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【SSです】幻想でない軽業師
[317]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:50:13 ID:??? 派遣選手に指名をされて、頭を抱えていた者もいる。 文「あやややや……いやぁ、参りましたねぇ」 妖怪の山に住まう鴉天狗――射命丸文。 彼女は先刻、この妖怪の山に居を構える守矢神社から自宅へと帰ってきたばかりであった。 いつも新聞を書く机に向かいながら、しかしその手はペンを握ってはいない。 握っているのは一枚の紙――そこにはビッシリと細かい文字で何やら書かれているが、その内容は彼女の頭に入ってこない。 彼女が目にしているのはその紙の一番上部にしっかりと刻まれた文字――。 『サッカー留学についての手引きと案内』というものである。 射命丸文という妖怪は、幻想郷サッカー界で見ても上位に位置するサッカー選手である。 速さを生かしたドリブルと、MFとしても通用をするパス技術。 守備面に関しては攻撃能力に比較をしてお粗末であったが、それでも並程度にはこなせる。 そんな彼女が、守矢神社に通達された八雲紫からの『サッカー留学』の対象として守矢神社から指名されたのは当然の帰結だろう。 この話を聞いた当初、守矢神社代表として会議に出席をした八坂神奈子は感じた。 チームにいる選手を1人選んで外の世界に送る――。 外の世界との交流だの、更なる成長を促す為だのといったお為ごかしはともかく。 これが反町一樹達が加入をして大きく戦力を増強させた守矢神社への牽制とする策である事を。 現在、守矢フルーツズに所属をする選手は早苗をキャプテンとし、 神奈子と諏訪子と西尾?という古株の選手たち。 そこに反町、大妖精、レティ、チルノ、ヒューイといった者たちが加入をし、 幻想郷全土を見ても有数の名有り選手を持つ名門チームへと変貌していた。 彼らの能力――特にGKとしての早苗と、ストライカーとしての反町の能力はずば抜けており。 脇を固める選手たちも、一芸に特化していたり、はたまた相応の実力者と隙が無い。 前線、中盤、守備陣。どこを取っても弱点が殆ど無い、高次元でバランスの取れたチームである。 故に、八雲紫はこのバランスを崩させようと選手を留学という名目で離脱させようとしたのだと神奈子は考えた。
[318]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:51:37 ID:??? ……無論、それだけが八雲紫の目的ではない事も神奈子はわかっている。 かといって、この留学に己のチームの選手たちを行かせる事は出来ない。 何せ3年間である。これだけの選手がいれば、まず間違いなく幻想郷で天下を取れるというメンバーだ。 3年間、常勝無敗でいる事が出来れば――神奈子たちが得られる信仰はとてつもないものとなるだろう。 何より、そもそもの話である。 この留学話に行かせてやれる選手自体、守矢フルーツズにはいない。 この件を話した際にも、誰も我こそがと手を上げるものがいなかった。当然だろう。 元々守矢フルーツズにいた早苗、神奈子、諏訪子は幻想郷を離れる事が出来ず、 西尾?にしてもこのチームに愛着を持ってチームに残留をしてくれた選手である。 反町にしても、この環境――そして早苗への想いから移籍をし、そしてヒューイはそんな反町から離れる事を望んでいない。 唯一チルノに関してはこういった事柄に興味を示しそうではあったが、 チルノと片時も離れたくない大妖精がそれを許す訳もない。 レティに関しても、そこまで乗り気という訳でもないのだった。 ならば留学の話を無かった事にする――そういう訳にもいかない。 先に記したように、八雲紫がこの話を持ち込んだのは十中八九守矢神社を警戒しての事である。 ここで留学の話を引き受けないとなれば、果たしてこれから先どのようなペナルティが課せられるのか――。 無論、神奈子としても甘んじてそれを受け入れるつもりはないが、 相手は妖怪の賢者――そして、その他の勢力の者たちも守矢の動きに注視をしているだろう。 足並みを乱す、という真似は到底出来ない。 ではどうするか。 ――適当な人材を、スケープゴートにするしかない。 射命丸文は、正にそのスケープゴートに最適な人材だったという訳である。
