キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【SSです】幻想でない軽業師

1 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/20(土) 21:45:02 ID:???
Act.1 その時の結末

後半16分。

45分ハーフ、現時点で5−3でのビハインドという劣勢。

佐野「ハァ……ハァ……!」

フランス国際Jrユース大会、準決勝。
全幻想郷Jrユース対、魔界Jrユース。
どこからどう見てもJrユースという年齢層には見えない選手たちを抱えながら、
両チームはぶつかりあっていた。

ぶつかり合った結果が、先に出したスコアである。
電光掲示板に映るその数字を見ながら、魔界Jrユースの――キャプテンですらない、一選手。
"彼"は、走り回る。
走り回る事しか、今の自分に出来る事は無いと知っているから。

佐野「(ふざけんな……! ふざけんなふざけんなふざけんな!!!!)」

叫びたい気持ちを、押し殺しながら"彼"はひた走る。
その脳裏に、ここまでの道程がフラッシュバックした。

ボール運び程度なら出来ると、幻想郷へと召喚され。
しかしながらゲームメイカーには到底足りないと勝手気ままに烙印を押され、あっさり現実へと送還。
かと思えば使い道はあると言われ、妖怪の賢者に送り込まれた先はサッカー未開の地、命蓮寺。
まるでサッカーの素人ながら、素質はある彼女たちと切磋琢磨をし、
召喚の根本となった賢者の傍らにいる天才に羨望の目を送り、そして要因となった魔王をめざし。

244 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/15(木) 00:59:22 ID:???
という事で一旦ここまで。
紅魔館からの留学選手はKY長に決定しました。

それでは。

245 :森崎名無しさん:2018/02/15(木) 22:09:32 ID:???
咲夜さんやらかし過ぎてついに左遷される
左遷…もとい留学先はどこなんだろう?ボランチ向きの留学先ってパッと思い浮かばない

246 :森崎名無しさん:2018/02/15(木) 22:38:28 ID:???
よっしゃDMFの留学先ならヤウンデかポルトや(サカつく脳)
まあ真面目に考えたらイタリア辺りが良さそうではある

247 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/15(木) 23:49:22 ID:???
>>245-246
留学先についてはまた後々判明させる事が出来ればなと思います。
あとあまり中の人はリアルサッカー事情詳しくないので、
なんつートコ送っとんねんというツッコミもあるかもしれませんがご容赦を。

本日は更新はお休みです。
明日には更新出来ると思います。それでは。

248 :森崎名無しさん:2018/02/15(木) 23:49:42 ID:???
本編でボランチ強くて苦戦した国って無かった気がする
日本のボランチが一番強いかもしれない…日本留学してもなー
イタリアかドイツで組織的な守備を学ぶとかかな

249 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:18:31 ID:???
>>248
本編ですと、大体守備が強い選手はDFって感じだった気がしますね……。
WYでのドイツはカルツとシェスターをDMFに配置してましたが、この2人もDMFってイメージはあまり強くないですね。

短いですが投下します。

250 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:19:59 ID:???
命蓮寺や紅魔館とは逆に、所属をする選手が少ないという勢力もある。

妖夢「(…………どうしましょうか)」

魂魄妖夢――今は他チームに在籍をしているが、彼女の大本の所属である白玉楼もまた、
その所属選手が数少ない勢力の1つであった。
彼女はつい先日、主人である幽々子に留学の件について言い渡されていた。
白玉楼に所属をする選手といえば、今は幽々子ただ一人。

しかしながら当然、Jrユース大会の時のような短期間ならまだしも、
亡霊であり冥界の管理者である幽々子が外界に3年間も留学をするという事が出来る筈もなく、
白羽の矢が立てられたのは白玉楼を離脱した筈の妖夢であった。

幽々子から通達をされてから数日。妖夢は考えに考えていた。
留学をする――即ち、己を鍛え直す環境に身を置けるというのは、彼女にとって大きなメリットである。
元々、彼女はよく比較をされる人間組――霊夢や魔理沙といったグループと一括りにされながらも、
実力においては一枚も二枚も下回る。
才能はあるが半人前、才能はあるが運が無い、才能はあるがまるで芽が出る様子も無い。
そういった声が幻想郷サッカーファンから上がる事も多々ある。

妖夢「(厳しい環境に身を置けば……みんなとの実力差も縮まる。
    ……流石に、リグルよりも下なんて地位に甘んじる事は無くなる筈)」

ナチュラルに自分には才能がある筈なのだから、と考えるあたりが非常に甘い。
終ぞ幻想郷Jrユースでは出番が来なかった身という、崖っぷちの状況にありながらも、
己は強いと無自覚に思える――中途半端な実力を身に着けていたのが彼女の悲劇である。

ただ、彼女が己の評価をどうするかはともかく――留学によって力をつける事が可能だろうというのは事実である為、
それは一旦置いておこう。

251 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:21:16 ID:???
妖夢「(ただ……留学をするとなれば、当然幽々子様の元から離れる事になる……それに……パルスィたちとも)」

白玉楼を離れ、妖夢が選んだ――というよりは半ば無理やり引き入れられた新天地、ネオ妬ましパルパルズ。
キャプテンである橋姫、水橋パルスィの強引過ぎる勧誘により、
妖夢だけならず幻想郷では名だたる選手として知られる八雲藍、アリス=マーガトロイドまでもが加入。
ついには強豪とも呼ばれるまでのチームへと成長へと遂げた。

そんなパルパルズに対して、妖夢は愛着を持っている。
当初は強引に引き込まれた事に対して乗り気ではなかったものの、
白玉楼を離れ――幽々子の従者としてではなく、1人の魂魄妖夢としてサッカーをする事が出来たのは楽しい経験だった。
交流の深かった藍や、人当たりのいいアリス。気さくで面倒見のいいヤマメや無口だが仲間思いなキスメ。
サッカーを通じて彼女たちと仲を深めるのも、今までにない事だった。
……一部、あまり仲を深めたくは無い者もいたが。

なんにせよ、パルパルズから離れがたい――妖夢にはそういった感情もある。

妖夢「(パルスィたちに話した時は、みんな私の好きにすればいいと言ってくれたけど……)」

この悩みを、妖夢は既にパルスィたちへと相談していた。
元々義理堅く、隠し事などが苦手な妖夢。
おまけに藍はこの留学計画を提案した紫の式――妖夢にその話が渡っている事もわかっていただろう。
留学をして今よりも強くなりたい……しかし、チームから離れる事も嫌だ。

なんとも我儘な本心を彼女はぶちまけたが、それに対して明確な答えが返ってくる事はなかった。
行くも行かぬも、結局は妖夢本人。妖夢自身が決めるしかない事なのだから、当然と言えば当然であったが。

妖夢「(…………まぁ、当のパルスィ本人はまともに返事をしてくれもしませんでしたけどね)」

パルスィ『妬ましい……! あっさりと強くなる機会を貰えたあなたが妬ましい……!!』

脳裏に相談をした時のパルスィの言葉がよぎり、思わずため息を吐く妖夢。
藍やヤマメといった者たちは真摯に答えてくれただけに、なんとも言えない気持ちである。

252 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:23:18 ID:???
シェスター「サムラーイ! どうしたんだい、ボーッとして」
妖夢「あ、シェスター。 ……練習はもういいの?」
シェスター「うん、ちょっと休憩だよ。 ヨームはしなくていいのか?」
妖夢「うん……まぁ、色々集中できなくて」

こうして妖夢が悶々と1人悩んでいた所、声をかけてきたのはフランツ=シェスター。
かつてアリスが呼び出した、外界からの助っ人選手であった。
ニンジャフリークが高じて日本の文化(多分に間違った知識もある)を好む彼は、
先日のJrユース大会後、戻っていた西ドイツを離れ再び幻想郷のネオ妬ましパルパルズへと復帰をしていた。

西ドイツの元いた所属チーム――ブレーメンへとそのまま戻る選択肢もあったが、
彼の燃えに燃える日本愛が優ったという事だろう。
或いはカルツ……もとい、西尾?や反町も残るのならば、と気持ちの上で楽になった面もあるだろう。
無論、ネオ妬ましパルパルズへの愛着もまたあったのは言うまでも無い。

そんなシェスターは、幻想郷へと戻ってきて――しかし、観光に勤しむ訳でもなく、
パルスィ達と共に練習に明け暮れていた。
普段から彼が練習をしないという訳ではないが、その熱心さは以前にも増しているように妖夢には見えた。
あまりの練習に対する熱意に、松岡監督からも太鼓判を押される程である。

今もまた、朝早くからネオ妬ましパルパルズが本拠としている練習グラウンドで、
松岡監督に付き合ってもらいながら汗を流していたシェスター。
今日の練習は昼からの予定であるにも関わらず、だ。

妖夢「本当にここの所熱心ね。 帰ってきてから……ほぼ毎日じゃない?」
シェスター「そうかな? ……うん、そうかもしれない」

タオルで汗を拭いながら、シェスターは肩を竦める。
でも、まだまだ満足はしていないとばかりに。

253 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:25:30 ID:???
シェスター「Jrユース大会じゃ悔しい思いしたもんね。
      俺もカルツも、それにヨームのオヤカタサマであるユユコさんも……。
      幻想郷でつけた力を見せつけられず、ギャフンと言わされちゃったからね」

そう、先のJrユース大会――シェスターが参加をした西ドイツJrユースは幻想郷Jrユースにやはり完敗をした。
西ドイツの皇帝カール=ハインツ=シュナイダーをキャプテンとし、
幻のゴールキーパーと呼ばれたデューダー=ミューラーを招集。
ここに幻想郷へと召喚をされて大きく力をつけたカルツ、シェスター。
更にはレミリア、幽々子、神奈子といった派遣選手を取り入れ、正に万全とも言うべき体勢を取りながら……。
しかし、割とあっさりと敗れてしまったのである。

その敗北の原因を、シェスターは自分が不甲斐なかったせいであると認識していた。

シェスター「シュナイダーもレミリアさんも、反町や魔理沙さん達には負けてなかった。
      ミューラーだって相当なキーパーだよ。 西ドイツが負けたのは、やっぱり中盤が支配できなかったからだ」

カルツ、シェスター、共に力をつけたとはいえ――しかし、幻想郷の中盤は圧倒的だった。
霊夢、咲夜、ヒューイ。攻撃においてオールマイティな性能を持つOMFと、ボール狩りにとにかく長けたDMF。
これに前後半どちらかしか出場出来ないとはいえ実力は抜きんでているパチュリーや、
シェスターらの誇るキャプテンであり極限までドリブルを磨き上げたボールキープの鬼パルスィまでいる。

彼女たちを前に、シェスターたちは為すすべなくやられたのである。

妖夢「…………」
シェスター「俺達がもっと上手くやれてれば、
      シュナイダー達にボールを供給する事が出来たし反町達に打たせる回数も減らせたんだ。
      まぁ、今更言い返してもたらればでしかないけど……次の戦いを見据えて、今からもっと練習しておかないとね」
妖夢「次……」
シェスター「そうさ! 幻想郷にいれば、みんなに対してリベンジが出来る機会があるだろ?」

254 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:26:48 ID:???
この時、思わず妖夢は感心をした。
元々呑気なように見え、実際妖夢や藍を見かけてはサムライだのキュービだのと声を大にして叫ぶシェスター。
どこかおちゃらけているように見えて、その実かなり熱いハートの持ち主だという事に。
いや、思い返してみれば――パルスィの異常なまでの嫉妬心に感応しチームの為にとパルパルズに貢献してきた男である。
普段が普段でも、根っこの部分を見ればサッカーに対する情熱はかなりのものなのだろう。

妖夢「(単純にこの幻想郷が日本の原風景を残しているからという理由で残った訳じゃなかったんだ……)」

それも理由ではあったのだろうが、幻想郷の選手たちにリベンジをしたいという気持ちも嘘ではないのだろう。
シェスターに対して内心謝罪しながら、妖夢はそして、1つ溜息を吐く。

妖夢「(次って言われて気づいたけど……そうか、また皆と戦うんだ)」

幽々子からの留学の件が頭にあった為に忘れていたが、時が来ればまた幻想郷サッカー界も動き出す。
しばらくすればどこかの勢力からまた、大会の知らせが入るだろう。
再び全幻想郷Jrユースとして戦うのではなく、各々のチームに戻っての戦い。
今この時、練習をしているのも――その戦いで勝利を収める為なのだ。
しかし、である。

妖夢「(今の私で……他のチームのGKから点を奪えるだろうか)」

255 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:28:30 ID:???
妖夢は自分の実力には自信を持っていた。
先にも言った通り、ナチュラルに己を強者であると認識をしていた。
実際に彼女は相応の実力者ではあるのだが――あくまでも、それなりのである。

例えばそれが紅魔スカーレットムーンズのように、キーパーが名無しならば妖夢でも点が取れる。
或いはそれが永遠亭ルナティックスのように、ザルキーパーの代名詞が守るゴールからなら――多分妖夢でも点が取れる。

ならばこれが守矢フルーツズの早苗が相手ならば?
早苗でなくてもいい、その守矢に移籍をした大妖精が相手ならば?
どこのチームに所属して参加をするかわからないが、伊吹萃香が相手ならば?
否、それどころか――このネオ妬ましパルパルズのゴールキーパー、黒谷ヤマメからもゴールを奪えるだろうか?

妖夢「………………」

自分を強者であるとは思いながらも、それでも彼我の実力差を図れない訳でも妖夢は無かった。
故に、自問自答をして――その確率が低いという事もわかっていた。

妖夢「(勿論私も練習をする、して、でも……それと同じだけ、周りも練習をするだろう。
    差は縮まるのだろうか。 次の時までに)」

その確率もまた、恐らくは低いのだろう。
このまま幻想郷に残る――それでは結局、このまま幻想郷サッカーの歴史の中で、
自身の名は反町や魔理沙らといった者たちに埋もれてしまうのではないかと考えてしまう。
それならば、やはり――環境を変えてみるのもいいのでは、それもまた魅力的に感じてしまうのだ。

256 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:29:55 ID:???
シェスター「ヨーム、どうしたんだい?」
妖夢「あ、ごめん。 考え事を……」
シェスター「ヘタの考え、釈迦寝に似たりだよ!」
妖夢「……思いっきり寛いでますねそれは」

微妙に惜しいシェスターの間違いに苦笑いをしつつ、妖夢はもう一度相談をしてみるのもいいかと考え、
シェスターに対してぽつりぽつりと悩みを打ち明けだした。

シェスター「うーん、前も聞いたけど留学かぁ……ヨームはどうしたいんだい?」
妖夢「それが私にもさっぱり。 ……強くなりたいという気持ちは確かにある。 その為には、留学が1番だとも思う。
   でも……不本意ながら、私もこのチームからはやっぱり離れたくない」

強くはなりたい、だがチームは離れたくない。
離れなければここで練習をして強くなるしかないが、それでは周囲と成長速度もほぼ同じになるだろう。
二律背反、どちらも取れず、だからこそ妖夢は悩んでいる。

妖夢「白玉楼を離れてサッカーをするのは、本当に楽しかった。
   ……いや、幽々子様とサッカーをするのが嫌だという訳じゃないけど。
   ただ、藍さんやアリス。 ヤマメやキスメ、シェスターと一緒に過ごすのが楽しかった」
シェスター「俺も!」
妖夢「うん……だから、離れたくない。 でも……留学に行けば、チャンスが広がる。
   もしかしたら、反町や魔理沙にだって追いつけるかもしれない」

257 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:31:03 ID:???
そこまで言ってから、妖夢は「どう思う?」と、視線でシェスターに問いかけた。
シェスターはその意図に気づき、しばらく無言で腕を組み、唸っていたが……。

