キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【貴族の傲慢】異邦人モリサキ2【傭兵の意地】

1 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/07/25(水) 23:41:56 ID:bpgysf+M

本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。

騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。



779 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/01(月) 19:32:54 ID:???
「ううん、違うよ」

何気ない問いに、何気なく首を振る。

「僕たちが生まれた場所は……そうだな、このドルファンとスィーズランドくらいには離れてる」
「そりゃまた……ほとんど違う国だな」
「まあ、そうだね。こっちの人に言わせれば、国っていうほどのものじゃないらしいけど」

軽く笑うジェトーリオ。
色のない笑みだった。

「僕たちはね、モリサキ」

そういう笑みを浮かべる人間を、森崎はよく知っている。

「僕とネイくんは、違う国に生まれて、違う国で育って、そうして―――」

それは癒えぬ傷の、

「同じ人間にね、売られたんだ」

目に見えぬ血を拭う者たちの、笑みだ。


780 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/01(月) 19:38:23 ID:9fpfJ3lc

*選択

A 同情する。

B 無言を貫く。

C 憐れむ。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『10/2 18:00』です。


******


ここ、人物称号とネイとの関係、これまでの選択(つまり森崎の人格)次第では
A〜Dくらいまでの手段選択肢という極悪難易度になっていた可能性もありましたw
といったところで本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

781 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/01(月) 19:57:44 ID:???
【ピココール】
この質問自体がジェトーリオを傷つけてる可能性があるけども、どういう反応が隊長として相応しいと思う?

782 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/01(月) 20:13:01 ID:???
うーん、多分Bだと思うんだけど(同情すると憐れむは【上から見てる】意味で同じ事)、自信がないなあ。
ピココールに対する回答次第では、ヒントコールも辞さない所存。これは重要と見た。

783 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/01(月) 20:17:46 ID:???
Cだけは間違ってる様な気がしますね。

784 :ピコ ◆ALIENo70zA :2012/10/01(月) 20:57:22 ID:9fpfJ3lc
>>781
不幸は、どこにでもあるよ。このご時世だもの。
ジェトーリオが言うようなことだって、珍しくないよね。
キミの周りにだって、生まれた頃からいっくらでもあった話じゃない。

だけど、じゃあ彼はどうしてこんな話をしたんだろう。
キミが何を聞いたら、こんな答えが返ってきたんだっけ?
…たとえば今、キミが今の話でジェトーリオを可哀想だと思ったりするのなら、
それは『もう一人』も同じように扱う、っていう風にとられる…のかもしれないね。
だとしたら多分、それは…彼自身に何を言うよりも、敏感に反応されちゃうんじゃないかな。

785 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/01(月) 21:04:14 ID:???
…念のため、【ヒントコール】。
私は「同情と憐れむのはこの場合同じ事(上から目線で見ている=侮辱している)なので、
ジェトが悪感情を抱かない選択肢は「無言を貫く」しかない」
と考えていますが、この予想は正しいですか?
正解を聞くような使い方はマズイかと思いましたので、こういうやり方に。

786 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/01(月) 22:44:49 ID:9fpfJ3lc
>>785
極めて的確な状況の捉え方であると回答いたします。
一点、「侮辱」というよりは「違う位相から物を見ている≒観念の共有が
困難であることを改めて確定させる」というようなニュアンスでしょうか。
ですので、悪感情といっても憤りよりは決定的な失望に近いものとなりますね。

787 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/01(月) 23:34:14 ID:???
なるほど、思ってたよりもうちょっとジェトは大人でしたか。
ではまあ、Bに投票いたします。理由は>>785の通り。

788 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/02(火) 14:22:07 ID:???

【ピココール】に【ヒントコール】を聞き、B以外の選択肢は選ぶのが難しい様に思いました。

789 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 19:25:56 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>780の選択については……

>>787 傍観者  ◆YtAW.M29KM様の案を採用させていただきます!
ほとんどヒントコールを使うまでもなく答えを出していただいていたようで、お見事です。
ちなみにズバリ正解だけを聞いていただくのも(あまりエレガントではありませんが)、
システム的には有りといえば有りですw
CP3を進呈いたします。


>>788
はい、ここまでくるとそうなってしまいますよねw
勿論ヒント他を吟味した上で、あえて同情するのだ! 理由は〜〜だから!
というのも、充分な説得力があれば押し通すことはできます。

790 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 19:26:57 ID:???
***


B 無言を貫く。


ジェトーリオの語ったそれは、ありふれた不幸だ。
ありふれて、だが無感情にやり過ごすことのできぬ、不幸だった。
森崎の中にも、ぐるぐると渦を巻く様々な感情は沸き起こっている。
しかしそのすべてを飲み込んで、森崎は沈黙を守った。

「……」
「お、さすがだね。そういうとこ、嫌いじゃないよ」

同情を寄せることもできただろう。
不幸を憐れみ、共に悲しむこともできただろう。
たとえばそうやって感情を切り分けて、誰とでも共有しやすい形に加工して贈り合うのが
真っ当な世の中というものであるのかもしれない。
しかしそうしてしまったとき、その世の中に、彼らはいなくなる。
黒壇のような肌の男や、褐色の肌の優男は、真っ当なものたちの中から、いなくなるのだ。
それは、線を引くということだ。
不幸という泥のついた者と、そうでない自分たちとの間に線を引いて、その線を挟んで
話をするということに他ならなかった。
故に、森崎は無言を貫いた。
そういう扱われ方を許容する寛容、あるいは愚鈍をジェトーリオという男に求めることは、できなかった。

「……ま、そんな感じで、ね」

森崎の沈黙に何を悟ったか、肩をすくめてジェトーリオが続けた。

「色々あったけど、それからはずっと一緒にいる」

791 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 19:27:58 ID:???
『えらく邪険にされてるけどね』

間髪入れずに混ぜ返したのは、いつの間にか舞い戻ってきていたピコである。
思わず眉根を寄せて中空に目をやった森崎に、黒壇の青年は相好を崩す。

「あっはは、その割にネイくんのあの態度は何だ、って顔だね。
 ま、不思議に思うのも無理ないけどさ」
「……」
『ありゃ』

勘違い、とも言い切れぬ勘違いではあったが、ともあれ森崎はピコをひと睨みするだけで
ジェトーリオが言葉を紡ぐに任せる。

「ネイくんはね、僕が嫌いなんじゃない。おっと、これは負け惜しみでも、悪あがきでもないよ。
 純然たる事実さ。彼は僕を嫌ってなんかいない。そうじゃないんだ」

黒い肌の中、そこだけは薄桃色をした唇の間から、黄ばんだ乱杭歯が覗く。
薄く笑っているようだった。

「彼はね―――怯えてるんだ。怖いんだよ。僕が」

弓型に細められた黒曜石の瞳が、結晶から削りだされた刃のように煌めいた。
皮を裂き肉を抉る、刃。

「僕といると、古い傷が開くんだ。だからあんな風につれなくして、目を逸らしたがる。可愛いね」

傷、と。
ジェトーリオは言った。
その意味を語るつもりはないと、表情が告げていた。

「だけど、それでも構わない」

792 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 19:28:59 ID:???
悪鬼と聖母の間に生まれた子のように微笑んで、黒壇の青年が天井を見上げる。

「僕はネイくんに好かれたいわけでも、彼と触れ合いたいわけでもない。
 受け入れてほしいとも思わない」

そこには一筋の光が射している。
採光窓から漏れる、白く清らかな陽光だ。

「僕はね。ただ、誰よりも近くで見ていたいんだ。誰よりも」

誰よりも。
生きたまま異教徒を焼く兵がその胸に免罪符を抱えるように、ジェトーリオはその言葉を口にする。

「だって、彼はあんなにも―――綺麗なんだから」


***

793 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 19:30:00 ID:+DoZ10Oo

*スキルアップチェック

ジェトーリオとの関係が一定値に達したため、スキルが強化される可能性があります。
目標値は対象キャラクターとの関係によって増減します。

目標値【95】 → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
目標値以上の値が出れば成功しスキルが強化されます。
00が出た場合はスキルが変化します。

成功→ 撹乱Lv2
(ランダムで敵二部隊の行動をキャンセルする。確率はそれぞれ30%。
 陣形崩壊中の敵部隊は効果対象から除外される)

00→ 恐慌Lv1
(このターンの間、戦場全体の士気増減処理を通常の200%にする。
 この効果はスキルによる増減にも適用される)


***

794 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/03(水) 19:58:47 ID:???
目標値【95】 →  04

795 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 20:15:04 ID:???
***


※スキルは変化しませんでした。


***

※ガッツが20減少。
剣術が32上がりました。


現在のガッツ:115
剣術:100 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:69
ATK:166 DEF:172 SPD:128 ini:25

******


※称号が『気のいい剣士』になりました。

スキル『シールドワーク』を獲得しました。
種別:アクティブ
消費ガッツ:0
効果:このターンの攻撃ダメージを必中で5、防御ダメージを50%にする。


******

796 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 20:16:05 ID:???

