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【貴族の傲慢】異邦人モリサキ2【傭兵の意地】
[827]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:37:49 ID:??? 「あの、あの、でもさ!」 「でも、なんだ」 「ぼ、ボクいつもああやって抜けだしてるし、ほら、あのくらいへっちゃらなんだから!」 「……」 「え、えへへ……」 戸惑ったように目を左右に泳がせたハンナの口から飛び出すのは、弁明ともつかぬものである。 誤魔化そうとした笑いがひきつるのを真っ直ぐに見ながら森崎が、すう、と息を吸った。 「―――へっちゃらなんだから、じゃない!」 「わあっ!」 怒鳴り声に、ハンナが反射的に首をすくめる。 「昨日はいい、今日も大丈夫、だがもし明日、塀の上でバランスでも崩したらどうする!」 「ぅ……」 「飛び降りる先だって石畳だ! 柔らかくもなけりゃ平らでもない! 転んで膝っ小僧すりむく程度じゃ済まないんだぞ!」 「……」 猛烈な勢いで叱られるハンナは、既に俯いて顔も上げない。 「洟垂れの子供じゃないんだ。足をやっちまった奴がどういう風に扱われるのか、 わからないわけじゃないだろ!?」 「……う、うん……」
[828]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:38:50 ID:??? 森崎の言葉は実感を伴ったものである。 いくさを生業とする者は、当然ながら生死の境を彷徨うような怪我を負うものも多い。 一命を取り留めたとしても酷い後遺症が残るようであれば仕事を続けることはできなかった。 中でも悲惨なのは四肢、とりわけ足に重篤な障害を負った者たちである。 酷い出血や開放骨折で切断するしかなかったもの、誤って馬や車輪に踏み潰されたもの、 あるいは何らかの衝撃で関節部の骨を複雑に折ったもの、要因は様々であるが、 もはやまともに歩けぬという一点で、彼らは共通している。 歩けぬ者に務まる仕事は、ない。 運良く支えてくれる親族がいれば生きてはいけようが、それらの一生の重荷となる。 そうしてそれもなければ天から金やパンの降るわけもなく、ただひとり野垂れ死ぬのみであった。 彼らを抱える受け皿は、この世に存在しなかった。 「……ごめん、なさい」 「俺に謝っても仕方ねえだろ。つまんねえことで何もかんも台無しにしねえように気をつけろって話だ」 「……はい」 『お、素直でよろしい』 肩を落としたハンナに、ふるりと舞い降りたピコが頷いたのも束の間。 「……で、でも!」 『あら、あんまり素直じゃないかも』 ハンナが、決然と顔を上げて言う。 僅かに潤んだ瞳は、叱られたことにか、それとも怒鳴られたことにか。 否。 「つまんない理由で抜け出してたわけじゃ、ないから。……それだけは、違うから」 その目に宿るのは、もっと強く美しい、何かだ。 たとえば明日や、たとえば希望や、そういうものを真っ直ぐに見るときにも、涙は滲む。
[829]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:39:53 ID:??? 「速くなりたい」 その言葉は、だから結晶だ。 混じりけのない思いの、形になって透き通った音を立てる、そういうものだ。 「もっと、もっと。速く走りたいんだ。誰よりも」 「……」 走る、と。 そのことを告げるとき、ハンナの瞳はより一層の輝きを帯びる。 何を指して言うのか、詳しいことは森崎にはわからない。 わからないが、ハンナにとってそれがこの世で最も尊ぶべきものであるとは、理解できた。 「学校で机に向かってると、わーって。胸のところ、ぐしゃぐしゃにしたくなって。 こんなことしてるときじゃないって。走らなきゃって思えて、走らなきゃ置いてかれるから」 ハンナの手が、握り締めた制服に皺を作る。 たん、たん、と。感触を確かめるような足踏みが、平らに均された芝生を叩く。 「負けたくない。追いつきたい。勝ちたい。だけど」 「……」 「何していいのかわかんなくって、ただがむしゃらに走るしかできなくって。 だったら、ボクの時間ぜんぶ、それに使わなきゃって思ったら、もう我慢できなくて」 「……それで学校、抜けだしたか」 森崎の問いかけに、こくりと頷くハンナ。 ため息をついた森崎が、その潤んだ瞳を見返して、言った。 「あのな、ハンナ―――」
[830]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:41:53 ID:XxV5YV8+ *選択 A「学生の本分は勉強だ。それさえできない奴に他のことができるか」 B「鍛錬はやり過ぎりゃいいってもんじゃないんだ」 C「だったら尚更、怪我なんてしてる場合じゃないだろ」 森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。 その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。 期限は『10/17 24:00』です。 ****** セーフティネットって素敵ですよね…といったところで 本日の更新はこれまでとさせていただきます。 お付き合い、ありがとうございました。 それではまた、次回更新にて。
[831]◆W1prVEUMOs :2012/10/17(水) 20:21:05 ID:??? B 今の行動に成果が無いことを示して無茶をやめさせる 上から押さえつける選択ではなくやめる理由(逃げ道)を作ってあげたい 実際、置いていかれる不安からただただ走っているだけでは技術も身に付かないでしょうし
