キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【SSです】幻想でない軽業師

1 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/20(土) 21:45:02 ID:???
Act.1 その時の結末

後半16分。

45分ハーフ、現時点で5−3でのビハインドという劣勢。

佐野「ハァ……ハァ……!」

フランス国際Jrユース大会、準決勝。
全幻想郷Jrユース対、魔界Jrユース。
どこからどう見てもJrユースという年齢層には見えない選手たちを抱えながら、
両チームはぶつかりあっていた。

ぶつかり合った結果が、先に出したスコアである。
電光掲示板に映るその数字を見ながら、魔界Jrユースの――キャプテンですらない、一選手。
"彼"は、走り回る。
走り回る事しか、今の自分に出来る事は無いと知っているから。

佐野「(ふざけんな……! ふざけんなふざけんなふざけんな!!!!)」

叫びたい気持ちを、押し殺しながら"彼"はひた走る。
その脳裏に、ここまでの道程がフラッシュバックした。

ボール運び程度なら出来ると、幻想郷へと召喚され。
しかしながらゲームメイカーには到底足りないと勝手気ままに烙印を押され、あっさり現実へと送還。
かと思えば使い道はあると言われ、妖怪の賢者に送り込まれた先はサッカー未開の地、命蓮寺。
まるでサッカーの素人ながら、素質はある彼女たちと切磋琢磨をし、
召喚の根本となった賢者の傍らにいる天才に羨望の目を送り、そして要因となった魔王をめざし。

326 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:48:43 ID:???
そして数日が過ぎた。
当初八雲紫がサッカー留学の話を出してから、日数にして数週間。
この頃になると、ようやくほぼ全ての組織からサッカー留学に向かわせる選手の目途が立ち。
また、人員が不足をしている組織からもその最高責任者が他に適任と思しき選手を補填としてスカウトする事も出来ていた。

紅魔館、白玉楼、マヨヒガ、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺、地獄――。
それぞれ8つの勢力からの留学選手。
彼女たちは各自、秘めたる想いを胸にして博麗神社から八雲紫の能力を用いて既に出立をしていた。

佐野「はー……しかし朝はえらい大騒ぎだったな本当」

そんな中、我らが今はまだ幻想郷にいる軽業師は、住まいとする命蓮寺でのんびりと過ごしながら、
今朝方の事を思い出していた。
留学選手に立候補をし、白蓮の期待に応えようと意気揚々と留学に備えていた一輪。
基本的に思い立ったが最後、普段は大人し目であまり目立つ事のない彼女であるが、
一旦火がつくと誰にも止められない程に暴走をするのは以前の何も考えず飛び出した経緯から見ても察して貰えるだろう。

そう、火がつくと止められない――だが、いつまでも燃え続ける火など無い。

当初はやる気に満ちていた一輪も、段々留学の日時が近づくにつれて、
やはり白蓮と離れるというのが寂しく、悲しく、名残惜しくなってきたのだろう。
結局、当日の今日――留学に向かう為に博麗神社に行く直前、
赤子のように、白蓮のそれはそれは豊満な高い浮き球4程あるだろう胸に顔を押し付け咽び泣いた。

これには白蓮はもとより命蓮寺の一同も困り果てたのだが、
最終的には一輪の性格を良く知るムラサの「聖の為にも強くなって帰ってきてね」の一言で全てが解決した。

佐野「イチさんも単純だよなぁ」

佐野に言われてはおしまいであるが、実際の所事実なのだから仕方ない。

327 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:49:54 ID:???
ムラサ「……真面目で機転が利き要領がいい性格だったんだけどなぁ、あの子も」
佐野「おっ、キャプテン。 ……イチさんが真面目なのはわかるけど、間違いなく要領とかそういうのはよくなさそうじゃね?」
ムラサ「聖が関わらなければいい子なのよ、ホント」
佐野「そりゃわかるけど……(そーいやなんで皆が白蓮さんの事慕ってるかとか、そーいう理由も俺詳しくしらねーなぁ)」

佐野の言葉に困ったように相槌を打つのは、その一輪の盟友――村紗水蜜である。
呆れ半分にそう呟く彼女の姿に、思えばそもそも命蓮寺の一同が、
聖白蓮の事を異様に慕っている理由を佐野は知らなかったと思い至るのだが、
なんとなくここで聞くのは今更過ぎるような気がして口には出せない。

ムラサ「で? 佐野くんはいつごろ出発なんだっけ?」
佐野「俺もどうせなら他の皆と同じ日にって師匠は言ってたけど……。
   まだこねーな師匠、もう昼だってのに」

魅魔の推薦により、魔界からの使者として留学選手に決定した佐野満。
八雲紫の提案した留学計画とは別口の件で留学に向かうのだから、
当然ながら他の者たちと同様、八雲紫のスキマ経由で外の世界に行ける道理もない。
よって、彼はその外の世界への移動手段に関しては完全に発起人である魅魔任せであった。
だが、その魅魔が留学予定日の当時になっても、一向に姿を現さない。
これにはさしもの佐野も、少しばかり焦りを見せるのだが……。

魅魔「あたしゃここにいるよ〜」
佐野「あっ、師匠!」

言っている傍から、ようやく魅魔が姿を現した。
命蓮寺の居住スペースとなっている区画の玄関口。
いつもの間延びしたような、それでいて凛とした決め台詞を聞いた佐野が振り返れば、
そこには果たして、当の魅魔と彼女を出迎えていた命蓮寺の面々――そして。

328 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:51:58 ID:???
魔理沙「よう!」
佐野「あ、魔理沙だ」
魔理沙「……だから『さん』をつけろって何度言えばわかんだ? あぁん?」

佐野の姉弟子にあたる霧雨魔理沙――彼女の姿もその中には見受けられた。

魅魔「準備は終わったかい、佐野?」
佐野「おうよ。 まぁ、つっても荷物なんて大して無いんだけどな」

相変わらずあまり仲がいいとは言えない佐野と魔理沙が言い争いをする前に、
魅魔が佐野に問いかけると佐野はグッと右手を掲げながら準備は万端であると宣言する。
実際、幻想郷に何も持たずにやってきて、この命蓮寺で過ごしてきた佐野の手荷物というのは多くは無い。
精々数日分の着替えや日用品程度である。

佐野「外の世界に比べてこっちは娯楽ってのが少ないからなぁ……思えば私物ってのも殆どねーや。
   あーあ、ドラゴンスフィアの続きが読みてぇなぁ」
ナズーリン「(なんだろうな……そんなにその続きが読みたいなら人里の酒商店にでも行った方がいいと思ってしまう)」
魅魔「遠足に行くんじゃないんだ、それくらいの方がかえってサッパリしてていいだろ」

足りない分は現地で買い足せばいい、金なら一応魔界から出る事になっている、と魅魔は説明する。

魅魔「そろそろ出発だ。 佐野……何か挨拶はあるかい?」
佐野「ん……そーだな」

言われ、佐野はむくりと立ち上がると魅魔の背後にいた命蓮寺メンバーへと視線を向けた。
思えば、この幻想郷にいたのも――長いようで短かった。
勝手気ままに幻想郷へと召喚され、勝手気ままにいらない子扱いされ、
勝手気ままに利用価値があるとされ、勝手気ままに創設間もないチームの指導者となった。
なんとも周囲に翻弄され続けた運命であったが、佐野自身は命蓮寺のメンバーを嫌っていないし、ここに来れて良かったと思っている。

329 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:53:10 ID:???
誰もかれもが個性的ではあるが、それでもサッカーに対して真摯だったのは指導者だった佐野もわかっている。
幻想郷においては珍しい、他者を思いやる心がある者たちばかりだという事も知っている(一名例外はいたが)。
召喚されはしたものの、衣食住――人が最低限生活するのに必要なものを持っていなかった佐野としては、
そんな自分を必要としてくれ、保護してくれた一同に感謝する気持ちが無い筈もない。

佐野「(つってもなんつっていいもんか……こういうのはこっぱずかしくていけねぇな)
   あー……まぁ、なんだ。 イチさんと同じく、俺も外で頑張ってくっからよ!!
   皆もその間、幻想郷で頑張ってくれよな!
   俺っていうスーパーエースがいなくなって、イチさんっていう正ゴールキーパーがいなくなって苦労するとは思うけど」

それでも思春期特有の、感謝を口にするのが恥ずかしいと思ってしまう性分故か。
佐野はどこか斜に構えたようにそう宣言するのが精いっぱいだった。
精一杯だったのだが……。

ぬえ「誰がスーパーエースって? ねぇ、誰が?」
ムラサ「(佐野くんには申し訳ないけど……正直、『超人化』した白蓮なら佐野くんの代わりにはなるけど、
     GKの不在の方が痛手だから……ぶっちゃけ、佐野くんより一輪の離脱の方が辛いのよねぇ)」
佐野「なにィ!?」

案外佐野の評価自体は大した事なかった。
無論、彼の能力が低いという訳でもなければ、命蓮寺メンバーから嫌われていた訳でもない(一部例外を除く)。
ただ、実際問題佐野という1人のドリブラーの離脱よりは、ゴールを守る一輪の離脱の方が痛手であったというだけの話である。
しかしながら、この反応には流石の佐野も凹む。
口に出して指摘をするのはぬえだけだが、他の者たちもなんとも言えない表情で佐野を見守っているのだから。

佐野「なんだよ!? 俺がいなくなったら誰がボール持って突破すんだよ!? ヒールリフトを誰がするんだよ!?」
ぬえ「ヒールリフトを超必殺技みたいな言い方する男の人って……」
星「ま、まぁまぁ佐野くん。 佐野くんがいなくなって寂しいのは私達もなんですよ。
  ……外の世界でも、留学、頑張ってきてくださいね」
佐野「お、おう?」

330 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:54:18 ID:???
思わず自分の得意技の有用性について言及してしまう佐野だったが、それすらも一笑に伏される。
実際の所、今更ヒールリフトの有無程度で自慢げにされた所で……という話ではあるのだが。
佐野に対してやけに突っかかるぬえを制しながら、温厚な者たちで占められる命蓮寺の中で人一倍温厚である星が仲介に入る。
思いがけず優しい言葉をかけられて佐野はいつもの流れとはちょっと違うなと感じながら周囲を見やり……。

小町「短い間だったけど同じ釜の飯を食ったんだ。 ま、達者でやりなよ」
ルーミア「お土産はいきのいい人肉がいいな〜」

まずは外様である小町とルーミアが、別れの言葉を告げる。
小町の言う通り、短い間とはいえ共に過ごした仲だ。
そこに情が沸くのはまた人情というものであり、ひらひらと軽く手を振りながら別れを惜しみ。
逆にルーミアは平常運転といった様子で呑気に、いつも通りの対応を見せた。

ナズーリン「……まぁ、幻想郷にいる私達が、元々外の世界にいた君を心配するというのは非常に滑稽なのだろうが。
      くれぐれも気を付けてね」
ムラサ「強くなって帰ってくる一輪と佐野くんの事、楽しみにはしてるんだからね」

命蓮寺のメンバーであり、当初から佐野と付き合いのあるナズーリンとムラサは佐野の行く末を心配しつつ期待もしていた。
彼女たちにとって、今は然程能力的に大きな差異が無くなったとはいえ――。
佐野が初めて来訪した時は、佐野は彼女たちにサッカーのイロハを教える指導者だったのだ。
そこに感謝の気持ちと尊敬の気持ちは当然ながらある。……後者に関しては、最近薄れてはいたものの。
ともかく、彼女たちにとって佐野はヒーロー……とは到底言えないが、
それでも相応には特別な立場の選手であった事は変わり無かった。

白蓮「佐渡くん」
佐野「……あの、佐野です」

331 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:55:20 ID:???
そして、この命蓮寺の代表――聖白蓮がそっと歩み寄りながら口を開く。
……案の定、佐野の名前を間違えていた事に、佐野自身は丁寧に訂正を入れるのだが、
白蓮は聞いていないのかそれとも気にしていないのか、ふわりとやわらかな笑みを浮かべたままだ。

白蓮「貴方がこの命蓮寺に来てからの数か月……我々が、まるで知らなかったサッカーというものを教えて貰い、本当に感謝しています。
   終ぞ、幻想郷での大会には参加が出来ませんでしたが……。
   全幻想郷との練習試合、思えばあれが、私達の――初めて、表舞台に立てた試合でしたね」
佐野「………………」

言われて、佐野の胸にはチクリと痛みが走る。
命蓮寺メンバーと修練に励み、更には魔界へと向かい幻想郷以上に優れた環境の中で練習をした。
白蓮の言うように幻想郷での大会には出場出来なかったが……。
しかし、ようやく彼ら――反町達を相手に表舞台での試合を慣行する事が出来た。
かつては雲の上の存在であった反町、そしてその他の幻想郷メンバーを相手に。
佐野達、命蓮寺のメンバーは懸命に努力をしてその前に立ちふさがろうとしたのだが……。

……佐野達は敗北をした、あまりにも呆気なく、あまりにもあっさりと。

佐野「(折角強くなったと思ったのに、反町さん達ときたらそれ以上に強くなってんだもんな……。
    ……そーいや、あん時は魔理沙さんも敵だったか)」
魔理沙「………………」

どうにも相性の悪い佐野と魔理沙であるが、そんな佐野とて魔理沙の実力の高さについては知っている。
豪快なシュートに突破力。おまけに守備意識の高さと、その守備力についても文句無し。
幻想郷どころか、世界中で見てもトップクラスのFW。
いや、FWとしてだけでなく――1人の選手として見た場合でも、名選手と言える程の実力を有していた。

そんな魔理沙ですら、霞む程の――当時の全幻想郷Jrユースの選手層の厚さ。
そして、そんな魔理沙をもってしても、第二FWの地位を掴むのが精々という反町という存在。
今更ながらに、佐野は一体どうしてそこまで反町が強くなったのか――反町だけではない、
何故自分たちと反町の周囲にいる者たちとで、ここまで大きな差があるのかと疑問に思ってしまう。

332 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:57:22 ID:???
佐野「(不公平だぜ……俺だって、俺達だって頑張ってきたのによ……。 畜生……)」
白蓮「佐古くん」
佐野「……だから佐野だって」

少しばかりネガティブになってしまう佐野であったが、再び白蓮に呼ばれ、現実に引き戻される。
再三に渡って名前を間違える白蓮に、やはり佐野は訂正するのだが……。
白蓮はやっぱり気にする素振りは見せず、慈愛に満ちた表情で口を開く。

白蓮「貴方が私達に教えてくれた事、口では色々と言いながらも努力をし、鳥町さん達に勝とうとしていた事。
   私達もそれに感化され、サッカーというものに情熱を傾ける事が出来ました。
   ……結果は残念でしたが、それは御仏もご覧になられている事でしょう」
佐野「(鳥町じゃなくて反町さんなんだけどなぁ……)」
白蓮「一切皆苦――思うが儘にならぬのが、人の生。
   どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、結果が出せぬという事に苛立ち、悲嘆にくれる事もあるでしょう。
   ですがサモくんは今一度――いえ、これまで幾度となくあった敗北を前にしても、
   何度も立ち上がり……このたびも、魅魔さんが持ってきた留学話を快諾しました」
佐野「あの……俺、佐野……」
白蓮「御仏のみならず、不肖ながらこの私も――そして、他の者たちも遠く離れた幻想郷にて応援をします。
   どうかこの旅路が、サミュエルくんにとってより良きものとなりますように」ペカー
佐野「もはや日本人じゃねーじゃん……ってうおっ、まぶしっ!!」

いい加減訂正するのにも疲れてきた佐野であったが、
白蓮が真摯に佐野の事を心配し、想い、彼の成功を祈ってくれている事だけはわかった。
実際、瞳を閉じて祈るように手を合わせる彼女の背後からは目に見えて後光が刺している。
あまりにも強烈過ぎる仏パワーに、佐野は目がチカチカするのだが……。
それならばそれでしっかりと名前くらいは覚えておいて欲しいと思わないでもない。

