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屁理屈推理合戦withキャプ森
[472]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:23:43 ID:nPx5i6AA *** 〜イタリア北部・山奥〜 ブロロロロ…… バスが軽快な音を立てて、先が見えない山道を走る中、 やがて背の高い尖塔が全日本ジュニアユース代表一同の視界に入った。 森崎「へぇ。あれがイタリアの合宿施設か」 早田「けったいな形してるなァ。あれがボンジョルノの趣味か?」 次藤「物の本によると、古代エトルリア人が作ったオーパーツ的施設らしいタイ。 なんでも、宇宙人との邂逅を目指したとか、バベルの塔に対抗して作ってみたとか。 ……むむむっ! これはヤバいタイ。来年、イタリアに恐怖の大王が……」 佐野「次藤さん、多分それ観光ガイドじゃなくてムーとか、それ系の雑誌です」 森崎は仲の良い早田や、国内合宿中に日向との一件で絆を深めた次藤達と、バス内での談笑を楽しんでいる。 修学旅行のようにも見える彼らの穏やかな会話を、代表選手らしからぬ気の緩みと謗る者はいない。 というのも、今回の遠征先への旅程は、明らかに長い旅路だったからだ。
[473]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:25:06 ID:nPx5i6AA 松山「Jr.ユース大会を前に、ハンブルグとの練習試合で5−4の勝利を挙げた俺達だったけど、 それでヨーロッパ中のサッカー協会が警戒しちゃって、どことも練習試合を組ませて貰えなかった。 その中で漸く、イタリアJr.ユースとだけは『合同合宿』という形で遠征が出来たのは喜ぶべき、なんだろうけど……」 石崎「くーっ、それにしても合宿会場が遠すぎだぜ!? 俺達今、何時間くらい山登りしてんだ?」 説明口調の松山が言う通り、彼らの目的地はイタリアJr.ユース代表との合同合宿会場だった。 イタリアとスイス国境を隔てるアルプス山脈、その中でも最高峰とされるモンテ・ローザの中腹に位置する その施設への所要時間は、空港から車でおよそ38時間。その間ずっと、彼らはバス生活を強いられていたのだ。 反町「(日本サッカー協会が金欠で、国際サッカー界での発言力が乏しいからって、幾ら何でも舐められ過ぎだろ……)」 日向「喉が渇いたな。オイタケシ、コーラ持って来い」 沢田「はい! 今本社に頼んでコンコルドを手配しました!」 若島津「(モンテ・ローザの奥地にはイエティが棲むという。手合わせしたい物だ)」 とはいえ、彼らの表情は決して暗くはない。それは現状を愚痴っても仕方ないという、 彼らの前向きな気質が現れたとも言え。……あるいは、日本代表という重圧を離れて、 普通の中学生のように友人との旅を楽しむ事が出来る喜びもあったのかもしれない。
[474]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:26:12 ID:nPx5i6AA ブロロロロ……キキッ。 見上「……着いたぞ。ご苦労であった」 ……やがて、彼らが到着したのは森崎が尖塔を目撃してから6時間後の事だった。 バスは古びた城塞のような施設の前で止まり、代表選手達を降ろしていく。 滝「ホテル・プルガトリオか。……ダンテもこんな場所で『神曲』を書いたのかな」 井沢「山の中にある煉獄(プルガトリオ)だからな。となると、次に出て来るのはベアトリーチェか?」 森崎「!? ベ、ベアトリーチェだと!?」 来生「……? 森崎、何ベアトリーチェに過剰反応してるんだ?」 森崎「う、うるせぇ。黙ってろ!」 ……中世のイタリア人作家のダンテは、『神曲』という有名な叙事詩の中で、 『ベアトリーチェ』という名の女性を登場させている。 永遠の淑女として描かれ、天国と地獄の狭間たる煉獄山の頂上で主人公のダンテを迎える彼女は、 やがて彼女の導きによって天界へと昇天する、……という話だったろうか。 