//剣術 カルツ


「よう、隊長さん」

新規に配属された傭兵たちを並べ、それぞれの得物を振らせていたときのことである。
ナイフや鉈や、果ては丸太を適当に削ったような棍棒を得意げに振り回す荒くれどもに
内心で頭を抱えていた森崎に声をかけてくる男がいた。
金髪を短く刈り込んだ、背丈は低いががっしりとした体躯を持つ男。

「ん? お前は……」
「こうして話すのは初めてじゃの。ワシゃ、ヘルマン・カルツいうモンじゃ」
『イモみたいな顔した人だね』

相手から見えないのをいいことにくるりと顔の周りを巡ってみせたピコの言葉は、的を射ている。
食習慣のない欧州では見かけないが、東洋圏では馴染みの深い芋特有の土臭さとごつごつとした造形、
そして同時に素朴さと温かみを感じさせる顔立ちをしているのが、カルツという男だった。
要はお世辞にも美男とはいえないが、愛嬌のある男である。

「得物は……戦斧か。随分と使い込んでるな」
「おう、分かるかい」

カルツが立つその脇で地に突き立てられているのは、およそ胸丈ほどまでもある両手斧である。
当世風の長柄は持たず木製の太い握りと巨大な斧頭だけで構成された、質実剛健を
絵に描いたような得物であった。
鎧の上から敵を斬り潰すその重量たるや、刀剣の比ではない。
それを得意とするカルツという男、小柄でありながらおそるべき腕力と体幹を秘めていることは
疑いようがなかった。

797 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/03(水) 20:17:05 ID:+DoZ10Oo
「よろしく頼むぜよ、隊長さん」

奇妙な訛りは男の故郷に由来するものだろうか。
言いながら手を差し伸べてきたカルツに、森崎がその巌のような手を握り返した瞬間である。

「ぐっ……!?」

その手に、凄まじい重圧がかかっていた。



*握手比べ

体術判定

目標値【48】 → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
難易度【ターン係数50+やや難60】−(体術62)を目標値とし、目標値以上の値が出れば成功。
00が出た場合は難易度にかかわらず成功となります。
結果によって展開が分岐します。

成功→ ナメられてたまるか! カルツに負けない力で握り返す!
失敗→ 力負け! 思わず悲鳴が漏れる!

798 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/03(水) 20:27:15 ID:???
目標値【48】 →  48

他のスレで色々認識違いに苦しんだもんで、安全策をとりたかったんですよw

799 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/03(水) 20:33:43 ID:???
危ない…。D100でピッタリは心臓に悪いのう。

800 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/04(木) 00:32:34 ID:???
>>798
迷ったときや困ったときの命綱、それがEP/CPです!
どんどん活用して下さいませ。

***

成功→ ナメられてたまるか! カルツに負けない力で握り返す!


試されている、と直感した。
隊長を名乗るのが、己が命を預けるに足る男か。
カルツはそれを試しているのだ。

「ぐぬ……ぐうぬぬ……っ!」
「お? ほう……」

他愛もない勝負だ。
負けたからといって隊長の座を追われるわけではない。
それでも、森崎は渾身の力をその手に込める。

「ふぬ……ぐぅ、おおぉ……!」
「く……ぬ、むぅん……」

傍目には異様な光景に映ったことであろう。
男二人、手を握り合ったまま顔を真っ赤に染め、脂汗を浮かべながら唸り声を漏らしている。
意地の張り合いを終わらせたのは、目に見えぬ小さな手である。

801 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/04(木) 00:33:36 ID:???
『はい、そこまで!』
「うおっ!? っと、とと……」

ぺちん、と。
ピコの小さな手で不意に頬を叩かれ、思わず脱力する森崎。
同時に、握られていたカルツの手からも力が抜けるのが分かった。
息をつくと、急に視界が広くなっていくような感覚。
充血していた目から血が引いていくのだった。

「ふう……」
「ハハハ、なかなかやりよるのう、隊長さん」

小さな虫が目の前を無数に飛び回っているようなノイズ混じりの視界の中で、
芋のような男が涼しい顔で笑っている。
先ほどまでの形相が嘘のようだった。

「……お前、まだ本気出してなかっただろ」
「まあ、ちょっとしたお遊びやき。許しとおせ」

言って快活に笑うと、ばしんと森崎の肩を叩くカルツ。

「痛ぇよ! こんの馬鹿力!」
「ガッハハ、そんくらいの方が頼れるろうが」
『豪快なおっちゃんだねえ……』

ピコの呆れたような呟きは無論、カルツには届かない。
上機嫌のまま傍らに突き立てていた戦斧を片手であっさりと持ち上げると、
そのまま肩に担いでみせるカルツ。
ぶうん、と巨大な質量が大気を押しのける音が後からついてくるようだった。

802 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/04(木) 00:34:37 ID:???
「……まあ、そうだな」
「ところで隊長さんよ」

板金鎧でも両断しそうな大斧の迫力に頷いてみせた森崎に、カルツが唐突に話題を変える。

「おんし、こん国の軍がまた徴募かけよるゆう話、聞いちょるかい」
「……? そりゃ、お前らだってそれでここにいるんじゃねえか」

先のイリハ会戦でも多くの将兵を失ったドルファン軍である。
傭兵の徴募は定期的に行なっているという話だった。

「いやの。ワシら、確かにスィーズランドで徴募に応じてこん国に来たんじゃが」
「だろ」

スィーズランドは永世中立を標榜する国家である。
文化的・軍事的にも世界の最先端を担っている大国であり、欧州の熟練した傭兵や
大手の傭兵団はその殆どが同国のギルドに登録することで各地の戦場へと斡旋されている。
中立国ゆえに地域紛争の当事国同士が互いにスィーズランド経由で傭兵を雇用することも
日常茶飯事であり、他ならぬ森崎自身も、そしてイリハで対峙した欧州最強といわれる傭兵団、
ヴァルファバラハリアンもまたスィーズランドの傭兵ギルドに登録されている。

「それがどうも、ドルファンゆう国はワシらの他にも、西洋圏で大規模な徴募を
 かけちゅうゆう噂があってのう」
「西洋圏で? ……まあ、ない話じゃねえだろ。現に俺らの仲間にも何人かいるぜ」

トニーニョやネイ、ジェトーリオの顔を思い浮かべながら言う森崎に、
しかしカルツは尚も胡乱げな顔で続ける。

「それが何でも、百や二百じゃきかんゆう話でな」
「なにィ……?」

803 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/04(木) 00:35:49 ID:???
カルツの告げた数に耳を疑う森崎。
今回の徴募で新規に配属されたのが五十人。
それを含めても、現在の傭兵大隊の規模が三百弱である。

「ってそりゃ、俺らの他にもう一大隊作れそうな規模じゃねえか」
「そうやき、隊長なら何ぞ知っちゅうかと」
「……聞いてねえな、少なくとも俺は」

偽りない、本音である。

「ほうか。ま、噂は噂やき。何にせよ、これから宜しくの、隊長さん」

あっさりと頷くと、カルツは斧を肩に担いだまま有象無象の群れに戻っていく。
その背を見送る森崎の手はいまだ腫れの引かぬまま、じんじんと疼いていた。

「……頼りにしてえよ、実際」


***

※ガッツが20減少。
剣術が26上がりました。

※※カルツのスキルLvの上昇確率は現在-40%のため判定は行われません。


現在のガッツ:95
剣術:126 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:69
ATK:192 DEF:198 SPD:128 ini:25

******

804 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/04(木) 00:38:35 ID:???
******

ジャガイモがこの近辺の食卓に上るまではもう少し時間が必要です、
といったところで本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。

次回は9月のメインイベントから再開となります。
収穫祭がありますので、イベント自体は短めになる予定です。
それではまた、次回更新にて。

805 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 20:19:10 ID:???
******


*D26.9月 「気のいい剣士」森崎有三
メインイベント

『元気!』



「う〜ん……」
『どうしたの? 馬車に轢かれた蛙みたいな声出して』

初秋の陽射しはまだまだ肌を刺激する。
日陰に入れば実感できる涼しさが夏の終わりを告げていたが、森崎有三には
それを堪能する余裕はないようだった。
ピコが訊くのへ、森崎が渋面を作りながら言う。

「いや、なんつーか。俺、この道に呪われてる気がしてよ……」
『あー、まあ……ね』

森崎が歩いているのは、学園通りの並木道である。
傍らには学園の高い塀が決して不審者の侵入を許さぬとばかりに聳え立つ、
朝夕には登下校の学生たちで溢れかえるであろうその道をしみじみと眺めて
森崎が深いため息をつく。
ソフィアの婚約者を名乗る男、ジョアンと初めて遭遇したのもこの道すがらであれば、
犬に吠えられていたロリィを助けて騒動に巻き込まれたのもこの近辺である。

『ていうか、大抵は女のコ絡みだね。しかも若くて可愛い』
「……」

事実を否定もできずにごほんと咳払いをした森崎が、何事もなかったように辺りを見回す。

806 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 20:20:11 ID:???
「……ま、しかし今日は大丈夫だろ。誰もいねえし」

森崎の言葉通り、時間帯によっては混雑する道も今は閑散としている。
時折通りすがる乗合馬車の、蹄と車輪が石畳を噛む音が森崎の耳に響いてくるだけだった。

『登校時間はもう終わってるからね。重役出勤なんてキミも偉くなったもんだよ』
「嫌味な言い方すんな! 軍令部に呼び出されてただけだろうが! ほら、あれ! あの書類!」
『はいはい、お疲れ様〜』
「くっそう……人の苦労も知らないで」
『知ってるけどね』

