キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【優勝】キャプテン森崎48【エンディング】

1 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/17(日) 14:06:01 ID:/eJy5cNU
キャプテン森崎は、高橋陽一氏作のサッカー漫画「キャプテン翼」の二次創作です。
大空翼に代わって主人公になった森崎有三を読者の投票によって操作していき、
他のキャラクター達と交流を深めながらサッカー選手として大成するのが目的の
読者参加型企画です。いわゆるゲームブックを想像して頂ければ分かり易いかも。

基本は毎回出る選択肢の中から読者が投票によってどれかひとつを選ぶ事によって
森崎の各数値が上下したり結果が分岐し、その結果によって森崎が活躍したり
しなかったりして物語が進んでいく…といった展開です。例えば敵にシュートを撃たれたら、
森崎の能力値+ある程度のランダム要素によってゴールを守れたり守れなかったりします。

投票や判定ではID付の投票書き込みを行ったりスクリプトでカードやダイスを引いてもらったりします。

過去スレのログはこちらのまとめページで見られます↓
http://www32.atwiki.jp/morosaki/pages/11.html

ミス指摘、質問以外の雑談は下のURLの雑談スレでお願いします。
本スレでも更新毎に30レス程度までの反応レスなら問題無しとしています。
尚、30レスを超え雑談スレへの誘導が始まったら速やかに誘導に従って下さい。それがルールです。
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1429166883/l50
2ちゃんねるとは別の場所の板なので、ブラウザによっては外部板登録が必要です。
なんらかの理由で雑談スレが落ちている時は、本スレでも遠慮なく雑談をどうぞ。

50 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:27:14 ID:81NtpcmE
そしてしばしの時が流れ、いよいよこの物語も終焉を迎える。

最後に主演を務めた全日本ユースとその関係者達、そして主なライバル達のその後を語って締めくくろう。



〜中西 太一〜
高校卒業後屋台を引きながら各地のうどんの味を学習し取り入れる放浪の旅に出ていたが、
北海道で突如客が訳の分からない事を怒鳴り出して殴りかかり、屋台を破壊されてしまうと言う憂き目に会う。
尚その客から示談金は取れたので屋台を直す事自体は可能だった。

中西「きゃ、客商売ってこんな目にも会わなアカンのか…」



〜小田 強〜

実家の寿司屋で若くしてツケ場に立ち、評判は上々である。
ただし時折彼の握る寿司ではなく彼が南葛中の伝説のメンバーの一員だった事を
目当ての者がやってきて困ってしまうらしい。

小田「実はスタメンの中で断トツのザコでした…なんて正直に言う訳にもいかないしなあ」



〜浦辺 反次〜

相変わらず南葛で豆腐屋を営んでいるが、以前はヒットしていた「ギャラクシートウフ」が
ブームが終わって売上が縮小し、量産設備に投資していたのが仇となって頭を抱えている。
サッカーに復帰する事も考えているが、1年以上ボールから離れていた影響は小さくない様だ。

浦辺「あーどうしよどうしよどうしよ!…はぁ。サッカーしたいなぁ。今からでも出来るかなぁ」

51 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:29:42 ID:81NtpcmE
〜井出 保〜

全日本ユースに帯同しデータ収集と作戦立案に励んだ功績を認められ日本サッカー協会に就職。
そのまま地域、国籍、年齢問わずありとあらゆる選手やチームの分析に勤しんでいる。
世界中のサッカービデオを思う存分鑑賞する毎日は充実しているが、目も充血しているとの事。

井出「あれっ、今日何日だっけ…まあそんな些細な事はどうでもいいんだな!次のビデオを見るんだな!」



〜吉良 耕三〜

日向のツテで納まった東方学園高等部で監督業を続けており、スパルタなしごきで悪名高い。
しかし黄金世代以降期待出来る才能の持ち主が出てこないのを嘆いており、
このまま平穏な隠遁生活を続けるのは嫌気が差している模様。

吉良「ぬぅ、どいつもこいつも…ワシもそろそろプロクラブの監督を目指してみるかのう」



〜賀茂 港〜

相変わらず日本サッカー協会で役職不明の仕事をしている。情報収集及び操作、そしてスカウト業に
関しては評価されているのだが自分が優秀な指導者だと思い込んでいるのも相変わらずである。
日本サッカー協会が彼を雇っているのは指導者として醜態を晒させたくないからかも知れない。

賀茂「ったく、今日も地球の裏側までひとっ飛びかよ。ああ、早く俺の真価に気付くチームが出てこねえかなあ」

52 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:31:30 ID:81NtpcmE
〜片桐 宗正〜

ワールドユース優勝によって日本中に湧き上がった急激なサッカーブームを最大限利用すべく
寝る暇も惜しい程動き回っている。一度片桐総合グループの会長に面会をしたそうだが
具体的に何を話しに行ったのかは日本サッカー協会のトップシークレットである。

片桐「ふぅ、やっと3時間眠れそうか…何時になったらこの忙しさが減るんだ…?」



〜見上 辰夫〜

Jrユース大会に続きワールドユースでも予想外の大金星を得た功績で今日本で最も有名な
スポーツ指導者と言ってよく、テレビ出演にサッカー理論講座にと連日忙しい。
次の監督業は日本代表なのかそれとも別の道を目指すのか、大いに注目されている。

見上「ええい、また芸能番組か!ぶくぶく太った芸能人にサッカーの真似事などやらせて何の意味がある!」



〜西尾 浩司〜

一時は高卒のまま最早サッカーには縁の無い生活を送るかと思われたが、
滑り込みでなんとかJSLのチームに滑り込む。しかし何かと同世代の華やかな
選手達に比較されてしまう為あまり居心地は良くない様である。

西尾「お、俺だって、翼みたいに活躍したかったよ…うう」

53 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:33:58 ID:81NtpcmE
〜岸田 猛〜

大学受験に失敗してしまったが日本のサッカーブームが爆発した事で
JSLのチームに加入出来た。しかし西尾同様同世代の中では落ちこぼれ扱い
されてしまうのが気に入らず、日々ストレスを溜めこんでいる模様。

岸田「全く、俺より上手い訳でもない癖に俺を馬鹿にしやがって…!」



〜長野 洋〜

大学サッカーで早速活躍していたが、ワールドユース優勝をきっかけにこれ幸いと
大学を中退してJSL入りする。日本人には不足しがちなポストプレイヤーとして
即戦力扱いされているが、それでも昔の仲間達との差に悩む事が無い訳ではない。

長野「俺も何かがもうちょっと違っていたら今頃は…って思わずには居られないんだよなぁ…」



〜岩見 兼一〜

長野同様JSL入りするが、彼は大学もそのまま続ける事にした。
日本サッカーのブームがいつまで続くかは未知数な事とどの程度の収入につながるかを
不安視した結果医者への道も残しておくと言う彼らしい選択だった。

岩見「俺は俺の器を知っている…高望みはしないさ」

54 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:36:05 ID:81NtpcmE
〜佐野 満〜

高校卒業後JSLのチームにスカウトされ、これを受け入れる。
高校サッカーでかなりの名声を得ていた彼は既にJSLでも目立つ存在だったが、
それに満足せず日本代表に返り咲く事を目論んでいるのは言うまでもない。

佐野「次藤さん!俺はもう一度やってみせますよ!もう一度あの舞台に立ちたいんだ!」



〜反町 一樹〜

東方学園の大学部にスムーズにスライドし大学サッカーではかなりの名声を得ている。
更にJSLからもいくつも誘いを受けているが、本人は何やら悩みが深い様で
踏ん切りがつかないまま大学サッカーをズルズルと続けているのが現状である。

反町「このままじゃ駄目なのは分かっている。だけど、どうしたら…」



〜沢田 タケシ〜

東方学園高等部の3年生キャプテンとして全国制覇を目指している…のだが
小心者の彼にはそれだけでも重荷なのに更に全日本ユースを率いてワールドユース2連覇を!
等と世間が勝手に盛り上がってしまい、毎日プレッシャーに脅かされている。

沢田「あわわわわわ…な、何とかしてせめてアジア予選は勝ち抜かないと…」

55 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/27(水) 10:37:49 ID:81NtpcmE
いったんここまで。

56 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/28(木) 10:03:04 ID:TNrrR3c+
栄光の23人。ワールドユース優勝を成し遂げた全日本ユースの選手達はそう呼ばれた。
その称号は上記の選手達の様な“24人目以降”にとっては羨望以上の感情の的であったのは言うまでもない。

しかしその23人の中でも栄光を遠慮なく堪能出来たか、それとも己を頭数合わせの様に感じたかは
選手にとって天と地ほどの差があり、その後の進路には少なからぬ差が生じていた。

ここで少し説明しておこう。
日本のワールドユース優勝がサッカーの世界史にとってどれほど驚天動地の出来事であったかは
既に何度も述べた通りだが、特に大きかったのはプロサッカービジネスへの影響であった。

世界で2番目の経済大国である日本の空前のサッカーブームを、そしてそれに釣られて発生する
アジアとアフリカでの副次的なブームをビジネスチャンスと見なさないサッカー関係者など存在しない。
それは欧州各国のプロリーグも同様で、今まで欧州人と南米人以外を見下してきた事など忘れたかの様に
外国人選手枠を急遽広げてアジア人とアフリカ人の選手をスカウトし始めた。

そして全日本ユースの選手達は当然熱い視線を注がれたのだが、お眼鏡に適う確率は選手によってまるで違う。
元全日本ユースの選手達の中でも“地”に属する者たちは世界に羽ばたく“天”の者達を羨むしかなかった。

まずは“地”の選手達のその後から紹介していこう。

57 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/28(木) 10:05:36 ID:TNrrR3c+
〜石崎 了〜

石崎母「こら馬鹿息子!アンタ本当にサッカーでお金稼げるんだろうね?」

石崎「何度も説明したじゃねぇか!ちゃんと企業がお金払ってくれるの!」

石崎は全日本で殆ど出番が無かった事が祟り、海外リーグ挑戦など夢のまた夢であった。
それでも彼は腐ったりせず、地道にJSLで戦う覚悟を決めていた。

石崎「(翼…もう俺の手の届かない世界に行っちまったけど…俺は俺で頑張るよ。
何でもいい、どんな形でもいい、俺はお前っていうヒーローの役に立ちたいんだ…!)」

石崎母「だったらしっかり稼いできな!この銭湯を一大レジャーランドに変えられる位にね!」

石崎「無茶言うなーっ!?年棒はそこらのサラリーマンと大して変わらないんだよ!」

後年彼が語る所によると、家族は応援はしてくれたものの理解には乏しかったらしい。

58 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/28(木) 10:07:26 ID:TNrrR3c+
〜高杉 真吾〜

高杉「もし、若林さんが森崎に勝っていたら…もし、森崎なんか最初から居なかったら…」

高杉は諦めの境地に入っていた。彼は間違いなく今の日本の現役サッカー選手の中で
TOP50に入っている人物である。JSLでも即レギュラーが保障される程の。

高杉「それでも…結局俺なんか目立てなかったんだろうな…」

そんな彼でも次藤や早田には敵いそうにない。そしてそんな次藤や早田ですら苦戦する
世界では彼の出番はない。成人間近になってようやく彼は冷たい現実を受け入れる事が出来ていた。

高杉「せめて、親父とお袋に楽をさせる事を目標にするか…」

上を見ても下を見てもキリがない。故に己を見続けるしかない。殆どの人間はそういう生き方に幸せを見つける。
大抵のサッカー選手は彼を雲の上の存在と見るが、彼もまた雲の上を見上げる事しかできない人間だった。

59 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/28(木) 10:08:55 ID:TNrrR3c+
いったんここまで。

60 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/29(金) 08:43:40 ID:D3IANEbQ
〜来生 哲兵〜

来生「ヒャッハー!」

来生は復活していた。

来生「ちょっとオレ〜見な〜♪エースがは〜し〜る〜♪」

ワールドユースで結局最後の最後まで出番が無かった時、彼の自我は一度崩壊した。

来生「怖い物〜無し〜♪街中〜は〜しゃ〜ぐ〜♪」

そして大会の一週間後、彼は復活した。都合の悪い事を忘れたのではなく、
開き直ったのでもなく、ただ単にこの先に栄光があると勝手に思い込んで。

事実、それはある程度は正しい。彼の力量ならJSLでは瞬く間に得点王ランキングの常連になれる。
何時までも落ち込んでいても仕方がないのだから気持ちを切り替えられたのは建設的と言って良いだろう。

子供「ママー、なんであのお兄ちゃんサッカーボールで玉乗りしながら歌ってるの?」

母親「シッ!見ちゃいけません!さっ、行くわよ!」

来生「超々…うぉわっ!?壁、壁〜〜〜っ!?」

ドンガラガッシャーーーーン!!!