シェスター「ヨームがしたい道を選ぶのが1番。 1番だけど……」
妖夢「だけど?」
シェスター「……ヨームはここでするサッカーが楽しいって言ったよね?」
妖夢「? うん」
シェスター「……楽しくないサッカーっていうのも、知るべきかもしれない」

次に口を開いて出た言葉に、妖夢は思わずすぐ反応出来なかった。

妖夢「……楽しくないサッカー?」

そして、反応がようやく出来ても――それはただの鸚鵡返しとなってしまう。
だが、シェスターはそんな妖夢の反応にも真剣にコクリと頷き返した。

――無論、妖夢もサッカーをしていて楽しい以外の感情を抱いた事はある。何度もある。
例えばそれはドリブルやシュートが失敗をした時。
例えばそれは試合に負けてしまった時。
例えばそれは他の強者に居場所を奪われ、ベンチから試合を見つめるしかなかった時。

しかし、シェスターは妖夢がそんな気持ちを抱いた事があるのも知っている筈だ。
ならばきっと、楽しくないサッカーというのは、そういったものとはまた違うものなのだろう。
では、何故そんなものを『知るべき』だというのか。

シェスター「ヨームはパルパルズでのサッカーが楽しいって言ったよね?
      でも……外のサッカーは、楽しいだけじゃ出来ない」
妖夢「? 楽しいだけじゃ出来ない?」
シェスター「少なくとも、楽しむと強くなるを両立するのは難しい。 俺はそう思う」

258 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:33:36 ID:???
基本的に、幻想郷のサッカーというのは、趣味の延長線上のようなものである。
競技に準じる者たちも、本職を持っている場合が多く、
だからこそ草サッカー的な楽しみを第一とした主義主張といったものが色濃く出る。
しかし、外界のサッカーはそのような甘いものではない。

シェスター「外の世界の……少なくとも、俺がいた世界でのサッカーは、金を稼ぐ為のサッカーだよ」
妖夢「お金を?」
シェスター「うん。 サッカーをすることで、お金を――お給料を貰う。
      俺がいたのは、そういうチームの更に下部組織。
      将来的には、外の世界にもし戻っていれば、そこを目指していただろうからね」

それは幻想郷サッカーではありえない話であった。
例えば、大会の副賞として現金などが貰える事はある。あるが――しかし、サッカーをしていて恒常的に給料を貰える事などはない。
基本的に、先にも述べたように幻想郷サッカーは道楽なのである。
そこに金銭や何かという、野暮なものが介入する余地は無い。

シェスター「ただ、外の世界は違う。 ……俺はまだマシな方だよ。
      でも、もっと生活が苦しい者は、サッカーで一山当てようとする。 そうすればどうなるか……」
妖夢「…………どう、なるの?」

含ませるようなシェスターの言葉に、しかし、妖夢は首を傾げるだけで……。
それに苦笑いをしながら、やはり妖夢は外の世界に行くべきだ、とシェスターは思う。

シェスター「強くなりたい。 単純に強くなるだけなら、信念さえあればなれるかもしれない。
      楽しみたい。 単純に楽しむだけなら、このチームにいれば草サッカーの延長が出来るかもしれない」
妖夢「………………」
シェスター「でも……更にその先を目指すなら、やっぱりヨームは外の世界に行くべきだと思う」
妖夢「…………うん」
シェスター「俺も強くなりたい、楽しみたいっていう気持ちがあった。 でも、それでもここを選んだ。
      ヨームも、楽しくないけど強くなれるかもしれない――他に得るものがあるだろうサッカーか。
      それともただ楽しいというだけのサッカーか。 どちらも知った上で、選んだ方がいいんじゃないかな?」

259 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:35:42 ID:???
それはシェスターが、パルパルズでする楽しいサッカーと、外の世界の楽しいとは言えない事もあるサッカーを通して下した決断。
敗北を受けてからは人一倍熱心に練習に繰り出し、反町達へのリベンジに燃えながらも――。
それでも、より成長出来るような環境を選ばなかったシェスターの言う、『楽しくないサッカー』。

妖夢「(一層、行きたくはなくなった……けど……)」

厳しい環境に置いてこそ、己は磨かれる。
少なくとも妖夢はそう師匠に教えられたし、そう信じていた。
今の言葉を聞いて、尚一層、外の世界の環境は厳しいものなのだと感じた――ならば。

妖夢「ありがとう、シェスター」
シェスター「ん?」
妖夢「ようやく迷いが晴れた」

思えば、迷いを断ち切る刀を持つ自身が、迷いを見せるなど言語道断。
それでも迷いを見せていたが、しかし、今の問答でようやく妖夢は答えを導き出した。

妖夢「私は……留学に行く」
シェスター「……そっか。 うん、なら応援するよサムラーイ!!」

260 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:37:45 ID:???
強くなる。
厳しい環境に身を置いて、一層の修行を持って強くなる。
楽しくないサッカーというものがどういうものなのか、それは未だに妖夢にはわからない。
ただ、それでも、恐らくは幻想郷の中で一番(反町は秀才ではあるがあくまで日本出身、西尾?はそもそも本国の事情を喋りたがらない)、
外の世界のサッカーに精通をしている者の助言である。

妖夢「それまで、パルパルズの事はお願い」
シェスター「もっちろん! 任せてよ、打倒オータムスカイズ!ってね」

迷いを持っていた少女は、井の中――の外を知る少年の言葉を受け、空へと飛び立った。
厳しい環境に身を置き、知らない事を知り、そして今いるチームの助けとなる事を信じて。
彼女がはばたくか、それとも地に堕ち、幻想郷界隈ではその他大勢も多くいるFWの一員と成り下がってしまうのか。
それはまだ、誰も知らない。

261 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:39:00 ID:???
反町、魔理沙、リグルにポジションを独占されてはしまったものの――それでも、彼女の実力が低い訳ではない。
スピードを生かしたダイレクトシュートと、半霊も使った特有のドリブル能力。
得点を取るのは妖夢に任せるかパルスィのドリブルゴールかの二択というのがパルパルズの方針。
その内の1つが無くなる――というのは、あまりにも痛い損失ではある。
痛い損失ではある、のだが――。

かといって、いなくなったからといってまるで点が取れない可能性が無い、という訳でもない。
藍もアリスも、ダイレクトシュートならば妖夢にも負けない程のシュートを打てる。
自己を過大評価をする妖夢に対して、周囲の評価と言えばその程度である。残念ながら。

ただ――かといって、彼女が不要だからと言って留学に向かわせた訳ではなかった。
事実、先に書いた通り、彼女たちの多くは今回の件に関して、妖夢に一任をするつもりだったのだから。

パルスィ「……いいえ、これでいい。 妖夢は、これでいいのよ」

しかし、それを鶴の一声で妖夢を外界へと向かわせるよう仕向けたのがパルスィである。
妖夢とシェスターが語り合う後方、藍達と共に茂みの中から顔だけを覗かせてそう呟くパルスィの姿は、
滑稽を通り越して非常にシュールであったが……彼女が妖夢を想う気持ちは本物である。

パルスィ「我がネオ妬ましパルパルズ。
     打倒オータムスカイズを目指し、ここまでやってきた」

弱小から這い上がり、ついには幻想郷有数のチームへとなったパルパルズ。
藍、アリス、妖夢、シェスター……といった数多くの実力者を備えてここまでの地位に上り詰めたチームでもあったが、
しかし、その基本形は前身である妬ましパルパルズ時代からのものである。
即ち、ヤマメ・キスメという最終ラインが守り、パルスィが攻める。
ドリブル・ブロック・一対一。いずれにも精通をした強者がいたからこそ、彼女たちはここまで這い上がってきた。
弱者が強者を食い破る、才能の無い者が才能のある者を圧倒する、ただ一つの道筋を信じて。

262 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:40:40 ID:???
………
……


アリス「なんとかうまくいったけど……これでよかったの?」

そして、この妖夢とシェスターのやり取りを生暖かい目で見守っていたのはその他のネオ妬ましパルパルズの面々である。
本日は午後からの練習、にも関わらずここにはアリスをはじめとして、
チームを構成する全員が揃っていた。
……それもこれも、キャプテンであるパルスィが、
シェスターになんとしても妖夢を外の世界に留学に行かせるように説得せよと命令し、その様子を見守っていたが為である。

ヤマメ「妖夢は確かにいい子だよ。 才能だってある。 でも、このままじゃそれも腐っちまうってパルスィの判断だね」

妖夢は、基本的に常識的な人物である。
一時的に見た人を定期的に斬り殺そうとしていた時期もあるが、それはそれ。
温厚で真面目で、力をつける事に対して貪欲でありながら――しかし、幼稚であった。
力をつけたいが愛着のあるチームも捨てがたい。
彼女が迷っていたのは、そんな彼女の性格も多分に影響をしているだろう。

藍「いいか悪いかで言えば、パルパルズにとっては大きな損失だ。
  現時点でも、妖夢の得点力はパルパルズにとって必要不可欠だからな」

263 :>>261は無視してください ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:42:50 ID:???
反町、魔理沙、リグルにポジションを独占されてはしまったものの――それでも、彼女の実力が低い訳ではない。
スピードを生かしたダイレクトシュートと、半霊も使った特有のドリブル能力。
得点を取るのは妖夢に任せるかパルスィのドリブルゴールかの二択というのがパルパルズの方針。
その内の1つが無くなる――というのは、あまりにも痛い損失ではある。
痛い損失ではある、のだが――。

かといって、いなくなったからといってまるで点が取れない可能性が無い、という訳でもない。
藍もアリスも、ダイレクトシュートならば妖夢にも負けない程のシュートを打てる。
自己を過大評価をする妖夢に対して、周囲の評価と言えばその程度である。残念ながら。

ただ――かといって、彼女が不要だからと言って留学に向かわせた訳ではなかった。
事実、先に書いた通り、彼女たちの多くは今回の件に関して、妖夢に一任をするつもりだったのだから。

パルスィ「……いいえ、これでいい。 妖夢は、これでいいのよ」

しかし、それを鶴の一声で妖夢を外界へと向かわせるよう仕向けたのがパルスィである。
妖夢とシェスターが語り合う後方、藍達と共に茂みの中から顔だけを覗かせてそう呟くパルスィの姿は、
滑稽を通り越して非常にシュールであったが……彼女が妖夢を想う気持ちは本物である。

パルスィ「我がネオ妬ましパルパルズ。
     打倒オータムスカイズを目指し、ここまでやってきた」

弱小から這い上がり、ついには幻想郷有数のチームへとなったパルパルズ。
藍、アリス、妖夢、シェスター……といった数多くの実力者を備えてここまでの地位に上り詰めたチームでもあったが、
しかし、その基本形は前身である妬ましパルパルズ時代からのものである。
即ち、ヤマメ・キスメという最終ラインが守り、パルスィが攻める。
ドリブル・ブロック・一対一。いずれにも精通をした強者がいたからこそ、彼女たちはここまで這い上がってきた。
弱者が強者を食い破る、才能の無い者が才能のある者を圧倒する、ただ一つの道筋を信じて。

264 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:44:30 ID:???
パルスィ「だからこそ私は妬ましい。 才覚ある妖夢がこのまま腐ってしまうのは。
     あいつは……私を差し置いて、このチームのエースになれる才能を持ってる。
     それだけで妬ましいのに、それを腐らせるなんて……ああ……妬ましい、パルパル……」
ヤマメ「……心配ないと思うけどねぇ、妖夢って真面目だし。 練習をサボるような奴じゃないだろ。
    反町達に負けてるって言ったって、それで腐るようなタマじゃないだろうさ」
パルスィ「いいえ、腐る。 ……何せ、妖夢は綺麗過ぎる」
ヤマメ「うん?」

パルスィの言ってる意味がわからない、と思わず首を捻るヤマメであったが――。
しかし、藍やアリスなどは理解出来たのか、納得をしたように首を縦に振る。

パルスィ「藍やアリスはまだ……私の思想に共感を抱いて、このチームにいてくれる。 シェスターもそう。
     ただ……妖夢は、あくまでも『楽しいから』というただそれだけでいる。 ……それでは駄目」
藍「……言わんとする事はわかる」

何をするにも、信念――折れない根本が必要である。
ここにいる腐れ縁であるヤマメやキスメだけではなく、
アリス、藍といった者たちも――パルスィの掲げる、たった1つの題目に引き寄せられた。
当初は成行き任せだったとはいえど、今では彼女たちも心から信頼出来る仲間である。

そして、それはシェスターもまた同じであった。

パルスィ「あいつは尚更そう。 外の世界とこちらを知っていながらも、私達を選んだ。
     確固たる信念で」

265 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:46:11 ID:???
パルパルズに残留する事を決め、この幻想郷に残ったシェスター。
外の世界とパルパルズとを知る彼だからこそ、パルスィは彼に妖夢の説得役を任せた。
彼女の言う、妖夢の綺麗さを――汚すように、と。
当初、シェスターはこれに対し、妖夢の自由にさせるべきではないかと考えていたが――それもパルスィに説得され、了承する。
彼としても、妖夢の有り余る才覚を腐らせてしまうのはあまりにも勿体ないと考えたのだろう。

パルスィ「ああ、妬ましい……穢れも知らぬまま、のうのうとサッカーをしようとする妖夢が妬ましい……」
ヤマメ「あちゃ……また始まっちゃったよ」
アリス「ま、今回ばかりはいいんじゃないの?」

爪を噛み、呪詛を呟き始めるパルスィを見て溜息を吐くヤマメに対し、
アリスは肩を竦めながらそう言い放った。
彼女の視線の先には――妖夢とシェスターがいる。

妖夢「私は3年間で、必ずこのチームに不可欠な選手として帰ってくる」
シェスター「ヨームなら出来るさ! っていういか、今でも不可欠だよ!」
妖夢「…………ありがとう。 ごめんね。 みんなに迷惑をかける事になるけど」
シェスター「大丈夫さ。 みんなも言ってただろ、ヨームの好きにしたらいいって!」

いる。いるのだ。パルスィが大好きで大嫌いな、年頃の男女(しかも美形)が。がっつりと将来の事を話し合っているのだ。
無論、彼女たちに他意はない。互いに好意こそ持っているものの、恋愛的なあれそれではない。
無いが、それを見てパルスィがどういう反応をするのかはまた、別問題である。
それを考えれば、パルスィが勝手に妖夢の才覚に嫉妬をしてくれている方が遥かにマシというものだろう。

松岡監督「身体も心も熱くなってきた!!」
しっとマスク「ムハハ! どれ、ここは私がシェスターと同じく妖夢を後押ししてくるとするか!!」
ヤマメ「よしなしっとマスク! あとついでに監督!!  それ以上、いけない」
キスメ「…………」←><という顔をしてる

こうして将来を語り合う男女と、それを見守る仲間たちと、あと賑やかし要員。
てんやわんやもありながらも、こうして未完の大器と言われた少女――。
魂魄妖夢は己の殻を破る事を胸に、世界へ羽ばたく事を決断したのだった。

266 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/16(金) 23:49:26 ID:???
一旦ここまで。
自信家だけどPK外しちゃうみょんすき。

それでは。

267 :森崎名無しさん:2018/02/16(金) 23:54:33 ID:???
乙です
これはオランダゆきかな?

268 :森崎名無しさん:2018/02/17(土) 00:13:41 ID:???
オランダ留学でダーティなサッカーを学んだ妖夢
そして3年後、大事な場面でマリーシアがバレて赤紙を貰う妖夢の姿が!

