キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【新隊長】異邦人モリサキ3【始動】
1 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:26:09 ID:???
本作は恋愛SLG『みつめてナイト』を基にした二次創作です。
騎士の時代が終わりつつある南欧は架空の小国、ドルファン王国。
戦火の迫るこの国に傭兵として降り立った東洋人、森崎有三の体験する
波乱万丈の三年間を描きます。
2 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:27:12 ID:???
◆注意事項◆【最重要】
本作は二次・三次創作であり、原作の設定等とは大きく異なる描写があります。
本作では展開次第では主人公以外の登場人物全員に「死亡する可能性」があります。
また主人公を含めた登場人物全員に「極めて悲惨な境遇に陥る可能性」があります。
ヒロインや仲間も含めて例外や救済措置はありませんし、またその可能性は決して低くありません。
キャラクターの死や不幸を扱う作品が苦手な方は充分にご注意下さい。
また本作では世界観上、サッカーを行いません。
本作には特殊なローカルルールが多数存在します。
テンプレート、および外部サイトに用意いたしましたルール詳細をよくお読みになった上でご参加下さい。
特に【最重要】【重要】と書かれた項目には必ず目を通し、概要をご理解いただいた上で
ご参加下さいますようお願いいたします。
3 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:29:42 ID:???
◆基本ルール(抜粋版)◆
本ルールの詳細は以下のURLからご覧いただけます。
また本ルールに記載のない一切の事項はGMが都度裁定を行い、必要であると認めた場合は
適宜ルールの追加・改訂を行います。
ttp://www39.atpages.jp/msaki/rule.htm
※また本スレッドより、一部ルールの改訂を行います。
! numnumプラグインを使用する判定において、特に別記がない限り 「00は100として」 扱います。
これは個々の判定方法において00の扱いが分かれていたものを統一するものです。
改訂は以上です。
4 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:30:42 ID:???
▲本作の特徴【最重要】
本作では、単純な先行票決や不特定多数参加による多数決は原則として行いません。
本作において、参加者の皆様は「投票者」ではなく「プレイヤー」と位置づけさせていただきます。
このスレッドで行われるのは「キャラクターを演じ、物語を創作するゲーム」です。
物語の進行に関わる選択は「投票」ではなく「ロールプレイ」。
AやBや、ただ一文字のレスで参加できるシステムはこのスレッドにはありません。
どれに何票入ろうと、どれだけ早くレスをしようと、ここでは意味がありません。
採用されるのは優れた回答、それだけです。
・具体的には?
本作では選択肢を選んでいただく際、必ず「何か」を付記していただきます。
これは本作を形作る上での絶対条件であり、これを満たさない回答は例外なく無効として扱います。
「何か」は「なぜその選択肢を選ぶのか」という「理由」であったり、また「台詞」や「手法」といった
その選択肢を最大限に活かすための一手であったりと、様々です。
作中の状況、キャラの心情、ゲームシステムの分析……諸々の条件から「あなたの物語」を提示して下さい。
その中で「その時点での森崎の人物像と齟齬を来さず、最も優れた一つないし複数の回答」が採用され、
物語が展開していきます。
分析、経験、浪漫、共感、理屈、計算、打算、こじつけ、詭弁強弁…なんでも構いません。
じっくりと練り込んだ発想や戦略、言葉の力を見せて下さい。
そうしてGMと共に物語を創り上げていって下さい。
それがこのゲームに参加する、プレイヤーとなるということです。
5 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:31:43 ID:???