地団駄を踏む森崎にちろりと小さな舌を出すと、白い雲も長閑な空に舞い上がったピコが
くるりと輪を描いてみせる。

『ていうか、前見て歩きなよ。馬車に轢かれるよ』
「大丈夫だって。こうやって見渡す限り誰もいねえんだから。
 ははっ、俺を何かに巻き込む運命ってやつがあるなら、是非とも底力を見せてもらいたいもんだね」

言って両手を挙げた森崎が、石畳の上で軽いステップを踏む。

『またそうやって、調子に乗ってると危ないからね!』
「どうなるってんだ? 右見て、左見て、前と後ろも問題なし―――」

と。
森崎の視界にふと影がさしたのは、その瞬間である。
右でも左でも、前後でもないそれは、

「―――ちくしょう! 上だったかよ!」

不意を突かれた森崎が、しかし咄嗟に見上げたその視界に映ったのは、
ふわりと広がるチェック柄の布と小麦色の肌である。

807 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 20:22:23 ID:PaEHKKCc

*チェック

(体術+剣術)判定

目標値【16】 → ! numnum

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
難易度【ターン係数50+やや難60】−{(体術+剣術)/2=94}を目標値とし、目標値以上の値が出れば成功。
00が出た場合は難易度にかかわらず成功となります。
結果によって展開が分岐します。

成功→ 落ちてきたものを咄嗟に受け止める!
失敗→ 落ちてきたものを華麗に避ける!


******


なんと一週間のブランクという体たらくには申し開きのしようもありません……!

808 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/12(金) 20:30:36 ID:???
目標値【16】 →  15
中世ヨーロッパにジャガイモとトマトはなく、中世日本に醤油はない…というのは結構面白いポイントだよね。

809 :傍観者  ◆YtAW.M29KM :2012/10/12(金) 20:31:47 ID:???
…EP5を支払います。いきなりこれか!w

810 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/12(金) 20:34:51 ID:???
あと何人ぐらいヒロイン出て来るんだろう?

811 :◆W1prVEUMOs :2012/10/12(金) 20:42:49 ID:???
正ヒロイン候補は五人と言ってたけど、今まで出てきた女性の誰がヒロインで誰が脇役なのか自分には分からない(笑)

812 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:08:19 ID:???
>>808
トマトのないイタリア料理やポテトのないドイツ料理は、今からだと想像できませんね。
まあ、そもそも料理と呼べるほど食材にバリエーションを持てたのはある程度以上の
富裕層だけかもしれませんが。

>>810-811
正ヒロインはソフィア、レズリー、ロリィ、それから今まさに出てきた娘と、
来月に初お目見えする娘で打ち止めですね。
原作だとこれまでに出てきたキャロル、スー、クレアさん(と、一応ノエル)なども
ヒロインなのですが、本作ではサポートキャラとして登場いただいております。


813 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:09:50 ID:???
それと万が一全ヒロインの攻略に失敗した場合でも、ピコだけは森崎から離れません!w


***

成功→ 落ちてきたものを咄嗟に受け止める!


「くっ……、っと!」

森崎がそれを受け止めようとしたのは、頭上に差す影の主が女学生であると瞬時に認識した故である。
濃紅色のチェック柄は、学園に通う生徒のスカートの布地であった。

『何でそんなこと覚えてるのさ!』

相方が鋭く指摘するのを聞き流しながら森崎が腰を落とし、両手を差し出す。
足を下に落ちてくるそれを掬うように片腕を差し入れ、切っ先を受け流すようにその軌道を逸らし、
傾いだ上体を、空いた腕で支える。
重量は、ひと一人分。
支えるだけの力を、森崎という男は十二分に持っている。
ふわり、と。
流れるように、その落下物は一切の衝撃なく、森崎の腕の中に収まっていた。

「……ふう」
「……?」

一仕事終えた感で息をつく森崎の眼前。
ほんの拳ひとつ、ふたつの間を空けた向こうに、きょとんとした顔がある。
少年のように襟足で短く切り揃えた髪は栃栗色。
大きく見開かれた瞳は黒に近かったが、吐息を感じるような距離で覗けば濃紺であることがわかる。
そのごく近い顔が、事態を理解できずにいる空隙から驚愕へと変わるのは正しく一瞬のことだった。

814 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:10:52 ID:???
「―――え、えぇっ!? わわ、なに、きゃぁっ!?」
「あ、こら、暴れるな!」
『いや、驚くでしょ。実際』

遠くから他人事のように言うピコに内心で舌打ちしながら、森崎が腕の中の少女を宥めようとする。

「下ろす! いま下ろすから暴れんな!」
「いや、やだ、はな、離して! なに!?」
「ええい、くそっ……うわっ!?」
「きゃあっ!?」

どすんと重い音は、森崎の腕から解放された少女が石畳の上に落下した音である。

「いったたた……」
「だから暴れんなっつったのに……」

呻きながら腰を擦る少女に、森崎が呆れたように漏らす。
そんな声が聞こえたか、少女がきっと森崎を見上げると、口を開いた。

「もう! 何なのさ、キミは!」
「そりゃこっちの台詞だ!」

さすがに言いがかりも甚だしいと、間髪入れずに言葉を返す森崎。

「いきなり落ちてきたのを受け止めてやったんだろうが! つーかお前は一体何なんだ!
 一体どっから降ってきた!?」
「う……」

森崎の剣幕に圧されたか、あるいは痛いところを突かれたのか。
少女の表情から見る間に勢いが失われていく。
ちらりと目をやったのは、傍らの高い壁である。

815 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:11:53 ID:???
「……お前、学園の生徒だろ」
「え、あ……ははは」
「笑ってごまかそうとするな! つーか、まさかこの壁の上から飛び降りたのか……」

言って森崎が見上げる壁は、彼自身の背丈よりも高い。
自衛意識の現れであろうか、忍び返しの類こそ設置されてはいなかったが、それでも
森崎が腕を伸ばして飛び上がったとしても届かないような位置に、その縁はあった。

「ま、まあ、その……」

と、少女が口ごもった、その時。

「―――ショースキーさん! まだそこにいますね!」

高い塀の向こうから響いたのは、女性の声である。

「おや、この声はいつぞやの……」
『キミが鼻の下を伸ばしてた……』
「やばっ! オルガ先生!」

そうそう、そんな名前だった、と頷いた森崎の手を、がしりと掴むものがある。
小麦色の肌と少し高めの体温。
眼前の少女の手に他ならなかった。

「とにかく、ここはマズいから! こっち!」
「お、おい!? 何で俺を引っ張る!?」
「いいから!」

森崎の声には聞く耳持たず、少女は走りだす。
必然、森崎も共に走る形となった。

816 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:12:54 ID:???
『やっさしー。別に振り払ってもいいのに』
「……まあ、大体こんなことになるとは思ってたんだよ」

くるりくるりと頭の周りを回りながら冷やかす相方にもごもごと答えながら、
森崎は手を繋いだまま前を走る少女を見やる。
短い髪が風に靡いて、毛先がふるりふるりと揺れていた。

(つーか……足、早いな)

年端もいかぬ少女である。
しかし日々教練で鍛え抜いている森崎に勝るとも劣らない足を持っているようだった。
無論森崎とてただ早く走るための鍛錬を積んでいるわけではないにせよ、その事実は単純な感心に値した。
しかも僅かながら次第に顎の上がり始めた森崎と比べて、少女の息遣いはまだ小気味のいい律動を
刻んだままでいる。

(……元気なこった)

森崎が初秋に出会った少女の、それが第一印象であった。


***

817 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/12(金) 21:14:39 ID:???
******

といったところで、短いながら本日の更新はこれまでとさせていただきます。
一週間空いたんだから書き溜めておけ! というお声が聞こえてくるようです…。
ともあれ、お付き合いありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

818 :◆W1prVEUMOs :2012/10/12(金) 21:22:19 ID:???
乙でした
> それと万が一全ヒロインの攻略に失敗した場合でも、ピコだけは森崎から離れません!w
ピコ→森崎に恋愛感情ありそうなんだよなあ。嫉妬っぽい言動もあるし
ピコルートも欲しいw

819 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/13(土) 13:31:43 ID:???
>>818
ラスト近くで全ヒロインをフりまくれば、夢のピコEDに……!
まあ、そうでなくともかの小さな相方の出番は全編に渡りますのでw
ちなみに重い場面や桃色な場面では空気を読んで静かにしていますが、
森崎が一人になるとひょっこり出てきて茶化したり慰めたりしてくれています。


***


「するってーと、お前」
「ハンナ。ハンナ・ショースキー」

ショートカットの少女が言うのは、学園から走りに走って大通りを二つも隔てた北側の
フェンネル運動競技公園、通称・運動公園の整備された芝生の端に座り込み、肩で息をしていた森崎が
どうにか呼吸を整えた後である。

「で、そのショースキー女学生は」
「ハンナでいいよ。苗字はあんまり好きじゃないんだよね。
 お爺ちゃんが移民ってだけで結構ヤな思いしたみたいでさ。
 あ、ボクはそんな経験ないんだけどね。アハハ!」