269 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/18(日) 01:42:11 ID:???
>>267
乙ありです。
オランダは思想はともかく、FW陣が高いレベルのドリブラーダイレクトシューターと妖夢が手本にすべき見本がいますね。
>>268
これにはパルスィも苦笑い

本日も更新はお休みさせてもらいます。それでは。

270 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/18(日) 23:07:46 ID:???
本日もお酒を飲んでしまったので、更新はお休みさせていただきます。

271 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/19(月) 22:17:13 ID:???
本日も更新はお休みさせていただきます。
明日には更新出来ると思います。

272 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:16:51 ID:???
悩める者もいる一方で、留学を打診されて喜ぶ者もいる。

輝夜「……という訳でイナバ。 八雲紫から持ち掛けられた留学の件……。
   今回はあなたに行ってもらう事にしたわ」
うどんげ「は、はいっ!!」

宵の帳も落ちた迷いの竹林の更に奥、まともな人間ではまず到達できないような場所に佇む屋敷――永遠亭。
ここでは主人である蓬莱山輝夜自らが、留学に向かわせる選手をじきじきに選定し、その密命を言い渡していた。
これを受けたのは永遠亭の誇る薬師――。
の見習い兼家事担当兼雑事担当兼お庭に沢山いるうさぎのまとめ役兼つまりは雑用担当、鈴仙=優曇華院=イナバである。

通称をうどんげとする彼女は、非常に元気よく返事をした。
先ほどから懇々と輝夜が留学について説明する内、もしかしたら自分が選ばれるのかもしれないと考え、
実際に自分が選ばれたのだから当然でもある。

永琳「頼んだわようどんげ。 永遠亭の未来は貴女の双肩……もとい、両足にかかっているわ」
うどんげ「は、はい! お任せ下さい師匠!(師匠にも期待されてるんだ!!)」

尊敬する師匠――永琳にも叱咤され。

てゐ「ま、頑張ってきなよ。 逃げ出さないようにね〜」

(一応)部下であり気心知れた仲である因幡てゐにはかつての汚点をしっかり皮肉られながらも応援され。
うどんげは完全にやる気に満ち満ちていた。

うどんげ「(サッカー留学……私にもこんなチャンスがようやく巡ってきた!
      これでやっと地味で毎日慌ただしい生活とはおさらばだ……うぅ、これまで耐え忍んできた甲斐があったよぉ)」

273 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:18:53 ID:???
彼女も勿論、永遠亭の者たち――そして、生活自体が嫌いな訳ではない。
月の戦争が嫌で嫌で、思わず逃げ出した臆病兎。
そんな彼女を受け入れてくれた永遠亭に、感謝の気持ちはある。あるが――。
地上の人間は穢れているというエリート意識と、そんな地上で毎日あくせく働いている自分へのストレス。
それらはいかんともしがたい問題として、うどんげの心中に存在をしていた。

元々、彼女自身――サッカーについても弾幕ごっこについてもリアルガチの戦闘力でもそこまで低いものではない。
無論高い方ではないのだが、幻想郷全体の尺度で考えれば、まぁ、ギリ上位から数えた方が早いんじゃないかなというレベルである。
にも関わらず、彼女は自身が軽んじられていると感じていた。

部下のウサギは自分の言う事をまるで聞かないし(ウサギからの人望はてゐの方がある)、
里に薬売りに出かけてもあまり人は買ってくれないし(単純にうどんげの営業がド下手であるだけ)、
家事全般など雑事は全部丸投げされるし(輝夜は姫なのでしない。永琳も色々忙しい。てゐが手伝う筈もない)、
おまけにサッカーではそこそこの実力があるにも関わらず何故かいつも伏兵呼ばわりである。
名無しばかりのチームに行けば、自分だってエースになれる実力はある筈だ、とうどんげは自負していた。
――誰だって名無しばかりのチームに行けばエースになれるとは言ってはいけない。

なにはともあれ、彼女は現状に対して小さくない不満を抱いていたと言える。
しかし、これもサッカーが上達すれば――きっと事態も好転をする筈だと考えてもいた。

274 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:20:42 ID:???
うどんげ「(名無しの妖精だってサッカーで活躍すれば人気が出るんだもん。
      私だって活躍出来れば人気者になれる筈! そうすればきっと待遇だって変わってくるわ!)」

問題はどうやってサッカーの技術を高めるかである。
1人で練習をしたところで上手くなれない、上手い人に教えて貰って初めて上達すると考えていたうどんげとしては、
これが忌々しき問題であった(なお、この考えを他人に吐露した所、『情けない奴!』という感想を抱かれた)。

何せ永琳は多忙の身――幻想郷一の薬師である彼女は、常に多くの患者を抱えている。
月の天才の異名を持つ彼女にサッカーの教えを乞えれば万事解決だったのだが、
残念ながら永琳はうどんげに最低限の基礎能力を備えさせたまではいいものの、その後はうどんげの自主性に任せていたのだ。
練習を見てくれと言っても、簡単なアドバイスをしてくれるだけで大きな変化は無い。

うどんげ「(でもサッカー留学をすればきっと詳しいコーチの人とか上手い人とかに教えてもらえるはず!
      そうすれば私の実力なら師匠の相棒を名乗るに恥ずかしくないくらいになれる筈だよ!)」

そこに降って沸いた、サッカー留学の話。
幻想郷Jrユースとして戦ってきた彼女は、外の世界でのサッカーというものも見てきた。
そこでは多くのコーチといったものや先輩選手などが、まだ未熟な選手を指導している姿もあった。
もしも自分が同じように指導を受ける事が出来れば――実力は飛躍的に上がるだろうと考える。

うどんげ「(そう! これは間違いなく……)」

うどんチャンスなのである。

275 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:21:45 ID:???
うどんげ「(毎日の家事雑事から解放される。 サッカーは上手くなる。 私は師匠や皆に褒めてもらえる。
      わぁ、一石二鳥どころか一石三鳥だ!
      もう人生ライン際な状態からはおさらばだよ!)」

このうどんチャンスを見逃す程、うどんげは間抜けではなかった。
留学から帰ってきた後、自分がちやほやされる姿を脳裏に描き思わず表情を綻ばせる。
そんなうどんげの様子に対し、永琳は小さく咳払いをして意識を自分に向けさせ――。

永琳「ともかくうどんげ――留学の具体的な日取りについてはまた後日話すわ。
   あなたはそれまでにここでの仕事を片付け、身支度を整えておきなさい」
うどんげ「あ、そ、そうですね! わかりました!」
輝夜「話は終わりよ。 ……ところで夕餉は何かしら?」
うどんげ「今日はニンジンたっぷりのシチューとにんじんしりしりとにんじん山盛りの炊き込みご飯です」
てゐ「うどんちゃんの壮行会も兼ねるんだし、キャロットジュースもつけといて〜」
うどんげ「もう、しょうがないなぁ。 特別だからね!」

これからの輝かしい己の未来の前では、目の前の雑事など些細な事。
てゐのお願いを快く受けながら、うどんげは今にもスキップをしそうな足取りでお台所へと向かっていた。

今、彼女の中では周囲に期待されているという歓び。
ようやく地味で目立たず軽くみられるという損な役回りからの解放感。
そして敬愛する師匠に褒められるかもしれないという高揚感もある。
それだけ浮かれてしまうのも、仕方ない事なのかもしれない。

廊下を歩くうどんげの、ご機嫌な鼻歌を聞きながら部屋に残った3人はしばし無言でその場に座し。
やがてその鼻歌が聞こえなくなった所で……。

てゐ「…………アカン。 うどんちゃん、完全に浮かれとるウサ。
    もう強くなった後の事考えてる顔じゃんあれ」

まずはてゐがその肩をガックリと落とすのだった。

276 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:23:19 ID:???
輝夜「いやいや……まあ、やる気は十分だったみたいだし平気でしょ……多分」

輝夜もまた、不安そうに溜息を吐いていた。
うどんげの事を腐そうとするてゐに対し諌めるような発言もするが、そんな彼女の口元も引きつっている。
言っている彼女自身も、完全に浮かれているうどんげに不安があるのだろう。

永琳「とはいえ、うどんげしか送るものがいないのも事実だし……こればかりは」

そして、うどんげが敬愛するお師匠様――永琳もまた、それはそれは盛大な溜息を吐く。
何のことはない。
うどんげは大きな期待をされて留学選手に選ばれた訳ではなかった。ただそれだけの話である。

永遠亭という組織は、決して大きな勢力ではない。
主要とされる人物は4名であり――まず、当主である輝夜はこの屋敷を離れる訳にはいかない。
その輝夜の従者でもある永琳もまた、離れられる筈もない。この時点で2名に絞られる。
うどんげかてゐの二択となった時、どちらが永遠亭に残らないと影響が大きいか。
うどんげにとって悲しい事に、てゐの方が永遠亭に与える影響が大きい。

先にも述べた通り、配下のウサギたちが言う事を聞くのは、てゐの命令のお蔭である。
普段うどんげがやっている家事雑事なども、ぶっちゃけ誰でも出来る事だ。
てゐがその分を請け負っても――てゐの負担は大きいが問題無い。
つまりはうどんげが今やっている事はてゐにも大体出来る事だが、
てゐが今やっている事はうどんげにはとても出来ない事なのである。

よって、留学に行かせるのはもううどんげしか選択肢が無い状態であったのだ。

とはいえ、それを正直に言った所でうどんげがショックを受けるだけ。
だからこそ、こうして4人揃って会議のような形で言い渡したのである。
……正直な所を言えば、少し考えればうどんげ自身でも自分の立ち位置というものに気づき、
選ばれた理由にも察しがつくかもしれないが――残念ながら彼女は完全に有頂天となっていた為、気づく事が無かったという。

277 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:24:31 ID:???
輝夜「……まぁ、単純な実力を考えても私やてゐよりはイナバが行った方がいいとは思うんだけどさ」
てゐ「うどんちゃんだからなぁ……」
輝夜「ねぇ……」

ただ、彼女たちがうどんげに対して全く期待していないという訳ではない。
少しは期待していた。少しは。
実際問題、輝夜は自他ともに認める三流キーパー。
てゐもパス精度に関してだけならば一流レベルにも通用するが、それ以外はこれもまた三流といった程度。

それに比較をすれば、うどんげはまだ永琳に基礎能力を鍛え上げられている為にそれなりには強い。
ここから更に一段、二段とレベルアップをしてくれれば――やがては永琳を超える……のは無理としても。
永琳の相棒として恥ずかしくないだけの実力はつけてくれる可能性はある。
……無論、可能性の話であり、それ以上に彼女がただうどんげである、というだけで失敗しそうな気が彼女たちはするのだが。

永琳「……賽は投げられた。 ここから先は、流石の私でもどうなるか読めない」

天才の頭脳を持ってしても、うどんげが更なる飛躍をするか否かは見当がつかない。

278 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:26:02 ID:???
輝夜「これが駄目だったらいよいようちも終わりよねー」
てゐ「他の勢力はどんどんメンバー吸収してるからね。
   うちなんか酒商店の奴らとか人里の連中くらいしかそういうのいなさそうだけど」
輝夜「あーあ……昔のサッカー界だったら、永琳1人でも大会で優勝とか出来たのにねぇ」

幻想郷Jrユースとして戦ったうどんげとてゐは、ろくすっぽ試合にも出れぬその他大勢要員。
アルゼンチンJrユースに参加をした永琳は、その幻想郷と対戦しまさかの大敗。
そして、幻想郷に帰ってきてみればその永琳しかほぼ見るべき選手がいない――。
現在の世情を考えれば時代錯誤とも言える典型的なワンマンチームである。

既にその名は失墜し、更には這い上がる事も困難。
辛うじて強豪と呼ばれるだけの知名度はあるものの、それだけである。

だからこそ、彼女たちはこの留学の話に乗らざるを得なかった。
そして彼女たちは信じるしかない。
うどんげがしっかりと成長をして、この永遠亭に帰ってくる事を。

永琳「(うどんげにはポテンシャルがある……切っ掛けさえあれば、それが発揮されれば……。
    必ず、どのチームにも引っ張りだこになるだろう程のものが。
    ……問題は、彼女がそのポテンシャルについてまるで気づいていなさそうな事だけれど)」

小さく溜息を吐き、小窓から見える満月を見上げる永琳。
それに気付けた時、あの情けなく鈍くさくその癖プライドだけは一人前で割と打たれ弱いバカ弟子は、
きっとサッカーの実力面だけでなく精神的な面でも大きく成長をする事が出来るのだろう。

師匠の心配をよそに、有頂天になり――人生のライン際で飛んで跳ねる幸せ兎。
跳ねて跳ねて飛び跳ねて、その手が月に届くのか。
それとも転んでラインの外に飛び出してしまうのか。

それもまた誰にもわからない。

279 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/20(火) 23:27:19 ID:???
といった所で短いですが一旦ここまで。
人生のライン際なうどんちゃんすき。

280 :森崎名無しさん:2018/02/21(水) 00:38:25 ID:???
乙でした
永遠亭は人材不足が深刻ですなぁ
うどんちゃんが反町クラスに育っても厳しそう

281 :森崎名無しさん:2018/02/21(水) 01:50:31 ID:???
乙でした
超鈴仙伝説始まったな(始まるとは言ってない)

282 :森崎名無しさん:2018/02/21(水) 12:27:50 ID:???
助っ人でゴールデンフリーザを呼ぼう(提案)

283 :森崎名無しさん:2018/02/21(水) 22:01:31 ID:???
ふと思い立ってうどんげの能力値を推測してみた(過去スレ見ながら本スレ換算、一部推測)

名前    ド パ シ タ カ ブ せ 高/低 ガッツ  総合
うどんげ 71 73 70 69 70 68 71 3/3  750/750 492

   うどんげ
やや華麗なドリブル(1/4でドリブル力+2)
マインドシェイカー(1/4でドリブル力+4)
カローラヴィジョン(パス力+2)60消費
インビジブルハーフムーン(高シュート力+4)200消費
ロケットインミスト(高パス力+4)200消費
スキル・人生ライン際(うどんげが焦ったとき(?)、全能力+1)

ポストプレイが実は優秀(なお必殺シュートは反町のただのシュートと同値)
全能力+1されて、ドリブルかシュートが+2されて、何か技を習得できれば葵・山森クラスにはなれるかな?

