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【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】
[118]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:30:20 ID:??? ****** 「……ところで、俺はどうやって帰りゃいいんだ」 「おう、そのことだがよ」 まるでリンダがゴールラインを越えるのを待っていたように、辺りを朱に包んでいた陽の欠片は 城壁の描く稜線の向こうへとすっかり消えてしまっている。 明かりもない屋外のこと、すぐ近くにいるはずのジーンの顔もよく見えない。 声だけが、無闇に明るく響いた。 「そもそも俺は、お嬢の迎えってことで車を回してたんだった。 ってわけで、帰りはお前のことは送れないぜ。悪く思うなよ」 「なにィ!? ってまあ、そらそうだろうな……悪くは思うけどな!」 どうせこんなことだろう、と予想はしていたものの、しかし実際に言われてみると秋の夜風は身に染みる。 渋面を作った森崎の背を、ジーンの掌がばしんと叩いた。 「ははは、んな顔すんなよ、色男!」 「見えてねえだろ!」 「だいたい分かるぜ」 「ああ、そうかい……」 不毛な会話を打ち切って踵を返そうとした森崎を、しかしジーンが腕を掴んで引き止める。 「まあ、待てって」 「……?」 「もう一台、うちらの馬車を回してある。ま、お嬢専用のこいつほどじゃねえが、 ザクロイドの御用車だ、乗り心地もなかなかだぜ」 「マジか……」 「大マジよ。しかも今度は御者台じゃなくて客席に座れるぜ」 ぽん、と叩かれた腕がじんわりと温かい。
[119]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:31:23 ID:??? 「お前が初めていい女に見えてきたよ……」 「そりゃどうも。って見えてねえだろ」 「見えてたら思わず求愛してたかもしれねえ。夜で良かったぜ」 「はは、地獄に堕ちやがれ」 軽快に言い合って、しかしふと森崎が首を捻る。 「……でもよ、よく考えたらこの事態そのものがお前のせいだよな」 「悪ぃ、悪ぃ」 言葉とは裏腹に、声音はどこまでも軽い。 にやりと口角を上げた表情までが闇の向こうにはっきりと見えるようだった。 「詫びってんじゃねえが、今日の晩メシ代はどこで食うにせよ、ザクロイドの厩務係にツケといて構わねえからよ」 「ぐ、それで水に流しちまいそうな自分が情けないぜ……」 『そうと決まればさっさと帰って、美味しいもの、食べよ』 「お前、タダ飯の話になったら出てくるのかよ!」 今までどこをふらついていたものか、唐突に頭上から声を降らせた相方に、森崎が思わず答えてしまう。 「……? ヘンなヤツだな……ま、いいや。車は向こう、話は通してあるからよ」 「あ、ああ……」 「じゃあな、縁があったらまた会おうぜ」 バツの悪さに口を濁した森崎を胡乱げに見ながら、しかし快活に言ってジーンはあっさりと去っていく。 本来の仕事、リンダの元へと戻るのだろう。 ため息を漏らせば、息は微かに白い。 決戦は、来月。 宵闇に沈む広い芝生はそのまま何かを暗示しているように思えて、森崎は振り払うように天を仰いだ。 輝きはじめた星の下、家路は、遠い。
[120]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:32:24 ID:??? 『才気』(了) ******
[121]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/20(火) 18:34:41 ID:No1EE1CQ *D26.11月 フレーバーテキスト *ドロー 今月の巻頭特集は → !card スペード・ハート・ダイヤ・クラブ→ 日常「悪代官とシベリア特使」 JOKER→ 事件「やみにうごめく・1」 ※ !と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。 ****** そしてようやくメインキャラが出揃う十一月(敵除く)、といったところで 本日の更新はこれまでとさせていただきます。 夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。 それではまた、次回更新にて。
