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【春のキーパー】もうひとつの物語3【JOKER祭】


[985]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:38:09 ID:???
これは、祐一が南葛に転校する前の話。
祐一がサッカーを改めて志すキッカケとなったお話である。

彼は家庭の都合により転校することが多かった。
それは日本だけではなく、両親の仕事の都合によっては海外で生活することも多々あった。
折角友達ができてもすぐに転校してしまう。
寂しいと思いつつも、何回もそれを繰り返されると次第に他人へ心を開くのが億劫になる。

??「なぁ、祐一…お前今度はどこに行くんだ?」
祐一「海外だってよ。まだ詳しくは聞いてないけど…」 省29

[986]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:39:11 ID:???
チュンチュンチュンチュンチュン!

朝日と小鳥の鳴き声と共に、祐一は目を覚ます。

祐一「あー…そういえば…そんな約束…あったな…」

祐一は重い瞼をこすりながら起き上がる。
日本にいた頃の友達の夢。
その約束の日から、月日は数ヶ月たっていた。

今祐一はフランスにいる。
今回の両親の仕事はどうやら長くなるようで、
日本の親類に頼って置いておくのは忍びないと思ったのだろう。
…とはいえ帰宅は毎回夜遅く、朝も起きた時には仕事に出かけている。 省16

[987]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:41:25 ID:???
ガチャ

祐一が玄関を開けると、日本人学校の同じクラスメイトたちが立っていた。

少年A「祐一…頼むよ、俺達と一緒にサッカーをやってくれよ!」
少年B「お前…こっちに来る前にサッカーやってたんだろ?俺達じゃ地元のサッカーチームに勝てないんだ…」
祐一「悪いけど…そういう気分じゃないんだ…何度頼まれても、俺じゃ無理だよ。
   …やっていたっていっても、俺だってそんなにうまくはないし…」
省33

[988]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:42:31 ID:???
少年A「岬がいくら上手くたって…一人じゃサッカーは勝てないんだ!
    だから…」

祐一「なんでも…」

少年B「え?」

祐一「なんでもかんでも人に頼るのはやめろ!!
   俺は…そんなに期待されたって答えることができないんだ!帰ってくれ!!」

バタンッ!!

少年A「祐一…」

強引に玄関を閉めると、自分の部屋に戻りベッドへ飛び込む。
天井を見上げながら、その目にはうっすらと涙をうかべている。
省7

[989]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:44:47 ID:???
ふと、我に返ると陽はだいぶ上がったようで壁時計を見ると正午を回っていた。

祐一「いつの間にか…寝てたのかな…
    メシ…どうしよう…」

そんな風に思案していると、またもや玄関の方からチャイムの音がなる

ピンポーン!

ピンポーン!

祐一「…うるさい!!もう、俺に構わないでくれ!!」

その言葉が聞こえたのか、チャイムの音は鳴らなくなった。
代わりに、玄関の外から先程の少年とは違う声が聞こえる。
省14

[990]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:46:13 ID:???
岬「僕は…祐一くんをサッカーの試合に誘いに来たわけじゃないよ。
  ただ…僕と一緒に、ちょっとだけボールを蹴らないかい?」

祐一「少しだけなら…」


ギィィィ…

岬「良かった。顔も見せてくれないとちょっとだけ思ってたよ」
祐一「流石にそれは無いよ…ハハハ」
岬「あ、やっと笑ってくれた。祐一くん、この前のサッカーの授業からなんだか機嫌が悪そうだったからさ」
祐一「…」

そして二人は、近くの公園へと足を向ける。 省2

[991]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:47:49 ID:???
パスッ パスッ

向きあって、ボールを蹴り合う二人。
ポツポツと、彼らは語り合う。

岬「祐一くんは、サッカーが嫌い?」

パスッ パスッ

祐一「嫌いじゃ…ない。けど…」

パスッ パスッ

岬「けど…?」

パスッ パスッ

祐一「俺は…岬みたいにサッカーはうまくない」

パスッ パスッ

岬「別に、サッカーの上手い下手じゃないと僕は思うよ。好きか嫌いか、だと思う」

[992]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:50:14 ID:???
祐一「それは…サッカーが上手だから言える言葉だと思う。
   俺は、友達と約束を果たせなかった…」

パスッ パスッ

岬「約束?」

パスッ パスッ

祐一「友達と一緒に二人で完璧になろうって誓い合った。
   あいつが守りなら俺が攻める。
   あいつが攻めるなら、俺が守る。だけど…」

パスッ パスッ

岬「…だけど?」

パスッ パスッ

[993]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:51:31 ID:???
祐一「決勝戦だった。あいつは後ろにいる俺のことを信じて攻め上がった。
   俺は期待に答えようと、ボールを奪おうと奮闘した…」

パスッ パスッ

祐一「だけど、力みすぎた俺のタックルは相手の足に行ってしまった。
   ファールを貰い、危険なプレイとして俺にはレッドカードが出された」

パスッ パスッ

祐一「そのフリーキックが決勝点となってしまった。
   友達はなんとか点を取ろうと頑張ったけど相手の守備陣に防がれ… 省12

[994]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:52:39 ID:???
祐一「俺は…俺のせいでチームに…なによりあいつに迷惑をかけた…
   そんな俺が、まだサッカーをやろうだなんて…」

パス…

岬「祐一くん…。だったら、尚の事だよ」

祐一「え?」

岬「今、君は逃げている。自分で責任を取った振りをしているけど、それはただ逃げているだけだ。
  責任をとる道は身投げのような行為の中にはない…
  責任をとる道はもっとずーっと地味で全うな道…」

祐一「じゃあ…どうしろっていうんだ…俺に…」
省3

[995]もうひとつの物語  ◆Etq65eJh4c :2012/05/13(日) 22:53:58 ID:???
岬「それは…自分で考えるんだよ。祐一くん。
  今日はありがとう、ボール遊びに付き合ってくれて。
  じゃあ、これで…」

そう言って、岬は背中を見せて帰っていく。
その背中を祐一は見ていることしかできなかった。

突如、岬の足がピタッっととまり、クルっと祐一の方へ振り向いてこういった。
岬「明日の朝9時…僕達日本人学校の校庭で試合があるよ。
  …待ってるからね」

その言葉を言った後、もう振り向かずドリブルをしながら岬は帰っていった。
省7


0ch BBS 2007-01-24