キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【早苗】鈴仙奮闘記28【サッカー好きか?】

1 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/04/12(日) 22:35:12 ID:???
このスレは、キャプテン森崎のスピンアウト作品で、
東方Project(東方サッカー)とのクロスオーバー作品です。
内容は、東方永夜抄の5ボス、鈴仙・優曇華院・イナバがサッカーで師匠を超えるために努力する物語です。

他の森崎板でのスレと被っている要素や、それぞれの原作無視・原作崩壊を起こしている表現。
その他にも誤字脱字や稚拙な状況描写等が多数あるかと思いますが、お目こぼし頂ければ幸いです。

☆前スレ☆
【復活の】鈴仙奮闘記27【N】
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1425474393/
☆過去ログ・攻略ページ(キャプテン森崎まとめ@Wiki内)☆
http://www32.atwiki.jp/morosaki/pages/104.html

☆あらすじ☆
ある日突然幻想郷にやって来た外来人、アラン・パスカルと中山政男との出会いにより、
師匠、八意永琳に並ぶ選手になると決心した鈴仙・優曇華院・イナバ。

全幻想郷代表選抜大会で活躍し、代表メンバーの一員となる事を夢見てきた鈴仙はある日、
自身が『プロジェクト・カウンターハクレイ』のキャプテン候補に選ばれている事を知る。
それは霊夢や紫達幻想郷に敵対し、以て幻想郷の価値観を覆すという壮大な計画だった。

永琳から告げられた計画の壮大さに戸惑う鈴仙。しかしさらに追い打ちを掛けるように、第二の道が示される。
――八雲紫の掲げる狂った計画・『リアル・幻想・セブン』を内部から改革するという道だった。
ヒューガーの科学技術により精神を蝕まれた、幻想郷の管理者・八雲紫を救いつつ、これまで通りの幻想郷をより良くしていきたい。
紫の忠実な式・八雲藍は自らの身の危険をも辞さず、鈴仙にそう理想を語った。

幻想郷を変える為に戦うか、幻想郷を守るために戦うか。そもそも、自分は何の為に戦うのか。
そう思い悩む鈴仙の前に、かつて姿をくらました中山政男が圧倒的な力を手に、再び戻って来た。
新しいヒーローの出現に幻想郷中が湧く中、鈴仙は中山の姿に何を想うのか。

現在は決勝トーナメント第1回戦、守矢みらくるずとの対戦中。
試合はルナティックスが後半22分に3−1と優勢だが――早苗、サッカー好きか?

401 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:21:38 ID:???

白狼天狗「……所属と名前を」

射命丸「従八位、治部省広報局付少属の射命丸文です。中務省から召集命令があり馳せ参じました」

白狼天狗「かしこまりました。臨査の会場は四階の第二会議室です」

射命丸「ありがとう」

庁舎入口の警備を務める壮年の白狼天狗に先程の通知文を見せる。
彼は機械のように淀みない口調で射命丸に案内図を手渡してくれた。
広報局――鴉天狗として新聞作成を業務としている射命丸は、政務の中心たる庁舎に行くことは珍しい。
現に警備担当の白狼天狗や、専ら事務を務める庁舎内の鼻高天狗達は、鴉天狗の少女を好奇の目で見つめていた。
射命丸は彼ら彼女らの下卑た目線に耐えながら、自動昇降機――外界で言うエレベーターのスイッチを押した。

***

コン、コン……ガチャッ。

射命丸「――射命丸文。只今馳せ参じました」

鼻高天狗「遅いぞ。幻想郷最速とやらが聞いて呆れるな」

四階の第二会議室のドアをノックし入室した射命丸は、早速の高圧的な口調に気圧される事となった。
絨毯敷きの小部屋の中には、射命丸に早速の挨拶をした鼻高天狗の中年を中心に、
5、6名程度の同じく鼻高天狗の青年達が、射命丸と向き合うように座っている。
鴉天狗や山伏天狗は年老いたのが1名ずつ、白狼天狗は1名も居なかった。

射命丸「あやや……これはこれは、誠に申し訳ございません。
きっと私が光よりも早かったが故に、暫くは存在を視認できなかったのではないですかな」

402 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:23:04 ID:???

鼻高天狗「減らず口を。貴様は身の程を弁えるのは、相変わらず苦手なようだな。
まあ……だから何時まで経っても、貴様は小属止まりなのだろうが」

射命丸「………」

臨査――正式には『臨時査問委員会』を実務的に取り仕切るのは、大天狗のような上役ではない。
天狗社会の内政を司る中務省の少輔クラスを中心に、脇を固めるのは大丞から少丞クラスの中堅天狗が、
こうして列席して、気に食わない輩を呼び出しては難癖を付けるのである。

鼻高天狗「……まあ良い。それより、射命丸文。本日の臨時査問委員会で貴様を呼び出した理由。それは分かるな?」

射命丸「――通知文に書いてありましたよ。サッカーチーム運営事業の事ですよね?」

中央の鼻高天狗は欧米人のように長い鼻の頭を擦りながら、鬱陶しげに射命丸に訊く。
射命丸もそれに合わせて鬱陶しげに答えると、周囲の取り巻きが俄かにざわついた。
中央の彼は少輔――外界の企業で言えば次長クラス――であるにも関わらず、
少属――これは主任程度だ――に過ぎない射命丸が反抗的な態度である事は、
上下関係に厳しい天狗社会にとってあり得ない事だった。

鼻高天狗「……式部省の今の大天狗様の意向は知っているな。
あの方は赤字かつ政策的効果の薄いサッカー政策を嫌っておられる。
そして前の妖精大連合との試合だ。あれで貴様等が引き分けた時は……!
――もう、大天狗様や天魔様周囲の秘書局は大混乱だった。
あの場は何とか大天狗様の命を受けた私が報告書を作成し、天魔様に無事お伝えする事が出来たが。
考えてみろ。次にこうした大混乱を引き起こし、様々な方面に迷惑を掛ける事があれば、今の大天狗様の地位がどうなるか……!」

射命丸「……そうですか。それはお気の毒ですね」

403 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:25:03 ID:???
――勝手に混乱してよそに迷惑を掛けているのはアンタ達でしょうが。何を恩着せがましく。
そう口を突いて正論が飛び出しそうになったが、流石の射命丸もこれは不味いと思ったのか言葉を濁した。
ここは天狗社会という組織の中だ。組織の中では、正論は時として通用しない事を射命丸は学習していた。

鼻高天狗「……人間に人気の鴉天狗を広告塔としつつ、サッカーによる多種族との交流を促進していく。
そんな絵にかいた餅、青写真を天魔様がご納得されると思うか?
前の大天狗様にしろ、無理やりこうした政策をねじ込めたのは奇跡だったと言うのに。
―――今の大天狗様となっては、もうそんな奇跡は通用せんぞ。
特に、何一つ結果を出していない、『案外大したことない』幻想郷最速とやらのチームにはな」

『案外大したことない』のフレーズを口にした時、周囲の天狗達から笑い声が漏れた。
『射命丸って案外大したことなくね?』というフレーズは、
元々反権力指向で、その上人間や妖精ごときと慣れあう射命丸を嫌う者達の間で、
一時流行語として良く天狗達の内輪の新聞に用いられていたのだ。
射命丸は自分の顔が熱くなるのを自覚しつつ、黙って鼻高天狗の得意げな笑みを睨みつける。

鼻高天狗「――臨時査問委員会の意義は、お前のやってる蹴鞠ごっこのようなふざけた事業を、
柔軟かつ即座に廃止・見直しする事が出来る点にある。
今回はな、射命丸。貴様に選択権を与える為にこの場を開いてやったのだよ。
つまり。貴様のチーム――妖怪の山FCを不採算事業として大会終了後、即廃止するか。
それとも、事業自体は存続とするが、貴様がこれまでの不採算の全責任を負うかのどちらかをな」

射命丸「……それが選択? どこが選択って言うんですか。
チームを潰して、その後チームを潰した責任を私におっかぶせるか、
チームは潰さないけれど、これまでの責任を即座に私におっかぶせるかの違いでしか無いのでは?
どっちにしたって、貴方はなんやかんや策を弄して、私に責任を負わせる気しかないのでしょう!」

鼻高天狗「……流石に馬鹿ではないか。
貴様なら、この場の保身を考え、前者を選んでくれるのではないかと思ったのだがね」

404 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:26:07 ID:???

射命丸「チームを潰すとなると、なぜ潰すのかの説明責任に問われます。
その時、貴方がたは高い地位を利用して、私に全てを説明させるのでしょう。
『チームがつぶれたのは、わたくし射命丸が無能だったからです。ごめんなさい』……ってね」

自身達のストーリーを容易く看破されたのか、天狗達は暫く押し黙ってしまった。
そして数分の後、鼻高天狗はつまらなさげに鼻を鳴らしてこう提案した。

鼻高天狗「……ならば、条件を変えようか。
私とて、サッカーチームが不採算で無いのなら無暗に責任を追及したり、廃止に動く道理もないのだ。
そして、サッカーチームを再三の取れた事業とするのなら、やはり実績――勝利が必要だ」

射命丸「…………」

射命丸は不敵な笑みを作りつつ、押し黙って、中年の鼻高天狗の話を聞く事にした。
彼はこう告げた。

鼻高天狗「……もしも、次の紅魔スカーレットムーンズとの試合に勝てば、今回の話を全く無かった事にしてやる。
幻想郷の一大勢力である紅魔館に勝利した結果を鑑みて、事業は効果があると、とりあえず当委員会で認定してやろう。
しかし、もしも敗北した場合は――先程の選択で言う後者を選ばせてやる」

射命丸「チームは存続する。しかし、私射命丸が敗北の全責任を負う……そういう事ですね」

鼻高天狗「不満か? 先程よりも随分と良い条件と思うが」

射命丸「不満かと言えば不満ですよ。だって、最初っからこの程度の条件を私に課すつもりだったのでしょう?
最初の無茶な選択は、交渉で良くあるドア・イン・ザ・フェイス。
私が選択の穴を論破する事を見据えた上で、『万一試合に勝利したら、今回の件を不問とする』
という本来の条件を取っておいたのでしょう。
上司に気を遣えない、出世も出来ない愚かな射命丸だったら、こうして条件を提示したら頷いてくれるに違いない……ってね」

405 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:28:00 ID:???
再び室内がざわついた。とはいえそれは先程の無礼な口調に対する憤りでは無い。
部屋の連中はこぞって、自分達の目論見を一瞬で看破した、射命丸の明晰な頭脳と冷静な判断力に驚いていたのである。
射命丸は天狗社会での出世には興味は無かったが、決して無能な訳では無い。
むしろ、彼女さえその気になれば、今真正面で苛立たしげに鼻をこする小人の天狗をも出し抜き、
出世街道を突っ走る事すらあながち不可能では無いのだ。

射命丸「……まあ。とはいえ私は依然弱い立場です。これ以上の譲歩を引き出すのは難しいのでしょう。
――ですから、私はどの道この条件を呑むしかないんです。
だから今のは万年主任な私の、負け犬の遠吠えだと思っててください。
次長様課長様がたにこれ以上、無礼な発言をしてはいけませんからね」

鼻高天狗は何か言いたそうにしていたが、冷や汗を垂らしながらも気丈な射命丸の抗弁を前に、
最初のような高圧的な口調をする事が出来なくなっていた。
彼は射命丸が自身の条件――次の紅魔スカーレットムーンズとの試合に勝利すれば、チーム及び射命丸には手を出さない――
を呑んでくれた事で一応満足し、彼女を部屋から退室させた。

山伏天狗「……あれが射命丸文か。確かに、彼女は現体制にとって脅威だろうよ」

委員会の中で珍しく鼻高天狗で無い老人――新聞の印刷業をかつて管理していた山伏天狗の少丞はそう呟いた。
彼だけは『射命丸って案外大したことなくね?』というフレーズを聞いた時も、下卑た笑いを浮かべて居なかった。

山伏天狗「現状の権力に擦り寄らず、人間や妖精と言った、かつて我々が見下し侮っていた種族とも交流を深めている。
あの委員長や今の大天狗様のような保守派にとっては、射命丸文はさぞ不気味な存在だろうよ」

かつて守矢神社が山に建った事で、博麗の巫女が予告なく妖怪の山に立ち入った時、
かつての大天狗が、並み居る白狼天狗の剣豪や鼻高天狗の高級事務官を寄越さず、
万年主任の無能記者である筈の射命丸文をみずから指名して、監視と足止めに向かわせた事を彼は思い出す。

山伏天狗「(……結局の所、サッカーチームの低迷だとかは取ってつけた言い訳にすぎん。
今の無能な事務連中は、何としてでも自分達の秩序を乱しかねん射命丸文を消したいんじゃろうな)」

406 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:34:35 ID:???

