぇ)」 ただ、それ以上に椛がこの話を受け入れられない理由もあった。 Jrユース大会から既に数日が過ぎていく中、多くの者たちはあの敗戦から立ち直り始めていたが、 椛の中では未だに尾を引いている。 かつてオータムスカイズに在籍をしながら周囲の成長に後れを取り、チームを立ち上げ始めたばかりだった命蓮寺へと移籍。 当初から今まで、得意とするブロックと数少ないサッカー経験者として主にディフェンス陣を引っ張ってきた。 練習などによる成果が芳しくない時もあったが、それでも努力を重ね、 魔界Jrユースではレギュラーとして起用される程には成長をした。 それでも負けた。完膚無きまでに。 椛「(反町さんどころか……魔理沙やリグルのシュートすら止められなかったッス……。 今更、自分がサッカー留学した所で……この差が埋まるんスかねぇ……)」 強くなっても強くなっても、差は縮まるどころか逆に広がるばかり。 自信を喪失しつつあった彼女が乗り気になれないのも、無理からぬ事だった。
[197]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:54:05 ID:??? ならば――と、一同は視線を縁側へと向けた。 ここまで話し合いに一度として参加をしていない……この命蓮寺のキャプテン。 白蓮「佐渡くんは……どうでしょうか?」 佐野「………………」 いつものように名前を間違える白蓮に、もはやツッコミを入れる事なく。 佐野満――椛同様、ボッコボコのケチョンケチョンにしてやられてしまった男は、縁側で静かに黄昏ていた。 ナズーリン「……やめておいた方がいい、聖。 今の彼には心の休養が必要だろう。 それと、彼の名前は佐野だ」 小町「元気だけが取り柄って感じだったのにねぇ……」 椛「(無理無いッスよね……)」 幻想郷へと戻ってきてからというもの、佐野はいつもこうであった。 命蓮寺で生活するようになって規則正しい生活が身についた為に朝は早朝に起床をし、 食事もしっかりと取り、手伝いなどもするものの、暇があればいつも縁側で黄昏るばかり。 無暗やたらとやかましく、根本的にアホで、割と一同からは呆れられる事も多かったかつての姿は潜めていた。
[198]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:56:07 ID:??? その原因といえば、やはりあの大敗が原因なのだろう――と、一同は考える。 反町より後に幻想郷へと呼び出され、命蓮寺へと所属をし、これまで切磋琢磨をしてきた。 幻想郷内の大会で栄光を掴み、かつてからは想像も出来ない程の力をつけた反町に対し、 羨望と嫉妬とを混ぜたような複雑な感情を持ち合わせていた佐野。 そんな彼が初めて反町と対峙をしたのは、命蓮寺としての練習試合。 全幻想郷以上の猛特訓を繰り返して挑んだその試合に――しかし、佐野達はボッコボコにやられた。あまりにもあっさりと。 そこまでならばまだ佐野も立ち上がれた。頼れる仲間と師匠と共に、リベンジの機会を伺った。 だが、そのリベンジの機会がどういう結果になったのかは――先述の通りである。 得意のキープもある程度成功しようと、相手はその上を行く超火力で蹂躙する。 ダブルスコアをつけての大敗。 椛「(普段明るい人程、落ち込んだ時に立ち直るのが遅いって言うッスけど……)」 ぬえ「……バッカみたいだぬぇ。 いつまでもメソメソしててもしょうがないのにさ」 いつものぬえの悪態が鈍る程度には、佐野の気落ちは目に余るものだった。
[199]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/08(木) 23:58:19 ID:??? 一旦ここまで。
[200]森崎名無しさん:2018/02/09(金) 02:18:11 ID:??? 乙でした 佐野くんすっかり大人しくなっちゃってまあ 復活の軌跡楽しみに待ってます