[122]さら ◆KYCgbi9lqI :2012/11/20(火) 19:04:31 ID:??? 今月の巻頭特集は → ダイヤA
[123]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:46:42 ID:??? >>122 ドローありがとうございます。 ダイヤ→ 日常「悪代官とシベリア特使」 ****** ◎日常「悪代官とシベリア特使」 小鳥の囀りも爽やかな晩秋の朝。 日課の新聞に目を通す森崎が、見出しを声に出して読み上げる。 「輸出入顧問オーリマン卿、シベリアからの燐光石輸入拒否を明言……か。 この国、燐光石がえらい高いからな」 『そうだねえ……まあ、この宿舎では支給品だからあんまり関係ないけどね』 燐光石とは欧州全土で照明に使われている物質である。 化学反応により生じる独特の白色光は炎より格段に明るく、また熱をほとんど発しないため 富裕層から一般家庭まで、幅広く使われている生活必需品であった。 時間効率を考えれば蝋燭や油による照明よりも安価であることも普及の決め手となったが、 ここドルファンにおいてはそれらとほぼ同等の価格帯で高止まりしている。 「ま、この手の話はどっかの強欲商人が市場を独占してるってのがお定まりだけどな」 『ふうん……どこの強欲商人?』 「ザクロイド財閥」 何気なく口にする森崎に、ピコが目を丸くする。
[124]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:47:43 ID:??? 『ザクロイド……って、リンダのお家のザクロイド?』 「そのザクロイドだな。山師だったディムス・ザクロイドが鉱山で一発当てた成り上がりの新興財閥」 『そのディムスって人は、リンダの?』 「爺さんにあたる、らしいな。何年か前に死んでる」 『ふうん……』 それ以上踏み込むことを避けたのか、座っていた森崎の肩からふわりと浮いたピコが、 しかしにやりと笑って森崎の目の前で止まる。 『でもさ、ならそのお爺さんって、きっとこのナントカ卿とアレ、やってたんだろうね』 「ああ、アレな」 新聞から顔を上げてピコと目を見交わした森崎がにやりと笑い、せーの、の呼吸で口を開く。 「―――越後屋、そちも悪よのう」 『いえいえ、お代官様ほどではございませぬ』 ****** 数日後のことである。 やはり朝の日課として新聞を読んでいた森崎が、奇妙な唸り声を上げた。 「ふ〜む……」 『何なに、なにか面白いことでも載ってた?』 「この顔が面白そうに見えるのかよ、お前には」 眉根を寄せた森崎が新聞から顔を上げてピコを睨む。
[125]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:48:43 ID:??? 「シベリアの特使が来たんだとよ」 『シベリアか……あんまりいい思い出はないね……』 かつて加わった幾つかの激戦や惨劇を思い起こしたように表情を暗くしたピコが、 しかしすぐに不思議そうな顔で尋ねる。 『でも、なんで? このドルファンはシベリアからすっごく遠いじゃない』 「燐光石だよ」 『燐光石……? あ、そういえばこないだ、そんな話してたね。すごく高いって』 「その流れよ」 頷いて、森崎が語り聞かせるように話を始めた。 「そもそもドルファンで高い燐光石が売れてるのは、安いシベリア産の輸入を拒否してるからだ」 『かんぜーがメチャクチャとか?』 「それ以前だな。そもそも一切の輸入を禁止してる」 『へえ、ダイタンだねえ。まあでも、安いのがなければ、高いのを買うしかないもんねえ』 「ああ。で、国内産の供給はザクロイド財閥が独占してるから、濡れ手で粟の大儲けってわけだ」 『それってやっぱり……』 ピコが、数日前に演じてみせた膝つき合わせの寸劇を仕草で示す。 「まあ、そうだ。誰が見たって強欲商人と御代官様だわな」 『うわあ……』 「そいつを突き上げようってのが今回の特使様よ。燐光石の輸入自由化を要求、ってなもんだ」 ぱん、と紙面を手の甲で叩く森崎。
