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【SSです】幻想でない軽業師
[297]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:14:41 ID:??? ――思えば、さとりがこうして駄目になるまで、こいしとさとりは決して仲が良い訳ではなかった。 悪かった訳ではない。 ただ、こいしの性格上、姉であるさとりに対して大きな執着を見せるという事は無かったのである。 それがさとりの地位が失墜するや否や、こいしは献身的にさとりの為にと動いた。 チームを強くする為にと、フランスの選手たちを鍛え上げ、さとりを懸命に励ました。 フランスの選手たちもそのこいしの気持ちに応えようと――彼らに出来る、精一杯の努力を積み重ねた。 無論、チームの中心人物であるピエール、ナポレオンも同様である。 そんな彼女たち――彼らを見て、ようやくさとりは立ち直った。 自分たちは弱い。だが、弱いのならば強くなればいい。 弱音を吐く心を捨て去り、こいし達に支えて貰ってようやく折れない心を手に入れたさとりは――。 ただ1人で立ち向かう事を決意していた若林源三と、修練に励んだ。 ……その後、さとりは大きく成長を遂げた。 力押しに弱かった貧弱な体は、簡単には吹き飛ばされぬ程に屈強に。 相手の心を読んで行うセービングの速度は、誰よりも速く。 死のグループともされたイタリア、ウルグアイ、アルゼンチン――そして幻想郷と揃ったグループに配置される中。 それでもさとりを有したフランスは、リーグ最終戦である幻想郷との戦いを前に決勝トーナメント進出を決定づけていた。 ……結局、最後の最後で幻想郷には敗れ、決勝トーナメントでも敗退をしてしまった訳ではあるが。 しかし、他国に派遣された選手との実力の違い。 己の大きな成長という点を見せつけられたという意味では、名誉を挽回出来た大会だったと言っていいだろう。
[298]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:16:20 ID:??? さとり「(そう、私はもう十二分に活躍が出来ました……)」 さとりの心中では、まだ、これ以上を望む気持ちは当然ながらある。 何故なら、彼女はまだ反町一樹に一度として勝っていない。 選手個人としても、チームとしても。 幻想郷三大キーパーという称号如何はともかく、ある程度の権威は回復出来たとはいえ――。 未だに彼女自身はリベンジを果たせていないのだ。 本音を言えばそのリベンジの機会が欲しい――その為の、強くなる土壌が欲しい。 ただ、それは出来ない。 だからこそ、彼女は己の心に蓋をする。自分は十分活躍出来た、それよりも大事なペット達にチャンスを与えるべきだと考える。 さとり「(もう十分、十分我儘を通させて貰った。 私がいない間、お燐は本当によくこの地霊殿を守ってくれた……これ以上、皆に負担をかける訳にはいかないわ)」 そう――彼女は一勢力の代表だからこそ、留学には行けないのだ。 無論、彼女がそうしたいと言えば、彼女のペット達はもろ手を挙げて賛成をしてくれるだろう。 さとりの事を愛し、何よりも大事に思ってくれている彼女たちだ。疑う余地は無い。 だが、だからこそ出来ないのだ。 さとりがいなかった間、お燐が――おくうがいつも管理している灼熱地獄の様子を見る事もあって、 てんてこ舞いの忙しさでこの地霊殿を管理してくれていた事をその第三の瞳を持ってさとりは知っている。 彼女たちの負担を考えれば、どうして留学に行きたいなどと言える事が出来るだろう。 さとり「……すぐに答えが出せないのなら、よく2人で話し合って考えてみて。 どちらが留学に行くのか……ね?」 おくう「うにゅ? あれ?」 お燐「(さとり様……本当は自分が1番行きたいのに……)」 さとりの言葉を聞いて、予想外の一言だったのかおくうは首を傾げ……。 お燐はやはり俯いたまま、悲痛な叫びを心の中で上げる。 その声を聞こえない風に装いながら……ふと、さとりはこの場にもう1人いるべき人物がいない事に気付いた。