彼の見込みは概ね当たっていた。しかし彼はひとつ勘違いをしていた。
鼻高天狗や今の大天狗が、異様な存在感を放つ射命丸を排除したいと考えていたのは間違いない。
しかし、射命丸は彼が思っているよりも素晴らしい人物では無かった。つまり……。

射命丸「(まずいわね……このままでは。全責任を負うとなると、私はきっと――追放となる。そうなったら、私は……)」

――先の委員会の場にて、射命丸は気丈に振る舞っていた。それは間違いなく彼女の器量と才能だった。
しかし同時に彼女は超人では無い。組織から完全に見放される事に対して不安を覚えていない訳が無かった。
ただ、吐き気がする程無能な奴らに土下座をしてまで、命乞いをする気にはなれなかったのである。
有能な大物の仮面を外した先にある彼女は、案外大して強くなかった。

射命丸「(はたてや椛に相談――は、やっぱり出来ない。
私がどうにかして、レミリア・スカーレットに勝利し。そして、チームも試合に勝てるようにしないと……)」

そして悪いことに、射命丸はプライドの高い天狗達の中でも取り分けプライドが高い。
だから、今回の件について、友人に相談する事すら出来なかった――いや、相談するという発想が無かった。
そのため、彼女は悶々とした一日を過ごす事となり。
そして――射命丸の運命を左右する試合開始が、今彼女の眼前へと迫っていた。

407 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 15:41:07 ID:???
>『射命丸って案外大したことなくね?』
ひゅいぃぃ…これで笑ってたのって私たちのことじゃん…ごめんねぇ…

408 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 15:44:50 ID:???
……と、言った所で一旦ここまで。
次は漸くスカーレットムーンズとの試合の中身に移っていきたいと思います。
>>389
射命丸についてはどうなるか、何となくは考えていますね。乙ロットありがとうございます。
>>390
乙ありがとうございます。射命丸は妖夢よりは芯が強いと思いますので、聖徳チーム行きは多分大丈夫です。
>>392
乙ありがとうございます。前々の選択で、一応射命丸の問題に絡めるチャンスはありはしましたね。
(レミリアから)三失点以内なら出来るかもです。
>>394
チームが低迷しているというのは建前で、実際は厄介な射命丸を消したいと考えていたのでしょうね。
>>396
早苗さんで良かったです(ダイヤ、スペード、クラブAを見ながら)
姫様と射命丸の組み合わせは面白そうですが何か大変な事が起きそうですねw

それでは、一旦失礼いたします。

409 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 15:45:46 ID:???
妖夢「追放は最高なんですよ…」
矢車「みんなで歩いて行こう、ゴールのない暗闇の中を」
射命丸「あなたたちだけですよ、私のことを大事にしてくれるのは…」

やっぱり話の流れ的にはミサキーヌよりこっちの方かな?乙です

410 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 21:30:15 ID:???
射命丸が追放されそうなのも鈴仙って奴の仕業なんだ

411 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 23:00:51 ID:???
レヴィン「シャメイマルさんだね? 最速ドリブルを破壊に使わなかった、君が悪いのさ」
射命丸「あやや!? 追放された私に声をかけるのは貴方ぐらいですよ」
レヴィン「ソニックブームって知っているかい? 音速を超えた風はあらゆるものを破壊できる」
射命丸「あやや! コスモストライカーという漫画に載っていた、伝説のドリブルですね」
レヴィン「そういうことさ。僕についてくれば、君ならマスターできるはずだ。嘲笑した世界など、破壊してしまえばいい!」
射命丸「…ふふふ、追放されて全て失った私にはふさわしい。レヴィンさん、私も破壊神になります!」
レヴィン「さすがは物分かりがいい方だ。アヤさん、二人で世界を破壊しまくろう!」
射命丸「ステファンさん、死ぬ気でしごいてください!」

射命丸「あやや〜、案外大したことはないと抜かしましたね〜。ステファンさん、ソニックブームで破壊しましょう!」
レヴィン「了解。アヤさん、僕達の全力で破壊するぞ!」
射命丸・レヴィン「「これでジェノサイト、破壊神! ツインソニックブーム発動!」」

下手にクラブAを引いてこうなったらどうしよう…((((;゜Д゜)))

412 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 23:07:38 ID:???
ミサキーヌか、地獄兄弟か、破壊神あややか
ろくな選択肢しかないのも鈴仙って奴の仕業なんだ

413 :森崎名無しさん:2015/05/05(火) 23:08:09 ID:???
おのれ鈴仙

414 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/05(火) 23:59:27 ID:???
すみません、今日はもう少し更新したかったのですが、
付き合いでのアルコールが中々抜けないものでして、更新を休ませていただきます。
代わりに、また明日更新出来ればと思っています。
>>409
乙ありがとうございます。射命丸が最終的にどうなるかはなんとなく決めてありますね。
>>411
復讐の破壊神化するのも面白そうですが、多分大丈夫ですw

それでは、皆さま、本日もお疲れ様でした。

415 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 01:15:37 ID:???
>>411


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  ぃ_f_⌒"´.        ,ト、入_
  `'.ー┘.        └┴‐‐`'

416 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:33:54 ID:???
−妖怪の山・モリヤスタジアム−

レミリア「……さて。死ぬ準備はできたか、天狗?」

射命丸「…………」

レミリア「って、アレ? 元気ないわね。どうかした?」

射命丸「……何でもありませんよ。貴女には関係の無い事です」

レミリア「ふーん。ま、別に良いけどさ」

――射命丸が天狗の上官連中からの詰問を受けたその翌々日。
とうとう全幻想郷選抜大会第一回戦第三試合、
妖怪の山FC対紅魔スカーレットムーンズ戦の幕が開こうとしていた。
フィールドには既に多数の観客がごった返しており、
その中には射命丸に辛辣な言葉を投げかけていたあの鼻高天狗の姿もあった。

射命丸「(あいつ。私達が負けると踏んで、高みの見物に来たわね……。
ふん。普段はサッカーなんて、これっぽっちも興味が無い癖に)」

実況「さあ! 間もなくキックオフとなり、両チームのキャプテンがにらみ合っています!
妖怪の山に住まう天狗や河童、厄神やその他諸々の種族が集まった妖怪の山FCは、
紅魔館の悪魔に魔女、下っ端メイドや門番達が結束した紅魔スカーレットムーンズに、どう立ち向かうのでしょうか!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

審判「……コイントスを」

射命丸「ええ。……分かりましたよ」

417 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:35:17 ID:???
観客席が盛り上がり、審判はコイントスを促す。
射命丸はそれらを苛立たしげに一瞥すると、一歩上がってセンターサークルの中央に立つ。
視線が一斉に射命丸に集まると、心ならずも冷や汗が流れる。射命丸はぎゅっと瞳を閉じて、祈るようにコインを投げた。

椛「(なんか、いつもの文さんじゃないような……)」

はたて「(――文。もしかして、緊張してるの……?)」

そんな様子は、普段から何事にも物怖じしない彼女らしくなかった。
一部のチームメイトは、明らかに様子のおかしい射命丸の様子に強い違和感を覚えるが、
悠長に話をしている暇は、もはや残されていなかった。


―――ピィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

そして、試合は始まった。先攻権を得たのは幸先の悪い事に紅魔スカーレットムーンズ。
先日の試合に引き続き、魔法で喘息による時間制限を克服したパチュリーがトップ下に置かれ、
CFにはフランドールとレミリアの超強力布陣が敷かれている。
そんなスカーレットムーンズを迎える妖怪の山FCは4−3−3の布陣で臨んでおり、
必然と、前線でボールを持ったレミリアをFWの椛と反町とで迎え撃つ事となるが――。

418 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:36:37 ID:???
−−@−− @にとり
C−B−A C河童 B穣子 A河童
−−D−− D静葉
G−−−E G雛 E天狗
−−I−− Iはたて
−−−−−
F−−−− F射命丸
−−H−J H椛 J反町
妖怪の山FC:4−3ー3
紅魔スカーレットムーンズ:4−4−2
−H−J− Hフラン Jレミリア
−−−−−
−I−G− Iパチュリー
−−−−− 
−E−F− E咲夜 F小悪魔
−DBA− 
−−C−− C美鈴
−−@−− @陸

レミリア「遅い!」

ドガッ! ドガガガガガガッ!!

椛「そ、そんなー!?」

反町「ぐ、ぐわぁぁぁっ!!(なんだこのドリブル!? まるで、西ドイツのシュナイダーみたいじゃないか……!!)」

ファーストプレイは、完全にレミリアの圧勝だった。
椛と反町のタックルでは、レミリアの三拍子で繰り出されるダイナミックなドリブル――『スカーレットマーチ』に為す術も無い。
二人とも実力を出すよりも先に、大きくフィールド上に身体を叩きつけられる。

419 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:38:06 ID:???
射命丸「く、くうっ!」

シュバッ!

レミリア「おや。あんたが積極的にプレスに来るなんて珍しい。でもね……」

バシッ……。

パチュリー「――これは僥倖。厄介なWGが釣り出せたわね。 ――フランっ!」

グワァァァッ、バゴオオオオッ!!

射命丸「し、しまった! 私とした事が……!」

前線が早々に突破された事に焦った射命丸は、
思わず持ち場の左サイドを離れて、レミリアによる中央突破を防ぐべくタックルに向かう。
しかしこれは明らかな失策。レミリアは悠然と後方のパチュリーへとバックパスをすると、
パチュリーは射命丸が空いた左サイドのスペースへとロングパスを撃ちこむ。
そこにはフランドールがしっかりと位置取りをしていた。

パシッ。

フラン「ありがと、パチェ!」

はたて「あー、もう! 文ったら先走っちゃって……! ええいっ! 『スピードタックル』よ!」

ギュンッ! ズザアアアアアアアアアアアアアッ!!

雛「……私も手伝うわ。――創符・『ペインフロー』ッ!!」

ゴオオッ、ズザアアアアアッ!!

420 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:39:33 ID:???
フラン「……なにさ、そのくらい! 『過去を刻む時計』で、グチャグチャにしてあげる!」

グルンッ……! ダッ! ……バチイイッ!

前線を易々と突破された妖怪の山FCの中盤、
トップ下のはたてと左サイドハーフの雛が、それぞれの必殺タックルを武器にフランドールへと詰め寄る。
フランドールは必殺ドリブルで彼女達を躱そうとするが、はたてと雛も決して実力の低い選手では無かった。
二対一でのタックルは、フランドールのドリブルコースを阻めて一旦はボールを零す事に成功するが――。

コロコロコロ……パシッ。

咲夜「妹様、もう一度お繋ぎいたします!」

射命丸「……!(――咲夜さんにボールを取られた!
もしも私が焦っていなければ、彼女の代わりにフォロー出来ていたのに……!)」

ここで射命丸の焦りが完全に裏目と出てしまう。射命丸はボールをフォローできず、
代わりに少し上がり目の位置に居た、紅魔スカーレットムーンズのボランチである咲夜にボールをフォローされてしまった。
咲夜はタックルに向かった椛を自慢の『ザ・ワールド』で軽く受け流すと、
パチュリーを経由して、再びボールをフランドールへと渡す。
さしものはたても、幻想郷トップレベルのパチュリーのパスは素通しせざるを得なかった。

フラン「ふう。ありがとね、咲夜! それじゃあさっそく……!」

グワァァァァァァァァァァァッ!

フラン「みんなこわれちゃえ!! ――『スターボウブレイク』ーーーッ!」

バッ……ゴオオン! ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ……!!

421 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:40:51 ID:???
にとり「ひゅ、ひゅいいいいっ! き、来たぁぁぁぁぁ!! の、『のびーるアーム・改』!!」

ウィィィ〜……ン。 ガチャッ……。

穣子「お、お姉ちゃん!?」

静葉「ええ。『オータムスカイラブブロック』ね!」

ガシッ! バァァァァァァァァァァァァァン!!

穣子「秋よ〜〜〜〜! 遠き秋よ〜〜〜〜! ま〜ぶ〜た〜! と〜じれば〜そ〜こに〜〜〜!!」

最初にシュートに出たのは、紅魔スカーレットムーンズのフランドール。
持ち前の強烈なキック力を生かした弾丸シュート・『スターボウブレイク』で
にとりや穣子、他の河童たちが全力で守るゴールをこじ開けようとする。
あまりにまっすぐ過ぎるフランドールのシュートに対し、妖怪の山FCの守備陣も奮戦するのではないか。
射命丸はそう一縷の望みを託したりもしていたが――現実は残酷だった。

ゴオオオッ……! ドガンッ! ドゴバギグシャッ!!

穣子「そ、そういや今ってもう秋だったーー!?」(※このスレの時間軸では今は10月です)

河童A「……だ、駄目……!!」

にとり「お、おいいいいっ!? まだ試合開始直後だよ!! そんなイキナリ失点するわけがな――!」

ドゴオオオン!!

にとり「ひゅひゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!?」

―――ズバァァッ、バギバギバギ、メリィイッ!!
      ……ピピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

422 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:42:16 ID:???

フランドールの恐るべき脚力から放たれたシュートに、妖怪の山FCの最終ラインは一瞬で瓦解。
勢いを付けてブロックに飛んだ穣子は弾き飛ばされ、河童Aは得意の『ダイビングブロック』すらできずに吹き飛び、
ゴールキーパーのにとりは自慢の『のびーるアーム』ごと、シュートの威力を受けて水平に吹っ飛んで、
ボールと一緒に仲良くゴールネットを突き破ってから、コンクリート製のフェンスにめり込んでしまう。

フラン「やった〜〜〜!! ゴールだっ!」

射命丸「(そんな……。まだ試合開始から5分と経っていないのに。このままでは、私はやはり追放……)」

躊躇い無く審判から鳴らされるホイッスルを聞き、飛び上がって喜びを表現するフランドール。
絶望の表情で、深々とフェンスに突き刺さったボールとにとりを眺める射命丸。
妖怪の山FCの凌辱試合の幕開けとしては、相応しい状況だった。
そして、射命丸にとっても、ここからが本当の地獄だった。

射命丸「何ですか1点くらい! 幻想郷最速の脚で、ゴールを奪ってすぐに返してみせ――」

タッ……!

咲夜「……る、訳には行きませんわ。 こちらも仕事ですので。 ――食らいなさい、『幻惑ミスディレクション』!!」

ギュンッ! ズッ、ズザァァァッ! バシュゴォォォォォォッ!! ――バチイイイッ!!

射命丸「なっ……!(馬鹿な……! 咲夜さんは確かにタックルの名手でしたが、一対一なら私の方が有利だった筈なのに……!)」

咲夜「随分驚きのようだけど。私だって、少しは練習していたのよ。――これ以上、お嬢様の顔に泥を塗らせないようにね」

射命丸が自慢としていた幻想郷最速のドリブルは、以前までの輝きを見せては居なかった。
永遠亭ルナティックス、そして先の聖徳ホウリューズとの敗戦を経て、
紅魔スカーレットムーンズもまた、その実力を大きく向上させていた。
射命丸のドリブルは、幾度となくボランチを務める紅魔館のメイド長・十六夜咲夜のタックルに阻まれてしまう。

423 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:44:22 ID:???
射命丸「はぁ、はぁ……!!」

反町「射命丸さん……! ここは一旦俺に! 『トリカブトパス』で折り返します!」

そんな様子を見るにみかねた反町が、言いたい事をハッキリと言ってまで射命丸の援護を申し出るも――。

射命丸「……いえ。紅魔にはパスカットの名手のパチュリーさんが居ます。
反町君の必殺パスでも、容易く阻まれるのがオチでしょう。だから、ここは私が――!!」

タッ!

反町「ああっ……!(――た、確かに普通の局面だったらそうかもしれないけど。
射命丸さん、あんなに飛ばしていて、大丈夫なのか……? 体力、持つのか……!?)」

射命丸「(……私は、結局弱い。あれだけ普段偉そうに振る舞っておきながら、
いざ組織から追い出される段になると、焦りと恐怖が止まらない……!!)」

射命丸の内心は既に飽和状態であり、反町の言葉を聞く猶予すらなかった。
そして、そんな射命丸の焦りに追い打ちを掛けるように――。

メイド妖精D「み、みんなー! 私達の決死のタックル、天狗にも見せつけるのよーー!」

メイド妖精B「お、おーう!!」

メイド妖精A「メイド特攻……!!」

タッ、タッ、タッ……。

射命丸「(囲まれた!?)――じゃ、邪魔です! さっさと通させて貰い……」

424 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:45:38 ID:???
メイド妖精「「「――ス ラ イ デ ィ ン グ 部 隊ーー!!」」」

ズザアッ、ズザアッ、ズザアッ、 ――ズザァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!

射命丸「(えっ、嘘! 早い……!?)――きゃぁぁっ!?」

バギイイイイイッ! ―――バシイッ!!