[201]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/10(土) 00:24:30 ID:??? となると結局、誰も留学に行かせる者がいなくなるという結論になってしまう。 その後も一同は喧々囂々と議論を重ねるのだが……。 魅魔「ちょいと邪魔するよ」 白蓮「あら?」 星「ああっ、魅魔さん! お久しぶりです!」 不意に聞こえてきたのは、件の佐野の師匠――魅魔の声であった。 佐野の師匠として普段から命蓮寺で過ごしていた彼女であったが、Jrユース大会が終わってからというもの、姿を見せない。 一体どうしているのだろうかと思っていた所にようやく姿を見せ、白蓮や星は喜ぶのだが。 ナズーリン「一体今までどこをほっつき歩いていたんだい? 先代の博麗の巫女殿は……今は神社にいるらしいが」 魅魔「いやなに、魔界の連中についてあたしゃあっちに戻ってたんだよ、色々と話もあったからね。 幻想郷に戻ってきたのはつい昨日の事さ」 ムラサ「それならもっと早く顔を出してくれればよかったのに……」 魅魔「そうしようとも思ったんだけど、ちょいと野暮用があってね……ほれ」 言いながら、魅魔が身を翻すとその背後から人影が現れる。 決して大柄という訳ではない彼女の背中に隠れる程の小柄、しかしながらこの場にいる全員がよく知る顔。
[202]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/10(土) 00:25:53 ID:??? 魔理沙「よう」 小町「あれっ、魔理沙じゃないか?」 普通の魔法使い――霧雨魔理沙の姿が、そこにあった。 魔理沙「しかし……改めて見るとどういう集まりだこりゃ? 寺の連中はともかく、死神に人食い妖怪に白狼天狗。 とんと共通点が見当たらんぜ」 椛「まあ、話せば色々長いッスよ」 魔理沙「じゃあいいや。 そこまで興味はない」 魅魔「バカタレ、興味が無かろうが話くらいは聞いとけ。 少なくとも、あたしがそこそこ長い間滞在したチームの事だ」 パコッ 魔理沙「いてて」 相変わらずの憎まれ口を叩く魔理沙の頭を引っぱたきながら注意をする魅魔。 いつまでも師匠面されて嫌になる、と肩を竦める魔理沙だったが――その表情が実に楽しげに見えたのは錯覚ではないだろう。 魅魔と魔理沙の関係性について、命蓮寺に所属をする一同は既にあらかた説明されており、 なるほど、幻想郷へと戻ってきた彼女が魔理沙の元へと向かうというのもわかる話であった。 白蓮「昨夜は魔理沙さんの所にお泊りになられたんですか?」 魅魔「ああそうさ。 しかし酷いもんだったよ、そこら中に物が散乱してて寝るスペースすら取れやしない」 魔理沙「普通だぜ」 呆れた様子の魅魔も、しかし嬉しげであり……そんな中、視線を彷徨わせて縁側で佇む、もう1人の弟子に目をつける。
[203]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/10(土) 00:27:08 ID:??? 魅魔「……あいつはまだあの調子かい」 大会後、魅魔が一旦命蓮寺のメンバーから離れ魔界へと向かった際、彼女の気がかりとなったのが佐野の事である。 試合中、点差が決定的となった時から糸が切れた人形のように脱力し、試合が終わってからも立ち直る素振りすら見せなかった。 果たしてそんな彼を置いていって大丈夫か――と、後ろ髪を引かれながらも、 しかし、今後を考えて神綺たちと共に魔界へと戻った。 その期間中に、佐野ならば地力で立ち上がってくれるだろうと考えてはいたのだが……。 生憎と、魅魔の期待通りにはならなかったのは、一目見ればわかってしまう。 魔理沙「……魅魔様」 魅魔「ん……」 それは魔理沙から見ても明らかなものだったのだろう。 殆ど言葉を交わした事が無いと言えど、魔理沙にとって佐野は弟弟子である。 今、佐野に何が必要なのか――姉弟子である彼女は誰よりも理解しており、視線で魅魔に訴えかけた。 それに魅魔はただ頷くだけで了承し、ふよふよと佐野の傍まで移動をする。 魅魔「どうした、しょぼくれて」 佐野「…………なんだ、師匠か」 魅魔「なんだとはなんだ、久しぶりに会った師匠に対して」