[832]さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/17(水) 21:35:45 ID:??? B速く走る為には休養も大切だ。それに速く走る為って言っているが食べる物に気を使ってるのか? 又は体の効率的な動かし方を知ってるのか? それを知るためにも勉強ってのは結構大切なんだぞと勉強も早く走る為に役立つ事を教える。
[833]◆9OlIjdgJmY :2012/10/17(水) 23:58:12 ID:??? B 森崎の自戒の念もこめて。
[834]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:17:53 ID:??? 皆様、ご回答ありがとうございます。 それでは早速、>>830の選択については…… >>833 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます! はい、ヤングとの絡みですね。 数カ月前のことをよく覚えていて下さいました! がっつり本編に盛り込ませていただきます。 CP3を進呈いたします。 また>>831 ◆W1prVEUMOs様、>>832 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答も それぞれの切り口がなるほどと思わせるもので、本編に反映させていただきました。 CP1ずつを進呈いたします。
[835]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:18:54 ID:??? *** B「鍛錬はやり過ぎりゃいいってもんじゃないんだ」 「……え?」 頭ごなしの否定を覚悟していたものか、ハンナが肩透かしを受けたように森崎を見る。 「ちょっと前、な」 そんなハンナをじっと見つめ、森崎が重い口を開く。 「俺も、今のお前みたいな落とし穴に嵌ってたんだ。ただ焦って、闇雲に剣を振ってた」 「……」 「怖かったんだ。こんな、鈍った腕で戦えるのか。次の戦場で屍晒すのは俺じゃないか。 そんな嫌な想像から逃げるみてえに身体を虐めてた」 「でも、それは……」 ハンナが、森崎の目を見て言いかけた言葉を収める。 「ある人に無理やり休まされたら、途端にぶっ倒れたよ。身体の方はとっくに限界超えてたのに、 言われるまで気づかなかったんだな。間抜けな話さ」 「……」 森崎が自嘲気味に口の端を上げて、続ける。 「あのまま続けてたら、きっと酷い怪我をしてた。肘か、背中か、腰か、その全部かもな。 それこそ、もう剣を握れないような怪我、だ」 「……!」
[836]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:19:58 ID:??? 言った森崎がその、古傷とタコとで奇妙に固くごつごつと変質した拳に目をやると、 握り、開いて、軽く肩をすくめてみせる。 「そうでなくたって、結果に繋がらねえ鍛錬で無駄に疲れきって、肝心の戦場でくたばってたかもしれねえな。 頭ン中に靄がかかってると、そういうことが見えねえんだよ」 「……」 すっかり黙りこんでしまったハンナに、森崎が視線を戻すと、言う。 「……あん時、俺が止めてもらえたのは巡り合わせだ。 そういう人に会えたから、俺はまだここにこうしていられる」 今は亡き男の、当時は理不尽と思えた背中を思い返しながら。 「だからな、ハンナ。巡り合わせ……俺の故郷じゃ縁、つーんだがよ」 「エン……」 その響きを繰り返したハンナに、森崎が一つ頷く。 「その『縁』で今日、お前と会った俺が言うぜ」 「……」 「焦りに背中押されるような鍛錬はやめな。そいつはいつか、お前自身を傷つける」 無人の公園の、さわさわと芝生をざわめかせる涼風が、吹き抜ける。 風に靡く髪が目にかかるのも構わず、真っ直ぐに自身を見返すハンナに、森崎が告げる。 「目標を定めて、計画を立てろ。今日のことを朝になってから決めるな。 お前は一年後にどうなっていたい? 半年後には? 来月はどうだ? そういう風に考えていけば、しなけりゃならないことは向こうから見えてくる」 「……」 こくりと、神妙な表情でハンナが頷く。
[837]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:21:01 ID:??? 「怠るな。無駄を省け。疲れのどん底で無闇にやる鍛錬なんざ無駄の骨頂だ」 「……はい!」 うん、ではなく。 はい、と。 打てば響くような返事に、森崎がぽんとハンナの肩をひとつ叩いた。 「それとな、ハンナ。学校もサボってないでちゃんと行け。 お前、読み書き以上の学問なんざ何の役に立つ、なんて思ってるだろ」 「う……」 図星を突かれたか、ハンナの神妙な顔がたちまちに崩れる。 「俺だってそこまで学のある方じゃねえ、そう偉そうなことは言えないが……ありゃな、頭を使う練習だ」 「……?」 怪訝そうな顔のハンナ。 どう説明をしたものかと、森崎が身振りを交えながら慎重に言葉を選んでいく。 「走るってことに絞ったって、どう身体を動かすか、どう鍛えるか、どう練習を組み立てるか、 どう時間を使ってどういう戦略を練るか……頭使わなきゃならんことはいくらでもある」 「……」 「学問が面倒だって奴はな、段々そういう、考えること自体が面倒だって思うようになる。 いざって時に、必要なことを見聞きして覚えるってことができなくなるんだよ」 ぴしり、と森崎がハンナを指さして言う。 眼前に突き付けられたその指を、寄り目になりながら見つめるハンナに、森崎が続ける。 「わかるか? 大事なのは、どんな学を積むかじゃねえ。頭の使い方を覚えてこいってこった。 必要だと言われたことを頭に刻んで忘れねえ癖を、わざわざつけさせてくれるってんだから ありがてえ話じゃねえか。それも日々の鍛錬、だぜ」 「う〜……はい」
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0ch BBS 2007-01-24