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【バグサッカー】きれぼしサッカー【やりまーす】
[160]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 14:52:55 ID:??? 陽子「だからこうやって兄さんの所に転がり込んだの。 生まれつき約束された物を夫付で受け取らされるんじゃなくて一般人のフリをしながら自分の力でゼロからスタートする… それは充実していてワクワクする生活なんだけど、いずれはきっと終わるわ…」 陽子「(きっと終わってしまう……どんなに私があがいても、どうしようもない……)」 陽子の脳裏には、かつての拉致未遂以降の記憶が去来していた。 あの事件が失敗に終わった後で、不審者は影さえ見えなくなったが、 代わりに陽子の日本サッカー協会での活動が、陰に陽に妨害されるようになった。 陽子の部屋が何者かに荒らされ、彼女に託された文書・資料がボロ屑とされた事は幾度となく繰り返された。 少しでも機密が求められる情報を陽子に任された際は、決まって外部に漏洩され、 その都度協会の信用と活動範囲を揺るがせる結果となった。 これまで快く協力してくれていた外部団体や他国のサッカー協会との連携も、 末端の協力者の一員として陽子が参加した途端、あからさまな態度で断られるようになった事さえあった。
[161]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 14:57:37 ID:??? 今もなお、兄や賀茂は勿論、日本サッカー協会も陽子の活動を続けさせてはいる。 1人の少女の夢の支援というよりは、外部からの不当な圧力に対する 断固たる拒否の姿勢を示すという面が強かったが、ともかく現在も陽子は何とか活動を行い得ている。 だが度々の干渉が、1人の小娘が原因で引き起こされている事が知れ渡るにつれて、 周囲の視線と空気が寒々しくなっていく事はどうにもならなかった。 陽子「(ダメよダメ、ダメ、私が出来る事なんて何も無かったんだ。このまま引き戻されておわり……)」 森崎「俺は諦めるのが大嫌いだ。諦めるなんて勿体無さ過ぎる」 陽子「(!)っ………」 キッパリとした相手の返事に、陽子は息を飲んでたじろぐ。何の迷いも無い、力のこもった言葉。 動揺を隠そうと目を背け、コップにビールを注ぐも、胸が詰まってしまい泡をただ見つめるだけになった。 ややたって、陽子が口を開く。 陽子「私だって、諦めるなんて嫌よ…」 森崎「だろう?」 陽子「でも、受け入れなきゃいけない現実や運命だってあるの。それに成す術無いまま抗い続けるのは…とっくに疲れたわ」
[162]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:01:01 ID:??? 陽子「森崎くんだって…いくら諦めないと固く思っていても、一度奪われたゴールを無かった事には出来ないでしょ? 一度負けた試合はもう勝てないでしょ?ワールドユース本大会の抽選だって勝手に決められるだけじゃない。 森崎くんにいくら精神力があっても、どうしようも無い事だってあるじゃない」 陽子の瞳は僅かに潤んでおり、頬もアルコールのせいか朱に染まりだしている。 越えようとしても越えられぬ思念の泥沼へと入り込んで、思考は堂々巡りを繰り返していく。 森崎「取られたゴールを嘆くよりも、それを取り返す方法を考えた方が良いぜ」 相手の返事を受けて、陽子の顔がわずかにゆるむ。だが元気になった訳ではない。 陽子「やっぱりね。森崎くんならそう言うと思った」 沈鬱な気がより表情に重ねられただけであった。 森崎「…じゃあ、なんでそんなに悲しそうなんだよ」 陽子「森崎くんはとってもメンタルが強い選手。上を上を目指す事ばかり考えて、邪魔する者は全部蹴散らす。 ついてこれない者は容赦なく切り捨てる。サッカー選手として一つの理想像だと思うわ」 森崎「なんでそれが悪い事の様に言うんだよ!?」 森崎には分からなかった。陽子の背景は知っていても、彼女に及ぼした影響は分からなかった。 陽子の人となりはこれまでの交流で把握したと思っていたが、彼女の心の奥底に積もる思念には気付いていなかった。
