キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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キャプテン森崎外伝スレ2

1 :森崎名無しさん:2008/09/14(日) 17:18:17 ID:???
キャプテン森崎に関連したサイドストーリー、番外編用のスレです。
進行は小説形式でも参加型でもなんでもアリです。
コテをつけるかは自己判断ですがわかりやすく工夫したほうがいいかもしれません。(名前欄にタイトルなど)
前の人の作品が完結してから次の人は書き始めましょう。好評な作品は独立するのもありです。
ただあまりに過度にキャラを変えてしまうと本編に支障をきたすおそれもあるので程々に。
 
自信がない人もどんどん挑戦しましょう!


137 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:18:00 ID:ZN8LKLp2
「残念ながら、君は、君の体はもう2度とサッカーをすることが出来ない」

神奈川県のとある大学付属病院の一室。
医師はあくまで事務的に事実を伝えた。
それは苦痛に満ちた行為ではあるが、感情を押し殺し、
機械的に振る舞うことこそ患者のためであるというのが
スポーツドクターとしての彼の信条だった。
時に、患者に感情移入しすぎる医者もいるが、彼には
それは判断を鈍らせ、患者に事実を伝えられない可能性も
ある危険な行為に思えた。
だから、今までどんな患者にも平等に接することができたし、
最良の治療、リハビリを選択してこられた、自分の信条に
誤りはなかったと自負している。
そしてこれからもそうやってスポーツドクターとして生きていく、
そう考えていた。
しかし、そんな彼にとっても「日本サッカー界の救世主」
「新時代のヒーロー」とメディアで取り上げられている目の前の
中学生からサッカーを取り上げるということは、耐えがたい
苦痛であった。
(いっそ、ここから逃げ出せたらどんなによいか)
彼は同じ言葉を、もう一度、口にした。
もしかしたら、医師にとっても辛すぎる事実を口にすることで
少しでもその重圧から逃げたかったのかもしれない。

「君は、もう2度とサッカーができないんだ」


138 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:19:35 ID:ZN8LKLp2
時間は遡る。
静岡県のとある中学校のサッカー場に少年の姿はあった。
先日、フランスで行われた第1回国際ジュニアユース選手権に
おいて優勝という栄誉を勝ち取った日本代表の主力選手として
活躍した彼は、日本だけでなく世界からも注目される選手となった。
そして、間もなく世界への扉が開かれる予定だった。
なんと、ブラジルのプロチームに入団することが決まったのだ。

日本を発つ前に、ともに闘ってきた仲間たちに、そして自分を
慕ってくれた後輩たちに自分の持てる技術を全て継承して
外国に行きたい。
それは自分の存在を忘れないでほしい、そんな気持ちが生んだ
行為だったのかもしれないし、日本のサッカーレベルを
上げたいだけなのかもしれない。
周りで見ている大人たちの頭には色々な理由が思い描かれた。
しかし、一緒にプレイしている仲間たちには分かっていた。
ただ、こいつはサッカーが好きなんだ。
1秒だって長く、サッカーをしていたい。
飛行機に乗るまで。
いや、飛行機に乗っているときだって。
そんなサッカー馬鹿な彼を仲間たちは信頼していたし、
大好きだった。
だから、彼が外国へ行くことはとても寂しいことだったが、
見送りのときにも決して悲しい顔をしないようにと陰で
話し合って決めていた。
一足先にブラジルに旅立ったライバルに追いつけるよう、
日本に未練が残らないよう、笑顔で送り出してやろうと。

139 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:21:06 ID:ZN8LKLp2
しかし、悲劇は起こった。
大きな大会が終了しても、彼のメンタルは弛緩することはなく、
動きはいつもどおりだった。
いや、ブラジル行きが決まって以来、彼の動きはいつも以上に
キレていた。
そのキレが悲劇を生んでしまったのかもしれない。
自らドリブルで切り込み、サイドに流れたところで一気に
ボールを逆サイドに送ることで相手の陣形を崩し、さらに
ウイングがセンタリングを上げ、ポストプレイからチームの
点取り屋がシュートという得意の得点パターンを後輩に
受け継がせるべく、手本を見せていたときだ。
「いいかい、山森。このプレイの鍵はいかにすばやく逆サイドに
ボールを送れるかにかかっている。常に、そのまま切り込むのか、
それとも逆サイドにはたくのかという選択肢を持っていることを
相手にも意識させないと効果は薄い。見ていろ」
ドリブルで突っ込み、そのまま相手の陣地奥まで行くかに見えたが、
一瞬で体の向きを変えて逆サイドにパス。
見慣れた光景だったが、山森はいつもその動きを美しいと思っていた。
授業でならう、どんな音楽より、絵画より、彫刻よりも。しかし……
「!?」