333 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 00:58:56 ID:???
佐野「ま、まあ……さっきも言ったけど俺も頑張ってくっから! 白蓮さん達も頑張ってな!
   レベル不足で前までは幻想郷での大会にも出られなかったけど、今なら全然出れるだろうし!」
ぬえ「へーんだ、アンタに言われなくたってそのつもりだよっ!
   アンタがいなくたってこの私の力で優勝させてやるんだから!」
佐野「にゃにおう!? この俺のローリングオーバーヘッドが無くても優勝が出来ると言うのか!?」
ぬえ「浮き球補正も特に高くない上にシュート力も低いのにローリングオーバーヘッドが得意技な男の人って……」

逆に素直に佐野を応援していない者もいる。
封獣ぬえ――彼女はとにかく、佐野と折り合いが悪かった。

当初この命蓮寺がチームを結成し、メンバーがそもそも11人にも満たなかった頃の事である。
ムラサ、一輪と古馴染であったぬえは、彼女たちの助けになるならばと加入しようとしていた。
しかしながら、生来天邪鬼な性格なのがこのぬえである。
素直にチームに入れて欲しいと言う事も出来ず、おまけに命蓮寺のメンバーの多くはドがつく程の天然が多い。
幸いにして、その時、その場にいた佐野はぬえの真意について察知したのだが……。
素直でないぬえの態度からからかい半分で追い返した事より、2人の関係は決して良いものとは言えないものになっていた。

……その後、紆余曲折を経てぬえがチームに加入をしてからも、互いに反目する間柄である。
もっとも、周囲からはケンカ友達としてほのぼのとした視線で見られる事が多いのだが。

ムラサ「ほらほら、ぬえも佐野くんも喧嘩しない。 ……佐野くんもあんまり気を悪くしないでね。
    ぬえもこれで寂しがってるのよ」
ぬえ「か、勝手な事言わぬぇでくれるムラサ!? 逆にコイツがいなくなってくれてせーせーするくらいだわ!」

べー、と舌を出して威嚇するぬえに苦笑しながらムラサが突っ込みを入れ……。
とりあえずはこの場も丸く収まるのだった。

334 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:00:16 ID:???
佐野「(……ま、こいつが生意気なのは今に始まったこっちゃねーしなぁ。
    それに、サッカーに関しちゃ真面目なのはわかりきった事だし。 白蓮さん始め、命蓮寺のメンバーはお人よしばっかだ。
    1人くらいこういう底意地の悪いのがいた方が安心……か?)」

素直になれないのは佐野もまた同じ。
なんのかんのと言いながらも、ぬえがこのチームの中で締める役割というものが大きいのは知っている。
特に白蓮や星といった、超がつく程の善人達がいる中、
こういった――いい意味であくどい者もまた、サッカーをしていく上では必要な人材であった。

椛「キャプテン……」
佐野「おっ、椛」

そして最後に佐野に声をかけてきたのは椛であった。
彼女はこの騒がしい一同の中においては、あまり目立つようなタイプではない。
おずおずと、苦笑をしながら前に歩み出てきた椛を見て――しかし佐野は嬉しそうに笑みを見せる。

佐野「ケケケ、今のキャプテンは俺じゃなくて椛だろ」
椛「わふ……いや、まぁ、そうッスけど……」

この命蓮寺ナムサンズのキャプテンは――一応は、佐野満という事になっている。
ただ、その佐野が外の世界へと留学に行く以上、佐野がいない間――3年間、キャプテンを代理として勤める選手が必要だった。
当初は実力的にも、そして体面的にもこの命蓮寺の代表でもある白蓮に一任されるのではという話もあったが、
佐野が指名し、またその当人である白蓮も推薦をしたのが犬走椛であった。

彼女もまた、この命蓮寺というサッカー未開の地で佐野と共に一同を鍛え上げた一員の1人である。
無論、小町やルーミアといった経験者もある程度はいるものの、彼女たちはそもそもあまり指導力というものがない。
結果として、佐野と椛――更には佐野が特別に師事を受けていた魅魔らが命蓮寺メンバーの成長に一役買っていた。
こうした点や、試合においてもディフェンス陣のリーダーとして振る舞っている点。
更には生真面目な性格などから椛はキャプテンへと推薦され……周囲の者たちも、特に問題は無いだろうと賛同をしていたのだった。

335 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:01:29 ID:???
椛「本当に自分で良かったんスか? やっぱ白蓮さんとかの方が……」
佐野「もう決まった事だろ、似合ってんぜキャプテンマーク?」
椛「わ、わふ……」
ぬえ「(っていうか別に試合じゃないのにつけてるあたり、なんだかんだでこの天狗もキャプテンになれてうれしいんじゃない?)」

その腕に締めた腕章を見て、佐野が言うと椛は照れたように頭をかき……。
しかし、小さくだが溜息を吐いた。

椛「(嬉しいのは嬉しいんスけど……本当に、いいんスかねぇ……。
   自分はやっぱりあの試合でも勝てなかったどころか、ろくすっぽ活躍すら出来なかったッス。
   ……キャプテン。 いや、佐野くんはもう立ち直って次の道を見据えてるッスけど……)」

出番を求めて命蓮寺へとやってきて、かつてオータムスカイズにいた時よりは大きく成長をして。
更には魔界へまで行って、そこでも大きく成長をして。
――それでも尚、敵わない。いや、敵わないどころか――勝負にすらなっていなかった、反町一樹との対決。

今、こうして佐野はすっかり立ち直り、前向きに留学に行くことに思いを馳せていた。
今よりも更に強くなり、今度こそ勝って見せるという強い気持ちを持っていた。
それはきっと彼の心が強く、そして実際に反町と相対する事が少なかったが為なのだろう。
ただ椛の場合は違う。彼女はDFであり、反町はFW――次に戦う時も、直接相対する関係だ。
その時自分は勝てるのか。この命蓮寺として大会に出て――本当に彼がいるチームに、勝てるのか。

椛も決してネガティブな性格をしている訳ではない。
だが、ここまで積み重なった敗北。練習をし、努力をしてもそれ以上のスピードで離れていく強者たちの背中。
何よりも一切満足のいく結果を出せていないにも関わらず、キャプテンに就任した焦りと、それでも感じてしまう歓び。
努力だけは認められたが、果たして今の自分にそれに見合う実力はあるのか。生真面目であるが故に、椛の悩みは尽きなかった。

椛「(自分にも佐野くん程の強い心か……反町さんみたいな他者を圧倒出来る才能でもありゃいいんスけどね……)」
佐野「ま、後は頼むぜ椛!」
椛「わふ……はいッス」

それでも辛うじて、そういった悩み――苦しみを周囲に出さなかったのは椛なりの意地だった。

336 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:02:54 ID:???
魅魔「……さて、そろそろいいかい?」
佐野「お? おう」

そして全員との挨拶を終えた所で、魅魔は改めて佐野に声をかけた。
名残惜しい思いはあれど、それに縛られてはいけない。
佐野は大きく頷くと、よいしょとオッサン臭い声を上げながらスポーツバッグを肩にかける。

佐野「……って、あれ? どうやって外の世界まで行けばいいんだ?」
魅魔「私の魔法で飛ばす。 ちょいと時間がかかるが……じっとしときな」
佐野「はぇー……師匠ってそんな事も出来んだな」
魔理沙「魅魔様は攻撃魔法だけじゃなく補助も回復も出来るからな。
    転送魔法も使えるし……いざって時は2つの魔法を同時に唱える事だって出来る」
佐野「ふーん……。 ……それって凄いの?」
魔理沙「めちゃめちゃすげーよ。 お前は少しは師匠の事を知る努力をするべきだぜ」
魅魔「ま、佐野はサッカーについての弟子だからね。 知らんでも問題無いさ。
   それと魔理沙、あんまり人を煽てるもんじゃないよ」

そういえばこの人って魔法使いだったな、と魅魔の持つステッキに目をやりながら佐野は思う。
ともかく、ここは言いつけ通りに佐野はじっと大人しくその場に立ち尽くし……。
しかし、今更ながら聞いていなかった1つの疑問が浮かび上がり、思わず口に出す。



337 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:04:08 ID:???
佐野「今更だけどさ、俺が行く留学先ってどこなんだ?」
魅魔「そいつはついてからのお楽しみさ……だが、悪いようにゃせんよ。
   しっかりと調べて選んだからね。 ま、環境についてはお前も文句言わんだろうさ」
佐野「ほへー」

明確な答えは貰えなかったものの、魅魔がここまで言うのならばきっとそうなのだろう。
今よりずっといい環境、というとやはりサッカー先進国――ヨーロッパ諸国か南米か。
佐野が新天地に想いを馳せる中で、魅魔は魔力をステッキへと込めると詠唱をし……。

魅魔「トゥエエエエエエエエエエエエエイイァアアッ!!」
佐野「掛け声かっこわるっ!? ってうおおおっ!?」

ステッキを一振りすると同時、佐野は綺麗さっぱりその場から姿を消すのだった。

338 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:05:22 ID:???
ムラサ「おお、本当にいなくなっちゃってる。 これって送れたって事でいいんだよね?
    ちょっと動きがあまりに地味すぎてちゃんと送れたのか単純に佐野くんがただ消えちゃったのか判別しにくいんだけど」
魅魔「人里で流行ってるような貸本屋の漫画とかならいわゆる『えふぇくと』とかいうのが出るんだろうが、
   本当の魔法ってもんはこういう地味なもんさ。
   地面に魔方陣だかを書いて魔力を増幅するのだって、私からいわせりゃ自分の持前の魔力じゃあ不足してるから、
   魔方陣を書く事によってその補助とする――。
   つまりは自分の力量不足を周囲に見せてるだけの、三流以下のやり方だね」

言いながら、魅魔はステッキを手元で弄びつつその場に腰掛ける。
その場にいる者が魔法に関してはあまり関心が無いか詳しくない――。
もしくは、魔法使いでありながらもこういった転送魔法などについてはまるで専門外であった為に突っ込みは無く。
しかし、唯一――魔理沙だけはそんな魅魔の隣に腰掛け、疑問を口にする。

魔理沙「しかし良かったのか魅魔様? あんな事言って」
魅魔「おや、どうした魔理沙? 何か変な事でも言ってたかねぇ?」
魔理沙「……環境には文句も言わんだろう、って言ってたじゃねーか」

魔理沙が気にかかったのは、先ほど魅魔が佐野に告げた言葉についてだった。
……本来、そこまで佐野達と仲がいい訳ではない魔理沙。
そんな彼女が、何故わざわざ佐野を見送るような場所にやってきたのか。
魅魔の魔法をこの目で見ておきたいという理由もあったが、それ以外にも理由がある。

339 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:07:07 ID:???
魔理沙「私はここに来る前に博麗神社に行ってきた。 ……霊夢と紫の奴が、派遣選手って奴を送るのを見に行ったんだけどさ」
魅魔「ああ、それで?」
魔理沙「咲夜や妖夢、うどんげ……後はさとり。 あいつらは、それぞれがてんでバラバラのチームに送られてたみたいなんだけどな。
    ……3人程、同じチームに送られてた奴らもいた」
魅魔「ほうほう」
魔理沙「……魅魔様、私には教えてくれたよな? 佐野がどこに行くのかって」
魅魔「ああ、教えたねぇ」
魔理沙「………………」

今回のサッカー留学は、何度も言われているように各人の大きな成長。
そして、外の世界との交流をメインとして企画されたものである。
――少なくとも、建前上は。

大きな成長についてはともかくとして、交流をメインとするならば……。
当然ながら、各々は別の国――或いは別のチームに所属をした方が、より多方面との交流になる。
だが、八雲紫が指定をした3名については、それぞれが同じチームに送られた。
……無論、外の世界のチームとの契約、交渉が上手くいかなかった可能性もある。
何せこちらは留学と称してそのチームの選手の枠を貰い受ける形になるのだ。
金を出し、その枠を買い取る形……それが上手くいかない事も、あり得るだろう。

魔理沙「なら……尚更3人も同じチームってのはおかしいじゃねぇか?
    よっぽど安く買いたたけたとしても、3つも枠をくれたりするもんか?」
魅魔「………………」
魔理沙「……逆なんじゃねーかなって思うんだよな」

340 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:09:12 ID:???
逆。つまり、幻想郷側が――八雲紫が頼み込んでそのチームに3つの枠を貰ったのではない。
そのチームの側が、是が非でも幻想郷からの留学選手を受け入れたいと申し出た。
そう考えれば3人もの選手が同一チームに向かったというのも、納得が出来る。

魔理沙「受け入れたいって言う理由は、考えられる可能性は2つ。
    1つは単純に先の大会で幻想郷の選手に興味を持ったチームであるって事。
    ……つっても、私が思うにこれは薄い。
    なんせ送られた3人はあの大会でロクに活躍どころか、大会に出てすらねーのもいたんだからな」
魅魔「………………」
魔理沙「そして、もう1つは……。 ……留学選手に頼らなきゃならねーくらい、よわっちいチームって事。
    ……なぁ魅魔様、私が聞いたその3人が向かったチームってのと。
    さっき魅魔様から教えて貰った佐野の留学先、一緒だったんだが……」
  
この指摘こそ、魔理沙がここに来た理由であった。
……関係は決していいとは言えないとはいえ、それでも魔理沙にとって佐野は一応は弟弟子である。
師匠である魅魔が、決して弟子をだましたりするような人間――もとい、悪霊ではないと知っているとはいえ、
それでも気になり……魅魔の真意を探ろうとするのだったが……。

魅魔「魔理沙、いい事教えてやるよ」
魔理沙「! ……なんだよ」
魅魔「『優れた環境』っていうのはね、何も『強いチーム』って事じゃあないのさ」
魔理沙「………………」

いたずらっぽく笑みを浮かべてそう言い放つ魅魔を見て、魔理沙は少しだけ佐野に同情したくなるのだった。

341 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:10:54 ID:???
………
……


佐野「…………」

一方その頃、佐野満は外の世界で立ち尽くしていた。
魅魔の転送魔法は、やはりしっかりと成功をしており……彼は特に何の問題もなく、
目的地――留学先のチームのグラウンドへと降り立つ事が出来ていたのである。

そして、恐らくは留学先のチームも――魅魔の差し金か、佐野がこの時間にやってくることを知っていたのだろう。
外の世界へと久しぶりに帰還し、しかし右も左もわからない場所にやってきた佐野の案内役を、しっかりとつけていた。

栗毛の少年「やあ、ようこそ。 君が最後のメンバー……サノ・ミツルだね?」
佐野「あ、ああ……(最後?)」

辺りをきょろきょろと見回し、知らない者が見れば不審者扱いしそうな佐野にまず声をかけてきたのは、
茶髪の……どこか優等生的な雰囲気を持った、メガネをかけた少年であった。
彼の意味深な言葉にどこか引っかかりを覚えながらも、名前は合っている為に頷く。

栗毛の少年「良かった、時間通りだったね。 さあ、こっちへ……実は君以外にも今日入ったメンバーがいてね。
      どうせだから一緒にチームの皆に紹介をしようと、今みんなを集めていた所だったんだ」
佐野「あ、そうなんスか(ほへー、珍しい事もあるもんだ。 さて掴みの挨拶を考えねーとなっと……ん?)」


342 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:13:46 ID:???
金髪の少年「………………」
佐野「(なんだこのゴリラ?)」

笑みを浮かべながら案内をする栗毛の少年の後をついていく佐野だったが……。
そんな栗毛の少年がいる一方で、先ほどから不躾にも佐野をジロジロと見ながら、無言で同伴をする金髪の少年がいる事に気づく。
少年、と言ってもその背格好――体格は大人顔負けに見え……。
佐野としては、どことなくかつて比良戸にいた時の先輩――次藤に似た雰囲気を覚える。
……次藤とは違い、頭は完全に金髪なのだが。

佐野「(っていうか、金髪に茶髪……やっぱ外国か。 少なくともアジアじゃねーな)」
栗毛の少年「さあついた、ここで皆待ってるよ。 入って入って」
佐野「あ、どもども」

やけに人の好さそうな栗毛の少年に先導され、部屋の中へと入る佐野。
ここは一発ギャグで入ると同時に心を鷲掴みにするべきか、などと考えながら入ってみれば――。

343 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:15:14 ID:???
一輪「あ、佐野くん待ってたわよ! さ、こっちこっち!!」
佐野「は……へ!? い、イチさん!? なんで!?」