▲コテトリ必須【最重要】
本スレッドは「名無し投稿禁止」とさせていただきます。
参加される方はハンドルネームもしくはトリップ、あるいはその両方をつけて投稿して下さい。
GMは名無し発言に対しては一切レスをいたしません。
ゲーム中の選択や判定としても無効として扱います。
本作における参加者とは「読者」でも「投票者」でもなく、「プレイヤー」の皆様です。
物語の創作者である皆様を個人として識別し、継続的に遊んでいただくための仕様となります。
どうぞご理解いただきますよう、宜しくお願い申し上げます。
ハンドルネームとはいわゆる「森崎名無しさん」ではない、参加者個人を識別できる名前のことです。
またトリップとは、書き込みの際に「名前欄に # を先頭とした文字列を入れる」と生成される
暗号のようなものです。森崎板では主に各外伝スレッドのGMの皆様が使っていらっしゃいます。
本作ではプレイヤーの皆様方全員にこのどちらか、あるいは両方を使って参加していただきます。
ハンドルネームのみでのご参加も歓迎いたしますが、万が一騙りなどのトラブルが発生したときのため、
初回投稿の際のみで構いませんのでトリップをつけていただくようお願いいたします。
また、トリップキー(名前欄に入れる # 以下の文字列)はご自身で厳重に管理されるようお願いいたします。
キー漏れ、キー忘れ等によるプレイヤーデータの移譲は原則として認められません。
スレッド別に名前/トリップ管理の可能な専用ブラウザの導入を強く推奨いたします。
(GMはJane Styleを使用しています)
捨てトリップ(その発言のみで使用されるトリップ)の使用は禁止いたしませんが、
本作のシステム上、著しい不利を生じることをご認識の上でお願いいたします。
6 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:32:45 ID:???
▲CPとEP 【最重要】
本作ではプレイヤーの皆様方それぞれに、二種類のポイントが付与されます。
これを「CP(クリエイトポイント)」と「EP(エントリーポイント)」と呼びます。
本作のゲームシステム上、最も重要な項目となりますのでよくご理解いただきますようお願いいたします。
◎概要
これらのポイントを得る条件は「ゲームに参加していただくこと」です。
CPは選択レスがGMによって採用された場合などに付与されます。
EPは選択やカード・ダイス引きを通じてゲームに参加していただいた場合に付与されます。
得たポイントは様々な用途に使用できます。
ダイス目への数値加算、カードの引き直し、自由選択肢の創設、GMへのゲームヒントの要求など、
物語の進行上で有利になること尽くめです。
稼いだポイントを積極的に使うもよし、ここぞという場面で一気に放出するもよし。
皆様の判断でゲームを盛り上げて下さいませ。
7 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 15:34:31 ID:???
▲禁止事項 【最重要】
他のプレイヤーに対する攻撃的・否定的な発言や乱暴な言動、他者を不快にするような言動はおやめ下さい。
そうした発言やゲーム進行を著しく阻害する行為が確認された場合、参加をご遠慮いただくことがあります。
◎各種参照用資料
ルール詳細
ttp://www39.atpages.jp/msaki/rule.htm
獲得EP/CP一覧(随時更新)
ttp://www39.atpages.jp/msaki/points.htm
南欧略図
ttp://www39.atpages.jp/msaki/europe.png
ドルファン国略図
ttp://www39.atpages.jp/msaki/dolphin.jpg
******
テンプレートは以上です。
一年目の九月も大詰め、物語はようやく1/6を過ぎた頃ということで想定以上に
先が長くなっておりますが、本スレッドも皆様にお楽しみいただければ幸いです。
8 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/28(日) 17:06:57 ID:???
★
森崎
[ダメージロール
6
+
1
]
★
9 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 18:33:46 ID:???
***
・イニシアチブ処理
森崎 25+4
サム 28+3 先攻!
サム
・命中処理
17+39=56 命中!
・ダメージ処理
0+13=13
森崎
・命中処理
-17+27+30=40 命中!
・ダメージ処理
17+7 *0.7=16
サムの攻撃は命中し13ダメージ!
森崎の攻撃は命中し16ダメージ!
スキル『牽制打』使用により森崎のガッツが10減少!
***
10 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/28(日) 18:34:48 ID:???
森崎有三
ガッツ:24
ATK:192 DEF:198 SPD:128 ini:25
発動中パッシブスキル:
受身/個人戦闘時、DEF値を+10する。
アクティブスキル:
(名称/消費ガッツ/効果)
牽制打/10/そのターンの攻撃ダメージを70%とし、命中値を+30する。
スマッシュ/10/攻撃の最終ダメージを150%として計算する。
シールドワーク/ 0/攻撃ダメージを必中で5、防御ダメージを50%にする。
vs
地廻りのサム
ガッツ:10
ATK:128 DEF:175 SPD:145 ini:28
発動中スキル:
蛇の操棍/SPD値を5プラス、攻撃ダメージを1d6プラスする。
******
【ターン4】
・行動選択
攻撃、各種スキルの内から『10/28 21:00』までに、どれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
11 :
◆W1prVEUMOs
:2012/10/28(日) 18:47:35 ID:???