[299]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:17:23 ID:??? さとり「……そういえばこいしはどうしたのかしら?」 そう、つい先ほどまで考えていた――最愛の妹、こいしの姿が見えない。 いや、見えないのはいつもの事だ。何せ無意識を操る彼女――完全な視覚外から出てきて驚かせるのは日常茶飯事。 ただ、この場――大事な話があるからと言い聞かせていたにも関わらず、姿を見せないというのは変である。 あの大会から帰ってきてからも、今まで以上に姉妹仲が深まっていた古明地姉妹。 基本的に気まぐれであるこいしも、さとりの言う事ならばある程度は聞くようにまで関係は改善されていたのだから。 お燐「ありゃ? そういえばおかしいですね……おくう、なんか知らない?」 おくう「わかんない。 さとり様はわかりますか?」 お燐「……今誰がこいし様の事を話題に出したかね」 ペット達もこいしがいない事を不思議に思い、首を捻る中――。 ガチャッ こいし「やっほー!」 おくう「あっ、こいし様!」 当の本人――こいしが扉を開き、さとりたちが話し合っていた広間へと姿を現した。 またそこらへんをほっつき歩いていたのかと内心不安だったさとりは、 彼女が姿を見せてくれた事に安堵しながらも注意をする。 さとり「言ったでしょうこいし、大事な話があるから広間に集まっていなさいって。 おくうでもちゃんと覚えてやってきたのに……」 お燐「(……まあそのおくうは案の定忘れてたからあたいが引っ張って来たんだけどね)」 さとり「…………ともかく、座りなさいこいし。 もう一度話を……」 こいし「いーよいーよ、もう聞いたもん。 サッカー留学でしょ?」 さとり「…………? こいし、あなた……」
[300]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:18:43 ID:??? 呆気らかんと言うこいしに、さとりは思わず眉を潜める。 もう聞いた――つまり、恐らくは、こいしはきっと最初からこの場にいたのだろう。 そしてさとりがサッカー留学の話をすると共に、この部屋を出て行った。 無意識を操るこいしだ。姿を現さないだけでなく、誰にも感づかれず部屋を出て行く事など造作もない。 それ自体は問題では無い。問題は――何故そんな事をしたのか?という事だ。 まるで訳がわからない、とばかりに混乱するさとりに対して、しかしこいしはニコニコと笑みながら口を開く。 こいし「サッカー留学はお姉ちゃんが行きなよ! 行きたいんでしょ?」 さとり「……はぁ」 お燐「こいし様、それは……」 おくう「あ、そうですよね! やっぱりさとり様が行くんだぁ!!」 お燐「おくう、あんたちょっと黙っときな。 話がややこしくなる」 無邪気に言い放つこいしに対して、さとりは溜息を吐くばかりだ。 先にも言った通り、さとりにはこの地霊殿を離れられない訳がある。 地霊殿の主として、一勢力の代表として、3年間もの長き間を留守にする訳にはいかないのだ。 こいしもその程度の事はわかっている筈だと思っていたのだが、どうやら思い違いらしい。 そう考えたさとりは改めて説明をしなければならないか、と考えるのだが――。 こいし「地霊殿の事でしょ? だいじょーぶ!」 先手を取って、こいしがドン!とそのなだらかな胸をひとたたきし。 こいし「私が責任を持ってみておくから!!」 フンス、と鼻息荒くそう宣言をするのだった。 さとり「…………はぁ?」 これを受けて、さとりは思わずそう呟き返すのがやっとである。
[301]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:20:03 ID:??? さとり「あ、あのねこいし……貴女、何を考えてるの」 こいし「何ってお姉ちゃんの代わりに地霊殿を管理するんだよ! 大丈夫大丈夫、まっかせて!」 さとり「………………」 おくう「流石こいし様! うにゅう、私もお手伝い頑張ります!!」 お燐「いや、いやいや……ちょっと待ちなよおくう」 簡単に言ってのけるこいしだが、さとりから見てみれば無謀極まりない。 というか、屋敷の管理という仕事を甘く見ているのではないだろうか、と感じてしまう。 この旧地獄を預かる地霊殿の役割は、忌み嫌われた妖怪たちが好き勝手暴れていないかという治安維持に始まり、 近隣の皆様との関係を円満なものにするご近所づきあい、おくうやお燐はいいものの喋れないペット達のお世話。 更には灼熱地獄の管理と、多岐に渡る。 特に灼熱地獄の管理についてはペットであるおくう達に任せてこそいるものの、 そのペット達の配属をどうするか、休暇はどうするかなどを決めているのはさとりだ。 