あっけらかんと言い放つ少女。
快活なのか、単に物事を深く考えない質なのかは判然としない。
しかし森崎が引っかかったのは、また別の点である。

「……ボク?」
「ん? あれ、やっぱり気になる?」
「いや、まあ、俺の稼業も大概変人揃いだから、言われりゃそういうもんかって感じだが」

口ごもりつつ言う森崎の肩を、ハンナがばちんと叩いて笑う。

820 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/13(土) 13:32:44 ID:???
「アッハハ、それじゃボクが変人みたいじゃない!」
「……」
『そこで黙るんだね』

ピコの茶化す通り、沈黙はある種の場合において雄弁な肯定となる。
だがハンナという少女はそれを斟酌することはないようだった。

「昔っからの癖でさ。ボク、お姉ちゃんが一人いるんだけど」
『今度は語りはじめたよ』
「そのお姉ちゃんていうのがまた、お人形さんみたいな人でね! 自分もすっごく可愛いんだけど、
 もう可愛いものが大好きで、リボンとかフリルとか、ああいうのが部屋にも溢れてんの」
「はあ……」
「で、小さい頃のボクはお人形さんみたいなお姉ちゃんの、そのまたご愛用のお人形扱い!
 いやー、そりゃもうフリッフリに飾られてさ。うぅ、今思い出すと寒気がするよ」
「その話、まだ続くのか」

ぶるり、と大袈裟に身を震わせてみせたハンナに、深い溜息をついて森崎。

「すぐ終わるって! で、ちっちゃいボクは思ったね。可愛くなくなれば、お姉ちゃんに
 嫌われるんじゃないか。そうしたらお人形から卒業できるんじゃないか、ってね。
 実際、これが名案! ボクって言うようになって、男の子みたいな遊びをしてたら
 リボンもフリルも似合わないって、お姉ちゃんが匙を投げてくれたんだよ」
「そうか、そうか」
『いい天気だねえ』

青空に浮かぶのは、夏の名残の小さな入道雲である。
広い芝生を吹き抜ける風も実に爽やかだった。

「ま、それ以来ボクは自分のことをボクっていうようになったわけ。
 どう、わかってくれた?」
「ああ、よく分かった。とりあえず話を元に戻してもいいかな」
『一歩も進んでないからね』

821 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/13(土) 13:33:45 ID:???
首を振り振り森崎が言うのへ、ハンナがきょとんとした顔で訊き返す。

「元の話ってなんだっけ?」
「……俺がどうしてこんな目に遭ってるのかと、俺がどうしてこんなところにいるのかと、
 ついでに俺がどうして昼日中からこんなに疲れなきゃいけないのかって話だ」

ぐったりとした顔で告げる森崎。

「……とにかくお前、ハンナは、いつものように授業をサボろうと学園の塀を乗り越えたところ、
 何だか知らんがカッコいいお兄さんに抱き止められた、と」
「訂正。自主練に行こうとしたら、何だか知らないけど外人の不審者に抱きつかれてたんだよ」
『見解の相違だねえ』

肩をすくめて言うハンナは、しかし既に言葉ほどの嫌悪感を示してはいない。

「不審者ってお前、突然人の上に落ちてきたヤツに言われたくないんだが」
「うっ……そりゃあ、よく確認せずに飛び降りたボクも悪いけどさ……」

長い時間を走っている内に混乱から立ち直り、客観的に状況が整理できていたものか、
ハンナが怯んだように言葉を濁す。
ここぞとばかりに、森崎が反撃に移ろうと―――



822 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/13(土) 13:36:29 ID:???
*選択

A 「もし事故ってたらどう責任を取るつもりだ」 攻撃するぞ。

B 「あんなとこから飛び降りて、怪我でもしたらどうするんだ」 むしろ相手の身を案じるぞ。

C 「クッ……今頃になって痛みが……! こりゃ、骨が折れてるかもしれねえ」 当たり屋だぞ。
  (必要CP:10)


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『10/13 23:00』です。


******


ちなみにショースカヤとならないのは移民三世で呼称慣習が形骸化しているからです、
といったところで、本日の更新は一旦これまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


823 :◆W1prVEUMOs :2012/10/13(土) 17:19:06 ID:???

流行のツンデレとかではなくボーイッシュな同性感覚で付き合えるヒロインだと思いました
そんな娘の好感度を上げればツンのない純粋なデレが見れそうなので

824 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/13(土) 18:59:33 ID:???
B怪我してからでは遅いので年上の人間として注意を促すのが良いと思います。

825 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:35:22 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>822の選択については……

>>823 ◆W1prVEUMOs様の案を採用させていただきます!
おめでとうございます、そしてありがとうございます。
そのレスで、数ヶ月後のハンナの運命が大きく変わりました。
GMの蒙きを啓いていただいたことに敬意を表し、通常のCP3に加えて更に3点を進呈いたします。


>>824
はい、大きな怪我というのは健康な人間が考えているよりずっと深刻な影響を
心身に与えるものですから、きちんと言っておきたいところですね。


826 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:36:22 ID:???
***

B 「あんなとこから飛び降りて、怪我でもしたらどうするんだ」


反撃に移ろうとした森崎の口をついて出たのは、しかし意外な言葉である。

『うわ、お人好しがいる!』
「……」

言って即座に手の届かない高さまで逃げる相方をじろりとひと睨み、目線を戻した森崎を
こわごわと見返して、少女が口を開く。

「で、でもほら、幸い無事みたいだし……あの、痛いところとかないよね」
「違う」

ぺたぺたと森崎の肘あたりを触りながら言うハンナの取り違えを、森崎が即座に正す。

「……え?」
「俺じゃない、お前のことだ。女の子が危ないことするんじゃない」
「……?」

きょとんとしたハンナが、

「え、あ……!」
「……」

しばらく考えた後、ようやく何を言われているか気づいた様子で目を見開く。
同時、火箸にでも触ったように、森崎から手を離した。


827 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:37:49 ID:???
「あの、あの、でもさ!」
「でも、なんだ」
「ぼ、ボクいつもああやって抜けだしてるし、ほら、あのくらいへっちゃらなんだから!」
「……」
「え、えへへ……」

戸惑ったように目を左右に泳がせたハンナの口から飛び出すのは、弁明ともつかぬものである。
誤魔化そうとした笑いがひきつるのを真っ直ぐに見ながら森崎が、すう、と息を吸った。

「―――へっちゃらなんだから、じゃない!」
「わあっ!」

怒鳴り声に、ハンナが反射的に首をすくめる。

「昨日はいい、今日も大丈夫、だがもし明日、塀の上でバランスでも崩したらどうする!」
「ぅ……」
「飛び降りる先だって石畳だ! 柔らかくもなけりゃ平らでもない!
 転んで膝っ小僧すりむく程度じゃ済まないんだぞ!」
「……」

猛烈な勢いで叱られるハンナは、既に俯いて顔も上げない。

「洟垂れの子供じゃないんだ。足をやっちまった奴がどういう風に扱われるのか、
 わからないわけじゃないだろ!?」
「……う、うん……」

828 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:38:50 ID:???
森崎の言葉は実感を伴ったものである。
いくさを生業とする者は、当然ながら生死の境を彷徨うような怪我を負うものも多い。
一命を取り留めたとしても酷い後遺症が残るようであれば仕事を続けることはできなかった。
中でも悲惨なのは四肢、とりわけ足に重篤な障害を負った者たちである。
酷い出血や開放骨折で切断するしかなかったもの、誤って馬や車輪に踏み潰されたもの、
あるいは何らかの衝撃で関節部の骨を複雑に折ったもの、要因は様々であるが、
もはやまともに歩けぬという一点で、彼らは共通している。
歩けぬ者に務まる仕事は、ない。
運良く支えてくれる親族がいれば生きてはいけようが、それらの一生の重荷となる。
そうしてそれもなければ天から金やパンの降るわけもなく、ただひとり野垂れ死ぬのみであった。
彼らを抱える受け皿は、この世に存在しなかった。

「……ごめん、なさい」
「俺に謝っても仕方ねえだろ。つまんねえことで何もかんも台無しにしねえように気をつけろって話だ」
「……はい」
『お、素直でよろしい』

肩を落としたハンナに、ふるりと舞い降りたピコが頷いたのも束の間。

「……で、でも!」
『あら、あんまり素直じゃないかも』

ハンナが、決然と顔を上げて言う。
僅かに潤んだ瞳は、叱られたことにか、それとも怒鳴られたことにか。
否。

「つまんない理由で抜け出してたわけじゃ、ないから。……それだけは、違うから」

その目に宿るのは、もっと強く美しい、何かだ。
たとえば明日や、たとえば希望や、そういうものを真っ直ぐに見るときにも、涙は滲む。

829 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:39:53 ID:???