284 :森崎名無しさん:2018/02/21(水) 23:04:19 ID:???
素質自体は有りそうだけどそれを自分で蓋をしてる典型だな

285 :283:2018/02/21(水) 23:40:46 ID:???
ミスった、ロケットインミストはたぶん(高パス力+3)150消費だ

286 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/21(水) 23:59:59 ID:???
>>280
乙ありです
人里の慧音先生や商人民族の方々の力を借りる事もできますが、
こちらの方々は「慧音は置いてきた、このレベルの戦いにはついてこれそうもない」状態に近いので……如何ともしがたいですね。
縁深いもこたんもオータムスカイズを離れる事は無いでしょうし。

>>281
乙ありです
割と強くはなると思うんですよ、強くは(活躍するとは言ってない)

>>282
フリーザ様が参戦してくれればまだ戦えますかねぇ。
問題はフリーザ様としては百貨店の経営の方が忙しくてサッカーやってる暇が無いという事ですが。

>>283 >>285
あわわ、どうもお疲れ様です。
わざわざ過去スレを辿っていただき正確な数値出していただけて感謝。
実際、それなりには文中で書いている通り強いんですよね……次レスで、
もしもこの留学編を実際にゲームとしてやっていたらどの程度の数値でスタートしていたかを公開させてもらいます。

>>284
自分に自信は持ってるけど、かといって超一流には届かないと蓋をしているタイプですね。
ついでに言うとそんな超一流に頼りまくりの精神面もあります。
近くにいるのがディアス互換の永琳じゃ仕方ないと言えば仕方ないですが。

287 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/22(木) 00:02:45 ID:???
Jrユース編終了後、これから始まる「留学編」更をにゲーム形式でスレを続けていた場合、
こちらの予定ではある程度のキャラは技などを削除し能力値の見直しをするつもりでした。
Jrユース時点で多くのキャラが多くの技を習得していた為、差別化などが難しくなっていた為ですね。
妖夢とうどんげに関しても、この留学編をするにあたって一新しました。ちょっと詳しく見ていきましょう。

名前   ド パ シ タ カ ブ せ 高低 ガッツ 総合
妖夢   72 69 71 70 70 69 72 2/4  750/750 493
うどんげ 71 73 70 71 72 70 71 3/3  750/750 498

    妖夢
天女返し(1/4でドリブル力+2、吹っ飛び係数2)
未来永劫斬(シュート力+6、吹っ飛び係数2)200消費
待宵反射衛星斬(低シュート力+5、吹っ飛び係数2)250消費
スキル・幽明の苦輪(ドリブル時、任意発動。二度判定)120消費

    うどんげ
マインドシェイカー(1/4でドリブル力+4)
カローラヴィジョン(パス力+2)60消費
ルナティックレッドアイズ(シュート力+5、1/2で相手GKに転倒ペナ)200消費
インビジブルハーフムーン(高シュート力+4)200消費
スキル・人生ライン際(後半以降発動。
           一度も得点に絡んでいない時点から自身が点に絡むまで全能力+1、必殺技発動率+1/4)

288 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/22(木) 00:05:20 ID:???
妖夢のコンセプトは強化版新田です。
幻想のポイズンでは当初は一定以上の実力を有しており、しかし周囲の成長速度についていけなかった妖夢。
東方サッカーでの互換対象は新田ですが、
流石にJrユース時点の新田程弱くは無いだろうという事もあり特殊スキルはそのまま残し、ダイレクトも合計+9補正はかなりのものです。
ただ、素のシュート力が弱い。ドリブルもスキルとの兼ね合いを考えると素の数値はこれくらいかなという所。
まずもって反町リグル魔理沙といる幻想郷ではJOKERやクラブAでも出ないと起用されない感じですね。

うどんげは総合力では佐野と同格です。仲間だもんげな妖夢にも実は勝っています。
が、ご覧の平均的な配分と半端な技のせいで微妙な評価を受けざるを得ない選手。弱くは無いんだけど……という感じですね。
スキル・人生ライン際はネーミングが気に入ったので削除せず残しています、こちらもまた強力なスキル。
ポジション的には本編での山森……からグライダースマッシュを抜いた感じが近いでしょうか。
シュートを打てない山森となると、やはり主役にはなれない感じですね。そんな彼女も強くなれる要素があるのですが。




本日は更新は無しとさせていただきます。
それでは。

289 :森崎名無しさん:2018/02/22(木) 00:12:46 ID:???
プレイヤー目線だと人生ライン際が強いしSBに転向させた方がと思うな
FWからSBって比較的ポピュラーなポジ変更だし守備の素質もまあ問題はなさそう

290 :森崎名無しさん:2018/02/22(木) 10:05:31 ID:???
少なくともシュート70はFWの数値ではない

291 :森崎名無しさん:2018/02/22(木) 16:53:55 ID:???
謝れ!シュート70で他分野もうどんげ以下な本スレ反町に謝れ!

292 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/22(木) 23:45:32 ID:???
>>289
人生ライン際が発動すればタックル72、カット73ですからね。
技の1つでもあればまぁそこそこ活躍出来るでしょうか?そこそこ止まりでしょうが……。
>>290
少なくともストライカーと呼ぶには低すぎますね。
>>291
なおこのスレでは魔王様になってしまっているもよう。
改めて見ても酷い数値ですねほんとに。

本日も更新はお休みさせていただきます。明日は出来たらと思います。

293 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:09:54 ID:???
留学の話を聞いた瞬間、従者たちの想いが1つとなる組織もある。
忌み嫌われた妖怪たちの行き着く先――旧地獄を統べる地下の楽園、地霊殿。
当主である古明地さとりは、
八雲紫から受けた話を早速己のペット達(地霊殿にいる者の多くは、元はさとりのペットである)へと説明していた。

さとり「……という訳で、この地霊殿からも1人。 留学に向かわせる選手を決めなければいけないわ。
    おくう、お燐、どうかしら?」
おくう「う、うにゅ! 外の世界でサッカーしたら強くなれるんですか!?」
さとり「ええ、きっと。 勿論相応の努力は必要だけど……環境に関しては、ここよりずっとよくなる筈だわ。
    おくうも、外の世界の施設は見てきたでしょう?」
おくう「はい! なんだか凄そうな、よくわからないのが沢山ありました!」
お燐「(よくわからない……まぁ、おくうのオツムじゃなくても河童が弄ってそうな機械だなんだってのは、
    あたい達もわからんしなぁ)」

旧地獄の一角に居を構えるとあり、地霊殿近くのサッカー施設というものは環境が整っている訳ではない。
勿論、旧地獄街道の方に比べればここら一帯はさとりの管理している場所という事もあり、
忌み嫌われ忘れられた妖怪たちが暮らすには十分すぎる設備がある。が、それでも比べればという話だ。

実際に外の世界でフランスというサッカー先進国で最先端の練習を繰り返してきたさとり。
そして、幻想郷Jrユースとして外の世界で練習を積んできたおくう。
どちらもこの地底世界ではありえない程の充実した環境には覚えがあり……。
それだけでサッカーが上手くなれる訳ではないのだが、ここでするよりは成長する可能性が高いだろうという事はわかる。

おくう「そっかぁ、今よりもっと上手くなれるんだぁ!」
さとり「………………」

無邪気にそう呟くおくうは、傍から見れば留学に乗り気なようにも見えるのだろう。
事実、彼女は幻想郷Jrユースとして戦ったあの大会の中、
まるで出番が来ず活躍出来なかった事を恥じ、悔いていた。強くなれる機会があるのなら、すぐにでも飛びつくだろう。
ただ、そんなおくうはニコニコと笑みを浮かべたまま、さとりをじっと見やるだけだ。

294 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:11:23 ID:???
おくう「(さとり様が留学に行ってくれたら、今よりもっと強くなってくれる!
     そして今度こそ、あの意地悪な人間を倒すんだ!!)」
さとり「………………」

心を読む覚り妖怪――古明地さとりには、おくうの心が透けて見える。
今、おくうの中にあるのは、純粋にさとりがこの留学に行き、
意地悪な人間――反町を今度こそシャットアウトするのだという確信。
そんなおくうの心から……しかし、目を逸らすようにしてさとりは矛先を変える。

さとり「お燐はどう?」
お燐「にゃっ……あ、あたいですか?」

火焔猫燐……彼女は幻想郷Jrユースに一時期選出されながらも、合宿でリタイアするという憂き目にあっていた。
ドリブルを得意とし、そのネコ科特有の俊足としなやかさを持った技術は高いレベルではあったのだが、
しかし、如何せん幻想郷Jrユースには彼女以外にも大勢のドリブラーがいた事が運のつきだった。
召集される以前の大会で負傷をしたパルスィが、驚異の回復力で実力を合宿中に取り戻した事も不運である。
結果的に、役割の被る選手が大勢いたが為に彼女は主人や友人が外の世界で戦う中、
寂しくこの地霊殿で帰りを待っていたのだった。

それだけに、今以上の力を手に入れたいという欲求はおくう以上のものであろう。
さとりの問いかけに対して、しかしお燐は困ったように俯く。

お燐「(あたいだって行きたいのは山々さ……でも、一番はさとり様に行ってもらいたいんだ。
    でも……)」
さとり「………………」

彼女もまた、さとりに留学に行ってもらいたいと願う1人であった。

295 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:12:35 ID:???
この幻想郷界隈で、かつて三大キーパーと謳われていた古明地さとり。
しかしながらオータムスカイズとの戦いを経ていく内に、さとりに降りかかる罵詈雑言の嵐は日に日に増えて行った。
対戦する時は常に大量失点。
反町どころか、他の選手にもゴールを奪われる始末。
遂にはフィールダー全員を含めての、驚異の11人抜きゴールという屈辱にも甘んじた。
……しかも、その時の反町のシュートは完全なるミスキックで――である。

古明地さとりという少女にとって、反町一樹という少年はトラウマ以外の何物でもなかった。
トラウマを操る妖怪が、トラウマに苛まれるなど皮肉にも程がある。

そしてそんなさとりは――先のフランス国際Jrユース大会において、各国へ送られる派遣選手として選出された。
幻想郷に比較をして劣る各国に対し、選手兼コーチという名目で向かった先。
まだ地位が失墜した自分でもそんな重要な役回りを任せられる程には認められていたのかと感じたのは当初だけ。

さとり……そしてその妹であるこいしが派遣された場所は、大会開催国でありながら、
一部の選手以外は世代で見てもワーストクラスの選手が目白押しの国、フランスだった。
どこからどう見ても左遷――便宜上、さとりという一勢力の主に対して形としては派遣選手の体を為したものの、
実際の所はどうでもいいその他の国を押し付けたという形だった。

これに対してさとりは心底絶望をした。
派遣選手である自分たちの力量については誰よりもさとり自身が知っている。
彼女たちは決して強い方の選手では無い――反町一樹に『凌辱』をされ、自信を完全に喪失していた彼女はそう感じていた。
事実、幻想郷サッカー界に精通する者ならば、他国に派遣された選手に比べて見劣りをすると断定をしていただろう。

296 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:13:40 ID:???
その上、フランスJrユースはキャプテンであるピエールとストライカーのナポレオン以外は、
幻想郷の各チームに所属をする妖精やら羽目玉やらバケバケやら……そういった類の選手と大差無い実力。
有り体に言って、雑魚である。
このチームで勝てる筈が無い。誰もがそう思う。だからこそ、さとりは諦めていた。

だが、そんなさとりを――2人が救ってくれた。
1人は古明地こいし……さとりの唯一の肉親であり、誰よりも大切な妹。
そしてもう1人は若林源三……さとりと同じくザルキーパーの烙印を押され、地の底へと叩き落された『元』天才キーパーである。

絶望の縁にいたさとりに対し、偶然出会った若林は――しかし、そんなさとりを軽蔑し、奮起した。
それがさとりには不思議でならなかった。
反町一樹に思うが儘に蹂躙され、今まで大事にしてきたものを奪われ、それでも尚立ち上がろうとする気概。
意地の塊のような男である若林の生き様を、さとりはまるで理解が出来なかった。

こいしについてはもっと理解が出来なかった。
弱い弱いとされていたフランスの選手たちを、おはようからおやすみまで――朝から晩まで、練習のサポートを続けた。
気まぐれで飽き性で、何よりも我儘なこいしからは考えられない行動である。

何よりも、弱い選手を鍛えるという『無駄』な行為。何故そんな事をするのか、さとりはわからなかった。
何もかもを諦めていたさとりは、その時点では既に自信どころか戦意を喪失していたのである。
ただ、それでも――泥塗れになりながら呟いたこいしの言葉を、さとりは今でもしっかりと覚えている。
さとりこそが幻想郷でも一番のキーパーだという言葉を。
今度の大会で、今度こそそれを証明して見せて欲しいという言葉を。

297 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:14:41 ID:???
――思えば、さとりがこうして駄目になるまで、こいしとさとりは決して仲が良い訳ではなかった。
悪かった訳ではない。
ただ、こいしの性格上、姉であるさとりに対して大きな執着を見せるという事は無かったのである。
それがさとりの地位が失墜するや否や、こいしは献身的にさとりの為にと動いた。
チームを強くする為にと、フランスの選手たちを鍛え上げ、さとりを懸命に励ました。
フランスの選手たちもそのこいしの気持ちに応えようと――彼らに出来る、精一杯の努力を積み重ねた。
無論、チームの中心人物であるピエール、ナポレオンも同様である。

そんな彼女たち――彼らを見て、ようやくさとりは立ち直った。
自分たちは弱い。だが、弱いのならば強くなればいい。
弱音を吐く心を捨て去り、こいし達に支えて貰ってようやく折れない心を手に入れたさとりは――。

ただ1人で立ち向かう事を決意していた若林源三と、修練に励んだ。

……その後、さとりは大きく成長を遂げた。
力押しに弱かった貧弱な体は、簡単には吹き飛ばされぬ程に屈強に。
相手の心を読んで行うセービングの速度は、誰よりも速く。
死のグループともされたイタリア、ウルグアイ、アルゼンチン――そして幻想郷と揃ったグループに配置される中。
それでもさとりを有したフランスは、リーグ最終戦である幻想郷との戦いを前に決勝トーナメント進出を決定づけていた。

……結局、最後の最後で幻想郷には敗れ、決勝トーナメントでも敗退をしてしまった訳ではあるが。
しかし、他国に派遣された選手との実力の違い。
己の大きな成長という点を見せつけられたという意味では、名誉を挽回出来た大会だったと言っていいだろう。

298 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:16:20 ID:???
さとり「(そう、私はもう十二分に活躍が出来ました……)」

さとりの心中では、まだ、これ以上を望む気持ちは当然ながらある。
何故なら、彼女はまだ反町一樹に一度として勝っていない。
選手個人としても、チームとしても。

幻想郷三大キーパーという称号如何はともかく、ある程度の権威は回復出来たとはいえ――。
未だに彼女自身はリベンジを果たせていないのだ。
本音を言えばそのリベンジの機会が欲しい――その為の、強くなる土壌が欲しい。
ただ、それは出来ない。
だからこそ、彼女は己の心に蓋をする。自分は十分活躍出来た、それよりも大事なペット達にチャンスを与えるべきだと考える。

さとり「(もう十分、十分我儘を通させて貰った。
     私がいない間、お燐は本当によくこの地霊殿を守ってくれた……これ以上、皆に負担をかける訳にはいかないわ)」

そう――彼女は一勢力の代表だからこそ、留学には行けないのだ。
無論、彼女がそうしたいと言えば、彼女のペット達はもろ手を挙げて賛成をしてくれるだろう。
さとりの事を愛し、何よりも大事に思ってくれている彼女たちだ。疑う余地は無い。
だが、だからこそ出来ないのだ。
さとりがいなかった間、お燐が――おくうがいつも管理している灼熱地獄の様子を見る事もあって、
てんてこ舞いの忙しさでこの地霊殿を管理してくれていた事をその第三の瞳を持ってさとりは知っている。

彼女たちの負担を考えれば、どうして留学に行きたいなどと言える事が出来るだろう。

さとり「……すぐに答えが出せないのなら、よく2人で話し合って考えてみて。
    どちらが留学に行くのか……ね?」
おくう「うにゅ? あれ?」
お燐「(さとり様……本当は自分が1番行きたいのに……)」

さとりの言葉を聞いて、予想外の一言だったのかおくうは首を傾げ……。
お燐はやはり俯いたまま、悲痛な叫びを心の中で上げる。
その声を聞こえない風に装いながら……ふと、さとりはこの場にもう1人いるべき人物がいない事に気付いた。

299 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:17:23 ID:???
さとり「……そういえばこいしはどうしたのかしら?」

そう、つい先ほどまで考えていた――最愛の妹、こいしの姿が見えない。
いや、見えないのはいつもの事だ。何せ無意識を操る彼女――完全な視覚外から出てきて驚かせるのは日常茶飯事。
ただ、この場――大事な話があるからと言い聞かせていたにも関わらず、姿を見せないというのは変である。
あの大会から帰ってきてからも、今まで以上に姉妹仲が深まっていた古明地姉妹。
基本的に気まぐれであるこいしも、さとりの言う事ならばある程度は聞くようにまで関係は改善されていたのだから。

お燐「ありゃ? そういえばおかしいですね……おくう、なんか知らない?」
おくう「わかんない。 さとり様はわかりますか?」
お燐「……今誰がこいし様の事を話題に出したかね」

