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【サッカーも】キャプテン岬3【ゲームも好き】
[301]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:03:37 ID:2vLj8NCA そこまで読んでため息をつき、再びそのキズ1つないきれいな腕に口づけした後、 折り畳むようにゆっくりと本を閉じ、ベンチの隅に置いた後に顔を上げ、 葉が散って隙間が大きくなったマロニエの枝の間越しに空を見上げ、つぶやきだした。 聖薇「わが悲しみは、ただひとり君の姿にみたされて……このわびごころ、何ものの乱し騒がすものもなし。 かくて胸は、またも燃え、恋いわたる……愛さでやまぬ胸なれば」(※) 今だ。 岬「お嬢さん、空を見つめてごらんなさい」 ここが機だ。僕が彼女の物語に入り込み、彼女の心へ働きかける絶好のチャンスだ。 岬「日の光と風を感じなさい。鞭の痛みが生きる希望になるものでしょうか」 聖薇「光も、風も、私には届きません。見上げたところで、あの人は……」 悲嘆にくれた表情で返事をしたところで、ハタと口が止まる。悲しみにひたっていた表情が元に戻り、 そしてすぐに、みるみるうちに顔を赤く染めあげながら、サビついたブリキ人形のようにぎこちなく振り向いて、口を開いた。 聖薇「み、み……みみみ、みさ、き、くん……?」 ※:アレクサンドル・プーシキンの抒情詩『グルジヤの丘の上』より。 『初恋』でもジナイーダが主人公にその個所を読ませるシーンがある。
[302]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:13:53 ID:2vLj8NCA 返事の代わりに、僕は体をさらに聖薇へ近づけ、互いの腕が接する程近くに接近した。 聖薇「ひゃっ」 この反応、この表情、何よりこの間の勉強会の時とは別人としか思われない、甘い悲鳴。 ここまで見て僕に対し、少なくとも好意的にとらえていると考えても決して自惚れとは言われないだろう。 そうであるなら、相手が戸惑い混乱しているこの時に、衝撃を与えなくては。 岬「ゴメン、もっと早く声をかければよかった。夢中になって本を読んでる早乙女さんが可愛くて、つい」 聖薇「えっ……か、かわいい?みさきくんが、わたしを?」 とろけたため息のような返事を聞きながら、先の希望的推察を事実として受け止めた。 そして優しい笑顔を浮かべながら、次の行動について頭を働かせる。 岬「(ここまで好意的だったとはね、うれしい誤算だ。ただ、ここはまだ、しばらく辛抱しないといけないだろう。 ここで彼女との仲を決定的にする事は簡単だ。 『聖薇、愛しているよ、いつまでも一緒にいよう』 そう言えば彼女は大喜びで僕に飛び込み、遠からぬうちに全てを僕に捧げるようになるだろう)」 以前父さんが語った早乙女財閥の話が胸に飛来する。だが今は、これを奥深く押し籠めなくてはいけない。
[303]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:15:10 ID:2vLj8NCA 少々、私用につき中断いたします。続きは午後8時までに投稿いたします。
[304]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:46:48 ID:2vLj8NCA 視線を彼女の頭上へと飛ばす。その先には僕と早乙女母娘、そして千早とあずみとで食事をとった、あのテーブルが見える。 岬「(まずは生き残らないと。沙織さんの預言と勾玉の発光から見て 千早・あずみ・聖薇の3人の協力が無いと優君は殺される)」 祖霊『心してかからねば命は落ち、落命せずとも命運は尽きる』 少し前に叔母の沙織さんによる神おろしで語った先祖の言葉が、頭の中に蘇ってきた。 理不尽ではあるが3人力を合わせて戦わねばならない以上、彼女に深入りしすぎるとあずみと千早との仲に不和が生じ、 それによって不測の事態が起こるかもしれない。 岬「(あずみちゃんは特に気を付けないと、聖薇を敵視していたしなあ。それに)」 素直で淳良、そして人のために自分の命も惜しまなかった、幼子の顔が脳裏に映る。 岬「(1度自分が助けた子供を、見ないふりして殺されるのを見たくはないしね。さらに)」 思考を切り替え、今度は別の仲間について思案をめぐらす。 岬「(あずみちゃんと千早さん、今まで僕は多くの人に出会ってきた。女の子だって数え切れないほどに。 でもあの2人は、上手くは言えないけれど……他とは違う気がする)」