「速くなりたい」

その言葉は、だから結晶だ。
混じりけのない思いの、形になって透き通った音を立てる、そういうものだ。

「もっと、もっと。速く走りたいんだ。誰よりも」
「……」

走る、と。
そのことを告げるとき、ハンナの瞳はより一層の輝きを帯びる。
何を指して言うのか、詳しいことは森崎にはわからない。
わからないが、ハンナにとってそれがこの世で最も尊ぶべきものであるとは、理解できた。

「学校で机に向かってると、わーって。胸のところ、ぐしゃぐしゃにしたくなって。
 こんなことしてるときじゃないって。走らなきゃって思えて、走らなきゃ置いてかれるから」

ハンナの手が、握り締めた制服に皺を作る。
たん、たん、と。感触を確かめるような足踏みが、平らに均された芝生を叩く。

「負けたくない。追いつきたい。勝ちたい。だけど」
「……」
「何していいのかわかんなくって、ただがむしゃらに走るしかできなくって。
 だったら、ボクの時間ぜんぶ、それに使わなきゃって思ったら、もう我慢できなくて」
「……それで学校、抜けだしたか」

森崎の問いかけに、こくりと頷くハンナ。
ため息をついた森崎が、その潤んだ瞳を見返して、言った。

「あのな、ハンナ―――」

830 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/17(水) 18:41:53 ID:XxV5YV8+

*選択

A「学生の本分は勉強だ。それさえできない奴に他のことができるか」

B「鍛錬はやり過ぎりゃいいってもんじゃないんだ」

C「だったら尚更、怪我なんてしてる場合じゃないだろ」


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『10/17 24:00』です。


******


セーフティネットって素敵ですよね…といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

831 :◆W1prVEUMOs :2012/10/17(水) 20:21:05 ID:???

今の行動に成果が無いことを示して無茶をやめさせる
上から押さえつける選択ではなくやめる理由(逃げ道)を作ってあげたい
実際、置いていかれる不安からただただ走っているだけでは技術も身に付かないでしょうし

832 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/17(水) 21:35:45 ID:???
B速く走る為には休養も大切だ。それに速く走る為って言っているが食べる物に気を使ってるのか?
又は体の効率的な動かし方を知ってるのか?
それを知るためにも勉強ってのは結構大切なんだぞと勉強も早く走る為に役立つ事を教える。

833 :◆9OlIjdgJmY :2012/10/17(水) 23:58:12 ID:???
B
森崎の自戒の念もこめて。

834 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:17:53 ID:???

皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>830の選択については……

>>833 ◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
はい、ヤングとの絡みですね。
数カ月前のことをよく覚えていて下さいました!
がっつり本編に盛り込ませていただきます。
CP3を進呈いたします。

また>>831 ◆W1prVEUMOs様、>>832 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答も
それぞれの切り口がなるほどと思わせるもので、本編に反映させていただきました。
CP1ずつを進呈いたします。


835 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:18:54 ID:???
***

B「鍛錬はやり過ぎりゃいいってもんじゃないんだ」


「……え?」

頭ごなしの否定を覚悟していたものか、ハンナが肩透かしを受けたように森崎を見る。

「ちょっと前、な」

そんなハンナをじっと見つめ、森崎が重い口を開く。

「俺も、今のお前みたいな落とし穴に嵌ってたんだ。ただ焦って、闇雲に剣を振ってた」
「……」
「怖かったんだ。こんな、鈍った腕で戦えるのか。次の戦場で屍晒すのは俺じゃないか。
 そんな嫌な想像から逃げるみてえに身体を虐めてた」
「でも、それは……」

ハンナが、森崎の目を見て言いかけた言葉を収める。

「ある人に無理やり休まされたら、途端にぶっ倒れたよ。身体の方はとっくに限界超えてたのに、
 言われるまで気づかなかったんだな。間抜けな話さ」
「……」

森崎が自嘲気味に口の端を上げて、続ける。

「あのまま続けてたら、きっと酷い怪我をしてた。肘か、背中か、腰か、その全部かもな。
 それこそ、もう剣を握れないような怪我、だ」
「……!」

836 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:19:58 ID:???
言った森崎がその、古傷とタコとで奇妙に固くごつごつと変質した拳に目をやると、
握り、開いて、軽く肩をすくめてみせる。

「そうでなくたって、結果に繋がらねえ鍛錬で無駄に疲れきって、肝心の戦場でくたばってたかもしれねえな。
 頭ン中に靄がかかってると、そういうことが見えねえんだよ」
「……」

すっかり黙りこんでしまったハンナに、森崎が視線を戻すと、言う。

「……あん時、俺が止めてもらえたのは巡り合わせだ。
 そういう人に会えたから、俺はまだここにこうしていられる」

今は亡き男の、当時は理不尽と思えた背中を思い返しながら。

「だからな、ハンナ。巡り合わせ……俺の故郷じゃ縁、つーんだがよ」
「エン……」

その響きを繰り返したハンナに、森崎が一つ頷く。

「その『縁』で今日、お前と会った俺が言うぜ」
「……」
「焦りに背中押されるような鍛錬はやめな。そいつはいつか、お前自身を傷つける」

無人の公園の、さわさわと芝生をざわめかせる涼風が、吹き抜ける。
風に靡く髪が目にかかるのも構わず、真っ直ぐに自身を見返すハンナに、森崎が告げる。

「目標を定めて、計画を立てろ。今日のことを朝になってから決めるな。
 お前は一年後にどうなっていたい? 半年後には? 来月はどうだ?
 そういう風に考えていけば、しなけりゃならないことは向こうから見えてくる」
「……」

こくりと、神妙な表情でハンナが頷く。

837 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:21:01 ID:???
「怠るな。無駄を省け。疲れのどん底で無闇にやる鍛錬なんざ無駄の骨頂だ」
「……はい!」

うん、ではなく。
はい、と。
打てば響くような返事に、森崎がぽんとハンナの肩をひとつ叩いた。

「それとな、ハンナ。学校もサボってないでちゃんと行け。
 お前、読み書き以上の学問なんざ何の役に立つ、なんて思ってるだろ」
「う……」

図星を突かれたか、ハンナの神妙な顔がたちまちに崩れる。

「俺だってそこまで学のある方じゃねえ、そう偉そうなことは言えないが……ありゃな、頭を使う練習だ」
「……?」

怪訝そうな顔のハンナ。
どう説明をしたものかと、森崎が身振りを交えながら慎重に言葉を選んでいく。

「走るってことに絞ったって、どう身体を動かすか、どう鍛えるか、どう練習を組み立てるか、
 どう時間を使ってどういう戦略を練るか……頭使わなきゃならんことはいくらでもある」
「……」
「学問が面倒だって奴はな、段々そういう、考えること自体が面倒だって思うようになる。
 いざって時に、必要なことを見聞きして覚えるってことができなくなるんだよ」

ぴしり、と森崎がハンナを指さして言う。
眼前に突き付けられたその指を、寄り目になりながら見つめるハンナに、森崎が続ける。

「わかるか? 大事なのは、どんな学を積むかじゃねえ。頭の使い方を覚えてこいってこった。
 必要だと言われたことを頭に刻んで忘れねえ癖を、わざわざつけさせてくれるってんだから
 ありがてえ話じゃねえか。それも日々の鍛錬、だぜ」
「う〜……はい」

838 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:22:14 ID:???
しばらく唸っていたハンナが、僅かに肩を落としながら首肯するのを見やって苦笑した森崎が、
ふと空を見上げる。
初秋の太陽は既に天頂近くまで昇っていた。

「……おっと、つい長々と説教しちまったな」

よっと、と声を上げながら立ち上がる森崎。
長時間座り込んでいた腰が痺れたように痛むのを揉みほぐす。

「ま、俺が言いたいのはそれだけだ。後はお前次第だ、頑張んな」
「―――ちょっと、待って!」

片手を上げ、立ち去ろうとした森崎を止めたのは、声だけではない。
ハンナの手が、がっちりと森崎のズボンの裾を掴んでいた。

「……まだ、何かあんのか」
「あの、……その、お願いが」
「お願いィ?」
『ふぁ……話、終わった? って』

今の今までどこをふらついていたものか、欠伸をしながらふわりと舞い降りてきたピコが
縋りつくハンナを見下ろして、呆れたように言う。

『……あたし、この先どうなるか、大体わかる気がするよ。言ってあげようか』
「……」

いらん、と目線だけで答えると、森崎がハンナの言葉を待つ。

「さっきの話……鍛錬の。戦場に出る、っていうし。それと、その髪……」

ハンナが見上げるのは、森崎の黒髪である。
陽光の下でもなお漆黒を保つ髪は、南欧ではやはり珍しい。

839 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:23:15 ID:???
「ね、こないだの戦いで活躍したっていう傭兵の隊長さん……だよね」
「あー、まあ、活躍したかどうかは知らんが……傭兵は、傭兵だ。今は隊長でもある……が」
『またまた、照れちゃって』
「……」
『わあっ! 何するのさ!』

退屈していたのかやかましく茶々を入れるピコを、何気なく腕を伸ばす仕草を装って追い払う森崎。
暗闘に気づいた風もなく、ハンナが何度も頷く。

「……やっぱり」
「だったらどうした」

しばらく森崎を見上げたままでいたハンナが、森崎から手を離して立ち上がる。
と、意を決したように口を開いた。

「練習、みてほしいんだ」
「……は?」

予想外の言葉に、思わず訊き返してしまう森崎。

「ボクの練習。走るとこ、見てほしい。それで、直せるところがあったら教えてほしいんだ」
「なにィ!? 何で俺が……」
『まあ、競技は素人だしねえ』

懲りずにまとわりつく相方の言葉も、今度ばかりは正論である。
しかしハンナは訥々と続ける。

840 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:24:15 ID:???
「ボク、ずっと独りで練習してるから……教えてくれる人もいないし。
 今の練習でいいのか悪いかも、よくわかんなくなってきてて、それで焦ってたんだ。
 ……でも、だからさっきの話、こう、ずーんって響いたんだよ!」

言ったハンナが、森崎の手をとって、縋るように言う。
意識しているわけでもないだろうが、距離は互いの身体の温もりを感じるほどに程近い。

「ね、お願い! 一回、一回みてくれるだけでもいいから!
 これも……『エン』だと思って!」



*選択

A 「しゃーねえ……乗りかかった船だ!」 快諾する。

B 「ったく……一度だけでもいいんだな?」 渋々承諾する。

C 「俺、忙しいんだってば……」 一応抵抗してみる。


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『10/18 24:00』です。


841 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/18(木) 18:25:26 ID:9+77bZxM
******

森崎、年上モード。といったところで、
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。

842 :森崎名無しさん:2012/10/18(木) 21:29:16 ID:???
A一度だけって事なので快諾してあげた方が良いと思います。
本来は陸上専門の人に観て貰わないといけないんだぞと言っといてあげたいと思います。

843 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/18(木) 21:30:17 ID:???
A一度だけって事なので快諾してあげた方が良いと思います。
本来は陸上専門の人に観て貰わないといけないんだぞと言っといてあげたいと思います。

844 :◆W1prVEUMOs :2012/10/18(木) 22:35:46 ID:???