[319]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:53:34 ID:??? 守矢神社に直接所属をしている訳ではない。 とはいえ、八坂神奈子が妖怪の山上層部を通じて命じるには丁度いい人材。 妖怪の山という社会に属する鴉天狗としては、上からの命令には絶対服従。 元々妖怪の山自体、守矢フルーツズのサッカーに対して協力的な姿勢を取っていた為にこの指名も既定路線である。 呼び出され、説明を受けた時点で、文自身もある程度上の方での色々面倒ないざこざというのがあったんだろう、 という事も察していた。 ただ、だからといってそう簡単にこの話を受けたくもない。 文「(サッカーする事が嫌いな訳ではないんですが、留学まではねぇ……)」 基本的に幻想郷のサッカーとはアマチュアスポーツである。 趣味や何かの片手間にする者が大多数であり、文もその内の1人だ。 無論、当の八坂神奈子達のように信仰を集める為にしている者もいるし、 己のプライドに賭けて、弾幕ごっこなどだけではなくサッカーでも実力を披露したいという目立ちたがりもいる。 文としても幻想郷最速という異名を引っ提げ、それに違わぬ実力を見せる事に愉悦を感じてはいたものの、 しかし、だからといってそれだけに傾倒をしている訳ではない。 彼女の本業はブン屋。 やはりサッカーは趣味程度のものなのだ。 3年間もの間、幻想郷を留守にしてサッカーに興じるというのは御免こうむりたい。 文「(ただ、命令に背く訳にもいかない。 それこそスケープゴートのスケープゴートでもいればいいのですが……)」 守矢が出すこの指令に、自分以外の者を推薦出来れば問題は解決する。 が、やはりそれも簡単に行く話でもなかった。 文の他にも、妖怪の山に縁のあるサッカーの得意な選手はいる。 いるのだが、その悉くが留学に向かわせる事の出来ない理由を抱えていた。
[320]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:55:00 ID:??? まず第一に文が思いついたのは、同じ天狗仲間である犬走椛や、河童のにとりといった組織の一員。 文が声をかければ、嫌な顔はするだろうがそれでも渋々と従っていた筈である。昔なら。 ただ、今の2人はそれぞれ妖怪の山から離れ――それぞれ別チームの選手として活動をしていた。 無論、それでも行かせるだけなら問題は無いのかもしれないが、 かといって守矢フルーツズと敵対をしているチームの者が留学に行って力をつけて戻ってきた場合、責任の所在は文にあるという事になる。 にとりはともかく椛にそこまでの才覚があるとは文は思えなかったが、 それでも万一の可能性を考えると避けたい事だった。 ではこの山に住まう神様――秋静葉、穣子の姉妹。そして厄神である鍵山雛はどうだろう。 これもまた、無理である。 反町一樹が移籍をした際、静葉と穣子がチームを解体せずにオータムスカイズに残留した。 これは幻想郷サッカー界的には決して小さくないニュースであり、文自身も取材に赴いた事がある。 残念ながら明確な答えを得る事は出来なかったが、それでもその際の態度や様子から、おぼろげにはチームに残った理由も見えた。 即ち、『信仰』の為。 サッカーを通じて名声を得、それを信仰につなげようとするのは守矢神社も秋姉妹も同じである。 彼女たちが守矢フルーツズに移籍をしないというのも、それが可能かどうかは別としてそう取らざるを得なかった理由としては尤もであり。 だからこそ、この『守矢神社から来た』留学という話に、彼女たちが乗る訳もない。 建前はどうあれ、彼女たちは事実上敵対しているも同然なのだ。 鍵山雛に至っては単純である。 厄神である彼女――そこに存在をするだけで災厄を振りまく彼女が、 人間の多く住まう外界に3年間という長い期間行ける筈がそもそも無いのだ。 文「(うぐぐ……せめて、椛がいればなぁ……)」 いなくなってはじめてわかる、部下のありがたみである。いや、別に直属の部下という訳ではないが。 しかしながら、いよいよ文としては困る。 自分は留学に行きたくない。だが、代わりになるような人材も用意出来ない。