メイド妖精A「……あ、あれっ!? ボールが私達の手元に……?」

メイド妖精B「わ、私達、もしかして………!」

メイド妖精D「天狗さんに、勝っちゃった……!?」

実況「あ……あ〜〜〜〜!! これは妖精メイド達、お手柄だ!!
何と幻想郷最速と名高い射命丸選手のドリブルを……何と、スライディングタックルで完全に奪ってみせました〜〜!!
これは素晴らしい大物狩り!! 射命丸選手、ここは油断したか〜〜〜!?」

美鈴「や、やったあ! ナイスですよ、皆!!」

陸「アイヤー、何アルか。幻想郷最速ってのも、案外大したことないアルね」

――幻想郷屈指のタックラーである咲夜ですら無く。
名もなき妖精メイドにすら、得意のドリブルが破られてしまった。
実況が驚きに満ち溢れ、メイド妖精達が自身の途轍もないファインプレーに、試合中である事も忘れて抱き合い喜び、
紅魔スカーレットムーンズの最終ライン――DFの美鈴とGKの陸は安堵の溜息をもらす。

425 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:46:46 ID:???
……そして、陸が何の悪意も無く呟いた『案外大したことない』というフレーズ。
それを、一部の悪意ある観客も同時に呟いていた。
無論、妖精に足元を取られて、無様に転がってしまう射命丸に対してである。
誰かがこう言った。

観客「……射命丸って、案外大したことなくね?」

そのつぶやきは、大雨の前に空から零れる水滴の如く小さかった。
しかし、それは誰の何の意図も無く、少しずつ伝播していく。

「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って……案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね!」
「――射命丸って案外大したことなくね!?」「射命丸って、案外――大したこと、なくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」

射命丸「……やめろォ」

その反対に、射命丸が顔を伏せながら呟いた拒否の意志は伝わらない。
そうしている内に、観客席中から妖怪の山FCに対する大ブーイングとともに、
あのフレーズは嵐の如く射命丸に対して叩きつけられる事となった。

「ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」
「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」「射命丸って案外大したことなくね?」


射命丸「やめろ……やめろ……やめろォ………!!」

426 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:48:23 ID:???
容赦なく叩き付けられる、統一されたワンフレーズ。射命丸は今の自分がどんな顔をしているか、知りたくなかった。
知りたくなかったから、立ち上がって、馬鹿のようにボールへと追いすがっていった。
試合はまだ前半15分。試合終了まで55分以上も残されている事を、射命丸は考えないように努力した。

試合はもっと最悪だった。
前半15分の時点で、レミリアが『マスターオブレッドサン』をにとりから決めており2−0となっていたが、
射命丸が妖精メイドから奪われたボールがパチュリー経由でフランドールへと渡っていた。
低い浮き球を受けたフランドールは、かつてにとりを観客席へと吹っ飛ばした『495年の波紋』を放ち。
それは当然穣子や河童Aを巻き込みつつ、にとりを再び観客席へと招待して、前半18分で3−0。

射命丸の精神的、肉体的疲労著しいと判断した副キャプテンのはたてはそこから、
自分と反町、椛を中心に試合を展開させようとした。
この作戦は暫くの時間を稼ぐ事には成功するが、最終的には彼女達の力不足が目立った。
パチュリーはおろか、レミリアのパスカットにすら耐えられずボールを渡してしまい、
そこからレミリアが単騎でドリブル突破し、一対一でにとりをゴールごとふっとばし、前半23分で4−0。
そして――。

フラン「よーし! 前半でハットトリック決めちゃうんだから! 喰らえっ、『スターボウブレーイク』!!」

グワァァァッ、バゴオオオオオオンッ!

にとり「ち、ちっくしょ〜〜! そう何度もやられてたまるか〜〜〜〜!!」

ガチャッ、ウィィィ〜〜〜ン! ――バギイイッ!!

フラン「あっ! そ、そんなぁ〜!」

427 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:51:35 ID:???
試合は前半ロスタイム。反町達の地味な奮闘もあり、試合は4−0のまま何とか持ちこたえていたが――。
しかし、フランドールの鋭いパワータックル――『レーヴァティン』が発動し、ボールは再びスカーレットムーンズに。
油断したか、それとも余裕か。フランドールはそのまま、30メートルの距離からロングシュートを敢行し。
もはや普通にキャッチする事を諦めたにとりは、愛用の機械を威力減衰用の盾として、
自分の腹でボールを受け止める事を決意する。その作戦は功を奏し、フランドールのシュートは高空へと打ち上げられた。

にとり「はぁ、はぁ……! よっし。どうだ……! 守ったぞォ……!!」

にとりは勇気を出した作戦が成功した事を息を荒げながら喜ぶ。
腹は内臓が全てグチャグチャになったかのように痛かったが、それでも達成感があった。
後半戦がまだ残されている事を一旦忘れ、にとりは晴れ晴れと秋空を見上げた。

レミリア「――大した度胸だ。河童は概して臆病者と聞いていたが、あんたは例外みたいね。
どう? 良かったらウチの家来にならない? 今なら世界の半分でもくれてやるけど」

にとり「……ひゅ、い」

――そこには、昼であるにも関わらず、夜の帝王が空中に鎮座していた。
彼女はオーバーヘッドキックの体勢で、にとりの鼻先にあったボールを今まさに捉えんとしていた。

レミリア「……あ。でも今はホフゴブリンを雇ったから人手過多なんだっけ。じゃあいいや」

グワァァァッ……!!

空中であるにも関わらず、レミリアは見事なバランス感覚で大きくその右脚を振り抜いた。
それは、まさしくあの『マスターオブレッドサン』だった。
ただ一つ違ったのは、そのシュートが空中にある分威力が増幅されていた事くらいだった。
レミリアは勇気ある河童を称え、全力での処刑を行った。

428 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:53:17 ID:???

レミリア「――『バイシクル・レッドサン』!!!!」

カ ッ !!

ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!バギイイイイイイイイイイイイイイッ!!
――ズバァァァッ!
ピピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!

……ピッ、ピッ。 ――ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!

射命丸「……………あはは。こりゃあ確かに……案外……大したことない……ですな」

前半終了を告げるホイッスルの音は、今の射命丸にとってはむしろ癒しだった。
彼女は公然と泣きながら、レミリアがフィールドに穿った特大のクレーターをポカンと見つめていた。


紅魔スカーレットムーンズ 5 − 0 妖怪の山FC  前半終了!

429 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:54:42 ID:???

大会得点ランキング(表記はメインキャラのみ):
12ゴール レミリア
11ゴール 鈴仙
8ゴール  フランドール
7ゴール  勇儀
6ゴール  来生、射命丸
5ゴール  魔理沙、屠自古、星、諏訪子
4ゴール  森崎、神子
3ゴール  早苗、霊夢、反町、謎の向日葵仮面
2ゴール  神奈子、ピエール、メルラン、天子、赤蛮奇、空、佳歩
1ゴール  妹紅、咲夜、美鈴、サニー、リリーB、ぬえ、響子、永琳
       影狼、藍、幽々子、幽香、針妙丸、パチュリー、小田、椛、岬

大会アシストランキング(表記はメインキャラのみ):
6アシスト パチュリー
5アシスト 霊夢
4アシスト てゐ、神子
3アシスト 早苗、ピエール、小町、小悪魔、マミゾウ
2アシスト 森崎、反町、はたて、岬、空、お燐、ウサギB
1アシスト 鈴仙、影狼、大妖精、橙、諏訪子、アリス、レミリア、
       衣玖、針妙丸、リリーW、ルナサ、ぬえ、永琳、妹紅

430 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 17:55:58 ID:???
……と、言ったところで一旦ここまでです。
後半は妖怪の山FCのターン! ……に、なると思います(汗)

431 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 19:03:53 ID:???
これはむごい…さあ、助っ人の謎のキックホッパーの出番だ

432 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 19:34:34 ID:???
破壊神あやや&レヴィン降臨か、魔王反町降臨しか勝ち目無さそうじゃね?

433 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 19:39:01 ID:???
にとり「もうだめだ、おしまいだぁ…!」

434 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 20:08:01 ID:???
これ試合終了じゃなくて前半終了なのか

435 :森崎名無しさん:2015/05/06(水) 20:47:52 ID:???
組織から追放、ZECTから追放された影山がなんとなく思い浮かぶ

436 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:49:02 ID:???
−妖怪の山FC 控室−

はたて「にとりの調子はどう……?」

雛「――取りあえず、医務室の酸素カプセルに入って貰ってるわ。
ひどく吹っ飛ばされてるけれど、目立った外傷は無かったから、後半には無傷で復帰できると思う」

穣子「ひどいシュートだよねー、もう。嫌になっちゃうよ!」

――前半を0−5の圧倒的劣勢で折り返す事となった妖怪の山FC。
そのハーフタイム中の控室は凄惨たるものだった。
にとりを始めとする守備陣は、試合に支障が無いとはいえ、
レミリアやフランドールのシュートにより精神的に大きな痛手を負っており。

椛「強いですね。紅魔スカーレットムーンズ……」

はたて「うん。……正直、私の予想以上だった。8月の試合の時より、全体的にかなり実力が上がってた。
それも新シュートを引っ提げたレミリア・スカーレットや、
前後半通して動けるようになったパチュリー・ノーレッジだけじゃない。
メイド長に門番に小悪魔に、それこそメイド妖精まで含むような、全選手が強くなってた」

反町「(まるで、世界が違った。俺が強くなっても、やっぱり上は圧倒的過ぎた……!)」

また、はたてや椛や反町、雛や静葉と言ったFW・MF達も、
同じポジションの選手としての、レミリアやパチュリー、咲夜達の大きな力量差を実感していた。
打開策は、どこにも無いように思えた。

437 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:50:04 ID:???
はたて「(それにしても……)」

とりわけ。

はたて「(――文のヤツ。一体どこをほっつき歩いてんのよ……。もうすぐ、後半が始まっちゃうじゃない)」

――妖怪の山のキャプテンにして、唯一この絶望的状況を打破してくれる存在が、
ハーフタイム直後から姿をくらましている事が、チームメイト達の士気をことさらに下げていた。

***

−妖怪の山スタジアム 廊下−

射命丸「…………」

射命丸は、紅魔スカーレットムーンズの控室前の廊下をうろうろと歩いていた。
ミニスカートの小さいポケットに手を突っ込んで、所在無げにさまよう姿は極秘取材を想起させる。
しかし、射命丸が考えていた事は違っていた。彼女のポケットの中には一包の薬品があった。

射命丸「(――この私が、通りすがった天邪鬼ごときの甘言に乗ってしまうなんて……!)」
チームメンバーに合わせる顔が無く、だからと言って全てを投げ出して逃げ出す勇気も無く。
ハーフタイムになると、射命丸は控室に入らず「外の空気を吸いたい」と、フィールド周辺をぶらついていた。
その時、彼女は人里でちょっとした騒ぎを起こしているらしい天邪鬼の少女と出会った。
彼女は妖怪の山の幹部連中以上に下卑た笑顔を湛え、射命丸にこう言ってのけた。

天邪鬼「へへへ。天狗サマとあろう者が『案外大したことない』とは、大変でしたなぁ〜。
これはお悔しい! 私はね、貴女のような有能な方がこうした辱めを受けるのが、本当に耐えられないんです!
貴女こそ、本来天狗社会の上に立つべき方! そう! 今こそ下剋上の時なのです!」

その少女は矢印をあしらったスカートをはためかせ、白いブラウスの胸についた青いリボンを揺らし、
あくまで当人なりに清楚さと可愛らしさを演出しているようだった。
……そのあまりに邪悪な表情のせいで、騙される者はどこにも居ないようだったが。

438 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:51:38 ID:???

射命丸「貴女は……知っています。レジスタンスを装い、各地で人妖問わず破壊工作を行っている天邪鬼。
鬼人正邪ですね。――だとしたら退きなさい、下衆が。
私は確かに案外大した事ないですが、貴様のような者の言う事を聞く程、落ちぶれてはいないわ」

正邪「まあまあ。こっちは何か命令をしようと思って、こう話しかけた訳ではありませんよ!
ただね、有能過ぎるが故に上司に干されてるかわいそーな天狗様に、一つプレゼントを贈ろうとしただけです」

現に、射命丸にその悪名が轟いている事を看破された天邪鬼――鬼人正邪も、
射命丸を騙せなくて残念そうにしている様子では無かった。
現に、彼女はこれ以上交渉する気も無く、射命丸の手に無理やり錠剤を押し付けると、そのまま去っていったのである。
去り際に、素の乱暴で粗雑な口調で、その錠剤に関する説明を行いながら。

正邪「へへ。それはね、私が永遠亭ってトコからくすねて来た、一級品の下剤だよ。
本当は永遠亭の薬剤管理のずさんさについて、マスコミにチクろうと思って持ってたんだけど、それ使いなよ。
スカーレットムーンズの、あのケンジャケンジャ偉そうな、何故か下剤が似合うあのもやし女にでもさ!
魔法使いでも関係ない、きっと一発でトイレが恋しくなっちゃうよ。
ほら、困ってるんだろ? 同期の鼻高天狗に『幻想郷最速が聞いてあきれる』とか、
『案外大したことない』とかバカにされてさ、追放までチラ付かされて……!」

射命丸「……こいつ! 何故そこまで知って――!」

射命丸が下剤を片手に振り向いた時、既に正邪の姿は消えていた。
何の背景も無い筈のチンピラ妖怪如きが、何故天狗の集落の臨時査問委員会を――。
いや、委員会の開催と射命丸への処遇案については、多くの天狗の新聞で取り上げられている。

射命丸「(だけど。――何故……私とあの気に食わない鼻高天狗とが同期である事を。
そしてしかも、非公開の会議録を見ないと分からないような情報を知っているの……!?)」

射命丸は天邪鬼への怒りと得も知れぬ不安感を覚えていた。
その上、それから数分後。――そんな外道で信用ならない天邪鬼から託された下剤を手に、
自然と足が紅魔スカーレットムーンズの控室へと向かっていた自分自身に、射命丸はひどく戦慄していた。

439 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:53:24 ID:???

射命丸「(普段の私なら、あんな外道から渡されたもの、一つ残らず消し炭にしていたのに……!)」

――射命丸は、愛おしげにポケット内の丸薬を撫でている自分が心底嫌だった。
結局彼女は鬼人正邪を外道と罵っておきながら、
その外道から託された一発逆転のチャンスに恋焦がれているのだ。

射命丸「(……確かに、パチュリーさんを封じ込めるという戦法は利にかなっている)」

スカーレットムーンズの脅威と言えばレミリアとフランドールだが、彼女達二人はこの前半戦で飛ばし過ぎた。
恐らく後半は暫く温存しつつ、中盤の要であるパチュリーを攻めにも積極的に登用してくる可能性が高い。
また、そうでなくても、パチュリーさえいなくなれば、レミリアやフランドールにボールが渡る確率も減る。

将を射止めんとするならばまず馬から。
パチュリー・ノーレッジは間違いなく、レミリア・スカーレットという規格外の大将を唯一御す事の出来る名馬。
射命丸はこの時図らずも、如何にしてパチュリーに下剤を飲ませるかという事に執心していた。

射命丸「(かつての取材記録によると、パチュリーさんはハーフタイム中、
家来の小悪魔に必ずと言って良いほど メローイエロー を買って来るよう命令していたとか。
だったら、小悪魔さんを何らかの手段で脅して、飲み物に砕いた下剤を混入すれば――!)」

射命丸はおもむろに、胸ポケットのネタ帳を取り出して小悪魔を騙す脅迫状を書いてみる。
自分に足が付く事を恐れた射命丸は、そういえば先日はたてが紅魔館に取材に行っていた事を思い出しながら、
こんな一連の文章を書いた。

440 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:54:59 ID:???
〜小悪魔へ〜

先日は貴重な情報ありがとう。
今日は私も絶対負けられない試合なの。それは前も言ったわよね?
そこで小悪魔ちゃんにお願いがあるの。
できる限り、今日の試合でパチュリーさんの足を引っ張って欲しい。
小悪魔もパチュリーさんに無理をさせて喘息を悪化させるより、
今日の試合でスッパリサッカーを諦めて普通に付き合ってほしいわよね?
何より、先日の話をケチ臭いパチュリーさんが知ったらどう思うかしら・・・
それじゃあよろしくネ!

