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【そんなタイトルで】アナザー カンピオーネ1【大丈夫か?】
[5]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:40:24 ID:??? けれど、息子の上達は真実として急激だった。 たったの数ヶ月でこうも変わるのかと、常識的なデサンカは多少不思議に感じていた。 本当に息子はネバーランドに行っていたのでは…と思う時もある。 デサンカ「…なんて、まさかね。」 そんな事あるわけがない、と笑いながら夢物語を打ち消すのはいつもの事。 もしかしたらセミプロが通りがかり、気まぐれに技術を教えてくれたのではと思う事にしている。 現実的に考えればそういう事なのだろう、と。 夕飯の下ごしらえが済んだところで、デサンカは時計を確認した。 針は18時45分を指していた。夫の帰りが少し遅い……デサンカは多少の不安を覚えていた。 何しろ今はデリケートな時期。 ユーゴスラビアの大黒柱、圧倒的なカリスマを持ったティート大統領の死から3カ月だった。 しかし… この日のデサンカの悪い予感は空すかしとなった。数分後には夫も息子も笑顔で帰宅したのである。 帰宅するなり息子は大好きなアニメを観る為TVに突撃し、デサンカの雷を受けたのだった。
[6]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:41:41 ID:??? 1‐2)多民族国家 ユーゴスラビア連邦について話そう… セルビア王国を主体としたセルブ=クロアート=スロヴェーヌ王国として成立。 後にユーゴスラビア王国へと改名。 その歴史にはには2つの大帝国の存在が大きく関わっていた。 北のオーストリア帝国ハプスブルグ家、そして南のオスマン・トルコ帝国である。 ユーゴスラビア連邦を構成する地域はこの2つの異なる勢力の支配を受けてきたのだ。 ハプスブルグ家の支配を受けたスロヴェニアと北部クロアチア。 これはカトリック文化圏にあり、西欧化が進んでいた。 対してオスマン・トルコの支配を受けた南部クロアチアとセルビア、モンテネグロ、マケドニア。 こちらは東方聖教文化圏であり、またオスマン・トルコの影響でイスラムの要素も大きかった。 この結果、ユーゴスラビアを形成する地域には、他では見られないほど多様な歴史、文化的背景、 宗教を有した多種の民族が集まる事となったのである。 そして…
[7]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:43:09 ID:??? セルビア人はオスマン・トルコ帝国に支配される以前はギリシア中部まで支配していた歴史がある。 それゆえ居住地域はバルカン半島全域に散在しており、当然ながらセルビア民族はこれらの統合と 国家としての独立を目指した。 クロアチア人はオーストリア・ハンガリー帝国の干渉排除の点から独立を望んだ。 また他の民族も同様に独立国家の設立を望んでいた。 だが彼らは単独ではあまりに非力であった為、相互協力がどうしても必要だった。 それゆえ第一次世界大戦でオーストリア・ハンガリーが力を失った後であっても、 国家として独立できたのは連合国家という形になってからである。 連合国家であっても、最も有力であったのはセルビアである。 それゆえ政府は主にセルビア人によって運営され、非セルビア人勢力との対立が歴史的に続いた。 さらに第二次大戦においてはドイツ・イタリアに侵攻され分譲統治という形の中、 クロアチアだけは大クロアチア帝国として独立、ナチス傀儡政権として国内のセルビア人狩りが行われた。 対するセルビア人も武装集団チュトニクを組織し、クロアチア人に報復した。 結果として、30万人のセルビア人と20万人のクロアチア人の血が流れたのである。 セルビア民族とクロアチア民族の間にはこうした血塗られた歴史が存在している。
[8]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:44:27 ID:??? 話を大局に戻し、ユーゴ内においてイタリア・ドイツと戦ったのは共産主義者のパルチザン達である。 ユーゴスラビア人民解放反ファシスト会議(AVNOJ)の会合を1943年11月29日から12月4日まで行った。 ユーゴスラビア民主連邦は、このときのAVNOJの会合にて制定されたものである。 一方で、枢軸国から逃れていた王党派のユーゴスラビア王国亡命政権との交渉も続けられた。 パルチザンたちは、ゲリラ戦を主体として、第二次世界大戦における枢軸国との苛烈な戦争を戦い抜いた。 ナチス・ドイツが1945年に降伏すると、彼等はユーゴスラビア全域の支配権を確立。 