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【追う蜃気楼は】鈴仙奮闘記39【誰が背か】
[340]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:41:10 ID:??? 年頃の少年らしい生意気な口調で、アルツールはアヤソフィアにブラジルサッカー界について 講釈を垂れようとしている。本当はアヤソフィアも事前知識として仕入れている情報が多かったのだが、 寡黙だった彼が、熱っぽく好きな事を話している横顔を見ていると、止める気がしなくなっていた。 アルツール「……って事だから、プロって言っても大多数は上手くいかないんだ。 勿論、俺はその中でスーパーストライカーになってみせるけどな」 アヤソフィア「ふふ。……そうですか。期待していますよ (流石にその頃には、私も任務完了で幻想郷に戻っていると思うけどね……)」 アルツール「お、おう……」 アヤソフィアは少しだけ寂しそうに微笑むが、アルツールは気にしていないようだった。 いや……正確に言えば、これまで色々と話しているのも、気にしている別の『何か』を、意識して隠しているようだった。 そして、これまでの短い姉弟関係からでも、アヤソフィアはそれが何であるかを理解していた。 アヤソフィア「……トモダチ、出来ると良いですね」 アルツール「……んなっ! そ、そんなの何も思ってねーし!!」 ――純粋な悪戯心から、その内容を呟いてみる。明らかに顔を真っ赤にした事から、図星のようだった。
[341]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:42:43 ID:??? アヤソフィア「あやや、そんなに恥ずかしがる事じゃあないですよ。トモダチってのは大事なモノですから。 共に同じ道を行き、途中で道を違えても互いを尊重し合い。例えぶつかり合う事があろうとも。 最後にはきっと、必ず同じ頂を仰ぎ見る事ができるような。 ……そんなトモダチが、弟くんにも出来ればいいなって、お姉ちゃん思いますよ?」 アルツール「できねーよ、そんなモン……」 アヤソフィア「あれあれ? 何を根拠にそう『できない』って決めつけてるんです? 『できない』って決めつけるのはザコの特徴って言ってたのは、どこのどなただったかしら? ねぇねぇ、未来のスーパーストライカー様はご存じですかー?」 アルツール「……う、うるさいうるさい! 当たり前だ! トモダチの一人や二人くらい、作ってやらぁ!」 大人ぶる事が多いアルツールだったが、やはりこの辺りは年相応の子どもだ。 アヤソフィアは噴き出すのを堪えながら、よしよしとアルツールの頭をくしゃりと撫でてあげて。 アヤソフィア「それなら安心ですな。明日は迎えに来ますから、是非とも紹介してくださいね? 弟くんの、はじめてのオトモダチ」 アルツール「お、おう! そんなの楽勝だっての、いちいち頭撫でんじゃねー!」 強がる弟の幸せを純粋に願いながら、明日の入団テストの会場へと向かうのだった。 新しいオトモダチと一緒に使える、新品のサッカーボールを鞄に詰め込んで。 この日からすぐに、アヤソフィアは知る事になる。彼に初めてのオトモダチが出来た事を。 彼が真に心からサッカーを愛する少年へと生まれ変わった事を。
[342]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:43:56 ID:??? そしてアヤソフィアは知らずして、勅命により幻想郷へと戻る事となり。 ――奇しくも再び訪れたブラジルの地にて遅れて知る事となった。 彼が、その愛するサッカーにより、奪われてしまったという残酷な事実を。 上司の勅命により、アヤソフィアがブラジルから幻想郷に戻ってから2年後。 政争鳴り止まぬ国内においては日常茶飯事であるため、小さくではあったが、 新聞各社はこのような見出しの記事を書いていた。 「フラメンゴの天才サッカー少年、暴徒に押され交通事故! 重体となり意識回復は絶望的」
[343]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:45:44 ID:??? 〜回想シーン終了〜 カルロス「……あまりに忌々しい記憶だったから、俺はずっと口に出さないようにしていた。 サンタマリアは勿論、ジェトーリオですらも、この事は話題に上げた事がない。 だが、俺は知っている。……アルツールは――俺の親友は、アーサーお姉ちゃんが言う、 『案外大したことなくね?』というフレーズと共に、奪われたと」 アヤソフィア「――私がそれを知ったのは、つい半年前。二度目の機会としてブラジルに訪れた時の事でした。 6年前、突然の勘当という体で飛び出した私の真意を、ジャイロさんと弟くんは 気付いていたのかもしれない。もしそうなら、もう一度会いに行きたい。 そう願って懐かしのスラム街を抜けた先にあったのは、既に売りに出された廃屋でした」 鈴仙「…………」 アヤソフィア「『あの天才のアルツール君の事だ、きっと既にトッププロ入りして、高級マンションにでも住んでいるに違いない』 『惜しくもサッカーを諦めて、その代わり安定した職を見つけて細々と働いているに違いない』 『もしや、ホームレス寸前の生活をしながら、賭けストリートサッカーと無銭飲食で食いつないでいるのかもしれない』 ――調べれば調べる程、私の都合のいい幻想は消え失せていきました。 