森崎「ったく。昔の奴はベアトリーチェを理想化し過ぎだぜ。 あんなの、エログロナンセンス好きの、ロクでもねえ魔女なだけじゃねぇか……」 勿論、森崎の知人であるベアトリーチェは、ダンテの作品の登場人物とは何の関わりもないが、 森崎はそうこっそり悪態を突きたくなる。……しかし一方で、彼は鞄の中のキーパーグローブを撫でつけてもいた。 黄金の蝶の刺繍がなされた、魔女・ベアトリーチェからの贈り物は確かに上質だったし、 森崎は奇跡的にもシュナイダー相手に1失点に留め、チームを勝利に導く事が出来たのだ。 もっとも、「魔女のお蔭じゃねえ。俺の実力だ」と、森崎はそう言って憚らなかったが。 森崎「(流石にJr.ユース合宿までは付き纏ってこなくて助かったぜ。ま、お土産位は買ってやってもいいかな)」
[475]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:28:50 ID:nPx5i6AA すみません、日本語的に気になった部分を修正します。 誤:永遠の淑女として描かれ、天国と地獄の狭間たる煉獄山の頂上で主人公のダンテを迎える彼女は、 やがて彼女の導きによって天界へと昇天する、……という話だったろうか。 ↓ 正:永遠の淑女として描かれ、天国と地獄の狭間たる煉獄山の頂上で主人公のダンテを天界へと導いた ……という話だったろうか。
[476]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:30:09 ID:nPx5i6AA 森崎が古めかしいホテルの看板と、滝達の何気ない会話に想いを馳せていると――。 和夫「ウキャッ、キャッキャッ!(うわっ、すげー!)」 政夫「キャキッ、キキウキッ!(なんだこれ!?)」 ……立花兄弟が興奮のあまりの猿語で騒ぎ始めた。 一体何事かと思って、森崎や周囲の仲間が双子の方へと向かうと、そこには巨大な像が鎮座していた。 山森「これは……大きな、鳥の像ですか?」 新田「こいつだけ、ボロホテルの外装と比べて綺麗だな……」 山森と新田は物珍しげに、双子が驚いた像に触れている。森崎が興味本位で覗き込むと、 それは大きな鷲の彫像だった。斧の付いた木の束を掴み、翼を大きく広げたそれは、この山奥のホテルにおいて、 誰とも知れずその雄々しさを示していた。 三杉「ファスケス……翼を広げた鷲の像、か」 翼「何か意味があるのかい?」 三杉「多分、サロ共和国との繋がりかな。木の束と、それを掴んで翼を広げた鷲は、彼らの国旗だったし」 若林「……となると、この施設は戦中に建てられたのか?」 山奥の果てにある、中世古城のようなホテル。そこに佇む鷲の像。 何もかもが御伽噺のような断絶された世界に戸惑う、日本代表の少年達に声を掛けたのは。
[477]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:36:22 ID:??? ストラット「……いや、違う。建物自体はずっと昔のものだ。 それを、サロ共和国――イタリア王国を追われたムッソリーニの建てた臨時政権が、 ここを軍事施設や実験施設として転用していたらしい」 森崎「お前は……?」 ストラット「名乗るならば、まずはそっちの方だろう、ジャッポネーゼ。 ……とでも言ってやりたいが。まあ良いか、俺の名はチェザーレ・ストラット。 今日からの合同合宿には、イタリア代表として参加させて貰うぜ」 声を掛けたのは、ストラットと名乗る。 ……強がりながらも、どこか暗い表情をした、イタリア人の少年だった。 森崎「……………」 そして、この少年に対して森崎が覚えた印象は、敵意とか好意とか。 そうした尋常かつ分かりやすい感情では決してなかった。 ……魔女との戦いを通して、魔法への適性を知れずの内に深めていた森崎だけは、 彼を単なるアンニュイな印象の少年という風には評価しなかった。 森崎「(こいつ。……生きているのに、死んでいるような。いや違う。 ……こいつは、きっと殺される。それもただ殺されるだけじゃない。 陰残かつ、むごたらしく、惨めに殺されるような。そんな気がする……!)」 ――森崎は察知した。ストラットという少年は、近い内に必ず、死ぬ。 否、殺される。……きっと恐らくは、魔女の手によって。