なんとそこにいたのは、今朝方別れたばかりである筈の命蓮寺メンバー……雲居一輪の姿があった。
彼女はなんとも元気にブンブンと手を振って佐野の名前を呼んでおり、
一方で佐野としては予想以上に早すぎる再会に驚愕してしまうのだが……。
よくよく周囲を見てみれば、更に佐野は目を飛び出さんばかりに驚く破目になる。

??「(にゃ……あれが最後のメンバーかぁ。 ……なんだか試合でダイスばっか振りそうな顔してるにゃあ)」
??「(ひぅっ、今こっち見た? ……見たよね?
    ……うー、こんな人が多い場所でずっと待機してなきゃいけなかったし、やっぱ間違いだったかなぁ)」

多くの者たちはこのチームを構成する上での選手――男性ばかりである。
ただ、そんな中で特段目立つ少女が2名、長椅子に腰掛けている。
1人はネコミミの生えた少女、そしてもう1人はどこか怯えたように周囲をキョロキョロ見回している少女。

佐野「(え、え? あれ? ここ外の世界だよな? 幻想郷じゃねえよな?)」

後者はともかく、前者のネコミミ少女についてはどう考えても幻想郷産としか思えない外見。
一輪がいる事から考えてもそれは事実なのだろうが……しかし、どうしてここに?と疑問を持ってしまう。
何せ彼女たちは3人――佐野を含めれば、4人もの留学選手がいる事になるのだ。
混乱をする佐野を後目に、背後にいた栗毛の少年は咳払いをすると手を叩いて注目を集め口を開く。

栗毛の少年「それでは改めて紹介しよう。
      彼はサノ・ミツル……これから俺達と共に戦ってくれる、ゲンソーキョーと呼ばれる場所からやってきた選手だ。
      イチリンさん達をはじめ、これで4人の新戦力が加入してくれる事になった」
佐野「(あ、や、やっぱり4人全員が新戦力……つまりは留学選手なんだな)」
栗毛の少年「サノくんたちには、後でまた挨拶をしてもらうとして……まずは俺達から」

そこまで言うと栗毛の少年は佐野……そして一輪達へと視線を向け。

344 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:16:50 ID:???
マンチーニ「俺の名前は『クォグレー・マンチーニ』……そして、こっちが」
カルネバーレ「『ゴリー・カルネバーレ』だ」
佐野「(名前までゴリラみてーな……っていうか、なんだこいつ? めちゃめちゃ不機嫌だな)」

栗毛の少年――マンチーニに続き、金髪の少年――カルネバーレもまた、挨拶をする。
にこやかなマンチーニに対し、カルネバーレに関しては非常にぶっきらぼうな物言いだった為、
思わず佐野は眉を潜めるのだが……カルネバーレはそんな事など意に介さず、
ギロリと先ほどのマンチーニの視線とは打って変わって敵意に近い感情を剥き出しにした視線で佐野達を見ながら口を開く。

カルネバーレ「言っておくが、俺達のサッカーはゲンソーキョーとやらのオママゴトのサッカーじゃない。
       覚悟が無いならとっとと帰るんだな」
佐野「な、なにィ!?」
カルネバーレ「ふん……」

挑発めいたカルネバーレの言葉に思わず佐野が反応を見せるが、やはりカルネバーレは無視。
慌ててマンチーニが間に入り、なんとか場を取り纏めようとする。

マンチーニ「ま、まあまあ。 サノ、怒らないでくれ。 カルネバーレも不用意に煽るような事を言うのは止めるんだ」
佐野「むぐ……」
マンチーニ「さあ、自己紹介の続きだ。 まずはサノから……って、その前に言ってなかったな」

そこで一旦言葉を切り、メガネをクイッと上げてからマンチーニは続けた。

マンチーニ「ようこそイタリア、レッチェへ! 俺は君たちを歓迎するよ」

345 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 01:20:16 ID:???
佐野くんと一輪さん、更にまだ謎の少女×2がレッチェに移籍決定!という訳で一旦ここまで。
ゲームの方で1番やったのが5だったので、主人公の留学先はレッチェと決めていました。
なお元いたキーパーでは多分ゲームにならないので一輪さんもついてきてしまうもよう。

それでは。

346 :森崎名無しさん:2018/03/05(月) 18:20:30 ID:???
乙でした
ゲーム森崎以下のキーパーではやむを得ないか
彼の行方は如何に…

ところで、在籍選手の中にミッツィーニさんとかいませんか?

347 :森崎名無しさん:2018/03/05(月) 19:28:55 ID:???
ブルノさん解雇か、おしい人を無くした
謎の少女の能力にもよるけど、翼の負担が大きい5のレッチェよりもバランス良さそう
特にキーパー交代は大きいなぁ

348 :森崎名無しさん:2018/03/05(月) 21:44:20 ID:???
カルネバーレのネーミングが適当すぎて草

349 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/05(月) 23:53:45 ID:???
>>346
乙ありです

ミッツィーニさんとかハナミーチェさんとかは考えていましたがやめました。
佐野くんその他が目立たなくなっちゃうからね……仕方ないね。
>>347
一応ブルノさんはいることはいますが、サブキーパーですね。
もしも出番が来たらヤバイです……。
>>348
ネーミングセンス無いから……仕方ないね。

今日は更新無し、明日は出来ると思います。それでは。

350 :森崎名無しさん:2018/03/06(火) 16:20:00 ID:???
オテッロ「アンザーニ監督……試合に、出たいです……」

本当にアンザーニ監督だったらアナカンさんに土下座ものでしょうがw

351 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:23:40 ID:???
>>350
アンザーニ監督は……出るかもしれないし出ないかもしれない?

それではちょっとだけ更新します。

352 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:25:14 ID:???
佐野「イタリア……レ、レッチェ?」

マンチーニの言葉を受けて、思わず佐野はそう鸚鵡返しをしていた。
佐野とてサッカー少年。海外の著名なリーグ、有名なクラブチームというのはある程度知っている。
知っているのだが――それはやはり、ある程度という知識でしかない。

この時代、サッカー後進国である日本において、海外リーグの情報を得る手段というものは決して多くは無く。
佐野としては、イタリアがサッカー大国であるという事は知っていても、
レッチェというクラブチームなど知らないというのはある意味当然なのであった。

佐野「(イタリアって事はセリエA……でいいんだよな?
    インテルとかミランとかなら知ってるんだけど、レッチェ? ……無名クラブなのかなぁ)」
マンチーニ「さあ、それじゃあ次は皆に自己紹介をしてもらおうかな」
カルネバーレ「お前から行け」
佐野「(おっと、ま、チームの事については後で聞けばいいか。 ……しかしこのゴリラはなんでこんなケンカ腰なんだ?)」

思い悩む佐野であったが、知らない事についていつまで考えていても答えが出る筈もない。
マンチーニらに促されながら、ここは先に自己紹介をしておくべきだろうと口を開く。

佐野「あー……名前は佐野満! 元々は日本の比良戸中学ってトコにいたんだけど、
   色々あって幻想郷の命蓮寺ナムサンズってトコで世話んなってました。
   ポジションはFWとMF! ま、攻撃に関しちゃお任せあれって感じで1つヨロシク!」
マンチーニ「ああ、Jrユース大会ではマカイという所の代表で出ていたのを見ていたよ。
      見事なドリブル技術でこれから本当に頼もしいな」
佐野「あ、そう? まーなー、俺くらいのドリブラーはそんなにいるもんじゃないからなぁ」
カルネバーレ「タワケが。 足元の技術はともかく、体つきが中学生どころか小学生並だ。
       そんな体でここでやっていけると思っているのか」
佐野「ぬ……」

353 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:27:18 ID:???
まずは己の長所をアピールしつつ、気さくな感じで自己紹介を済ませる佐野。
これにはマンチーニが先の大会での佐野の活躍ぶりを評価しながら褒める。
実際、佐野の実力に関しては――少なくともドリブルだけならばトップクラス。
世界一という訳ではないものの大きな武器であり、マンチーニの頼りがいがあるという言葉も嘘偽りの無いものである。
これには佐野も鼻高々とばかりに気をよくするのだが、カルネバーレの辛辣な言葉に思わず詰まるのであった。

佐野「(なんだよこのゴリラ。
    さっきからイチャモンつけてばっかじゃねーか……チェッ、マンチーニってのはいい奴っぽいんだけどなぁ)」
マンチーニ「あ、あー……それじゃ次。 端の方からお願い出来るかな?」
一輪「私ね!」

思わず険悪なムードになりそうになった所で、慌ててマンチーニが話を進める。
指名をされた一輪は、待ってましたと言わんばかりに立ち上がると、
胸を張りながらその口を開いた。

一輪「名前は雲居一輪! 佐野くんと同じく、命蓮寺ナムサンズ所属のGKよ!
   好きな色は白! 好きな花は蓮! 好きな属性は聖! 好きな言葉は南無三!
   好きな京都の通り唄のフレーズは『あねさん ろっかく』のトコロ!
   好きな如来像は釈迦如来像! 好きな三法印は……」
マンチーニ「ま、待った待った……もういいから」
一輪「え、そう? 折角だから趣味の写経でやったお経を読みたいと思ってたのだけど……」
佐野「(アカン、テンション上がってるのかイチさんまた変な感じになってる……)」

凄くどうでもいい事を長々と――というか、そもそも恐らく大半の人物が違う宗教を信仰しているだろうにも関わらず、
仏教的な事を話しはじめ、おまけに事前に持ってきたと思しき経典を読み上げようとする一輪。
これにはマンチーニも慌てて止め、佐野は内心でまた一輪の悪い癖が出てると冷や汗を流す。

354 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:30:33 ID:???
佐野「(しかし、イチさんも大変そうだな……他のポジションならともかくGKってのは枠が1つしかねーんだ。
    イチさんだって悪いキーパーじゃないんだけど、もしもこのチームにいるGKってのが優秀ならスタメンは難しいぞ?
    ……って、ん?)」
ブルノ「ふっ……GKか。 やれやれ、折角留学に来てくれたというのに、
    それがこの『ザ・レッチェの壁』ことブルノ様のいるレッチェというのは運が無かったな」
佐野「お? もしかしてアイツがここの正GKなのか?」
マンチーニ「え? ああ……まあ、そうだね」

一輪の事を心配する佐野は、この一輪の挨拶に反応をした1人の少年に目をつける。
よくよく見てみればマンチーニやカルネバーレをはじめ、他の選手たちがユニフォームを着ている中。
その少年だけは違う色のユニフォーム――GK用のユニフォームを着ていたのである。
佐野が気になりマンチーニに問いかけてみると、マンチーニはどこか歯切れ悪くも肯定をした。

ブルノ「ククク……この後の練習で『SSGGKK(スーパー・スペシャル・グレート・ゴールデン・かっこいい・キーパー)』と呼ばれる、
     ブルノ様の実力が如何に高いかという事をお見せしよう」
佐野「(むむむ……この自信、この不敵さ……。 まさかコイツ、相当強いのか?)」
マンチーニ「………………」
カルネバーレ「………………」

尊大な態度を取るブルノの姿勢に、思わず唾をゴクリと飲み緊張する佐野。
一方でマンチーニとカルネバーレは、生暖かい視線でブルノの事を見つめるのだった。

355 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:31:52 ID:???
マンチーニ「ええと……それじゃあ次に行こうか。 お願い出来るかい?」
??「にゃあい! 待ってました!」
佐野「(そーいやあの子は見た事ねーな。 ……少なくとも、この前のフランス大会じゃ出てなかったんじゃねーか?)」

何はともあれ、一輪の自己紹介は終わったという事で。
マンチーニは次の少女へと視線を向けて自己紹介をするよう促す。
つられて佐野もまた、その少女に視線を向け――しかし見覚えの無い少女だと首を捻る中。
少女はそのネコミミをピクピクと動かしながら立ち上がる。

お燐「あたいの名前は火焔猫燐(かえんびょう りん)! 幻想郷は地霊殿の出身さ!
   ポジションはMF! これからよろしくね、お兄さん方!
   ま、気軽にお燐って呼んでおくれよ!」
佐野「地霊殿……(って、確かフランスに派遣されてたキーパーさんらがいる場所、だったよな?)」

ウインクをしながら、愛嬌たっぷりにそう自己紹介する少女の名前は火焔猫燐。
佐野の考え通り、古明地さとりが統治する地底の要所――地霊殿のペット。
先のフランス国際Jrユース大会では試合に出るどころか、幻想郷Jrユースの代表にすら落選した選手である。
彼女が本来留学選手としての権利を行使出来る筈だった地霊殿の留学選手は、古明地さとりで内定をしている。
では何故そんな彼女がここにいるのか――それは、彼女が他勢力の権利を使って留学をしていたからに他ならなかった。

356 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:32:55 ID:???
〜 回想 〜

お燐「にゃ〜ん……さて、いそがしいそがし。
   こいし様がやる気を出してくれたとはいえ、やっぱりまだまだ荷が重すぎるもんね。
   おくうじゃとても補佐なんてもんは出来ないし、あたいがしっかりこいし様を支えないと!」

古明地さとりが留学選手に決まった地霊殿。
留学までの間、さとりの指揮のもと、地霊殿を統治する体制を一同は整備しようとしていた。
その中でも人一倍動き回り、内情を纏めてさとりがいなくとも運営出来るようにと努力していたのはお燐である。
こいしが妖怪を集め、運営に携わるようになるとはいえ彼女はまだ未熟。
盟友であるおくうもやる気だけはお燐以上に出しているが、残念ながら彼女の頭は頭脳労働に向いていなかった。

よって、お燐が頑張るしかない。
幸いにしてさとり達が留守にしていた期間中、この地霊殿を切り盛りしていたのはお燐だ。
その時に培ったノウハウもあり、後はこれを長期的に運用出来るようなシステム作りをすればいい。
辛くはあるがこれもさとりの為と懸命に働くお燐だったのだが……。

勇儀「お、ここにいたのかい地獄猫」
お燐「うにゃ? あ……勇儀の姐さん」

そんなお燐に声をかけてきたのは、旧地獄街道を取り仕切る鬼――星熊勇儀であった。
慌ただしくバタバタ走り回るお燐は声をかけられた事で一旦足を止め……。
しかし、やはり忙しそうに、申し訳なさそうにしながら口を開く。

お燐「悪いけど宴会のお誘いならまた今度! 今ちょっと忙しいんだよ」
勇儀「おいおい、まだ話の用件も言ってないのにそりゃないだろ?
   ……まあ、いつも宴会に誘いに来てるからその反応もわからんでもないが」

三度の飯より酒が好き。今もまた盃を手にしている勇儀を見て開口一番にそう言うお燐に対し、
勇儀は困ったように頭をかきながら宴会に誘いに来たのではないと手を横に振って否定する。

357 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:34:13 ID:???
勇儀「私は回りくどいのが嫌いでね。 単刀直入に言わせてもらうよ。
   地獄猫……アンタも例のサッカー留学とやらに行かないかい?」
お燐「……はァ?」

そして続いて出てきた発言に……お燐は思わず恍けた声を上げていた。
一体こいつは何を言っているのかと、明らかに格上である勇儀に対して疑念に満ちた視線を向ける。
酒の飲み過ぎで頭まで悪くなったのか、というか何故彼女がサッカー留学の話を知っているのか。
疑念は絶えないが、いずれにしろ地霊殿の留学選手はさとりに決まったのだ。

お燐「悪いけど、ウチから留学に行くのはさとり様だよ。
   っていうか余所の御家の事情に首突っ込まないで欲しいにゃ」
勇儀「あー……いやいや、違う。 コイツは地霊殿として留学に行けっていう話じゃあないんだ」
お燐「にゃ?」
勇儀「地獄の裁判長様が先日お見えになってねぇ……」

肩を竦めながら、勇儀は決していいとは言えない頭と弁舌で説明を始めた。
曰く、先日――旧地獄街道を取り仕切る星熊勇儀の元に、現在の地獄――。
是非曲直庁に勤務をする四季映姫がやってきたのだという。
そこで四季映姫が語ったのは、地獄が得た留学権を星熊勇儀に委託したいという話であった。

お燐「……にゃんでそんなことに?」
勇儀「あちらさんは仕事熱心だからねぇ。 裁判長殿は、基本的に誰も行かせたくないんだろうさ」

地霊殿を始めとして、基本的にどの組織も程度の差こそあれ幻想郷での役割を持っている。
その中でも地獄――是非曲直庁に関しては幻想郷でもトップクラスの忙しさを持つ組織であった。
タイトに組まれた裁判制度と慢性的な人員不足。
ぶっちゃけ、サッカー留学などに人を出している暇など無いのである。