ペット達もこいしがいない事を不思議に思い、首を捻る中――。

ガチャッ

こいし「やっほー!」
おくう「あっ、こいし様!」

当の本人――こいしが扉を開き、さとりたちが話し合っていた広間へと姿を現した。
またそこらへんをほっつき歩いていたのかと内心不安だったさとりは、
彼女が姿を見せてくれた事に安堵しながらも注意をする。

さとり「言ったでしょうこいし、大事な話があるから広間に集まっていなさいって。
    おくうでもちゃんと覚えてやってきたのに……」
お燐「(……まあそのおくうは案の定忘れてたからあたいが引っ張って来たんだけどね)」
さとり「…………ともかく、座りなさいこいし。 もう一度話を……」
こいし「いーよいーよ、もう聞いたもん。 サッカー留学でしょ?」
さとり「…………? こいし、あなた……」

300 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:18:43 ID:???
呆気らかんと言うこいしに、さとりは思わず眉を潜める。
もう聞いた――つまり、恐らくは、こいしはきっと最初からこの場にいたのだろう。
そしてさとりがサッカー留学の話をすると共に、この部屋を出て行った。
無意識を操るこいしだ。姿を現さないだけでなく、誰にも感づかれず部屋を出て行く事など造作もない。
それ自体は問題では無い。問題は――何故そんな事をしたのか?という事だ。

まるで訳がわからない、とばかりに混乱するさとりに対して、しかしこいしはニコニコと笑みながら口を開く。

こいし「サッカー留学はお姉ちゃんが行きなよ! 行きたいんでしょ?」
さとり「……はぁ」
お燐「こいし様、それは……」
おくう「あ、そうですよね! やっぱりさとり様が行くんだぁ!!」
お燐「おくう、あんたちょっと黙っときな。 話がややこしくなる」

無邪気に言い放つこいしに対して、さとりは溜息を吐くばかりだ。
先にも言った通り、さとりにはこの地霊殿を離れられない訳がある。
地霊殿の主として、一勢力の代表として、3年間もの長き間を留守にする訳にはいかないのだ。
こいしもその程度の事はわかっている筈だと思っていたのだが、どうやら思い違いらしい。
そう考えたさとりは改めて説明をしなければならないか、と考えるのだが――。

こいし「地霊殿の事でしょ? だいじょーぶ!」

先手を取って、こいしがドン!とそのなだらかな胸をひとたたきし。

こいし「私が責任を持ってみておくから!!」

フンス、と鼻息荒くそう宣言をするのだった。

さとり「…………はぁ?」

これを受けて、さとりは思わずそう呟き返すのがやっとである。

301 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:20:03 ID:???
さとり「あ、あのねこいし……貴女、何を考えてるの」
こいし「何ってお姉ちゃんの代わりに地霊殿を管理するんだよ! 大丈夫大丈夫、まっかせて!」
さとり「………………」
おくう「流石こいし様! うにゅう、私もお手伝い頑張ります!!」
お燐「いや、いやいや……ちょっと待ちなよおくう」

簡単に言ってのけるこいしだが、さとりから見てみれば無謀極まりない。
というか、屋敷の管理という仕事を甘く見ているのではないだろうか、と感じてしまう。
この旧地獄を預かる地霊殿の役割は、忌み嫌われた妖怪たちが好き勝手暴れていないかという治安維持に始まり、
近隣の皆様との関係を円満なものにするご近所づきあい、おくうやお燐はいいものの喋れないペット達のお世話。
更には灼熱地獄の管理と、多岐に渡る。

特に灼熱地獄の管理についてはペットであるおくう達に任せてこそいるものの、
そのペット達の配属をどうするか、休暇はどうするかなどを決めているのはさとりだ。
各々の特性や性格、能力を考えてシフトを組む為に毎度頭を悩ませている。

さとり「今度冷却担当の班の子が2人揃って長期休暇を取っちゃったからその穴埋めも考えないといけないし、
    加熱班の主任が腰やっちゃって復帰時期が未定な分余裕を持ってシフトを組まないといけないし……」
おくう「うにゅ……ギックリ腰でしたっけ?」
さとり「いえ、ヘルニアみたいよ。 ああそうそう、労災についてもまた話し合っておかないと……」
お燐「あ、そういえば来月に中途の採用面接入ってましたね」
さとり「ええ。 それを考えても、今ここを離れる訳にはいかないわ……」

旧地獄という事はかつての地獄。
未だに必要な管理を請け負う事で現在の地獄からは金銭を受け取って成り立っている。
そして、成り立たせているのは全てさとりの能力あってのものだ。
まるでこれまで手伝いもしていなかったこいしが、いきなりやってきて全て出来る筈もない。

さとり「来月頭には経営会議もあるし……あ、来週には視察もやってくるわ。 それまでに掃除もしておかないと」
お燐「……こいし様、さとり様はこの通りお忙しいです。 流石のこいし様でも、さとり様の代わりは……」

302 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:21:13 ID:???
やらなければならない事は、数えだせばキリが無い。
1つ思いつくとまた1つと仕事を思い出すさとりを横目で見ながら、お燐はこいしを諭すのだが……。

こいし「そだねー、私1人じゃ難しいかも。 でもね」

ガチャッ!!

こいし「みんなが力を貸してくれるって言ってるから、大丈夫だよ!」

言いながら、こいしは自分が入ってきた扉を思い切り開いた。
そこから入ってきた――否、なだれ込んできた一団を見て、一同は目を丸くして驚く。

ウサコッツ「さとり様ー、後の事は気にしないで外の世界行ってきてよー!」
さとり「う、ウサコッツ!?」

303 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:22:35 ID:???
そこにいたのは、地霊殿の誇るぬいぐるみ型ペット――ウサコッツ。
愛らしくとてとてと歩きながらさとりに対して語り掛ける一方、
その後ろからは更に続々とさとりが所有するペット達がさとりに声をかける。

デビルねこ「僕もまだちょっと体の調子が悪いけどさとり様の為に頑張るよ〜」

生活習慣病を患いながらも、健気にさとりの後押しをするデビルねこ。

Pちゃん・改「………………」

何も言わず、無垢な表情でさとりを見つめるPちゃん・改。

ヘルウルフ「さとり様……チュキ!」

チュキかコロチュしか喋れないながらも、精一杯の応援をするヘルウルフ。

アーマータイガー「ウッス! さとり様の為なら俺もあの……頑張るッス! ウッス!!」

力仕事なら誰にも負けない。本当は強いぞアーマータイガー。

304 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:23:42 ID:???
「俺が本気出したら2人分の穴埋めくらい軽い軽い、マジで」「空姉さん達とも協力してやってきますから安心してください!」
「くっそー、俺もキャスト・オフ(羽化)出来たらなぁ……」

アリジゴク型のペット、セミ(幼虫)型のペット、更には何故か剥かれて調理される寸前のエビ型のペットまで。
他にも多くのペット達が口々にさとりの留学を願い大挙して部屋へと押し入っていた。
これにはさしものさとりも驚いたものの――一番の驚きは、彼らの言っている言葉が心の底からのものであるという事。
誰もがさとりの事を想い、さとりの願いを叶えたいと想い、助けになろうとしてくれている。

さとり「みんな……」
お燐「で、でも……みんなは元々うちのペットじゃないか。 仕事の戦力としてはいて当然で……」
こいし「皆には今以上にもっと頑張ってもらう。 その分お給料もたんと弾んであげる。
    それにね、はい」

言いながらこいしが机に置いたのは、紙の束――。
一体何かと思って見てみれば……それが多数の履歴書である事がわかる。

こいし「ウサコッツたちに求人看板を持たせて立たせたら、これだけすぐに集まってね〜。
    穴埋めするには十分だと思うんだ」
さとり「こいし……」
こいし「お金はすっごくかかっちゃうけどね」

そこだけはごめんね、と笑いながら言うこいし。
実際、今いるペット達の労働時間を増やし給料を上げ――更には新たに人材を募集するとなればコストがかかる。
かかるが――しかし、それだけやればさとりの穴は埋まる。
非効率的ではあるだろうが、こいしの案ならばさとりが後願の憂い無く留学に行けるだろう。

さとり「………………」

305 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:26:16 ID:???
さとりはニコニコと笑みを浮かべ、さぁ面接の日取りを考えないとと意気込んでいる妹を見やる。
彼女の周囲にはウサコッツを始めとしたペット達が群がり、こいしの指示を待っていた。

おくう「私も頑張るよ! さとり様は何も気にせず外の世界で頑張ってきてください!!」
さとり「おくう……」

あまり頭がいいとは言えないが、純真なおくうは――ここまでずっとさとりの留学を望み、それを発言してきた。
彼女の頭ではやはり理解があまり出来ていないが、
それでも今の流れがさとりが留学をするにあたり問題が無くなってきた状況だという事は読み取れたのだろう。
両腕でぐっと力瘤を作る仕草をする彼女が、なんとも頼もしく見える。

お燐「……あたいも、あたいも頑張ります。 3年間……長い期間、さとり様が地霊殿を思って不安になる事もあると思いますけど。
   ここはあたい達に任せて下さい」
さとり「お燐……」

対して、何かと聡いお燐も――ことここに来て、ようやく覚悟を決めた。
地霊殿における幹部のような役割を持つ彼女は、さとりが不在の際――まるで地霊殿の運営関連では役に立たないおくうや、
そもそもあまり興味が無く遊びほうけているこいしに代わり、取り仕切る事が多かった。
実際にさとりたちがJrユース大会に参加している間にも、彼女が管理を代行していたのは事実。
しかしながらその膨大な作業量には辟易しており、数か月だけでも大変だったのが3年ともなれば大丈夫なのかと不安にも駆られたが、
それでもこれだけの多くの仲間と力を合わせれば――きっと可能だろうと感じる事が出来た。
何よりも、現実的にさとりの留学が出来そうになってきたのだ。
さとりを心から愛する彼女が、その道を応援しない筈がない。

さとり「………………」

こいしを中心として、具体的にこれからどうするかという話し合いを詰めていく一同。
それを遠巻きに見やりながら、さとりは想う。

306 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:28:43 ID:???
さとり「(あのこいしが……まさか、こんな風になるなんて)」

他者とかかわる事を恐れ、瞳を閉じた妹。
ペット達と関わる事はあれど、しかし、やはり彼女は気まぐれで深く繋いだ絆というものは無かった。
それがどうだろう。
今の彼女は、多くの者たちから囲まれ、笑顔で話し合っている。

無論、そこにはさとりに対する想いがあってこそ――全てはさとりを想っての行動。
だが、着実に古明地こいしという少女は人との関わり、他者との関わりに積極的になっている。

さとり「(それに、みんな私を想って……)」

思えば自分は恵まれている。
忌み嫌われた妖怪でありながら、これだけ多くのペット達に愛されている。
いくら給金が上がるとはいえ、労働は厳しくなり環境も変わる――にも関わらず、大勢のペット達はさとりの留学を応援している。
否、それはペットだけではない。
考えてみればフランスでも――1つのものを目指して、必死に、懸命に努力をする仲間たちと出会う事が出来た。
コーチという仕事を半ば放棄しても、自分を信頼してくれる仲間たちとサッカーが出来た。
同志と共に、必ずやリベンジをするという誓いを胸に戦う事が出来た。

さとり「(……ありがとうみんな。 私は本当に、幸せ者です)」

地底の奥深く、忌み嫌われた――幻想郷一の幸せ者。
古明地さとりは、そっと目尻を拭いながら一呼吸置くと口を開く。

さとり「……わかったわ。 みんな、後の事はお願い」
お燐「! は、はい!!」
こいし「お姉ちゃんが1番凄いキーパーなんだって証明する為にも、むっちゃくちゃ強くなってきてよね!」
さとり「勿論」

307 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:30:44 ID:???
もはや迷いは無く、憂いも無い。
これだけの事をしてもらい、これだけの想いを貰い、躊躇う理由も無い。
もう挑戦は終わった、この幻想郷に居を移して――リベンジの機会を伺うという消極的な気持ちも消え失せた。

強くなる。ただ強くなるという思いを胸に、さとりは留学を決意した。

さとり「こいしの言うように、幻想郷3大キーパーという称号で満足はしません。
    今度は幻想郷一のキーパーと呼ばれるように――いえ! 世界で一番のキーパーと呼ばれるように――そして」

勝てなかった相手に、終ぞ勝てなかった相手に勝てるように。

さとり「今度こそ、反町くんを――」
ウサコッツ「ぶっ殺すよ〜!!」
ヘルウルフ「反町……コロチュ!!」
さとり「……ウサコッツ、ヘルウルフ、殺すは物騒よ。 倒すにしましょ、ね?」

割と使う言葉が過激な愛らしいペット達に注意をしつつ、さとりは笑みを浮かべる。

さとり「(今度こそ私が勝つ……3年という月日を全て練習に費やして……今度こそ!!)」

蹂躙されたか弱い妖怪は、地の底から這い上がり広い世界へと飛び立とうとしていた。
傷つき、折れ、曲がり、不恰好となったその姿。
何度転んでも立ち上がる不屈の闘志はかの少年から。
自分が、自分こそが優れたキーパーであると信じ続ける気持ちは最愛の妹から。
両翼を動かし、天駆けるその背を後押しする風は自分を応援する大切なペット達から。

闘う意思と環境と覚悟、それらを改めて掴んだ少女は再び立ち上がる事を決意する。
期待に応える為に――そして、勝利を収める為に。

308 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/24(土) 00:31:55 ID:???
一旦ここまで。
さとりは幻想のポイズン内で五指には入るくらいのお気に入りキャラでした。
書いてる内にどんどん好きになっていくキャラっていますよね。

それでは。

309 :森崎名無しさん:2018/02/24(土) 08:35:41 ID:???
質問ですけどさとりの一対一ってどれくらい強かったんですか?
競り合いはそんなに高くないけどスキルでカバーしているって感じですかね?