                                       姫海棠 はたて

射命丸「……うむ。これぞ我が新スキル・『パチュリー殺し』。
これを使えばきっと後半戦の難易度もルナティックからハード位にはなるわね。
はたてにはちょっと申し訳ないけれど――」

はたて「だーれに申し訳がないって?」

射命丸「ひゅいいっ!?」

――そして射命丸は、脅迫状を書くのに必死で、
すぐ近くに来ていたツインテールの少女の存在に全く気が付かなかった。
勝手に偽の脅迫状をねつ造されかかった姫海棠はたて本人が、射命丸を探しに来ていたのである。

射命丸「あ、あややややや!! これは奇遇ですねはたて。貴女も外の空気を吸ってたのですか!?」

はたて「……外って、ここ別に廊下じゃない。あんたこそ何してたのよ。
キャプテンの癖にハーフタイムのミーティングサボって。敵チームの状況でも、今更嗅ぎまわろうとしてたの?」

射命丸「あー。えーっと。いえ。はい。そうですね。そんなところですね!」

441 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:56:42 ID:???
慌てて取り繕う射命丸の姿は、それはそれではたてにとって珍しい物ではあったが。
はたての興味は射命丸の態度では無く、その片手に書かれたネタ帳に移っていた。

はたて「ま。いいや。それで何か分かったのー?」

バシッ!

射命丸「あっ! こら、はたて! 人のネタ帳を勝手に覗き見するのは犯罪ですよっ!!」

はたて「いいじゃんいいじゃん。情報交換ってヤツよ。何だったら今度、私のだって見ても良いし……って。えっ?」

はたては無遠慮にも射命丸からネタ帳をぶんだくる。
それ自体は普段はたてがやっている(射命丸の方がもっとやっている)行為であったが、
今の余裕の無い射命丸は、全く無警戒だった。……はたての名義で書こうとしていた脅迫状も含めて。

はたて「ちょっとー。全然何もないじゃん……、って。あっ! この脅迫状ってヤツが弱点!?
えーと、なになに。小悪魔へ。先日は貴重な情報ありがとう………」

射命丸「あっ……ちょ、それはダメです……!」

はたては途中まで音読していたが、その本旨が書かれているあたりから次第にトーンが小さくなり。
最後の方は手をプルプルと震わせながら文章を黙読していた。

はたて「――それじゃあよろしくネ! 姫海棠 はたて……」

射命丸「……………」

射命丸は何も言えなかった。はたては驚き半分、泣き顔半分で射命丸を見ていた。
そして手だけでなく、泣きそうな顔までも思いっきり震わせて――。

442 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:57:47 ID:???
はたて「文の……! 文の、バカ!!」

――バシイインッ!!

はたては射命丸の右頬を思いっきり平手でぶった。射命丸は抵抗する気力も無くガタリと廊下で崩れ落ちた。
スカートのポケットから丸薬と説明書が落ちたので、はたてが拾い上げた。
説明書にはその丸薬を「速攻性下剤 ミスギキラー」という名称の薬品である事が記載されていた。

射命丸「あやや……すみません。つい出来心で。
大丈夫です、ホンモノはそうですね。下剤というか薬品繋がりで、永遠亭の……そうだ、鈴仙さんの名前にでもしときますよ」

射命丸は始め戸惑っていたが、すぐに普段の軽薄そうな笑顔で適当な弁解を告げた。
しかしはたては、自分の名前が借用されたことに対して怒っていたのではない事は明白だった。

はたて「……バカ。バカ……! 私は、そんなアンタを尊敬してたんじゃないのに!!」

射命丸「はたて……」

はたては射命丸の弁解で、更に泣き顔を強めていた。

はたて「……今まで引き籠りのダメ記者だった私が、外に出よう。自分の目で世界を見つめ直そう。
天狗社会だけじゃない。幻想郷の色んな風景、出来事、人や妖怪の真実を出来る限り、新聞として留めようって。
――そう考えるようになったのはね……。文、あんたのお蔭なのよ……!!」

はたては啜りながら、射命丸に告白する。射命丸はぼうっとした表情でそれを聞いていた。

はたて「――確かに、私は最近悩んでるアンタに冷たかったかもしれない。
でも、それはね。アンタがどんなに苦しんでても、いつもみたく機転を利かして小賢しく!
新しい、誰も見た事も無いような道を示してくれるからだって信じていたから!
だから、アンタがどんな道を選んでも、私はアンタの味方で居たいって……そう思ってた。だけど!」

443 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/06(水) 23:59:38 ID:???

はたては説明書ごと、丸薬を射命丸にむかってブン投げた。射命丸には大したダメージも無さそうだった。

射命丸「……だけど、何よ? 私がどんな道を選んでも、味方で居てくれるんでしょ?
だったら認めてよ……。こんなクソみたな手段に訴えてまで、汚く勝ち残ろうとする私を認めてよ!」

はたて「認めるわよ、アンタが本当に自分の意志で選んだ事だったら! でも、違うじゃない!!
アンタは隠してるつもりだろうけどね! 私のおじい様は、アンタが出てた臨査の委員だったのよ!
だから全部知ってる! アンタが追い詰められてる事も、それで勝たなくちゃ追放だって揺さぶられてる事も!
でもそれって、『組織の一員としての射命丸文』の意志であって、『私の友人の射命丸文』の意志ではないじゃない!」

射命丸「……それは屁理屈よ、はたて。組織に属するってのは、自分の意志だけでは動けなくなるって事。
そこに『組織の一員』だとか『はたての友人』だとか、そんな感情は入らないのよ。
大体、はたて。これで私が負けたら追放なのよ?アンタは私に会えなくなって辛くないの?」

はたて「辛いわよ! でも、アンタがここで自分の矜持とかプライドとかを捨てちゃって。
それで、組織っていう得体の知れない物に呑みこまれてしまう方が、もっと辛いもん!!」

射命丸「――話を変えるけど。 ……私はね、組織にとっての不協和音なんですよ。元から」

はたての熱の籠った告白にも耳を貸さない風に、射命丸はより一層軽薄そうな顔を強めた。

射命丸「組織の一員ってのは、皆なべて周囲の和を乱してはならない。
バランスがあってこそ、ハーモニーというものが成り立つんです。
私はその中でも長年、組織の方々が流す美しいハーモニーを邪魔して来た。だから、その報いが漸く訪れたんですよ。
私の事を崇拝してくださるのは結構ですが、はたて。私みたいな天狗になっちゃあいけませんよ。
それじゃあ出世が出来ませんし、周囲からも嫌われます。前者はともかく、後者は割ときついモンですよー。なんたっ……」

――バチイイッ!!

はたてはもう一度射命丸をぶった。

444 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:02:45 ID:???
はたて「何よ? こっちは折角自分の想いを言ったのに、そっちはまた屁理屈?
『自分みたいな価値の無い天狗のする事なんてほっとけ』とでも言いたいの?」

射命丸「……そうですよ。それで何が悪いんですか」

はたて「――嘘だよ。ホントは文、自分の事気にして欲しいクセに。
ただ皆に会わす顔が無いからって、自分の本当の気持ちを曲げて。
それで、そんなちっぽけなプライドを守るために、偉い事だけが取り柄な天狗に理不尽な命令されて。
こうして悪事に手を染めて……! それで私が何か言ったら、『自分みたいなダメ天狗気にするな』だなんて……!」

はたてはそのまま崩れ落ちて泣きだした。もう、どうすればいいのか彼女にも分かっていなかった。

射命丸「……はたてが、私の事を想ってくれるのは分かったわよ。本当に……ありがと」

数分後、射命丸は座って俯いたまま小さく呟いた。

射命丸「――でも。本当にこっちが聞きたいわよ。私だって本当は下剤なんて使ってまで勝ちたくない。
でも、このままだと負けて追放。一体、どうすれば良いの……?」

はたては未だにすすり泣いたまま。射命丸の疑問に答える者はいない。

カッ、カッ。 シャーーーッ

射命丸「(この、音は……)」

……いや。いた。その人物は近づくと、上手な犬の散歩を駆使して、廊下で蹲る射命丸達を喜ばせようと奮闘を始めた。
その人物はキリリとした表情で、ヨーヨー片手にこう言った。

椛「タイマンで痴話喧嘩。関心しないな、鴉天狗」

――彼女の名は犬走名人……じゃなくって犬走椛。
下っ端白狼天狗としてたびたび射命丸やはたての業務をサポートしている、彼女達のもう一人の友人だった。

445 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:04:21 ID:???
椛「――私は事情は分かりませんが。文さんは人のジュースに下剤を入れるような方じゃないと思いますよ。
なぜなら、文さんも真のサッカー選手だからさ!!」

カッ!(←椛がキラキラ光る眼をドアップで映してる時の音)

射命丸「……も、椛! アンタまで来てたのね……」

椛「すみません、文さんにはたてさんまで居なくなっちゃったモンですから。
っていうか、皆も来てます。皆、文さんが何だかんだで心配だったんですよ」

射命丸とはたてが顔を上げると、そこには反町と秋姉妹、にとりと雛、
名もなき天狗に河童達までもが椛に続いて、心配そうに射命丸を覗き込んでいた。

はたて「……あれ。っていう事は。今までの話、全部筒抜けだったりした……?」

椛「うーん。まあ。途中から、はたてさんが文さんをぶった位からは」

はたて「う、うそーーーっ!」

射命丸「あややや……。こりゃあ、どうしようも無いですね。合わせる顔もありません」

椛「何言ってるんですか、文さん。顔ならありますよ!」

射命丸「はいはい、どーせ『笑顔さ!』でしょう?」

椛「……はい」

446 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:07:15 ID:???
穣子「でもさ。笑顔ってやっぱり大事だよ! それに友達の八橋ちゃんが言ってた!
音楽ってのは、一見不協和音に見える音も混じった方が、より綺麗で奥深い音楽になるんだってね!」

静葉「ええ……。敗北とは、傷つき倒れる事では無い。そうした時に、自分を見失った時の事を言うと思うわ。
だから……強く心を持って。そして、……最後まで、ジタバタしましょう」

反町「(静葉さんのメンタルが逆に強くなってる……。まるで勇者の家庭教師みたいだ……)」

にとり「私はもう吹っ飛ばされたくないけど……」

雛「大丈夫よ。私達が守るから」

最初瓦解寸前まで落ち込んだ妖怪の山FCのメンバーだったが。
射命丸とはたてのやりとりを聞いている内に、射命丸の抱えた真なる悩みを知った事から、
彼女達の思いは少しずつ変わっていた。

にとり「――でも、気に食わないよなぁ。天狗の偉様とはいえ、私達のチームにまで口出しするなんて」

穣子「そうだよ! 例え相手が強くっても、最後まであきらめずにやっぱり頑張るよ、私!」

椛「……文さんは割と皆に嫌われてもいますが。それでも、いなくなると寂しいって考えるヤツも結構多いんですよ。
でも、それは自由で、何事にも囚われなくて、ずうずうしくて、傍若無人で、鬼には遜る癖に河童とか私達には偉そうで、
気まぐれで、皮肉屋で、イジワルで、新聞たまに捏造して、……でも、そんな文さんが好きだからです。
組織のイヌになって、ズルい事や犯罪に手を出す文さんなんて、それこそ皆が去っていきますよ」

射命丸「……椛。――アンタ、結構口悪いわね……」

はたて「――で、でもそう。椛の言う通りよ! 私もそれを言いたかったっていうか」

最後に、はたてが恥ずかしそうに射命丸の方を向き直り……射命丸にこう告げた。

447 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:08:59 ID:???
はたて「――色々言っちゃったけど、もう一度だけ言うわね。私は、文が自分の意志で居る限り。
文がどんな道を選んでも、離れ離れになったとしても――。絶対に、私は、文の仲間だから」

それはとあるサッカー少年が、悩んでいた彼女にアドバイスしてくれた言葉だった。
彼の影響は少なからず、この天狗達に。そして妖怪の山FCのメンバーの考え方に対しても及んでいた。
射命丸は「ありがとう、はたて」と小さく呟くと、照れくさそうに頭を掻いて。

射命丸「――皆さん。先に言っておきます。私は――案外大したことありません!
ですから、私はもう皆さんに頼ろうと思います! 頼って頼って頼りまくって……それで、チャッカリ勝っちゃいます。
ですが、ひいき目に言っても、貴方方も案外大したことありません!
なので、……ええ。案外大したこと無いモノ同士、仲間として! 静葉さんじゃないですが。後半は……ジタバタしましょう!」

――そう、チームメイトに対して快活に笑ってみせた。彼女の瞳は、もはや何にも縛られていなかった。


*****


――ピィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
……ピッ、ピッ。……ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

――だから、射命丸にはもはや後悔は無かった。

レミリア「……前半とは同じチームとは思えなかったわ」

レミリアが心底驚き、また関心したように彼女に話しかけて来ても、彼女は穏やかだった。

射命丸「貴女のトコの咲夜さん、一体どーなってるんですか。
あの人とヘンな中国人が居なかったら、私ら絶対勝ってましたよね」

レミリア「……そのどーなってるアイツラを何度もドリブルで抜き去り。
そして時には思い切って仲間に頼って、何度もパスワークで抜き去ったチームのキャプテンには、言われたくないわね」

448 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:11:05 ID:???
射命丸は後半戦開始当初、同様に「射命丸って案外大したことなくね?」の弾幕に曝されていたが、
自分には仲間が居ると分かった射命丸には、案外大した精神攻撃では無くなっていた。
彼女は前半戦の不調がウソのようなドリブル突破を繰り返し、
何と咲夜率いる紅魔スカーレットムーンズの守備陣を何度も抜いて3ゴール、ハットトリックを決めた。
元々彼女の実力であれば不可能では無かったが、個人プレーに頼り切らず、
適度にパス突破を織り交ぜていたのが、スカーレットムーンズを混乱させるのに役立った。
また、乱暴なメイド妖精タックル部隊はPKのチャンスも生んでくれ、正確なキックに定評のある反町が1点を挙げている。