各々の特性や性格、能力を考えてシフトを組む為に毎度頭を悩ませている。 さとり「今度冷却担当の班の子が2人揃って長期休暇を取っちゃったからその穴埋めも考えないといけないし、 加熱班の主任が腰やっちゃって復帰時期が未定な分余裕を持ってシフトを組まないといけないし……」 おくう「うにゅ……ギックリ腰でしたっけ?」 さとり「いえ、ヘルニアみたいよ。 ああそうそう、労災についてもまた話し合っておかないと……」 お燐「あ、そういえば来月に中途の採用面接入ってましたね」 さとり「ええ。 それを考えても、今ここを離れる訳にはいかないわ……」 旧地獄という事はかつての地獄。 未だに必要な管理を請け負う事で現在の地獄からは金銭を受け取って成り立っている。 そして、成り立たせているのは全てさとりの能力あってのものだ。 まるでこれまで手伝いもしていなかったこいしが、いきなりやってきて全て出来る筈もない。 さとり「来月頭には経営会議もあるし……あ、来週には視察もやってくるわ。 それまでに掃除もしておかないと」 お燐「……こいし様、さとり様はこの通りお忙しいです。 流石のこいし様でも、さとり様の代わりは……」
[302]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:21:13 ID:??? やらなければならない事は、数えだせばキリが無い。 1つ思いつくとまた1つと仕事を思い出すさとりを横目で見ながら、お燐はこいしを諭すのだが……。 こいし「そだねー、私1人じゃ難しいかも。 でもね」 ガチャッ!! こいし「みんなが力を貸してくれるって言ってるから、大丈夫だよ!」 言いながら、こいしは自分が入ってきた扉を思い切り開いた。 そこから入ってきた――否、なだれ込んできた一団を見て、一同は目を丸くして驚く。 ウサコッツ「さとり様ー、後の事は気にしないで外の世界行ってきてよー!」 さとり「う、ウサコッツ!?」
[303]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:22:35 ID:??? そこにいたのは、地霊殿の誇るぬいぐるみ型ペット――ウサコッツ。 愛らしくとてとてと歩きながらさとりに対して語り掛ける一方、 その後ろからは更に続々とさとりが所有するペット達がさとりに声をかける。 デビルねこ「僕もまだちょっと体の調子が悪いけどさとり様の為に頑張るよ〜」 生活習慣病を患いながらも、健気にさとりの後押しをするデビルねこ。 Pちゃん・改「………………」 何も言わず、無垢な表情でさとりを見つめるPちゃん・改。 ヘルウルフ「さとり様……チュキ!」 チュキかコロチュしか喋れないながらも、精一杯の応援をするヘルウルフ。 アーマータイガー「ウッス! さとり様の為なら俺もあの……頑張るッス! ウッス!!」 力仕事なら誰にも負けない。本当は強いぞアーマータイガー。
[304]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:23:42 ID:??? 「俺が本気出したら2人分の穴埋めくらい軽い軽い、マジで」「空姉さん達とも協力してやってきますから安心してください!」 「くっそー、俺もキャスト・オフ(羽化)出来たらなぁ……」 アリジゴク型のペット、セミ(幼虫)型のペット、更には何故か剥かれて調理される寸前のエビ型のペットまで。 他にも多くのペット達が口々にさとりの留学を願い大挙して部屋へと押し入っていた。 これにはさしものさとりも驚いたものの――一番の驚きは、彼らの言っている言葉が心の底からのものであるという事。 誰もがさとりの事を想い、さとりの願いを叶えたいと想い、助けになろうとしてくれている。 さとり「みんな……」 お燐「で、でも……みんなは元々うちのペットじゃないか。 仕事の戦力としてはいて当然で……」 こいし「皆には今以上にもっと頑張ってもらう。 その分お給料もたんと弾んであげる。 それにね、はい」 言いながらこいしが机に置いたのは、紙の束――。 一体何かと思って見てみれば……それが多数の履歴書である事がわかる。 こいし「ウサコッツたちに求人看板を持たせて立たせたら、これだけすぐに集まってね〜。 穴埋めするには十分だと思うんだ」 さとり「こいし……」 こいし「お金はすっごくかかっちゃうけどね」 そこだけはごめんね、と笑いながら言うこいし。 実際、今いるペット達の労働時間を増やし給料を上げ――更には新たに人材を募集するとなればコストがかかる。 かかるが――しかし、それだけやればさとりの穴は埋まる。 非効率的ではあるだろうが、こいしの案ならばさとりが後願の憂い無く留学に行けるだろう。 さとり「………………」