ただし、その前向きさの原動力は相も変わらず知性の欠如だった。
それが彼にとって喜劇なのか悲劇なのかは意見の分かれる所だろう。

61 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/29(金) 08:47:38 ID:D3IANEbQ
〜滝 一〜

滝「う〜ん…」

チームメイト達「す、すごいじゃないか!」「また抜かれた…どうしてだよ」
「なんて正確なクロスだ…」「噂通り!素晴らしいサイドアタックだ!」

滝「は、ははは。どうも…(うわ〜、なんか違和感が凄い…)」

滝は小学生、中学生、そして高校生の間一貫してウインガーとして名声を得ていた。
それが功を成し、彼は加入したJSLのチームでいきなりサイドアタックの達人として持て囃されていた。

滝「(これが日本と世界の差って事なのかなあ…)」

だが常識人で割と素直な性格の滝もこれを安直に喜ぶ事は出来なかった。
確かに彼はサイドアタックに自信があるが、この分野に置いても彼の上を行く者は
全日本ユースにも何人も居たし、ましてや世界を見渡せば全く威張れた物ではない。
ドイツのカペロマンの様な正にサイドのスペシャリストと言える選手を見てしまった後では
滝は己の唯一の武器と言って良いサイドアタックに何の誇りも持てなくなってしまっていた。

しかしそんな彼のサイドアタックがJSLでは突出した必殺の武器と化す。
しかもそれ以外の分野でも滝が「普通に上手い」レベルとしてカウントされる。

滝「(レギュラーは楽に確保出来そうだけど、これでいいのか日本サッカー…
早くリーグのレベルが上がらないと後々大変な事になるんじゃないのかこれ?)」

ワールドユースでは一度も出番がなかった自分がスターとして持て囃される。
まだまだ日本サッカーの行方は前途多難だと危惧する滝であった。

62 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/29(金) 08:49:24 ID:D3IANEbQ
〜井沢 守〜

ギャルサポ「キャー!井沢くーーーん!」「こっち向いてーーーっ!」「差し入れ受け取ってくださーい!」

チームメイト達「いやあ、今日もモテモテだなあお前」「羨ましいもんだぜ。どうよ、好みの娘居ないか?」

井沢「いやあ…今は恋人を作る訳にはいかないですね。まずはリーグ戦に慣れていかないと」

井沢は学生サッカー時代同様JSL入りしてすぐに多くの女性ファンが出来た。
こういう存在は彼にとっては迷惑千万以外の何物でもない。
常にチームメイトから嫉妬されるリスクの原因となり、ともすれば練習の邪魔にすらなりかねない。
かと言って邪険に扱う事は厳禁。それどころかファンサービスさえ求められてしまう。

井沢「(全く、ここでも俺はサッカーのいろはも知らない女共に付きまとわれるのか…
ああ〜うざったいうざったい!お前ら俺の事を応援しているんなら今すぐ家に帰れ!
って叫べたらなぁ…お前らなんかに用はないんだよ!俺が用があるのは…)」

彼にとってそんな女性ファンは障害物以外の何物でもない。遥か空の向こうに旅だってしまい、
何時まで経っても差を広げられるばかりの標的大空翼に集中させてくれない障害物。

井沢「(翼…あの野郎…ああ、思い出すだけで腹の底が熱くなる…!)」

彼がひたすら妬みと恨みをぶつける相手、大空翼はその感情に気付いているかどうかすら怪しい。
井沢はそれが憎くて憎くて堪らなく、嫉妬で己の足を動かし続ける。

井沢「(何年かかってでも、お前のその鼻っ面を…!)」

嫉妬を力に変えひたむきに練習する硬派なその姿がまた女性ファンを増やし、彼を妨害する。
彼はこの後実力でも実績でも話題性でもJSLを代表する選手の一人となるのだが、
それで彼が満足する訳がない。何時の日か奇跡的に翼の力量に追いつけない限り、彼は満たされない。

63 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/29(金) 08:50:45 ID:D3IANEbQ
いったんここまで。

64 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 00:40:19 ID:P9T0pqWk
〜立花 政夫、立花 和夫〜

全日本ユースの選手達の中でも上位の攻撃力を持ちながら、他者との連携が無ければ
力の半分も発揮できないと言う特性の為ワールドユースでは出番の無かった立花兄弟。

政夫「だ〜〜〜っ、やっぱりダメだーーーっ!!」

和夫「最高がスペインの三部クラブかよ…いくらなんでもなあ」

その為彼らに注目する海外クラブは少なかった。そして興味を示した数少ないスカウトも
彼らの特性を良く知るにつれ首を振って立ち去り、マイナークラブが二束三文を出そうとするのが関の山だった。

政夫「しょうがねえな。何時までもブラブラしている訳にはいかないし…」

和夫「諦めてJSLのチームに入るしかないな。全く…」

何時までも試合から遠ざかっている訳にはいかない。止むを得ず、
一旦は誘いを断ったJSLのチームに入る。これが二人の取った現実的な選択だった。

政夫「そうと決まれば山籠もりの総仕上げだ!行くぞ和夫、競争だ!」

和夫「へへっ、いーのか?負けた方が飯奢りだぜ!」

ちなみに彼らは今埼玉県にある通称“無能橋”と言う大変危険な橋の上に居る。
赤錆びたワイヤーとスカスカの細い踏板で構成された地上から数十m上の釣り橋。
彼らはここを勝手に訓練場として使っていた。

………現実的?

65 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 00:51:24 ID:P9T0pqWk
以上7人は海外に飛び立つ事が出来ず、ひとまず日本でプレイする事にした。
そして残りの16人は欧州プロリーグに舞台を移すが、勿論彼ら一人一人にドラマがある。
各国のライバルの様子も交えてそれらを描写していこう。



〜岬太郎、エル・シド・ピエール〜

ピエール「ミサキ!」

岬「ピエール!」

岬はフランスの空港にて浅からぬ縁のピエールと再会していた。

ピエール「君とまた会えてこの上無く嬉しいよ。マルセイユ入団を心から祝福する」

岬「有難う。これからは僕たちはプロのライバルだね」

岬が選択したのはフランスのリーグ・アンの名門マルセイユ。3年間の滞在と国際Jrユース大会で
現地を良く知っており、知名度もある為彼にとってやり易い環境だと誰もが納得する選択だった。

岬「(この年代でライバルになりそうなのはピエールとナポレオンだけ。
リーグ・アンの特徴もレベルも良く理解している。危険を伴う大金よりも
確実に入る小金を狙う。そして将来の為の名声とコネも確保。これだよね)」

無論そこには腹黒い計算もあるのだが、それを知る者はいない。邪推する者なら居るだろうが、
岬にはそんな邪推を否定もせずオブラートに包み言い換える事も朝飯前である。

66 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 00:55:10 ID:P9T0pqWk
ピエール「ところで…フライトの影響か?何だか顔色が良くない様だが」

岬「あ、ああうん…上手く眠れなくてね…(う、思い出しちゃった…)」

しかしそんな彼の人生も全てが順風満帆と言う訳ではない。



岬太郎には美子と言う妹が居る。彼の父と離婚した母が再婚相手と産んだ父違いの妹である。
ところが何の因果か美子は彼を実の兄だと知らないまま惚れ込んでしまい、
運が味方したチャンスを逃さず押しかけ女房同然に彼女の地位を獲得してしまった。

リスクを恐れた岬は中々真相を言い出せずに居たが、ひょんな事から二股野郎との
汚名まで着せられてしまった為これ以上長引かせる訳にはいかないと決意し、
ワールドユース大会後に家族と共に集まり真相を美子に告げた。

美子「ああ…とうとうお父さんとお母さんにお話をして下さるのね、岬様!」

岬「…美子。確かに大事な話なんだけれど、そういう話じゃないんだ」

美子「えっ…?」

岬は告げた。彼と美子は実の兄妹である事を。同じ母から産まれた事を。
岬は告げなかった。彼が最初からその事を知っていた事を。
両親とその再婚相手の強力をとりつけ、彼もつい最近知ったのだと言う事にした。

美子「………」ポカーン

岬「(よし、茫然としている!今の内に畳みかけるんだ!)だから、僕は
君の恋人じゃなくて兄なんだよ。こんな事になってしまって大変申し訳ないけど、
どうか許して欲しい。言い訳でしかないけれど、僕も知らなかったとしか言い様がないんだ」

67 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 00:56:58 ID:P9T0pqWk
それを聞かされた美子は目を丸く開き、次に目を潤ませた。

美子「つまり…岬様は、私のお兄様なんですか…?」

岬「うん。僕は、君の兄なんだ。今更だけど、兄として受け入れて貰いたいと思っている
(よしよし、どうやら諦めてくれた様だ。後は適当に可愛がっておけば満足して…)」

岬も、彼に協力した父、母、再婚相手の3人もこれでホッと一安心した。
衝撃的な真実を何事もなく受け入れてくれて良かったと。

だが事態は最悪の展開を迎える。

美子「 す て き 」

岬「えっ?」

美子「岬様がお兄様でもあって運命の王子様でもあるなんて、すてき♪♪♪」

岬・大人達『えっ!?』

美子「お兄様〜〜〜♪♪♪私、可愛い妻になります〜〜〜♪♪♪」

この時岬は初めて実感した。知識としては知っていたが、実体験で学習した。
この世には禁忌を冒す事を喜びとする人種も居ると言う事を。



岬「(とりあえず日本に置いてきたけど…距離を置いただけじゃ絶対あきらめないよな…
ううう、あの爆弾がある限り僕の日本サッカー乗っ取り計画が危ういのに…どうしよう…)」

策士、策に溺れる。神をも欺く男も、計算外の事は常に有り得る。

68 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 01:03:06 ID:P9T0pqWk
いったんここまで。

69 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 07:11:37 ID:P9T0pqWk
〜松山 光〜

全日本ユースの縁の下の力持ち。その名は松山光。
彼はレギュラーの守備的MFとして派手な活躍こそ無かったものの何度も敵の攻撃を阻止してきた。

その功績を認められ彼はイングランドのプレミアリーグの名門クラブ、
マンチェスター・ユナイテッドにスカウトされていた。
そこのレギュラーに定着出来れば彼のプロサッカーキャリアは素晴らしいスタートを切る。
そのスタートまで後三日間の間、松山は愛する故郷にしばしの別れを告げる時間があった。

松山「う、うぅううう…」

だが今彼はそんな輝かしい未来を掴めそうな若者とは思えない状態だった。
はばかりもなく涙を滝の様に流しフラフラと街をさ迷うその姿はかなり惨めだった。

松山「ふ、ふじさわぁああ…」

彼は失恋した直後だった。
ワールドユース優勝と名門クラブとのプロ契約。この二つのトロフィーを手にし
“ここまで頑張れたのは君のお陰だ”と想いを秘めた女に告白しに行ったのだが…

“え?今更そんな事言わないでよ。もう私、貴方を応援なんてしていないわよ”
“大体私は鈍感な男は止めておこうって決めているの。理由は分かるわよね?”

藤沢美子。かつて彼が傷つけた相手は怒りでも悲しみでも勿論喜びでもなく、
純粋に迷惑そうな顔をして彼の告白をたった二言で切り捨てた。

松山「うわぁああああ…俺が、俺が悪いのかぁああ…」

好きの反対は嫌いではなく無関心。松山は今日それを身をもって理解した。

70 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 07:13:30 ID:P9T0pqWk
中西「お、おいおい。あんさん、どないしたんや?」

松山「う、ぅう…?」

泣きながら当てもなく歩き続けていれば、その内親切な通りすがりに心配される事もある。
この場合通りすがりはうどんの屋台を引いて開店の準備をしていた中西だった。

中西「…なんかツラい事あったんやな…どや、奢っちゃるから一杯食っていき」

松山「い、いや、その…ん?」

中西「何も言わんでええで。こういう時は好きなだけ泣いて、温かいモン食ってスッキリするのが一番や」

松山「あ、ありがとう…(何だろう…こいつ、何処かで見た様な…)」

中西「あんさん日本代表の松山光やろ?テレビで見たで。ワイも子供の頃はサッカーやっててなぁ…」

松山「…そうなのか?(そう言えば、何時か選手として会った気が…なんだ?段々ムカついてきたぞ)」

中西にとってサッカーはもう遠い過去の物だった。小学生時代に全国大会に出た記憶も最早おぼろげだった。
しかしそんな彼でも日本サッカーの躍進は喜んでいたし、松山を見かけた時そういえばこいつが全国大会で
活躍していたなあとふと懐かしい気分になり、折角だから自慢のうどんを一杯食わせようと善意を働かせたのである。

中西「一応小学生ん時全国大会に出てたんやで?中西太一って言うデカいGK覚えてへん?」

松山「中西…太一…!?(そうだ!こいつ、食堂で…!)」

彼は完全に忘れていた。約8年前、松山と殴り合いをして圧勝し、恥をかかせた事を。

だが松山はしっかりと覚えて恨んでいた。

71 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 07:14:58 ID:P9T0pqWk
バキィッ!
ドガシャアッ!!

中西「ぐほぁあああっ!?」

松山「思い出したぞ!ここで会ったが百年目!」

中西「な、何すんねん!ワイがあんさんに何したっちゅうんじゃ!」

松山「何をだと?食堂の借りをここで返すんだよ!」

中西「一体何のこっちゃ!?ばほっ!!」

ドガアッ!
ガッシャーン!
ベキベキベキッ!!

中西「げほっ…ヒイィイイ!?ワイの、ワイの屋台がぁああああ!?」



松山がプレミアリーグに出発する前の最後の3日間をどう過ごしたかを下に短く記そう。

出発3日前:告白して、失恋して、喧嘩を売り、通報される
出発2日前:中西から示談の提案。少なくない金額を払い、プロ契約金が大分目減りした
出発1日前:ゴシップ雑誌に嗅ぎつけられ、ローカル誌の表紙を飾ってしまう
出発の当日:逃げる様に成田空港に向かい、イングランドに向けて飛び立つ

この騒動が原因でまたしても松山は地元のヒーローの筈なのに評判が悪化したと言う。

72 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/05/31(日) 08:26:29 ID:P9T0pqWk
いったんここまで。

73 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:38:40 ID:5kKgHQ8Q
〜早田 誠〜

エバートン。イングランド・リヴァプールに本拠地を置くプレミアリーグのサッカークラブ。
それが早田が戦場として選んだクラブだった。

早田「早田です。ソーダじゃありませんよ、飲めませんからね」

どよっ…

チームメイト達「(い、いきなり自分の名前をネタにしやがっただと…?)」「(こいつ、何考えているんだ…)」

早田「(なんでえ、ノリの悪い連中ばっかりみたいだな…ん?あのおっさんがキャプテンだっけ)」

キャプテン「さてさて、分からんぞ…お前はワールドユースでは調子に乗っていた様だが、
プレミアリーグのレベルの高さに飲まれるかも知れん。そうなったらお前は泡の様に
消えるかもな…日本のサッカーブームも一時的なバブルに過ぎんと言う事になるだろう」

早田「(お、こいつは反応出来るのか。それなら)へえ、面白い事言うじゃないですか。
でも先程も言ったでしょう?俺はソーダじゃないって」

キャプテン「ほう。じゃあお前は何なんだ?」

早田「俺はカミソリ。ばっさりと刈り取るんですよ。ボールも名声もな。
だからしっかり泡を立てておかないと怪我をしちまうのは…そっちですよ?」

キャプテン「ほ〜う…」

早田「………」

74 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:41:27 ID:5kKgHQ8Q
キャプテン「フッ。日本人ってのは礼儀正しくて臆病なヘタレ揃いかと思っていたら
お前みたいな生意気な野郎も居たんだな…お前が特別なのか?」

早田「いいや、俺、日本代表では大人しい方ですよ」

ドッ!
ワハハハハ…

チームメイト達「これでかよ!」「日本って実は悪童の巣窟だったのか?」「ウチも他所の事は言えないだろ」

キャプテン「気に入った!そこまでビッグマウスを叩きやがるんだったらチャンスくらいはくれてやる。
精々プレミアリーグの荒っぽさに自慢のほっそいカミソリを折られない様にするんだな!」