この縁をこれから何度も出会う縁にするために

845 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:39:57 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>840の選択については……

>>843 さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
「気のいい」森崎らしい返答ですね。
ただ世の常として、一生のお願いというものほど何度でも来るものでして…w
ともあれCP3を進呈いたします。


>>844
はい、この出会いもきっと強い縁となるでしょう。
というかこの先しばらくはハンナともう一人絡みのイベントが続いたりします。
収穫祭を挟んだりはしますけど。

846 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:41:07 ID:???
***

A 「しゃーねえ……これも乗りかかった船だ!」


森崎がそう口にした瞬間、ハンナの笑顔が弾けた。
夏の太陽のような、直視するには眩しい笑顔である。

「やった! ありがとう、……え〜っと、」
「森崎。森崎有三だ。ったく、名前も知らない奴に頼むなよ」

半ば呆れながら言う森崎に、

「ありがと、モリサキコーチ!」
「なにィ!?」

抱きつかんばかりの勢いでハンナが喜んでいる、その目の前で森崎は何気ない呼称に愕然とする。

「コーチ、だと……?」
「え? だって教えてくれるんだからコーチでしょ?」
『あ〜あ……ま、いつものことだけどね』

何かおかしいかな、と一切の疑問を持たない顔で訊き返すハンナに、
森崎が慌てたように答える。

「いや、だから俺、素人だっつーの。コーチなんて呼ばれるような目も知識もねえよ!
 それでもよけりゃ一度くらいのアドバイスはしてやるけどな、ホントは専門家に見てもらった方が、」
「お金がない」
「う……」

にべもない返事である。

847 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:42:08 ID:???
「そういう人はだいたい、貴族とかお金持ちに雇われちゃうんだよ。
 ボクなんかには会ってもくれない」
「そ、そんなもんか……」
『まあ、プロは報酬で動くものだからねえ』

二の句が継げず森崎が黙るのへ、ピコがその肩に舞い降りてぽむぽむと頬を叩く。
慰めているつもりなのか、からかっているのかは判然としない。
考えてみれば、そう不思議な話でもなかった。
森崎自身、より良い条件を求めて流浪する傭兵である。

「ま、ないものねだりしてても仕方ないし! 練習始めよ、コーチ!」
「慣れねえなあ……せめてモリサキって呼んでくれねえかな」

あっけらかんと言い放つハンナが、森崎の手をとって公園の半ばへと歩き出そうとする。
ほとんど引きずられながら呟いた森崎に、ハンナが振り返った。

「ん? 何か言った、コーチ?」
『諦めが肝心だよ、コーチ!』
「もういいや……」

深いため息は諦念と、気分の切り替えの合図である。
顔を上げた森崎の表情には既に暗さは残っていない。

「けどな、練習つっても、俺まだ何にも知らねえぞ。走るってことしか聞いてねえ」
「うん、そうだね。じゃ、まず軽く説明しておくよ」
「そうしてくれ」

頷いて、森崎へと向き直るハンナ。


848 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:43:10 ID:???
「走るっていっても、ボクがやってるのはマラソンとかじゃなくてね。
 六アルパンの短距離走なんだ」
「六アルパン……てえと、凡そ四町か」

聞いた距離を、森崎は自身に馴染みのある単位に換算しようとする。
それを耳にしたハンナが、胡乱げに聞き返す。

「シチョウ?」
「ああ、俺の故郷での長さの数え方だ」
「ふぅん、面白いね」
『九分の一里くらいかあ。……それって短い距離っていうかな?』
「まあ、大体わかった。続けてくれ」

言われたハンナが、今度は森崎から数歩離れて広大な芝生の向こう側を指した。

「この公園……走る以外にも色んな競技ができるようになってるんだけどね。
 あの真ん中くらいに、芝生が切れてるところがあるでしょ?」
「ああ……確かに」
「あそこが、トラック。ボクたちの戦場」

ハンナの指差す先、運動公園の中心近く。
大きな楕円を描くように芝生が途切れ、赤土が覗いている。

「あれの縁をぐるっと一周するのが、ちょうど六アルパン」
「そりゃ、わかりやすくて助かるな」

なるほど、と森崎が頷く。
となればコースの構成は長い直線だけでなく、二度の大きな曲線を含むことになる。
距離からしても瞬発力だけでなく持久力、そして曲線をいかにしてスピードを落とさずに
曲がりきるかという技術も求められる、難しい競技であろうことが想像できた。

849 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:44:10 ID:???
と、そんなことを考える森崎にハンナが何気なく説明を継続する。

「スポーツの祭典で使うのは、競技場の中にあるトラックだけどね。大きさは同じなんだ」
「ちょっと待て、スポーツの祭典って?」

さらりと出てきた単語に、森崎が引っかかる。
一瞬、怪訝そうな顔をしたハンナがすぐに合点がいったというように首を縦に振った。

「……ああ、そっか。コーチは傭兵さんだから、この春にドルファンに来たんだよね。
 なら知らないのも無理はないね」

うんうん、とひとり頷いたハンナが、どこか得意げな顔で続ける。

「毎年十一月に、そういう催しがあるんだよ。スポーツの競技会。
 王室主催で、すっごく大掛かりなんだ!」

両手を広げ、大袈裟な身振りを交えて言うハンナ。

「何日もかけて、色んな競技……ボクがやってる競争や、マラソン、水泳、ナインピンズ、
 やり投げ、幅跳び、高飛び、フットボール……とにかく色んなもので一番を競うんだよ。
 首都城塞だけじゃなくて、この国全部から選手が集まってくるんだから!
 で、舞台は―――あそこ」

目を輝かせながら言ったハンナが、びしりと指さしたのは広大な運動公園の遥か向こう、
森崎が立つのとは反対側に位置する、巨大な建造物である。

「あれは……確か」
『スタジアム、だね』

850 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:45:11 ID:???
その石造りの白い巨体は、遠く距離を隔てた場所からでもひどく目立つ。
伝統的なオリンピア様式を模した、ドルファン文化の雄。
堂々たる聳えこそが、ドルファン王立運動競技場。
通称、スタジアムである。

「ボクが目指すのは」

と、ハンナがそのスタジアムをじっと見つめながら言う。

「あそこで一等になることなんだ。……今まで、一度も取れたことはないけど」
「あー……っと、ハンナ」

森崎が、何らかの思いに耽ろうとするハンナを引き戻すように声をかけた。
気になることが、あったのである。

「お前、その祭典に出るのは今年が初めてってわけじゃないんだよな?」
「うん。去年までは子供の部だったけどね。今年からは平民女性の部」
『子供の部は平民とそれ以外の区別、ないのかな』

くるりくるりと中空を舞いながらピコが疑問を口にするが、森崎にとっては
それ以上に聞かなければならないことがあった。
言葉を選ぶように、唇を湿らせながら言う。

「で……その。これは一応、教えるための参考にするんで気を悪くしないでほしいんだが」
「二等」

先回りされた。
あっさりとした、それは湿り気のない回答である。

851 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:46:50 ID:???
「ボクがどのくらいの位置にいるのか、でしょ。コーチだもん、聞くのは当たり前。
 怒ったり拗ねたりなんて、しないよ」
「……」

ハンナという少女、こと競技が絡むと森崎の想像をあっさりと踏み越えるところがある。
それ以外のときに見せる姿とはまるで違う人間がそこにいるようですらあった。
思わず言葉を失った森崎を前に、ハンナが淡々と、告げる。

「子供の部で、二番目。去年も、一昨年も、その前も。ボクはこの国で二番目だった。
 大人の部でどうなるかはわかんないけど……このままだと、多分、同じ」

国全体から選手が集まるという競技会で、二等。
門外漢の森崎からすれば、それが意味するのは栄光であるように思える。
しかし、少女の顔に喜悦の色は一切浮かんでいない。
代わりにそこにあったのは、情念である。
灰の中にちろちろと燃える熾火のような、触れれば肌を焼く、炎。

