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【新章】きれぼしサッカー3【突入!?】
[98]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:04:40 ID:PO3CBzys カビラ「ゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴールゴーーーールッ! 決めましたっ!群がり迫るきれぼしJAPANに対し、 まるでピンボールのようにボールを跳ね返させて突破するという神業を見せてくれました! これまで一度もユース代表で姿を見せなかった謎の女性スーパーサブ、早川あずみ!これ程までの選手とは!」 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 更なる追加点を挙げた事で、スタジアム内が有頂天までせり上がったかと思われる程、 歓喜の絶頂に支配された。 同時に、岬の絶望もガンと、胸中に撃ち響いていた。 残り後半も半分を切った中での2点差、負ければ待っている日本の地にいられなくなる程の四面楚歌となっては、 いかに岬であっても動揺が生まれるのは無理もなかった。 岬「(そうだというのに、何ていうざまだ!)」 ジクジクと胸がうずき、思考もままならない。戦術を立て直すどころでなく、 動揺を隠す事ももう少しで忘れてしまう位に、岬は追いつめられていた。 その岬に、かつての恋人であったあずみが現れた。
[99]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:06:01 ID:PO3CBzys 急用のため、少々お待ちください。
[100]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:26:10 ID:PO3CBzys お待たせいたしました、これより投稿を再開いたします。 あずみ「あら、アンタもそんな顔をするのね」 わざわざ腰を落として下から顔を眺めたり、立ち上がった後に横に回って横顔を舐めるように見回したりと、 珍しいものを観察しているといった風情で岬の周りをうろつくあずみに対し、 随分楽しそうだと言葉を返すのが、今の岬にはやっとであった。 あずみ「ええ面白いわ、こんな顔は見たことないから」 岬「そう、僕だって驚いたりした事はあったし、そっちもそういった顔は見た事はある筈」 あずみ「いや、ないわ。こんな風に自分のした事に後悔したり、 出口が見えずにいる時の顔なんて見た事なかったから。アンタもこれでお終いね」 勝ち誇った顔つきとなり嘲笑う。そうした感情になってまだ言う事があるらしく、話を続ける。 そしてそれが、岬を立ち直らせる転機となってしまった。 あずみ「昔のように、分別付けてサッカーと付き合っていればよかったのにね……」 岬「昔のように……」
[101]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:27:44 ID:PO3CBzys ―――――― ――――――――― ――――――――――――― あずみ「お邪魔します、あ、ホントにいないんだ」 岬「そうだよ。父さんは絵画取引の関係者との打ち合わせで遅くなるって言ってたんだ」 あずみ「へえー、絵描きでもそんな面倒くさい事するの。それじゃ、シャワー借りるわね。襲っちゃダメよ」 岬「分かってるって、安心して浴びて。僕は後でいい (早いとこ父さんの「仕事」の痕跡を消しておかないと、あーあ、一杯散らかってるよ)」 フランス留学中のある日、岬は初めてあずみを自分の家へと招き入れていた。 それも自身の保護者がいない、2人きりでの招待である。 あずみが言うとおり、その気になりさえすれば襲いかかって事に及ぶことさえ可能である状態であった。 岬の名誉のために言えば、この招待は意図したものでは無い。天気雨で両者ともずぶ濡れになり、 やむなく岬の家に退避せざるを得なかったのが実情である。 そうした予期せざる出来事であったために、岬には相手の肢体鑑賞といった某忍者的趣味行為を行う暇は無かった。 岬の父、岬一郎が「裏」の稼業で使用する偽造書類、贋作品、暗号メモ等の機密品を 隠蔽する時間を取らねばならず、隠し終えた時には既に相手はシャワーを浴び終えてしまっていた。