お燐「あの渡し守のお姉さんなんか、いてもいなくても仕事しないんだから問題ないんじゃにゃい?」
勇儀「かもしれんが、だからってホイホイ留学に行かせられんのだろう」
お燐「ふーん……」

358 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:35:17 ID:???
お燐「(火燐だね……)」

かつてサッカーの試合中、お燐と共に中盤を切り盛りし、覚醒をしたゾンビフェアリー。
お燐を慕っていた彼女に対し、お燐は自身の名前から取った字を使い名前を与えた。
それ以後は一介の妖精ながらもサッカー、実生活共にお燐の支えとなっていた彼女。
勇儀の言うようにお燐を推薦するならば彼女しかいないと、お燐は考えていた。

勇儀「どうなんだい? 違うってんなら他の奴に話を持っていかなきゃあならなくなるんだが……」
お燐「あー……いや、あたいは……」
勇儀「おっと、『正直』に答えなよ? 正直にね」
お燐「(めんどくさいにゃあ……)……そうだね、まあ、確かに。 留学ってぇ奴に行ってみたいのは事実さ」

嘘を嫌う鬼に嘘はつけない、とお燐は白状をした。
実際、さとりが話を持ってきた時も――お燐自身は、
こいしやおくうに比べ、行ってみたいという気持ちを隠してはいなかった。
好奇心旺盛な彼女の性格上、外の世界というものに興味がある――という面もある。
だが、それ以上に彼女が求めていたのはさとりの役に立てるだけの力を手に入れたいというものだった。

お燐「(おくうは殆ど出番が無かったらしいけど、それでも代表入りしてゴールだって決めてた。
    こいし様はさとり様の支えになって、外の世界のチームの選手たちを鍛えてたらしい。
    あたいだけが何も出来なかった。 ……地霊殿で帰りを待つしか出来なかったんだ)」

359 :>>358は無視して下さい ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:36:17 ID:???
はじめはイマイチ話が読めなかったお燐であったが、勇儀の説明によりある程度は納得した。
確かに是非曲直庁の忙しさというのは耳にしているし、
厳格な四季映姫があくまで遊びの延長であろうサッカーにかまけて仕事を疎かにする訳が無いというのは理解できる。
何よりも、この話をしたのは目の前の星熊勇儀だ。
ウソを何よりも嫌う種族――鬼の勇儀がそう言うのだから、それはきっと真実なのだろう。

お燐「っていっても、なんであたい? パルパルズの人たちとかは? お姐さん、仲良かったんじゃないの?」
勇儀「一応話は持って行ったが、乗り気な奴がいなかったからねぇ」
お燐「ふーん……じゃ、おくうとかこいし様とかは?」
勇儀「ああ、そいつは考えたんだが……どうも話を聞いてるとアンタが適任そうだったからね」
お燐「うん? どゆこと?」

パルパルズのメンバーに話を持って行った時、彼女たちが乗りきでなかったというのはまだわかる。
なんだかんだと言いながら、あそこも既に強豪クラスのチーム。
おまけに橋姫を中心としながら、多種多様な種族、勢力の選手たちが集まり仲良くしているチームだ。
噂で聞いた妖夢の離脱こそあれど、基本は全員があのチームでやっていきたいと考えているのだろう。

ただ問題はその上で何故勇儀がお燐に話を持ってきたのかという事である。
地霊殿には他にもおくうやこいしがいる。
その中でお燐を選んだ理由がいまいちつかめず、問いかけると、勇儀は快活に笑いながら返答した。

勇儀「お前さんがこの地霊殿で、ホントは一番外の世界に行きたがってたって聞いたからね」
お燐「……誰にだい?」
勇儀「顔色が悪い妖精さ」
お燐「………………」

勇儀の返答を聞いて、お燐はすぐにピンと来た。

360 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:37:25 ID:???
お燐「(火燐だね……)」

かつてサッカーの試合中、お燐と共に中盤を切り盛りし、覚醒をしたゾンビフェアリー。
お燐を慕っていた彼女に対し、お燐は自身の名前から取った字を使い名前を与えた。
それ以後は一介の妖精ながらもサッカー、実生活共にお燐の支えとなっていた彼女。
勇儀の言うようにお燐を推薦するならば彼女しかいないと、お燐は考えていた。

勇儀「どうなんだい? 違うってんなら他の奴に話を持っていかなきゃあならなくなるんだが……」
お燐「あー……いや、あたいは……」
勇儀「おっと、『正直』に答えなよ? 正直にね」
お燐「(めんどくさいにゃあ……)……そうだね、まあ、確かに。 留学ってぇ奴に行ってみたいのは事実さ」

嘘を嫌う鬼に嘘はつけない、とお燐は白状をした。
実際、さとりが話を持ってきた時も――お燐自身は、
こいしやおくうに比べ、行ってみたいという気持ちを隠してはいなかった。
好奇心旺盛な彼女の性格上、外の世界というものに興味がある――という面もある。
だが、それ以上に彼女が求めていたのはさとりの役に立てるだけの力を手に入れたいというものだった。

お燐「(おくうは殆ど出番が無かったらしいけど、それでも代表入りしてゴールだって決めてた。
    こいし様はさとり様の支えになって、外の世界のチームの選手たちを鍛えてたらしい。
    あたいだけが何も出来なかった。 ……地霊殿で帰りを待つしか出来なかったんだ)」

361 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:38:56 ID:???
表面上は明るく見せていたが、その現実はお燐にとってショックであった。
無論、地霊殿でさとりたちの不在の間しっかり留守番が出来たというのは1つの誇りである。
ただ、あまりにもちっぽけな誇りだ。
本音を言えば自分も代表入りをして活躍し、地霊殿のイメージアップに貢献したかった。
忌み嫌われた妖怪たちの首領。覚り妖怪の住まう屋敷の凄さをアピールしたかった。

そういった事を考えれば、お燐にとって留学という話は飛びつきたくなる程の話であった。
……さとりの事を考えて自制をしたが、本音を言えば留学をして強くなりたい。
さとりの役に立てるようになりたいという思いは、同じペットのおくう以上には強かっただろう。

お燐「ただ……あたいが行ったらいよいよ地霊殿は傾いちゃうよ。 おくうとこいし様だけで回せると思うかい?」

とはいえそれはただの願望であり、現実的ではない。
お燐の言う通り、さとりという頭脳がいなくなった今、地霊殿を切り盛りするのは自分しかいないという自負がある。
この上にお燐までいなくなっては、地霊殿がのっぴきならない状況になるというのは自明の理であった。
故にお燐としては、行きたいが行けない。そう答えざるを得ない。

362 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:40:14 ID:???
ただ、そのお燐の答えも予想をしていたのか……勇儀は盃をクイと傾け一口呷り、
酒気を帯びた息を吐きながらも笑みを浮かべて解決策を述べた。

勇儀「問題ない。 あんたの代役についちゃ妖怪の山の天狗どもにお願いするつもりだからね」
お燐「は……はァ!?」

星熊勇儀は、かつて妖怪の山でぶいぶい言わせていた鬼でもある。
今ではこの地底に住まい、隠遁生活をしているようなものだが、今でもその威光は妖怪の山で通用し、
そこに働きかけて追加の人材を呼び寄越すくらいは簡単なものだ。
特に、この解決策は妖怪の山の天狗に頼む――という点が秀逸であった。
妖怪の山の社会組織は、地霊殿のそれよりもよっぽど人間社会のそれに近い管理体制である。
そこで働いている天狗がお燐の代理を務めるのならば、不慣れであろうともすぐ慣れる事が出来るだろう。

しかし、お燐が驚き声を上げたのはそんな事が理由ではない。

お燐「妖怪の山って……勇儀の姐さん、あんた……そんな性格だっけ?」

かつて、と言ったように……勇儀が妖怪の山にいたのは遠い昔の話である。
元山の四天王として名を馳せていた彼女は、しかし今は旧地獄街道で毎日酒盛りをしているただ一介の鬼。
良く言えば単純で豪快、悪く言えば短気で粗野で融通が利かない性格の彼女。
元来権力や過去の栄光というものを振りかざし、昔の部下に無理難題を突き付けるような性格ではない。
というよりも、むしろそういった権力をかざして命令する者を毛嫌いするようなタイプである。

そんな勇儀が何故そこまでするのか、とお燐が疑問を持つのは当然であり。
それに対して勇儀はどこか苦々しくしながらも返答する。

勇儀「……まぁ、私もあんまりこういった手は使いたかぁなかったんだがね。
   ただ……地霊殿にゃあ借りもある」
お燐「借り?」
勇儀「ああ。 より正確に言えば……お宅のご令嬢にゃあ、大層失礼をこいたからね」

363 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:41:29 ID:???
そう言う勇儀の表情は、やはり苦虫をかみつぶしたかのようなものだった。
お燐の知る事ではないが、彼女は先日あったフランス国際Jrユース大会において、
同朋である鬼――伊吹萃香、と……おまけについてきた鴉天狗の射命丸文と共にウルグアイJrユースに参加。
フランスへと派遣をされていた古明地姉妹と対戦をしていた。

その以前までの幻想郷における大会において、見るも無残にシュートに蹂躙され、
トラウマを見せるどころか逆にトラウマに苛まれるようになった古明地さとりに対し、
心底呆れと軽蔑に近い感情を抱いていたのが勇儀である。
当然、Jrユース大会でも完全にさとりたちを見下し、歯牙にもかけぬつもりで戦ったのだが――。

そんな勇儀をあざ笑うかのように、さとりたちは奮闘し、勇儀たちを破った。
後半戦に入り難攻不落とされる萃香から、フランスの第二ストライカーがゴールを奪い。
そして、勇儀の持つバカげた威力のシュートをも、古明地さとりは完全に防いだうえで。

勇儀「……ここまでの便宜って奴は私なりの罪滅ぼしって奴だ。
   鬼退治をしたツワモノには相応の褒賞ってのが古来よりの慣わしだろう」

鬼を相手に、決して強いとは言い切れない筈の覚り妖怪の姉妹が勝利した。
その事実は彼女に大きなショックを与え……。
それでも、例え負けたとしてもそれを受け入れるだけの度量が勇儀にはあった。
むしろ、自身を打ち負かしたという事実を讃え、侮っていた事を詫びる程度の気持ちはあった。

そんな中に舞い込んできた地獄からの留学話。
詫びを入れる際の手土産としては、十分なものではないだろうか。

勇儀「ってなわけだ。 行っといで、地獄猫」
お燐「お姐さん……! ありがとにゃーっ!!」
勇儀「(やれやれ……しかしなんとまあ、あの古明地のご令嬢といいこいつといい、留学……いや、修行、練習か。
    そんなに楽しいもんかね。 まるで人間のような事を。
    ……鍛えるってのは女々しい事だと思ってたが、これも時代なのかねぇ)」

364 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:43:02 ID:???
諸手を上げて飛び跳ね喜ぶお燐を見て、苦笑をしながらもそう思う勇儀。
力を持って生まれ、その力をして四天王とまで呼ばれていた彼女の思想は、
才覚ある者がそれを鍛えようとするのは女々しい――という、恐らくは鬼独特でしかない思想である。
ただ、しかし……こんな勇儀の考えも、決して珍しいという訳ではない。

実際にこの幻想郷には……練習をしない訳ではない、が、それでも。
生まれ持った才能、種族というものが全てという考えを持つ者も大勢いる。
そして事実として、かつての幻想郷では才能を持ち、
それを思うが儘に使う者こそがサッカーにおいても力関係においても常にヒエラルキーのトップに立っていたのだが……。

少なくともサッカーに関しては、ここ最近は情勢が変わってきている。

勇儀「(地底だけでも古明地のご令嬢は今じゃ萃香にも負けない程のキーパーだし、
    橋姫は博麗の巫女顔負けのドリブラー……とんでもない話だ)」

早速皆に報告を、と駆けだすお燐を眺めながら勇儀は考える。
変わりつつある幻想郷、変わりつつあるパワーバランス。
それがいい事か悪い事かはさておいて……。

勇儀「(少なくとも、強い奴が増えるってのはいい事だね! 私の腕もなるってもんだ!!)」
お燐「勇儀の姐さ〜ん! みんな喜んでくれてるよ!! ホントありがとね!!
   あと、今度地霊殿ネコ科の会のみんなで壮行会やってくれるらしいから、お姐さんも参加しておくれよ!」
勇儀「おっ、いいのかい?」
お燐「もっちろん!! あたいが留学に行けるのはお姐さんのお蔭なんだからね!」
勇儀「ハッハッハ、ならお言葉に甘えて参加させてもらおうかね」

勇儀はそれを受け入れ、楽しみにしていた。
鬼である彼女は誰よりも強者との戦いを求め……そして誰よりも単純であった。

365 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:45:07 ID:???
……ちなみに。

勇儀「………………」

お燐「………………」

アーマータイガー「………………」

火燐「………………」

数日後、お燐の言った通り地霊殿のネコ科たちが集まり、壮行会を開いてくれた。
ネコ科でもなく、勿論クマでもない勇儀が参加をするのは異例中の異例と言え、
また、一介の妖精である火燐がこの席にいるのもおかしな話でもあったのだが、
勇儀はお燐への留学話を持ってきたという事。火燐はそんな勇儀にお燐が留学に興味を持っていると告げた事。
そして何より当事者のお燐が誘ったという事もあって他の者たちにも受け入れられていた。

主賓であるお燐、客人である勇儀。
更にそこにアーマータイガーや、他の地霊殿に住まうネコ科たちが勢ぞろい。
全員が地霊殿のとある一室に集まりお燐の前途を祝おうとしていたのだが……。
微妙に、どことなく、雰囲気が重い。

何故か。

デビルねこ「ごめんね、ボクが糖尿病だからお茶しか出せなくて……」

この壮行会の幹事であるデビルねこが糖尿病である為アルコール類が出せず、
いまいち盛り上がっていないからだったという。

〜 回想 終わり 〜

366 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:46:16 ID:???
お燐「(まぁ……最後はともかく! あたいはやるよ、勇儀の姐さん!!)」

いまいち締まらない幻想郷最後の思い出であったが、それでもお燐は燃えに燃えていた。

お燐「(そしてさとり様、こいし様、おくう!!
    もう皆の後ろ姿を見るだけはゴメンだ。
    あたいは今日ここから、皆と一緒に戦えるだけの力をつけるんだ!)」

幻想郷代表に残れなかったという、活躍するしない以前――スタートラインにすら立てなかった悔しさ。
外の世界という未知の環境に対する希望と好奇心。

地底に住んでいる割には意外に明るい少女は、この新天地。
慕う主や友がいない場所で、きっと自分は――今度こそ主の役に立てるような立派なペットになってみせるのだと、
そう胸に誓うのだった。

367 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/07(水) 00:47:16 ID:???
おりんりんランド、イタリアで開園!という所で一旦ここまでです。それでは。

368 :森崎名無しさん:2018/03/07(水) 01:22:54 ID:???
乙でした
謎のメンバーはこっちの猫さんだったか、レッチェでは貴重な戦力だなぁ
あと一人は得点力がある選手だと大分バランス良くなるんだけどどうなるかなー


369 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/08(木) 21:46:59 ID:???
>>368
乙ありです。
5のレッチェ編はキーパーのザル具合も含めて割とハードモードですからね。
留学してきた選手は佐野は既に一定の能力があるとはいえ、一輪お燐あと1人は元々の能力は低めでスタートする予定でした。
そこを鍛えながらどうやって勝っていくか、という展開にするつもりだったので、
そういった育成・練習描写や交流もそこそこ書いていきながらやっていければなと思います。

本日も更新は無しです。明日、明後日に出来ればと思います。それでは。

370 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 02:30:21 ID:???
今日も更新は無しです。が、それだけだと寂しいので当時やっていた時の「反町への」好感度のデータを公表してみようと思います。
ちなみにデータ的にはJrユース編が始まる以前のオータムスカイズ編時点でのデータとなります。
まずは基準値となるであろうステディ・早苗さんの好感度について。