射命丸「守備陣も頑張ってくれました。
撃たせる前に止めるで、雛さんをパチュリーさんのマーカーにしたのは正解でしたね。
魔法の副作用か、吹き飛びやすい彼女を狙ったのは申し訳ないですが、アレで2点は助かってます」

レミリア「――ま、もう1点は取らせて貰ったけどね。私じゃなくて、フランの得点になっちゃったけど」

射命丸「……『トランシルヴァニア』。あれはお見事としか言いようが無かった。
鈴仙さんの『マインドエクスプロージョン』や、ゆう……謎の向日葵仮面さんの『マーダースパーク』。
恐らく貴女が怒っていれば、星熊勇儀さんの『三歩必殺』にも匹敵するであろう破壊力のツインシュート。
あれはビビりました。……にとりさんの人命的な意味で」

中盤と守備陣は更に健闘した。レミリアとフラン、そしてパチュリーの率いるスカーレットムーンズの攻撃陣を、
何と前半とは打って変わって、たったの1失点で済ませたのだから。
それには、これまで連携の取れていなかった『天狗トリオ』の復活や、
反町が秋姉妹と考えた連続ワンツー、『オータムスカイズ』などパスによるボールキープが功を奏していた。
また、にとりもボロボロになりながらもフランドールやレミリアのシュートを二度防いでいる。
……尤も、三度目の大技は、とても防げるような威力では無かったが。
にとりのリュックのみが残され、後は欠片も残らず蒸発していたスタジアムの一辺
――妖怪の山FCのゴールがかつてあった場所――には、巨大な空洞が出来ており、それは遠くの山を貫いていた。

449 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:14:22 ID:???
観客「射命丸って……」「案外……」「大したことなくね……?」「ニトリ ニトリ ……あっ、試合終わってた」

レミリア「……まだ消えないわね。ハットトリックしたのに」

射命丸「『案外大したことなくね』コールですか? ううん、良いんです。今は心地よい位ですから。
世の中、誰もが全能では無い。九割九分九厘九毛、案外大したことない奴ばっかりです。
私はそれを忘れて、自尊心を無駄に肥大させていた。
それで、「やめろォ!」と叫び、これ以上「案外大したことなくね?」と言われたくないばかりに、
誰にも弱みを相談できなかった。……だから、今回ははたてのファインプレーですかね。
あいつがお節介にも、私の悩みを暴露してくれなかったら、今ごろ私はチームメイトからも非難の嵐でしたよ」

レミリア「あら、妬けるわね。 ――ま、精々ガンバリな、天狗」

射命丸「こちらこそどうも、吸血鬼様。またお会いできる、その日まで」

射命丸は言いたい事を言い終わって満足した様子のレミリアを見送って、
そして仲間の方へと戻っていく。皆敗北こそしたものの、どこかしらやり切った表情をしていた。

射命丸「(……はたて。椛。――皆。これで、良かったのよね。
私はどこに行っても私の意志で。自分の道を進んでみせるから……)」

観客のブーイングや、例の鼻高天狗の得意げな顔をさらりと流して。
射命丸文は大きく羽を広げて、幻想郷での最後の時間を満喫する事にした。


紅魔スカーレットムーンズ 6 − 4 妖怪の山FC  試合終了!

450 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:16:10 ID:???
大会得点ランキング(表記はメインキャラのみ):
12ゴール レミリア
11ゴール 鈴仙
9ゴール  フランドール、射命丸
7ゴール  勇儀
6ゴール  来生
5ゴール  魔理沙、屠自古、星、諏訪子
4ゴール  森崎、神子
3ゴール  早苗、霊夢、反町、謎の向日葵仮面
2ゴール  神奈子、ピエール、メルラン、天子、赤蛮奇、空、佳歩
1ゴール  妹紅、咲夜、美鈴、サニー、リリーB、ぬえ、響子、永琳
       影狼、藍、幽々子、幽香、針妙丸、パチュリー、小田、椛、岬

大会アシストランキング(表記はメインキャラのみ):
6アシスト パチュリー
5アシスト 霊夢
4アシスト てゐ、神子
3アシスト 早苗、ピエール、小町、小悪魔、マミゾウ
2アシスト 森崎、反町、はたて、岬、空、お燐、ウサギB、レミリア
1アシスト 鈴仙、影狼、大妖精、橙、諏訪子、アリス、
       衣玖、針妙丸、リリーW、ルナサ、ぬえ、永琳、妹紅

451 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:20:38 ID:???
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
明日からは……またNPCパートです(汗)
次は博麗VS地霊戦で、心情描写等中心だった今回と違い、サッカーパート重視で行こうと思いますが、
今まで出番と活躍の無かった某主人公キャラにも、大きくスポットを当てたいとかも考えているので、
また長くなってしまうかもですが、御付き合い頂ければ幸いです。
コメント返信は次レスで行います。

すみません、反町がチャッカリ1ゴールを挙げたのを忘れていました。
正しいランキングはこちらになります。

大会得点ランキング(表記はメインキャラのみ):
12ゴール レミリア
11ゴール 鈴仙
9ゴール  フランドール、射命丸
7ゴール  勇儀
6ゴール  来生
5ゴール  魔理沙、屠自古、星、諏訪子
4ゴール  森崎、神子、反町
3ゴール  早苗、霊夢、反謎の向日葵仮面
2ゴール  神奈子、ピエール、メルラン、天子、赤蛮奇、空、佳歩
1ゴール  妹紅、咲夜、美鈴、サニー、リリーB、ぬえ、響子、永琳
       影狼、藍、幽々子、幽香、針妙丸、パチュリー、小田、椛、岬

大会アシストランキング(表記はメインキャラのみ):
6アシスト パチュリー
5アシスト 霊夢
4アシスト てゐ、神子
3アシスト 早苗、ピエール、小町、小悪魔、マミゾウ
2アシスト 森崎、反町、はたて、岬、空、お燐、ウサギB、レミリア
1アシスト 鈴仙、影狼、大妖精、橙、諏訪子、アリス、
       衣玖、針妙丸、リリーW、ルナサ、ぬえ、永琳、妹紅

452 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 00:24:14 ID:???
にとりの命がw乙ロット

453 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/07(木) 00:26:34 ID:???
>>431
多分次に射命丸が出て来た時は、やさぐれてキックホッパーに変身すると思います。
>>432
ネタバレすると、試合に勝つのは結構厳しいですね。
にとりがレミリアやフランのシュートを止めるのも、本当はダイス目が高めじゃないとちょっと厳しいかもです。
>>433
にとりは生きてます(たぶん)
>>434
長くなってすみません(汗)
>>435
ちょっとそこは意識してましたね。
実際、射命丸は組織から離れてもそれはそれで逞しく生きそうではありますが、実は気弱な感じを出してみました。


すみません、>>451で反謎の向日葵仮面という選手が出来ていますが、スルーして頂ければと思います……。
それでは、皆さま、本日もお疲れ様でした。

454 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 00:37:13 ID:???
乙なのです!
あやや、一人じゃなかった……

455 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 00:46:36 ID:???
乙でした
JOKERでフラグ吹っ飛ばしにして、お前たちが俺の秋だ!ってやっちゃったせいか
大会まで引っ張てた問題を華麗にスルーして描写外でイチャコラしまくってただろう反町は爆発すればいいと思う。

456 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 00:54:23 ID:???
乙です
どんなことを言ってもやっても負けは負け。上司さんは予定通りでいい笑顔。
チームのみんなもいい笑顔。みんな笑顔でいいね(棒)


ってか紅魔後半だけで4点取られるとかザルすぎだろ・・・
うちのは姫様が強くて助かるよ

457 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 20:31:35 ID:???
>>451 >>453
反謎の向日葵仮面……きっと謎の向日葵仮面に触れると互いに消滅して、
光子謎の向日葵仮面(観測上はγ【ガンマ】謎の向日葵仮面)が出現する伏線に違いない!
理論的にはX謎の向日葵仮面、α謎の向日葵仮面、β謎の向日葵仮面、電子謎の向日葵仮面
陽子謎の向日葵仮面(片桐家令嬢との関係は不明)、中性子謎の向日葵仮面、重粒子謎の向日葵仮面がいるはず、
あと一人別の謎の向日葵仮面がいれば、謎の向日葵仮面イレブンの完成だ(発狂)


……詳しくはウィキペディアの「対消滅」と「放射線」の『2 放射線の種類』を見てください。


458 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 20:35:01 ID:???
河城にとり様への御香典

医師仮面 様から 48
医師仮面 様から 572
エベルトン 様から 436
アーバックル監督 様から 549 £

459 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 22:28:25 ID:???
にとり「勝手に殺すなあ!」

にとりはこれからも元気にゴールキーパー続けます(活躍するとは言ってない)

プロジェクトカウンターハクレイのスカウト「やっほ」
にとり「ひゅいいい!?」

460 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 23:42:35 ID:???
冷静になって考えると6−4ってサッカーのスコアじゃないよね

やはり幻想郷では常識に(ry

461 :森崎名無しさん:2015/05/07(木) 23:44:30 ID:???
トリノGKパデッリ、味方のバックパスをオウンゴール
ブルノ「おれならとれたな」

462 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/08(金) 00:29:53 ID:???
こんばんは、今日も少しだけ&NPCパートとなりますが更新していきます。
>>452
乙ロットありがとうございます。にとりは生きてます。たぶん…
>>454
乙ありがとうございます。射命丸も案外孤独じゃなかったですね。
>>455
乙ありがとうございます。
反町については結局秋姉妹どうするのとか、結局パッとしないまま終わるのかとか、
その辺りの伏線は第三章で回収する予定でしたが、
確かに味気ない気もしたので、ちょっと追加で1シーン書こうと思います。
>>456
乙ありがとうございます。射命丸も今後どうなるか分からないですね。
描写不足ですみませんが、紅魔がザルというよりは射命丸が凄すぎた、という事です。
4点中3点は射命丸で、残りの1点はPKですし、他のFWでは太刀打ち出来なかった感じです。
ゲーム的に言うと、後半は射命丸にボーナス補正が乗ってた&引きが良かったイメージです。
>>457
反物質グランマみたいな感じですかね。
陽子さん謎の向日葵仮面説が提唱された事により、風見幽香さんとの関連性が否定されましたね。
>>458-459
医師仮面に随分好かれてますね……w
私がにとりだったら、序盤の妖怪の山FC対永遠亭ルナティックス戦あたりでサッカーやめていますね。
>>460
キャプ翼ワールド的に考えたら、6−4って割と普通だと思いますね。
南葛市とは幻想郷の事だった……?
>>461
ブルノさんは味方のパスでもガッシリとダイビングキャッチしてくれそうですね。

463 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/08(金) 00:33:02 ID:???
反町「(はぁ。負けちゃったな……。俺は結局、何にも出来なかった)」

……ところで。射命丸がレミリアと爽やかな会話を交わしていた頃、未だ鬱屈とした感情から抜け出せない者も一人居た。
妖怪の山FCの助っ人ストライカーとして派遣されながら、
結局は外界に居た時と同じく、地味な活躍しか出来なかった少年。反町一樹である。
女性との交友関係においては割と地味では無かったりもするが……。それは置いといて、彼は彼なりに自らの伸び悩みを痛感していた。

反町「(――勿論、穣子さんや静葉さんは優しいから、きっと俺の事を否定しないでいてくれる。
でも……何と言うか、男として。俺も二人をドカっと守ってやれるようになりたいなぁ……なんて)」

進退が懸かっていた射命丸と比べると割と贅沢な悩みな気もするが、それでも反町は確かにこの時焦っていた。
一度は柔らかく否定された、圧倒的な力への渇望がふつふつと蘇ってくる。

反町「(……もしも目の前に悪魔が現れて。それでこう俺に言って来たらどうだろうか。
『お前にシュートの圧倒的才能を与える代わりに、お前の大事なものを奪っていく』……とか。
――一昔の俺だったら、ヤケになって喜んで乗っていたと思うけど。
……今はそうじゃないって、ホントに言いきれるだろうか)」

静葉と穣子は今着替えている。別に今更着替えを見てもどうか……と思った事もあるが、
前に珍しく口に出してみた時は、「アレとコレとは別物だってばぁー!!」と、穣子にほっぺたを膨らませられた。
結局、反町は相変わらず言いたい事も言えずに鬱屈とした気持ちを募らせながら、
モリヤスタジアムの廊下を右往左往するしかない。 ――丁度、そんな時だった。


??「――おっ。いたいた。なぁ、お前さん。 忙しいから単刀直入に聞くけれど。
『……お前の大事なモノを引き換えに、お前に圧倒的なシュートの才能を与える!』
――って言われたら、どうするかい?」

反町「(えっ……)」

――反町の眼前に、彼が言いたい事も言わずに想像していた。
悪魔のような深い夜の装束を纏った、身の毛もよだつ程美しい女が本当に現れたのは。

464 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/08(金) 00:36:44 ID:???
――と、反町についても今後の展開に含みを持たせたところで、今日の更新はこれだけです(爆)
明日の更新分も書いていたのですが、キリが悪くなってしまって……(汗)

明日からは博麗×地霊戦という事ですが、魔理沙についての掘り下げもしていきたいので、
序盤は魔理沙の回想シーンを挟み、そこから試合に入っていく形にしようと思います。
なので、またかなり無判定無選択シーンが続くと思いますが……ご了承頂ければ幸いです。

それでは、皆さま、本日もお疲れ様でした。

465 :森崎名無しさん:2015/05/08(金) 02:19:46 ID:???
乙でした

やっぱりこいつ爆発した方が良いんじゃないかな?着替えが今更とかKAGEYAMAや農袋にフルボッコされそう
霊夢や魔理沙も自機組として行動するだろうけど、鈴仙も同じく自機組になった訳だし
イレギュラー下剋上で終わりじゃなく最後は対等に頂点を競わせるルートに分岐させたいね。

466 :森崎名無しさん:2015/05/08(金) 18:05:18 ID:???
反町「そ、そんな! シュートの才能の代わりに大事なモノを渡さないといけないなんて……」

反町「ごめんよ僕のファイヤーボール」
はたて(反町君いつの間に椛の影響を……!?)

乙なのです!