[204]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/10(土) 00:29:14 ID:??? 軽く声をかけてみても、返ってくるのは上の空の返事。 一目魅魔を見て、しかしすぐに視線を虚空へと向けて溜息を吐く佐野を見て、いよいよもって重症だと魅魔は悟る。 魅魔「(落ち込む事こそあれど……こいつはそこまで引きずるタイプには思わなかったがねぇ。 ……まぁ、こういう事もあろうさ)」 体育座りこそしていないものの、ジメジメとした佐野の態度に眉を潜めながら、 それでも魅魔は佐野の隣へと腰かけた。 魅魔「……ちゃんと飯は食ってるかい?」 佐野「…………」 ムラサ「あ、今日の昼食はちゃんと2回おかわりしてたわよ」 魅魔「(……落ち込んでる割にはしっかり食ってるね)」 返事をしない佐野に代わってムラサが答える。 色々と言いたい事はあるが、ともかく、食欲があるのはいい事だとして魅魔は続ける。 魅魔「……そんなにショックだったかい、あの反町くんの事が」 佐野「………………」 無言ではあったが、反町の名を出した瞬間、佐野の体がピクリと震えるのを魅魔は見逃さなかった。 やはりあの大敗――そして、反町と己との格差というものが、彼の中では大きくのしかかっているのだろう。 佐野「………………」 魅魔「……お前さん、言ってたね。 自分と反町くんとやらは、元いたチームじゃ似たような立ち位置だったって」 反町一樹と佐野満。 両者は共に、全日本Jrユースへと召集をされたFWであった。 反町一樹は全国中学生サッカー大会の得点王。 そして、佐野満は初出場ながらもベスト8まで駒を進め、優勝チームである南葛を苦しめた比良戸の2年生FW。 大会でも両者ともに活躍をしたが、しかし、代表での扱いは決していいものではなかった。
[205]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/10(土) 00:31:20 ID:??? 単純な力量不足ではあるものの、反町も佐野も十把一絡げの一員でしかなかった。 反町は単純に、雑魚チームを相手に得点を荒稼ぎしてなんとか得点王を取っただけの凡夫。 そして佐野はキープ力に関してはある程度目を見張るものがあるものの、FWとしては得点力の低さが目立ち、 おまけにそのキープ力についてもチーム内にはもっと上手いものがゴロゴロいるという有様だった。 圧倒的なシュート力を持ち、FWの中でも頭一つ抜けている日向小次郎の相方を任せるに足るサブFW。 その競争の中でも下位に位置をしていたのが両者である。 だが、この幻想郷へとやってきて両者は大きく変化を遂げた。 佐野はドリブルの精度を上げて更にキープ力を増し、不安だった得点力も(椛の力を借りてであるが)ある程度解消。 MFとしても十分通用をするだけのパス精度まで身に着けた。 ……守備については、まるで手つかずであったが。 少なくとも、今、全日本へと戻ればレギュラーが確約されるであろう程の実力は得た。 ただ、それ以上に劇的な変化を遂げたのが反町だった。 元々は帯に短し襷に長し……総合的な能力で言えば日向、来生に次ぐ実力者でありながらも、 尖った部分が無い――長所が無い故に目立たない選手であった反町。 そんな彼はこの幻想郷で、爆発的なシュート力を身に着けた。 必殺シュートを編み出そうとしてたまたま見つけた、ドライブ回転をかけたシュートへの適性。 地道にコツコツと、努力を重ねて身に付いたシュートの威力。 そして、それらを最大限に生かせるだけの精密過ぎるシュートコントロール。 天才とは及ばないまでも秀才とも言える頭脳も武器とし、彼は大きな進化を遂げた。 佐野がレギュラー確定とするならば、反町はまずエースストライカーとしてチームの中心となれる程。 それ程までに互いに力をつけ――そして、その差は開いていた。
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0ch BBS 2007-01-24