[102]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:29:40 ID:PO3CBzys あずみ「気持ち良かったわ。お次にどうぞ」 とは言え、入浴後のあずみの姿も岬にとってかなりの刺激となった。 胸元から股上までをバスタオルで巻いただけ、それもさほどに大きいものでは無いため、 歩くたびにヒップまでバスタオルの縁がそよぎ、岬を困惑させてしまっていた。 岬「そんな恰好でよく平気でいられるね。心配とかしないの」 声に震えはなく表情も平静を保ったまま、明日の天気はどうだといった様に答えたのは 同年代の少年で岬でしかできなかっただろう。 そうした澄ましぶった岬に対し、あずみは小悪魔然とした笑みと口で答える。 あずみ「そりゃあ、相手が岬くんだもの。紳士で優しい岬くんはそんな事しないって信じているから」 ニヒヒと言った擬音が文字になって浮かびそうな笑顔を見せられた岬は、 心の動揺を苦笑いで押えつつ、その後の彼女の揶揄も聞かずに風呂場に向かった。 シャワーを浴びながら混乱を抑え暴発を阻止するかのように、岬はあずみへの愚痴をこぼす。 岬「(知ってはいたが、なんという女だろうか。僕といえど思春期の青年、 あんな事をすれば望む想いも出てくる。それを完全にキープできる事も知っていて、 反応を楽しむために、傍目にはあんな危険な事を平然とやってのけるなんて)」
[103]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:32:43 ID:PO3CBzys ようやくにして冷静になり、服も着替えて居間に戻ると、 隅に置かれたアップライトピアノの鍵鍵盤を開こうとしているあずみが見えた。 岬に気づいたあずみは他人の私物を扱っている事に頓着する事もなく、尋ねる。 あずみ「岬くん家にもピアノってあったんだ、ここに来る前はよく引越ししてたって聞いてたけど」 岬「ああ、あれは来客が来た時にお客さんへのおもてなしで使うんだよ」 あずみ「おもてなし?親の仕事を助けようっていうの?さすが岬くん、親孝行ねー」 棒読みでニコニコと笑いながらからかうあずみに、岬もムッとしはじめた。 未だに彼女はバスタオルのまま、しかも下から仰ぎ見るような形で岬を見つめているため、 少しでも視線を外すと彼女の胸元が見えそうになり、余計に平静を失わせた。 岬「ふん、そんな媚を売るばかりでピアノを使ってるわけじゃないさ。自分の趣味にも使ってる」 あずみ「趣味にも?じゃあ岬くんに好きな曲とか、得意な曲とかあるの?」 興味深げに目を光らせたあずみを見て、しまったと岬は後悔した。 この分だと必ず、演奏のリクエストを求められるに違いない。別に技量で不安を感じているわけではないが、 気になっている相手の前でピアノを弾くのは、どうにも気恥ずかしい感じがした。
[104]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:34:28 ID:PO3CBzys あずみ「お願い、ちょっとでいいから」 岬「あのねえ……」 あずみ「お願い、お願い、お願ーい!」 ニコニコとして懇願する女の子を見て、クラリとしかける岬。 こんなふうに異性の相手から頼み事をされて心が動かない男など、男ではないであろう。 だが岬には大望がある。 いずれは自分の知略と技能を存分に用いてサッカー界を一手に握ろうと夢見ている青年である。 それが自分と同い年の小娘に良いようにされたままに終わるなど、到底許されざることであった。 仕返しをしなければならない。 岬「よし、弾いてみる。その代わり、あずみちゃんには歌ってもらうよ」 あずみ「えっ!?」 突然の提案に鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、次いで真顔で否定した。 あずみ「だ、だめよ!あたしそんなに歌は上手くないし、だいたい歌のレパートリーなんて全くないもの。 学校の歌を除けば古いフランスの歌だし、岬くんも知らないわ」 これでようやく互角になった、と岬は思った。 あずみの歌のレパートリーが乏しいのは事実であった。 休み時間や放課後に彼女が他の女友達と、日本での流行歌などをうたっている時、 彼女だけは音程がずれ、テンポが遅くなっている事をからかわれているのをよく見ていた。 だがそれは単に彼女がそうした歌に興味が薄く、あまり歌う機会が無いからだと岬は考えている。 音楽の授業では彼女の謙遜とは反対に、良く澄んで豊かな声をして歌っている彼女を見ている。 である以上、知っている歌ならばどうにかなると岬は見ていた。
