※人気投票開催中※
01/17(日)00:00-01/30(土)23:59
第二回鈴仙奮闘記キャラ人気投票
※新板できました※
ダイス創作物語板
ブログ
現行スレ
投票
最新20
板
1-
前
次
新
レス
【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】
[45]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 19:55:38 ID:??? 「サマになってきたじゃねーか、カイル」 「あ、いえ、その、……あ、ありがとうございますっ」 「……何で仕事から一歩外れるとそうなるんだ、お前?」 苦笑を抑えきれぬ森崎の前で、カイルが少年のような顔を紅潮させている。 こと与えられた任務については完璧に近い仕事ぶりである。 酒保商人との交渉や傭兵大隊の予算管理、軍部との連絡、書類雑務といったものは 既に大方をこの童顔の青年が取り仕切っていた。 管理業務に慣れぬ森崎が丸投げした結果であったが、この形で上手く回っているのだから 問題はなかろう、などと当の森崎は呑気に考えている。 「優秀だよな。よく気がつくし、読み書きも金勘定もできる」 「や、やめてくださいっ」 あわあわと、顔の前で手を振る仕草。 先ほどまで理路整然と報告をまとめていたのと同一人物であるとはとても思えない。 「地元じゃ手代だったんだろ? 何で傭兵なんかに応募しようと思ったんだ」 「テダイ?」 「おっとスマン、商人の手伝い、だ」 怪訝そうな表情を浮かべるカイルに、森崎が訂正する。 うっかりすると慣れた言葉が口をついて出てくるあたり、精神的な弛緩があるのかもしれなかった。 いかんいかん、気を引き締めねば、と内心で反省する森崎を前にして、カイルが口を開く。 「あ、はい。その……えっと」 もじもじと、足先で「の」の字を書くカイル。 急かしても余計に萎縮するか、赤面してまともに言葉が出なくなるかであると分かっていた。 森崎はぼんやりと飾り柱の木目が何に似ているか、などと考えながら待っている。
[46]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 19:56:41 ID:??? 「その、ぼ、僕はセサの生まれなんです」 「セサ……ああ、トルキアの端っこにある」 「は、はい、そのセサ公国です」 セサ公国。 古トルキア帝国末期、帝国の大貴族であった某公爵が所領の独立を認められた国家である。 面積はドルファン王国の半分程度。 トルキア半島の北西端に位置する、小国家であった。 「セサは、その、土地が良くないですし、対岸のイングランドに睨まれてちゃんとした港もないですから、 えっと……つまり、すごく貧しい国なんです」 「あー……ま、わかるぜ」 遠い故郷を一瞬だけ思い出して、森崎が頷く。 産業がなく、交易の拠点ともなれない土地は、必然貧しい。 「それに、その、独立したっていっても、今でもトルキア……ヴァン=トルキアの下にいるようなもので、 税も高いですし、僕の家も暮らし向きは、全然楽じゃなくって」 「おいおい、独立なんざ百年以上も前の昔話だろうよ。まだ影響が残ってるってのか?」 「はい……」 首肯したカイルの顔には笑みが浮かんでいる。 楽しげな笑みではない。 眉尻を下げ、口角だけを上げた、困ったような表情。 それは、諦念である。 泣いても喚いても変わらぬ、厳然たる現実を前にして諦念という鎖に縛り上げられた心の、 人の内側から滲み出すような、顔であった。