467 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 22:53:21 ID:???
こんばんは、昨日はリアルが忙しすぎて更新どころか書き込みすらできませんでした(汗)
依然忙しいですが、それでも書きたいので更新します。
>>464で言ってた内容から若干プロットを変えましたが、博麗チームの試合について描写していきます。

>>465
乙ありがとうございます。反町君は某超新星さんよろしく、ラノベっぽくなっていますねw
最後の展開については色々考えていますが、やっぱりハッピーエンドになればと思っています。
>>466
乙ありがとうございます。
ファイヤーボールとは結構上級者ですね……反町君w
大会に備えて犬走名人から譲って貰ったのでしょうか。

468 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 22:56:37 ID:???
〜大会13日目・午後・固定イベント〜
【決勝トーナメント・一回戦第四試合 博麗連合VS地霊殿サブタレイニアンローゼス】
−妖怪の山モリヤスタジアム・控室−

−−−J− J小町
−H−−− H魔理沙 
−−I−− I霊夢
G−−−F Gアリス F針妙丸
−−E−− E衣玖
C−D−B C中里 D萃香 B天子
−−A−− A玄爺
−−@−− @森崎
博麗連合2015:4−4−2

霊夢「……それじゃあ前の打ち合わせ通り。今回の試合は、こんな布陣で行きましょ」

針妙丸「ご……ごくりっ」

――紅魔スカーレットムーンズ対妖怪の山FCとの壮絶な試合が終了したすぐ後、
その次の対戦チームである博麗連合2015は、妖怪の山FCメンバーが出払った後の控室にて、
粛々とミーティングを執り行っていた。

アリス「……本当に、森崎君がGKとして出場するのね」

森崎「あん? 何だよアリス、俺じゃあ不満か? 実力だったら練習中に何度も見せただろ。
友達に対してそんな口聞くのか、あん?」

アリス「あっ、ご、ごめんね! 私、友達に酷い事言っちゃったね!?」

森崎「ちぇっ、しょうがねぇな(へへっ、ちょろいぜ)」

霊夢「(アリスって、こんなキャラだったかなぁ……。ま、最近森崎が構ってるからか楽しそうだし良いけど)」

469 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 22:58:19 ID:???
萃香「――なに、この私が認めてるんだ。森崎有三、コイツの実力はホンモノだよ。
取り分けシュートへのセーブ力だったら、私はまずコイツに敵わないだろうね」

衣玖「(ここは空気的に、私も発言して存在感出した方が良いですね)……成程。
地霊殿サブタレイニアンローゼスは星熊勇儀さんや霊烏路空さんを中心とした、
強力なシューターが多いチーム。それ故に、森崎さんとかのチームは相性が良い……と」

霊夢「ま、そういう事ね」

キャプテンである霊夢は軽くウインクをしながら、
けだるそうにカリカリとホワイトボードに大まかな作戦を書いていく。意外と達筆である。

霊夢「基本戦術としては、サイド攻撃を重視していきましょ。
トップ下のあのヘンな男(矢車)は結構実力が高いから、極力避けるようにして。
針妙丸のドリブルやアリスのパスで、スカスカな中盤を突破。
そんで、いつもだったら小町にポストプレイで落として、魔理沙がゴール!
……だけど。さとりは人の心を読んで来るからね。今回は、PA付近でのミドルシュートを多めにしてきましょ。
――PA内のさとりの守備力は、萃香をも遥かに上回る。わざわざ無茶な勝負をする必要は無いわ」

小町「あーい(という事は、今日はサボれそうかなぁ〜)」

森崎「……(――チッ。ツッコミ所があれば容赦なく突っついてやろうと思ったのに。
自分が目立とうという野心が無い分、こうした面では翼より厄介なヤツだぜ)」

天子「私のオーバーラップを戦術に加えていない点は蒙昧に過ぎるけど。
ま、大体良いんじゃないの? 100点満点で10点くらいかな?」

中里「天子殿はいつもエラそうでゴザるな」

天子「違うわね。最強は天人と既に証明されてるのよ。(故事話)
霊夢は一応巫女だから風祝と並んで天人の下僕と自覚して貰わないと。ちょっと調子こきすぎだけどね!!」

470 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 22:59:40 ID:???
霊夢「誰が早苗の同僚か。……ま、そんな訳で誰も異議とか無さそうだし、私もお茶したいんだけど。
大丈夫だったかしら? ――特に、そこで居眠りしている黒帽子の方とかね」

魔理沙「……寝てないぜ。目を閉じて、集中して聞いていただけだ」

霊夢「はいはい。……で、アンタは何か無いワケ、魔理沙?」

霊夢は最後に、壁にもたれ掛かって居眠りをしている魔理沙に対し意見を求める。
この頃森崎が来て以来、試合前であろうと何だろうと、魔理沙は魔法の研究に加えて明け方までサッカーの特訓に取り組むので、
こうして霊夢が居眠り中の魔理沙をたたき起こすのが日常だった。
そして、結果が伴わないのか、不機嫌に「特に無いぜ」とそっけなく答えるのを霊夢がスルーするまでが一連の流れだった、のだが……。

魔理沙「――なあ霊夢」

霊夢「はいはーい。それじゃ皆きゅうけ……え? 何かあるの?」

この時は珍しく、魔理沙は何か言いたい事があるようだった。
霊夢は貴重な試合前の休憩時間が潰されたと、心底面倒くさそうな顔で魔理沙の方に再度向き直る。

森崎「(……成程な。そりゃあ、あんだけのシュートが出来たんだったら――な。
全く、最初はこの役立たずと思ったが。あそこまで成長するとは思わなかったぜ)」

魔理沙が何を言わんとしているのかを理解出来たのは、常に魔理沙の特訓に付き合っていた森崎だけだった。
彼だけが、今の魔理沙に包まれてる心地の良い達成感を知っているのだ。
何せ、『あんだけのシュート』を、彼は……その身で受け止めてみせたのだから。
魔理沙は一言だけ確認するように、こうつぶやいた。

魔理沙「なあ。場合によっては――ペナルティエリア内のさとりに向かって、シュートを撃っても構わない……よな?」

471 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:02:56 ID:???
***

−モリヤスタジアム・フィールド−

実況「さあ〜〜!! 間もなく始まります! 全幻想郷代表選抜大会、決勝トーナメント第一回戦最終試合!
博麗連合2015VS地霊殿サブタレイニアンローゼス戦です!
予選Dリーグを1位で突破した博麗連合に対し、地霊殿サブタレイニアンローゼスの予選リーグ結果は2位。
ですが、地霊殿サブタレイニアンローゼスは、今大会ノリに乗っている永遠亭ルナティックスを始めとして、
風見幽香選手率いる雑魚妖怪チームに、西行寺幽々子選手率いる西行寺亡霊連合が居た激戦区を通過してきました。
実力ならばヘタな1位通過チームには全く引けを取らない。そう断言しても良いでしょう!!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

霊夢「相変わらず辛気臭いわね、アンタも……」

さとり「『相変わらず辛気臭いわね、アンタも……』――ですか。余計なお世話ですね……」

霊夢「ごめんごめん。つい本音がポロリと」

さとり「……それは別に良いです。むしろ助かります。
――それに……口には出しませんけど。貴女にも珍しく、何か思う所がありますようで」

霊夢「ありゃ。読まれてたかー。ま、別に良いけどね(魔理沙――大丈夫かしら。ちょっと気になるわね。
アイツが静かな自信に満ち溢れてる時って、大体ロクな事が起きないような気もするけれど……)」

さとり「それはどうも。……友達思いなんですね、意外と」

霊夢「……別に。嫌いじゃないけど、好きじゃないわよ。あんなの」

472 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:06:45 ID:???
実況「……えー。只今両チームのキャプテン同士がにらみ合っています!
そして、現在博麗チームキャプテンの霊夢選手と、地底チームキャプテンのさとり選手とがコイントスを行い――。
あっ、結果が出たようです! この試合の先攻は地霊殿サブタレイニアンローゼス!
という事はつまり、開幕から、星熊勇儀選手のあのシュートが見られると言う事です!!
両チームのフォーメーションは以下の通り、博麗連合は今大会初めて、森崎選手をGKとして登用!
噂によると、外界では名の知れたGKだったらしいのですが、これまでの彼の活躍はもっぱらドリブラー。
果たしてその噂は、本当なのでしょうか!?」

中山(観客席)「(本当なんだよなぁ。しかも、『名の知れた』どころじゃないんだが……)」

−−@−− @さとり
C−B−A Cこいし Bキスメ Aヤマメ
−−D−−
−E−G− Gパルスィ
−−−−−  
−I−−F I矢車 Fお燐
−−−−− 
−H−J− H勇儀 J空
地霊殿サブタレイニアンローゼス:4−4−2
博麗連合2014:4−4−2
−−−J− J小町
−H−−− H魔理沙 
−−I−− I霊夢
G−−−F Gアリス F針妙丸
−−E−− E衣玖
C−D−B C中里 D萃香 B天子
−−A−− A玄爺
−−@−− @森崎

473 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:07:50 ID:???
勇儀「あのシュートが見られる! ……って、言われると。やりたくなっちまうよなぁ?
折角相手には萃香も居る事だし。一度、本気同士でぶつかり合いたいと思ってたんだよ」

パルスィ「……勝手にすれば良いと思うけど。絶対に、油断するんじゃないわよ……特に、あのゴールキーパー」

勇儀「ようし! そうと決まれば前祝いだ! うむっ! 酒が旨い!!」

お燐「十中八九、聞いてないね〜」

先攻権を得る事となった地霊殿サブタレイニアンローゼスのメンバーは俄かに活気づく。
一方で、先に勇儀達の攻撃を受けきる事となった博麗連合のメンバーは静かな闘志を燃やしていた。
そして――。

魔理沙「(……今日の試合こそ、皆に思い知らせてやる。最後に勝つのは才能じゃなくって努力だと。
そして、この私こそが、この物語の主人公に最もふさわしい存在であるという事を――!)」

霊夢「(――この試合も勝つ。紫の言いなりもシャクだけど、私にはその道しかないんだから……)」

森崎「(ちっ。霊夢の奴も魔理沙の奴も、互い互いで目立ちやがって。この俺様こそが、このゲームの主人公だっつーの)」


――ピィィィイイイイイイッ!!

勇儀「よし、先手必勝だ! ……さあ、思いっきりかかって来な!」

萃香「(ふん、やっぱり来たね、勇儀! あんたの性格なら絶対そう来ると踏んでたよ! 私は何の対策もしてないけどな!!)」

そして、試合開始のホイッスル。
それを聞いて気色ばんで真っ先にボールへと飛びついたのは、地底のならず者どもの頭にして
絶大な力を持つ鬼の中でも取り分け強い力も持った四天王が一、力の星熊勇儀だった。
自身が先攻である事を良い事に、彼女はおぞましい一歩と二歩を踏んでから、大きくその右脚を振り上げた。

474 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:08:57 ID:???
                         ド ン!  ド  ン!!
              グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

     勇儀「さあまずは挨拶代わりだよ! 萃香、そしてその他の強き者共!! 四天王奥義……『三歩必殺』!!」

             バギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッツ!!
                ビュウウウウウウウウウウウッ! ドゴォオオオオオッ!!
           ドドドドドドドドドドドド………! バギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!

勇儀の右脚から放たれた恐るべきシュート――四天王奥義・『三歩必殺』は、
先程鮮烈に活躍した、吸血鬼姉妹の数々のシュートと比べても全く見劣りしない。
いや、むしろそれをも上回る威力をもって、センターサークルからゴールまで、50メートルという超長距離を轟々と突き抜けていく。

小町「う、うわ! なんてシュートなんだ! あたいは腰が抜けてブロックにいけないよー!(迫真の棒読み)」

魔理沙「くっ……!」

霊夢「……いきなり来たわね。皆、無理してブロックに行かなくても良いけど……DFだけ森崎の援護に向かって!」

萃香「分ーかってるよ! 任せて、アレだけは私が止めてみせるから!!」

―――ゴ オ オ ッ!!

萃香「萃まれ、密まれ。そして疎まれよ………!!」

バァァァッ!

そのシュートに真っ先に食いついたのは博麗連合のCB、伊吹萃香。
彼女と星熊勇儀とは旧友であり、また同じ鬼の四天王として力を競い合う仲でもある。
背の高い勇儀と比べたら、萃香の背丈はその勇儀の胸にも届かないし、外見的にも随分と幼い。
しかし、そんな彼女であっても腕力は勇儀にほぼ匹敵し、そして呪術については勇儀をも上回る。
彼女が並の魔法使い顔負けの要領で自己流の呪術を唱えると、ただならぬ密度の妖力が萃まって。

475 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:12:25 ID:???
萃香「さァ。幻想郷に終ぞ戻った鬼の力、萃める力――その身体に染み込ませて。
人間どもにこびりついた太古の記憶、今ここに思い出させてやろうじゃないか!!
――『ミッシング・パワー』ーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

ブウウウウウウン!! ゴオン!

萃香「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

バギュン! ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

――フィールド上に鼓膜が破れんまでの爆発音が響く。
呪術によって長さ12メートル、直径3メートルの巨木と化した萃香の右脚が、勇儀のシュートと正面からぶつかった。
シュートが帯びた光の白色と周囲を囲む虹色。萃香の右脚が覆う闇の黒色と紫色の妖力の塊。
その二つが極彩色の渦をフィールド上に作り、天に向かって高い高い柱が生まれる。

矢車「シュートも凄いが、ブロックも凄い威力だな。DFの段階でこれだと思うと……はぁ。どうせ俺なんか……」

お燐「つっても、距離やブロックに向かった人数。それと小鬼のお姉さんのガンバリもあっての拮抗だと思うけどね〜。
でも、まさかあんなブロックの大技を持ってたなんて!!」

パルスィ「……そう言えば、勇儀から聞いた事があったわ。
今でこそ幻想郷最強格のGKとして数えられてる伊吹萃香だけど、彼女の本職はDF。
ことシュートブロックに掛けては、彼女の右に出る者は居なかった……と」

こいし「てことは、今の補正+6程度のちゃっちい技に加えて、何かもっと凄い技とか持ってそうだねぇ」

お燐「そうですね〜。――あ、こいし様。左のSBなのに、右のSHのあたいのトコまで来られたら地味に困りますよ。主にさとり様が」

476 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:13:31 ID:???
ガリガリガリッ……!

萃香「あいてて……く、くそっ……! あと一歩で、私の四天王奥義で撃ち返してやってたのに……!!」

勇儀「おや、鬼が言い訳だなんて。アンタも地上で、随分と女々しくなったねぇ!」

――萃香の渾身のブロックは、勇儀のシュートの威力の殆どを削いでいたが。
しかしそれでも、じりじりと押されていってしまう。
丸太のような萃香の右脚は、膨大な妖力を相殺した事による反動か、次第にしおしとと萎んで行き。
……やがて、閃光が弾けて周囲を白に染め上げた後に、シュートはゴールへと向かってしまう。

森崎「(くそっ! 俺を差し置いて目立ちやがって……!)うおおおおーーーーっ!!」

バァァッ!

そして、減衰されても尚恐るべき威力の籠ったシュートを、
森崎が全力でのダイビングパンチング――『がんばりダイビング』で完全に防ぎ切ったのは、
恐るべきファインプレーだった。生半可なGKだったら、あれでも充分吹き飛ばされていた。

森崎「な、中々やるじゃねぇか。流石の俺も今のは少しビビったぜ……。
(だが、実況やらの反応を見るに、今のシュートは幻想郷でも最強格のシュートっぽいな。
 それで萃香さんがあんだけ苦戦した訳だから……俺が今止めたので、俺の人気も一気に上昇……?)」

――この時、森崎にとって不幸だったのは二つある。

477 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:15:42 ID:???