[105]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:36:31 ID:PO3CBzys 岬「ま、シャワーのお礼と思って歌ってよ」 あずみ「お礼って、もう岬くんに出してるじゃない」 わずかに胸部を前に突き出しながら顔を軽く膨らませて顔を岬に近づける。 そうしたあずみを可愛いと思いながらも、ヤレヤレといった表情を浮かばせて、あずみに返事をする。 岬「僕はあずみちゃんを信じている。乙女で正直なあずみちゃんは、 きちんと折り目正しく相手に借りを返してくれるってね」 際どい恰好ではお礼にならない。ちゃんと歌ってくれ。 そう相手の意図を受け取ったあずみは、うーと軽く文句をたれ、ますます顔を膨らせた。 岬「大丈夫、きっとあずみちゃんも知ってる歌さ」 あずみの不興を気にする事無く、岬は演奏をはじめる。 メロディが耳に届き始めるにつれ、あずみの頬は緩み、次に目を丸くして尋ねた。 あずみ「これ、シルヴィ・バルタンの『あなたのとりこ』じゃない。大ヒットしたとはいえ、もう20年は前の歌よ」 岬「そう、でも僕はこの歌が好きだからね。この歌を歌うと、どんな困難にも負けないような気がする」 あずみ「そうよね。あたしも好き。岬くんも好きだなんて知らなかった」 岬「ほら、もう歌が始まるよ、早く準備して」
[106]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:44:19 ID:PO3CBzys Tout m'entraine, irresistiblement vers toi comme avant Tout m'enchaine, irresistiblement a toi je le sens (すべてが私を引きずって行く、どうしようもなくあなたへと、今までどおり すべてが私をつなぎとめる、どうしようもなくあなたに、私はそう感じる) 予想通り、あずみの歌は素晴らしかった。 最初の節こそ緊張でやや固かったものの、その後の歌は のびのびとして一かけらの声詰まりもなく、かといって間延びした声にはならず 誰にも負けないといった意志を感じさせる抑揚と張りがあり、岬の心を楽しませた。 Comme le jour revient apres la nuit Et le soleil toujours apres la pluie Comme un oiseau qui revient vers son nid Vers mon amour je vais aussi (夜のあとに朝が そして雨のあとにいつも太陽が戻ってくるように 巣へと戻る鳥のように 恋人のもとへと私も向かう) すっかり緊張も解け、両手を広げて歌い、 嬉しげな顔を岬に向けてウィンクする。 岬も澄ましながらウィンクを返す。 この時の2人は、幸せだった。 ――――――――――――― ――――――――― ――――――
[107]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:45:24 ID:PO3CBzys 今この場、霞ヶ丘陸上競技場で2点差の劣勢に追い込まれた岬太郎の中にも、 在りし日に演奏した名曲が再び響いていた。 Comme la joie revient apres les pleurs (涙のあとに喜びが戻ってくるように) 岬「(そうだ、いつまでも押しつぶされたままなんて事があるものか)」 泥濘にそよ風が吹き込んできたように、岬の心に希望がそよぎはじめた。 Après l'hiver revient le temps des fleurs (冬のあとに花の季節が戻ってくるように) 岬「(必ず時は来る。絶対に来る)」 岬は信じた。信じるという行動をした。 必ず逆転する。自分の意志を貫く事はできると。
[108]きれぼしサッカー ◆5qvYBJdbJQ :2015/10/11(日) 18:46:55 ID:PO3CBzys Au moment où l'on croit que tout se meurt (人が、すべては無くなってしまうと思っているその時に) 岬「(絶望から立ち上がれるのが人間だ。絶望を知る事が出来るのが人間だ)」 名曲からの法悦的な興奮からくる、一種の幻覚であったかもしれない。 実際、岬は考えていた訳ではなかった。 L'amour revient en grand vainqueur (愛は勝利者となって戻ってくる) 岬「(そして、絶望から立ち上がった後、振り返ってその絶望を愛おしむことが出来るのも、人間だけだ。 僕はそうなる、なれる、なってみせる!)」 偉大な人間でありたい、上をめざして自らが目指す物をつかみ取っていきたい。 負けたら終わりといった絶壁に追いやられる中で岬から余計な雑質がはぎ取られ、 彼の意志がむき出しとなった解放感からの絶頂で、岬は闘志を取り戻した。 そうして意欲を取り戻し、心も落ち着いた後で、岬はあずみに向き直り、 岬「ありがとう」 ただ一言の礼を告げた。
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0ch BBS 2007-01-24