早苗評価   21

21です。ちなみにこれがどれくらいかというと、大体20が本編で言う+5くらいに思っていただければいいと思います。
20を超えれば絶対的な信頼や好意です。それを考えた上でのオータムスカイズメンバーの数値はこちらです。



穣子評価   28
静葉評価    9
にとり評価  17
大妖精評価  12
橙評価    10
リグル評価  21
妖精1評価  11
サンタナ評価 14
ヒューイ評価  9
チルノ評価  −2
メディ評価   0
幽香評価    7
レティ評価   6
リリーW評価  0
リリーB評価  1
妹紅評価   23

371 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 02:32:38 ID:???
打ち切った後などにも言った記憶がありますが、
正直当時私が穣子さんルートのつもりで書いていたというのも数値的には見て取れると思います。
勿論妹紅ルートも大いにありだと思います。リグルについては一切恋愛的な意味でのルートは考えてませんでしたが。
……ぶっちゃけると、当時、自由選択肢なりなんなりで、
穣子さんに「お前の事が好きだったんだよ!(意訳)」的な事を言えば、
多少なりとフラグなりなんなりは立ってそちらルートに行っていたと思います。それくらいの必要な好感度はありました。
もこたんあたりでもそれは同様ですかね。リグルはやっぱり考えてませんでした。
結局の所PLキャラである反町、もしくはその対象が好意を自覚させないといけないわけで。
そういった意味では明確に恋愛感情を向けた早苗さんがヒロインレースに大勝利したのも自明の理かもしれませんね。

その他を見ていきますと、意外と静葉さん橙といった初期メンバーの数値が低いです。
ここら辺は幽香さん関連で揉めた影響とかもあったかもしれませんね。
にとりに関してはそれで試合に対して割を食ってはいませんでしたので、
もうちょっといけば恋愛ルート突入もあったかもしれません。

妖精トリオについては弟子であるヒューイが実は一番低いです。
これについては幻想のポイズン内で散々言っていましたし、このスレでも描写していますが、
反町といればレギュラーになれるけど別に人間として好きでいる訳ではないしその他の面で信頼してる訳ではない。
実利の面で信頼しているだけという所でしょうか。

その他の面子については幽香さん以外は妥当でしょうか。
総括としてはやっぱり好感度の差が激しい。また高くても試合中の関係で上下が殆どだったので。
もっと日常パートでみんなと構ってあげて欲しかったというのが正直な所でした。

372 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 02:34:35 ID:???
次にその他の面々で気になる所。

パルスィ評価  1

やったね反町!パルスィの評価が1だよ!という感じでライバルのパルスィはたった1。
それでもパルスィから+の感情値を引き出すのがどれだけ難しいかというのはご理解されてると思いますので、これは凄い事です。

ラディッツ評価11

ラディッツ>静葉さん・橙・ヒューイ・幽香さん

さとり評価   6

吹っ飛ばされて精神崩壊したけど、私は元気です。

慧音評価   14

恐らく妹紅関係で相当上がったのだと思います。

魔理沙評価   2

自分でも忘れていましたが、スレの初期に魔理沙とは出会っていました。
そこでの応対などから決して悪感情は抱かれてなかったみたいですね。
未だに当時のマスタリングで悔いの残る点は、魔理沙など他の面子と知り合ったりするイベントをもっと作るべきだった。
完全自由な行動パートでなく、ある程度練習と日常と定期イベントを織り交ぜるべきだったという事ですね。
初期からそこそこ深く繋げられていれば、双方努力家。良き友にはなれたかもしれませんが……。

好感度を公開した所で、今日はこれだけ。明日は更新出来ると思います。それでは。

373 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 08:48:23 ID:???
反町がシュートの魔王を目指したと言うか目指すを得なかったのは
萃香に歯が立たなくて最後の合体シュート失敗して皆にボロクソに言われたから

JOKERの結果でも分不相応な敵をぶつけてはいけない(戒め)

374 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 10:12:21 ID:???
萃香以前にも紫が超強い事は示唆されてたし、合体シュートは元々無理があったし関係ないでしょう
あの試合以前から一芸特化の流れは強かったと思う。
(VS萃香時点で反町のシュート以外の攻撃能力は初期値)

375 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 11:11:42 ID:???
その一芸がまるで通用しないからもっと鍛えなきゃ(使命感)の流れになったんだろな
どれだけ伸ばしても伸びにくいにはならないし

376 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 14:12:10 ID:???
結果出さないとチームの皆を引っ張れないからな
そうなると参加者がシュート特化の流れになるのは自明の理というか

377 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 15:22:49 ID:???
皆生き急ぎすぎたんだなあ

378 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 19:40:53 ID:???
芋様の好感度がぶっちぎっていたというだけで救われる
芋様ルートを見たかった

379 :森崎名無しさん:2018/03/10(土) 20:44:29 ID:???
ここでもハブられるうどんげ(とてゐ)とは一体…うごごご!

380 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:05:33 ID:???
>萃香さんが立ちふさがった件について
あのイレギュラーなJOKER(JOKERは元々イレギュラーなもんですが)はそうですね、
確かにはい、もうちょっとなんとかならんかったかなと未だに自分でも思います。
ただGM的には、ぶっちゃけあれは負けイベントみたいなものだったので、
通用しなくてものんびりやってくれればって感じだったんですよね。
とはいえ、通用するように練習しなきゃという当時の参加者さんの気持ちも今ならばわかる気はします。

>合体シュートについて
あの結果(ボロクソに言われた)については少なくとも今でも間違ってないと思ってます。
あの場あの局面ですと一生懸命努力して、決勝まで勝ち上がって、皆の力を合わせて戦ってきた所で、
最後の最後でヤケクソのシュートを打ってぶち壊した、という風に受け取られると思います。
事前に練習をしてたとか、最低でも話題に出していたとかならばまた違ったでしょうが。

>結果出さないと引っ張れない
個人的にはここら辺が、一番参加者さんと私との間で認識の差があったのかなと思います。
Jrユース編から特に顕著になりましたが、力でねじ伏せて信望を集めるというのは、
当初のコンセプトからは外れて行ってたかなと思います。

>うどんげとてゐ
うどんげ評価  5
てゐ評価    2

こんな感じでした。特にこれといって言う事もないので除外しました……けどそういえばオータムスカイズ所属でしたねこの2人(忘却)


それでは短いですが更新します。

381 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:06:56 ID:???
マンチーニ「ああ、これからよろしく頼むよオリン」
カルネバーレ「………………」

胸を張って自己紹介をするお燐に対し、マンチーニはにこやかに応対し。
逆にカルネバーレはやはり厳しい表情でお燐を睨み返すだけだった。
佐野としては、なんだかんだでそれなりには知る幻想郷から、一輪と共にやってきてくれた仲間である。
直接的な交流どころか、互いに知らない関係性ながらもお燐に対して親近感が沸き、
内心でお燐の加入を歓迎するのだが……。

佐野「(ところでそのおりんりんの隣にいる人(?)がめちゃめちゃ震えてるのは気のせいですかね……)」
???「(じ、自己紹介……自己紹介!? え、これやっぱり私がする流れなの!? しかもトリ!?
     えええええ!? 自己紹介って何話せばいいの!?)」

それよりも何よりも、佐野としてはそのお燐の隣で震えている少女の事が気になった。
意気揚々と挨拶をするお燐とは対照的に、その少女の表情は暗い。
ただ暗いだけではなく色は真っ赤であるし、おまけに冷や汗がダラダラであった。
あからさまに緊張をしているのがまるわかりな様子である。

マンチーニ「えっと、それじゃあ次に……」
???「(うわーうわーこっち見た!? 今こっち見た!? っていうか、あいつだけじゃなくて皆私見てる!?
     なんでなんでー!? 私何も変な事も面白い事もやってないのにー!!)」
カルネバーレ「そこのお前、挨拶しろ」
???「ぴぃっ!?」

382 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:08:20 ID:???
そしてそんなあからさまに挙動不審な少女に、無慈悲にも指名が飛んだ。
瞬間、少女は決して小さくない悲鳴を上げてから音を立てて椅子から立ち上がり……。

はたて「ひっ、ひっ、姫海棠(ひめかいどう)はたて……でっす、ぅ……!!
    よ、妖怪の山からき、来ました!!」バッサバッサ
佐野「(妖怪の山……って、えーっと、確か椛が仕事してるトコだよな?
    つーかめっちゃバサバサいってるあの羽……確か、烏天狗って種族だっけ? つーかなんで羽をあんなバサバサやってんだ?)」
お燐「ちょっ、天狗のお姉さんやめて! 羽が当たってる! 当たってる!!」
はたて「(い、言えた! ちゃんと自己紹介出来たわ私! やっぱりやれば出来るじゃない!!)」バッサバッサ

やっぱりあからさまに緊張し、どもりながら、挨拶をした。
なお、緊張と興奮のあまりに羽が一緒に動いてしまい、お隣にいたお燐に思い切りぶつかるハプニングがあったのだが、
当の少女――姫海棠はたては自身が自己紹介を終えた安堵と達成感により、
そんな事にはまるで気づかなかったという。

佐野「(……しかし、また知らん人……いや、妖怪だな。
    しゃめーまるとかいう天狗さんはウルグアイで活躍してたってのは知ってるけど……。
    こんな人、確かどこの国にも。 勿論幻想郷代表にもいなかったよな?)」

一応は幻想郷Jrユースにおける控えが主だったメンバーについても、
命蓮寺のメンバーなどから聞いて知って聞いていた佐野。
しかしながらそんな彼のデータベースには、姫海棠はたてという少女の名は一切入っていなかった。

否、それどころかJrユースレベルですらなく、幻想郷での活動時点から、
守矢フルーツズ・オータムスカイズなど妖怪の山の妖怪・神を中心としたチームの中で、
彼女の名を聞いた事などまるで無い。

そして、それは無理からぬ事だった。
何故なら姫海棠はたてという選手がサッカーを始めたのは、Jrユース大会が始まる寸前の出来事だったのだから。

383 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:09:53 ID:???
〜 回想 〜

文「……という訳で、はたて。 あなたこのサッカー留学というものに行ってみない?」

時間を巻き戻し、舞台は妖怪の山――当の姫海棠はたての住まう住居。
守矢神社からの通達を受けて自分が行くしかないかと思っていた射命丸文が、
藁にも縋る思いでサッカー留学の話を持って行った相手というのが、このはたてであった。

はたて「はァ? なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ」

そして、そのはたて自身はといえば……そんな文の言葉を見事に一蹴した。
同じ烏天狗、そして同じ新聞記者。
両者はお互い旧知の仲であり、だからこそ文としてもそんなはたてに留学の件を話したのだが、
はたて自身の反応は決して芳しくは無い。
……そもそも、彼女自身もまた文と同じ。そこまでサッカーに対して強い情熱というものを持っていないのだ。
いきなりこんな話を持ってこられて、承諾する訳もなかった。

はたて「3年間も外の世界とか……守矢の……えぇっと、ガンキャノン様だっけ?」
文「神奈子様よ……(本当にこの子は……まるで外の世界どころか、幻想郷の事すら何も知らないんだから)」
はたて「ともかくよ! あんたが言われた事なんだから、あんたが行けばいいじゃない。 私が行く義理も道理もないわよ」

それは正論ではあったが、しかし文としては困る事である。
よってなんとか文としてははたてを言いくるめるより他なかった。

文「そうは言ってもねぇ……アナタ、この前の新聞でもまた遅れに遅れた情報しか出さなかったでしょ」
はたて「うぐ……」

そう、サッカーに対する情熱というものははたてには殆どない。
だが彼女には新聞記者としてのプライドがあった。
そんな彼女にとって、目下の課題であり問題点であったのが――己の発刊する新聞の情報速度。
Jrユース大会から数週間遅れでようやくその大会の結果や経過などを知り、記事としたのだが、
あまりにも遅く――おまけに内容も薄っぺらいそれは文の刊行する文々。新聞の僅か1割程しか売れなかった。

384 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:11:09 ID:???
その事について当事者であるはたてが思う所が無かった訳ではない。
何故文の新聞の方が売れるのか、何故自分の新聞は誰にも読まれないのか。
分析し、考え、結局の所やはり問題点だと自分でも考えていたのが発刊速度と内容の充実さである。
ウルグアイJrユースに派遣選手として向かい、案外大した事ある指導力と実力で内部からの情報を得て即座に記事にした文。
それに対してはたてが出来た事といえば……。

はたて「で、でも私には念写があるし……」
文「そればかりに頼ってるから駄目なんでしょうが」

念写――はたての持つ、唯一にして最大の武器がそれである。
思い念じ、キーワードを使い検索をすればそれに見合った画像が浮かび上がる。
これを基にして記事を作成するのがはたてなりの新聞の作り方であったのだが……これには当然粗がある。
無論、念写をして思うが儘に画像――写真を撮れるというのは優れた能力であった。
ただ、その写真も……写真1枚だけではまるで意味が無い。
情報を持っていなければ、サッパリ訳がわからない写真などもあるのだから。

文「大体あの記事は何? アルゼンチンが……なんやかんやありまして、幻想郷には10−0で負けましたって」
はたて「いや、流石に10−0なんて大差が起こるとは思ってなかったし、そもそもその経過も……。
    10点差なんて事になったらどこがターニングポイントかどうかもわかんないじゃない!!」
文「逆切れはいけませんよ……(まあ、気持ちはわからないでもないけど。実際参加してた私でもあの試合は訳がわからなかったし)」

スコアだけを見ても、その経過を知るすべは無い。
よってはたても、数々の全幻想郷Jrユースの戦績を、「全幻想郷 Jrユース大会 結果」などの検索によって、
写真を見る事によって知り得てはいたのだが……その内容については知る由もない。
特に大差で勝利をしたアルゼンチンについては、完全に雑魚扱いとして記事にしてしまっていた。

文「でもそれじゃ読者には伝わらない。 そもそもアルゼンチンも弱者じゃないわよ、ウチは負けたし」
はたて「えっ、なんで!?」
文「私を超えるドリブラーがいたからよ。 ドリブラーっていうか、まあ、全体的にワンランク上にしたような感じね。
  多分永遠亭の薬師すら上回る天才。 ……幻想郷Jrユースとの戦いでは案外大したこと無かったけど」

385 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:17:20 ID:???
よって信憑性については著しく文の新聞などに比べれば落ちる。その上に、妄想や想像で記事を書くしかないのだからスピードも遅い。
実際の所は幻想郷Jrユースと戦った際、前評判に比べてそのチームのエースが案外大したこと無かったという事実と。
そもそもエースが存在しなかったという記事とでは、やはり意味合いは違ってくるのだから。

文「結局、あなたのやってる事は写真を基に記事を妄想で書き連ねてるだけ。 新聞ですらないわ」
はたて「あ、あなただってねつ造だの誇大表現だのやらかしてるじゃない! 何度クレーム来てるのよ!?」
文「あややや。 それは多少の誇張や表現の自由って奴よ、うん。
  大体が部数で言ったってあんたの所の花果子念報、全然売れてないじゃない」
はたて「ぐぬぬ……」

無論、文の書く記事全てが真実であり、信頼されている訳ではない。
ただ、それでも文は文なりに取材をして記事は書いている。誇張などはあっても、それについては事実だ。
だがはたての場合はあくまでも想像でしか書けていない。そこにはやはり大きな隔たりがある。

文「あんたも外の世界に行って、実際に取材をしてみれば?って言ってるのよ。
  これはビッグチャンスよ、はたて!」
はたて「むむむ……」

そして、その隔たりははたてとしても重々承知していた事だった。

文「あんたは最近サッカーを始めた割には下手じゃないし、留学させるには丁度いい頃合いの選手でしょ」

文の言う通り、はたては最近の幻想郷のサッカーブームに乗じて……しかしやはり流行に乗るのが遅く、
つい最近サッカーを始めたばかりの素人ではあった。
期間としては、大よそ命蓮寺のメンバーが佐野と共にチームを結成した頃とほぼ同時である。
しかしながらそんなはたては、才能でもあったのか――最近始めた割には、そこそこと言えるだけの実力は備えていた。
まったくの名無しの天狗などよりは、ずっとマシな留学選手候補である。

386 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:18:41 ID:???
はたて「で、でも外の世界って怖くない? 知らない人と会う事になるんだろうし……」
文「今更人間如きを怖がっててもしょうがないでしょうが」
はたて「う、うぅん……でも……」

