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【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】
[25]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:54:03 ID:??? 「く……!」 衝撃が殺しきれない。 剣の腹が額を直撃する寸前、森崎が空いた手を剣に添えてようやく棍の軌道を上方へと逸らした。 が、それで終わらぬのが棒術の厄介な点である。 棍を使う者にとってみれば、先端を上に流されるという力は即ち、梃子の要領で棍の尻を 正面へと向ける遠心力に他ならぬ。 するりと持ち手をずらしたサムが、その流れに沿って棍を跳ね上げた。 森崎の腹、更には顎を真下から砕かんとする一撃。 受けは間に合わぬと判断、森崎が思い切りよく真後ろに飛ぶ。 円弧を描いた棍は、僅かに森崎の鼻先を掠めるに留まった。 「……」 「やるじゃねえか、東洋人」 彼我の距離が空き、流れるような連撃が途切れる。 口を開いたのはサムである。 「三ヶ月」 「……?」 「このドルファンに来てたった三ヶ月で、すっかり有名人だよ、お前さん。 ……外人ってのは、これだからな」 細い目の奥の瞳をゆらりゆらりと動かして森崎の隙を伺いながらの、湿った声音。 不思議と周囲の歓声にかき消されることもなく耳に飛び込んでくる。 「初めはボルキアの連中だ」 問わず語りは、低く、重い。
[26]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:55:08 ID:??? 「戦災に巻き込まれた哀れな難民でござい、なんてお題目で俺たちの街に巣を作りやがった。 まず掠め取られたのは物乞い共の縄張りとガキの遊び場よ。 雨風をしのいだ連中が次に掻っ攫ったのが、仕事さ」 棍の先は森崎の目から喉を辿り、八の字を描くように胴を嘗め回しながら揺れる。 「俺らじゃあ食うにも困るような安いカネで請負仕事を端から持って行きやがった。 野菜くずと腐れ肉で生きてるような奴らさ。台帳に乗らねえ連中には取り立てられる税もねえ」 「……何が言いてえんだ」 ぼそりと漏らした森崎に、サムがくつくつと嗤う。 「仕事もなく呑んだくれる親父に弟の薬代……俺も兄貴も、そりゃあ苦労したって話よ」 「恨み言なら神父にでも聞いてもらいな」 「お前さんに聞かせてるんだよ、東洋人。何せお前らはボルキア人どもに輪をかけてタチが悪い」 「……あァ? 言いがかりも大概にしろよ、蛇野郎」 薄い唇をねらりと舐めて湿らせたサムの言葉に、森崎が刹那、対峙も忘れて胡乱げな顔をする。 「俺以外の東洋人なんざ、街中にゃ殆ど見かけねえぞ」 実際、森崎がこのドルファンでしっかりと認識したのは陽子くらいのものであった。 港湾に足を伸ばせばちらほらと黒い髪の男たちもいるにはいたが、ドルファンは中継港である。 長居することもない彼らが、安い歓楽街のあるシーエアー地区を越えてくることは極めて珍しい。 「ひゃは、そいつぁお前……」 ゆらゆらと揺れる棍の狙いが、森崎の膝から足元へと降り、また這いずるように登ってくる。 「随分と、この街の明るい方ばかり歩いてると見える。流れの傭兵とも思えねえ」 「……どういう意味だ」 「裏町の路地をちょいと曲がりゃあ、すぐに分かることさ」
[27]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:56:09 ID:??? 森崎が慎重に問うのへ直接は答えようとせず、サムが薄笑いを浮かべた。 楽しげな色のどこにも見えぬ、凄惨な笑みだった。 「そりゃあ、俺らだってヤクは扱ってるさ。けどな、仕切るのはアルビア廻りの極上品よ。 そいつを軍の馴染みや金持ちの旦那方にちぃーっとずつ卸してただけでな。 くたばったお袋の麦粥にかけて、見境なく広めるような真似はしてこなかったんだぜ。 ……だが、よ」 ふしる、とタイミングの測りづらい呼吸は、やはりのっぺりと冷たい長虫を思い起こさせる。 「お前ら東洋人が持ち込んだのは、ありゃ何だ。