310 :森崎名無しさん:2018/02/24(土) 12:05:41 ID:???
綺麗なこいしちゃん(ダーティディフェンス持ち)

311 :森崎名無しさん:2018/02/24(土) 19:02:32 ID:???
乙です
自分もフランスJr.ユースのところでさとり好きになりました

312 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/25(日) 03:49:33 ID:???
>>309
当時の能力を引っ張り出してきたので公開しますね。
本編準拠に数値は合わせていないので、当時の過去ログを見ながらこんな数値だったのかーと見てみて下さい。

名前   ド パ シ タ カ ブ せ 高低 ガッツ  総合 才
さとり  55 55 51 55 55 53 57 3/3 800/800 381 5 パンチング67 キャッチ64

     @さとり
古明地コンビ(パス力+3で連続ワンツー、要こいし)消費ガッツ80×2
ツインシュート(低シュート力+3、要こいし)消費ガッツ120×2
とめます!(1/2の確率でセーブ力+2)
さとりセービング(PA内からのシュートにキャッチ+8の補正でセーブ)消費ガッツ40
テリブルスーヴニール(一対一+3)120消費
スキル・覚り(一対一の時読み違いが起こらない)
スキル・ケンカLv5(全ての接触行動に吹っ飛び係数10がつく)
スキル・パンチング+1
スキル・一対一+5
スキル・飛び出し+1

お察しの通り競り合いは当初弱い予定でした。が、バヤシさんとの特訓を経てその虚弱体質を改善したという設定があります。
なのでかなり競り合い自体も強くなり、おまけに必殺一対一とラストフォート互換スキル持ちです。
おまけに圧巻のスキル・一対一+5。競り合い57+読み一致+3+必殺+3+スキル一対一+5で68。
当時の反町のシュート力が59という事を考えると、まあほぼほぼ無敵ですね。

>>310
こいしちゃんは大好きなお姉ちゃんの為に己の手を汚す覚悟を持ったのです……。

>>311
そう言って頂けるのは嬉しいですね。フランスに関しては当時かなり力を入れて書いてたので。

横になって起きたらこんな時間でしたので、今日は更新おやすみにさせていただきます。
それでは。

313 :森崎名無しさん:2018/02/25(日) 13:06:39 ID:???
反町のシュート59→77だから+18で換算すると、
さとりパンチング85キャッチ82(PA内はキャッチ90)(1/2で更にセーブ+2)か
これで一対一も86だから普通にヤバイな、フィールダー能力もあるし普通に現状でも森崎クラスだわ
こんなGKから、しかも得意なPA内でゴールを決めるのは幾ら魔王でも不可能だな(断言)

314 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/25(日) 21:20:54 ID:???
>>313
才レベルが5なので、本編換算すると数値的にはもうちょっと低くなります。
具体的にはパンチング83、キャッチ80。競り合いは73ですかね。
あとこれは反町と戦う事を想定して作られたデータなので、システム上ゲームにするならエラッタをしていたと思います。

315 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/25(日) 23:55:37 ID:???
書きあがりませんでしたので本日もお休みさせていただきます。

316 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/26(月) 22:17:52 ID:???
本日も更新はお休みさせていただきます。明日は更新出来ると思います。

317 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:50:13 ID:???
派遣選手に指名をされて、頭を抱えていた者もいる。

文「あやややや……いやぁ、参りましたねぇ」

妖怪の山に住まう鴉天狗――射命丸文。
彼女は先刻、この妖怪の山に居を構える守矢神社から自宅へと帰ってきたばかりであった。
いつも新聞を書く机に向かいながら、しかしその手はペンを握ってはいない。
握っているのは一枚の紙――そこにはビッシリと細かい文字で何やら書かれているが、その内容は彼女の頭に入ってこない。
彼女が目にしているのはその紙の一番上部にしっかりと刻まれた文字――。

『サッカー留学についての手引きと案内』というものである。

射命丸文という妖怪は、幻想郷サッカー界で見ても上位に位置するサッカー選手である。
速さを生かしたドリブルと、MFとしても通用をするパス技術。
守備面に関しては攻撃能力に比較をしてお粗末であったが、それでも並程度にはこなせる。
そんな彼女が、守矢神社に通達された八雲紫からの『サッカー留学』の対象として守矢神社から指名されたのは当然の帰結だろう。

この話を聞いた当初、守矢神社代表として会議に出席をした八坂神奈子は感じた。
チームにいる選手を1人選んで外の世界に送る――。
外の世界との交流だの、更なる成長を促す為だのといったお為ごかしはともかく。
これが反町一樹達が加入をして大きく戦力を増強させた守矢神社への牽制とする策である事を。

現在、守矢フルーツズに所属をする選手は早苗をキャプテンとし、
神奈子と諏訪子と西尾?という古株の選手たち。
そこに反町、大妖精、レティ、チルノ、ヒューイといった者たちが加入をし、
幻想郷全土を見ても有数の名有り選手を持つ名門チームへと変貌していた。

彼らの能力――特にGKとしての早苗と、ストライカーとしての反町の能力はずば抜けており。
脇を固める選手たちも、一芸に特化していたり、はたまた相応の実力者と隙が無い。
前線、中盤、守備陣。どこを取っても弱点が殆ど無い、高次元でバランスの取れたチームである。
故に、八雲紫はこのバランスを崩させようと選手を留学という名目で離脱させようとしたのだと神奈子は考えた。

318 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:51:37 ID:???
……無論、それだけが八雲紫の目的ではない事も神奈子はわかっている。
かといって、この留学に己のチームの選手たちを行かせる事は出来ない。
何せ3年間である。これだけの選手がいれば、まず間違いなく幻想郷で天下を取れるというメンバーだ。
3年間、常勝無敗でいる事が出来れば――神奈子たちが得られる信仰はとてつもないものとなるだろう。

何より、そもそもの話である。
この留学話に行かせてやれる選手自体、守矢フルーツズにはいない。
この件を話した際にも、誰も我こそがと手を上げるものがいなかった。当然だろう。

元々守矢フルーツズにいた早苗、神奈子、諏訪子は幻想郷を離れる事が出来ず、
西尾?にしてもこのチームに愛着を持ってチームに残留をしてくれた選手である。
反町にしても、この環境――そして早苗への想いから移籍をし、そしてヒューイはそんな反町から離れる事を望んでいない。
唯一チルノに関してはこういった事柄に興味を示しそうではあったが、
チルノと片時も離れたくない大妖精がそれを許す訳もない。
レティに関しても、そこまで乗り気という訳でもないのだった。

ならば留学の話を無かった事にする――そういう訳にもいかない。
先に記したように、八雲紫がこの話を持ち込んだのは十中八九守矢神社を警戒しての事である。
ここで留学の話を引き受けないとなれば、果たしてこれから先どのようなペナルティが課せられるのか――。
無論、神奈子としても甘んじてそれを受け入れるつもりはないが、
相手は妖怪の賢者――そして、その他の勢力の者たちも守矢の動きに注視をしているだろう。
足並みを乱す、という真似は到底出来ない。

ではどうするか。
――適当な人材を、スケープゴートにするしかない。

射命丸文は、正にそのスケープゴートに最適な人材だったという訳である。

319 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:53:34 ID:???
守矢神社に直接所属をしている訳ではない。
とはいえ、八坂神奈子が妖怪の山上層部を通じて命じるには丁度いい人材。
妖怪の山という社会に属する鴉天狗としては、上からの命令には絶対服従。
元々妖怪の山自体、守矢フルーツズのサッカーに対して協力的な姿勢を取っていた為にこの指名も既定路線である。

呼び出され、説明を受けた時点で、文自身もある程度上の方での色々面倒ないざこざというのがあったんだろう、
という事も察していた。
ただ、だからといってそう簡単にこの話を受けたくもない。

文「(サッカーする事が嫌いな訳ではないんですが、留学まではねぇ……)」

基本的に幻想郷のサッカーとはアマチュアスポーツである。
趣味や何かの片手間にする者が大多数であり、文もその内の1人だ。
無論、当の八坂神奈子達のように信仰を集める為にしている者もいるし、
己のプライドに賭けて、弾幕ごっこなどだけではなくサッカーでも実力を披露したいという目立ちたがりもいる。
文としても幻想郷最速という異名を引っ提げ、それに違わぬ実力を見せる事に愉悦を感じてはいたものの、
しかし、だからといってそれだけに傾倒をしている訳ではない。

彼女の本業はブン屋。
やはりサッカーは趣味程度のものなのだ。
3年間もの間、幻想郷を留守にしてサッカーに興じるというのは御免こうむりたい。

文「(ただ、命令に背く訳にもいかない。 それこそスケープゴートのスケープゴートでもいればいいのですが……)」

守矢が出すこの指令に、自分以外の者を推薦出来れば問題は解決する。
が、やはりそれも簡単に行く話でもなかった。
文の他にも、妖怪の山に縁のあるサッカーの得意な選手はいる。
いるのだが、その悉くが留学に向かわせる事の出来ない理由を抱えていた。

320 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:55:00 ID:???
まず第一に文が思いついたのは、同じ天狗仲間である犬走椛や、河童のにとりといった組織の一員。
文が声をかければ、嫌な顔はするだろうがそれでも渋々と従っていた筈である。昔なら。
ただ、今の2人はそれぞれ妖怪の山から離れ――それぞれ別チームの選手として活動をしていた。
無論、それでも行かせるだけなら問題は無いのかもしれないが、
かといって守矢フルーツズと敵対をしているチームの者が留学に行って力をつけて戻ってきた場合、責任の所在は文にあるという事になる。
にとりはともかく椛にそこまでの才覚があるとは文は思えなかったが、
それでも万一の可能性を考えると避けたい事だった。

ではこの山に住まう神様――秋静葉、穣子の姉妹。そして厄神である鍵山雛はどうだろう。
これもまた、無理である。
反町一樹が移籍をした際、静葉と穣子がチームを解体せずにオータムスカイズに残留した。
これは幻想郷サッカー界的には決して小さくないニュースであり、文自身も取材に赴いた事がある。
残念ながら明確な答えを得る事は出来なかったが、それでもその際の態度や様子から、おぼろげにはチームに残った理由も見えた。
即ち、『信仰』の為。

サッカーを通じて名声を得、それを信仰につなげようとするのは守矢神社も秋姉妹も同じである。
彼女たちが守矢フルーツズに移籍をしないというのも、それが可能かどうかは別としてそう取らざるを得なかった理由としては尤もであり。
だからこそ、この『守矢神社から来た』留学という話に、彼女たちが乗る訳もない。
建前はどうあれ、彼女たちは事実上敵対しているも同然なのだ。

鍵山雛に至っては単純である。
厄神である彼女――そこに存在をするだけで災厄を振りまく彼女が、
人間の多く住まう外界に3年間という長い期間行ける筈がそもそも無いのだ。

文「(うぐぐ……せめて、椛がいればなぁ……)」

いなくなってはじめてわかる、部下のありがたみである。いや、別に直属の部下という訳ではないが。
しかしながら、いよいよ文としては困る。
自分は留学に行きたくない。だが、代わりになるような人材も用意出来ない。

321 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:56:27 ID:???
今はまだ自宅に話を持ち帰ってじっくり考えてくれと言われただけであるが、
しばらくすれば嫌でも留学に向かう選手として、正式に決定してしまうだろう。
社会において考えておいてくれという言葉は、放っておけば了承を示したものと受け止められてしまうのである。

文「(誰か他に適当な、サッカーが出来る者……妖怪の山にいて、それでいてフリーで……。
   って、そんな珍しい選手はもう大体いないか。
   今や大体の選手は所属するチーム自体が決まっているし、それこそ最近出てきた新参選手くらいしか……っ!?)」

と、そこまで考えていた文は――ふと机の上に散らばっていた新聞に目をやり、思考を停止させる。
思わずそれを引っ掴み、あまり乗り気ではないもののパラパラと捲っていく。
自分が執筆をした新聞――文々。新聞とは違うそれは、文が他の記者がどのような記事を書くかの研究用に入手したものである。
『文から見れば』稚拙で面白味も無く、そもそも事実無根の妄想ばかりが書き連ねられたような記事ばかり。
おまけに記事の内容自体が、今更フランス国際Jrユース大会の結果や経緯などが書かれたものだった。

あれから既に数週間は経過している。
スピードが命であると考え、その通りに帰郷後即座に新聞を発行をした文からしてみれば、
あまりにも遅すぎるその発刊速度。更には実際に大会に参加をした文に比較をし、外から見ていただけのそれは酷く抽象的だ。
以前、実際にこの感想を記者に素直に文は告げ――その記者は酷く立腹していたのだが。

文「(ただ、それと同時にやっぱり実体験するしかないのかと凹んでたし。
   ……サッカーの腕も、最近始めたばかりにしちゃ悪くない)」

一手遅れているその記者は、やはりサッカーも最近始めたばかりの新参であった。
当然ながら文には到底敵わない程度の実力しか持たず、おまけに性格にも難があってどのチームにも所属はしていない。
だが、それでも文が知る限りでは留学に行かせられるだけの実力者でフリーの人材というのはその『彼女』くらいしかいない。

文「(駄目で元々だしね。 割と世間知らずだし、上手く話を運べば乗ってくれるでしょう)」

名案と思しきものがが思い付くと、すぐさま行動に移るのが射命丸文という少女である。こういう面でも彼女はスピーディだった。
彼女は立ち上がるとお供の鴉を呼び出し、我が家を出てその記者の住まうねぐらへと向かう。
家を出た際、閉じたドアの風圧でペラペラと捲れていく新聞――その紙面には、『花果子念報』と記されてあった。

322 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/27(火) 23:58:31 ID:???
短いですが一旦ここまで。
幻想のポイズン内で出てこなかった新しい東方キャラは、今回の彼女含めて3名を予定してます。

323 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/02/28(水) 22:59:03 ID:???
本日は更新をお休みさせていただきます。
次回あたりから、佐野くんがどこに留学に行くかの発表とかが出来ると思います。
それでは。

324 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/01(木) 21:23:24 ID:???
本日も更新はお休みさせていただきます。土曜日あたりに更新出来ればと思います。

325 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/03(土) 22:58:41 ID:???
申し訳ないですが本日も更新はお休みさせていただきます。
明日まで、明日までお待ちください(ガレリ並感

326 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:48:43 ID:???
そして数日が過ぎた。
当初八雲紫がサッカー留学の話を出してから、日数にして数週間。
この頃になると、ようやくほぼ全ての組織からサッカー留学に向かわせる選手の目途が立ち。
また、人員が不足をしている組織からもその最高責任者が他に適任と思しき選手を補填としてスカウトする事も出来ていた。

紅魔館、白玉楼、マヨヒガ、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺、地獄――。
それぞれ8つの勢力からの留学選手。
彼女たちは各自、秘めたる想いを胸にして博麗神社から八雲紫の能力を用いて既に出立をしていた。

佐野「はー……しかし朝はえらい大騒ぎだったな本当」

そんな中、我らが今はまだ幻想郷にいる軽業師は、住まいとする命蓮寺でのんびりと過ごしながら、
今朝方の事を思い出していた。
留学選手に立候補をし、白蓮の期待に応えようと意気揚々と留学に備えていた一輪。
基本的に思い立ったが最後、普段は大人し目であまり目立つ事のない彼女であるが、
一旦火がつくと誰にも止められない程に暴走をするのは以前の何も考えず飛び出した経緯から見ても察して貰えるだろう。

そう、火がつくと止められない――だが、いつまでも燃え続ける火など無い。

当初はやる気に満ちていた一輪も、段々留学の日時が近づくにつれて、
やはり白蓮と離れるというのが寂しく、悲しく、名残惜しくなってきたのだろう。
結局、当日の今日――留学に向かう為に博麗神社に行く直前、
赤子のように、白蓮のそれはそれは豊満な高い浮き球4程あるだろう胸に顔を押し付け咽び泣いた。

これには白蓮はもとより命蓮寺の一同も困り果てたのだが、
最終的には一輪の性格を良く知るムラサの「聖の為にも強くなって帰ってきてね」の一言で全てが解決した。

佐野「イチさんも単純だよなぁ」

佐野に言われてはおしまいであるが、実際の所事実なのだから仕方ない。

327 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:49:54 ID:???
ムラサ「……真面目で機転が利き要領がいい性格だったんだけどなぁ、あの子も」
佐野「おっ、キャプテン。 ……イチさんが真面目なのはわかるけど、間違いなく要領とかそういうのはよくなさそうじゃね?」
ムラサ「聖が関わらなければいい子なのよ、ホント」
佐野「そりゃわかるけど……(そーいやなんで皆が白蓮さんの事慕ってるかとか、そーいう理由も俺詳しくしらねーなぁ)」

佐野の言葉に困ったように相槌を打つのは、その一輪の盟友――村紗水蜜である。
呆れ半分にそう呟く彼女の姿に、思えばそもそも命蓮寺の一同が、
聖白蓮の事を異様に慕っている理由を佐野は知らなかったと思い至るのだが、
なんとなくここで聞くのは今更過ぎるような気がして口には出せない。

ムラサ「で? 佐野くんはいつごろ出発なんだっけ?」
佐野「俺もどうせなら他の皆と同じ日にって師匠は言ってたけど……。
   まだこねーな師匠、もう昼だってのに」

魅魔の推薦により、魔界からの使者として留学選手に決定した佐野満。
八雲紫の提案した留学計画とは別口の件で留学に向かうのだから、
当然ながら他の者たちと同様、八雲紫のスキマ経由で外の世界に行ける道理もない。
よって、彼はその外の世界への移動手段に関しては完全に発起人である魅魔任せであった。
だが、その魅魔が留学予定日の当時になっても、一向に姿を現さない。
これにはさしもの佐野も、少しばかり焦りを見せるのだが……。