その後もなんだかんだではたては渋ってはいたが、結局の所は文に言い包められ、留学に行くことに同意をした。

はたて「そうよね……うん、直接取材しないとわからない事もあるだろうし……」
文「(普通に取材するくらいなら幻想郷にいたって出来るのに。 やっぱりこいつチョロいわ……外の世界行って大丈夫かしら?)」

自分で話を持ってきながらも、それでも割と簡単に折れたはたてに、少しばかり不安を覚える文。
実際、文の考える通り、念写に頼らず取材などを行い記事を作るなど、
現状の文をはじめとした烏天狗がやっているように、幻想郷でだって行える。

しかしながらはたては、先のJrユース大会という一事象だけを切り取って考えてしまい、
外の世界に行かなければ現状を打破できないのだと考えてしまっていた。
ここら辺の大局的な物の見方というものも、やはり彼女は出来ていない。

おまけにはたてが口にしたように、彼女は生来知らない人と会話をするのが苦手である。
文とは旧知の仲であるからこそこのようにざっくばらんに話しているが、
これが知らない人物であればまともに喋る事が出来ない。

念写にばかり頼り、妄想と想像で記事を作ってきた少女。
彼女はあまりにも世間知らずで視野が狭く――そして何より、コミュニケーションが苦手であった。

〜 回想 終わり 〜

387 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:27:09 ID:???
はたて「(よ、よーし! ちゃんと挨拶は出来たしこの調子で外の世界でも頑張っていくわよ!!
     ……ところでイタリアってどこだったかしら? ……なんか記事でも書いた記憶があったけど)」バッサバッサ
カルネバーレ「おい、あー……ヒメカイドー」
はたて「ぴっ!? は、はい!(えぇ、なんだろ!? ゴリラに話しかけられた!?)」

とにもかくにも、こうしてコミュ障のはたては自身が無事に挨拶を終えた事に安堵をしていた。
安堵をしていたのだが……やはりその挨拶は不十分であった。
よってカルネバーレが突っ込むのだが、これ以上何か言われると予想をしていなかったはたてはやはり悲鳴を上げ。
しかしそんな事を気にした素振りも見せず、カルネバーレは言葉を紡ぐ。

カルネバーレ「肝心な事を聞いてない。 お前のポジションはどこだ?」
はたて「ポ、ポジション?」

そう、ポジション――はたてはそれを、先の自己紹介では説明していなかった。
佐野はFWかMF。一輪はGK。お燐はMF。
それぞれが己の役割をしっかりと説明しており……カルネバーレたちも、それを聞きながら脳内で構想を立てる。
これから練習で実際に能力を見た上でポジションなどは決まるとはいえ、
それでも本人が元々やっていた役割を知る事は重要である。

388 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:30:55 ID:???
よってこの時のカルネバーレの質問は至って普通な問いかけだったのだが……。
一方で問われたはたては、やはり顔を真っ赤にしながら汗をダラダラと流し狼狽える。

佐野「あん?(どうしたんだあの天狗のねーちゃん……)」
マンチーニ「ハタテ? 何か……」
はたて「あっ、の……ポ、ポジションは…………」

これには一同もどうしたのかと疑問に思う中、意を決したようにはたては口を開き……。

はたて「あ、ありま、せん……」
カルネバーレ「…………何?」
はたて「し、試合なんて……したことが、ないので……」

サッカーの実力はある。練習だってしていた。烏天狗という種族上、その実力も確か。
しかし、実戦経験は全く無い。
世間知らず、人見知り、経験不足。割と不安要素しかないものを抱えた少女――。
姫海棠はたての告白に、一同は唖然とするしかないのであった。

389 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/10(土) 23:32:38 ID:???
という訳で留学4選手発表といった所で一旦ここまで。
この4人+ゴリ、マンチーニ(+おまけのブルノさん)でイタリア編はしばらく進む事になります。
それでは。

390 :森崎名無しさん:2018/03/11(日) 01:13:27 ID:???
乙でした
最後の一人が予想外にポンコツ…点取れるのかなこれ
ゴリラのヘディングと佐野の突撃以外だけだときっつい

391 :森崎名無しさん:2018/03/11(日) 01:33:04 ID:???
強いGKと攻撃手段がないという致命的な部分が大きく目立ってるの困るよな
DFとマンチーニ達MFはわるくないんだけど
あと控えもわるくない

392 :森崎名無しさん:2018/03/11(日) 07:09:14 ID:???
はたての実力が未知数でなんとも言えん

393 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/11(日) 21:33:46 ID:???
>>390
乙ありです。
ゴリラとマンチーニは実は本編に比べて多少強化していますので、
まあ点は取れるんじゃないかな……と思います。
>>391
中盤はマンチーニ・お燐・佐野でそこそこ強力にはなりますね。
まあタレントの数では他チームよりも多少多めなので、そこで頑張っていく感じになると思います。
>>392
はたての適性や実力についても後々描写出来ればと思います。

本日は更新無しです。明日更新出来ればと思います。それでは。

394 :森崎名無しさん:2018/03/12(月) 01:04:43 ID:???
ゲームのレッチェを見直したら、ヘボい選手層だと改めて思った
使えるのは顔有り以外はモゼとチェーザレくらいで、他は大して戦力にならない
控えはそれ以下の奴らばかりで(DF一芸のドメーニコを除く)
オテッロに至ってはブルノ以下のセービング能力という酷さ(飛び出しは強いけど)
こんなのでよくセリエAに昇格できたもんだな…

395 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/12(月) 22:48:38 ID:???
>>394
マンチーニで運んで翼に打たせるかゴリに打たせるか。
守備の時はとりあえずタックル押して後はお祈りって感じでやってた記憶ですね。

今日更新する予定でしたが書きあがりませんでしたのでお休みさせていただきます。

396 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:06:00 ID:???
試合などした事が無い――そう、姫海棠はたてという少女は、試合経験というものが一切ない。
何度も言っているように、彼女は人見知りが激しくその上最近サッカーを始めたばかりの少女であった。
故にどこのチームにも所属しておらず……結果、試合をする機会というものがそもそも無かった。
彼女がようやく人並み程度にサッカーの技術が達した頃、
既に世間ではJrユース大会へ向けての活動で幻想郷サッカー界が動いていたのだから。

カルネバーレ「………………」
佐野「お、おいおい……(試合経験が無いって……大丈夫かよ?)」
はたて「(あ、あれ? 何この雰囲気……私、何かマズった!?)」

そして当然のように、このはたての告白を受けて一同は衝撃を受けていた。無論、悪い意味で。
佐野達留学選手ですら、幻想郷では各々、所属するチームがあり試合経験はある。
新設チームである命蓮寺ナムサンズに所属する一輪にしても、練習試合などではゴールを任された事があり、
代表ではサブキーパーに甘んじたとはいえ、まったくの経験不足という訳ではない。
中堅どころといった地霊アンダーグラウンドの中盤を任されていたお燐、
ついでに言えば元々が外の世界出身である佐野に至ってはしっかりと経験がある。

だからこそ彼らはショックを受け……そしてそんな佐野達以上にショックだったのは、
カルネバーレらレッチェに元々いた選手たちであった。
よもやサッカー素人を寄越してくるなど、誰も想像だにしていなかったのだから。
特にここまで佐野達に厳しくあたっていたカルネバーレは、当初は衝撃のあまり口をポカンとあけていたのだが……。
事情を理解するや否や、次第にわなわなと震え始める。

カルネバーレ「しっ、試合経験が無いだとォ!? おいお前! ふざけてるんじゃ……」
マンチーニ「さ、さあっ! 自己紹介も終わった事だし、早速だけど練習をしよう!!
      俺達も早く皆の実力を知りたいし、皆だって早くチームに馴染みたいだろう!
      その為にはやはりボールを蹴るのが一番だ! な!」

397 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:07:38 ID:???
遂にはカルネバーレの堪忍袋の緒が切れるかという矢先、マンチーニが咄嗟に空気を変えた。
このままではまず間違いなくカルネバーレの怒号が響き渡り、
はたてを更に委縮させてしまうと感じての判断である。
ただでさえ緊張をしているはたてを追いつめる事はいけないと考えた、マンチーニのファインプレーである。
こうなってはカルネバーレも矛を収めるより他なく、強くマンチーニを睨み付けながら深く息を吐いた。

カルネバーレ「……まあいいだろう。 フザけた奴なのかどうなのか、実際にやってみればわかる事だ。
       だが言っておく。 到底ここでの練習についてこれないと思った奴は、
       直訴してゲンソーキョーとやらに帰ってもらうぞ」
佐野「なぁマンチーニ、こいつにそんな決定権あんの?」
マンチーニ「まぁ……一応カルネバーレがこのレッチェのキャプテンだからね。
      心配することないさ。 サノの実力はさっき言った通り知ってるけど、君ならウチでもスタメンクラスだ」
佐野「(うげ、マンチーニじゃなくてこのゴリラがキャプテンなのか……めんどくせー。
    まあ……そこはこの俺の実力ってもんを見せてギャフンと言わせてやりゃいいだけの話だけど。
    ほかの面子は……イチさんだってあのブルノとかいうのとのキーパー争いは大変そうだし。
    お燐とはたてってのは実力が未知数だからどうとも言えねぇなぁ……)」

意外な事にこのレッチェのキャプテンは、先ほどから場を纏めていたマンチーニではなく、
佐野達に睨みを利かせ不機嫌そうにしていたカルネバーレであったらしい。
この事実は、これから3年間こんな気難しそうな奴の下でやっていかなければならないのかという不安にもなり……。
しかし、それでも自分の実力を見せてやれば、文句を言われる事も少なくなるだろうと考える。
一方で、佐野としては逆に他のメンバーの心配をするのだが……。

398 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:08:46 ID:???
お燐「にゃあい! やったね、久しぶりにサッカーが出来るよ!」

お燐に関しては、そもそも彼女自身がボールを蹴る事自体久しぶりという事もあり、
純粋に練習でもサッカーが出来るという事に喜んでいた。
幻想郷代表にも選ばれず、腐っていた彼女は新たな環境に向けてとにかく前向きであった。

はたて「れ、練習……(え、普通こういうのって挨拶が終わったらすぐ解散とかじゃないの?
    まだ他の人たちと一緒にいなきゃいけないのね……疲れるなぁ……)」

逆にはたてとしては、挨拶が終われば解放されると思っていたものが更にここから練習と聞いてげんなりしていた。
練習をするというのが嫌いという訳ではない。
事実、彼女は人知れず練習をして……あの案外大したことある派遣選手にも選ばれた射命丸文からも、
留学選手に相応しいとして太鼓判を押されてこのイタリアへとやってくるだけの実力を備えていたのだ。
ならば何が問題かと言えば、やはりこれ以上他人と関わるという事。
人と接するのが苦手な引きこもり天狗は、とっとと与えられた部屋へと戻って1人の時間が欲しかった。

ブルノ「さて、それじゃあこの俺様が新人どもの実力を測ってやるとするか」
佐野「(こいつ……やたらとさっきからでしゃばってくるな。 やはりただものではない……!
    イチさん、こいつからキーパーの座を奪うのは多分相当苦労するぞ!)」

そしてマンチーニが練習を言いだした所で、キーパーグローブを手に嵌め、
やる気満々といった様相でこのチームの正GJ――ブルノは不適に笑みを浮かべた。
腕組みをしながら自信たっぷりに言い放つ彼の姿を見て、
佐野は一輪の行く末を案じながらもマンチーニの先導を受けて練習に向かうのだった。

399 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:09:57 ID:???
早速練習という事になったが、果たして何をするのか。
道中で佐野はキャプテンであるカルネバーレ……ではなく、マンチーニに問いかけた。

マンチーニ「そうだね……まあみっちり練習をしてもいいんだけど、歓迎会を兼ねたレクリエーションとして、
      ミニゲームをしようかとさっきカルネバーレとは話したよ。
      さっきの感じだとオリンも試合には餓えてるようだったしね」
佐野「ほっほー……。 あのゴリ……でなかった、カルネバーレがそんなんで納得したのか?」
マンチーニ「気難しい奴だけどアイツも皆の事を考えてるって事さ。
      (本当はミニゲームでコテンパンにしてサノ達の実力を見て、それ次第では追放を上に進言すると言ってたけど……。
       それを素直に言うのはなぁ……)」

心中でそっと溜息を吐くマンチーニ。彼としても、正直な所試合経験が無いというはたての発言には大層驚き、
果たして戦力として計算が出来るのだろうかと心配をしていたのだが、そこはグッと堪えていた。
カルネバーレの手前、自分がそれに同調をするような事があってははたてだけではなく、
佐野達にも余分な心労を与えてしまうと思っていたのだ。
実際のところ、このレッチェでは――佐野の能力は平均以上……レギュラーになるのもほぼ確実だろうとマンチーニは考えている。
その他の面子にしても、約一名に限っては是が非でもいて貰わなければならないとも感じていた。
ここで不要に悪印象を抱かせる訳にはいかない、と、カルネバーレと佐野達との潤滑油になるマンチーニ。
丸眼鏡をクイッと上げる彼は、その風貌通りかなりのやり手であった。

………

そして一同はコートへと移動した。
ミニゲームをするとの事だが、果たしてチーム分けはどうなるのか……と佐野が疑問に思う中、
キャプテンである(らしい)カルネバーレが口を開く。

カルネバーレ「どうせだからお前ら4人は一緒のチームで組め、その方がわかりやすい。
       後は……ベニャミーノ、モゼ、ミケーレ、ニコーラ、バルトロメオ、チェーザレ、パトリツィオ。 そっちに入ってやれ」
モゼ「俺はヤスィーノ・モゼ」
バルトロメオ「シオーナ・バルトロメオだ」
チェーザレ「カクデム・チェーザレだ、よろしくな」
佐野「おう、よろしく(なんかすげぇモブっぽい顔してんなこいつら)」

400 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:11:21 ID:???
とりあえず頭の中でヤス・シオ・カクと情報をインプットしつつ、
佐野は手渡されたビブスを羽織りながら準備運動を開始した。

佐野「ポジションはどーする? えーと……お燐はMFだっけ?」
お燐「そだよー。 ロンゲのお兄さんはFWも出来るならFWする? 天狗のお姉さんは……」
佐野「あー……ポジション、はいいとしても。 そうだな……得意な事とかってあるか?」
はたて「ひぅっ!? え、えぇっと……ドドド、ド、ドリブルなら……あと少しだけなら走れましゅ……。
    (なんで話しかけてくるのこの人!? 私隅っこで黙ってたのに!?)」
佐野「(走れる……足が速いって事でいいのか?)
   じゃあ……まあサイドハーフやってもらうか。 えーっと、サイドハーフってわかるか?」
はたて「ひゃい!」
佐野「(なんか悪い事してる気がしてきた……普通に喋ってるだけなのに)」

その傍ら、作戦会議とも言えぬとりとめのない会話を選手たちと話し合う。
ただのミニゲーム、レクリエーションのようなものとはいえ、やるからにはどうせなら勝ちたい。
フォーメーションを決め、佐野はFW、お燐はトップ下……そしてはたてはサイドハーフ。
動くことの無い一輪以外の面子はそれぞれ配置へとつき……。
そこで不意に佐野は疑問を抱き、隣に立つ同じくFWに配置されたベニャミーノに声をかける。

佐野「そういや、監督は? さっきもいなかったし、この練習も見に来てねーけど」
ベニャミーノ「監督は、ちょっと入院中で不在なんだよ。 この前のリーグ戦の時からね……」
佐野「えぇっ!? ……おいおい、大丈夫なのかよそれ」
ベニャミーノ「ああいや、何か内臓系に異常があるとかではなくて怪我の類での入院だから……。
       1、2週間もすれば退院出来るって聞いてるし不安に思うような事はないよ」
佐野「そっ、そうか……(しかしどんな監督か早く会ってみたいようなそうでないような……。
   全日本の時の見上さんみたいな人だったらヤだなー、あの人めっちゃ堅いし)」

指導者である筈の監督の不在に不安を覚える佐野であったが、言っても仕方のない事である。
ここはベニャミーノの言う通り、早期に戻ってきてくれるという言葉を信じるしかなく、
気を取り直してミニゲームに臨むのだった。

401 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:12:39 ID:???
………
……


佐野、お燐、はたて、一輪を有するチーム。
対するはレッチェのキャプテンであるカルネバーレと、その補佐役であるマンチーニ……そして、正GKのブルノを有したチーム。
レクリエーションという事で時間は前半後半無しの15分のみとした上での試合は、
まずはジャンケンで勝利した佐野チームのボールではじまり、佐野がその実力を見せる所から始まった。

ポーンッ! クルクルッ!