[321]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:56:27 ID:??? 今はまだ自宅に話を持ち帰ってじっくり考えてくれと言われただけであるが、 しばらくすれば嫌でも留学に向かう選手として、正式に決定してしまうだろう。 社会において考えておいてくれという言葉は、放っておけば了承を示したものと受け止められてしまうのである。 文「(誰か他に適当な、サッカーが出来る者……妖怪の山にいて、それでいてフリーで……。 って、そんな珍しい選手はもう大体いないか。 今や大体の選手は所属するチーム自体が決まっているし、それこそ最近出てきた新参選手くらいしか……っ!?)」 と、そこまで考えていた文は――ふと机の上に散らばっていた新聞に目をやり、思考を停止させる。 思わずそれを引っ掴み、あまり乗り気ではないもののパラパラと捲っていく。 自分が執筆をした新聞――文々。新聞とは違うそれは、文が他の記者がどのような記事を書くかの研究用に入手したものである。 『文から見れば』稚拙で面白味も無く、そもそも事実無根の妄想ばかりが書き連ねられたような記事ばかり。 おまけに記事の内容自体が、今更フランス国際Jrユース大会の結果や経緯などが書かれたものだった。 あれから既に数週間は経過している。 スピードが命であると考え、その通りに帰郷後即座に新聞を発行をした文からしてみれば、 あまりにも遅すぎるその発刊速度。更には実際に大会に参加をした文に比較をし、外から見ていただけのそれは酷く抽象的だ。 以前、実際にこの感想を記者に素直に文は告げ――その記者は酷く立腹していたのだが。 文「(ただ、それと同時にやっぱり実体験するしかないのかと凹んでたし。 ……サッカーの腕も、最近始めたばかりにしちゃ悪くない)」 一手遅れているその記者は、やはりサッカーも最近始めたばかりの新参であった。 当然ながら文には到底敵わない程度の実力しか持たず、おまけに性格にも難があってどのチームにも所属はしていない。 だが、それでも文が知る限りでは留学に行かせられるだけの実力者でフリーの人材というのはその『彼女』くらいしかいない。 文「(駄目で元々だしね。 割と世間知らずだし、上手く話を運べば乗ってくれるでしょう)」 名案と思しきものがが思い付くと、すぐさま行動に移るのが射命丸文という少女である。こういう面でも彼女はスピーディだった。 彼女は立ち上がるとお供の鴉を呼び出し、我が家を出てその記者の住まうねぐらへと向かう。 家を出た際、閉じたドアの風圧でペラペラと捲れていく新聞――その紙面には、『花果子念報』と記されてあった。
[322]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:58:31 ID:??? 短いですが一旦ここまで。 幻想のポイズン内で出てこなかった新しい東方キャラは、今回の彼女含めて3名を予定してます。
[323]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/28(水) 22:59:03 ID:??? 本日は更新をお休みさせていただきます。 次回あたりから、佐野くんがどこに留学に行くかの発表とかが出来ると思います。 それでは。
[324]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/01(木) 21:23:24 ID:??? 本日も更新はお休みさせていただきます。土曜日あたりに更新出来ればと思います。
[325]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/03(土) 22:58:41 ID:??? 申し訳ないですが本日も更新はお休みさせていただきます。 明日まで、明日までお待ちください(ガレリ並感