まず、フラメンゴにもどこのチームにも、アルツール・アンチネス・コインブラという選手は所属していない。 サンパウロ市のどこの企業にも、同名の職員は勤務していない。 浮浪者や好ましくない連中にすら聞いてみましたが、彼という痕跡はどこにも見当たらなかった。 その中で見つけたのが、アルツール君が試合に負けて暴徒化したファンと揉み合いになり、 交通事故に遭ったというニュースでした。……今も、市内の病院で植物人間状態となっています」 カルロス「………………」 その事実を改めて確認し、表情を一層暗くしたのはカルロスだった。 彼は一歩前に躍り出て、半ば懇願するようにアヤソフィアににじり寄り、 カルロス「アーサーお姉ちゃん。もしあなたが弟を失った事への復讐を望んでいるとしたら。それは俺に対してやってくれ!」
[344]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:47:49 ID:??? 土下座に近いポーズすら取って這い蹲り、カルロスは涙でフィールドを濡らす。 サッカーサイボーグとすら呼ばれ、冷静で大人びた立ち振る舞いが特徴的なカルロス・サンターナらしからぬ、 気弱で、孤独で、自信の持てない平凡な少年のような仕草だった。 アヤソフィア「……記事には、『同年代での1位を決める重要な試合で、エースストライカーの選手がミスを連発。 それに対して『案外大したことない』と煽り立てる一部のファンに対し、アルツール君が『やめろォ』! と、噛みついた事により、事件が起きた』と書いてあります。――カルロス君。貴方の事だったんですね」 カルロス「そうです! だからアルツールも……アーサーお姉ちゃんも誰も悪くない! 無論、一番悪いのは暴徒と化したファンだったとしても、……失敗をしたのは俺なんです! だから、もうそんな冷たい瞳をするのは止めてほしい!!」 全てのプライドをかなぐり捨ててでも泣きはらすカルロスに対し、アヤソフィアは――。 アヤソフィア「大丈夫ですよ。カルロス君は何一つ悪くありません。全力を尽くしたって、失敗する時だってありますし。 それで私が、貴方がしくじったせいで弟くんが事故に巻き込まれた、だなんて言う訳がないでしょう? むしろ、感謝さえしています。 ……フラメンゴでずうっと、弟くんの――アルツール君の親友として居続けてくれたのですから」 ――と、恐らくは過去に良く見せていたのであろう、柔らかく穏やかな笑みを浮かべた。 想定していなかった反応に対し、カルロスは一旦冷静さを取り戻す。 カルロス「……では、当時のファンを憎んでいる、と? 確かにあの一件がショックとなり、 アルツールの養父も体調を大きく崩し、昨年には亡くなってしまったが……」 アヤソフィア「ファンの方も、仕方ありません。好きな物を全力で応援したい気持ちは分かりますし、 もう既に遺族への謝罪や賠償など、然るべき措置は取られたと記事にもありました。 それ以上、私刑を加える気もありませんよ」 カルロス「……分からない。では一体、アーサーお姉ちゃんは何を恨んでいるんだ? ずっとブラジルに居れない事情があったとはいえ、どうして今になってさえ、そんな暗い瞳をしているんだ!?」
[345]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:49:47 ID:??? 鈴仙「………あんた、まさか」 ――カルロスとアルツールを巡る過去については何も言えない鈴仙だったが、 会話が核心に近づくにつれ、自分の知る情報と、最近のアヤソフィアの影とが、 これまで提示された過去と組み合わさり、パズルのようにピタリと当てはまる感覚を覚える。 鈴仙「……あんたはこれまで、『案外大したことない』などと馬鹿にするファンの心無い感情を浴び続けて来た。 日本で。幻想郷で。ブラジルで。自分自身に対して。自分以外の人に対して。 マイナスの感情が理不尽に叩き付けられる光景を、何度も見続けて来た!」 アヤソフィア「………」 今度はアヤソフィアが黙る番だった。彼女は小さく頷き、鈴仙に続けるよう促した。 鈴仙「でも、あんた自身に掛けられる声については、あんたは仲間の手を借りながらも乗り越えて来た。 だけど、ブラジルの地で、あんたはこれまでを超える、どうしようも無い理不尽を知った。 辛い目に遭いながらもサッカーを愛し続けた少年が、サッカーが引き起こした感情に殺された事実を知り。 根は生真面目なあんたに、黒い決意を抱かさせるに至った。つまりそれは――」 ここで、アヤソフィアが手を翳して制する。 鈴仙が続けようとした目的の正体を、アヤソフィアは自らの口で語った。 アヤソフィア「……そう。全ての元凶は、『サッカー』というスポーツがあるからこそ起きた。 サッカーさえ無ければ、才能と愛を併せ持つ者が虐げられる事がなく。 そして、理不尽な罵声も、理不尽な暴力からも逃れられるのです。 私は、『サッカー』そのものを憎みます。愛を向ける者に対して唾を吐き、愛無き者への暴力を促すサッカーを。 私は、この手で葬り去ろうと考えているのですよ……!」