[478]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 01:40:51 ID:??? 今回の敵は愛憎の魔女ミアータ、被害者はストラット! ……と、言ったところで一旦ここまでです。 前置きが長くなりましたが、事件自体はシンプルで登場人物も少ないです。 また、今更ですが当ゲーム盤では「うみねこ」原作の明示または暗示の要素・ネタバレを含みます。 「うみねこ」原作を知らずとも楽しめるようにしたいと思っていますが、もしネタバレが嫌ですとか、 原作要素が多すぎてついていけない等ご意見ありましたら、極力は反映させたいです。 今の所、予定通り明日の夜にはゲーム盤に入れるかと思っています。 それでは、また明日宜しくお願いいたします。
[479]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 13:36:16 ID:??? 〜ホテル・プルガトリオ ロビー〜 支配人「遥々と日本からよくお越しくださいました。 私は支配人のカスティリオーニでございます」 漆黒のタキシードを身に纏った老人は、見上を先頭にした全日本Jr.ユースメンバーを恭しく出迎えた。 見上はその老人の恭順さには目もくれず、要件だけを伝える。 見上「……イタリアJr.ユースメンバーはもう着いていますか? 玄関口に一人散歩しているのを見かけた。出来れば、挨拶をしておきたいのですが」 支配人「かしこまりました。今、会議室を借りてミーティングをしているとの事ですので、 只今私の方からお呼びつけいたします」 見上「分かりました。……お前達、少しの間自由行動だ。ただし、ここを離れるんじゃないぞ」 そう言うと、老練の支配人は音もたてずにロビーを離れ、薄暗がりの廊下へと消えていった。 来生「えー!? 俺達、こんな所に泊まるのかよ。シャワーってあるの? カラオケは? wi-fiは!?」 滝「おい、失礼だぞ来生! あとwi-fiってなんだよ。今は1980年代だぞ……」 支配人の姿が見えなくなると、空気の読めない来生は早速不平不満を言い始める。 癒し系常識人タイプな滝は慌ててそれを押し留めるが、皆も語らないだけで、概ね来生と同意見だった。
[480]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 13:37:25 ID:??? ……ホテル・プルガトリオは本当にダンテの時代からあったかと見紛う程に古い。 観光地などで良くある古民家や古寺を利用した民宿等は、その実現代的な電気設備等が整っている事が多いが、 少なくとも森崎達が視る限り、灯りは全て蝋燭だし、テレビも、ラジオも何も見当たらない。 三杉「僕達が考古学者だったら、今頃狂喜乱舞していただろうけどね。 ……サッカー選手の合宿先としては、およそ最悪の部類かもしれないな」 松山「もうちょっと言葉を選べよ! ……って言葉がすぐに出て来ない自分自身が情けないよ」 古城を改装して作られたらしいが、前の改装は果たしていつの事なのだろうか。 それこそ、古代ローマ帝国期の城をルネサンス期に改装されて以来、そのままなのかもしれない。 森崎「『城は現代的に改装されている。ただし、その現代とは14世紀時点の事を指す!』 ……って暴論がまかり通っちゃ、ゲームならともかく現実なら投石ものだぜ」 森崎もまた、どこかの悪趣味好きの魔女が好きそうな空間に放り込まれた事に辟易していた。 現実逃避紛いの屁理屈を一つ捏ね上げながら、しかし、と考えを巡らせる。 ……いくらハンブルグに勝ったとはいえ、俺達全日本Jr.ユースが国際社会から舐められ、 あるいは不自然に警戒されているのは事実だ。 だが、だからと言って、そんな俺達をこんな辺鄙な場所に閉じ込めたりするだろうか? いや、更に言うと、さっき挨拶だけしたストラットが居る通り、今回はあくまで、イタリアJr.ユースとの合同合宿という体なのだ。 即ち、こんな辺鄙な場所に閉じ込められたのは、俺達だけじゃない。 ……国内中から期待を背負った、イタリアJr.ユースのメンバーもまた、俺達と同じ憂き目に遭っているのだ。