この差ならあとはシールドワーク二回で終わり
サムが連続で18出しても届かない
12 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/28(日) 18:55:25 ID:???
牽制打 敵のダイスの引きに賭けます。
敵のダイスは数値減らす事は可能でしょうか?
13 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/10/28(日) 18:56:38 ID:???
これはシールドワーク×2しない理由がないなー。シールドワークに一票。
14 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/28(日) 19:00:13 ID:???
ダイスのダメージも半分になるの?
15 :
◆W1prVEUMOs
:2012/10/28(日) 19:05:36 ID:???
>>14
>>9
> 森崎
> ・ダメージ処理
> 17+7 *0.7=16
牽制打の攻撃ダメージを70%がダメージロールを足した数字にかかってるので
ダイスのダメージも半分になると思いますよ
16 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/28(日) 19:17:22 ID:???
>>15
あっそうですね。
じゃあシールドワーク×2に変更します。決まりですね。
17 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/10/28(日) 19:42:25 ID:???
いや、我々の意見が一致したからどうというシステムではないですがw
まあ、最近の能動的PLの数からするとまず動かないですかね。
18 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/28(日) 19:52:40 ID:???
投票が決まりって訳じゃなくて勝負が決まりじゃないかなと思ったんです。
相手のガッツも無いですからおそらく隠してるスキルも使えないでしょうしね。
19 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/10/28(日) 19:54:57 ID:???
あー、なるほど…。申し訳ない、当方の阿呆な早とちりでした。
仰るとおり、これで決まりだと思います。隠してるスキルというのは既に発動済みの「蛇の操棍」のことかと。
でも、今後の敵は「ガッツが減った状態でも使える隠し技(シールドワークみたいに消費ゼロ)」とかもあるかもしれませんね。
20 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/10/28(日) 20:47:35 ID:???
シールドワークで
新技を使ういい機会ということで。
スキル取得を考えるとバランスよく各ステ鍛えるのが一番ですかね?
21 :
◆W1prVEUMOs
:2012/10/28(日) 21:15:21 ID:???
とりあえずSPDの低さを痛感しました…
22 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/29(月) 00:27:24 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>10
の選択については……
>>11
◆W1prVEUMOs様、
>>13
傍観者 ◆YtAW.M29KM様、
>>16
さら ◆KYCgbi9lqI様、
>>20
◆9OlIjdgJmY様、皆様の案を採用させていただきます!
仰る通り、シールドワークを二回で勝利確定ですね。
ということで、ターン5については省略させていただきます。
皆様それぞれにCP3、更にターン5の省略補填分としてCP2ずつを進呈いたします。
>>11
前ターンで残りガッツを10まで減らせたのが効きましたね。
そうでなければ若干運が絡むところでした。
>>13
はい、これで封殺ですね。
>>12
,14-16
はい、シールドワークは防御側の最終ダメージを50%とします。
返答が遅れまして申し訳ありません。
◆W1prVEUMOs様、補足いただきましてありがとうございます。
23 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/29(月) 00:30:07 ID:???
>>19
はい、今回から敵が条件によって発動してくるスキルの数を表示するようにいたしました。
消費ガッツその他の条件については詳細を伏せますが、あまりトリッキーなトリガではなく、
概ねのパターンに従って発動してきます。
とはいえ本作にはロールバック他の回避手段がありませんので、理不尽な自爆技や即死などの
極端な初見殺しはしないよう調整を心がけております。
……ガッツ不足の場合は如何ともし難いですが。
>>20
そうですね、各パラメータの複合によって取得できるスキルは有効なものが多くなっています。
一つのパラメータだけを上げるのにも一長一短はありますので、戦略次第ですね。
ただ攻撃力と命中はEP/CPの補正をつけることが可能ですが、回避と被ダメージには
ポイントが使えませんので、DEF値が低すぎると一発のラッキーパンチに対処できない点には
くれぐれもご注意下さい。
>>21
ガッツ制限のある戦いというのも苦戦の印象を強めているかもしれませんね。
スキルでのゴリ押しが難しいので、サムのようなSPD特化型には有利な条件となっています。
******
レス返しのみになりますが、戦闘での勝利が確定したところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
次回はサムとの決着描写から若干のエピローグを挟みまして
10月ターンの開始となります。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
24 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:52:35 ID:???