佐野「あーらよっと! これが俺の必殺! ヒールリフトだ!!」
マンチーニ「(うん……やはり彼の突破力は素晴らしいな。 俺もドリブルには多少自信があったんだけどなぁ)」
カルネバーレ「(……小手先の技術だけは中々だな)」

再三言われている事であったが、佐野のドリブルはこのイタリアでも十分通用をした。
そもそも彼自身、この留学に来る以前は魔界Jrユースという強者たちを集めたチームでレギュラーを取っていた選手である。
守備に関しては大きな穴があるとはいえ、攻撃能力についてはお墨付き。
元々好意的だったマンチーニはもとより、カルネバーレも一定の評価はし……。

カルネバーレ「だが小手先だけだゥホオッ!!」

バギィッ!!

佐野「ぐぎゃっ!? ちょっ、ま……今の反則じゃねーの!?」

しかし、調子に乗っていた佐野は1人、2人と抜いた所で、
猛チャージを仕掛けてきたカルネバーレの強烈なショルダーチャージを受けてボールを零した。
力任せなそのタックルに佐野は思わずうめき声をあげ文句を吐き出すのだが、
周囲の者たち――少なくとも留学選手以外の者たちはそんな佐野に構う事も無いままプレイを続行している。

402 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:14:30 ID:???
佐野「あ、あれっ?(反則でプレイ止まらないのこれ?)」
カルネバーレ「……今のが反則とでも思ったか? バカタレ、あれくらいの当たりで根を上げるな!」
マンチーニ「(言い方はともかく……まぁ、あれくらいなら試合でも普通にある事だからなぁ。
       ただカルネバーレ、レクリエーションなんだから怪我の可能性のあるプレイは……)」

目を丸くしている佐野に対して、カルネバーレは叱るように怒鳴りつける。
実際、彼の言うようにこのイタリア――サッカー先進国の中でも有数の国の中においては、
先ほどのカルネバーレのプレイもそこまで危険なものと判断はされない。
……幻想郷や魔界といった、色々と常識外れな環境でプレイをしてきた佐野ではあるが、
逆にこのような一般的な範疇の乱暴なプレイが流されるという事に微妙に新鮮味を感じるのであった。

お燐「じゃじゃ〜んっ! あたい、参上!!」

そして試合の方はといえば、佐野の零したボールをお燐がフォローしていた。
久方ぶりの試合、久方ぶりのボールの感触。
お燐は笑みを浮かべながら、佐野が突き進んでいた方向とは逆サイドへと流れながらドリブルを開始する。

佐野「おっ、やるじゃねーかお燐」
お燐「ふふ〜ん、ドリブルが得意なのはお兄さんだけじゃないんだよ!」

代表落ちをしたとはいえ、彼女も幻想郷では名の知れたサッカー選手である。
特にその磨かれたネコ科特有のしなやかさを生かしたドリブルは、佐野には及ばずとも上々の出来。
実際にお燐もその軽やかなステップでプレスに来る選手たちをかわし突破を成功させてしまう。

カルネバーレ「(ふん……あいつも、まあ中々やるようだが……)」
お燐「(おっとと、メガネのお兄さんが近づいてきてる……あのお兄さんはちょっと組しにくそうだねぇ。
    それじゃま、ここは逃げよっか)天狗のお姉さん、いくよー!」
マンチーニ「(おっと、逃げられたか)」

パコーンッ!!

403 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:15:57 ID:???
そしてサイドを完全に抉ろうかといった所で、お燐は斜め前方からやってきていたマンチーニに視線を一つやると、
勝負は避けた方が無難と判断し大きく逆サイドに振った。
これにはマンチーニも追いつけず、また中盤のメンバーもカットには向かえなかったのだが……。

ピューン

お燐「ありゃ……」
佐野「おいおい、ライン割っちまうぞあれ」

試合勘が鈍っていたのか、お燐の蹴ったボールははたての遥か前方目掛けて飛んでいた。
これには流石にはたても追いつけず、スローインから仕切り直しかと一同が考える中……。

はたて「わ、わ……(ボールが来た! 取らないと……怒られるっ!!)」

ギュ……

佐野「ん?」

ギュオォオオオオオオオオオオオオオオッ!!

バシィッ!!

佐野「な、なにィ!?」

しかしである、はたてはこのお燐のボールをしっかりと受け取った。
ボールがラインを割ろうかというギリギリ、はたては急加速。
『走れましゅ』と宣言をしていた通り、全速力で走り――その上でガッチリと足でトラップをしていた。

お燐「にゃ〜、凄いねお姉さん。 あの虚報新聞の方のお姉さんみたいに速いや」

404 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:17:13 ID:???
実際の所は文の方がはたての数段上を行く俊足である。
が、それを差し引いてもはたてもまた種族としての特性か足は非常に速い部類であった。
おまけにそれだけの全速力を出しながら、ボールをあっさりとトラップする技術。
少なくともサッカー素人とは思えない動きであるのは間違いない。

佐野「(追いつけたとしても零すくらいが精々かと思ったけどキープ出来てるもんな……って)
   おいはたて! 前、前!! 敵が来てるぞ!!」
はたて「へ……ぴ、ぴぃっ!?」

期待していなかった選手が予想以上のプレイを見せた事に内心驚く佐野であったが、
そんな事はおかまいなしとばかりに敵チームのDF達ははたてにプレスをかける。

ブルノ「なーに、相手が上手くフォローをしたところでそれを奪い返せば問題無い!!
    お前ら、いつまでも新入りなんかにいい恰好させてるんじゃないぜ!!」
佐野「(くそっ、アイツの指示か! トラップした直後を狙うとは……アイツ、中々頭も切れる!)」

敵チームゴール前で大声を出すブルノを後目に、佐野ははたてをフォローできる位置へと急いで走る。
が、当然ながら佐野がどれだけ急いでもDF達がはたてからボールを奪いに向かう方が速い。
ボールを持ったままどうしたものかとまごまごしていたはたては、眼前に迫るDF達に対し……。

はたて「(やだやだなんでこんなにいっぱい来るの!? と、とにかく逃げなきゃ!!)」

シュッ……タタタタァァァァーッ!!!

佐野「うおっ……おお!?(やっぱ速い! それに……結構上手いぞ!?)」

405 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:18:36 ID:???
とにかく逃げるべく、サイドから離れるように中央へと寄りながらドリブルを開始した。
やはりその速度は速く、おまけにドリブル技術自体も決して下手な訳ではない。
少なくとも佐野には及ばないが、それでもお燐同様そこそこは出来るといった様子である。

マンチーニ「(これは嬉しい誤算だな。
       試合もした事が無いというのが事実なら……それでもあれだけ出来るというなら、果たして経験を積めばどうなるか)」
佐野「よーし、いいぞはたて! こっちにパスだ!!」

このままとりあえず一本打っとくか、と、佐野はペナルティエリアに侵入をしハイボールを要求した。
ご自慢のそこまで高い訳ではない浮き球補正と低くは無いけど一流レベルではないシュート力を生かした、
世界レベルでは火力不足である補正のローリングオーバーヘッドを打つ心算である。

はたて「パ、パシュ……(そ、そっか! ボールを手放せば追いかけられなくて済むんだわ!
    うん、そうよね! よしあの……えっと、誰だっけ? ……名前も知らないロンゲの人に渡しましょう!!)」

そしてこの指示を受けたはたては、素直に佐野にパスを出す事にした。
DFに追いかけられるのが(足の速さ的に追いつかれはしないが)怖いからという一心で、
その右足を振り上げてボールを蹴りぬく。

ぱしゅっ……

蹴られたボールは打ち上げられた……ぱしゅっ、と音を立てて、それはそれは弱弱しく。

406 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:19:36 ID:???
佐野「ほげっ……」

あまりの弱弱しさに佐野は思わず息を飲み。

お燐「蹴りそこにゃい……じゃ、にゃいよね……?」

お燐は思わずずっこけそうになりながら、必死そうな表情のはたてとパスとの温度差に引きつった笑みを浮かべ。

マンチーニ「…………よっ!」

このパスコースに飛んでいたマンチーニは、悠々とパスカットをした。

たった1人で練習を繰り返し、ドリブルの技術は佐野達からもそこそこという評価を受けていたはたて。
しかしたった1人で練習をし、試合経験が全く無い彼女は、ドリブルで走る為以外にボールを蹴った事がまるで無い。
何故ならパスを受けてくれる者も、シュートを止めてくれる者もいないのだから。

更に言えば、あの射命丸文をもってして、大局的に物事を見る事が出来ず、視野が狭く、コミュニケーションが下手と言われているはたて。
これが何を意味するのか。
大局的に物事が見れず視野が狭いという事は、パスコースを探す事が苦手であるという事。
そして、パスがボールを通したコミュニケーションという言葉もある通り――。

姫海棠はたてという少女は、パスとシュートがドがつく程に下手であった。

407 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/14(水) 00:28:44 ID:???
一旦ここまで。
なんだかはたてちゃんがメインみたいになってますがそんな事はなく、
前作で出てこなかったキャラなので色々と掘り下げている形となっています。
それでは。

408 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:51:09 ID:???
はたて「ひぅっ!?」

ガーン、と大きなショックを受けながら悲鳴を上げるはたて。
彼女の中ではとっととボールを手放してDF達に追いかけられず、
また、注目されるような事から解放されると思っていた筈が結果はパスミス。
彼女なりに精いっぱい頑張ってのパスであったが、悲しい事にそれはやはり弱弱しく。
ド下手で精度も速度もまるで無いそれを見て周囲の者たちが深い溜息を吐くのを、
彼女はその場で立ち尽くして聞くしか出来ないのであった。

はたて「(失敗しちゃった怒られる〜!? っていうか、ボール手放したのになんでみんなが私見てるの!?)」
佐野「(見た限りパスはへっぽこ……あれじゃシュート打たせようとしても多分キック力不足だろうなぁ。
    ドリブルだけは実践レベルってトコだけど動きも不安定だし……。
    っていうかパスに至っては高杉さんとかと同じくらいのレベルじゃねーか?)」

注目されている事に気づき顔を真っ赤に染めるはたてを見やりながら、佐野は考える。
某日本代表で同チームにいたの先輩を軽くディスっているが気にしてはいけない。
彼はDFの数が少ないが故に選出されているだけであり、
得意であるブロックとクリアー以外はまったくもってお話にならないのは事実なのだ。

マンチーニ「(試合経験が無い……それにしてもパスが出来ないというのは大問題だな。
       これからの練習で向上が見られればいいんだが……それよりもまずは)」
カルネバーレ「マンチーニ!」
マンチーニ「ああ、いくぞっ!」

バシュウッ!

一方でボールをカットしたマンチーニは、そのまま一気に前線へと放り込んだ。
自陣深くから一気にセンターライン付近まで飛んだボール目掛けてカルネバーレは走り込み、
慌ててこれにはDFのバルトロメオとMFのモゼが連携をして競り合いに向かう。

409 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:52:09 ID:???
バルトロメオ「くそっ、二人がかりなら!」
カルネバーレ「止められると思うか!?」

ダダッ! バッ!! ガシィイッ!!

モゼ「だ、駄目だ……」
佐野「(うげ、やっぱあいつ見た目通り競り合いに強い……上に案外ジャンプ力もあるぞ!?)」

体格がいい上に跳躍力も人並み以上にはあるカルネバーレ。
2人がかりで阻みに来たバルトロメオ達をあっさりと蹴散らしながら空中でボールを確保すると、
そのまま脇目も振らずドリブルで中央を突き進む。
流石にキャプテンというだけあって実力は確からしいと佐野が感心する中……。

カルネバーレ「…………」ドタドタ
佐野「って、足おそっ!?」

しかし、そのドリブルスピードの速さが巧さや力に比較をしてあまりに遅い為に思わずそう叫んでいた。
あまりの遅さ……というか鈍重さに、走る音も『タタタ』や『ダダダ』でなく『ドタドタ』であった。
一気に前線に放り込んだはいいものの、これではカウンターにはならない。
実際にカルネバーレはすぐに戻り始めたお燐にもチェックをかけられたのだが……。

お燐「ふふ〜ん、あたいは他のネコ科と違って守備も出来るんだからね! ゴリラのお兄さんボールちょうだい!」
カルネバーレ「誰がゴリラだァッ!!」

バギィッ!!

お燐「うにゃ〜んっ!?」
佐野「うお、やべっ! みんな、そのゴリラ止めるんだ!!」

410 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:53:41 ID:???
横からスライディングタックルにやってきたお燐を、強引に吹き飛ばしながら更にカルネバーレは突き進む。
やはりスピードだけは完全に欠如しているが、パワーについては疑う余地も無い。
このままでは一気にシュートチャンスを作られてしまうと佐野は慌てて守備陣に指示を飛ばし、
これを受けて守備陣もカルネバーレの危険性をよく知っているのだろうすぐさまプレスをかけに向かう。

シュタタタタッ!!

はたて「うぇひっ……(い、勢いで戻っちゃったけど……これ私も行かなきゃいけないの!?)」
佐野「おお……はえぇ。 よしはたて! そのままゴリラに突撃だ突撃!!」
はたて「ぅへあ……」

その中にはなんと先ほどまで前線にいた筈のはたてもいた。
いくらカルネバーレが鈍足といえど、大きく距離が離れていたにも関わらずチェックに行けるあたり、
彼女の足の速さについてはもはや疑う余地も無いだろう。
……割と足が速いつもりであった佐野ですら、まだ追いつけていないのだから。

はたて「(突撃って言ったってどどど、どうすりゃいいのよ〜!? えっとえっと……)」
カルネバーレ「(上手く俺にマークが集中してきたな。 よし、頃合いだ!)マンチーニ!!」
はたて「(うぇっ、あ、ボール蹴る!? さ、触らなきゃ!!)」

指示を受けてもまごまごしていたはたてであったが、
そんなはたてを後目に、カルネバーレはここで強引に突破を図らずパスを選択した。
自身にマークが集中する今、再びマンチーニへと預けて彼にボール運びをしてもらう為である。
その右足を小さく振りかぶり、サイド際に流れてゆくマンチーニにパスを出そうとするのだが……。

ビュンッ!!

はたて「え、ええ〜いいっ!!」
カルネバーレ「むっ!?」

バチィッ!!

411 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:55:07 ID:???
直接ぶつかるのではなくパス相手にならと、思い切って飛び出したはたて。
そのスピードはやはり速く、彼女の突き出した足は辛うじてボールに触れて軌道を変えた。

カルネバーレ「(……俺自身、あまりパスが得意という訳ではないのもあるがそれでも触れたか。
        身体の使い方がてんでバラバラだが……守備がそこまで苦手という訳ではないか?)」
はたて「うぃ、うぃひひ……(なんでこのゴリラ私じっと見てるの!? 食べる気!?)」

ドリブルは上手いがパスは苦手。守備はまるで形がなっていないがスピードには目を見張るものがある。
なんともちぐはぐなはたての動きに、カルネバーレは訝しむような視線を向け。
一方で目の前で凝視されたはたては愛想笑い(のつもりだが完全に引きつっている)を浮かべながら半歩下がった。
ちなみに愛想笑いを浮かべている最中も、はたてはカルネバーレの目をまるで見れていなかった。

そしてこぼれたボールはカルネバーレチームのMFがフォローした。
直接とはならなかったが、そこを経由してボールはマンチーニへ。
結果的にはカルネバーレの狙い通りとなったが、それでも間に1人挟んだ分時間はかかっている。
故にこのマンチーニには佐野が向かう事が出来た。

佐野「よーし、ここで俺が颯爽とボールを奪って……」
マンチーニ「………………」

スッ ササッ タターッ!!

