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キャプテン森崎外伝スレ10
[279]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/06/11(月) 12:57:50 ID:??? 丁月甲日。ついに翼を外の世界に送り出す日がやってきた。翼が抱える 根本的な問題についてとうとう解決できぬまま、である。このまま外へ出すのは 不本意極まりないが、研究期間延長と研究費増額が認可されず、今年度でこの 研究の打ち切りとなってしまった。いや、たとえそれらが認められたとしても… 「はっ、博士っ!大丈夫っ!?」私の姿を見た翼は驚き、慌てて私のもとへ駆けつけた。 翼が狼狽したのも無理はない。私の顔は青白く痩せこけてきており、両脇に杖を はさんで歩くもそれでさえ何度もつまずき転びながら向かうという有様だった。 何度目かの転倒の時に私の所へ翼が来て、私の体を起こそうと自らの腕を私の肩と腰へ抱えた。 「博士っ!」顔を震わせ目を見開きながら叫ぶ。「死なないで!外へ出た後も頑張って頑張って立派になって、 それから博士にもう一度会って自慢できるようになりたかったのに、お願い、死なないでよ…」 翼は泣き出し、それから私の胸にとりついてひたすら号泣した。 「…ごめん、なさい……」悲しみを露わにした翼に直面し、絶え絶えになっている息をついで、つぶやく。 「私の、力が足りない、ばかりに、今の状態のままで、出さないといけなくなってしまった…… きちんとした状態で外に出すには、能力と時間が、足りなさ過ぎた……」 絶望のため息をこぼし私もまぶたが瞳が潤みそうになった時、泣き続けていた翼が面を上げ、 なおも泣き続けながら語りかけた。 「博士まで泣かないでよ…僕が悪いんだよ、僕がきちんとしてないから、僕の頭がそんなに頑張らないから、 僕が優しくないからで、博士は悪くないよ……だから泣かないで、だから死なないで……」
[280]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/06/12(火) 12:34:05 ID:??? 「……なぜ……」いつのまにか翼を抱き締めていながら、尋ねた。 「なぜ、そんなに、私のことで悲しんでくれているの?私は翼くんのデータを取るために、 様々な実験に立ち会って、顔を合わせていただけ。際立って多く話をした訳でもない、 一緒にいた時間も、お母さんはおろか他の人と比べても多くはないのに……」 「……分かんない……」相変わらず閉じる瞼から涙をこぼしながら、翼は答える。 「どうしてか、博士の声を聞くと、胸から『なつかしさ』が出てくるんだ。目覚める前に 一緒にいたような気がするんだ」 「以前に一緒にいた…」思い当たることがあった。まだ翼が意識を覚醒させ起き上がる前は、 私がこの研究の第一人者であることから、眠る翼の前で反応を測定したりその結果をまとめていた。 その時の発していたつぶやきが翼の耳を通じて脳に届いていたのだろう。その頃の私は一生の成果を 具現化する機会と対象を得て、心血を注いで長年の夢の結晶を磨いていたのだ。 (話の内容は覚えてなくとも、意思が相手の心の中で漂っている…)そこまで思いを巡らせた時、 ふっと私の心に希望の光が差し込んだ。まだ私が、翼くんのためにできることがある、と。 「もう泣かないで、翼くんのために話したいことがあるから、落ち着いてくれないと何もできないわ」 ハンカチを取り出して翼の頬を拭き、乱れた髪を撫でて整えながら、決心した。 (意思が残るならば意志も残るはず、この子の歩む道をきちんと話して、せめて覚悟だけでも 残してみよう)
[281]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/06/26(火) 12:44:00 ID:??? 半月にも及ぶ突然の失踪、誠に申し訳ありませんでした。 私が使用しているパソコンが突然壊れてしまい、その間は他人のパソコンを借りていましたが こうした私用に使えるわけでもないので、しばらくの間投稿を自粛していた次第です。 なお、こちらの都合により現在休載中の文章の続きはまだできていませんが、近日中に再び 再開いたします。また、こちらの都合により、投稿時間帯は午後6時から午後11時の間にも 行える事となりました。 >>277さん、>>278さん、返信が遅れましたが、駄文を読んでいただき有難うございます。 あなたがたの期待を心の支えにして、物語を書き進めて生きたいです。