早田「ご安心を。俺のカミソリは二枚刃よ!」

彼は持前の気の強さと要領の良さであっさりとチームに溶け込み、偏見や人種差別の問題を軽減する事に成功した。

キャプテン「よーしこいつは俺からの入団祝いだ。日本には無いだろう?」

早田「ん?なんですこの瓶は…マーマイト?チョコレートペーストですかね?」

キャプテン「見た目はチョコレートみたいなモンだが、塩味とコクがある。イギリスのお袋の味だ。まずはトーストに塗ってみな」

早田「フーン。じゃあ明日の朝食に試してみますよ」



早田「げひゃぶーーーーっ!!?なんだこの味わぁあああああああああ!!!」

ただし、そんな彼もイギリス料理に苦しめられたと言う。海外に住むと言うのは生易しい事ではないのだ。

75 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:43:39 ID:5kKgHQ8Q
〜若島津 健〜

スカウトされた海外クラブに何事もなく受け入れられた者も居れば、平和的とは言い難い入団だった者も居る。
同じくイングランドの名門アーセナルに入団した若島津の場合はそんなケースだった。

監督「…と言う訳で彼がケン・ワカシマヅだ。皆仲良くしてやってくれ。君はどう呼べばいい?」

若島津「…どうでもいいです。ワカシマヅでも、ケンでも、お好きな様に」

監督「そ、そうか…」

チームメイト達「(なんだこいつは…)」「(見た目以上に生意気な奴だな)」

若島津はお世辞にも愛想が良いとは言えない男である。それを一目で見抜いた監督は彼がチームメイト達と
衝突しない様に色々気を配っていたが、若島津の方ではそんな気遣いに感謝する気は無かったらしい。

先輩DF「じゃあ、これからよろしくな。バカシマヅ」

監督「おい!やめろ!」

若島津「………」

チームメイト達「あーあ、またアイツか」「でも新入りの態度もな…」

先輩DF「こいつが自分で言った事ですよ。どんな呼び方でもいいって」

若島津「ああ、構わんぞ。弱い犬は良く吠える位しかできないからな」

先輩DF「なんだと…!やるのかテメエ!」

76 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:45:13 ID:5kKgHQ8Q
若島津「なら、ボールを用意しろ。殴り合いをしてはクラブを追い出されてしまうからな」

先輩DF「へっ、なんでい。お上品なフットボールなら負けないってか?」

若島津「違う。ボール越しのラフプレイなら、お前が怪我をしても100%お前の自己責任だからだ」

先輩DF「なっ…!」

監督「いい加減にしろ!君たちは金を貰っている以上クラブの財産なんだ!勝手にお互いを
傷物にする事は監督のこの私が許可しない!紹介は済んだんだ、練習前のアップに入れ!」

若島津「はい」

先輩DF「…はい」

若島津が信じるのは力、ただそれだけ。弱肉強食を尊び、強い者に従いつつ自らを高める。
そして敵は全てなぎ倒す。この信条の下では先輩DFにいきなり挑発されても何処吹く風である。

若島津「(プレミアリーグは接触プレイの重要性が高く、またシンプルな攻撃の応酬を繰り返す事が特徴と聞いた。
つまり俺が結果を出しつつ己の長所を更に伸ばすのに向いている環境だ。さて、どれだけの力をつけられるか…)」

チームメイト達「(随分目がギラギラした奴が入ってきたな)」「(偶に居るんだよなー、ああいうの)」

監督「(全く…想像以上に厄介な選手だ。だが私の見立てが確かなら、彼は跳ね返し屋としては
即戦力どころではない。上手く機能させればリーグ制覇の原動力にすらなり得る…!
しかし元GKなだけあってクリア以外は何とも心細いな。これから忙しくなるぞ)」

自ら望み修羅道を歩む空手家が今、サッカーの母国で暴力を振るい始めた。更に大きな暴力となる為に。

77 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:46:52 ID:5kKgHQ8Q
〜三杉 淳〜

そしてもう一人、激しいフィジカルコンタクトを前提とした攻撃的サッカーで知られる
プレミアリーグの門を叩いた元全日本ユースの選手が居た。
フィールドの貴公子、三杉は名門リバプールに入団していた。とある野望と共に。

監督「君がスカウトされてきたジュン・ミスギか」

三杉「はい。今後是非ともよろしくお願い致します」

監督「………」

礼儀正しく挨拶する彼に対し老獪そうな監督はほんの少しの間だけ黙り、ほんの少しだけ片眉を上げた。
三杉にはそれだけで十分だった。

三杉「随分ヒョロヒョロしているな。スタミナも平均以下の様だ」

監督「!?」

三杉「本当にこれでプレミアリーグでやっていけるのか…こんな所でしょうか?」

監督「…ああ、その通りだ。君も選手の分析をやっていたのかね?」

三杉「はい。日本代表では選手兼コーチの立場を監督に指名されていました」

監督「そうか…」

三杉は初対面の監督が彼に持った印象をズバリ言い当ててみせた。
指導者が選手を値踏みする視線と言う物を良く知っていた事、そしてそれ以上に彼には不向きではないかと
思われるプレミアリーグに挑戦する際に必ず言われるであろうと予想していた事項だったからだ。

78 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:48:42 ID:5kKgHQ8Q
監督「ならば、解せない事が二つあるな」

三杉「何でしょうか」

監督「まず一つ。何故そんな優れた頭脳を持ちながら、そんなあからさまな弱点を放っておいた?」

三杉「答えは実にシンプル。生まれつきの心臓病と言う不可抗力です。それによって僕は
完治するまでの間、成長期のほぼ全てを不満足なトレーニングしか出来ないまま過ごしました」

監督「そうか…突拍子もない話だが、そんな事で嘘を突くメリットがないな」

三杉「既にチームドクターにこれまでの治療記録を渡してありますよ。いくらでも目を通して下さい」

監督「では二つ目。何故プレミアリーグを選んだ?」

三杉「このフィジカルを改善するまで通用しないし、成長期を逃したツケは大きい。
今から鍛えても上限があるだろう。他のリーグの方がやり易いのでは…と言う事ですか?」

監督「その通りだ。通じないとは言わん。私は既に君のビデオは見ている。そのテクニックや
戦術眼を持ってすればプレミアリーグでも通用するだろう。だが通用するだけで、大成は出来ない。
ウチは取りあえずパスとパスカットに長けたMFが欲しかっただけだ…いずれ用がなくなれば
君を飼い殺しにするかも知れん。あるいは二束三文で売るかも知れん。分かっているだろう?」

三杉「はい。リバプールがプレミア向きではない僕を誘った理由はそうだろうと推測していました」

監督「それにも関わらず、君はウチのスカウトに乗った。何故だ?それが知りたい。
君と話せば話す程嫌な予感がしてくる。何かとんでもない事を企んでいる気がする」

三杉「とんでもない、とは言いませんが…企みはありますよ」

監督「…言ってみたまえ」

79 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:51:07 ID:5kKgHQ8Q
そして三杉はクラブの監督を抱き込むべく、あっさりとその野望を明かした。

三杉「フィジカルが要らないサッカー。フィジカルでは対応できないサッカー。
フィジカルをいざと言う時の為に節約しておけるサッカー…」

監督「…君は…まさか!」

三杉「プレミアリーグの中で、リバプールだけがこの武器を上手に使いこなしていたら…どうなると思います?」

監督「……………」

三杉「それが僕の企みですよ。僕がプレミアリーグに合わせるのではない。プレミアリーグを僕に合わせるんです」

監督「………その野望、私以外には口に出すなよ。全ては私の管理と責任で行われなければならない」

三杉「勿論。秘密と言うのも武器の一つですからね」

監督「…詳細は後日聞く。使えそうな部分だけ使うぞ。さあ、チームメイト達に挨拶をしてきたまえ」

三杉「はい。それでは失礼します(…手応えあり、だな。辛抱強く、しかし大胆に事を進めればいずれ…)」

ずっと後の時代にこの監督は語る。あの時、三杉が退室してから冷や汗をかいていた事に気付いたと。



弥生「ああ…もうすぐご主人様が帰ってくる…ベッドシーツは完璧…シャワーも…な、縄も…
ああああ、もう待ちきれない!早く、早く可愛がって下さいご主人様…!」

三杉がそんな大それた野望を抱く様になったキッカケは知らぬが華である。

80 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/01(月) 07:54:03 ID:5kKgHQ8Q
いったんここまで。

81 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 06:59:14 ID:hifgRM4U
〜赤井 止也〜

全日本ユース加入前からイタリアの上位クラブ、サンプドリアのユース部門に所属していた赤井。
彼は念願かなってトップチームに昇格出来ていた。

赤井「…はぁ〜…」

しかしその扱いはとても良い物とは言えなかった。彼には攻撃力がない。絶望的なまでに。

赤井「今日もベンチスタートかよ…」

故に周囲にボールを安心して預けられるDFを配置しなければ彼を起用するのは常に危険が伴う。
そしてそういう選手を起用出来たとしても、赤井の為にリソースを割いていると言う事に変わりはない。

赤井「こないだはベンチ外だったし…」

結果、彼の出番は“もう攻めなくて良いからとにかく守る事だけ考えるべき“と言う場面のみに限られる。
如何にウノゼロを理想とするセリエAと言ってもそう言う場面が頻繁にある訳ではない。
国家の代表チームでならともかく、所属クラブチームで出場機会が限られるのは安心できる事ではないのだ。

赤井「やっぱり守備だけでもいい!って言われる位スンゲー守備力を持たないと駄目なのかな…」

もし彼に敵のエースを高確率で止めてしまえる程絶対的な守備力があれば話は変わっていただろう。
だが現状彼の守備力はチーム内では“役に立つ”レベルであって“なくてはならない”レベルではなかった。

赤井「夢って叶えるよりも、維持していく方が難しいんだな…」

日本代表に選ばれ、憧れのセリエAのプロ選手になれたが、そこには厳しい現実が待っていた。
経歴上は非常に華々しいが、実際は不安に苛まれ苦労を重ねている。赤井はそんな選手だった。

82 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:02:17 ID:hifgRM4U
〜山森 正吾〜

山森「(やったぞ…!)」

山森はワールドユース大会中はこれだと言えるオファーが来ていなかった。
最良でもブンデスリーガやプレミアリーグの1部リーグ降格圏内の下位クラブ位だった。

山森「(とうとう俺は、世界に出られた…!)」

しかし大会終了後、彼はついにハイレベルな環境を堪能出来そうなクラブに声をかけられた。
セリエAの上位クラブ、ナポリから“君の様な堅実なユーティリティプレイヤーが欲しかった”と
高い評価と共にスカウトされた。山森はこれ以上良いチャンスはないと判断し、即時契約。

山森「(数々の超強豪クラブと戦う事が出来る…その中にはあいつらも居る!
世界屈指の環境で、ライバル達と競い合って…自分が何処までやれるか確かめてやる!)」

こうして彼は喜びと熱意をジャージの中に込め、ナポリ市内の見物を兼ねてロードワークに勤しんでいた。

山森「(それにしても…イタリアってやっぱり金髪美人多いなー。日本人には無い魅力だな…)」

女の群れ「あれ?あそこ見てよ」「あら、あの人って…」「うん、間違いないわ!」「キャー!」

山森「えっ…えっ!?」

女の群れ「ねえねえ、あなたヤマモリでしょ!」「新しくウチのクラブに入ったって言う!新聞で見たわよ!」
「あのジノ・ヘルナンデスからゴールした事もあるんですって!」「マジそれ!?凄い事じゃない!」

そんな折、彼は気が付いたら若い女の集団に囲まれていた。

山森「そ、そうなんですか…有難う。これから頑張りますので、よろしくお願いします」

83 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:03:39 ID:hifgRM4U
女の群れ「キャーー!何この人、可愛いー!」「日本人って礼儀正しすぎるわねー」
「こんなにしなやかな体しているのに、顔は童顔なのね!」「おおー、脚もたくましい!」

山森「うぉわぁああ!?(な、なんだこれ…やばい、嬉しい!)」

日本人と言うだけでイタリアでは目立つ。それが噂の新加入選手となれば既に有名人である。
更に本人の真面目で礼儀正しい対応が彼女たちを面白がらせ、山森は複数の女に揉みくちゃにされると言う目に会った。

山森「(よ、よかった、イタリアに来て…!日本では何故かダメだったけど、ここなら…!)」

学生時代全国屈指のヒーローであったにも関わらず何故か女との縁がなく、彼女を作ろうとしても
逃げられまくっていたと言う奇怪な過去を持つ山森は今感激のあまり涙を流しそうだった。

だがその奇怪な過去の原因は未解決のまま彼の後方の物陰に存在している。

女の群れ『………ヒッ!!!?』

山森「え、え、どうしたんです…」

女の群れ「に、逃げるわよ!」「ヤバい!あれはヤバいわ!」「ゴメン!試合頑張ってね!」

ズドドドドドドッ!!