[305]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:26:16 ID:??? さとりはニコニコと笑みを浮かべ、さぁ面接の日取りを考えないとと意気込んでいる妹を見やる。 彼女の周囲にはウサコッツを始めとしたペット達が群がり、こいしの指示を待っていた。 おくう「私も頑張るよ! さとり様は何も気にせず外の世界で頑張ってきてください!!」 さとり「おくう……」 あまり頭がいいとは言えないが、純真なおくうは――ここまでずっとさとりの留学を望み、それを発言してきた。 彼女の頭ではやはり理解があまり出来ていないが、 それでも今の流れがさとりが留学をするにあたり問題が無くなってきた状況だという事は読み取れたのだろう。 両腕でぐっと力瘤を作る仕草をする彼女が、なんとも頼もしく見える。 お燐「……あたいも、あたいも頑張ります。 3年間……長い期間、さとり様が地霊殿を思って不安になる事もあると思いますけど。 ここはあたい達に任せて下さい」 さとり「お燐……」 対して、何かと聡いお燐も――ことここに来て、ようやく覚悟を決めた。 地霊殿における幹部のような役割を持つ彼女は、さとりが不在の際――まるで地霊殿の運営関連では役に立たないおくうや、 そもそもあまり興味が無く遊びほうけているこいしに代わり、取り仕切る事が多かった。 実際にさとりたちがJrユース大会に参加している間にも、彼女が管理を代行していたのは事実。 しかしながらその膨大な作業量には辟易しており、数か月だけでも大変だったのが3年ともなれば大丈夫なのかと不安にも駆られたが、 それでもこれだけの多くの仲間と力を合わせれば――きっと可能だろうと感じる事が出来た。 何よりも、現実的にさとりの留学が出来そうになってきたのだ。 さとりを心から愛する彼女が、その道を応援しない筈がない。 さとり「………………」 こいしを中心として、具体的にこれからどうするかという話し合いを詰めていく一同。 それを遠巻きに見やりながら、さとりは想う。
[306]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:28:43 ID:??? さとり「(あのこいしが……まさか、こんな風になるなんて)」 他者とかかわる事を恐れ、瞳を閉じた妹。 ペット達と関わる事はあれど、しかし、やはり彼女は気まぐれで深く繋いだ絆というものは無かった。 それがどうだろう。 今の彼女は、多くの者たちから囲まれ、笑顔で話し合っている。 無論、そこにはさとりに対する想いがあってこそ――全てはさとりを想っての行動。 だが、着実に古明地こいしという少女は人との関わり、他者との関わりに積極的になっている。 さとり「(それに、みんな私を想って……)」 思えば自分は恵まれている。 忌み嫌われた妖怪でありながら、これだけ多くのペット達に愛されている。 いくら給金が上がるとはいえ、労働は厳しくなり環境も変わる――にも関わらず、大勢のペット達はさとりの留学を応援している。 否、それはペットだけではない。 考えてみればフランスでも――1つのものを目指して、必死に、懸命に努力をする仲間たちと出会う事が出来た。 コーチという仕事を半ば放棄しても、自分を信頼してくれる仲間たちとサッカーが出来た。 同志と共に、必ずやリベンジをするという誓いを胸に戦う事が出来た。 さとり「(……ありがとうみんな。 私は本当に、幸せ者です)」 地底の奥深く、忌み嫌われた――幻想郷一の幸せ者。 古明地さとりは、そっと目尻を拭いながら一呼吸置くと口を開く。 さとり「……わかったわ。 みんな、後の事はお願い」 お燐「! は、はい!!」 こいし「お姉ちゃんが1番凄いキーパーなんだって証明する為にも、むっちゃくちゃ強くなってきてよね!」 さとり「勿論」
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0ch BBS 2007-01-24