佐野「……あれ?」
マンチーニ「(国際Jrユース大会を見ていてわかったが、やはり情報通り彼の守備は軽いな……)」

もっとも、向かう事が出来ただけで、ボールを奪えはしなかったのだが。

412 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:56:43 ID:???
その後、マンチーニは向かってきたパトリツィオも抜き去り完全にサイドを突破。
そのまま中央を向き、PA内へと侵入してきたカルネバーレへとセンタリングを上げる。
これに対してカルネバーレは高く飛び上がり、慌てて守備陣もクリアーとセービングの構えを見せるのだが……。

カルネバーレ「喰らえ! これが俺の……G・ヘッドだぁ!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

チェーザレ「ぐぼあっ!?」

高い跳躍力と体躯を生かした力任せのヘディングシュートが放たれると同時、爆発的な音を掻き立ててゴールを襲う。
クリアーに向かったチェーザレは威力を殺す事すら出来ないままあっさりと吹き飛ばされ……。

バゴォオオオンッ!! ズバァッ!! ピピィーッ!!

佐野「うげっ……(すげー破壊力……流石に威張ってるだけあるな)」
お燐「うにゃ……(おくうの八咫烏ダイブよりももしかしたら上? うそ〜……)」

更にゴールネットを突き破り、それと同時に審判の得点を告げる笛が鳴り響いた。
無論、このシュートよりも威力は上であるシュートは数多く存在する。
佐野にしろお燐にしろ、そんなシュートを敵として何度も見てきたのだ。
ただ、それでも彼らはカルネバーレの放ったようなシュートを打つ事は出来なかったし、
何よりも上には上がおろうと、それがカルネバーレのシュートの威力を否定する事には繋がらない。
実際にこうやってゴールを決められているのだから尚更だ。

413 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/15(木) 23:58:24 ID:???
佐野「(って、そういや『G・ヘッド』って……なんのGなんだ?)」
チェーザレ「ぐ……いててて。 やっぱりすげーなカルネバーレの『ゴリラヘッド』は」
モゼ「ああ、わかってても止められないぜ。 キーパーの……人も頑張ってたんだけどな」
バルトロメオ「俺達が束になっても止められないもんなぁ、『ゴリラヘッド』は」
佐野「へー、GはゴリラのGなのか。 ははは、そいつぁ傑作だ」

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!!

カルネバーレ「誰がゴリラだ! バカタレ!!」
チェーザレ「げふ……」
モゼ「がへぇ……」
バルトロメオ「ごほっ……」
佐野「いってぇ〜!!」

なお、このカルネバーレの『G・ヘッド』。
当人は巨大な自身の身体と威力から『ジャイアント・ヘッド』というつもりで名づけたのだが、
周囲からの通称は完全に『ゴリラ・ヘッド』で定着してしまっていた。

……無論、それを口にした場合、今のようにカルネバーレの拳骨が飛んでくるのだが。

414 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/16(金) 00:00:32 ID:???
佐野「(畜生……すげぇシュート打てるからって威張りくさりやがって!
    ミニゲームとはいえこのまま負けてちゃ、このゴリラにもチームの皆にも舐められちまいかねん。
    こうなったら残り時間でなんとか点をとらねーと……その為には……)」

内心舌打ちをしながら、痛む頭を摩りつつ敵陣ゴールを睨み付ける佐野。
レクリエーション、互いの実力を知る為のお遊びに近いゲームとはいえ、このまま負けるつもりは毛頭ない。
時間的に逆転は難しいだろうが同点に追いつけば、まだ面目は保てるだろう。
問題は得点が出来るかどうか……先ほどまでのプレイを見ている限り、はたてはどう考えてもシュートは打てそうにない。
お燐は打てるかもしれないが、それでもMFと言っていて、得意なのはドリブルだと言っている以上自分よりは下だろう。

佐野「(俺がゴールを奪えるかどうかにかかってるな……あいつから……!)」
ブルノ「(ふふふ、生意気にもガンを飛ばしてきてやがるな。
     来るなら来い……そう簡単にこの俺様の守るゴールから点は奪えんぞ!)」

このレッチェのゴールを守る正GK――ゴール前で不敵な笑みを浮かべながら、
こちらを睨み返してくるブルノを見て、ゴクリと唾を飲み込む。

佐野とブルノ――後に終生のライバル、とは絶対に呼ばれない2人の対決の時間が、
刻一刻と近づいてきていた。

415 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/16(金) 00:03:06 ID:???
一旦ここまで。
原作では強引なドリブルしかなかったカルネバーレですが、必殺シュートを持たせて強化しています。
威力的にはサトルステギのダイナマイトヘッドくらいですかね。
次回更新でミニゲームパートも終わり。
その後に一輪・お燐・はたて・ゴリラ・マンチーニの現時点での能力を公開出来たらなと思います。
それでは。

416 :森崎名無しさん:2018/03/16(金) 09:50:17 ID:???
ブルノ君はレベル上げればアクセルスピンシュートキャッチ出来るんだぞ
レベル35ぐらい必要だけど!シニョーリのレベル21だけど!

417 :森崎名無しさん:2018/03/16(金) 10:11:04 ID:???
ナチュラルにゴリラヘッドって読んでた
思ったよりゴリラ強そう

418 :森崎名無しさん:2018/03/16(金) 12:05:11 ID:???
流石にランピオンスト様よりは弱いだろうが、
必殺ブロックのハエタタキ持ってたらDFでスタメン取れそう

419 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/17(土) 22:40:32 ID:???
本日も更新はお休みさせていただきます。

>>416
才レベルで14差くらいあれば流石に誰でもキャッチ出来そうですね……。
ちなみにタイユースのワチャラポンくんが才レベル5から更に14上げてキャッチ87になるみたいですね。
ライトニングタイガークラスにも互角に戦えるよ!
>>417
主人公チーム補正とキャプテン補正で結構強化しております。
>>418
イタリアユースのFWはほぼ不動ですからね。
本編でカルネバーレや名前だけですがブルノが出てきたのは嬉しかったです。

420 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/18(日) 22:54:17 ID:???
申し訳ないですが本日も更新は無しです。
ブルノさんをどう描写するかで悩む悩む……多くの他スレ様でも人気キャラですからね。扱いは丁重でなければ。

421 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/21(水) 00:34:05 ID:???
本日も更新はお休みです。明日は更新出来たらと思います。

422 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/22(木) 01:02:34 ID:???
ピィーッ! バムッ!!

その後、再び佐野チームのボールで試合再開がされる。
ボールを受け取った佐野は、逡巡する間もなく一旦ボールを右サイドを走るお燐へ。
早く得点をしたいという思いがありながらも、真向からドリブルでの突破は挑まない。

佐野「(中央にはあのゴリラがいるしなぁ……)」

勿論自分のドリブルがまるで通用をしないとは思っていない。
得点力はマシになったとはいえ世界水準で見ればまだまだ低く、ディフェンス技術は殆どお話にならない。
そんな中でも唯一世界の猛者達と対等に渡り合える程までに鍛え上げたのが佐野のドリブルだ。
圧倒的な――幻想郷における水橋パルスィや博麗霊夢、外の世界の大空翼やファン・ディアスクラスのキープ力というには及ばない。
しかし、一選手の武器とするには十分過ぎる程の水準ではある。

ただ、それでもここは佐野が自ら持って上がる事はなかった。
中央にいるカルネバーレに先ほどは反則紛い(と未だに佐野は思っている)のパワーチャージで止められた以上、
彼と再び対決するよりは右サイドのお燐に流した方が勝算があると考えての選択である。
かつて魅魔との問答から、より味方を生かせるようなタイプの選手になろうと考え、それを行動に移したまで。
普段の言動こそあまり知性を感じないが、一応サッカーになるとそれなりには真面目になるらしい。

佐野「(つっても俺もやっぱ他の皆をアッ!と言わせるプレーしてーなぁ。
    キックオフシュートとは言わないけど、11人抜きしてゴールとかさ〜)」

……もっとも、未だに自分がより活躍したいという思いについては未練タラタラであったようだ。

お燐「ふふ〜ん、ナイスパスお兄さん! それじゃいっくよ〜!」

タッタカター

佐野「(うーむ、やっぱお燐は結構上手いな。 はたてみたいに穴という穴が無い感じだ)」

423 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/22(木) 01:03:53 ID:???
1人、2人とドリブルで抜き去るお燐を見て感心をする佐野。
サイドに振ったが為に中央に位置していた鈍足カルネバーレは当然追いつけておらず、
そのままお燐が一気に中盤を突破してしまおうかという所まで来るが……。

マンチーニ「(さて……今度はどうするかな?)」
お燐「(メガネのお兄さんがやっぱりやってくるよね〜……)」

しかし、CMFの配置についていたマンチーニがこちらへとすり寄り、プレスをかけに来ているのが見えた。
これは先ほどの突破の場面――佐野がカルネバーレにドリブルを止められた後、
こぼれたボールをフォローをしたお燐がサイドに流れて突破を図った場面と奇しくも同じである。
あの時お燐は逆サイドを走るはたてに向けて大きくサイドチェンジをし、マンチーニとの勝負を避けた。
この目論見は上手くいき、マンチーニをかわすという目的だけは達成出来たのだが……。
その後、はたての壊滅的なパスの下手さがカウンターを誘ってしまった事は記憶に新しい。
よってサイドチェンジという選択肢は浮かんでもすぐに消えた。
では中央にいる佐野に渡すか。これもお燐は一瞬考えたが、すぐに却下した。

お燐「(あたいはパスは……あの天狗のお姉さん程じゃないけど苦手だもんね〜。
    メガネのお兄さんのタックルがどれほどかわからないけど、自分の得意分野で勝負させてもらうよ!)」

ダダッ!!

マンチーニ「来たか!」

パスではなく、自分の得意分野であるドリブルに勝機を見出したお燐。
はたて程のスピードではないが、それでも十分俊足と言える急加速で走りはじめたお燐に対し、
マンチーニも一気に距離を詰めてスライディングタックルに向かう。
ここまで好プレイを見せてきたマンチーニらしく、そのタックルも相応の精度でボールへと向かっていたのだが……。

424 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/22(木) 01:05:07 ID:???
キュッ! タンタンッ!! ズダダッ!!

マンチーニ「うっ!?」
お燐「悪いけどあたいのドリブルはそう簡単には止められないよっ!」

踊るようなステップを踏みながら、小刻みにボールを扱い翻弄するお燐。
縦、横、斜め、あらゆる方向へとフェイントを駆使しながらドリブルをするお燐を前に、
マンチーニの足は空を切ってしまう。
その"ランダム"に繰り出したフェイントでお燐はマンチーニをかわしてしまうと、
既に邪魔者はいなくなったとばかりに更に快速を飛ばしてサイドを完全に抉り切った。

佐野「(俺もあれくらいのフェイントが出来ない訳じゃねーけど……あそこからの急加速は無理だな。
    っと、ともかくチャンスだ!)よし、お燐ここは……」
ブルノ「DF、逆サイドだ! あの俊足の新入りに気を付けろ! 奴に上げてくるぞ!!」
佐野「んん?」

お燐の突破に感心していた佐野は彼女にフィニッシュの指示を出そうとし……しかし、その耳に聞こえてきた敵GK――。
ブルノの指示を聞いて首を捻る。
彼の指示を受けてDF達は素直にはたてへのパスコース、
及びボールを受け取ってもすぐに奪いに行けるようにマークにつくのだが、佐野としてはそもそも彼女に合わせる意図は無い。
はたてに決定力が恐らくないであろう事は、パスですらへろへろでまるでキック力が無い事からもわかりきっている事だからである。

佐野「(……そういやこいつ、さっきの時もはたてにプレスかけるように指示出してたな。結果的にDFはあっさり振り切られてたし……。
    ……いやまぁ、あいつの実力を知らなかったから仕方ないっちゃ仕方ないし、
    その後結局はパスが失敗してカウンターになったとはいえ)」

しかし、はたてからボールを奪おうとした――というのは、やはり誤った判断だったと言えるだろう。
マンチーニが好判断からはたてのパスコースを遮断していなければ、
佐野のシュートチャンスが来ていたのは明白である。

425 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/22(木) 01:06:33 ID:???
佐野「(ま、いいや。 それよりも改めて……)お燐こっちだ! ハイボールを上げろ!!」
ブルノ「なにィ!?(あの小柄なチビが打ってくるのか!? ドリブルしか出来ないんじゃないのかこいつ!?)」
マンチーニ「(Jrユース大会では見られなかったが……ドリブルに加えてパスも得意な彼の事だ。
       そして、あの試合ではトップ下の役割。 シュートが打てても不思議ではないな)」
カルネバーレ「(あんな小さな身体で威力のあるシュートを打てるものか)」

何はともあれこれで何も邪魔はなくなった、と佐野は改めてお燐にハイボールを要求しながらPA内へと侵入した。
先ほどもはたてからラストパスを要求していたのだが、どうやらブルノの頭からはその事はすっぽり抜け落ちていたらしく、
思いっきり狼狽しながらもセービングの構えを見せ、
カルネバーレとマンチーニは佐野の実力を見極めようと注視をする。

お燐「いくよお兄さん! そーれっ!」

パコーンッ! グワァァアッ!!

佐野「よっしゃあ! 決めるぞ!!」

お燐も佐野の指示には素直に従い、高いボールでのセンタリング。
彼女自身が言う通り、やはりそれはドリブルに比べれば些か精度が落ちていたのだが、
それでも遥かにはたてのものよりはマシであったし、何よりパスコースに誰も入っていなかった為に佐野も簡単に合わせる事が出来た。
慌ててDF達がブロックに入ろうとするものの、クリアーに向かえる者も無し。
佐野はボールの落下地点を予測しながら駆け込み、軽く捻りを加えながら大きく跳躍をする。

マンチーニ「ロベッシャータか! いや……」
カルネバーレ「(捻りを加えている……身体に回転をかける事でボールにも直接回転をかけるつもりか!)」
佐野「いくぜ! これが俺の超必殺! ローリングオーバーヘッドだ!!」

浮き球補正2/2、高シュート力+4補正。
どう考えても超必殺というには些か威力が不足気味なのだが、それでもこれが佐野の最大火力故に仕方ない。
ともかく佐野はこれを放つべくボールに向けて足をたかだかと振り上げ、それと同時に逆さまになったゴール前を見た。
当然シュートコースを探す為である、のだが――。

426 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/03/22(木) 01:07:35 ID:???
佐野「(あれ? あのブルノって奴どこいった?)」

そう、GKであるブルノの姿が見えなかった。
先ほどまではセービングの構えを見せていた彼の姿が佐野の視界からは消え去っていたのである。
これは一体どうしたことかと逆さまの世界の中で佐野は一瞬混乱をしたのだが……。

ブルノ「ふう、ふう……ちょっと待ってくれ。 今上るから」
佐野「なっ……何やってんだアイツー!?」

彼の声が聞こえそちらへと視線を向けた瞬間、思わず佐野は叫んでいた。
ブルノは考えた。彼は常に真剣であり、例えレクリエーションといえど負けるつもりは毛頭ない。
むしろ新入りである佐野達に自分たちレッチェの実力というものを見せつけてやろうと、
カルネバーレ同様並々ならぬ覚悟でこの試合には臨んでいた。
そんな彼は佐野のローリングオーバーヘッドを見た瞬間、考え、動いた。
高い所から放たれるオーバーヘッドキック――佐野のジャンプ力と上背からしてみればそこまで高所という訳ではないが、
それでも通常のヘディングなどに比較をすればかなりの高度である。

角度をつけて放たれたオーバーヘッドを止めるのは至難の業。
ならばと彼は発想の逆転をし、自分もまた佐野と同じだけの高度を手に入れればいいのだと考えた。
ではどうやって同じ高度を手に入れるか。普通にジャンプをしただけでは到底届かないし、
そもそも今からでは飛び出しても佐野との距離を考えれば到底競り合いには向かえない。
そこでブルノは思いついた。

ブルノ「(ゴールバーに乗れば同じ高さ……いや! 俺の方が高くなる!! これはいける!!)」

正しくそれは天啓であり。悪魔的発想であり。逆転の閃きであった。
思いついたが即座に行動をしたブルノは、一気にゴールポストに駆け寄ると登り棒の要領で登ろうとする。

ブルノ「ふう、ふう……(しかしこれ辛いな。ポスト足引っかけるトコ無いから登りにくいぞ)」

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