キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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屁理屈推理合戦withキャプ森
488 :
吹飛の魔女モロサキーチェ
◆85KeWZMVkQ
:2017/08/26(土) 21:54:26 ID:???
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
【愛が無ければ死ねない】
ストラット「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
ストラットはひたすらに逃げ出していた。
雪の積もった山奥を、遭難の危険すら厭わずに。
パァァァァッ……!
彼が逃げているのは、黄金の蝶の大群からだった。
それらの群体は一つの意思を持っているかのように彼を追いかけ続け、
そしてたった今、追い詰めようとしていた。
ストラット「くそっ。やはりホテルに戻るしか……」
一方で、これ以上の逃走には限界があった。逃げ場も無ければ体力もない。
想像以上の追尾性能を誇る蝶達を前に、彼は逃走場所を再検討する必要があった。
タタタタタッ……ガチャッ、バターンッ!
支配人「ど、どうされましたか!?」
ストラット「『閂の扉』を開けてくれ。そして――『離れの祠』の鍵をくれ!」
支配人「状況は察せませぬが、分かりました。今すぐお開けしましょう」
蝶を振り切り、滑り込むようにホテルのロビーへとたどり着いたストラット。
その只ならぬ様子に気圧された支配人は、彼の要求を呑んで、
急いでロビーの向こう側にある大きな閂の扉へと向かう。
支配人が呪文を唱えると、数百年は使われていないであろう閂はギイ、と重厚な大きな音を立て。
――そして、中庭に向かう扉は開け放たれる。
489 :
吹飛の魔女モロサキーチェ
◆85KeWZMVkQ
:2017/08/26(土) 21:55:56 ID:???
支配人「さあ、急いでください!」
ストラット「ああ、感謝する!」
ダッ!
暫く前に、雪はもう止んでいた。ストラットは新雪の積もった中庭を一直線に走り、
中庭の中央に佇む『離れの祠』へと向かう。
黄金の蝶のうち、幾つかは閂の扉の抗魔力に阻まれているようだったが、
その一部は屋根を越えて空からストラットを追い続ける。
ストラット「……くそっ、間に合え。うおおおおおおおぉぉぉぉぉぁあぉぉぉぉぉっ!」
バァァァァァッ!
それから得意なオーバーヘッドキックの要領で、祠のドアに向かって飛び込んで。
蝶々がストラットに死の魔法をかけるよりも早く、ドアを開き、部屋に入り、
そして、……ドアを閉めて鍵を掛ける!
ガチャァァァァァァアッ!!
ストラット「はぁ、はぁ……よし。逃げられたァァァアアッ!」
――『離れの祠』は、中世時代の修道士の瞑想場所として用いられていたらしい。
狭い場所で精神を集中し、神への交信を深めるには、この場所は打ってつけだったとか。
だがしかし今となっては、使用する者も殆ど居らず、雪かき用の梯子やシャベル位しか置かれていない。
そしてストラットは視認する。密室には、誰もいないと。
490 :
吹飛の魔女モロサキーチェ
◆85KeWZMVkQ
:2017/08/26(土) 21:57:27 ID:???
ストラット「……とにかく、これでもう安心な筈だ」
内側の施錠がしっかりとなされている事を確認しながら、改めてこの密室の強固さを振り返る。
自分の居る『離れの祠』に至るには、ロビーにある『閂の扉』を潜り抜け、
足跡の残る中庭を進み、祠そのものに施された施錠を破る必要がある。
しかし、『閂の扉』にかかっている閂は非常に強固であり、破壊する事は不可能。
奇跡的に扉を破壊出来たとしても、人間は足跡を残さずには中庭を通れぬし、
もし足跡が残れば、それは重大な証拠となる。
それらの困難を潜り抜けて、祠の前まで辿り着く事が出来ても……ダメなのだ。
ストラット「この祠の鍵は、今俺が持っている一つだけ。そして、事前に忍び込むにしても、
この部屋には、隠れられるようなクローゼットやベッドの類は存在しない。
そして何より、今、この部屋には『アイツ』はいない。……俺は、助かったんだ!」
本人による内側からの施錠。そして鍵はその内側にある。
事前に密室内の家具類に隠れている可能性もない。
シンプルながらも最強の密室構築を、ストラットは完成させる事ができた。
これならば、魔女の魔法が入り込める余地などどこにも―――
ミアータ「無いと思ったぁ? ウフフ……ストラットったらお馬鹿さん」
ストラット「!?!?!?!?!?!?!?!?」
491 :
吹飛の魔女モロサキーチェ
◆85KeWZMVkQ
:2017/08/26(土) 21:58:46 ID:???