[326]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:48:43 ID:??? そして数日が過ぎた。 当初八雲紫がサッカー留学の話を出してから、日数にして数週間。 この頃になると、ようやくほぼ全ての組織からサッカー留学に向かわせる選手の目途が立ち。 また、人員が不足をしている組織からもその最高責任者が他に適任と思しき選手を補填としてスカウトする事も出来ていた。 紅魔館、白玉楼、マヨヒガ、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺、地獄――。 それぞれ8つの勢力からの留学選手。 彼女たちは各自、秘めたる想いを胸にして博麗神社から八雲紫の能力を用いて既に出立をしていた。 佐野「はー……しかし朝はえらい大騒ぎだったな本当」 そんな中、我らが今はまだ幻想郷にいる軽業師は、住まいとする命蓮寺でのんびりと過ごしながら、 今朝方の事を思い出していた。 留学選手に立候補をし、白蓮の期待に応えようと意気揚々と留学に備えていた一輪。 基本的に思い立ったが最後、普段は大人し目であまり目立つ事のない彼女であるが、 一旦火がつくと誰にも止められない程に暴走をするのは以前の何も考えず飛び出した経緯から見ても察して貰えるだろう。 そう、火がつくと止められない――だが、いつまでも燃え続ける火など無い。 当初はやる気に満ちていた一輪も、段々留学の日時が近づくにつれて、 やはり白蓮と離れるというのが寂しく、悲しく、名残惜しくなってきたのだろう。 結局、当日の今日――留学に向かう為に博麗神社に行く直前、 赤子のように、白蓮のそれはそれは豊満な高い浮き球4程あるだろう胸に顔を押し付け咽び泣いた。 これには白蓮はもとより命蓮寺の一同も困り果てたのだが、 最終的には一輪の性格を良く知るムラサの「聖の為にも強くなって帰ってきてね」の一言で全てが解決した。 佐野「イチさんも単純だよなぁ」 佐野に言われてはおしまいであるが、実際の所事実なのだから仕方ない。
[327]幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:49:54 ID:??? ムラサ「……真面目で機転が利き要領がいい性格だったんだけどなぁ、あの子も」 佐野「おっ、キャプテン。 ……イチさんが真面目なのはわかるけど、間違いなく要領とかそういうのはよくなさそうじゃね?」 ムラサ「聖が関わらなければいい子なのよ、ホント」 佐野「そりゃわかるけど……(そーいやなんで皆が白蓮さんの事慕ってるかとか、そーいう理由も俺詳しくしらねーなぁ)」 佐野の言葉に困ったように相槌を打つのは、その一輪の盟友――村紗水蜜である。 呆れ半分にそう呟く彼女の姿に、思えばそもそも命蓮寺の一同が、 聖白蓮の事を異様に慕っている理由を佐野は知らなかったと思い至るのだが、 なんとなくここで聞くのは今更過ぎるような気がして口には出せない。 ムラサ「で? 佐野くんはいつごろ出発なんだっけ?」 佐野「俺もどうせなら他の皆と同じ日にって師匠は言ってたけど……。 まだこねーな師匠、もう昼だってのに」 魅魔の推薦により、魔界からの使者として留学選手に決定した佐野満。 八雲紫の提案した留学計画とは別口の件で留学に向かうのだから、 当然ながら他の者たちと同様、八雲紫のスキマ経由で外の世界に行ける道理もない。 よって、彼はその外の世界への移動手段に関しては完全に発起人である魅魔任せであった。 だが、その魅魔が留学予定日の当時になっても、一向に姿を現さない。 これにはさしもの佐野も、少しばかり焦りを見せるのだが……。 魅魔「あたしゃここにいるよ〜」 佐野「あっ、師匠!」 言っている傍から、ようやく魅魔が姿を現した。 命蓮寺の居住スペースとなっている区画の玄関口。 いつもの間延びしたような、それでいて凛とした決め台詞を聞いた佐野が振り返れば、 そこには果たして、当の魅魔と彼女を出迎えていた命蓮寺の面々――そして。
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0ch BBS 2007-01-24