[305]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:48:17 ID:2vLj8NCA 岬「(これからもっと大きくなるというか、光るものを持っているというか。 勾玉の件が印象に残り過ぎたのかな?いや、それ以前からだ。 少なくともあずみちゃんは、サッカーで人並外れた才能を見せたじゃないか。まあ活躍はアレだったけど、ともかく)」 視線を聖薇へと戻す。そろそろ話をつなげて、不安がらせたり勘づかれたりされないようにしなくてはいけない。 岬「うん。その顔を見ると僕も、ホッとした気持ちになれるよ……ただ」 聖薇「ただ、どうしたの?」 岬「あ、いや、大した事じゃないんだ。ただ、読書するところを見てて気になる事があったから……」 わざと受け答えに間を開けて相手に尋ねさせ、やむを得ずという風にして語りだす。 岬「さっきの朗読を聴いていて、物語の少女が恋に苦しんだり、鞭打たれたりした時の語りが、 他のところと比べて妙に熱がこもっているというか、真に迫っているというか。 ひょっとしたら、何か悩んでいる事があるんじゃないかって」 勘違いだったらゴメンと言い添えた後、反応を見るべく彼女をジッと見つめてみる。 僕との視線が合った瞬間、彼女はハッとした顔つきになり、そして次第に苦しげな、 申し訳ありませんでしたと言いたげな顔色となっていく。 しばらく見つめあっているうちに耐えきれなくなり、顔をそらしてしまった。
[306]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:49:18 ID:2vLj8NCA 岬「大丈夫、つらいなら話さなくていいし、僕も見なかった事にするから」 聖薇「いえ、待って」 聖薇は今だこちらに振り向かずに話す。話すというより腹の底から無理無理しぼり出したような語気だ。 聖薇「わたし、は」 何とか語りかけようとしてきたが、途中で息がつまったようだ。 荒い吐息を叩きつけるように何度もついてから、僕に振り向き、告げた。 聖薇「私は、岬君が、大好きです」 途切れながらも一気に告白してから、ギュッと堅く口と瞼を締めてしまった。 勇気を振りしぼった反動が押しよせているのだろう。 こめかみの震えが治まり、目が再び開きだしてから、告白を続けた。
[307]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:50:51 ID:2vLj8NCA 聖薇「今から思えば、初めてここで会った時から、岬君に心を寄せていたような気がします。 包み込むような温かさ、ずっと安心していられる誠実さ……初めて家に上げた人が、岬君で良かった」 岬「(初対面で、そこまで喜んでいたかなあ)」 記憶を自己修正させているんじゃないかと当て推量を働かせているうちに、それを裏付ける言葉が僕へ送られてきた。 聖薇「ですが私は馬鹿ですから、自分の感情が何であるかさえも分かっていませんでした。それが分かったのは、あの日の、 ブローニュの森でサッカーをする岬君を見かけた時です。 自分より大きくて荒々しい、しかも大勢に囲まれていても、立て板に水が流れていくように自然に、 華麗に抜き去っていく姿を見て、この人は優しいだけじゃない、 危地に陥っても余裕さえ感じていられる強い人なんだと、思わずにはいられませんでした。 そして何度活躍して勝利しても、少しも驕らない大きな心の人。そこまで思いが至ってようやく、 私は岬君に恋している、いつまでも一緒にいたいんだって、気付いたのです」 岬「(……おや、愛の告白の割には)」 表情に深い憂いが漂っている。僕の返事はどうなるかとか、そういうものではない。もっと根の深いものだ。 気にしすぎであればいいがと思っている時、当の本人がその憂いの正体も、明かしてくれた。