140 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:22:24 ID:ZN8LKLp2
ボールは全速力で走る滝がギリギリ届く地点に落ちた。
そのボールは数メートルのドリブルの後、ペナルティエリア
やや奥にいた井沢に向けての高いパスとなり、ヘディングで
斜め前に落とされたボールに来生が合わせる。
バシュ!
と小気味の良い音を立てながら、ボールはゴールネットを揺らす。
横で見ていた後輩たちから歓声が上がる。

「こらこら、感心してどうする。来年からはお前たちがこれを
やるんだぞ」
自称ナンバー2の井沢が後輩たちを諭す。
「ま、俺レベルの点取り屋がお前らの代から出られるかは
分からないけどな」
空気の読めなさはワールドクラス、来生。
「しかし、相変わらず正確なロングパスだよな……って、おい!」
滝(出っ歯)が逆サイドを振り返ると、そこには呆然と立ち尽くす山森と、
腰を押さえながらグラウンドに倒れている少年の姿があった。


141 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:25:22 ID:ZN8LKLp2
そして、また病院へと話は戻る。

「君は、もう2度とサッカーができないんだ」
医師は3度、同じ言葉をつぶやく。
「君の腰は度重なる激戦で傷を負ってしまっている。正直、
現代医学では治しようがないんだ」
「そんな。だって、プロにも腰や脚に爆弾を抱えながらも
第一線で活躍している選手はいるじゃないですか。それに、
先生に診てもらってからずっと楽になったし、走ったり、
ジャンプしたりもできるんですよ」
「そうだ。君の体は日常的な運動はできる。いや、野球や
バレーボールといった他のスポーツならいくらでもできるんだ。
しかし、しかしだ。サッカーだけはできんのだよ」
「意味が分かりません!どういうことですか!?」
「……人間の腰には『サッカー筋』と呼ばれる筋肉がある。
サッカーボールを蹴る、ヘディングする、キーパーだったら
キャッチするといったときにだけ動く筋肉だ。これは損傷しても
日常生活に支障がないが、決して治ることはない。今まで損傷した
事例があまりに少なく、また治療の必要性も他の怪我に比べて
小さかったことから研究が不十分で、世界でも専門家はいない」
「そんな『きん肉マン』みたいな科学を信じろっていうんですか!?」
「信じようが信じまいが、それが事実だ。君がサッカーを二度と
できないということは変わらない」
厳しい顔をしながら医師は少年に世界で唯一というサッカー筋の
専門書を見せながら症状について丁寧に説明していった。
その態度は機械的であったが、どこか優しさが感じられた。
それが同情なのか、憐みなのか、もっと別の感情からきているのか
中学生の少年には分からなかったが。


142 :タイトル未定:2008/09/23(火) 20:28:16 ID:ZN8LKLp2
医師の説明はこのようなものだった。

サッカー筋はサッカーボールを扱う行動にのみ働く筋肉であること。
大人になってから損傷することはほとんどなく、世界のプロ選手が
サッカー筋を損傷した事例は未だないということ。
体のできあがっていない小中学生が損傷することがあるが、
別の道に進むため困ったことはなかったこと。
正直、他の病気や怪我の研究で手一杯で、サッカー筋に関する
研究は遅れている、いや、これからもなされないかもしれないこと。



専門書(民明書房刊)を閉じると、医師はまたあの言葉をつぶやく。
少年のサッカーへの気持ちに静かにとどめをさすかのように。

「最後にもう一度言うよ。君は二度とサッカーができないんだよ」



「翼くん」

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0ch BBS 2007-01-24