[282]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/06/27(水) 12:50:12 ID:??? 翼はカプセルの中へと腰を下ろした。私は翼に肩を抱えられながら、数時間後に 行われる記憶除去・操作用カプセルへとたどりついていた。カプセルの周囲には膨大な コンピュータの壁がひしめいており、それらから大量のコード類がカプセルへと つながっている。 「…無限は大昔から現在まで多くの賢人に立ちふさがる、高い壁であり続けている。 翼くん、アキレスと亀の話は知ってる?」 「アキレス?どこかで聞いたような気がするけど、たしか昔のギリシャの人で、 とても足が速かったんだっけ」 「まあだいたいその通りよ。そのアキレスと亀がかけっこをするんだけど、 アキレスはどうしても亀を追い抜く事ができないの。そしてどうしてそうなるか、明確な答えが出せずに 1000年以上も長くにわたって多くの学者達を苦しめる難問となったのよ」
[283]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/06/27(水) 12:56:27 ID:??? 今日はここまで、ブランクがあくとちっとも文章が書けない… 更新は飛び飛びになるかもしれませんが、今後も継続していきます。 >>266さん、先日の書き込みの際に書き落としてしまって申し訳ありませんでした。 一言でも書き込んでくださると、大変元気付けられて嬉しくなります。
[284]278:2012/06/27(水) 13:16:21 ID:??? ミテルヨー
[285]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/07/06(金) 12:54:42 ID:??? 「亀に負けたの?歩いてでも亀なんて抜けるんじゃないの」 「まあ普通の勝負とは違うんだけどね。さすがに普通の競争だと勝負にならないから、 スタート地点は亀のほうがアキレスよりゴールに近くなっているわ。 スタートして亀が歩いた1秒目には、アキレスは亀のスタート地点まで到達している。 2秒目に亀は1秒目の半分の距離を歩いて、アキレスは1秒目の亀の地点にいる。 3秒目に亀は2秒目の半分の距離を歩いて、アキレスは2秒目の亀の地点にいる。 …こんな調子で競争を続けていくのよ」 「アキレスは1秒前の亀の位置まで走って、亀はその半分の距離を進む、ってことか。 …あれ、アキレスの方が速いのに、これじゃあいつまでたってもおいつけないじゃん」 「その通り、といいたいところだけど、ハズレね。計算を無限に続けた結果がいつも 無限とは限らないから、適当なところまで走ったところで、ちゃんとアキレスは亀に追いつけるわ」 「…分かるようで分かんないや。無限って難しいんだね」 「そう。無限は難しくて、つかみ所が見えにくくて、そのくせ重要なところで立ちはだかってくる、 私達にとっての強敵よ。ブラックホールやビッグバンや素粒子…並み居る科学者達の前に突如として 無限が現れ、それまでの理論を否定させてしまう。でもその無限を解決できるようになれば、これまでと 違った新しい世界にたどりつけるようになるのよ」 「へええ、無限って難しいだけじゃなくて、凄いんだね。どうして無限ってそんなに凄いの?」 「それは無限の持つ性質が普通の数とは違うからよ。足し算引き算掛け算割り算で考えれば分かりやすいわ。 ほとんどの数はそれら計算によって自身が変化するんだけど、無限は違う。無限に何を足しても無限、 無限に何を引いても無限、何を掛けても何を割っても、答えは無限になるの。無限は相手の影響、ひいては 相手を0にしてしまうのよ」