社会主義連邦国家として制定される事となったのである。 このパルチザンの指導者だったのが、先に名前の出たティート大統領というわけである。 民族間に血の歴史がありながら、長きに渡り民族融和を実現してこれたのは、 偏(ひとえ)にティート大統領の手腕とカリスマ性によるものだった。 (裏話:ソ連との関係悪化から受けた経済封鎖により、ユーゴは纏まらざるを得なかった) そのティート大統領が後継者を定めぬままに急死した… これまで大人しくしていた民族主義者らの動きが活発になるのはこれまでの反動だろう。 各民族は独立へ向けて力を蓄え、その気運を巻き上がらせる事となる。 デサンカがボンヤリとした不安を感じていたのは、この時代背景によるものだ。
[9]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:45:35 ID:??? 1‐3)シュワーボ・アンザーニ アンザーニ「やはりここのザッハトルテは絶品ですね。」 デザートとして運ばれてきたザッハトルテに舌鼓を打つアンザーニ。 ここベオグラードも、かつてオーストリア帝国の支配を受けた都市であった。 その支配がもたらしたのは悪影響だけばかりではない。 西欧文化の流入による発展というメリットは間違いなく存在したのだ。 少なくともこうしてオーストリアのザッハトルテを食べられるのは素晴らしい事とアンザーニは思っていた。 この街でもそれなりに名の知れたレストランの一席。 アンザーニの対面に座り、彼の様子を半ば呆れながら見ている初老の男が一人。 彼の名はジョアン・ウェンガー。 半年前までブラジルの名門 FCサンパウロのトップチームで監督を務めていた男である。 ジョアン「相変わらず甘い物には目が無いようだな。」 アンザーニ「ほっほ、お陰でこんなに丸くなってしまいました。」 ジョアン「体型に関しては昔から兆しがあったがなぁ…。 中身までこうも丸くなっているとは思わなかったぞ。 白髪鬼と呼ばれ、選手に怖れられていたキミがなぁ…。」
[10]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:46:46 ID:??? アンザーニ「歳をとったからね、お互いに。」 ジョアン「…」 アンザーニは受け流したつもりだったが、ジョアンの様子から見透かされているのは明白だった。 長い付き合いの二人である、お互いの事情はよく知っているのだ。 アンザーニ(すぐに“それ”を連想してしまう…思考の袋小路にあるんだな、ジョアン。 …無理もない、私だってそうだったんだ。) すでにこの世にない教え子の事を思い返し、その時の苦しみまでもアンザーニは反芻した。 アンザーニにはジョアンが今抱えている苦しみも理解が出来る。 だからこそ、彼をこのユーゴスラビアに招待したのだ。 東欧のブラジルと呼ばれるこの国に。 もう思い切って話を本題に切り換えよう、そうアンザーニは決めた。 アンザーニ「ところでジェリェズニチャルJrユース(私のチーム)の子らはどうだったかい?」
[11]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:48:45 ID:??? ジョアン「ああ…素晴らしかったよ、キミの指導を受けているだけあってね。 各自が己の役割を把握し、頭を働かせながらプレイに臨んでいた。 テクニック…才能についても非の打ちどころがない、流石は東欧のブラジルだ。」 アンザーニ「キミにそこまで褒めて貰えるとは光栄だよ、だがうちだけじゃないぞ。 他のチームも輝きを放つ原石が数多なんだ。この世代の才能はまさに黄金期さ。 例えばディナモにはプロシネチキがいる。あの子の足裏を使ったフェイントは 一見の価値があるぞ?いずれは世代を代表するMFに成長するだろう。 それからチトーグラードのデヤン・サビチェビッチも恐ろしい。あの傑出した 左足はいずれ世界を揺るがすさ。それから外せないのがミヤトビッチだ、彼の…。」 ジョアン「解っている、解っているさアンザーニ。キミの心遣いには感謝の言葉もない。」 アンザーニ「それならば…改めて頼みたい。うちのチームにコーチとして来てほしい。 二人でこの国の若い才能を世界に羽ばたかそう。 もしコーチという地位が不満ならば、協会に推薦状を書こう。」 ジョアン「ありがとうアンザーニ………だがな…。」 言葉と共にジョアンは激しく頭(かぶり)を振り…そして左手を額に当て、目を覆った。 癒える筈もないジョアンの傷が目に見えるようだった。