魅魔「あたしゃここにいるよ〜」
佐野「あっ、師匠!」

言っている傍から、ようやく魅魔が姿を現した。
命蓮寺の居住スペースとなっている区画の玄関口。
いつもの間延びしたような、それでいて凛とした決め台詞を聞いた佐野が振り返れば、
そこには果たして、当の魅魔と彼女を出迎えていた命蓮寺の面々――そして。

328 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:51:58 ID:???
魔理沙「よう!」
佐野「あ、魔理沙だ」
魔理沙「……だから『さん』をつけろって何度言えばわかんだ? あぁん?」

佐野の姉弟子にあたる霧雨魔理沙――彼女の姿もその中には見受けられた。

魅魔「準備は終わったかい、佐野?」
佐野「おうよ。 まぁ、つっても荷物なんて大して無いんだけどな」

相変わらずあまり仲がいいとは言えない佐野と魔理沙が言い争いをする前に、
魅魔が佐野に問いかけると佐野はグッと右手を掲げながら準備は万端であると宣言する。
実際、幻想郷に何も持たずにやってきて、この命蓮寺で過ごしてきた佐野の手荷物というのは多くは無い。
精々数日分の着替えや日用品程度である。

佐野「外の世界に比べてこっちは娯楽ってのが少ないからなぁ……思えば私物ってのも殆どねーや。
   あーあ、ドラゴンスフィアの続きが読みてぇなぁ」
ナズーリン「(なんだろうな……そんなにその続きが読みたいなら人里の酒商店にでも行った方がいいと思ってしまう)」
魅魔「遠足に行くんじゃないんだ、それくらいの方がかえってサッパリしてていいだろ」

足りない分は現地で買い足せばいい、金なら一応魔界から出る事になっている、と魅魔は説明する。

魅魔「そろそろ出発だ。 佐野……何か挨拶はあるかい?」
佐野「ん……そーだな」

言われ、佐野はむくりと立ち上がると魅魔の背後にいた命蓮寺メンバーへと視線を向けた。
思えば、この幻想郷にいたのも――長いようで短かった。
勝手気ままに幻想郷へと召喚され、勝手気ままにいらない子扱いされ、
勝手気ままに利用価値があるとされ、勝手気ままに創設間もないチームの指導者となった。
なんとも周囲に翻弄され続けた運命であったが、佐野自身は命蓮寺のメンバーを嫌っていないし、ここに来れて良かったと思っている。

329 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:53:10 ID:???
誰もかれもが個性的ではあるが、それでもサッカーに対して真摯だったのは指導者だった佐野もわかっている。
幻想郷においては珍しい、他者を思いやる心がある者たちばかりだという事も知っている(一名例外はいたが)。
召喚されはしたものの、衣食住――人が最低限生活するのに必要なものを持っていなかった佐野としては、
そんな自分を必要としてくれ、保護してくれた一同に感謝する気持ちが無い筈もない。

佐野「(つってもなんつっていいもんか……こういうのはこっぱずかしくていけねぇな)
   あー……まぁ、なんだ。 イチさんと同じく、俺も外で頑張ってくっからよ!!
   皆もその間、幻想郷で頑張ってくれよな!
   俺っていうスーパーエースがいなくなって、イチさんっていう正ゴールキーパーがいなくなって苦労するとは思うけど」

それでも思春期特有の、感謝を口にするのが恥ずかしいと思ってしまう性分故か。
佐野はどこか斜に構えたようにそう宣言するのが精いっぱいだった。
精一杯だったのだが……。

ぬえ「誰がスーパーエースって? ねぇ、誰が?」
ムラサ「(佐野くんには申し訳ないけど……正直、『超人化』した白蓮なら佐野くんの代わりにはなるけど、
     GKの不在の方が痛手だから……ぶっちゃけ、佐野くんより一輪の離脱の方が辛いのよねぇ)」
佐野「なにィ!?」

案外佐野の評価自体は大した事なかった。
無論、彼の能力が低いという訳でもなければ、命蓮寺メンバーから嫌われていた訳でもない(一部例外を除く)。
ただ、実際問題佐野という1人のドリブラーの離脱よりは、ゴールを守る一輪の離脱の方が痛手であったというだけの話である。
しかしながら、この反応には流石の佐野も凹む。
口に出して指摘をするのはぬえだけだが、他の者たちもなんとも言えない表情で佐野を見守っているのだから。

佐野「なんだよ!? 俺がいなくなったら誰がボール持って突破すんだよ!? ヒールリフトを誰がするんだよ!?」
ぬえ「ヒールリフトを超必殺技みたいな言い方する男の人って……」
星「ま、まぁまぁ佐野くん。 佐野くんがいなくなって寂しいのは私達もなんですよ。
  ……外の世界でも、留学、頑張ってきてくださいね」
佐野「お、おう?」

330 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:54:18 ID:???
思わず自分の得意技の有用性について言及してしまう佐野だったが、それすらも一笑に伏される。
実際の所、今更ヒールリフトの有無程度で自慢げにされた所で……という話ではあるのだが。
佐野に対してやけに突っかかるぬえを制しながら、温厚な者たちで占められる命蓮寺の中で人一倍温厚である星が仲介に入る。
思いがけず優しい言葉をかけられて佐野はいつもの流れとはちょっと違うなと感じながら周囲を見やり……。

小町「短い間だったけど同じ釜の飯を食ったんだ。 ま、達者でやりなよ」
ルーミア「お土産はいきのいい人肉がいいな〜」

まずは外様である小町とルーミアが、別れの言葉を告げる。
小町の言う通り、短い間とはいえ共に過ごした仲だ。
そこに情が沸くのはまた人情というものであり、ひらひらと軽く手を振りながら別れを惜しみ。
逆にルーミアは平常運転といった様子で呑気に、いつも通りの対応を見せた。

ナズーリン「……まぁ、幻想郷にいる私達が、元々外の世界にいた君を心配するというのは非常に滑稽なのだろうが。
      くれぐれも気を付けてね」
ムラサ「強くなって帰ってくる一輪と佐野くんの事、楽しみにはしてるんだからね」

命蓮寺のメンバーであり、当初から佐野と付き合いのあるナズーリンとムラサは佐野の行く末を心配しつつ期待もしていた。
彼女たちにとって、今は然程能力的に大きな差異が無くなったとはいえ――。
佐野が初めて来訪した時は、佐野は彼女たちにサッカーのイロハを教える指導者だったのだ。
そこに感謝の気持ちと尊敬の気持ちは当然ながらある。……後者に関しては、最近薄れてはいたものの。
ともかく、彼女たちにとって佐野はヒーロー……とは到底言えないが、
それでも相応には特別な立場の選手であった事は変わり無かった。

白蓮「佐渡くん」
佐野「……あの、佐野です」

331 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:55:20 ID:???
そして、この命蓮寺の代表――聖白蓮がそっと歩み寄りながら口を開く。
……案の定、佐野の名前を間違えていた事に、佐野自身は丁寧に訂正を入れるのだが、
白蓮は聞いていないのかそれとも気にしていないのか、ふわりとやわらかな笑みを浮かべたままだ。

白蓮「貴方がこの命蓮寺に来てからの数か月……我々が、まるで知らなかったサッカーというものを教えて貰い、本当に感謝しています。
   終ぞ、幻想郷での大会には参加が出来ませんでしたが……。
   全幻想郷との練習試合、思えばあれが、私達の――初めて、表舞台に立てた試合でしたね」
佐野「………………」

言われて、佐野の胸にはチクリと痛みが走る。
命蓮寺メンバーと修練に励み、更には魔界へと向かい幻想郷以上に優れた環境の中で練習をした。
白蓮の言うように幻想郷での大会には出場出来なかったが……。
しかし、ようやく彼ら――反町達を相手に表舞台での試合を慣行する事が出来た。
かつては雲の上の存在であった反町、そしてその他の幻想郷メンバーを相手に。
佐野達、命蓮寺のメンバーは懸命に努力をしてその前に立ちふさがろうとしたのだが……。

……佐野達は敗北をした、あまりにも呆気なく、あまりにもあっさりと。

佐野「(折角強くなったと思ったのに、反町さん達ときたらそれ以上に強くなってんだもんな……。
    ……そーいや、あん時は魔理沙さんも敵だったか)」
魔理沙「………………」

どうにも相性の悪い佐野と魔理沙であるが、そんな佐野とて魔理沙の実力の高さについては知っている。
豪快なシュートに突破力。おまけに守備意識の高さと、その守備力についても文句無し。
幻想郷どころか、世界中で見てもトップクラスのFW。
いや、FWとしてだけでなく――1人の選手として見た場合でも、名選手と言える程の実力を有していた。

そんな魔理沙ですら、霞む程の――当時の全幻想郷Jrユースの選手層の厚さ。
そして、そんな魔理沙をもってしても、第二FWの地位を掴むのが精々という反町という存在。
今更ながらに、佐野は一体どうしてそこまで反町が強くなったのか――反町だけではない、
何故自分たちと反町の周囲にいる者たちとで、ここまで大きな差があるのかと疑問に思ってしまう。

332 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:57:22 ID:???
佐野「(不公平だぜ……俺だって、俺達だって頑張ってきたのによ……。 畜生……)」
白蓮「佐古くん」
佐野「……だから佐野だって」

少しばかりネガティブになってしまう佐野であったが、再び白蓮に呼ばれ、現実に引き戻される。
再三に渡って名前を間違える白蓮に、やはり佐野は訂正するのだが……。
白蓮はやっぱり気にする素振りは見せず、慈愛に満ちた表情で口を開く。

白蓮「貴方が私達に教えてくれた事、口では色々と言いながらも努力をし、鳥町さん達に勝とうとしていた事。
   私達もそれに感化され、サッカーというものに情熱を傾ける事が出来ました。
   ……結果は残念でしたが、それは御仏もご覧になられている事でしょう」
佐野「(鳥町じゃなくて反町さんなんだけどなぁ……)」
白蓮「一切皆苦――思うが儘にならぬのが、人の生。
   どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、結果が出せぬという事に苛立ち、悲嘆にくれる事もあるでしょう。
   ですがサモくんは今一度――いえ、これまで幾度となくあった敗北を前にしても、
   何度も立ち上がり……このたびも、魅魔さんが持ってきた留学話を快諾しました」
佐野「あの……俺、佐野……」
白蓮「御仏のみならず、不肖ながらこの私も――そして、他の者たちも遠く離れた幻想郷にて応援をします。
   どうかこの旅路が、サミュエルくんにとってより良きものとなりますように」ペカー
佐野「もはや日本人じゃねーじゃん……ってうおっ、まぶしっ!!」

いい加減訂正するのにも疲れてきた佐野であったが、
白蓮が真摯に佐野の事を心配し、想い、彼の成功を祈ってくれている事だけはわかった。
実際、瞳を閉じて祈るように手を合わせる彼女の背後からは目に見えて後光が刺している。
あまりにも強烈過ぎる仏パワーに、佐野は目がチカチカするのだが……。
それならばそれでしっかりと名前くらいは覚えておいて欲しいと思わないでもない。

333 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:58:56 ID:???
佐野「ま、まあ……さっきも言ったけど俺も頑張ってくっから! 白蓮さん達も頑張ってな!
   レベル不足で前までは幻想郷での大会にも出られなかったけど、今なら全然出れるだろうし!」
ぬえ「へーんだ、アンタに言われなくたってそのつもりだよっ!
   アンタがいなくたってこの私の力で優勝させてやるんだから!」
佐野「にゃにおう!? この俺のローリングオーバーヘッドが無くても優勝が出来ると言うのか!?」
ぬえ「浮き球補正も特に高くない上にシュート力も低いのにローリングオーバーヘッドが得意技な男の人って……」

逆に素直に佐野を応援していない者もいる。
封獣ぬえ――彼女はとにかく、佐野と折り合いが悪かった。

当初この命蓮寺がチームを結成し、メンバーがそもそも11人にも満たなかった頃の事である。
ムラサ、一輪と古馴染であったぬえは、彼女たちの助けになるならばと加入しようとしていた。
しかしながら、生来天邪鬼な性格なのがこのぬえである。
素直にチームに入れて欲しいと言う事も出来ず、おまけに命蓮寺のメンバーの多くはドがつく程の天然が多い。
幸いにして、その時、その場にいた佐野はぬえの真意について察知したのだが……。
素直でないぬえの態度からからかい半分で追い返した事より、2人の関係は決して良いものとは言えないものになっていた。

……その後、紆余曲折を経てぬえがチームに加入をしてからも、互いに反目する間柄である。
もっとも、周囲からはケンカ友達としてほのぼのとした視線で見られる事が多いのだが。

ムラサ「ほらほら、ぬえも佐野くんも喧嘩しない。 ……佐野くんもあんまり気を悪くしないでね。
    ぬえもこれで寂しがってるのよ」
ぬえ「か、勝手な事言わぬぇでくれるムラサ!? 逆にコイツがいなくなってくれてせーせーするくらいだわ!」

べー、と舌を出して威嚇するぬえに苦笑しながらムラサが突っ込みを入れ……。
とりあえずはこの場も丸く収まるのだった。

334 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:00:16 ID:???
佐野「(……ま、こいつが生意気なのは今に始まったこっちゃねーしなぁ。
    それに、サッカーに関しちゃ真面目なのはわかりきった事だし。 白蓮さん始め、命蓮寺のメンバーはお人よしばっかだ。
    1人くらいこういう底意地の悪いのがいた方が安心……か?)」

素直になれないのは佐野もまた同じ。
なんのかんのと言いながらも、ぬえがこのチームの中で締める役割というものが大きいのは知っている。
特に白蓮や星といった、超がつく程の善人達がいる中、
こういった――いい意味であくどい者もまた、サッカーをしていく上では必要な人材であった。

椛「キャプテン……」
佐野「おっ、椛」

そして最後に佐野に声をかけてきたのは椛であった。
彼女はこの騒がしい一同の中においては、あまり目立つようなタイプではない。
おずおずと、苦笑をしながら前に歩み出てきた椛を見て――しかし佐野は嬉しそうに笑みを見せる。

佐野「ケケケ、今のキャプテンは俺じゃなくて椛だろ」
椛「わふ……いや、まぁ、そうッスけど……」

この命蓮寺ナムサンズのキャプテンは――一応は、佐野満という事になっている。
ただ、その佐野が外の世界へと留学に行く以上、佐野がいない間――3年間、キャプテンを代理として勤める選手が必要だった。
当初は実力的にも、そして体面的にもこの命蓮寺の代表でもある白蓮に一任されるのではという話もあったが、
佐野が指名し、またその当人である白蓮も推薦をしたのが犬走椛であった。

彼女もまた、この命蓮寺というサッカー未開の地で佐野と共に一同を鍛え上げた一員の1人である。
無論、小町やルーミアといった経験者もある程度はいるものの、彼女たちはそもそもあまり指導力というものがない。
結果として、佐野と椛――更には佐野が特別に師事を受けていた魅魔らが命蓮寺メンバーの成長に一役買っていた。
こうした点や、試合においてもディフェンス陣のリーダーとして振る舞っている点。
更には生真面目な性格などから椛はキャプテンへと推薦され……周囲の者たちも、特に問題は無いだろうと賛同をしていたのだった。

335 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:01:29 ID:???
椛「本当に自分で良かったんスか? やっぱ白蓮さんとかの方が……」
佐野「もう決まった事だろ、似合ってんぜキャプテンマーク?」
椛「わ、わふ……」
ぬえ「(っていうか別に試合じゃないのにつけてるあたり、なんだかんだでこの天狗もキャプテンになれてうれしいんじゃない?)」

