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異邦人モリサキ
[324]異邦人 ◆ALIENo70zA
:2012/06/13(水) 03:20:24 ID:???
ガヤガヤと喧しく声の響く、天井の低い飯場を見回してピコが言うのへ、森崎が答える。
軽く一歩を退いたその脇を、どけどけ、と怒鳴りながら胸板の分厚い禿頭の男が通り過ぎていく。
「ま、傭兵稼業つっても、適当ないくさ場の見つからないときはこの手の仕事で
糊口をしのぐことも多いしな。かく言う俺もその一人だが」
『う〜ん、でもやっぱりこのニオイは慣れないよ……』
くい、とその針の穴のような鼻をひくつかせたピコが不快げに呟く。
居並ぶ男たちが抱える皿から湯気を上げる、油ぎった揚げ物の匂いの他に飯場に満ちるのは、
他ならぬその男たちの放つ臭気。
即ち、汗と垢と土埃の入り混じった臭いである。
「そうか? 鉄と火薬と、それから臓物、血反吐の臭いが加わればいくさ場と同じだろ」
『言っとくけど、そっちにはもっと慣れないよ!』
言い放ったピコが、跳ねるように低い天井ギリギリまで舞い上がる。
そのすぐ下を潜るように飯場へと入ってきたのは、鉄板入りの靴音も激しい男たちの一群であった。
めくり上げた袖から覗く二の腕や胸板は例外なく逞しいが、陽光射さぬ鉱山労働のこと、
どの顔も不気味なほど日焼けをしていない。
『すっごい不健康そうだよね……』
「長けりゃ長いほど生ッ白くなってく仕事だ、日に焼けてんのは新米の証拠みたいなもんだぜ」
『で、キミはその新米に紛れてるってわけ?』
「慣れたもんだろ」
野太い笑い声が間近で弾ける中、森崎が食事の列に並んでいく。
笑い声が野戦砲の爆風なら、矢や小銃弾の替わりに飛び交うのは猥談である。
飯場に併設された娼館の女たちの具合の良し悪しから、寝物語に聞いた互いの寝技のキレについて、
或いは男としての前後優劣など、良家の子女が聞けば卒倒する以前に意味を理解できないような
おそろしく程度の低い、しかし当事者たちにとっては愉快極まりないのであろう文言が
音の波となって飯場全体を覆い尽くしている。
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0ch BBS 2007-01-24