[163]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:05:49 ID:??? ――――――俺、パルメイラスと契約延長したら指輪を買うんだ…―――――― ドキン。 森崎の返事を聞いて、急に胸が高鳴る。 陽子「(……えっ?)」 思いもよらぬ突然の告白に、一瞬思考が停止する。これまでの陽子の人生の中で初めての感情の直撃を受け、 頭の中は麻痺したような、蕩けたような、陶然とした状態になっていた。 陽子「(え……ゆ、指輪?森崎くん、私のこと、好きなの!?……あっ、いやっ…ど、どうしよう……)」 カッカッと顔が火照りはじめ、こころよいとまどいの中にときめきを感じ始めていた。 断続的であり仕事の一環ではあるが、陽子は3年もの間森崎を観察してきた。 その過程で、何者にも屈しようとせず、どんな絶望的な状況に陥っても諦める事を知らない闘志を感じ取り、 知らず知らずのうちに敬意を抱くようになっていた。 そうした中でのこの発言である。嬉しい、とおもった。 こうまで言われて心が動かない女は、女でないであろう。だが。 ――――――ダメだ………―――――― 瞬時にして諦念が雲のように陽子を覆う。自らの状況と経緯がふとした拍子で思い出された途端、 よろこびが霧のように掻き消えた。自分は何もできないお荷物、困難に立ち向かえない負け犬、意気地なし……… 踵を返しパーティ会場から立ち去る。周りの反応も目に映らず、何も考えぬまま去って行った。
[164]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:08:10 ID:??? 陽子「だけど…それはサッカー選手として理想でも、男性としては理想とは言えないわ。 そういう生き方が出来るのはごく僅かな一握りの人だけよ。 森崎くんは常にそう言う世界で生きてきたから、そう言う覚悟を決めた人ばかり周りにいたんでしょうけど… 私も含めて、大抵の人はそこまで強くないわ。何時か頑張る事に疲れちゃうのよ」 できない。私はもう頑張る事もできない。 森崎くんは違う。強い意志を抱いて1人でどこまでも行ける。 もう私には手が届かない。後をついていく事さえできない。私は…… 森崎「自分だけじゃ頑張れないって言うんだったら、俺が引っ張ってやるよ!」 ドォン! 陽子「う………」 衝撃が胸に撃ち下され、全身が打ち震える。 森崎「確かに誰もかもが俺みたいに強くはなれないだろうよ。当たり前だ。俺はキャプテンなんだからな。 誰にでも出来る事しか出来ない奴が人の上に立てる訳が無い。だから俺が引っ張るんだ。 俺は勇気や野心なら人に分けてやれる程余っている。自分だけじゃ頑張れないんなら、俺を頼れよ!」
[165]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:12:00 ID:??? 陽子は震えはじめた。体ではない。身体に沈んでいるなにかが、震えている。 震えは段々とひどくなる。それにつれて余裕がなくなり、 とうとう森崎から顔を背けてポツリポツリと呟くだけになってしまった。 陽子「どうして…どうしてそこまで言ってくれるの?そこまで私が好きだって言うの…?」 森崎「ああ。そうじゃなきゃこんな事言わねえよ」 陽子「分からない…今までサッカー一筋だった森崎くんが、私をそこまで好きになる理由なんて、思い当たらないわ」 森崎「俺だって分からねえよ!その通り、俺だって恋愛とかはするとしたらプロとして成功してからだろうと思っていたよ。 引退してもそのままで、生涯独身で過ごす可能性だって高いと思っていた。だけど今の俺は陽子さんが欲しいんだ!」 沈殿していたものが陽子の体内で躍動しだす。次第に熱を帯び始め、熱水が滝のように胸へ注ぎ落ちる。 陽子「…私が、欲しい…」 森崎「そうだよ!俺は他人には嘘だってハッタリだって言うが、自分には嘘はつかねえ! 今言ってる事は後で考えたらメチャクチャ恥ずかしそうだけど、だからと言って言わないのはもっと嫌なんだよ! 陽子さんだけの力じゃ陽子さんの運命を変えられないって言うんだったら、俺の力で変えてやるよ!………」 ここで森崎は言葉が続かなくなった。思うところを言いつくし、感情全てをさらけ出した事で、心理的な余白が生じた。 そこで森崎はここまで一方的に言われ続けた陽子に思いが至り、反応を待つべくじっと陽子を見つめた。すると。 陽子「………プッ。なんだ。ちゃんと口説こうと思えば出来るんじゃない」 森崎「ハア?」