[12]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:49:47 ID:??? 愛弟子…即ちロベルト・本郷・ジ・アンドラーデを失ったあの日から、 目の前の親友は一歩も進めていないのだ。 アンザーニはザッハトルテを掬うフォークを置き、コーヒーに手を伸ばした。 強烈な苦みが口の中を駆け巡り…それは胸の中まで拡がっていくように感じた。 ―――暫し間 沈黙の時が流れ…… ……そしてジョアンはポツリ、ポツリと言葉を発し始めた。 ジョアン「私は監督として大きな過ちを犯していた事に気付いたんだよ… その過ちこそがロベルトの選手生命を刈り取った事にもね。」 アンザーニ「過ち……」 ジョアン「私はロベルトの才能にのめり込み…そして溺れていた。 チームの核として、エースとしてロベルトを置く、それはいい。 だがロベルトと他の選手の差があまりに大きすぎた。 …にも関わらず、私は他の選手の実力を引き上げる事よりも、 ロベルトの才能を磨く事を選択してしまったんだ。」 アンザーニ「なるほど…サンパウロにはロベルトをフォロー出来るだけの選手が居なかったんだね。」 ジョアン「そう…あの年にサンパウロがリーグ優勝出来たのはまさしくロベルト一人の力だった。 私はチームをロベルト一人に背負わせてしまったんだ。 その結果、ロベルトは二度と選手としてフィールドに立てない…」
[13]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:51:56 ID:??? 悲劇だな…、と思うしかなかった。 アンザーニの目からも、ジョアンとロベルトの絆は単なる監督と選手のそれではなかった。 師弟…いや、ほとんど親子と言っても過言ではない信頼関係が二人にはあった。 ジョアンはロベルトの才能を開花させるために尽力し、ロベルトはそれによく応えていた。 ロベルトが最期の試合で決勝点を挙げる為に無理にクロスプレイへ飛び込んだのも、 きっとジョアンをリーグ優勝監督にしてやりたいという、恩返しの意思が働いたに違いないのだ。 アンザーニ「ロベルトは…今どうしているんだ?」 ジョアン「自分の足でブラジル中の病院を巡っている…どうにか治す方法はないかとね。 だが無理なんだ…ブラジル、アメリカ、フランス、既に何カ国も私は当たっている。 今の医療技術では網膜剥離を完治させてアスリートに復帰するのは不可能なんだ。」 つまり…ロベルトは現実を受け止めきれず、絶望を再確認するための旅路にいるという事か。 アンザーニは大きく首を振った。 これではジョアンが新しい一歩を踏み出す事など出来る筈ない、そう理解せざるを得なかった。 アンザーニはこの日の説得を切り上げる事に決めた。 だが諦めた訳ではなかった。 ロベルトもいつかは現実を受け入れ、新たな夢を見つけ…そして歩み始めるだろう。 目の前のジョアンだってそうあっても良い筈だ。 …この自分でさえ踏み出すことが出来たのだから。
[14]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:53:08 ID:??? アンザーニ「ジョアン、これからどうするつもりだ?」 ジョアン「ハハ…正直なところ、何も考えられんよ。」 アンザーニの問いに対するジョアンの回答は力の無い笑いによって示された。 だがそれだけでは親友に対し申し訳ないと思ったのか、今度はアンザーニの目を見て言葉を付け加えた。 ジョアン「だが、そうだな…折角キミが招いてくれたんだ、暫くはユーゴに滞在するつもりだ。」 アンザーニ「そうか、もしも気が変わったらいつでも連絡してくれ。必ず力になる。」 ジョアン「恩に着る。」 すまなそうな顔でジョアンは頭を下げ、そして席を立った。 入口の扉が閉じられその背中が見えなくなるまで、アンザーニはジョアンを見送った。
[15]アナカン ◆w2ifIqEU72 :2010/10/22(金) 19:54:22 ID:??? 1‐4)ジョアン・ウェンガー 駅長「ニシュに到着です、お降りの方はお荷物をお忘れなきよう…」 車内アナウンスがなかなかの音量で流れた。 誘導に従い、ジョアンは大きなバックを肩に乗せて駅へ降り立った。 (prrrrrrr…) …間もなく発車ベルが鳴り出し、列車は次の駅に向けて走り出していく。 ジョアンも少し痛む腰をトントン叩きながら改札に足を向けた。 アンザーニと会って数日後、ジョアンはサラエヴォから250km離れた、此処ニシュへとやって来た。 ユーゴスラビアの国内とは言え、なかなか長距離の移動であったと言える。 ジョアン(流石にサラエヴォと比べて人は少ないかな。) 街へ降り立ったジョアンは率直にそういう感想を抱いた。 サラエヴォは近年に冬季オリンピック開催を控えており、建設ラッシュのさなかだった。 それに比べると観光地など存在しないニシュはみすぼらしいと言っても良かった。
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0ch BBS 2007-01-24