「それは……」
「去年もその前も、ボクの上で一等になってるのは一人だけ。同い年なんだ。
 だから今年はあいつも大人の部に出てくる」

あいつ、と呼ぶとき、ハンナの口角がぎり、と引き絞られる。
牙を剥く獣。あるいは、戦士。
そういうものを彷彿とさせる、それは少女という衣を脱ぎ去った競技者の顔である。

「ボクは、あいつに勝ちたい。勝って、一等になりたいんだ」
「あいつ、ってのは」

852 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:47:50 ID:???
ごくり、と。
生唾を飲みながら訊いた森崎の姿を、ハンナの目は映さない。
映さないまま、どこかここではない遠くを見つめ、少女はその名を口にする。


「―――リンダ・ザクロイド。ボクより速い、この国でたったひとりの女だよ」


******

853 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:48:53 ID:???
※システムメッセージ※

ハンナの練習はミニゲーム形式で行われます。
結果によってハンナにスキルを覚えさせることができます。
基本的には本戦に備えたテストプレイとなりますので成功や失敗はありませんが、
初練習の結果によってハンナのレース特性が判明します。
また練習後に覚えられるスキルは判明した特性と選択によって異なるものになります。

競技は6アルパン(約420m)の徒競走となっており、ゲーム的には1アルパンごと、
6つのセクションで判定を行いながらスコアを稼いでいくシステムとなります。
本戦ではゴール時点で最もスコアが高い(=タイムがいい)選手が優勝となります。

それぞれのセクションは

1.スタート
2.コーナー1
3.バックストレート1
4.バックストレート2
5.コーナー2
6.ホームストレート

という名称となっております。
またセクションごとの基本スコア判定式は

セクションスコア=基礎値*{1+(! numnum/100)}

※端数切り捨て。また00は100として扱う。

となっています。
つまりダイスの目によって基礎値の1.01〜2.00倍のスコアが出ることになります。
またここに各種スキルの補正が加わり、セクションスコアとなります。
それぞれのセクションスコアがすべて加算されることで、最終的なスコアとなります。

854 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:50:22 ID:???
******

「よし、とにかく走ってるところを見なきゃ始まらねえ」
「うん、そうだね……っと」
「うぉい!? お前、何やってんだ!」

森崎が慌てるのも無理はない。
頷いたハンナがシャツのボタンに手をかけると、だしぬけにそれを上から外し始めたのである。
ベストがするりと肩から落とされ、ぷちぷちと白いシャツがはだけるとハンナの小麦色の鎖骨が
見る間にあらわになっていく。

「わ、おい、そういうのは……!」
「へへ……すぐ練習できるように、制服の下に着ておいたんだ。……って、何やってんの?」
『……ばか』

背中を向け、何も見ないように亀のように蹲った森崎に突き刺さるのは、相方の冷たい一言であった。

***

「……うん、こんなもんかな」

入念な柔軟体操とウォームアップを終え、ハンナが森崎に声をかける。

「じゃ、始めるよ。しっかり見ててね」
「おう。全力を見せてくれ」

森崎の言葉に、ニヤリと口の端を上げるハンナ。

「言われなくたって!」

悪戯っぽく笑ってみせたハンナの顔から、しかし一歩ごとに笑みが抜けていく。
スタート位置に近づくその身が纏うのは、一種独特の気配である。

855 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:51:31 ID:???

(いい気合じゃねえか。伊達や酔狂じゃねえ。
 こいつはこいつなりに命、張ってる……ってわけだ)

森崎の見守る前で、ハンナが屈むようにスタートの姿勢を取る。
合図はない。号砲もない。
二人の他には誰の姿も見当たらない広大な公園の、音のないトラックで、刹那。
少女がスタートを切った。


******


エントリーNo.1
ハンナ・ショースキー
基礎値:94
特性:不明
スキル:なし
PBスコア:846(D25.11 スポーツの祭典 本戦)


参考値
子供の部 歴代1位記録:947 (D25.11、リンダ・ザクロイド)


******

856 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 18:52:37 ID:l/JwoCrA

*スタート

セクションスコア1= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。

基本ルールは>>853となります。

857 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/19(金) 19:01:12 ID:???
セクションスコア1= 94*{1+( 73 /100)}

858 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 19:18:45 ID:l/JwoCrA

 
セクションスコア1= 94*{1+(73/100)} =162


「ふむ……スタートに問題はないみたいだな。体の起こし方もスムーズだ」
『……結局ノリノリだよね、キミ』

疾走するハンナの一挙手一投足も見逃すまいと、顎に手を当てながら鋭い眼差しを向ける森崎に、
傍らにふわふわと舞うピコは小さな肩をすくめて白い目を向けるのだった。
既に第一コーナーに入りつつあるハンナは無論、そんなやり取りを知るはずもない。


*コーナー1

セクションスコア2= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。

スタート:162
計:162


859 :◆W1prVEUMOs :2012/10/19(金) 19:38:26 ID:???
セクションスコア2= 94*{1+( 41 /100)}

860 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 19:58:27 ID:l/JwoCrA

セクションスコア2= 94*{1+(41/100)}=132


「ん……? カーブはあまり得意じゃないのか」

森崎が漏らしたのは、ハンナが第一コーナーを半ばまで過ぎたあたりのことである。
快調なスタートは裏腹に、微妙な失速が見て取れた。

「体重移動が甘いんだな……体幹の捻りが浅いから曲がろうとしても無駄に力を持ってかれちまう」
『キミ……詳しいね』
「まあ、その手の体捌きについちゃこっちも専門みたいなもんだからな」

などと話す間にも、ハンナはコーナーを抜けてバックストレートに入ろうとしている。


*バックストレート1

セクションスコア3= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。

スタート:162
コーナー1:132
計:294


861 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/10/19(金) 20:22:19 ID:???
セクションスコア3= 94*{1+( 39 /100)}

862 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 21:08:04 ID:l/JwoCrA

セクションスコア3= 94*{1+(39/100)}=130


「立て直しが今ひとつだな……やっぱりカーブの失速が響いてるぜ」

バックストレート前半、傾いだ上体を起こしつつ加速に乗っていくべき直線で、
ハンナはまだトップスピードに乗りきれていないように森崎には見えた。

「苦手意識が根付く前に何とかしたいところだが……ううむ、難しいな」
『……一度だけ、ってね。まあ、いいけど』



*バックストレート2

セクションスコア4= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。


スタート:162
コーナー1:132
バックストレート1:130
計:424

863 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/19(金) 21:42:04 ID:???
セクションスコア4= 94*{1+( 06 /100)}

864 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/19(金) 22:21:27 ID:l/JwoCrA

セクションスコア4= 94*{1+(06/100)}=99


「……厳しいな」
『うーん、疲れてきたのかな?』

森崎とピコとがほぼ同時に目を見交わす。
ハンナの足運びは、それほどに乱れていた。

「なまじスタートが良すぎたか……?」
『そういうものなの?』
「ま、俺らは嫌ってほど重い鎧やら何やら担いでひたすら走るだけだから、
 確かなことは言えねえが……自分のペースを守れなくなるってのは、怖いぜ」
『ふぅん……』

バックストレートから曲線を辿って近づいてくるハンナの顔は、苦しげに歪んでいる。


*コーナー2

セクションスコア5= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。


スタート:162
コーナー1:132
バックストレート1:130
バックストレート2:99
計:523

865 :◆W1prVEUMOs :2012/10/19(金) 23:22:39 ID:???
セクションスコア5= 94*{1+( 60 /100)}

866 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 00:03:58 ID:IfuaKHGs

セクションスコア5= 94*{1+(60/100)}=150


「お……?」
『あら、頑張るねえ』

コーナー突入前にはストライドも安定せず、もはや限界かと見えたハンナであったが、
しかしそこからの伸びは森崎をして目を見張らせるものがあった。
崩れかけたフォームが最終コーナーに入った途端、見違えるように整ったのである。
それは最後の意地であったろうか、それとも限界の果てに身体が覚えた日頃の反復練習が顔を覗かせたものか。

「よし、そのまま立て直せ……! 最後のスパートだ!」

森崎の待つゴールラインまで、あと僅かである。


*ホームストレート

セクションスコア6= 94*{1+(! numnum/100)}

※ ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。


スタート:162
コーナー1:132
バックストレート1:130
バックストレート2:99
コーナー2:150
計:673


867 :ノータ ◆JvXQ17QPfo :2012/10/20(土) 00:04:28 ID:???
セクションスコア6= 94*{1+( 19 /100)}

868 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 01:25:25 ID:???

