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1- レス

異邦人モリサキ


[296]異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/06/12(火) 03:44:19 ID:???
「やっぱり、俺にはまだ早いんだよ……」
『帰るなら止めないけどね……まあ、よく頑張った方じゃない』

四軒目の、流麗な筆記体で新トルキア語ではない文字が躍る看板を三十秒ほど眺めた森崎が
そう漏らすと、ピコがそよ風を微塵に刻んだような小さな小さなため息をついて、
森崎の背をぽんぽんと叩いた。
その小さな手の感触に押されるように踵を返した森崎が、とぼとぼと坂を下り出した、そのときである。

「あらン? ……ちょっと、そこのお兄さン」

蕩けるような声とともに森崎を包んだのは、くらくらするような甘い香りだった。
鼻腔の奥にまとわりつくように濃密なそれを麝香だと森崎が看破したのは、
かつて幾度か招かれた高級娼館に漂っていた匂いに酷似していたからである。
振り返ると、そこに女がいた。

「―――」

森崎が、息を呑む。
女性の、女性たる所以をその体一つで表現するような、それは女であった。


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