[47]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:02:28 ID:??? 「ヴァン=トルキアからの荷がなければ、小麦も塩も手に入りません。 石材も木材も、布だってセサの国の中で賄うには全然足りません。 どれだけ高くたって、僕らはそれを買うしかないんです。止められたら、飢えて死ぬだけです」 セサという国の人間は、きっと皆、こうやって笑うのだろう。 「トルキアに人を出せと言われたら、セサの男たちは駆り出されます。 それが戦でも、麦の刈り入れでも、安い賃金でいいように使われます。 だけど、仕方ないんです。……女たちよりは、幾分ましですから」 「……」 「僕たちは、そうやってトルキアからお金を落としてもらって、そのお金で トルキアの小麦を買います。何も残らないけど、今日を生きていくことはできます」 静かに言ったカイルが、 「……あ」 森崎の神妙な顔に気づいて、再び頬を紅潮させる。 「す、すいません! ぼ、僕、つい変な話を……!」 「いや、聞いたのは俺だからよ」 「あの、それで、手伝いをさせてもらっていたお店の人が亡くなって、それで、 は、母を食べさせていかなきゃいけなくって、どうせ外に出稼ぎに行くならって」 慌てたように言うカイルを手で制して、森崎が口を開く。 「実入りのいい仕事が、これだったってか」 「は、はい!」 こくこくと、何度も頷くカイル。
[48]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:03:45 ID:??? 「おっ母さんのためなら、か。孝行息子だな、お前」 「母は、女手ひとつで僕を育ててくれましたから……当然です」 そう言うカイルの栃色の瞳には、心からの慈しみが溢れている。 先ほどまでの乾いた笑みとは打って変わったその目に、森崎がカイルを招き寄せると、 いくさ働きには到底向かぬ細い肩をぽんと叩いた。 「なるほどな……ま、俺も頼りにしてるからよ、給金は弾むぜ」 「あ、ありがとうございます! 僕、一生懸命働きますっ!」 深々と礼をした拍子、秋の日に照らされて、さらさらとした栗毛が輝いた。 ******
[49]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:04:46 ID:??? //部隊訓練 「―――おい、そこ! そうだ、赤毛のお前だ、ちょっと横見てみろ! ……分かったか、前に出すぎてんだよ! 狙い撃ちにされてえのか!」 森崎の怒声が響き渡るのは、広大な運動場である。 「だああ、違う違う! 盾の隊列を崩すんじゃねえ! テメエが守るのは隣の奴だっての! 逆隣の奴がテメエを守るんだよ! 一箇所でも穴開けたらそこから崩れるんだ、忘れんな!」 九月に入隊した新兵の内、歴戦を重ねた者はほんの数えるほどである。 その他のほとんどは初陣どころか軍事教練など受けたこともない、素人の集団だった。 それも力自慢の荒くれ者揃い、話を聞かぬ列を作らぬ合図を覚えぬ、放っておけばそちらこちらで 喧嘩を始める始末である。 彼らを一人前には届かずとも、少なくとも軍事単位として行動ができるまでにまとめ上げるのが、 隊長として森崎の成し遂げねばならぬ難題であった。 「そこの馬鹿! テメエ、今の太鼓は『止まれ』だ! よし分かった、そんなに走りたきゃ 今から日が暮れるまでに外周10回、ほら好きなだけ走れ! ……あァ!? ……おう、いい度胸だ、なら胸を貸してやる、遠慮しねえでかかってこい!」 教練開始から一週間。 新兵たちの意識改革には、まだ暫くの時間がかかりそうだった。 ※部隊練度が20上がりました。 ガッツが30減少しました。 ******
[50]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:06:12 ID:??? //休養 「くぁ……ちくしょう、久々の休みだってのに、メシを食いに出る気力もねえぞ……」 『うわあ……』 寝台の上に突っ伏した森崎の姿は、さながら馬車に轢き潰された蛙である。 体の芯に鉛でも詰め込まれたような倦怠感に、身を起こすのすら億劫だった。 「人にあれこれ言うってのは、自分の体を苛めるよりよっぽど堪えるな……」 『大変だねえ、隊長さんも』 「他人事だと思いやがって……くそう」 『そんなことないけどさ。まだ若いんだから、シャキッとしなよ、キミ』 呆れたようにどんよりとした顔の前へ舞い降りたピコが、鼻歌交じりに前髪を弄り回して遊ぶのを 追い払おうとする手にも力がない。 ぼんやりと小さな相方の悪戯を見る森崎の瞼が、その重さに負けたように次第に垂れ下がっていく。 「ハラ……へった……な」 もごもごとした呟きは、すぐに小さな寝息に変わった。 こうして森崎は、貴重な一日を寝て過ごしたのである。 ※ガッツが100回復しました。 現在のガッツ:165 剣術:146 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:84 ATK:212 DEF:218 SPD:128 ini:25 ******