実況「あ……あああ! 勇儀選手の放ったシュートと、萃香選手の行ったブロックとの勝負は……!
私も凄い光に包まれてどうなったのか分かりませんでしたが、最終的には森崎選手がボールを持っている!
どうやら、これを見るに……萃香選手が、勇儀選手のシュートを完全に殺し切った。きっとそういう事でしょう!!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「す、すげー!」「流石決勝トーナメント! いきなりこんな勝負から始まるなんて!」「萃香さん、カッコ可愛いーー!」

森崎「(な、なに〜。もしかしてこのボンクラども、さっきの光のせいで俺様の活躍が見えなかったのか〜!?)」

一つは、勇儀と萃香が放っていたあまりの威圧感と、シュートブロック際に生じたおぞましいまでの光によって。
この森崎の隠れた名プレーを視認出来ていた者は数える程しか居なかった点。
そして。

勇儀「(今の勝負、私は萃香に勝っていた。しかしボールは止められた。
……成程。確かに萃香が評価するのも分かる。森崎有三。初対面で会話もしてないが、私はあんたを気に入ったよ。
となると、生半可な『三歩必殺』じゃあダメだね。あいつを殺せるような、もっと強い技を思いつかないと……)」

森崎「(な、なんか寒気がする……。具体的にはヤバいヤクザやマフィアに目を付けられたような……)」

――もう一つは、力を好むあの星熊勇儀が、森崎の好守を見て、更なる発奮をしてしまった点だった。
言い換えると、森崎は、理不尽かつ圧倒的な暴力による死を予告された。
鬼は嘘を吐かない。それは表に出ない、自分自身に向けた言葉であっても例外では無いのである。

478 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/09(土) 23:22:52 ID:???
――と、森崎も反町に負けじとフラグを立てたところで一旦ここまでです。
キックオフ直後で凄く長かったですが、ここから暫くはサラリと流していくと思います。
ただ、要所要所は濃いめに書きたいと思っています。

479 :森崎名無しさん:2015/05/09(土) 23:38:20 ID:???
一旦乙です

さとり「なんだか嫌な予感がするわ……」
PA内のさとりさんぶち抜く自信があるとか怖い!

480 :森崎名無しさん:2015/05/10(日) 00:01:13 ID:???
ニコ動のカグロット動画のコメントにここの住人がいたw

481 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:03:55 ID:???
更新再開します。
>>479
さとり様は犠牲になりますね…
>>480
本当ですか!w今度探してみます。いつかカグヤコールのコメント弾幕が流れるのを夢見て!
輝夜「私のキャラを不当に貶めるのはやめろォ!?」……とか言われそうですがw

482 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:05:12 ID:???

矢車「……止められたか。おい、橋姫」

パルスィ「名前で呼びなさいよ、妬ましい。どぉせ私なんて……」

空「うにゅ。パルスィさんの嫉妬のオーラに矢車さんの地獄のオーラが合わさって、なんか最強に見えてきた!」

お燐「うんうん、最強に暗くて気持ち悪いよね〜。 ――てなわけで、パルスィさんは手筈通りにお願いしま〜す」

パルスィ「……分かってるわよ」

矢車「本当は俺が指示する筈だったのに……。俺にはどうせ、いつまで経っても光を掴めない……」(←お燐の言葉にちょっと傷ついてる)

実況「さあ、勇儀選手のキックオフシュートを止められてしまった地霊殿サブタレイニアンローゼス!
慌てて中盤の矢車選手を中心に、パルスィ選手を霊夢選手へのマークに付かせて警戒を強めます!」

パルスィ「妬ましい……! JOKERを出しまくって覚醒しまくってて妬ましい……!」

霊夢「それって人違いじゃない?(しっかし、しつこいマークねぇ……動きにくいったらありゃしないわ。
――ま、手筈通りにやってくれればそれで良いと思うけど)」

中里「(――霊夢殿の作戦によれば、サイドを上手く活用しろとの事。ならばここは……)それっ、姫君!」

バシッ……。

針妙丸「あいよっ。ありがとう!!」

実況「対する博麗連合は、右のSHである少名針妙丸選手にボールを預けてサイドアタック!
霊夢選手が居なくても、皆の力で勝利を掴み取るのが博麗連合の強みです!!」

483 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:06:13 ID:???
お燐「おっと、ここは小人は通行止めだよ。身長133cm以上になってから出直して来な!!」

針妙丸「その位、小槌があれば余裕よっ。小さいからって、バカにしないでね!!」

タッ! グンッ! バギイイイッ!!

お燐「ふ、ふにゃあっ!?」

実況「そして針妙丸選手は自慢の直情的な突撃タックル――『進撃の小人』でお燐選手をふっとばし快速運行!
針妙丸選手はそのまま、バイタルエリア手前へとやって来ます!」

針妙丸「えっと、えっと……(霊夢は確か、GKのさとりって人は心が読めるから。
だから、出来るだけペナルティエリアの外の方からシュートを撃てば良い! ……って言ってたよね)
――ようし、だったらこの私の『輝針剣』で……!」

――グワァァァァッ!

魔理沙「……待ってくれ」

針妙丸「……ほへ? ど、どうして?」

魔理沙「撃つな。――私に持ってこい。良い策があるんだ。カットされるのが不安なら、小町に落としても良い」

小町「ぐーぐー。四季様、あたしゃあ寝てませんよ。死神特有の冥想で、枯渇したマジックポイントを回復……
――って、ハッ!? 今誰かあたいの事呼んだ!?」

さとり「……?(魔理沙さん。貴女は今PA内に居て、フォローに備えていたのでは。
――一体何を考えて居るのかしら……? そしてあの死神。睡眠とアフターファイブ以外の事を何も考えていない!
試合中にも関わらず、ああも怠ける事に思考を持って行ける者が居たなんて。ある意味恐怖だわ……)」

484 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:07:36 ID:???
――勇儀のシュートが止められると、博麗連合は事前の作戦会議通り、
中盤の要たる霊夢が防がれていても尚淀みなく攻勢を展開していた。
そうして今、博麗連合の切り込み役である針妙丸が今まさにシュートを撃とうとした時に、
――他ならぬチームメンバーである魔理沙により、その動きを止められてしまう。
これは当の針妙丸やその他博麗連合のメンバー。(特に最前線でシエスタしていた小町)
そして、いざ守勢に出ていた地霊殿サブタレイニアンローゼスのメンバーにとっても意外だった。

ヤマメ「……? よ、良く分からんけど、ペナルティエリア内は我らがさとりサマの根城!
来るなら大歓迎さね。まあもっとも――そのまま棒立ちしてくれた方が、ありがたいけどねっ!」

タッ!

針妙丸「……も、もうっ! 良く分からないけど――え〜いっ!」

バコンッ!

実況「針妙丸選手、ここで大きくセンタリング! ボールの行方は……死神の小野塚小町選手です!
彼女はこれまで平凡なストライカーでしたが、今大会にて突如ポストプレイヤーへと変貌!
しかしそれが彼女の性に合ったのか、ことポストプレイに掛けては、地霊殿の霊烏路空選手以上の腕前とも評されています!」

魔理沙「小町、5秒だけ起きろ! 仕事だ!」

小町「え〜っ。今日の試合、ペナルティエリア内でのシュートはしないんじゃなかったのかい?」

魔理沙「時代は巡り往くんだよ! 良いから早く!」

小町「全く。若いモンは生き急ぐからいけないねぇ。 ……ほい、ほいっと!」

ポーンッ! ………パシッ。

実況「小町選手は危なげなく魔理沙選手に折り返します! ついて行ける者はどこにも居ません!
ボールはそのまま………ペナルティエリアのど真ん中、古明地さとり選手の前に陣取る、霧雨魔理沙選手へと落ちていきます!」

485 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:09:47 ID:???
魔理沙「さーて。これでお見合いだな。地霊殿のお姫さん」

さとり「……貴女が次に何をしようとしているのかは分かります。ですが、一つだけどうしても解せない事があります」

魔理沙「何だ? 言っちゃなんだが、私の思考はとても理路整然としているぜ?
魔法使いは論理が大事。複雑な術式も、細かいロジックの積み重ねにしか過ぎないからな」

さとり「……貴女がしようとしている事。それは勿論、この私の守りをもひっぺがす超強力なシュートを放つ事です」

魔理沙「まあ、そうだな」

さとり「ですが。そのシュートは地上から放てるミドルシュートですよね?
だったら、無理してポストプレイをして貰ってまで。ペナルティエリア内でシュートを撃つ必要は無いと思いますが。
どうせなら、ペナルティエリアを離れて撃った方が良い。その方が決まる確率も高いでしょうに。全然論理的じゃないわ」

第三の目を通して映る圧倒的なシュートの全景を前にして。
さとりは怯えながらも気丈にそれを隠し、毅然と魔理沙に対して疑問を投げかける。その様子は淑女然とていた。
だから余計に、次に魔理沙が言い放った言葉がさとりにとっては野蛮で非条理的に聞こえた。
魔理沙はごく当然の事を説明するように、あっけらかんとこう言った。

魔理沙「――だって、当然だろ? 物語の主人公はいつだって、強大な敵の全力に立ち向かい、そして勝利する。
裏道やアイテムを使うのは、どうしても勝てない時の非常手段だ。そして――」

さとり「――『そして、今の私は、真正面からぶつかっても勝利できる』……ですか!
果たしてそれが、貴女の可哀想な思い込みに過ぎなければいいですね……!」

魔理沙「話が早くて助かるぜ。だから――勝負だ、怨霊も恐れ怯む少女・古明地さとり!
お前の覚妖怪としての能力と――!」

さとり「………ッ!(――爆発的な力のイメージ! だけど……私だって負ける訳にはいかない!)」

486 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:11:02 ID:???
魔理沙「――この私の……『ファイナルスパーク』との………真っ向勝負だァァァァァァァァァア!!」

グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
バギイイッ、ゴキッ! バギゴギイッ!!

魔理沙「(……ッ! 痛い! 足が千切れるように痛い!! でも……私は負けない!!
――これが私が今まで忘れていた痛み。主人公となる為には絶対必要な痛みなんだから………!!)」

さとり「――とめ、ます……!」

実況「ああ!! これは凄い! これは何だ!? 霧雨魔理沙選手が何と、ペナルティエリア内で、
あの古明地さとり選手に対して、真正面からシュートを放とうとしております!
これは信じられない! 何故なら、人の心を読めるさとり選手には、ペナルティエリア内のシュートには滅法強い!
そのシュートが如何なシュートであろうとも関係なく、さとり選手は高度な読心能力でシュートコースを割り出してしまう!
それは一対一であっても勿論同じ! つまり、ことペナルティエリア内において、さとり選手は幻想郷最強のGKなのです!!
あっ、魔理沙選手が今……地面を大きく削りながら足を踏み込んだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

魔理沙「はぁ、はぁ……!(レミリアが何だ。うどんげが何だ。
あいつらは結局妹や仲間に頼らなければ、最強のシュートは撃てないじゃないか!
その点私は違う。私は自分一人でも、あいつらに負けないシュートが撃てるんだ……!!)」

ガリッ! ガリッ! ド ガ  ガ   ガ   ガ    ガ    ッ!

魔理沙は振り足を地面に思いっきり埋め込んで、しかしそれにも関わらず、
まるで重機のような動きでボールへとインパクトを合わせに向かっている。

さとり「(……分からない。一体この少女はどうして、ここまでも自らを削って………!!)」

魔理沙があと僅かでそのシュートを解き放とうとする時、狼狽するさとりの思考の中に新たなイメージが浮かんで来た。
それは魔理沙の心を視た、彼女の第三の目からの情報だった。

さとり「(彼女の主人公への憧れ。挫折。そして再起――。そう、このイメージは……!)」

487 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:12:43 ID:???
〜回想シーン〜
−???−

――私は物心ついた時から、自分自身こそが物語の主人公だと信じて疑っていなかった。
実際、私には溢れた才能があると思っていた。
里の子ども達でも中心的存在だったし、ほんの些細なレベルだけど魔法もどきの退魔術も使えた。
もっとも、子ども間の人間関係なんて流動的だし、退魔術くらい、
陰陽師とかの子どもだったらある程度使えても不思議ではなく、むしろ自分より上もゴロゴロいた。
勉強はそこそこだったし、スポーツも上の下くらい。
要するに、客観的に見て幼少時の私はどこまでも『普通』に過ぎなかった。
そして、それにも関わらず、私は自分が間違い無く特別な存在だと信じていた。

……だから、家を勘当され魔法の森で住み込む事になっても後悔はないし、
むしろ普通じゃない境遇が重なった自分は、間違い無く主人公なのだという確信を強めてくれた。
途中で深い夜のローブを纏った足の無い魔女に師事し、昔から興味のあった魔術の力を強めた。
師匠は厳しかったが、周囲にライバルが居なかった事もあり、自分は師匠を除けば最強の魔法使いだと思っていた。
あの時、私は途方も無くバカだったけれど。その代わり、途方も無く幸福だったと今では思う。
そんな夢のような幼年期が終わり、辛い現実に曝されたのは何時だったろうか。

「……邪魔よ! どいて!」

「――ふふっ。あのお方の所には行かせないよ。貴女にはここで少しばかり遊んでて貰うわ。
 もっとも、あたいがあんたをアンタを倒しちゃっても良いんだし……キャハハハハッ!!」

――ああ、間違いない。黒歴史だ。
その当時の私は師匠の命令を受け、今ではおよそ考えられないバカ笑いで、
自分と同い年くらいの亀に乗った少女を一撃で焼き尽くそうと算段を立てていた。

488 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:14:04 ID:???

「しかし不便よねぇ〜。亀なんかに乗らないと空も飛べないなんて!
 そだ、アンタをあたしの弟子にしてやろうか! そしたら、そうね……きっと三年位で箒で空でも浮けると思うわ。
 あたしですら、飛べるようになるには一年半もかかったんだから!! キャハハハッ!」

「口の減らないヤツね。っていうかアンタ、一年半もかかったの」

「あたしみたく才能のあるヤツでも、ね! 知ってるかしら? この世は私を中心に回ってる、って事実にさ!」

ゴオッ、バババババッ!!

当時の痛い私は、(当時の私なりに)最高にカッコ良い言葉で決めると、
大した威力も無い火球を五発程度、如何にも暢気でとろそうな巫女に放ってやった。

「どうかしら! これがあたいの絶技……『フィンガーフレアスパークス』よっ!!」

両手の指でやるのは負担だったため、五発程度が限界だった。
しかしそれでも、あの巫女をやっつけるには充分だと思っていたらしい。恐ろしい事に。
巫女はそんな私の愚かさに対して、苛立たしげに首を振って。

489 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:20:08 ID:???

「え〜い! その程度だったら里香の方が千倍マシよ!
……そんな案外というか元から全然大した事ない技。 ――こうだっ!」

バ! バ! バ! バ! バッ!!
  ――ギュン! ギュギュギュギュンッ!!