――いや、いた。魔女は既に忍び込んでいた。
金色の鱗粉に姿を変え、扉の隙間から、壁の外側から、地下から、天井から、平行空間から!
魔女の魔法に、ニンゲン風情が考えた密室如きが通用するはずもない。
緑色の体表で体よく草葉に擬態したと思い込んでいる芋虫を、人間が見つける事の如何に容易い事か。
ストラットの必死の努力は、魔女にとっては芋虫の体表程度の欺きにしかならないのだ。
ストラット「ま、待てミアータ! 俺が、俺が悪かった。許してくれ!」
ミアータ「うん、許してるわ。私、貴方の事だったら全てを許そうと思っているもの♪
クビになっても、犯罪をしても、浮気をしても、私を裏切っても。
どんな事をしたって許してあげるわ。だって、私は貴方を愛しているもの」
ストラット「じゃ、じゃあ……頼む。殺さないで……殺さないでくれ!」
同世代のエースストライカーとして、夥しい数のゴールを挙げた彼は今や、
魔女の前では哀れなる乞食も同然だった。しかし、彼に落ち度がある訳ではない。むしろその逆。
彼はあまりに、魔女に愛されていた。それが故に、彼は今こうして、全てを失いつつあるのだから。
ミアータ「あのね、ストラット。私は、貴方を殺す為にここまで来たわけじゃないの。
私は――貴方を黄金郷に招待しに来たのよ?」
ストラット「またそれか! それは聞き飽きた! 何が黄金郷だ。君の言う黄金郷は、ただの無理心中じゃないか!」
ミアータ「……はぁ。本当に可愛そう。反魔法の毒に染まってしまって、黄金の真実が見えなくなっちゃったのね。
でも大丈夫よ。私がそうだったみたいに、すぐに良くなるからね?」
シャキーンッ! カランッ、カランカランカランカランカランッ!
ミアータが――愛憎の魔女が指示を出すと、虚空から一本の杭が現れた。
邪悪なる海蛇を象ったそれは、カランカランと部屋中を音速で飛び跳ねまわり、
ストラットの命のカウントダウンを告げる。5、4321……………そして、ゼロ。
492 :
吹飛の魔女モロサキーチェ
◆85KeWZMVkQ
:2017/08/26(土) 22:02:38 ID:???
ミアータ「人間の大罪を象りし、煉獄の七姉妹が一。嫉妬のレヴィアタン! あの人を黄金郷に招待しなさい!」
バッ! ズバァァァァァァァンッ!
ストラット「あ、が……。な、んで……み、あ……………」
バタリ。
――彼女が黒き魔女から譲り受けた高級の家具は、あまりにも慈悲深く、男の心臓を貫いた。
そして、倒れ伏せたストラットの亡骸の至る箇所に口づけをしながら、
……魔女ミアータは、悲し気にこう呟いた。
ミアータ「ごめんね、ストラット。誰よりも愛してるわ。……こんなの、他の男にはしないのよ?
貴方の事が好きで好きで。愛して堪らないからなのよ? 愛が無ければ、殺す事なんてできないんだから」
ある魔女は言った。愛が無ければ、視えないものも存在すると。
ならば、その愛が有り余る場合、一体その風景はどうなるのだろうか?
愛が無ければ、少女は魔女にならなかった。少年は命を落とさなかった。
……愛が無ければ、視えない。
愛憎の魔女の双眸には、凡百のニンゲンは勿論のこと。
千年以上を生きた大魔女にすらも、視えない風景が広がっているのかもしれない。
彼女を観測する者達は、その風景が、せめて美しいものである事を祈るしかなかった。
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