半年保たずにアタマがイカれるようなシャブ、 あんなもん悪魔だって扱わねえ。そいつをシベリアのアカどもと組んで、船一杯仕入れてきちゃよ。 よりにもよってガキども相手にバラ撒きやがるだ? ひゃは、お前ら血の代わりに何が流れてんだ」 粘質の饒舌は、しかし森崎の耳にしか届かない。 怒号のような歓声が、睨み合う二人を押し包んでいる。 少し離れて立つ審判役の男にすら、その声は聞こえていないだろう。 「安いシャブだ、ガキは売女と楽しむだろうさ。染まった女どもは客に勧める。港やヤマの人足だ」 「……」 「目抜き通りはあと何年もしねえ内にシャブ漬けで溢れるだろうぜ。 行きずりのガイジンには知ったことじゃあねえだろうがよ……腐れ外道が」 吐き捨てたサムに、森崎がしばしの沈黙の後、ぼそりと応える。 「……知らねえよ、実際」 言葉と共に踏み出すのには、苛立ちの色も濃い。 まるであずかり知らぬ事柄で責め立てられたところで、返す言葉も思うところもありはしなかった。 一歩目、止まらず二歩、三歩を詰める。 「ダラダラネチネチ、ワケのわかんねえこと言いやがって……!」
[28]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:57:11 ID:??? 剣は下段、円盾を高く翳しての接近である。 正中線上の急所を庇いつつ間合いを潰す狙いは、サムにとて明らかなことは承知の上だった。 案の定、サムの迎撃は向かって左、盾側に回りつつ森崎の胴を真横に薙ぐ打ち払い。 円の縁を沿うように回ることで距離を確保しながら己が体を軸に遠心力で痛撃を齎さんとする、 淀みのない体捌きである。 厳しい鍛錬によって躰に染みついた、半ば無意識の洗練された動きだっただろうか。 が、その挙動は洗練されていたが故に、いささか淀みがなさすぎた。 「喧嘩だ、つったのはお前だろうが……!」 「!?」 森崎が翳した円盾は、棍の一撃を防ぐためのそれではない。 サムの体捌き、迎撃の軌道を読みきった森崎が選んだのは、盾による打撃であった。 相対するサム自身が踏み込むよりも更に一瞬早くその進行方向へ飛び出した森崎が、 腕ごと円盾を振りぬく。 重い衝撃は、二つ。 「ぐ……!」 「がぁ……ッ!」 腕に伝わる、盾の向こうのサムの顔面がひしゃげる感覚。 そして、サムの振るった棍が相討ちで森崎の胸を横から叩いた、その衝撃である。 互い、ほぼ同時の打撃。 しかし連打へと至ったのは、森崎であった。 予め読んでいた間合いの差である。 サムの打撃は、森崎が先ほどまで立っていた位置を薙ぐのに最適化されている。 想定外に距離を潰した森崎を打ったのは、棍の根本であった。 故に、骨を砕き臓腑を潰すには至らぬ程度には、軽い。
[29]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:58:12 ID:??? 「おおぉ……ッ!」 漏れる声は、胸郭に響く激痛を、食い縛った奥歯の隙間から吐き出したものである。 振り抜いた腕を、引き戻す。 戻して振り上げ、円盾の鉄で補強された縁取りを、ひしゃげ血を噴くサムの顔面に向けて、叩き落とした。 「―――」 蛇が、沈む。 からりと、棍がその手から離れて転がるのに遅れること、僅か。 膝から崩れ、うつ伏せに倒れたその姿を見やって、審判役の男が片手を上げる。 宣言は、高らかに。 「そこまでッ! 勝者、ユーゾー・モリサキ!!」 デュラン二十六年度収穫祭、剣術大会の優勝者が決まった瞬間である。 歓声が、爆発した。 ******
[30]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 18:59:12 ID:??? ****** ※称号が『気のいい剣術大会王者』になりました。 スキル『剣術大会優勝』を獲得しました。 種別:特殊 消費ガッツ:- 効果:剣術値を20、評価値を15プラスする。 ****** ※称号が『気のいい傭兵団のエース』になりました。 スキル『赤騎士候補』を獲得しました。 種別:パッシブ 消費ガッツ:- 効果:全人物に対する発言力、全ヒロインの好感度が一段階アップする。 ******