山森「なっ…ちょっ………な、なんで…ここでも…グスッ」



琴音「フゥ、間一髪…イタリアでも私が守るからね、山森くん…」

サッカー選手としての春は来たが、プライベートの春は未だ遠い。

84 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:04:42 ID:hifgRM4U
〜新田 瞬、ダヴィデ・ランピオン〜

一方別のセリエA上位クラブでは奇妙な組み合わせが発生していた。

ランピオン「ん?お前は…日本のニッタ、か?」

新田「あ、アンタはイタリアの…そうか、このクラブ所属だったのか」

新田がイタリアユースのFWだったランピオンと出会っていたのである。
ワールドユースでの試合では新田の出番はランピオンの退場後であった為
二人の面識はなくお互いの名前を知っているだけの関係だ。

ランピオン「そういえば今日新しい選手が入るって聞いていたけど…お前だったのか
(しかし何でこんな奴を?ドリブルだけはかなりの物だったが、それだけじゃな…)」

新田「(むっ…こいつ今俺を見下したな。退場してチームに迷惑かけただけの癖に)」

二人の第一印象は良くなかった。ランピオンは新田のワールドユース大会に置ける
パフォーマンスを高く評価していなかったし、新田の方もランピオンが
対日本戦で大した事もしないまま退場してしまった間抜けと言う印象が強かった。

このまま放置されていれば二人は喧嘩を始めていたかも知れないがそうはならなかった。

ジョアン「来たな、ニッタ。ランピオンも居たか、丁度良い」

新田「あ、ジョアンさん!」

ランピオン「監督!」

85 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:05:47 ID:hifgRM4U
新田「えっ…この人、スカウトじゃなくて監督?」

ランピオン「当たり前だ馬鹿!何勘違いしているんだ!」

新田「す、すみません!すみません!」

ジョアン「なあに、今回だけは見逃してやれ。ニッタはワシがローマに誘ったのだから勘違いもしよう」

ランピオン「え…監督が直々に?」

ワールドユース大会でまずまずの成績を出した事(イタリアではあの立て続けの退場劇さえ
無ければ日本にだってブラジルにだって勝てていただろうと言う声が強かった)を評価され、
ASローマの監督に就任出来たジョアン・デ・ラセルダ・アパレシーダが割り込んできたからである。

ジョアン「そうじゃ。予め言っておこう。ワシはお前たち二人に大いに期待している」

ランピオン「こ、光栄です…(俺が?あんな醜態を晒した俺に…?)」

新田「ど、どうも…(えー…何で?俺、殆ど目立てていなかったよな?)」

ジョアン「腑に落ちん顔じゃな。何故わざわざ自分などに…と」

ランピオン「…はい」

ジョアン「だがお前たちはこう考えているじゃろう。このまま日陰者で終わって堪るか、と」

新田「!!」

86 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:07:00 ID:hifgRM4U
ジョアン「ランピオン。お前が“あの4人”に劣等感を感じていたのはワシが良く分かっている。
今更それを隠す愚を犯すなよ?ワシを誤魔化せるとは思ってはいまい?」

ランピオン「…その通りです。俺はあいつらに比べれば脇役に過ぎなかった…」

ジョアン「ニッタよ。お前のチーム事情は知らんが、起用法や出番から大体推測はつく。
お前は多くの者から侮られただろう?大して期待される事も無かっただろう?」

新田「…はい。俺は何時も見下されました。結果さえ出せば、と思い続けて…でも…!」

ジョアン「良い。理由等お前たちだけの物じゃ。それがどんな感情や目的であろうと
お前達の中にあるかも知れない金脈を掘り当てるエネルギーになるのなら理由等どうでもいい」

新田・ランピオン『………』

ジョアン「ワシはお前達が見る目に恵まれなかった未完の芸術品だと思っている。
ここで力と技を身につけよ。お前達を影にした者達を照らし返せるまでな…」

新田・ランピオン『はいっ!!』

秘めたる才能はあると目されていた新田はこうして今一度それを発掘するチャンスを与えられた。
彼が遅咲きの桜になれるかはこれからの彼とランピオンとジョアン次第である。

新田「(少なくともこの背が高いだけの退場野郎には負けないぞ!)」

ランピオン「(こんな足が速いだけのヘタレストライカーはどうでもいい!)」

ジョアン「(む…この二人、プレイスタイルの相性とは裏腹に性格は合わなさそうじゃな)」

ただし、簡単に前途洋々とはいかないのもまた人生である。

87 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/02(火) 07:08:45 ID:hifgRM4U
いったんここまで。

88 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/03(水) 10:07:47 ID:4rsMByEE
〜葵 新伍、ジノ・ヘルナンデス〜

セリエAのトップ3に入る超名門、インテル。そのトップチームに葵とヘルナンデスは所属している。
だが今の所は所属しているだけである。

葵「…予想はしていたけど…ベンチ外スタート………うわー!!」

ヘルナンデス「仕方がないだろう。根気強くチャンスを待て」

葵「うーうーうーいいなあジノはいいなあ。ベンチ入り出来ていいなあ」

ヘルナンデス「子供みたいに拗ねるな。それに、案外フィールダーのお前の方が
俺よりも早く出番が来るかも知れないぞ?GKは一人しか出られないからな」

葵は昇格虚しくベンチ外で干され中。ワールドユースの奮闘で名声が劇的に上がった
ヘルナンデスすらサブGK扱いである。しかしこれはインテルと言う超名門に上がったばかりの
若手選手としては当然過ぎる位当然の事であり、二人に不満はない。

葵「うーん、出られるのかなあ…先輩達、どいつもこいつも化物ばっかりだよ…
翼さんが何人も居るって言う感じで、見ているだけでめまいがしてくる…」

ヘルナンデス「そうだな…ツバサクラスの選手なら昇格直後でも出して貰えるかもな」

なにせトップの練習に参加しているだけで自分たちとのレベルの差を思い知らされるのだ。
同じチームメイトになって初めて本当の意味で分かるその凄さはベンチの内外から
試合を眺める立場になるとますます分かってしまう為、不満など湧く筈がない。
無論何時までもそれでいい訳がなく、今は雌伏の時だと弁えているだけである。

89 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/03(水) 10:09:56 ID:4rsMByEE
葵「ま、俺達がこうなんだから他所もこうなんだろうなあ。ジェンティーレも俺と同じベンチ外かなー♪」

ヘルナンデス「夢を壊す様だが、ジェンティーレは既にユーベで準レギュラーらしいぞ」

葵「え、えええええっ!?何それ超悔しいんですけど!超悔しいんですけど!」

ヘルナンデス「二回も言うな。言っただろう、フィールダーの方が出番を確保しやすいと。
ジェンティーレは元々実力は疑いようがなかった。性格に難はあったが、ワールドユースのアレは
それとは無関係の出来事。そしてその影響でやる気に満ち溢れているからな。評価が上がっているんだろう」

葵「う、うぐぐ…!じゃ、じゃあさ、ミランの方はどう?ストラットとかアルシオンとかゲルティスとか!」

ヘルナンデス「…話すのは構わないが、自分で情報を集める気はないのか…?」

葵「い、いやー俺昔からそういうの苦手で…チームメイトに任せていて…」

ヘルナンデス「全く…ストラットは勝ち試合の後半か終盤に出させて貰える位の様だ。
ゲルティスはカップ戦や練習試合でちょくちょく出ているな。アルシオンはレギュラーになれたが、
主力選手扱いされているとはとても言えない。まだまだこれからだな」

葵「…マジ…?あの3人ですらそんな扱い…?ミランすげー…」

ヘルナンデス「一応突っ込んでおくが、その凄いミランに俺達インテルは勝たないといけないんだぞ?
ダービーマッチの前にそんな弱気なコメントをしてみろ、サポーターがフーリガンに早変わりだぞ」

葵「あっやべっ!今のなし今のなし!」

ヘルナンデス「(全く、こいつは本当に俺と一つしか違わないのか疑わしいな…
同じ子供っぽさでもマリーとは大違いだ。ああ愛しのマリー、また会いたいな…お、鬼い様は勘弁だが)」

頂の高さに戦慄しながらも歩みは止めない。この二人がセリエAで活躍するのはまだ先の話である。

90 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/03(水) 10:11:31 ID:4rsMByEE
いったんここまで。

91 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 09:27:27 ID:SuVMKbK2
〜日向 小次郎、サルバトーレ・ジェンティーレ〜

日向小次郎が自分の戦場として選んだのは世界最強リーグとも呼ばれるセリエA。
そして自分の前線基地として選んだのは超名門のユベントスだった。

日向「…と言う訳で、ユベントスはセリエAで優勝した回数が最も多いクラブだ。
現在はミランに勢いで上回られているが、それを許してなるものかと奮闘している」

赤嶺「そ…そうなんですか(だからってあたしが何て言えば…)」

日向「…興味がないか」

赤嶺「(ぎえっ!ど、どうしよう、誤魔化したらヤバそう…!………あああ黙っている訳にもぉおお!)
そ、その、正直な話、あたし、サッカーの事全然分からなくて…ごめんなさい」

日向は現在クラブの練習用グラウンドまで移動しながらこれをイタリアまで連れてきた赤嶺に説明していた。
勿論赤嶺が来たがった訳ではないが、日向への恐怖故に従順な女と化していた。
彼女は日向の機嫌を損ねる事を恐れ彼女なりにサッカーを勉強していたが、付け焼刃で
プロ選手の日向との会話についていける訳がない。

日向「まあいい。今までソフトボールばかりだったんだろう。これから覚えていけばいい」

赤嶺「は、はい…頑張ります…(ううう〜、必死で覚えろって意味よねこれ…!
で、勿論ソフトボールなんかもうするなって事でもあって…あああ〜、
あたしの人生もうずっとこいつの機嫌取りだけ?沖縄に帰りたいよぉ…)」

このまま日向を失望させてしまっては現地のマフィアに売られてしまうのでは…
などと恐怖に焦る赤嶺だったが、彼女の認識はこの日劇的に塗り変えられた。

92 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 09:29:08 ID:SuVMKbK2
日向「イタリアはサッカーが世界屈指に盛んな国だ。自然に覚えていくだろう。
一方でソフトボールと野球はかなりのマイナースポーツで、殆ど見向きもされない」

赤嶺「ああ…日本とアメリカ以外はごく一部の国しか野球をしないらしいですね
(やっぱりソフトボールももう無理…ってなんでそんな事知っているんだろ?)」

日向「そうだ。つまり、お前の行動次第では大いに盛り上げる事も可能だぞ?」

赤嶺「………えっ?(なにそれどゆこと?)」

日向「なんだ、ソフトボールはもう止めたのか?所属校には元々なかったチームを立ち上げる程だったから、
ソフトボールが広まっていない国での普及活動なんかやりたがると思っていたんだがな」

赤嶺「…え、えっと、やりたい、です。そりゃもう、すっごく(え?え?え?)」

日向「ならやればいい。資金もある程度なら使わせてやる。普及させようとしているイタリア人からも歓迎されるだろうよ」

赤嶺「(嘘…何で?何でわざわざあたしが喜ぶ様な事させてくれるの…?)」

赤嶺はソフトボールを諦めさせられるとごく当然の様に思っていた。
ところが日向の提案は完全に正反対な物であり、彼女は度胆を抜かれた所ではなかった。
今まで以上にソフトボールの活動を続けてよく、それどころか協力すらしてくれる。

日向「…どうしてそんなに不思議そうな顔をする?」

赤嶺「え、えーと…(どう聞けば良いのよこれ!?下手な聞き方したら怒りそうだし…)
日本代表になって、プロにもなる位だから、サッカー以外のスポーツは興味ないんじゃないかって…」

93 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 09:34:24 ID:SuVMKbK2
日向「ああなるほど。確かに一つのスポーツに専念する奴には他のスポーツを見下したりする事もあるな。
だが俺はそうじゃない。サッカーに専念する前は野球も多少はやっていたし、嫌いな訳でもねぇ。
お前も俺の応援をしているだけじゃ退屈だろう。妻の趣味に金を出してやらん程ケチな夫にはならんぞ?」

赤嶺「(…ツマ?刺身についてくる大根の細切りのアレ?…じゃなくて、妻ァ!?
こ、こいつ、ひょっとしてあたしにプロポーズしていたの!?マジで!?!)」

自分は愛人もしくは奴隷として連れてこられたのではなかったのか。
状況的にはごくごく当然な勘違いを日向はいともあっさりと粉砕していった。
それは求愛行動とはとても言えない流れだったが、赤嶺の心境を劇的に変える効果があった。

赤嶺「(えーっとつまり…あたし、大金持ちのイケメンにプロポーズされて、高校生の間だけ
だと思っていたソフトボールをお金の心配なく思いっきりやれて…え?あれ?あれ?ひょっとしてあたし幸せ?)」

日向「ただし妊娠したら流石に休めよ。母ちゃんに初孫を無事に見せてやらないとな」

赤嶺「あ、はい…(あ、でも、こいつの奥さんになって子供産まないといけないのよね…
や、やっぱり怖い…ヤクザの奥さんに無理やりされるって、こういう事なのかな………
でも想像していたよりは滅茶苦茶マシな扱いだし…で、でも機嫌損ねる訳にはいかないし…
でもでも、凄い贅沢させてもらえるし…でもでも………うーん、うーん、うーん…)」

ただしそれら全てが日向の意志による事であり、彼女に自由はない。
金を湯水の様に使えて無理だと思っていた夢にも挑戦出来るが、その代わりに
強引に婚姻関係を結ばされる。赤嶺真紀が日向真紀になる経緯はこういう物だった。

94 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 09:39:57 ID:SuVMKbK2
果たして自分は幸せなのだろうか、それとも不幸なのだろうかと悩む赤嶺を
フェンスの外に置いて練習場に入る日向。

ジェンティーレ「女連れで初練習とは随分余裕だな、ジャッポネーゼ」

日向「ん?なんだ、赤い首輪の負け犬か」

彼を出迎えたのはこのクラブに所属しているサルバトーレ・ジェンティーレ。
ワールドユースでは試合で対峙しただけだったが、この二人を知る者なら
誰もが断言するであろう。この二人の相性が良い訳がないと。

ジェンティーレ「縞猫如きが吠えるな。どうせ貴様はシュートと
タックルしか能がない力任せの畜生。セリエAで通用する筈もない」

日向「ククク、そうヒステリーを起こすなよ。俺はこれから大変だと
心配しているんだぜ?何も役に立たない内に退場するピエロがチームメイトなんでな」

ジェンティーレ「偏った審判の馬鹿馬鹿しい裁定がお前が俺に対して虚勢を張れる
唯一の根拠か?せめて足を犠牲にして1シーズン中1得点位はしてみせると豪語したらどうだ」

日向「豪語なんぞしねえよ。実際に結果を出して相手を絶望と後悔に震え上がらせる方が
ずっと楽しいんでな。まあ安心しろ、お前のせいで発生する失点分位は得点してやる」

ファケッティ「(…予想通り過ぎる。予想通り、こいつらは早速喧嘩し始めた…
くっ、クラブ首脳陣も監督もこんな悪童共の面倒を私に押し付ける気か…)」

そして誰もが予想した通り、日向とジェンティーレの出会いは最悪だった。
現キャプテンのファケッティは早くも頭痛を覚えていたと言う。

95 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 09:41:51 ID:SuVMKbK2
いったんここまで。

96 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 10:23:37 ID:SuVMKbK2
〜チェザーレ・ストラット、マルク・アルシオン、エウゾ・ゲルティス、マルコ・ファンベルグ〜

サンプドリアに赤井。ナポリに山森。ASローマに新田。インテルに葵。ユベントスに日向。
以上5つが全日本ユースの選手達が入団したセリエAのクラブであり、
これらはそれぞれセリエAの現在の2〜6位と評価していい名門ばかりである。