[51]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:07:21 ID:??? 皆様、ご回答ありがとうございます。 ご覧の通り、コピペの順番を間違えてイベントテキストが先になってしまいました! 本来、このレスが>>44の前に入ります。 お恥ずかしい限りです……。 気を取り直しまして。 それでは早速、>>39-40の選択については…… >>42 さら ◆KYCgbi9lqI様の案を採用させていただきます! そろそろガッツが黄色信号ですからね。 また部隊訓練もこの辺りで消費と上昇値を見ておいた方が戦略も立てやすくなるでしょう。 CP3を進呈いたします。 >>41 今のパラメータは剣術が突出していますからね。 バランスを取っていくのもいいと思います。 ただ、個人訓練の場合は「誰と訓練するか」も付記していただければ幸いです。 初回の訓練からはちょっと手順の変わった部分でして、混乱させてしまって申し訳ないのですが、 何卒よろしくお願いいたします。 >>43 レヴィンとの訓練を選ばれたのはちょっと意外……と思いましたが、カルツも先月で お披露目が終わっていますし、順番からいけば彼ですよね。
[52]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:08:26 ID:??? ****** *D26.10月 「気のいい傭兵団のエース」森崎有三 メインイベント 『才気』 マルタギニア海の沿岸は、欧州の中でも温暖な気候で知られている。 その一端に連なるドルファンも例外ではなく、冬の雨は多いものの、雪が降ることは 十数年に一度という程度である。 とはいえ無論、常夏というわけにはいかない。 夏が過ぎれば短い秋と長い冬が待っていることに変わりはなかった。 「うぅ、さすがに朝晩は冷えるようになってきたな……」 『……爺むさいよ、その姿勢。ていうかそんなカッコしてるからでしょ』 ピコが白い目を向けるのは背を丸め、腕で体を抱くようにして歩く森崎有三である。 言われた森崎はといえば、半袖の麻シャツから剥き出しの腕を擦りながら相方から目を逸らしている。 『風邪ひいたって知らないんだからね』 「へいへい、っと……いっくし!」 『ほら、言わんこっちゃない。……あれ?』 呆れたようなピコが、ふと何かに目を留める。 つられて目をやった森崎が、眉根を顰めた。 「……何してんだ、あれ」 『さあ……事故かな』
[53]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:09:27 ID:??? ひそひそと言い交わす森崎の行く手にあったのは、まるで道を塞ぐように横付けされた馬車である。 兵舎のあるシーエアー地区からフェンネル地区の訓練場に続く閑静な道のこと、 何か近隣に用があって停まっているわけでもあるまいと思いながら見やった馬車は、 近くで見ればひどく豪奢なものだった。 全体を純白に塗られた車体は、森崎もよく目にする粗末な乗合馬車とは比べ物にならない。 精緻な計算のもとに施された彫刻が白い車体を彩り、まるで羽ばたく鳥のようにその全体像を錯覚させる。 金の縁取りはよもや真物かと思わせる重厚な煌めきを陽の下に晒していた。 引く馬も見事な体格の芦毛が二頭。 肉付きといい毛艶といい、一級品の素材を最高の厩舎が磨き上げていることは明らかだった。 無駄に嘶くこともなく、どっしりと構えたその威容は軍馬を扱う森崎から見ても文句のつけようがない。 