[166]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:16:34 ID:??? 陽子の反応は…失笑だった。相変わらず顔は背けていたが。 泣きそうになったかと思えば突如笑い出したりする乙女心の気紛れさに 森崎は怒りも忘れて呆気に取られてしまう。 陽子「あ〜あ、昨日は散々森崎くんを意気地無しだって思っていたのに。これじゃ意気地無しは私じゃない」 森崎「だから、昨日は…その。昨日のままにしておきたくなかったから来たって言っただろうが!」 陽子「うん…だから、今日は私に逃げさせて」 森崎「へ?………あ」 ガタン。 森崎の方に振り返りながら席を立った陽子の顔は光っていた。とうとう零れだした涙の筋で。 備えつきのランプの光を反射して輝く泣き笑いの顔が森崎の瞼に焼きつく。 陽子「今夜は…これ以上はダメ。もう何を言うか分からないから」 森崎「あ、ああ」
[167]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:18:40 ID:??? 陽子「でも…有難う。嬉しかった。明日の試合も勝ってね」 その言葉を最後に、陽子は立ち去る。エレベーターのボタンを押して中に入った。 森崎の姿が見えなくなった途端、堰を切ったように両眼から涙が溢れ出た。 陽子「(いいんだ!私も頑張っていけるんだ、森崎くんと一緒に!)」 ゆっくりと瞼を閉じながら、穏やかに微笑みだす陽子。 他人が見れば、まるで泣く事を楽しんでいるかのようにさえ見える表情である。 実際、ある意味ではそうと言えるかもしれない。 陽子の中でよどんでいた靄が涙が融けてゆき、未来への希望が蘇ってきたからだ。 陽子「(もう負けない、絶対に挫けたりなんかしない!絶対に夢を実現するんだ!そして……)」 チーン。 ドアが開くとともに、顔を拭うことなく自分の部屋へと駆け出す。 涙を流していた瞳は燦々として、強い輝きを放っていた。 ――――――――――――― ――――――――― ――――――
[168]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:58:24 ID:??? これまでの記憶が頭を飛来するなか、陽子の心がかつてのようによどんでくる。 兄さんは私に夢へ向かうきっかけを与えてくれた。 賀茂さんは私を父から取り戻してくれた。 サッカー協会の人達からも数数え切れない程に教えてもらった。 そして、森崎くんからは再び困難に立ち向かおうとする意志と、もう1つの夢をもらった。 ………私はみんなに何ができたんだ? 陽子が少しずつ潰れていく。果ての無い自壊的な慙愧が激しく駆けめぐる。 何もできなかった。いや、何もできないどころか、みんなが目指してきた夢が、今私のせいで微塵にされてしまう。 サッカーが、ようやく定着しようとしている日本のサッカーが、 私のせいで消えてしまう。………私のせいで。
[169]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2013/04/07(日) 15:59:57 ID:??? 陽子「もう、何もかもおしまいよっ!」 突然、陽子の目がカッと開かれ、叫ぶ。 陽子「私のせいで日本のサッカーが消えちゃうんだ! わがまま言って逃げ込んでこなければ、私がもっと早く家に戻ってればよかったのよ!」 賀茂「お、おい陽子……」 陽子「私なんか最初からいなければよかった!私のせいで!私のせいで!私のせいでっ!! うわあああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」 あらん限りの大声を発して、床に突っ伏して号泣する。 片桐も賀茂も陽子の悲痛にどうする事もできず、ただうなだれるより他はなかった。 *陽子の感情が以下のようになりました。 陽子→(罪の意識)→片桐・賀茂・日本サッカー協会 *陽子の感情が発覚しました。 陽子→(思慕・罪の意識)→森崎
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0ch BBS 2007-01-24