そしてこれらを差し置いてセリエA最強と呼ばれ、現在世界最強とすら言われる事も
少なくない名門中の超名門クラブ。それがACミランである。

ストラット「…ふぅ…」

アルシオン「旅行帰りなのに疲れが取れていない様だな?」

ゲルティス「ミアータの例の癖が発生した確率95%」

ストラット「その95%ってどうやって計算したんだよ!?…いや、合ってるんだけどさ」

アルシオン「お前がそんな溜息をつく理由はミアータしか居ない。
そんなに怖い相手を好きになるのは俺には不可解だがな」

ストラット「うるせー、嫉妬さえしなけりゃ凄く良いオンナなんだよ。
そもそも年上の女ばっかり狙うお前に言われたくねえ!」

アルシオン「女もワインも30年経ってからが味わい時だ。お前には分からんか」

ストラット「分かりたくねえよ。人妻絡みのスキャンダルだけは起こすなよ?
…そういえば、ゲルティスの好みとか聞いた事はないな。ゲルティスはどうなんだ?」

ゲルティス「…女性型アンドロイドのテクノロジーの発達を切にのぞ」

ストラット・アルシオン『分かった、もう言わなくていい、何も言うな』

97 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 10:25:22 ID:SuVMKbK2
イタリアユースのエースストライカーでワールドユース大会で11得点したストラット。
イタリアユースの絶対的司令塔でワールドユース大会でアシスト王と最優秀MFになったアルシオン。
ブラジルユースの正GKでワールドユース大会中幾度もスーパーセーブを見せたゲルティス。

この3人でも活躍が難しいのがACミランのレベルの馬鹿高さの何よりもの証拠だろう。

ファンベルグ「女性談義か?楽しそうだな」

ストラット「ゲッ!?ファ、ファンベルグさん、これはその…」

アルシオン「落ち着けストラット。この人は休憩時間中なら咎めたりしない」

ファンベルグ「その通りだ。だが休憩時間は終わりだ。監督がミーティングをしたいそうだ」

ゲルティス「急ですね」

ファンベルグ「ああ。現在あらゆるサッカーの有り方が大きく変わりつつある。各国リーグのルール、
特に外国人枠。ワールドカップの参加枠。色々あるが、私達にとって目下の所一番重要なのは
ヨーロピアン・カップが純粋なノックアウト方式の大会ではなくリーグ戦も導入しそうな事だ」

ストラット「リーグ戦…?と言う事は!」

ファンベルグ「そうだ、ほぼ間違いなく試合数は増えるだろう。よって君達
若手選手にも奮闘してもらわねばならない。さあ、ミーティングルームに来なさい」

ストラット・アルシオン・ゲルティス『はい!』

エースのマルコ・ファンベルグに率いられるこのACミランが狙うのは当然ただ一つ、世界一。
世界中のクラブから憧れられ、そして狙われるこの超強豪の覇道を阻めるクラブが出てくるのか?
それとも全てのチームはACミランの前にひれ伏すのか?それが今季の欧州サッカーの最大の話題である。

98 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 10:26:55 ID:SuVMKbK2
いったんここまで。

99 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 11:14:30 ID:SuVMKbK2
〜次藤 洋〜

ドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガもまた世界に名を馳せる高レベルなリーグである。
このリーグの特色を上げろと言われれば合理性と力強さ、そして精神力の強さあたりが一般的な評価だろうか。

次藤「ヘヘヘ…ジュニアユース以来タイ。ドイツよ、ワシは帰ってきたとね!」

見た目通りの力強さと見た目通りの精神力。そして見た目を裏切る合理的な頭脳を持つ次藤が
ブンデスリーガの上位クラブ、ドルトムントの誘いを受け入れたのは必然だったかも知れない。

先輩達「お前が新入りか…」「良いガタイしているじゃねえか」「見かけ倒しじゃねえだろうな?」

次藤「(お、早速先輩達に挨拶ばい。第一印象ば良かせんと)ジトーです。これからよろしくお願いします。
特にFWん人たちなサディストになったつもりでシュートばよーけ撃ち込んでください」

先輩達「おー、言うじゃねえか」「ガッツもあるみたいだな」「ブンデスリーガは甘くないぜ。ヘバるなよ」

次藤「ヘヘヘ…楽しみですタイ」

先輩DF「ところで、お前のその喋り方はなんなんだ?日本訛りか?」

次藤「………うがぁあああああああああ〜〜〜〜〜!!!」

次藤くん強引なドリブル!
先輩DFくん吹っ飛ばされ…なかった。

先輩DF「いてっ!てめえ、いきなり何しやがる!」

次藤「標準語がなんじゃ!!方言の何がダサいタイ!?」

そして彼が言語のコンプレックスで初日からいきなりケンカを売ってしまったのも必然だったかも知れない。

100 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/04(木) 11:15:38 ID:SuVMKbK2
いったんここまで。

101 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 08:41:47 ID:d18vpdcU
〜中山 政男〜

ワールドユース大会で最優秀DFともなれば引く手あまたと言って良い。
今回その栄誉を得た中山はいくつもの名門クラブからの誘いを受けた。

中山「ナカヤマです。本日よりよろしくお願いします!」

ミッターマイヤー「うむ。キャプテンのミッターマイヤーだ」

そんな彼が選んだのはブンデスリーガの上位クラブ、シュツットガルトだった。
現在彼はドイツ代表選手でもあるキャプテンのミッターマイヤーに挨拶をしていた。

ミッターマイヤー「早速君の事を少し知りたいと思う。いささかぶしつけな質問をしていいかね?」

中山「はい、いくらでもどうぞ」

ミッターマイヤー「まず最初に言っておこう。私はこのクラブに所属している以上、
このクラブで栄光を狙うつもりだ。ブンデスリーガは勿論、ヨーロピアン・カップも制覇を狙う。
それは決して実現不可能な夢ではないと思っているし、当然努力を惜しむつもりもない」

中山「………」

ミッターマイヤー「…だが、現実的に言えばシュツットガルトは今季のリーガ優勝候補筆頭ではない。
トップ5には間違いなく食い込んでいるが、戦力面からの確率論で言えばバイエルンが本命だ。
ましてやヨーロピアン・カップでは残念ながら大穴扱いされるのが客観的な評価だろう」

中山「はい。俺はドイツに来たばかりですが、その評価が妥当だと思います」

ミッターマイヤー「分かっているのなら話が早い。何故このクラブに来た?
君程有望な若手選手なら、もっと上のクラブが声をかけていたと思うのだが…
ひょっとして、シュツットガルトに何か特別な思い入れでもあるのかね?」

102 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 08:43:49 ID:d18vpdcU
ミッターマイヤーとの会話で中山は何故ここに来たのかと問われる。
それに対する返答は実に彼らしい物だった。

中山「いえ、シュツットガルトには何の縁もありません。ですがこのクラブを選んだ理由は2つ…
いえ、3つと言った方が良いかな?ともあれ、理由があるんです」

ミッターマイヤー「ふむ。言ってみたまえ」

中山「まず一つ目。ブンデスリーガの他のクラブに俺が戦いたい相手が居るんです」

ミッターマイヤー「ほう…バイエルンのカール・ハインツ・シュナイダーかね?」

中山「シュナイダーもその内の一人です。他にも何人も居ます」

ミッターマイヤー「他にも何人も、か…よろしい。一人のライバルに傾倒するのは視野が
狭くなるが、複数のライバルを持ち緊張感を保ち続けるのなら有用だ。続けてくれ」

中山は欲していた。自分が知っている強者達との戦いを。

中山「二つ目はコンスタントに、そしてすぐに出場機会が欲しかった事ですね。確かに俺は
超名門クラブからも声をかけられましたが…どんなに努力してもレギュラーになるまでは時間がかかったでしょう。
下手をすれば飼い殺しにされたりレンタル移籍に出されたりするかも知れません。俺は頻繁に戦いたいんです」

ミッターマイヤー「出場機会か。クラブを選ぶ際には極めて重要なファクターだ。あえて出場困難な
環境に身を置き自分を追い込むと言う考えもあるから、どちらが良いとも言えんがな。さて、三つ目は?」

中山は飢えていた。継続的に戦い続けられる環境に。

中山「三つ目は二つ目と似た様な理由ですが…」

ミッターマイヤー「……………」

103 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 08:45:45 ID:d18vpdcU
中山「俺は勝ちたいんですよ。勝たせて“もらう”んじゃなくてね」

ミッターマイヤー「…ほほう。それは確かに既に化物どもが集まっている超名門では出来ないな」

中山は望んでいた。自分の力で勝ち更に強くなる事を。

ミッターマイヤー「求めるライバル達と頻繁にレギュラーとして戦え、そして現実的な確率で
栄光を狙える程度の強豪…そんなクラブを求める君のお眼鏡に適ったのがシュツットガルトか」

中山「はい」

ミッターマイヤー「くっくっく…礼儀正しいのに野心的で、自分をしっかりと定義した上で
他者を正確に見定める。なるほど、面白いな君は。実に面白い」

中山「サッカーは面白いですから、俺もサッカーを面白くしませんとね」

ミッターマイヤー「気に入ったよ。それではその気迫と信念が口だけに終わらぬ様練習に励んでくれ。
そんな心配は要らなさそうだが、一応キャプテンとしては言わないといけないのでな」

中山「はい!粉骨砕身の覚悟で頑張ります!(よし…俺の全てが燃え尽きるまで戦い抜いてみせるぞ!)」

全日本ユースの闘将、中山政男のドイツにおける戦いの記録はこうして始まった。



中山「…ところで、ドイツにわさビーフってありますかね…?」

ミッターマイヤー「わさ…?なんだそれは。ビーフは牛肉の事か?」

中山「いや、すいません、知らないんなら良いです…(やっぱりないのか…)」

ミッターマイヤー「???」

104 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 08:47:12 ID:d18vpdcU
いったんここまで。

105 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:06:07 ID:d18vpdcU
〜若林 源三〜

若林のワールドユースでのパフォーマンスは活躍したとは言い難い物だったが、
彼は少年時代から既にブンデスリーガの名門ハンブルガーSVに所属しており、
ユース部門でも優秀な成績を出してワールドユース本大会前に既にプロ入りしていた。

カペロマン「おい!おい!天変地異だ!ポブルセンに若い女の子がプレゼント渡した!」

メッツァ「えっなにそれこわい」

カルツ「ほー?物好きな女も居るんじゃのう。で、何を貰ったんだ?」

ポブルセン「ケッ!欲しけりゃくれてやらぁ、ゴミ処理しろ!」

カルツ「おい、流石にそれはモラル的に………縄?蝋燭?」

メッツァ「あ…なんか納得…」

カペロマン「良かった…世界は滅びずに済む…」

ポブルセン「クソ野郎どもが。死ね。苦しんで死ね。10回死ね」

カルツ「…スマン。今のはワシが悪かった」

若林「(馬鹿どもが…)」

そして彼と共にカルツ他ハンブルガーSV所属のドイツユースの主力選手達も
トップ入りしているのだが…彼の場合、昔馴染みの仲間達と和気藹々の雰囲気になったりしない。

106 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:08:22 ID:d18vpdcU
カルツ「あー、ワカバヤシ。お前さんは女っ気はないのか?」

若林「そんな物はない」

カペロマン「すごい即答だな。日本に残していた彼女とか居ないのか?」

若林「居ないし作る気もない」

カルツ「取り付く島も無いとはこの事じゃのう…」

若林が欲するのは実力、勝利、そして復讐。それ以外は非常にストイックな男である。
そんな彼にも出会いや縁が無かった訳ではないが、彼はそれを選ばなかった。
カルツ達は知る由もない。ワールドユース大会後、嫌々里帰りした若林に何があったかを。



若林は家族から呼び出しに近い誘いを受け一時帰国し、実家に滞在していた。
無論彼が望んだ事ではない。家族達との腹の探り合いと遠回しな嫌味の応酬の為である。
最早彼はそれに慣れっこになっており、面倒くさいと思うだけだった。

若林家女中「…いい加減にしてください!何故そこまで坊ちゃまを苛めねばならないのですか!」

若林「………?」

彼の代わりに感情の奔流を抱き、それを決壊させたのは彼の幼少期から若林家に仕えていた女中だった。
かねてより若林が家族と冷え切った交流を強制されていた事に不満を抱いていた彼女は
勇気を爆発させ若林を庇ったが、それによって彼女が得られたのは若林の怪訝そうな表情。

若林家当主「…君はどうやら暇が欲しい様だね。1時間以内に荷物をまとめなさい」

そして何時の間にか近くにあったゴミに気付き不快になった…そんな表情の雇い主からの宣告だった。

107 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:10:25 ID:d18vpdcU
若林家女中「!!?」

若林夫人「何を驚いているのです。早く行かねば警備員に摘み出させますよ?」

若林「……………」

彼女に出来る事はそれだけだった。決死の覚悟の苦言は雇い主達には無意味な雑音としか受け取られず、
庇われた若林も彼女を庇い返す素振りなどまるで見せずに黙っているだけだった。

一時間後、誰にも見送られる事なく彼女は屋敷に向かって一度だけ深く礼をしてから立ち去ろうとした。

若林「馬鹿な事をしたな…」

元女中「坊ちゃま!?」

塀の外で待っていた若林が声をかけたのはその時だった。

若林「もう坊ちゃまと呼ばれる歳でもないし、呼ばれる関係でもなくなったがな」

元女中「…そうでしたわね…もう、お呼びしては駄目ですか…?」

若林「したいなら好きにしていいが…そこまで俺の事が特別だったのか?」

元女中「…はい。坊ちゃまにとって私は沢山居る使用人の内の一人にしか
過ぎなかったのかも知れませんが…私にとって、坊ちゃまは特別です」

若林「ますます理解が出来なくなったな。俺はあんたを我儘で困らせた記憶しかない。
ある程度の親近感を抱いていたとしても、俺を親父達から庇おうとするなんて夢にも思っていなかった」

108 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:11:59 ID:d18vpdcU
元女中「はい、あなたは昔からとても我儘でした。まだ仕事に慣れていなかった私は
幾度も幾度も困らされた物です。そしてその度に、貴方だけはこの家の方でも人間臭く感じた物でした」

若林「…人間臭さ、か…」

元女中「あなたが急にドイツに発って以来、私の胸にはぽっかり穴が開いた様でした。
この寒い寒いお屋敷の中で唯一の暖炉が消えてしまい…そしてたまにお会いする度に
あなたが段々旦那様達に似てきて、あの冷たい会話にも耐性が出来ていくのを見るのは
とても辛かったのですよ…そんな綺麗な笑顔をしないで、そんなに簡単に嫌味を聞き流さないで、と…」