[308]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:52:56 ID:2vLj8NCA 聖薇「ですが、やはり私は浅はかでした。そんな素敵な人ならば、 もっと多くの、そして私よりも魅力的な人も、岬君を好きになるでしょう。 そしていつかその人の手を取って、私の手の届かない所へと去ってしまう」 ああ! そこまで語った途端、聖薇が感極まった叫び声を上げた。 とんでもない過ちをしでかした事に気付いた時のような、自責感と絶望感が顔に刻み込まれている。 そして脇に置いてあった『初恋』を手に取って顔を隠し、懇願した。 聖薇「見ないで、お願い岬君、私を見ないで!今の私、きっとみにくい顔になっている…… クラスメイトに嫉妬して、どうしたら盗まれないかと思った人の顔なんて! だから見ないで!そしてこのまま帰って、今日の事はすっかり忘れて、 それから別のもっと素敵な人と付き合って、楽しい学校生活を送ってください、ね、私はおふたりのために……」 岬「ヴ・ドヴェ・ヴ・セパレ!」 えっ?突然のフランス語に、先程まで悲愴な心境を語っていた口から、 間抜けた声が聞こえてきた。間を置かせずに話を続ける。
[309]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:54:03 ID:2vLj8NCA 岬「早乙女さんにつきっきりで教えてもらえたから、少しは話せるようになったけど、 発音はダメだ、もっと勉強しないと」 聖薇「岬君、今のは」 岬「ああ、『ヴ・ドヴェ・ヴ・セパレ』ね。その『初恋』で主人公の父さんがそう語っていたはず」 そう言いながら詳しい説明はせず、本をつまみ上げる。思った通り、両目も両頬も濡れて光っていた。 聖薇「あっ、だめっ」 岬「そうだね、こんな事で泣いてちゃダメだよ。早乙女さんが泣いたら僕も悲しくなるんだから」 ポケットからハンカチを取り出して、聖薇の涙をぬぐってやる。 聖薇「あ、あう、みさき、くん」 戸惑ってはいるが嫌がりも身じろぎもせず、少しずつ落ち着きながら顔ふきを大人しく受け入れてくれた。 そうしてすっかり感情が静まったところで、本題に入る。 岬「『あなたは思い切らないといけない』そう言う意味だったと思う。 ただ、あの話もそうだけどこれだと意志が伝わらない。 今の漫画風に言うと、こんな感じかな。『猶予は終わりだ、覚悟を決めろ』」
[310]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:56:09 ID:2vLj8NCA 岬「実際ジナイーダさんも恋を諦めるなり 戦略を立てて相手の心をつかむ手管をとるなりどちらかに覚悟を決めていれば、 あんな結末にならなかったかもしれない。鞭打たれるだけで終わりになるより ここで思い切って悩んでいるところを話してみて。話せば案外活路が見えて、どうにかなるかもしれない。 相手役になるかもしれない、クラスメイトの子、教えてほしいんだ」 「え、で、でも」聖薇はためらう。「2人は、岬君のよく知る人ですから」 岬「(2人?イヤな予感がする)大丈夫、誰であっても、早乙女さんを嫌いになったりしない。約束するよ」 力強く念押しをする。彼女はしばらく黙った後、ぽそりと口を開きだした。 聖薇「私が、岬君を盗られてしまうんじゃないかと思ってしまった人は…… 早川さんと、如月さん」
[311]キャプテン岬の人 ◆ma4dP58NuI :2020/05/05(火) 19:57:10 ID:2vLj8NCA 第5.2話『パリの恋路は四差路?』 岬「(やっぱりか、よりにもよってなあ)」 悪い予感は的中した。あずみと千早に、男がらみで対抗心、いや劣等感を抱いているとは。 岬「(これからの神社での特訓や戦闘に備えて、仲良くなってほしいんだけどねえ)」 僕の悩みに気付く訳もなく、聖薇は語り続ける。 聖薇「早川さんはあの通り礼儀知らずで、素直に人の話を聞かないところはありますけど、 いつでも元気で、快活で、どんな相手にも物怖じしない勇気があって、年下の子にも好かれる表裏の無い人。 そして何より、岬君と部活動を共にして、心を通わせる機会が一番多い人です」 岬「(2人きりのサッカー特訓の事は、バレてないみたいだ、よかった)」 あずみとの(サッカーの)逢瀬が知られていない事に密かに安心しているうちに、話はもう1人の方に移る。
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0ch BBS 2007-01-24