ダッ! フワァァァッ………!

「うえっ……?」

その圧倒的な動体視力と反射神経。そして天賦の才とも言える武術への勘と素養。
その全てを駆使して彼女は私の魔法を容易く打ち破り。
しかも極め付けにそいつは亀から大きくジャンプして、『何も無しに空を飛んで』、
私の喉元にそのスラリとした足を振り抜いて――。

「――食らいなさい! ……天覇、風神脚ーーーーッ!!」

ズドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

「きゃ、キャァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

天才的で煌めいた、本当に本当に綺麗なキックを私にぶちかました。
そんな少女を近くで見た私は、生まれて初めて心底惨めな気持ちになった。
何故なら、とろそうに見えたその少女はその実、自分なんかよりも数倍きれいで可愛くって。
そして、自分が持っていない才能を、溢れ落ちる位に持っていたのだから。

――私はこの時始めて、自分がこの物語の主人公では無いのだという事実を思い知らされた。

490 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:23:12 ID:???

*****


−魔法の森 霧雨魔法店−

魔理沙「……そうだ。それが私、霧雨魔理沙とアイツ――博麗霊夢との初めての出会い。
これまで自分こそがこの物語の主人公だと信じて疑わなかった私に、初めて自分自身の価値の無さを疑わせた。
当時の私的には最強最悪にロクでも無い相手だったな」

森崎「……お前バカだな。その位で自分自身疑ってたのか。まるで四面のボスみたいな発想だぜ?
そんなんだったら、いつまで経っても俺みたいな主役にゃなれないぜ?」

大会一回戦を明日の午後に控えた夜。
霧雨魔理沙は利害関係者として共に修練を重ねて来た少年――森崎有三を自宅へと呼んで、僅かな昔話に興じていた。
彼は幻想郷には中々いない珍しいタイプで、要するに魔理沙と割と気が合うタイプだった。

魔理沙「私だって、あれから努力したさ。それに結果も挙げて来た」

森崎「それがどうしたよ。そんなの、主人公にアッサリ負ける三下でも出来る事じゃないか」

魔理沙「じゃあ、どうすれば良いんだよ」

森崎「自分で言ってたじゃないか。自分自身を、この物語の主人公だと信じて疑わない事。
これが一番重要なんじゃないのか? 少なくとも、俺はいつもそう信じているぞ」

森崎の遠慮を全く知らない、完全なる功利主義から基づくドストレートな言葉は時に辛辣に思えるが、
魔理沙にとってはむしろ好感の持てる話し方だった。
現に今もこうして、魔理沙は森崎との会話を通じて、自身の伸び悩みの原因を探ろうとしていたが、
こうした流れで、魔理沙が森崎に反感を覚えた事は自然と一度も無かった。

491 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:24:54 ID:???
魔理沙「信じるのは自由だ。だが現実は我々のそんな信仰を妄想だと言って一笑に付してくるじゃないか。
それには一体、どうやって対処するんだ?」

森崎「ほっときゃ良いじゃねぇか。それで仮にカチンと来たり、傷つく事があったとしたら。
それは多分お前も内心その通りだなーって思ってるからだと思うが。まあ、でもそんときゃそれを直せば良いだろ」

魔理沙「直せば良いとは大きく出たな。じゃあ例えば、内心その通りだと思ってる事が、どうしても直せない場合はどうする?
こうなったら、どうしようも無くないか? そうなるヤツは主人公失格なのかな」

森崎「どうしようも無いんだったら、ほっときゃ良いじゃないか」

魔理沙「……お前。もしかして適当な事言って。私を煙に巻こうとしているな?」

森崎「ちっ。バレたか」

二人は練習後、こうしてしばしば談笑する事もあった。
とはいえ、その範囲はあくまで業務中の雑談レベルに過ぎず、踏み込んだ会話をすることはあまりない。
魔理沙がこうして自分の過去を話すのも、今夜が初めてだった。

森崎「――ま。要するに気にするだけ負けってヤツだな。
俺の生活を物理的に邪魔しない限り。結局、他人がどう言おうが、どう思ってようが関係ないさ」

魔理沙「そこは私も分かってるつもりだぜ? むしろ、お前さん以上にな」

魔理沙はパチュリーから大分前に借りた本を枕にして、自室のソファに寝そべった。
流れるような金髪がふわりと揺れると、流石の森崎も若干どぎまぎする事もある
……ような、そんな甘酸っぱい時期は当に過ぎていた。
森崎には丁重に、アリスから『譲ってもらった』クッションの上に座らせている。

魔理沙「……いかんいかん。少し眠くなってきたな。――森崎ももう帰るか?」

森崎「ああ……そうしようかな。そういや、この間のキノコありがとうな。全部腐ってたぞ」

492 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:26:18 ID:???
森崎は結局幻想入りの日から今まで、博麗神社の離れを借りてそこで生活している。
食事・洗濯等について霊夢は勿論何もやってくれない(結界があって、勝手に部屋に入る事もできない)ため、
実質的な自給自足の独り暮らしである。
そのため、魔理沙から偶に貰えた質の悪いキノコや草も、森崎にとっては割とありがたい。
魔理沙はそこから、森崎を神社まで連れていった。懐中時計を見ると、時刻は既に3時だった。

魔理沙「ふああ……眠い。明日は大会だし、寝るか……って。あれ」

家に帰った魔理沙は早々に寝支度をしていたが。
その日たまたま魔理沙は、霊夢の家に生活用品を数点置いていた事に気付いた。

魔理沙「あっちゃあ。そういや荷物を持ったまま、神社にお邪魔してたんだっけ。
明日取りに行っても良いけれど――どうしようかなぁーっと」

少しだけ悩んだ末、魔理沙は箒に乗って空を飛んでいた。
性分として、今日やれる事は今日の内にやっておきたいタイプである。
森崎に話してやった過去の自分の冒険譚――外界の天才学者と遭ったり、
かつては髪の長かった幽香を退治にしに行ったり、果ては魔界の神様と戦ったり。
中には不格好なエピソードもあったが。そのどれもが今の自分に繋がる、大切な思い出だったという事に気付いた。

魔理沙「さーて。神社のどこに置いたっけな……」

フワリ。

魔理沙はルーミアも出没する、神社の境内裏で降りて、霊夢を起こして機嫌を損ねぬよう、
こっそりと周囲を歩いて行った。幸いに、魔理沙の探し物はすぐに見つかった。
(霊夢が気を利かせて、纏めて賽銭箱の傍に置いといてくれていた)
――のだが。

493 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:27:25 ID:???
シュッ。シュッ! シュッ。シュッ!

魔理沙「……音?」

この時魔理沙は不思議な音を聞いた。何かが空を切るような幽かな音だった。

魔理沙「(何かの妖怪か、それともまだみぬ怪現象か……?
最近、オカルトボールがどうとか都市伝説がどうとかいう噂が立ってたし。割とあり得るかもだぜ……)」

音は神社の裏山から聞こえている。境内裏から少し飛んだ場所だ。
麓の方は開けていて林も無く、自分がもう少し小さかった頃は、同じく小さかった霊夢と一緒に川で遊んだ記憶がある。
音の発生源は、その麓にある川べりからだった。
そこでは一人の小柄な男が、月明かりを受けて映る自分の姿を見ながら、基礎的なセービングのフォームを確認していた。

魔理沙「も、森崎……!?」

――それは間違いなく、先程魔理沙と別れた筈の森崎だった。
森崎は普段からこうして、一人で遅くまで基礎的な練習を積み重ねて来たのである。
魔理沙は大きな声を出して、森崎を呼び止めようとしたが……やめた。

魔理沙「(――ここで私がアイツに声を掛けたら、私はアイツのプライドを大きく傷つけちまう。
だって、私が逆の立場だったら大いに傷つくし……。
でも……何だ、なんだよ。森崎のヤツ。アイツ、あれだけ自信家の癖して……!)」

努力をするのは良いが、そこまで隠れてやる必要があるのか?
自分の事を完璧に差し置いて、魔理沙は森崎に非常に腹が立った。
しかし、魔理沙が今一番腹を立てている対象は森崎では無かった。

魔理沙「(……私は馬鹿だ。森崎から見たらロクな努力もしてない癖に、主人公に憧れて。
それでいて、その為の行動が全然伴ってないんだから! 私と森崎は一緒じゃない。全然違った……!)」

494 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:28:46 ID:???
魔理沙は自分自身への怒りに体中を熱くしながら、全速力で空を駆けていた。
そうと決まれば、自分のすべき事はひとつしかない。

魔理沙「(駄目だ。もっと……もっと練習しなくちゃ! もっと努力しないと、私は主人公に憧れるだけの、単なる噛ませ犬だ……!)」

鈴仙が中山から多くの事を学んでいたように、魔理沙は森崎から多くの事を学んでいた。
それはこれまでの半年間での積み重ねでもあった。
だから、森崎の真の努力に気付いた魔理沙が、これまでの森崎との会話から新たなシュートを開発するまでに、
それほど多くの時間を要さなかった。……大会当日の早朝の事である。

――カッ!  チュドゴーーーーーーーーーーーーーーンッ!

魔理沙「はぁ。はぁ……出来た!」

暁光により僅かに白みかけた空の下、魔理沙は博麗神社の裏山目がけておもいっきり、その新しいシュートを撃ち放った。
悪友に対するせめてもの報告が必要だと考えたからだ。

魔理沙「これが……私の物語最大最後のシュート。最後の閃光。『ファイナルスパーク』だ……!」

抜け殻のようになった魔理沙は、自分のシュートをそう名付けると、満足したようにその場に倒れる。
人間はどうしようも無く眠くなった時は、機械のように意識が落ちるのだと魔理沙は学習した。
お蔭で、あの脚が千切れるような痛み、間接の骨がゴリゴリと削られていくような嫌な感じを覚えなくて済んだ。

魔理沙「(み……ま……さま。あた……し、やり……まし……た)」

薄れゆく意識の中で、魔理沙はかつての師を思い出す。
彼女はこのシュートを見て感心しているだろうか?それとも、まだまだだと駄目出しをするだろうか?
その時の彼女の顔は――魔理沙には、ぼやけて何も見えなかった。

495 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 02:31:37 ID:???
――と、言ったところで、今日の更新はここまでです。
いつまでNPCシーン続くんだという感じですが、これで分量的に半分位は行ったと思います。
明日にはNPCシーンを終わらせ、できれば14日目の行動選択に行ければなと思っています。

それでは、皆さま、本日もお疲れ様でした。

496 :森崎名無しさん:2015/05/10(日) 03:04:35 ID:???
乙なのです!

霊夢「へえ……やるわね。素直に感心したわ」
魔理沙「おう、どうだ!」
霊夢「で……この神社の、裏山の惨状についてどう責任を取ってくれるのかしら?」
魔理沙「……観光名所にでもすればいいんじゃないか?」
霊夢「なるか!」

輝夜「オチオチキーパーもしていられないわね、幻想郷は……(汗)」

497 :森崎名無しさん:2015/05/10(日) 11:20:30 ID:???
>勇儀「森崎有三。初対面で会話もしてないが、私はあんたを気に入ったよ」
>完全なる功利主義から基づくドストレートな言葉は時に辛辣に思えるが、魔理沙にとってはむしろ好感の持てる話し方だった。

これは……LOVEの予感!(真勘違い)
アリス「うふふ…にがさないわよ」森崎「や め ろ」

498 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 21:56:12 ID:???
こんばんは、今日も文章だけですが更新します。
>>496
乙ありがとうございます。裏山はあまり深く考えずに吹っ飛ばしてしまいました(汗)
石崎君ですら日向のコンクリ破壊タイガーショットを顔面で受けられるので、姫様だったら大丈夫ではないでしょうか。
>>497
森崎とかは敵役と言うよりも、もう一人の主人公って感じで書いてますね。
なので鈴仙の影でフラグが立ちまくりです。何のフラグかは分かりませんが。

499 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 21:57:53 ID:???
*****

さとり「――ぅ。あ。ここ、は……?」

お燐「なーみょーほーれんげーきょー……。――あっ、さとり様! まだ生きてたんですか!?」

さとり「……ジョークという事は分かっているけれど。怒るわよ?」

お燐「すみませんすみません。九割ジョークでした」

さとりはお燐が普段押している猫車の中で目覚めた。
お燐が言う残り一割が何であるかを敢えて問わずに、さとりはまず周囲を眺める事にした。

さとり「ここは。地獄かしら……?」

さとりがそう勘違いしたのも無理はない。
彼女が目を覚ました周囲では、地面がひっくり返ったように滅茶苦茶になっていた。

お燐「違いますよ。ここはサッカースタジアムです。ほら」

お燐がそう言って指し示した先には、大きく開けた視界の端にはサッカーボールが転がっており、
すぐ近くには、飴細工のようにひしゃげたゴールポストが打ち捨てられている。
信じたくはないが、確かにここは間違いなく、妖怪の山モリヤスタジアムのようだった。

さとり「……私は、点を取られたのね」

お燐「0−1ですね。霧雨魔理沙の、えっと……『ファイナルスパーク』とやらが、
我々地霊殿サブタレイニアンローゼスゴールを突き破った挙句、
フェンスの物質となんか核分裂的なヤバい反応を起こして大爆発。
さとり様は見事吹っ飛ばされて、今の今まで気を失ってたワケです」

500 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/05/10(日) 22:00:29 ID:???

空「お燐違うよ! 核分裂じゃなくってミューオン触媒核融合だってば!
多分、あのミニ八卦炉が中間子工場代わりで、負ミューオンが物質中の水素の触媒となって自然崩壊したんだと思う!」

さとり「――そう。お燐、お空、ありがとう……」

さとりは空の科学的な説明を聞き流しながら、二人の頭をくしゃっと撫でて立ち上がる。
試合はまだ始まったばかり。お燐と空を支える一勢力の長としても、さとりはここで挫ける訳にはいかなかった。


***


一方で、ゴールを決めた側の博麗連合の面々も、魔理沙が今放ってみせた最後の閃光
――『ファイナルスパーク』のあまりの威力の高さを見て、祝福するよりも先に戦慄していた。

霊夢「…………」

魔理沙「はぁ、はぁ……! ど、どうだ霊夢、凄いシュートだろう!
なんせ、実際にシュートを撃って見せた私自身が、あまりのえげつない威力にビビってるくらいだしな!」

しかし、そんな事はもはや魔理沙には関係が無い。
これまでの努力が実を結び、レミリアよりも勇儀よりも、最近調子に乗ってる鈴仙よりも。
他のどのライバルにも負けない最強のシュートが完成してしまった以上、
彼女の高揚感を押えられる者は誰ひとりとしていなかった。

霊夢「……魔理沙」

魔理沙「な、何だなんだよ。そんな怖い顔して。ま、確かにさ、これまでは私もパッとした活躍をしてなかったけど。
これからの活躍でぜーんぶチャラだ。今に見てな。私がさとりからダブルハットを取って、得点王に返り咲く姿を――」

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