若林「……………」

ある時は絶対的なガキ大将。ある時はサボリ癖のついた問題児。ある時は復讐に燃える青年。
ある時は諦めと義務感を漂わせる無表情。ある時は見事な作り笑顔と心の籠もらない美辞麗句。

若林が見せてきた顔はそんな物ばかりだったが、それ以外の顔と心を知る者も居た。
ありのままの彼を見知り、ありのままの彼を受け入れた女が今ここに居た。

若林「そこまでさせてしまったのなら、男として責任を取らねばな」

元女中「えっ?」

それを理解した若林は苦笑と共に一枚のカードを差し出した。

若林「ハンブルガーSVで稼いだ金が入っている。親父達がどれ位払っていたかは知らんが、
多分今まで貰った額より多いだろう。ああ、俺の事は心配するな。試合で勝つ度に数百万円貰える」

元女中「えっ?………えっ?」

突然差し出された大金と責任を取ると言う宣言に彼女は驚愕し、やがて少しずつ頬を染めて行った。

109 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:13:43 ID:d18vpdcU
元女中「…あの。これは、ドイツについてこい、と言う意味で…?」

若林「違う。今までの礼と、さっき庇わせてしまった埋め合わせだ」

元女中「………そう、ですか…」

だが若林は彼女が期待した程の優しさは見せず、彼女を突き放す。

若林「俺は若林源三。あんたが大嫌いな若林だ。そしてそれを変えたくもない」

元女中「…もう、居ないのですか?私に和菓子を強請っていたあの腕白な男の子は…」

若林「ああ、居ない。俺の人生の歩み方は既に決めてあるし、実家や家族の事などどうでもいい。
そしてあんたを俺の人生の一部にする事も出来ない。俺は若林でありたいからな」

元女中「………わか、り、ました…っ…お世話に、なりまし…ひぐっ…ぼっちゃ、ま………」

若林「…さようなら、ねえや」

自分すら幸せにしていない男がどうやって他者を幸せに出来ようか…それが若林の決意だった。



若林「(…どんな形でもいい。人生を上手くやり直してくれ。そして早く俺の事など忘れてくれ)」

カルツ「(時々こいつはやたらと深い表情をするんだよな…何を考えているのやら)」

友の数は少なく、愛は尚得られそうにない。それでも若林は己の生き様を貫く。

若林「(どれだけ泥に塗れようと、どれだけ差をつけられようと…俺は森崎に勝つ)」

110 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/05(金) 11:17:35 ID:d18vpdcU
いったんここまで。

111 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 07:52:03 ID:CYeeWqvU
〜カール・ハインツ・シュナイダー、ジークムント・フライハイト、?????〜

ワールドユース大会では3位と言う結果に終わったものの、大会単独得点王で
最優秀FWに選ばれたシュナイダーの名声は大会後に更に高まった。
元々15歳と言う脅威の若さでプロデビューしていた彼は今や
誰もが認めるバイエルンの若きエースであり、将来は薔薇色と言えた。

シュナイダー「う、うぉおおお…マリー、マリー、まりぃいいい…」

フライハイト「またか…ハァ」

そんな彼が最近クラブハウスでちょくちょく嗚咽を漏らしていると知ったらファンはどう思うだろうか。
持前のプロ精神で公の場では隠す様にしていたものの、私生活でも同じ時間を過ごす事が多い
フライハイトには良い迷惑である。雨が降らない限り淡々とした態度を崩さない彼ですら溜息は堪えられない。

フライハイト「一応聞くが、今度は何なんだ?」

シュナイダー「うううう…マリーが、マリーが口を聞いてくれないんだ…」

フライハイト「なんだ、またヘルナンデスからの手紙を破いたのか?」

シュナイダー「違う!イタリア留学に反対したら…ううううっ」

フライハイト「ふぅ…妹に嫌われたくないのなら我慢して祝福しろと言っているだろう」

シュナイダー「殺されたくないなら自殺しろと言うのかお前は!」

フライハイト「…付き合いきれん」

112 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 07:53:17 ID:CYeeWqvU
知る人ぞ知る事実。カール・ハインツ・シュナイダーは病的なシスコンである。
その為ヘルナンデスに想いを寄せるマリーに徐々に嫌われつつあり、
それを何とかしようとして負のスパイラルに陥っているのが彼の最近の日常であった。

フライハイト「(仕方がない、また妹をダシにするか)そろそろ練習時間だ、頭を切り替えろ。
お前はこのクラブのエースでありドイツサッカーの希望の炎。そんなお前が家族とのトラブルで
パフォーマンスを落としてみろ、第三者の勝手な言葉を嫌がった妹が即刻イタリアに行くかも知れんぞ」

シュナイダー「くっ………分かった。スー、ハー…よし、大丈夫だ」

それでも彼がサッカーに私情を持ち込まずプロに徹するのは流石の貫禄と言うべきか、
それともフライハイトの操縦の上手さを褒めるべきか。簡単に心機一転したシュナイダーは
フライハイトと共にクラブハウスのロビーに向かい…

フライハイト「(何故その精神力を妹離れに使えないんだ…おっと、今は話題を逸らさないとな)
では行くぞ、今日は新選手の入団もあるんだ。さっきロビーが騒がしかったから、既に来ているかも知れん」

シュナイダー「ん?…ああ、そういえば監督が新戦力を加えるかも知れんとか言っていたな」

フライハイト「ああ、相手がアジア人なだけに首脳陣が躊躇っていたらしい」

シュナイダー「アジア人?…ウチに加われる程のアジア人選手………まさか?」

??「よう、シュナイダー!」

シュナイダー「な、なにィ!お前は!」

そして今後のプロ生活の頼もしき仲間を得た。

後日地元紙はこう書いた。ブンデスリーガが欧州4番手と言う過小評価はバイエルンと
バイエルンのワールドユース三羽ガラスが終わらせてくれるかも知れないと。

113 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 07:55:15 ID:CYeeWqvU
いったんここまで。

114 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 09:11:43 ID:CYeeWqvU
〜中里 正人〜

スペインのリーガ・エスパニョーラの強豪クラブと言えば大抵の者が
バルセロナとレアル・マドリードの2強をまず挙げるだろう。
そしてその2つ以外は?と問われると今度は答えに詰まる者が多いかも知れない。
あるいはアトレチコ、ビルバオ、バレンシアなどを挙げるかも知れない。

中里をスカウトしたのは2強ではなくそれに劣ると評価されるバレンシアだった。
スピーディで派手な攻撃的サッカーが喜ばれるリーガ・エスパニョーラでは中里の
DFらしからぬ攻撃力が評価される確率も低くない為、彼にとっては打ってつけのチームと言えただろう。

中里「ムッフッフ…せっかく西班牙に来たのだから、是非ともラテン美女の裸体は拝んでおかねば。
そして短い時間を最大限に有効活用するには質と量両方を確保する…つまり、貴族の家ならば選び抜かれた女中達と
上流階級の女人の入浴両方を覗く事が出来る!後ほど父上にも分けて進ぜよう…」

だが念願のプロ選手になれた彼が今何をしているかと言えば、とある没落貴族の家に
忍び込んで家主の入浴を覗いていた。彼がどんな狼藉を働こうとしているのかは言うまでもない。

中里「ムムム、これはまさしくシャワーの音!しからばごめん、名も知れぬ女人よ。我が狼藉を許したまえ」

ちなみに彼の父親は彼を素質はあるとしながらも下調べを軽視する悪癖があると評価している。

中里「おおお…見える、見えるぞ。蜂蜜色の長い髪。日焼けに乏しいまるで作り物の様に美しい肌に…走る、紫の蛇…?
鍛錬の跡を隠せぬ筋肉質の背中と臀部…蹴られればさぞかし痛いであろう鍛えられた脚…はぁ、またでゴザルか…ぬおっ!?」

シャキーン!

家主「愚かな蛆虫よ。我が比類なき美を理解できた功績だけは認め、私が直々に紅く染めてやろう!」

中里「なっ…鉤爪!?仮面!?こ、こやつまさかスペイン忍者かーっ!?」

スポーツ忍者中里正人。彼は今日もサッカーとは無関係な場所で自業自得な修羅場に陥っていた。

115 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 09:14:30 ID:CYeeWqvU
いったんここまで。

116 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:41:31 ID:CYeeWqvU
〜大空 翼、ファン・ディアス〜

ディアス「あれっ?」

翼「君は…!」

その年、バルセロナFCは現存するサイクロンの使い手二人を同時に獲得した。

ディアス「なんだ、お前もここにスカウトされていたのかよ。ちぇっ、俺と技が被っちゃうのに」

翼「…お互い様だろう。それにプロの世界では同じ技の使い手なんていくらでも居るさ」

世界的タイトルには恵まれないものの底知れないセンスを持つと評されるアルゼンチンの天才ディアス。
本人にしか分からない苦悩があるものの客観的には栄光の街道をひた走り続けている日本の天才翼。
共に地球の反対側から生まれた多くの同じ技と全く違う過去を持つ二人の天才が今ここに揃った。

ディアス「………」

翼「…良い目をする様になったじゃねーか、とか考えているのかい?」

ディアス「お、やるじゃん。正確には少しはマシな目、だがな」

翼「全く…お眼鏡に適ってなによりだよ」

ディアス「この程度で不機嫌になるから少しはマシ程度なんだよ。満面の笑顔で相手を堂々と見下そうぜ?」

翼「あいにく、そういうのは俺のやり方じゃない。俺は俺でやるさ」

ディアス「ふーん…ジュニアユースの頃の甘ちゃんじゃなくなったな。リオカップの時はガラス細工か?と思ったもんだが」

117 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:43:15 ID:CYeeWqvU
二人の出会いは友好的なのか喧嘩腰なのか非常に判断が難しい物だったが、そこにはお互いを認め合う雰囲気があった。
ディアスはもとより、様々な苦難を経た翼もプロのサッカー選手らしく振る舞う事が出来ていた。

翼「色々あってね…これ以上メンタル面の隙で失敗するつもりはないよ。そこは安心していい」

ディアス「いまいち信用できねーな。ま、いいや。何がお前を変えたんだ?」

翼「別に…プライベートが安定した、とだけ言っておくよ」

ディアス「なんだ女か。月並みな奴」

翼「(やれやれ、森崎とは別の方向で付き合い辛いな…今夜、早苗に愚痴らせてもらうか)」

翼は今、心の支えを取り戻しかつてない程に安定していた。



翼は誰にも語る事はないだろう。ワールドユース大会後、日本で早苗と交わした二人きりの会話を。

早苗「翼くん…来てくれたのね…」

翼「あ、ああ…」

翼は早苗に呼び出されていた。去年ジャパンカップ終了後に二人に破局が訪れ、
彼が彼女から逃げ出した南葛市を見下ろせる小山に。
死刑囚の様な心境で現れた彼は早苗があの日と全く同じ服装をしていたのを見、
心臓を削り取る様な思いで今すぐ後ろを向いて逃げ出したくなる足を前に進めた。

早苗「何から話せば良いか分からないから…まずはこれ。あの時返し損ねた物だよ…」

翼「これは…サッカーボール?」

118 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:44:52 ID:CYeeWqvU
早苗「ええ…あの時、貴方が置き去りにしたボール…」

翼「(…そうか。これは俺が彼女にした仕打ちの象徴なんだ…)」

彼女の姿そのものが彼の心を罪悪感と自己嫌悪で震え上がらせる。
ましてや彼女からあの時の悪夢の証のボールを差し出されると腕も足も震えてしまう。
自分がサッカーの重みを彼女に押し付け、逃げ出した事をまざまざと思い出させられる。

受け取りたくない。こんな重い罪を背負おうとしたらまた潰れてしまう。
受け取りたくない。これを返されたら彼女との絆が完全に消えてしまう。
翼の心が悲鳴を上げ、逃げろ逃げろと絶叫する。

翼「(…ならば受け取らなくちゃいけない。彼女を自由にする為に…)」

早苗「…まだ、サッカーは嫌い…?」

翼「いや。今はもう嫌いじゃない…」

早苗「そう…良かった。私のせいでずっと嫌いなままだったらどうしようかと…」

翼「君は何も悪くないよ…俺が、自分の弱さを君のせいにしたんだ…」

それでも彼の腕は動き、信じられない程重く感じるボールを受け取ってくれた。
翼の心が悲鳴を上げる。これでもう彼女と会える事がなくなってしまうと。
翼の魂が涙の川を流す。これでやっと彼女を自分から解放出来たのだと。

早苗「…そうだよね。翼くんは、弱かったんだよね…」

翼「(来た!…目を逸らすな!汚い涙を流すな!一歩も動くな!俺が押し付けた
醜いモノを全部受け止めるんだ!それが俺の男として取れる最後の責任だ!)」

119 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:47:15 ID:CYeeWqvU
そして翼はいよいよ“死刑”を受ける覚悟を決め…



早苗「私、そんな事思いもしなかった。翼くんが好きなのに、気付こうともしなかった…」

翼「………??」



早苗の泣き笑いの様な表情と声に驚愕し固まった。

早苗「翼くんだって人間で、神様じゃないのに。絶対に挫ける事なんかない、無敵のヒーローだって思っていた。
辛い事、悲しい事、いっぱいいっぱいあった筈なのに。もう嫌になって何でもかんでも投げ出したくなる
時だってあった筈だったのに。私は翼くんを一人の人間じゃなくて、翼くんって言う神様扱いしていた…」

早苗の声には怒りも憎しみも恨みも無かった。

早苗「私、翼くんをずっと応援するなんて言ってて。ただ他の女の子達みたいにキャーキャー言ってるだけだった…」

翼「…違う!違うよ!君がどれだけ俺の助けになった事か!それなのに、俺は、あんな馬鹿な事を…!」

早苗の声にあったのは後悔と労わり。

早苗「…あの時、最初は凄く悲しくて怖かった。私のせいだ、私のせいで翼くんがサッカーを嫌いに…って」

翼「違うよ!君は何も悪くないんだ!」

早苗「…しばらくしたら、私もそう怒ったわ。良く考えたら、なんで私のせいにされなくちゃいけないのって。だけど…」

翼「………」

120 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:49:12 ID:CYeeWqvU
早苗「だけど、しばらくしたらまた悲しくなった。翼くんの弱い所、翼くんの醜い所…全然想像していなかった。
そんなのあるとも思っていなかった。私も翼くんを完璧な人だと思い込んで、押し付けていただけなんだって気付いて…」