[481]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 13:38:32 ID:??? 森崎「一体何故だ? そもそも、他の海外が断る中で俺達との合同合宿を呑んだイタリアJr.ユースにも、 何らかの事情があるのか? ……っと。これは何だ? 扉に……デカイ閂……?」 そんな中、森崎は自分達が入って来た入口とは真向かいに、大きな扉があるのを見つける。 城門のように大きな木製の扉には、来る者を必ず拒まんとする意思を表す、巨大な閂がかかっていた。 支配人「これは、中庭への通路口でございます。中庭には離れの祠がございまして、 そこに通じる唯一の道となっております。 ロビーと中庭を隔てるこの扉は、聞くところによると14世紀に造られたとか」 森崎「って、うわっ!?」 その疑問に答えたのは、先ほど闇に消えた筈の支配人だった。彼はいつの間にか仕事を済ませて戻り、 一人思念に入る森崎に声を掛けたのだった。 支配人「今からイタリアJr.ユースメンバーとの顔合わせ会を行うようです。他の皆さんはもう行かれましたよ?」 森崎「……げ。マジか」 森崎が少しロビーを見回り思案に暮れているうちに、一同は薄情にも森崎より先に居なくなっていた。 森崎は支配人の案内を受けて、慌ててホテルのうす暗い廊下を走りだす。 ……その刹那、少しだけ、見る。不気味なまでな堅牢さを演出する、あの巨大な閂を。 森崎「まるで、冥府の門みたいだぜ……」 あらゆる生者を寄せ付けぬ、その門が開かれる時。その時こそ、誰かが死ぬ。 森崎はそんな幻想的な錯覚を抱いていた。
[482]吹飛の魔女モロサキーチェ ◆85KeWZMVkQ :2017/08/26(土) 13:40:13 ID:??? 〜ホテル・プルガトリオ 会議室〜 森崎「キャプテンでゴールキーパーの森崎有三です。今回の合宿では、イタリアのカティナチオが本物なのか、 それとも守る事しか能の無い馬鹿の勘違いなのかを見極められればと思っています」 見上「(こいつは……! まあ、イタリアサッカーを凌辱するだの言い出すような、最悪の想定は免れたか)」 見上が胃を抑えるのを尻目に、無難から最もかけ離れた自己紹介をやってのけた森崎は、 不敵にイタリアJr.ユースの面々を一瞥した。 ランピオン「……なんだ、こいつ」 ジェンティーレ「…………チッ」 ヘルナンデス「……へぇ」 森崎「(デキそうな奴らは多分……今、明らかにイラっとした態度を見せたこの3人だな。 それにしても、さっきのストラットってのはいないのか。アイツも中々の腕前だと思ったんだが。 ……もしかして、手に余る問題児でチームから孤立しているのか? とりあえず、この辺りは後で中里の巻物で能力値を確認しておくか)」 挑発の合間にも、森崎は戦力分析を怠らない。 ……本気で、イタリアサッカーが攻撃の出来ない雑魚集団であると、森崎が思っている訳がなかった。 森崎は周囲には尊大な態度を見せつつも、内心では周囲の溢れる才能と実力に絶望し、 それでも諦めず努力を重ね、絶対の奇跡を手にし続けて来た、そんな人間なのだ。 故に彼はどこまでも傲慢で、どこまでも謙虚。 二つの矛盾する姿勢を両立こそが、森崎有三という人間の本質だった。
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0ch BBS 2007-01-24