「羨ましいぜ、実際。一頭くれねえかなあ」 『さもしいよ!』 言いながら、道幅のほとんどを埋めるように停車しているその馬車の脇を抜けようとした森崎の背に、 低い声が刺さる。 「―――やらねえよ馬鹿野郎」 「うわっ!?」 突然の声に、思わず飛び上がる森崎。 いかに油断していたとはいえ、森崎はいくさを生業とする男である。 背後に誰かがいれば、大抵は察知できるつもりでいた。 しかし今、声の主は全く気配を感じさせなかったのだった。 「誰だ!?」 反射的に身構えながら振り返った森崎の目に映ったのは、 「……おん、な?」 「オイ手前ぇ、いま一瞬迷っただろ」
[54]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:10:27 ID:??? 乱暴に言い放って森崎を睨む、その姿はよくよく見れば確かに女性である。 灰色がかった銀髪を長く伸ばした顔立ちは、むしろ美人といってもいい。 しかし、森崎が迷ったのも無理はなかった。 獰猛とすら言えるような目で森崎を睨みつける彼女の出で立ちはといえば、 糊のきいた純白のカッターシャツに黒のベスト、胸元にはベルベットでできた臙脂のリボンタイ。 そして何より、その足を覆うのはスカートではなく、すっきりとしたラインの黒のパンツであった。 「あ? 女がこんな格好してちゃ悪いのか?」 「いや……悪いってんじゃ、ねえけどよ」 戸惑う森崎が言葉を濁す。 苛立たしげに踏み鳴らす足元も、丹念に磨き上げられた黒の革靴だった。 有り体に言って、富裕な家のバトラーであると主張するような服装である。 が、森崎の知識の中にある限りでは、女性のバトラーや家令など聞いたことがない。 「……」 「……チッ、まあいい」 困惑が顔に浮かんだのが見て取れたのか、女性が露骨に舌打ちして首を振る。 しかし次に出た言葉は、胸を撫で下ろした森崎を再び驚愕させるのに充分であった。 「ユーゾー・モリサキってのは、お前だな」 「なにィ!?」 名指しである。 いかな先月の収穫祭で名が売れたとはいえ、全くの見知らぬ他人からその名が出るとは思わなかった。 「お、俺ってそんなに有名人なのか?」 「は? 何言ってんだ、手前ぇ」 思わず訊いてしまった森崎が、一刀両断にされる。 猛禽類を思わせる灰色の鋭い目が、心底から呆れ返ったように森崎を射貫いていた。
[55]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/11/01(木) 20:11:28 ID:??? 「……じゃあ、どうして俺の名前を」 「用があって捜してたんだよ。っと、勘違いすんじゃねえぞ」 「……?」 「用があるのはオレじゃない。……あっちだ」 すげなく言った女性が、す、と滑るように歩むと、馬車の扉に正対する。 「お嬢さん、間違いないみたいだぜ」 声は、馬車の中にかけられたものである。 僅かな間を置いて、くぐもった声が返ってくる。 「……そう。開けなさい」 「へいよ、っと」 気の入らぬ声音とは裏腹に、馬車の扉を開けようとする女性の仕草は洗練されている。 隙がない、と言い換えるのが正しいのかもしれない。 背後を取られたのに気づけなかったことを思い出し、渋面を作る森崎の目の前で 軋みひとつ立てずに扉が開いていく。 純白の扉の中は落ち着いた赤を基調とした布張りである。 垂れ下がる壁掛けの複雑な文様、美しい茜色は更紗だろうか。 「―――」 その、小さな赤い世界を睥睨するように座る女がいる。 纏うのは蒼。 どこか、ソフィアやハンナの通う学園の制服を思い起こさせる意匠である。 見慣れぬ仕立てだが、ゆったりと身体を包みながらもその動作を阻害しないよう 細心の注意が払われた、いかにも一品物といった完成度の高さがそこにあった。 膝丈のスカートの下から伸びる足の白さに森崎の目が釘付けになったのは、馬車の車高で ちょうど目線の正面近くになったからばかりではあるまい。 少女の、脚である。
前
次
写
名前
E-mail
0ch BBS 2007-01-24