翼「………」

早苗「それから…ちょっとだけ嬉しくなった。あの時やっと本当の翼くんを全部見せてくれたんだって気付いて。
凄いだけじゃない、弱い所も醜い所もある翼くんをやっと見せてくれる位、私の事を特別に思っていたんだって…」

そして、愛情があった。以前よりも深く厚い愛情が彼女に宿っていた。

翼「………そう、だよ。俺は…弱い。大事な相手に自分の重荷を押し付けてしまう位に…」

早苗「…だから、これからは押し付けないで。押し付けるんじゃなくて…一緒に、背負わせて」

翼は信じられなかった。最後の決着をつけ、最後の責任を取りに来た筈の場所で。

早苗「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も。
愛し合いたい。敬い合いたい。慰め合いたい。助け合いたい。命ある限り、真心を尽くしたい…あなたと」

自分が捨てた筈の天使がもう一度戻ってきてくれたのだ。

翼「………………………………………」

早苗「…あの。流石に何か言ってくれないと…何度も練習したセリフなんだから…」

翼「…ご、ごめん。頭の中が固まっていた…」

早苗「…ふふっ」

翼「ははっ…」

121 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:51:46 ID:CYeeWqvU
そして翼はやっと微笑む事が出来た。涙を零しながら微笑んだ。
仲間とも宿敵ともつかぬ男達とぶつけあう強気な笑いではなく、愛する者とのみ分かち合える穏やかな笑顔。

翼「…俺は…まだ、君の苦しみや悩みや、見せたくない所を見せて貰っていないよ」

早苗「一緒に居れば、嫌でも見る事になると思うわ。それでも一緒に居続けたい…と思うのが愛じゃないかしら」

翼「そうか………」

早苗「……………」

翼「…今から家に行って良いかい?スペインに連れて行かせて下さい、ってお願いしなくちゃ」

早苗「ええ…!」

醜い部分も含め、相手の全てを支え合う。大空夫妻の目指す愛はそれだった。



翼「(帰る相手が居る場所があるって、良い物だなあ…)」

ディアス「おーい、そろそろ色ボケは止めろよ。折角だから少し練習しようぜ。まだ誰も来ていないんだから貸切だ」

翼「うん?良いけど、何かしたい事でもあるのか?」

ディアス「ああ。お前、三軸の回転をかけたサイクロン撃っていたじゃないか」

翼「ブーストサイクロンか。あれをやりたいのか?」

122 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:53:42 ID:CYeeWqvU
ディアス「いいや、あれよりもっと面白いモノだ。三軸の回転をかけるんならもっと良い方法があるだろ?」

翼「…ああ、なるほど。分かったけど、それは流石にかなり練習しないと無理そうだぞ」

ディアス「今日一日で十分だろ?サイクロンなんてブッツケ本番で出来るモンだしな」

翼「………ニヤニヤしながら言うなよ。俺はコントロール出来る様になるまで二週間かかったよ…」

ディアス「おーおー、凡人にしちゃ早いじゃないか。上出来上出来」

翼「君、森崎と良い勝負だよ…全く」

ディアス「そこで俺の足が壊れた事件を持ち出せないのがお前の甘い所だなー」

翼「甘くていいよ。君みたいになるつもりはないし、それで負けるつもりもないからね」

ディアス「ちぇっ、相棒としちゃつまらないタイプだなお前(パスカル…早く上がってこいよ、このステージまで)」

翼「(森崎と言いストラットと言い、そしてこのディアスと言い…なんで強いけど厄介なタイプと
ばっかり組む事になるんだろう、俺。そういうのを引き寄せやすい体質なのかな…)」

大空翼とファン・ディアス。この二人がスペイン発祥の竜巻で欧州全土を脅かすのはそう遠くない未来の事である。

123 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/06(土) 12:55:47 ID:CYeeWqvU
いったんここまで。

124 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 11:26:50 ID:j1NDR9eE
〜カルロス・サンターナ、アルツール・アンチネス・コインブラ〜

カルロス「ほう、ツバサとディアスがバルセロナに…中々厄介なコンビが誕生しそうだな」

開催国のワールドユース大会で準優勝と言う結果はブラジル国内では散々に叩かれた物だが、
ブラジルユースの選手達を獲得したいクラブにとってはむしろ相場が下がって有難い出来事だった。
だが選手達当人はそんな外野の思惑など気遣って居られず、取り逃がした栄光を埋め合わせ
自分を更に高める為のクラブを選ぶのが最優先だと言う事に変わりはない。

ガチャッ…

カルロス「あ、戻ってきたか。どうだった?先輩達の練習光景は」

コインブラ「…大した物だ。下手と思える奴が居なかった」

カルロス「そうだろう。あれが世界でトップクラスのサッカーだ」

カルロスはスペインの超強豪レアル・マドリードにスカウトされていた。
ワールドユース大会でキャプテンを務めながら10ゴール4アシストと言う結果は
誰がどう見ても腐せる物ではない。最優秀FWの呼び名もMVP認定もチームが
優勝さえしていれば受け取れていただろうと言う評論家も少なくなかった。

コインブラ「…親父も、こういう世界に辿り着きたかったのかな…」

カルロス「…そうかもな。当時のサッカー事情は今とは大きく違うが…
そういえば、一つ聞いていいか?お前はサイクロンを使えないのか?それとも使わないのか?」

コインブラ「…やれば出来るかも知れんが、使おうとした事はない。親父が生きている頃に教えて欲しいと
ねだった事はあったが、親父は“ただのおとぎ話だよ、そんな技は存在しない”と笑うだけだった。
結局、親父は実物を見せてくれた事も原理を説明してくれた事もない。本当のサイクロンは…俺も知らない」

125 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 11:28:16 ID:j1NDR9eE
カルロス「なるほど…勝手な推測だが、ジャイロにとってサイクロンは己の誇りではなく、
己の敗北の象徴だったのかも知れない。きっとお前にサイクロンに頼らず強くなって欲しかったんじゃないか?」

コインブラ「…そうかも知れない。親父は俺に何も要求しなかった。クラブやブラジル代表に入れとも。
今になってようやく分かる気がするんだ。親父がサッカーを嫌いにならなかった理由を…」

一方長らくサッカークラブに所属していなかったコインブラはどうか?

南米で“勝利請負人A”として活動していたなどと言う都市伝説は詳しく知らない者には
胡散臭い事この上ない。それが事実だと知っても今度は“格下いびりをしていただけ”と見なされかねない。

なによりの悪材料はワールドユースの決勝戦後半からしか登場していないと言う客観的に見て
不可解過ぎる実績である。あれ程のパフォーマンスがマグレだったと言うのは流石にないだろうが、
それなら何故もっと早くから出さなかったのか?10番を与えられていながらチーム内で孤立していたのか?
それともコンディションに問題がありごく短時間しか出場できないのか?まさかもしやのドーピングか?

“そもそもコインブラが最初から出場していたらブラジルが勝っていただろう”と言う否定し難い声が
世界中から湧いていた事もあってコインブラは厄介な意味での話題性に尽きなかった。
もしカルロスが居なかったらコインブラのプロデビューは難航していただろう。

レアルから誘いを受けたのは当初はカルロス一人だけだった。カルロスは“もう一人お薦めの選手が居る”と
渋るスカウトを説き伏せ、フラメンゴの練習場を借りてコインブラの実力を披露したのだった。

当然スカウトは目を見開き何故これ程の選手が埋もれていたのだとコインブラを質問攻めにしたが、
ここでもカルロスが“クラブチームの年少部に入る金が無かった為ストリートサッカーの賭け試合に没頭していた”
“ブラジルユースにスカウトされたはいいもののクラブ経験の無さ故に連携に不安があった為一か八かの切り札扱いだった”
と事実の一部だけを明かす事で言いたくない部分を隠し、見事コインブラに都合の良い形のプロデビューをセッティングした。

126 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 11:29:41 ID:j1NDR9eE
カルロス「結局俺達はこうやって走り続けて己の道とゴールを確かめるしかないのさ…たぶんな」

コインブラ「そうだな…お前が上手くやってくれたからここに入れた。有難う」

カルロス「気にするな。昔お前が助けてくれたから、今の俺があるんだ」

こうしてこの二人はレアルに入団し、その凄まじいばかりの実力を遺憾なく見せつけ先輩達も監督も唸らせていた。
この二人ならばこの超名門でもスタメンを確保するのは難しい事ではない。それは誰もがうなずく事だろう。

カルロス「これからは貸し借りは無しだ。3人で頑張っていこう!」

コインブラ「ああ…!………3人?」

だがそんな二人にも不安材料はある。いや、カルロスの視点では三人と言うべきか。

カルロス「ん?俺とお前とアーサーの3人だろ。誰かほかに居るのか?」

コインブラ「いや、アーサーは俺の事だろう…?」

カルロス「何を言っているんだ、お前はコインブラじゃないか。アーサーはこっちだよ」

コインブラ「え?…それは俺があの時あげたボール…(な、なんだ?カルロスの目が…!)」

カルロス「 違 う ッ ! ! 」

コインブラ「!!!?」

自分の幼少期の行いと選択がどんな結果をもたらしたか。コインブラは今日初めてそれを知った。

127 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 11:31:27 ID:j1NDR9eE
いったんここまで。
次がおそらく最後の本編の更新となります。

128 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:09:07 ID:j1NDR9eE
〜森崎 有三〜

この長い長い物語の最後に、主人公森崎有三の事を語ろう。

彼の得た栄光については最早語るまでもなく、数多のサッカークラブが札束を積み上げたのもまた然り。
そして彼がこれで満足する筈もなく、更に上を目指し更に多くの物を欲したのも周知の通り。
だがそんな彼でもサッカーをしていない事もあるし、サッカーとは関係ない物を求める事もある。

陽子「ごめん、待たせたかしら?」

森崎「何、俺もついたばかりだよ」

最初は日本サッカー協会の一員として彼をサポートしていた陽子は何時しか彼が
欲する対象となり、彼に密かに憧れていた彼女もそれを喜びやがて受け入れた。
この日二人は南葛市の小さな喫茶店で待ち合わせをしていた。

森崎「さ、まずは何か注文しようぜ。何がいい?」

陽子「…それが…ごめん。今は何も喉を通りそうにないの」

森崎「へ?なんでだ、病気か?それなら帰って寝た方が…」

陽子「見せたい物があるって言ったでしょ?…その中身が、怖いの…」

森崎「…なんだよ、一体何だってんだよ」

陽子「………兄さんが…父さんから預かってきた手紙…貴方宛よ…」

森崎「!!!!」

見て貰いたい物がある。そう言って陽子が森崎と会いたがった日だった。

129 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:11:47 ID:j1NDR9eE
森崎「…分かった。読んでみる」

陽子「…はい、これ」

片桐兄妹を縛り付けたがっていた彼らの父親からの手紙。
森崎はペナルティキックを待ち構える時の様な緊張感みなぎる表情でその手紙を受け取り。

森崎「拝啓…森崎有三殿…」

陽子「………」

まずは手紙に書かれた自分の名前を読み上げ。

森崎「前略………」

陽子「………」

時候の挨拶の省略を読み上げ。

森崎「……………?」

陽子「………」

そこから不可解そうな表情になって押し黙り。

森崎「……………!」

陽子「………?」

黙ったまま焦りと苛立ちを顔に浮かべ。

130 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:13:44 ID:j1NDR9eE
.


森崎「…達筆過ぎて読めねぇ」

ドシャッ!

陽子の顔面をテーブルに打ち付けさせた。



陽子「はぁ〜…私が読み上げるわ」

森崎「お、おう…」

庶民出身で最終学歴が日本の公立中学校と言う悲しさか、日本のビジネス界のエリート階級の
書く字は森崎には判別不能だった。呆れればいいのか責めるべきではないのか悩んだ表情の
陽子が手紙を取り返し、流石は上流階級育ちの才女と言うべき朗朗さで手紙を苦も無く読み上げる。

陽子「拝啓、森崎有三殿。前略。君の事は既に調べ上げてある。大胆不敵にして即断即決を尊ぶ男と聞いたので、
無意味な挨拶や美辞麗句は抜きにして用件のみ書く事にする…うわ、父さんがこんな書き方をしたの初めて見たわ」

森崎「へえ…まあ長々と訳分からない事を書かれるよりは良いか」

陽子「続けるわね…まずはワールドユース選手権優勝おめでとう。私はサッカーは大嫌いだが、
ただの球蹴り遊びと馬鹿にするつもりはない。どんな分野であれ、世界一になると言うのは並大抵の事ではない。
正直な話、陽子の件が無ければ我がグループのCMのオファーを出したい位だ。だが現実として例の件がある」

森崎「……………」

131 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:15:03 ID:j1NDR9eE
陽子「そこで結論から言おう………私は…えっ?」

森崎「な、なんだ?」

手紙の内容は二人に少なくない驚きをもたらした。



陽子「私は…君と陽子の関係を邪魔するつもりはない………ハッキリ、そう書いてあるわ…」



森崎「…マジかよ。続けてくれるか?」

陽子「う、うん。何故なら君は最早日本国民のヒーローであり、そしてこれから大いなるブームとなり得る
日本サッカーと言う産業のシンボルだからだ。片桐総合グループが国民的英雄ともめ事を起こしても
何も良い事はない。秘密裏に事を進めたとしても、一般人はともかくライバル企業には隠し通せない。
そしてそこまでやって上手く行ったとしても、叶いかけた夢と愛する男の両方を奪われた陽子に期待はできない。
魂を失って抜け殻となるか、もしくは歪な復讐を企てるか。どちらもビジネスマンとして許容出来ないリスクだ」

森崎「……………」

陽子「よって、私はただ二つだけ君に頼みたい…時々でいい、私の妻を陽子に会わせてやって欲しい…
そしてその際、万が一にも私と鉢合わせしない様前もって知らせて欲しい。ただそれだけだ。
私は二人の子供に逃げられた父親失格だ。せめて夫としては失敗したくない…」

森崎「……………」

陽子「以上…追伸。この手紙は下種なマスコミに嗅ぎつけられない様燃やしてくれ。片桐総合グループCEO…」

132 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:16:51 ID:j1NDR9eE
いずれ敵対してくるのではないかと思われた存在からの唐突な宣告と頼み。
それらを読み上げ終えた時、陽子の目には光る物があった。