セクションスコア6= 94*{1+(19/100)}=111


スタート:162
コーナー1:132
バックストレート1:130
バックストレート2:99
コーナー2:150
ホームストレート:111
計:784


***


しかし、復調もそこまでだった。
最後の直線に差し掛かるや、ハンナは足取りを乱す。
再び大きく失速したのである。

「……っ!」

ようやくにしてゴールラインを超えた途端、糸が切れたように倒れかけるハンナ。
その身体が土に塗れるより一瞬早く、駆け寄った森崎が抱き止める。

869 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 01:26:42 ID:???
「……っと! 大丈夫か、ハンナ!」
「へ、へへ……」

小麦色の肌を垂れ落ちる汗に、森崎の腕にぐったりと体重を預けるハンナが滑り落ちそうになる。
かろうじて抱え直したその身体は、内に秘めた熱をすべて解き放つように熱い。

「おい、大丈夫か!?」
「ちょっと……、はりきり、すぎた……かな」

荒い呼吸の中で無理やりに笑みの形を作ってみせる、その紅潮した顔が痛々しかった。

「あは……。コーチにいいとこ……みせたくて」
「馬鹿! ……大事なときほど平常心、だ」
「はぁい……」

渋面を作る森崎の腕の中、首肯しようとして身じろぎするハンナ。
何はともあれ少女を休ませるべく、森崎はその肩を抱えるようにして芝生へと移動する。

「……」
「……」

懐中から取り出した手拭いを芝生に敷くと、その上にハンナを寝かせる森崎。
そのまま静かに呼吸を整えていたハンナが上体を起こしたのは、しばらく後のことである。

「……ふぅ」
「もう起きて大丈夫か?」
「うん、平気。……ありがと、コーチ」

少し照れくさそうに言うハンナに、森崎が深々とため息をついて首を振る。

870 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 01:27:43 ID:???
「ったく……お前、一人でも今みたいにぶっ倒れてたのか」
「うん……まあ。えへへ」
「えへへ、じゃない!」

森崎の一喝に、雷に打たれたように身をすくめるハンナ。

「うぅ……ごめんなさい」
「あの距離だ、気ぃ入れて一本走るだけでもキツいってのはわかるが……」
「はい……今日、コーチに言われたことは忘れないよ。もう無茶な追い込み方はしない」

しゅん、と項垂れたハンナだったが、しかしすぐに顔を上げると森崎ににじり寄って言う。

「……で、コーチ!」
「何だなんだ、……暑苦しいっての」

鼻先を掠めるほどに近づいてくるハンナの額を押し返す森崎。
どうもこの少女の距離感には馴染めない、と辟易するその眼前で、きらきらと煌めくのは瞳である。

「どうだった!?」
「どうって、あー……」

聞かれていることはわかっている。
走りを見ろ、というのは単に見物しろという意味ではない。

『さっき、散々あれこれ言ってたじゃない』

声は森崎の頭のすぐ後ろから響いてきた。
どうやら後ろ髪にぶら下がっているらしい小さな相方の言葉に、森崎はハンナのレースを思い返す。

871 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 01:28:50 ID:???
(そうだな……)

今から思えば、スタートは実に好調だったといえる。
しかしそれが仇となったのかカーブで崩れ、バックストレートではスタミナを使い果たして失速。
最終コーナーで僅かに持ち直すものの、その気力は長続きせず直線でも伸び悩んだ。

(これらから判断するに―――)

ハンナは『持久力に不安』があり『第一コーナーが苦手』である。
しかし反面『スタートが得意』で『逆境での根性』も備えている、といえるだろう。

******


※ハンナの特性が決定しました。

『スタート得意』:スタートでのスコア倍率が10%アップします。
『逆境での根性』:ダイスが20以下だった場合、次のセクションでのスコア倍率が30%アップします。
『第一コーナーが苦手』:コーナー1でのスコア倍率が10%ダウンします。
『持久力に不安』:バックストレート2のスコア倍率が10%ダウンします。


******

これらを踏まえた、森崎のアドバイスは―――


872 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/20(土) 01:34:09 ID:IfuaKHGs
*選択

A 長所を伸ばすようにアドバイスする:『スタート得意』
(特性効果を30%にします)

B 長所を伸ばすようにアドバイスする:『逆境での根性』
(特性効果を「ダイスが30以下だった場合」に強化します)

C 短所を克服するようにアドバイスする:『第一コーナーが苦手』
(マイナス補正が消え、当該セクションのダイスに10加算されます)

D 短所を克服するようにアドバイスする:『持久力に不安』
(マイナス補正が消え、、当該セクションのダイスに10加算されます)


森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『10/20 23:00』です。


******


レースのバランス調整に結構時間を取られました…といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。


873 :◆W1prVEUMOs :2012/10/20(土) 14:15:46 ID:???

システム的メリットは数値加算を減らせられることで
個人的には勝負根性があるキャラが好きだから

874 :さら ◆KYCgbi9lqI :2012/10/20(土) 18:31:28 ID:???
A初めのアドバイスとしては、長所を伸ばす方が良い様に思います。短所を直そうとすると萎縮してしまうかも知れない。

875 :◆9OlIjdgJmY :2012/10/20(土) 22:02:59 ID:???
C
スタートが得意でも第一コーナーですぐ失速するんじゃ宝の持ち腐れだ!とか。
あと、数値加算するかどうかは終盤に判断したいので、前半でスコアを稼げるように。

876 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/22(月) 18:33:56 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、>>872の選択については……

>>873 ◆W1prVEUMOs様のご回答を採用させていただきます!
なるほど、確かに数値加算の検討には強いスキルかもしれません。
CP3を進呈いたします。

また>>875 ◆9OlIjdgJmY様の、勝負の行方を見極めてからポイントをつぎ込むかを
判断するためという考え方も実に合理的ですね。
次点としてCP1を進呈いたします。
ハンナのスキルアップの機会はこれが最後ではありませんので、
次の機会にも検討してみて下さいね。


>>874
初心者に対するコーチングの基本としてはその通りですね。
いいところを探して褒めながらうまいこと技術的な修正を施していくのが肝心です。

877 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/22(月) 18:34:57 ID:???
***

B 長所を伸ばすようにアドバイスする:『逆境での根性』
(特性効果を「ダイスが30以下だった場合」に強化します)


「ハンナ。俺が見たところ、お前には幾つかの欠点がある」
「う……」

突然の指摘に、ハンナが面食らったようにのけぞった。
そんなハンナを前に腕組みをしたまま、森崎は重々しく続ける。

「だが、それ以上に光るものが、お前には備わっているように思えた。それは……」
「それは?」

緊張の面持ちで森崎の言葉を待つハンナ。
こくり、と小さく喉が動いた。
たっぷりと間をとって、森崎が口を開く。

「それは―――根性だ」
「え」

一瞬、訪れた静寂はハンナの意識の空隙であっただろうか。

「え……ええー!?」

引いた波が再び押し寄せるように、ハンナが叫ぶ。
がしりと、森崎の腕を掴んだ手に込められる力が当惑の度合いを示していた。

878 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/22(月) 18:35:58 ID:???
「こ、根性って、それ精神論っていうんじゃ……そうじゃなくて、もっとこう、
 テクニック的なものとか、東洋に伝わる秘密の奥義とか、そういう……」

ぎりぎりと腕を締め付けながら食ってかかるハンナに、森崎がすうと息を吸うと、雷を落とす。

「―――ばかもーん!!」
「うわっ」

飛び退くように手を離したハンナに、森崎が向き直ると真面目な顔を作る。
何かを察したか、ハンナもまた居住まいを正して森崎に正対した。
頷いて、続ける。

「俺は短距離走については素人だ。技術的なことを言っても的外れかもしれねえ。
 だがな、こと誰かと戦うって点についちゃ、これでも日々タマ張ってる本職よ」
「……」
「その俺が言うぜ。お前の走りで一番の武器になるのは、その向こうっ気の強さだ」

向こうっ気、と口の中で呟くハンナ。
浮かぶ困惑は、隠しきれていない。

「お前、さっきの走りだけどな。向こう正面でもうヘロヘロだっただろう」
「う……はい」
「それで、どうだ。そのままへばったか。もうダメだ、諦めようと思ったか」
「そんなわけ、ない!」

即答だった。
答えに迷う余地がないという、それは一直線の声音。

「走ってれば苦しいのは当たり前だよ。足だって胸だってお腹だって頭だって、
 全部ぜんぶ笑っちゃうくらい痛いよ。だけど、そこからなんだから!」
「ほう、何がそこからだ」

879 :異邦人 ◆ALIENo70zA :2012/10/22(月) 18:37:11 ID:???
探るように尋ねる森崎に、ハンナが決然と言い放つ。

「勝負だよ! 勝負はそこから始まるんだ! 苦しくて、痛くて、だからって
 そこで諦めたら、ボクより前にいるやつには絶対に追いつけない!」
「そうだな」
「だから、ボクは諦めたりなんかしたこと、ないよ! 足が動かなくなっても、
 気持ちだけは……って、え?」

なおも何かを言い募ろうとしたハンナだったが、森崎があっさりと頷いたのに一足遅れで気付き、
戸惑いの表情を浮かべる。
そんなハンナに、森崎がにやりと笑って言った。

「それだよ。それがお前の武器だ。苦しいとき、どん底だろうと限界だろうと
 絶対に食らいついてやるって気持ちの強さが、ハンナ、お前を育てたんだ」
「……そう、かな」
「おう」

困惑を拭いきれぬハンナの背中を押すように、森崎がはっきりと頷く。

「だから、磨きな。手前ぇの胸や腹や頭ン中にある武器ってのは、磨いてやらなきゃ錆びついちまう。
 けどな、丁寧に手入れしてやれば、いつまでだってお前を助けてくれるもんなんだぜ」

ぐっと拳を握り、森崎がハンナの眼前に突き出す。

「戦えよ、ハンナ。お前の武器と一緒に」
「……はい。……はい!」

返事は二度。
一度目は、噛み締めるように。
二度目は、拳と共に。

「頑張んな。俺も、遠くから気にはかけてるからよ」

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