[346]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 01:54:19 ID:??? 射命丸が虚無系ラスボスに良くある「皆死ねば救われる」的な発言をしたところで、今日はここまでにします。 明日には練習の選択肢に入れると思います。文章が長くなってしまいすみませんが、読んで頂ければ幸いです。 (突っ込み所は多々あると思いますが、その辺りは優しく笑って下されば幸いです(汗)) 本日もお疲れ様でした。
[347]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 10:59:28 ID:??? カルロス「サッカーそのものを、この手で葬り去る……!?」 ――傷つきながらもサッカーを愛そうとした少年への仕打ちの原因を、 アヤソフィアは短絡的に特定個人によるものと考えていなかった。 彼女は、サッカーというスポーツ。22人の人間が球を蹴り合うという行為そのものが、 人を狂わせ傷つける全ての元凶であると信じきっていた。 鈴仙「そんなの……狂ってる!」 意味も解らず鈴仙が叫ぶ通り、彼女のそうした思考は狂人のそれであった。 アヤソフィアが、射命丸が体験した出来事については理解したし、そこで抱いたであろう感情も共感できた。 しかし、最後の結論だけが、どうしても理解できない。そんな鈴仙に、アヤソフィアはおどけた態度を取る。 アヤソフィア「あれ? 理解できませんかね? 鈴仙さんだったら、私が言ってることも、 感覚的に理解できると思ったのですが。だって……ホラ。感じませんでした? リオカップ開会式で、試合後で発生した膨大な数の観衆の狂気を。 単なるスポーツに熱狂し、人生を賭け、そこで散る事すら良しとする少年達の狂気を! 貴女の瞳が、それを『視て』来たのではないですか? 狂気、感じるんでしたよね?」 鈴仙「――そ、それは……!」 しかし、その中で彼女が語る内容は、鈴仙にも心当たりがあった。 リオカップだけではない。先の全幻想郷選抜大会でも、 サッカーによる同じような感情のうねりを――狂気の渦を目の当たりにした。 そしてそれは、鈴仙が捉えきれる範囲すら越え、月の狂気を呼び起こし、 最後には――幻想郷を隔てる結界すら破壊してみせた。
[348]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 11:00:37 ID:??? アヤソフィア「貴女が永琳さんからどのような説明を受けてるかは知りませんが。 経験則として、こと人間の狂気程危うく、制御できないものはありません。 そしてサッカーという場は、人間の狂気を殊更に増幅してしまう。 ――であれば、こうしたものを放置しておくのもおかしいでしょう?」 カルロス「だ、だが。サッカーを通して救われる人も大勢いる! 俺もそうだった! そして……あなたが誰よりも愛したアルツール自身がそうだったんじゃないのか! もしもこの世からサッカーが無くなれば、一番悲しむのはあなたの義弟だ!」 たじろぐ鈴仙に割り込んだのはカルロスだった。彼は狂気の概念は分からないにしても、 少なくとも今のアヤソフィアを見て、アルツールが喜ぶ訳がない事は理解していた。 しかし、そうした呼びかけは彼女としても想定内だったのだろう。 アヤソフィアは少しだけ表情を曇らせつつも、 アヤソフィア「……ええ、そうでしょうね。ですが――もう決めたのです。 彼が悲しもうが、私は、サッカーを滅ぼさなくてはならない、と。 そうでなければ、彼のような悲劇は永遠に繰り返されるでしょうから」 と、改めてその狂った計画に殉ずる事を決意した様子で頷く。 アヤソフィア「――さて。私のお話はこれでおしまいです」 スッ……。 カルロス「ま、待ってくれ! まだ疑問は沢山ある! どうしてそこまで頑なになる必要があるんだ! そもそもどうやって、サッカーという世界中で流行しているスポーツを滅ぼそうと思っているんだ! それに、それに……!!」 追いすがるカルロスの手を払いのけ、アヤソフィアは一点だけ答える。
[349]鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2017/07/02(日) 11:02:08 ID:??? アヤソフィア「前者についての回答はパスで。しかし、後者について。 ――私がどのように、サッカーを滅ぼそうとしているのかについては、お答えしましょうか。 ……私は次の幻想スーパーJr.ユース大会で、ブラジル代表として出場します。 そして、ブラジル代表を優勝へと導きたいと思っています。 これにより、私はサッカーが滅んでいくものと確信しています」 鈴仙「?? ブラジル代表が優勝すれば……」 カルロス「サッカーが、滅ぶ……? 一体どういう事だ! 俺達をからかっているのですか!?」 アヤソフィア「今お答えできるのはこの程度。 鈴仙さん。今日を機に私はチームを去ります。楽しかったですよ、貴女がたとの友情ごっこ。 カルロス君。同じブラジル代表として、また貴方とサッカーができる日を楽しみにしてますよ。 ……あはははっ。あははははははははっ!」 スッ……。 そうして、アヤソフィアは消えた。まるで蜃気楼のように、始めからここに居なかったようにすら思える。 カルロスは彼女のその見えない背中を追うように走り続けて……。 カルロス「どうして……どうして、こうなってしまったんだ……!」 ――と、悲しく項垂れる事しかできないでいた。
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0ch BBS 2007-01-24