陽子「…父さん………」

森崎「父親失格…夫としては失敗したくない、か…」

陽子「…私、馬鹿だったのかな。勝手に父さんを敵だって決めつけて…話し合おうともしないで…」

森崎「それは………分からないな。何かが違っていたら、本当に強引な手段で来ていたかも知れないぜ」

陽子「そう…なんだよね。邪魔しないって言っている理由も、ビジネスの理由だし…」

森崎「だから、これからでいいだろ、これからで。お母さんの協力があれば、その内和解出来るかも知れないしさ」

陽子「…うん。思っていたよりずっと良い結果になったんだから、これから頑張れば良いよね!」

森崎「(ホッ…良かった。陽子相手だとチームメイトみたいに扱う訳にはいかないし、毎回ドキドキもんだぜ)」

古来より男は女の涙に難儀する物である。森崎程悪知恵と度胸を持ち合わせた男も例外ではない。
だが今回は陽子の方が気持ちを切り替えたがっていたのが幸いし、
森崎はこれ以上生卵が敷き詰められた床を歩く様な思いをせずに済んだ。

陽子「これから頑張ると言えば、有三も移籍先のクラブでちゃんとやらなくちゃね」

森崎「フッ、誰の心配をしているんだよ。俺がサッカーで手を抜く訳ないだろう?」

陽子「まあ、そうなんだけど…ほ、惚れた弱みよ」

森崎「(時々フッとこういう恥じらいを見せるから侮れないぜ)」

133 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:18:58 ID:j1NDR9eE
二人の話題は勿論サッカー。二人の過去も現在も未来もサッカーが占めている。
やりたい事を思いっきりやれて、それで金と名声と達成感を得られる二人は間違いなく幸せなのだろう。
そこに互いを理解しあえるパートナーが居るのなら、きっとどんな苦難にも負ける事はない。

森崎「陽子の方はどうなんだ?今日本サッカー協会は超忙しいんじゃないか?」

陽子「うーん、協会は確かにそうだけど私はどちらかと言えば下っ端だからそこまででもないのよね。
兄さんなんか過労死するんじゃないかって言う勢いで走り回っているから、心配なんだけど…
私は今度は欧州の方を担当する事になったから、実は今はちょっと暇な位よ」

森崎「へえ?欧州でどんな事をするんだ?日本人選手のサポートか?」

陽子「うん、それも仕事の一つだわ。だけどそれは基本的に選手達の代理人任せだから、
それよりももっと重要な仕事があるのよ。欧州のプロリーグをキッチリと参考にしなくちゃね」

森崎「リーグを参考に?…まさか」

日本サッカーの次元その物が変わったこの時代に生きた者達は後に生ける伝説となる。
選手として試合と言う前線で戦った選手達。支持者として競技普及に努めた関係者達。

陽子「そう…遂に日本にもプロサッカーリーグが出来るのよ。その名も、Jリーグ!」

森崎「Jリーグ…!」

陽子「貴方に憧れた少年達が、未来の日本代表を目指して戦う為のプロリーグよ!」

彼らの中でも特に功績が大きく、良くも悪くも大目立ちした一人の男がこう呼ばれている。

森崎「よーし、この日本代表キャプテン森崎有三が後輩達をいっちょ揉んでやるか!」

日本サッカーの歴史に大いなる覇王あり。その名はキャプテン森崎。

134 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:21:02 ID:j1NDR9eE
.


.           こうして森崎達は日本代表として二度目の世界制覇を成し遂げました。

.        最早彼らを侮る者も日本をサッカー弱小国呼ばわり出来る者も世界の何処にも居ないでしょう。

.                彼らは今や狙う立場ではなく狙われる立場。

.           年齢制限の無い世界で数多の国々の選手達との死闘が待っています。

.          ユースでは上手く行ってもプロでは大成出来なかったケースは山ほどあり。

.            未だ未熟きわまる日本のサッカー環境は彼らを孤立無援にし。

.       そして日本代表としてはオリンピックとワールドカップと言う二つの頂点が待っています。

.          私の語り手としての力は尽きましたが、彼らの戦いはまだまだ続きます。

.       ここから先のドラマと試合でも森崎達はきっと奇想天外な物語を紡ぎ続けてくれるでしょう。

.            それらを夢見る余地を残して、ここで筆を置かせて頂きます。



.              長きに渡るご愛読とご参加、誠に有難うございました。




135 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:22:44 ID:j1NDR9eE
.






.             キャプテン森崎 ワールドユース編 第四部 ワールドユース本大会編

.                          ならびに

.                         キャプテン森崎

.                            完

.                                    2 ◆vD5srW.8hU







.

136 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:24:20 ID:j1NDR9eE
あとがき



さて、困りました。あとがきとは何を書けば良いのでしょうか?

これ程までに長期間の作品を完結させたのも初めてなだけでなく、それが元は別の方が書いていたと言う事実もあり、
更には読者参加型企画と言う特殊なジャンルなので果たして小説の様なあとがきでいいのやら…
等と頭を捻った挙句、結局は今まで通り書きたい物を思いつくままに書き連ねるしかないと考えたのでそうします。

まずは特にお礼を申し上げたい二人に。最初にキャプテン森崎のスレを立て、物語を始めた 1 ◆BPXgDhLGHkさんと
まとめサイトを立ち上げずっと支援し続けて下さった698 ◆wb0CAXq5IAさんに惜しみなき敬意と感謝の念を表したいです。
最初にキャプテン森崎と言う発想と出会わなければ私がそれを書きたいと思う事もなかったでしょうし、
長引きだした物語を持て余していた所をまとめ上げ一つのコミュニティーにして下さったお陰でここまで来れました。

次に各外伝の作者の方々にも勿論大いに感謝を。二次創作が更に三次創作になっていくのはとても嬉しい物だと
自覚でき、時折モチベーションが落ちて更新が滞りがちになってもその度に奮い立たせられる物がありました。
そして勿論、読者にして参加者たる皆様にも沢山の礼を。物書きの最大の報酬は読者からの反応。
ゲームマスターの最大の報酬はプレイヤーの楽しみ。二つの異なる報酬を得られた私は間違いなく幸せです。

そして最後に。恐らくこのメッセージを目にする事ではないでしょうが、原作者の高橋陽一先生にも敬意と感謝を。
あなたがキャプテン翼と言うジャンルを生み出してくれなければ今日の日本サッカーもこのキャプテン森崎も無かったでしょう。

沢山のありがとうを言えるのは、沢山何かを貰えたと言う事。有難うございました。

137 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:25:56 ID:j1NDR9eE
続いて、二つのごめんなさいを言わなくてはなりません。

まず一つ。ワールドユース本大会の組み合わせを予想する企画で、上位者のリクエストを叶えると
言っておきながら何時の間にか放置し、結局取り掛かれる事が無かった事を深くお詫び申し上げます。
幾度か取り掛かろうとはしたのですが、その度に私の情熱がもう本編を完結させられる程度も
残っているかどうか怪しい事を思い知らされました。全ては一重に私の見通しの甘さと情熱の不足による物です。

そしてもう一つは続編を期待させる様な終わり方でありながら、結局続編は書けそうにない事。
何度も何度も悩み、何とかプロ編、オリンピック編と続けられないかと頭を捻った物ですが
結局の所複数の問題を解決できる自信がない為“惜しまれる位のタイミングで終わるのが有終の美”と
自分に言い聞かせ、筆を置く事にしました。以下がその複数の問題です。

1)  物語のテーマに既に決着がついてしまっている事
既に森崎は凄まじいまでもの実力と実績と名声を得てしまいました。
この先日本代表のキャプテンとしての座が揺らぐ事がないのはまだいいとして、
この先選手としてどう成長させよう?と言う悩みが解決できそうにありません。
能力的にはともかく、選手としてのメンタルや“格”はもう完成されていると思います。

2)  世界観的な理由でこの先日本が勝つのが想像できない
これは原作のキャプテン翼でも同じ事ですが、森崎達の世代から上は大きく見劣りすると言う世界観です。
つまり森崎達が若手の頃から日本代表として頑張るしかないのですが、それで“上の世代も当然強い”
数多の強豪国に太刀打ちできるでしょうか?もし出来てしまったら、いくら何でも森崎達を贔屓し過ぎではないでしょうか?
しかし日本が結局世界一を取れないと言うのは物語としてどうなのか…と言うジレンマにぶち当たりました。

3)  システムに大幅なテコ入れが必要
同じ事の繰り返しではゲームは飽きられます。小説もまたしかり。
ワールドユース編ではいくつかルールを改定した上で対戦チームそれぞれに特色を出す様努めましたが、
それでも結局は何処かマンネリ感があったのではないかと後悔が残っています。
もしこの先同じシステムで繰り返していてもきっとそれは面白くないでしょう。

138 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:27:19 ID:j1NDR9eE
ではシステムにテコ入れする手段はあるか?と言えば、いくつかアイディアがあるにはあります。

・スパロボの精神コマンドに似たシステムを導入し、習得・成長の楽しみと駆け引きの要素を出す
・技の発動率を1/4単位ではなく1/6にして、成長の余地を演出する
・任意のガッツ消費でランダムで発動する技の発動率を上げる手段を作る
・チーム技、作戦などをもっと使いやすく大きなファクターにする
・スルーパス、反則狙いなどプレイの幅を広げる
・コンディション管理、人気度などの新要素を付け加える
・ガッツ管理などのルールに手を加え試合の派手さと柔軟性を増す

などが考えられるのですが…殆どが既存のシステムへの追加要素となるのでゲームマスター、
プレイヤー共に負担が増します。文章主体で進行するゲームとしては複雑になり過ぎるのは望ましくありません。
現行ルールでも何度も何度もミスをしていたのに、これ以上追加するのは解決法ではない様に思えました。
かと言って劇的にシステムを作り直すと今までのデータが使えませんし、今までの面白味も失くしそう…

そしてなにより追加と作り直し、どちらの場合でもゲームバランスを保つ難易度は跳ね上がります。
今までは我ながら良くもまあ全てがぶっつけ本番である程度ゲームバランスを保てたなと
自画自賛していましたが、ここからはもう全然自信がありません。

4)  ネタと情熱がもう足りない
思えば、キャプテン森崎ではとてつもなく多くの事をやってきました。

139 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:28:29 ID:j1NDR9eE
・森崎の若林に対する下剋上とその後の成り上がり。
・味方にも敵にもなる翼との長年に渡る確執と二度の対決。
・爽やかスポ根な原作とはかけ離れた陰謀劇。
・様々な原作キャラと結ぶ色々な関係。
・原作キャラとゲーム版キャラの共演。
・主人公以外にもスポットライトを当てる群像劇。
・日本以外の国々の選手達も目立たせるドラマ。
・死闘と消化試合の配分。
・原作WY編の不満点の解消。
・NPC同士でも熱い対決の演出。
・サッカーでは何が起きるか分からないと言わんばかりの作者にも読めない展開。
・ギャグあり涙ありシリアスありドロドロあり悲劇ありのごった煮人生劇場。
・能力と性格の両面に置けるキャラクターやチームの差別化(特に敵側)。
・エース同士の“一騎打ち”よりも11人対11人の“戦争”の表現。
・超人サッカーを前提とした戦術と駆け引きの描写。

思いつくのはこれ位でしょうか。探せばまだまだ色々あるでしょう。
これらは書いていて本当に楽しい物でしたが、同時にこれだけの事をやり尽してしまうと
流石にもう情熱が尽きてしまいました。ワールドユース編の最後の方はヨタヨタだったのが
読者にも隠せていなかったのを自覚しており、反省のしきりです。

そして、これだけやってしまうともう後はやっていない事が殆ど残っていない。
プロの世界の戦いと言うテーマこそあるものの、システム面でも上手く取り入れられる
ストーリー上の盛り上がりが思いつかない。これがどうしようもありませんでした。



以上が「続編は試みない方が無難だ」と判断した4つの問題でした。
ゲームを作ってみたいと言う望みこそあるものの、私はもうこれまでなのかも知れません。
続きを望む方々には大変申し訳なく、ご理解頂きたいと思います。

140 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:29:46 ID:j1NDR9eE
ありがとうとごめんなさいを言い終えた後、今や何を語れば良いのか…
最後はお願いが無難でしょうか?

私はそう熱心な2ちゃんねらーではありませんが、一度は1000を取ってみたいです。
自分の創作スレなら誰の迷惑にもなりませんから、ここでその願いを叶えたいです。

この後は感層・質問など何でもガンガン書き込みつつ、私に1000を目指させて頂けますか?
ただの「うめ」でも構いませんし、「こういう展開は予定していましたか?」などの質問なら
応えますし、「○○と言うキャラについて語ってください」と言うリクエストでも構いません。
最後は2ちゃんねるらしく適当に駄弁って笑顔で終わるのが良いでしょう。

それでは皆さん、気が向いたら書き込みをお願いします!

141 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 16:34:12 ID:???
ウルっと来てしまいました
本当にお疲れさまでした

142 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 16:35:34 ID:???
完結おめでとうございます。質問ですがこのスレで1000を取るということを
目指すということでしょうか?

143 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 16:43:33 ID:j1NDR9eE
>>142
はい。このスレの1000回目のレスをしてみて、このスレを閉じたいです。

144 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 16:55:28 ID:???
お疲れ様でした!
素晴らしい物語、ありがとうございました!

145 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 17:00:59 ID:???
お疲れさまです!
2さんのお気に入りのキャラを教えて下さい

146 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 17:02:10 ID:???
お疲れ様でした!

147 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 17:05:10 ID:???
ここの森崎のカラオケの技量はどれくらいでしょうか?
俺の青春が殺人級だったりしますか?w

148 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 17:09:42 ID:???
おつです。
何年になるのかもう忘れてしまいましたが楽しませてもらいました。
1氏と2氏に惜しみ無い敬意を。

149 :森崎名無しさん:2015/06/07(日) 17:11:08 ID:PuwOH+wI
まずは長い間お疲れ様でした
ずっと楽しませてくれて本当にありがとう

一番困った判定での展開は何でしたか?

150 :2 ◆vD5srW.8hU :2015/06/07(日) 17:13:13 ID:j1NDR9eE
>>144
カルツ、ディアス、来生、翼あたりでしょうかね。
基本的に嫌いなキャラは居ませんが。

>>147
特に決めていませんね。イメージとしては下手でも上手くもない、でしょうか。

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