[126]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:49:50 ID:??? 『それで、どうなったの? シベリアっていうと……』 「お得意の軍隊チラつかせたゴリ押しは厳しいな。何せここは南欧の果てだ」 『じゃあ?』 「このドルファンの輸出入を仕切ってる顧問のオーリマン卿って貴族が特使と話し合った。 結果として、一旦は突っぱねたらしいな。……とはいえ、ここはマルタギニア貿易の中継で食ってる国だ。 お得意さんの意向を丸っきり無視するってわけにもいかねえんだろ。 石炭と鉄鉱石は自由化の方向、だとさ。そっちはあんまり俺らには関係ねえけどな」 『何いってんの。鉄が安くなったら武器の値段も下がるでしょ!』 「そこら辺はよ、カイルと陽子さんたちが考えることで……」 『キミ、隊長でしょ!』 「うへえ」 肩をすくめてみせる森崎を、小さな相方は憤懣やるかたない様子で睨んでいたが しばらくして無益を悟ったか、そよ風のようなため息をついて森崎の肩に戻る。 『……ところで、記事はそれで終わり?』 「どれどれ……いや、続きがあるな。シベリア側は返礼の一環として、文化交流を提案……? 来月にも国立サーカス団を派遣するとのこと、だとよ」 『アメとムチだね』 「ま、痛み分け、適当な落としどころってやつだな。シベリアの特使も流石といやあ流石だが、 このオーリマン卿ってのもなかなかの食わせもんみたいだぜ」 『それはだって、貿易で食べてる国の、その貿易の一番偉い人でしょ?』 「ま、確かにその位置にボンクラが置かれてるならこの国は終わりだわな」 うんうん、と頷くピコに、森崎が紙面の片隅を指さす。 「そういや、お前好みっぽい事件も載ってるぜ」 『何なに、えーと……”王女行方不明騒ぎ”? わ、ゴシップの予感!』 「楽しそうでよかったよ」 紙面に目を向けたまま、ひらひらと器用に飛び回るピコ。
[127]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:51:07 ID:??? 『でも残念、無事に見つかったみたい』 「残念てこたねえだろ……」 『この国のお姫様はかなり庶民派って話だけど、家の人に黙って買い物にでも行ったのかな?』 「んなわけあるか! そりゃ庶民派っつーかただの庶民だ」 『えー』 口を尖らせるピコを無視して、森崎は再び新聞に目を落とすのであった。 ******
[128]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/22(木) 19:52:07 ID:??? *D26.11月 「親切な傭兵団のエース」森崎有三 訓練所イベント 「―――騎士団は王室会議に対し、ダナンへの第二次派兵を上申。 しかし王室会議側はこれを却下する方向のようです」 薄暗い部屋の中、淡々と続くのはカイルの定期報告である。 思案げにそれを聞く森崎の背後、窓の外には曇り空が広がっていた。 温もりの代わりにがたがたと風に震える音を伝えてくる窓を背に、森崎が腕を組む。 「先月ようやく再編が終わったばかりで、もう派兵ってか。そりゃ却下もされるだろうな」 「はい。ピクシス卿が先の戦いの折、騎士団の練度の低さが露呈したことを問題視しているようで、 当面は外交による折衝をヴァルファと続けていく方針のようです」 「エリータスは騎士団の意見を推さなかったのか? 騎士の取りまとめ役だろ」 エリータス、という名を口にするときの微かな苦味を噛み潰すようにしながら、森崎が尋ねる。 ドルファン西部の都市エローを所領とするエリータス家は代々部門の家柄である。 特に先代当主ラージン・エリータスは数十年空位であった聖騎士を叙勲するほどの英傑であった。 「エリータス卿夫人はピクシス卿に賛同の意を表したそうです」 「いつものこと……か」 「はい。騎士団の一部にはその件で不満の声も上がっている……模様ですが、これは ルーカス大佐の個人的な意見として扱うようにとのことです」 真面目な顔で書類に目を落としていたカイルの口元に、僅かに苦笑が浮かぶ。 「立ち回りの参考にしろってか……食えねえおっさんだよ、まったく。 ま、どの道俺らは決まったことに口を挟める立場じゃねえがな」 「……」
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0ch BBS 2007-01-24