[31]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 19:00:13 ID:??? 夜の催事場に、篝火は赤々と燃えている。 揺らめく炎に照らされる少女は二人。 一人は瞳に憧れの色を浮かべ、もう一人は視線を合わせようとせずに虚空を睨んでいる。 顔の僅かに赤いのは、指摘すればきっと篝火のせいだと言うのだろう。 楽しげな曲が流れ、笑顔の人々が輪になって踊るその広場の片隅で森崎の眼前に立つのは、 ロリィ・コールウェルとレズリー・ロピカーナである。 「踊っていただけますか?」 「うん!」 「アタシはいい」 周囲のいたるところで見受けられるのと同じ仕草、同じ言葉で手を差し伸べた森崎が、 両極端の即答に苦笑する。 「俺、何か作法間違えたか?」 「ううん、大丈夫だよ、お兄ちゃん!」 「……二人で行ってくれば」 早い者勝ちだと言わんばかりに森崎の手を握ったロリィの頭越し、枇杷茶のスカーフを指先で弄る レズリーに目線を向ければ、返ってくるのはぶっきらぼうな声音だった。 あくまでも森崎と目を合わせようとしないその態度に、ちくりと悪戯心を刺激された森崎が 口の端で笑みを作りながら、訊く。 「恥ずかしいのか?」 「なっ……!?」 「わあ、お姉ちゃん照れちゃってるんだ〜」 「ロ、ロリィまで……! そ、恥ずかしいとか、そんなんじゃ、」 しどろもどろなレズリーの言葉を、しかし最後まで聞かずにロリィが遮る。
[32]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 19:01:13 ID:??? 「じゃあ、ロリィがお手本見せてあげるね。ほら、全然平気でしょ、ってしてあげる!」 「ちょ、ちょっと……」 「それじゃ、お兄ちゃん。お相手お願いしま〜す!」 「おう」 頷いてロリィの手をとった森崎が、そっとその華奢な肩を守るように空いた手を回し、 篝火を囲む輪の中へと入っていく。 「えへへ、ロリィ、踊りは得意なんだよ」 「お、実は俺、こっちの踊りはあんまりよく知らねえんだ。よろしく頼むぜ」 「あ……」 背後の、何かを言いかけたような声は勿論、聞こえていた。 ***
[33]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 19:02:14 ID:??? 「はい、次はお姉ちゃんの番!」 「う……」 満面の笑みで、捧げ持った森崎の手をレズリーへと差し出すロリィ。 困惑と躊躇を絵に描いたように眉尻を下げたレズリーが、差し出された手を見やり、 森崎の方へちらりとだけ目をやって、またロリィへと視線を戻す。 「うぅ……」 「……」 されるがままの森崎は、しかし真っ直ぐにレズリーを見つめている。 言葉は、かけない。 時には沈黙が何よりも強い圧力になると承知していた。 にこにこと向けられるロリィの笑顔と、周囲にさざめく人の波。 篝火を囲う踊りの輪は笛に弦楽器、鼓の音に引かれて動くからくり仕掛けのよう。 差し出される手、行き交う人の笑い声。 揺らめく炎に揺れる影、真っ直ぐに向けられる視線。 綯い交ぜになったそれらと、のしかかるような沈黙が、 「……ええい! わかったよ!」 とうとう、少女を動かした。 少女の一歩目がため息ではなく、己を奮い立たせるような言葉であったことに 我知らず微笑みながら、森崎がうやうやしくレズリーの前に歩み出て、頭を垂れる。
[34]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/30(火) 19:03:16 ID:??? 「では、改めて」 「……」 差し出したのは無骨な手。 おずおずと伸びるのは、白くたおやかな指。 「踊っていただけますか、お嬢さん?」 「……あとで、やっぱりやめときゃよかった、なんて泣き言いうなよ」 言葉と共に、手と手が、触れた。 ******
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0ch BBS 2007-01-24