[286]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/07/27(金) 12:50:32 ID:??? ここで一旦話を切り、荒いため息を一息吐いた。衰弱した体から残り少ない生気が抜けていきそうだが、 これから話さねばならない翼くんの問題の事で、頭がいっぱいであった。呼吸を整え、 目の前の相手の目をしっかりと見据えた後、口を開いた。 「今話した無限の特徴は、翼くんにもあてはまるのよ」 「僕が?そういえば少し前に、博士が僕は「無限の象徴」だって言ってたけど」 「そう。翼くんは頑張れば頑張るほど伸びていく、限界がなくどこまでも成長していけるって、 以前話したわね。「無限の性質」を取り入れているからそういった事ができるけど、この性質は 他人との関係においては破滅的な影響をもたらしかねないのよ」 「えっ」唐突にとんでもないことを聞かされて戸惑う翼。いきなり自らに相手を滅ぼす力があると告げられて、 困惑しない人間はいないだろう。 「どういうこと?僕はみんなに悪さなんかしないよ」 「……」 「なんで黙ってるの?僕はそんなひどい人間になっちゃうの!?ねえねえねえっ!」 じっと口を重たく閉ざしたまま答えようとしない私に、翼くんが身を寄せて問いかけた。 声は切迫している。問いに恐怖の色が深まらないうちに、私は目の前の子の頭を撫で、覚悟を固めて答え始めた。
[287]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/07/27(金) 12:51:48 ID:??? 「翼くんが悪い人間になることはないわ。ただ、手を離せば握っていたものが落ちるように、 動物園のライオンが飼い主の人間を撫でようとして大怪我を負わせるように、本人の意思に 関わらず本人の状況によって、周りへの影響の方向を決定付けてしまう事がありうるの。 …よく聴いて」 「関心、嗜好、思想、情念、そしてそれらを含んだ一人一人の性質の具体的な量としての能力… 全ての人間はそれぞれこういったものから成る『枠』があって、その枠によってその人の人間性が 成り立っているの。この枠は自らの行動や思索によって変化させる事ができるし、 他者との交流がきっかけで変化をもたらされる事もあるわ。…この交流というところで、翼くんの持つ 『無限』が厄介になるのよ。交流というのは交互に相手に影響を及ぼすものなのだけれど、 翼くんが相手と交流を行った場合は、翼くんが相手に無限の影響を及ぼしてしまうのよ。 普通の人の枠は有限だから、翼くんの影響によって相手の人間性を全ての枠が崩壊してしまうわ」 「僕が周りの人を必ず駄目にしちゃうの!?『無限の影響』なんてものを出さないように、気をつければ…」 「翼くん、さっき言った無限の持つ性質を覚えてるかな」 「む、無限の性質というと…あっ」 「無限に何を引いても無限。例え他の人との交流で他人への影響を気遣ったとしても、結果は変わらないわ」 「……博士、枠が壊れたら、その人はどうなるの」 「一言で言えば、その人自身の持つ特有の特徴のほとんどを失ってしまうわ。残るのは無限の力を有する翼くんに 対する崇拝、依存しか残らなくなってしまうのよ」 「嘘だッ!!」翼は叫んだ。「嘘だ嘘だ嘘だッ!僕がそんなことをしてしまうなんて嘘だッ!」
[288]超短編投稿者 ◆KvvS7KSt.A :2012/07/27(金) 12:57:12 ID:??? 「……私は翼くんの、実質的な生みの親なのよ。あなたの事はよく知っている」 「だって!じゃあ博士も僕に依存していたっていうの!?」 「……ある意味そうかもしれないわね。これまでの私の人生は全て科学の発展のために注いできたわ。 それらの研究活動はみなこの研究を完璧にするための準備、つまり翼くんの為に生きてきたようなものね。 ……ともかく、翼くんが抱える問題を解決はできなくても、和らげるために1つアドバイスできる事があるわ。 …よく聞いて。これから見せる写真の子をよく見て覚えて、いえ、脳に刻み込むぐらい記憶を焼き付けておいて。 外へ出たらこの子とは親しく付き合っても大丈夫よ、彼は翼くんの分身、無限の悪影響を消し去ってくれる人よ」 そう言った後、私は上着の内ポケットの中から写真を取出し、翼の眼前に示した。写っている少年は翼と同じ年頃、 翼よりもやや細長い。顔は穏やかで優しげな笑顔を浮かべ、誰から見ても好感を感じられるだろう。 「博士、この子は?」 「以前に話した、もう1人の翼くんであり分身である、太郎って子よ」
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0ch BBS 2007-01-24