その腕に締めた腕章を見て、佐野が言うと椛は照れたように頭をかき……。
しかし、小さくだが溜息を吐いた。

椛「(嬉しいのは嬉しいんスけど……本当に、いいんスかねぇ……。
   自分はやっぱりあの試合でも勝てなかったどころか、ろくすっぽ活躍すら出来なかったッス。
   ……キャプテン。 いや、佐野くんはもう立ち直って次の道を見据えてるッスけど……)」

出番を求めて命蓮寺へとやってきて、かつてオータムスカイズにいた時よりは大きく成長をして。
更には魔界へまで行って、そこでも大きく成長をして。
――それでも尚、敵わない。いや、敵わないどころか――勝負にすらなっていなかった、反町一樹との対決。

今、こうして佐野はすっかり立ち直り、前向きに留学に行くことに思いを馳せていた。
今よりも更に強くなり、今度こそ勝って見せるという強い気持ちを持っていた。
それはきっと彼の心が強く、そして実際に反町と相対する事が少なかったが為なのだろう。
ただ椛の場合は違う。彼女はDFであり、反町はFW――次に戦う時も、直接相対する関係だ。
その時自分は勝てるのか。この命蓮寺として大会に出て――本当に彼がいるチームに、勝てるのか。

椛も決してネガティブな性格をしている訳ではない。
だが、ここまで積み重なった敗北。練習をし、努力をしてもそれ以上のスピードで離れていく強者たちの背中。
何よりも一切満足のいく結果を出せていないにも関わらず、キャプテンに就任した焦りと、それでも感じてしまう歓び。
努力だけは認められたが、果たして今の自分にそれに見合う実力はあるのか。生真面目であるが故に、椛の悩みは尽きなかった。

椛「(自分にも佐野くん程の強い心か……反町さんみたいな他者を圧倒出来る才能でもありゃいいんスけどね……)」
佐野「ま、後は頼むぜ椛!」
椛「わふ……はいッス」

それでも辛うじて、そういった悩み――苦しみを周囲に出さなかったのは椛なりの意地だった。

336 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:02:54 ID:???
魅魔「……さて、そろそろいいかい?」
佐野「お? おう」

そして全員との挨拶を終えた所で、魅魔は改めて佐野に声をかけた。
名残惜しい思いはあれど、それに縛られてはいけない。
佐野は大きく頷くと、よいしょとオッサン臭い声を上げながらスポーツバッグを肩にかける。

佐野「……って、あれ? どうやって外の世界まで行けばいいんだ?」
魅魔「私の魔法で飛ばす。 ちょいと時間がかかるが……じっとしときな」
佐野「はぇー……師匠ってそんな事も出来んだな」
魔理沙「魅魔様は攻撃魔法だけじゃなく補助も回復も出来るからな。
    転送魔法も使えるし……いざって時は2つの魔法を同時に唱える事だって出来る」
佐野「ふーん……。 ……それって凄いの?」
魔理沙「めちゃめちゃすげーよ。 お前は少しは師匠の事を知る努力をするべきだぜ」
魅魔「ま、佐野はサッカーについての弟子だからね。 知らんでも問題無いさ。
   それと魔理沙、あんまり人を煽てるもんじゃないよ」

そういえばこの人って魔法使いだったな、と魅魔の持つステッキに目をやりながら佐野は思う。
ともかく、ここは言いつけ通りに佐野はじっと大人しくその場に立ち尽くし……。
しかし、今更ながら聞いていなかった1つの疑問が浮かび上がり、思わず口に出す。



337 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:04:08 ID:???
佐野「今更だけどさ、俺が行く留学先ってどこなんだ?」
魅魔「そいつはついてからのお楽しみさ……だが、悪いようにゃせんよ。
   しっかりと調べて選んだからね。 ま、環境についてはお前も文句言わんだろうさ」
佐野「ほへー」

明確な答えは貰えなかったものの、魅魔がここまで言うのならばきっとそうなのだろう。
今よりずっといい環境、というとやはりサッカー先進国――ヨーロッパ諸国か南米か。
佐野が新天地に想いを馳せる中で、魅魔は魔力をステッキへと込めると詠唱をし……。

魅魔「トゥエエエエエエエエエエエエエイイァアアッ!!」
佐野「掛け声かっこわるっ!? ってうおおおっ!?」

ステッキを一振りすると同時、佐野は綺麗さっぱりその場から姿を消すのだった。

338 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:05:22 ID:???
ムラサ「おお、本当にいなくなっちゃってる。 これって送れたって事でいいんだよね?
    ちょっと動きがあまりに地味すぎてちゃんと送れたのか単純に佐野くんがただ消えちゃったのか判別しにくいんだけど」
魅魔「人里で流行ってるような貸本屋の漫画とかならいわゆる『えふぇくと』とかいうのが出るんだろうが、
   本当の魔法ってもんはこういう地味なもんさ。
   地面に魔方陣だかを書いて魔力を増幅するのだって、私からいわせりゃ自分の持前の魔力じゃあ不足してるから、
   魔方陣を書く事によってその補助とする――。
   つまりは自分の力量不足を周囲に見せてるだけの、三流以下のやり方だね」

言いながら、魅魔はステッキを手元で弄びつつその場に腰掛ける。
その場にいる者が魔法に関してはあまり関心が無いか詳しくない――。
もしくは、魔法使いでありながらもこういった転送魔法などについてはまるで専門外であった為に突っ込みは無く。
しかし、唯一――魔理沙だけはそんな魅魔の隣に腰掛け、疑問を口にする。

魔理沙「しかし良かったのか魅魔様? あんな事言って」
魅魔「おや、どうした魔理沙? 何か変な事でも言ってたかねぇ?」
魔理沙「……環境には文句も言わんだろう、って言ってたじゃねーか」

魔理沙が気にかかったのは、先ほど魅魔が佐野に告げた言葉についてだった。
……本来、そこまで佐野達と仲がいい訳ではない魔理沙。
そんな彼女が、何故わざわざ佐野を見送るような場所にやってきたのか。
魅魔の魔法をこの目で見ておきたいという理由もあったが、それ以外にも理由がある。

339 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:07:07 ID:???
魔理沙「私はここに来る前に博麗神社に行ってきた。 ……霊夢と紫の奴が、派遣選手って奴を送るのを見に行ったんだけどさ」
魅魔「ああ、それで?」
魔理沙「咲夜や妖夢、うどんげ……後はさとり。 あいつらは、それぞれがてんでバラバラのチームに送られてたみたいなんだけどな。
    ……3人程、同じチームに送られてた奴らもいた」
魅魔「ほうほう」
魔理沙「……魅魔様、私には教えてくれたよな? 佐野がどこに行くのかって」
魅魔「ああ、教えたねぇ」
魔理沙「………………」

今回のサッカー留学は、何度も言われているように各人の大きな成長。
そして、外の世界との交流をメインとして企画されたものである。
――少なくとも、建前上は。

大きな成長についてはともかくとして、交流をメインとするならば……。
当然ながら、各々は別の国――或いは別のチームに所属をした方が、より多方面との交流になる。
だが、八雲紫が指定をした3名については、それぞれが同じチームに送られた。
……無論、外の世界のチームとの契約、交渉が上手くいかなかった可能性もある。
何せこちらは留学と称してそのチームの選手の枠を貰い受ける形になるのだ。
金を出し、その枠を買い取る形……それが上手くいかない事も、あり得るだろう。

魔理沙「なら……尚更3人も同じチームってのはおかしいじゃねぇか?
    よっぽど安く買いたたけたとしても、3つも枠をくれたりするもんか?」
魅魔「………………」
魔理沙「……逆なんじゃねーかなって思うんだよな」

340 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:09:12 ID:???
逆。つまり、幻想郷側が――八雲紫が頼み込んでそのチームに3つの枠を貰ったのではない。
そのチームの側が、是が非でも幻想郷からの留学選手を受け入れたいと申し出た。
そう考えれば3人もの選手が同一チームに向かったというのも、納得が出来る。

魔理沙「受け入れたいって言う理由は、考えられる可能性は2つ。
    1つは単純に先の大会で幻想郷の選手に興味を持ったチームであるって事。
    ……つっても、私が思うにこれは薄い。
    なんせ送られた3人はあの大会でロクに活躍どころか、大会に出てすらねーのもいたんだからな」
魅魔「………………」
魔理沙「そして、もう1つは……。 ……留学選手に頼らなきゃならねーくらい、よわっちいチームって事。
    ……なぁ魅魔様、私が聞いたその3人が向かったチームってのと。
    さっき魅魔様から教えて貰った佐野の留学先、一緒だったんだが……」
  
この指摘こそ、魔理沙がここに来た理由であった。
……関係は決していいとは言えないとはいえ、それでも魔理沙にとって佐野は一応は弟弟子である。
師匠である魅魔が、決して弟子をだましたりするような人間――もとい、悪霊ではないと知っているとはいえ、
それでも気になり……魅魔の真意を探ろうとするのだったが……。

魅魔「魔理沙、いい事教えてやるよ」
魔理沙「! ……なんだよ」
魅魔「『優れた環境』っていうのはね、何も『強いチーム』って事じゃあないのさ」
魔理沙「………………」

いたずらっぽく笑みを浮かべてそう言い放つ魅魔を見て、魔理沙は少しだけ佐野に同情したくなるのだった。

341 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:10:54 ID:???
………
……


佐野「…………」

一方その頃、佐野満は外の世界で立ち尽くしていた。
魅魔の転送魔法は、やはりしっかりと成功をしており……彼は特に何の問題もなく、
目的地――留学先のチームのグラウンドへと降り立つ事が出来ていたのである。

そして、恐らくは留学先のチームも――魅魔の差し金か、佐野がこの時間にやってくることを知っていたのだろう。
外の世界へと久しぶりに帰還し、しかし右も左もわからない場所にやってきた佐野の案内役を、しっかりとつけていた。

栗毛の少年「やあ、ようこそ。 君が最後のメンバー……サノ・ミツルだね?」
佐野「あ、ああ……(最後?)」

辺りをきょろきょろと見回し、知らない者が見れば不審者扱いしそうな佐野にまず声をかけてきたのは、
茶髪の……どこか優等生的な雰囲気を持った、メガネをかけた少年であった。
彼の意味深な言葉にどこか引っかかりを覚えながらも、名前は合っている為に頷く。

栗毛の少年「良かった、時間通りだったね。 さあ、こっちへ……実は君以外にも今日入ったメンバーがいてね。
      どうせだから一緒にチームの皆に紹介をしようと、今みんなを集めていた所だったんだ」
佐野「あ、そうなんスか(ほへー、珍しい事もあるもんだ。 さて掴みの挨拶を考えねーとなっと……ん?)」


342 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:13:46 ID:???
金髪の少年「………………」
佐野「(なんだこのゴリラ?)」

笑みを浮かべながら案内をする栗毛の少年の後をついていく佐野だったが……。
そんな栗毛の少年がいる一方で、先ほどから不躾にも佐野をジロジロと見ながら、無言で同伴をする金髪の少年がいる事に気づく。
少年、と言ってもその背格好――体格は大人顔負けに見え……。
佐野としては、どことなくかつて比良戸にいた時の先輩――次藤に似た雰囲気を覚える。
……次藤とは違い、頭は完全に金髪なのだが。

佐野「(っていうか、金髪に茶髪……やっぱ外国か。 少なくともアジアじゃねーな)」
栗毛の少年「さあついた、ここで皆待ってるよ。 入って入って」
佐野「あ、どもども」

やけに人の好さそうな栗毛の少年に先導され、部屋の中へと入る佐野。
ここは一発ギャグで入ると同時に心を鷲掴みにするべきか、などと考えながら入ってみれば――。

343 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:15:14 ID:???
一輪「あ、佐野くん待ってたわよ! さ、こっちこっち!!」
佐野「は……へ!? い、イチさん!? なんで!?」

なんとそこにいたのは、今朝方別れたばかりである筈の命蓮寺メンバー……雲居一輪の姿があった。
彼女はなんとも元気にブンブンと手を振って佐野の名前を呼んでおり、
一方で佐野としては予想以上に早すぎる再会に驚愕してしまうのだが……。
よくよく周囲を見てみれば、更に佐野は目を飛び出さんばかりに驚く破目になる。

??「(にゃ……あれが最後のメンバーかぁ。 ……なんだか試合でダイスばっか振りそうな顔してるにゃあ)」
??「(ひぅっ、今こっち見た? ……見たよね?
    ……うー、こんな人が多い場所でずっと待機してなきゃいけなかったし、やっぱ間違いだったかなぁ)」

多くの者たちはこのチームを構成する上での選手――男性ばかりである。
ただ、そんな中で特段目立つ少女が2名、長椅子に腰掛けている。
1人はネコミミの生えた少女、そしてもう1人はどこか怯えたように周囲をキョロキョロ見回している少女。

佐野「(え、え? あれ? ここ外の世界だよな? 幻想郷じゃねえよな?)」

後者はともかく、前者のネコミミ少女についてはどう考えても幻想郷産としか思えない外見。
一輪がいる事から考えてもそれは事実なのだろうが……しかし、どうしてここに?と疑問を持ってしまう。
何せ彼女たちは3人――佐野を含めれば、4人もの留学選手がいる事になるのだ。
混乱をする佐野を後目に、背後にいた栗毛の少年は咳払いをすると手を叩いて注目を集め口を開く。

栗毛の少年「それでは改めて紹介しよう。
      彼はサノ・ミツル……これから俺達と共に戦ってくれる、ゲンソーキョーと呼ばれる場所からやってきた選手だ。
      イチリンさん達をはじめ、これで4人の新戦力が加入してくれる事になった」
佐野「(あ、や、やっぱり4人全員が新戦力……つまりは留学選手なんだな)」
栗毛の少年「サノくんたちには、後でまた挨拶をしてもらうとして……まずは俺達から」

そこまで言うと栗毛の少年は佐野……そして一輪達へと視線を向け。

344 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:16:50 ID:???
マンチーニ「俺の名前は『クォグレー・マンチーニ』……そして、こっちが」
カルネバーレ「『ゴリー・カルネバーレ』だ」
佐野「(名前までゴリラみてーな……っていうか、なんだこいつ? めちゃめちゃ不機嫌だな)」

栗毛の少年――マンチーニに続き、金髪の少年――カルネバーレもまた、挨拶をする。
にこやかなマンチーニに対し、カルネバーレに関しては非常にぶっきらぼうな物言いだった為、
思わず佐野は眉を潜めるのだが……カルネバーレはそんな事など意に介さず、
ギロリと先ほどのマンチーニの視線とは打って変わって敵意に近い感情を剥き出しにした視線で佐野達を見ながら口を開く。

カルネバーレ「言っておくが、俺達のサッカーはゲンソーキョーとやらのオママゴトのサッカーじゃない。
       覚悟が無いならとっとと帰るんだな」
佐野「な、なにィ!?」
カルネバーレ「ふん……」

挑発めいたカルネバーレの言葉に思わず佐野が反応を見せるが、やはりカルネバーレは無視。
慌ててマンチーニが間に入り、なんとか場を取り纏めようとする。

マンチーニ「ま、まあまあ。 サノ、怒らないでくれ。 カルネバーレも不用意に煽るような事を言うのは止めるんだ」
佐野「むぐ……」
マンチーニ「さあ、自己紹介の続きだ。 まずはサノから……って、その前に言ってなかったな」

そこで一旦言葉を切り、メガネをクイッと上げてからマンチーニは続けた。

マンチーニ「ようこそイタリア、レッチェへ! 俺は君たちを歓迎するよ」

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