***
棍という武器、同じ長柄の槍や矛に比べて確かに軽く、一撃での必殺性には欠ける。
遠目の間合いからの打撃を旨とする故に、多対多の混戦にもあまり向かぬ。
しかしながら、それは重武装の鎧兜に身を固めたいくさ場における話である。
硬い樫材を樹脂で塗り固め、頭と尻に鉄製の冠を据え付けて補強したそれは、
ただ振り回すだけでも遠心力と重量で、素肌に当たれば人の骨を砕くに充分だった。
まして熟練者の技は一撃よく急所を穿ち、人体を効率的に破壊せしめる。
サム・バーストンという男、棍を使うに熟達の二文字が相応しく、そして対する森崎は
胸甲と円盾、かろうじて鉄板入りの脛当てに革の腰当てという軽装であった。
「……ッ!」
ふ、と呼吸の音は棍の軌道が変わる前触れである。
真横、左からの薙ぎに円盾で対応した森崎が、その衝撃に逆らわず右側へと飛ぶ。
追撃は棍を返しての右斜め上段、振り下ろし。
身を捻って正対しつつバックステップ気味に距離を取れば、すかさず突きが飛んでくる。
正確に水月を狙ったそれを剣先で弾こうとする森崎。
が、その刃は虚しく空を切る。
一瞬早く、サムが棍を引いたのである。
「ちィ……!」
舌打ちする間もあればこそ、森崎が右の半身を引いて身体の軸をずらす。
刹那、顎のあった場所を貫いたのは二段目の突きであった。
伸びきった棍が、しかし体の流れた森崎を追うように、真横へと払われる。
顔面を正面から襲われるかたちとなった森崎が、咄嗟に刃を寝かせて剣を翳す。
25 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:54:03 ID:???
「く……!」
衝撃が殺しきれない。
剣の腹が額を直撃する寸前、森崎が空いた手を剣に添えてようやく棍の軌道を上方へと逸らした。
が、それで終わらぬのが棒術の厄介な点である。
棍を使う者にとってみれば、先端を上に流されるという力は即ち、梃子の要領で棍の尻を
正面へと向ける遠心力に他ならぬ。
するりと持ち手をずらしたサムが、その流れに沿って棍を跳ね上げた。
森崎の腹、更には顎を真下から砕かんとする一撃。
受けは間に合わぬと判断、森崎が思い切りよく真後ろに飛ぶ。
円弧を描いた棍は、僅かに森崎の鼻先を掠めるに留まった。
「……」
「やるじゃねえか、東洋人」
彼我の距離が空き、流れるような連撃が途切れる。
口を開いたのはサムである。
「三ヶ月」
「……?」
「このドルファンに来てたった三ヶ月で、すっかり有名人だよ、お前さん。
……外人ってのは、これだからな」
細い目の奥の瞳をゆらりゆらりと動かして森崎の隙を伺いながらの、湿った声音。
不思議と周囲の歓声にかき消されることもなく耳に飛び込んでくる。
「初めはボルキアの連中だ」
問わず語りは、低く、重い。
26 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:55:08 ID:???
「戦災に巻き込まれた哀れな難民でござい、なんてお題目で俺たちの街に巣を作りやがった。
まず掠め取られたのは物乞い共の縄張りとガキの遊び場よ。
雨風をしのいだ連中が次に掻っ攫ったのが、仕事さ」
棍の先は森崎の目から喉を辿り、八の字を描くように胴を嘗め回しながら揺れる。
「俺らじゃあ食うにも困るような安いカネで請負仕事を端から持って行きやがった。
野菜くずと腐れ肉で生きてるような奴らさ。台帳に乗らねえ連中には取り立てられる税もねえ」
「……何が言いてえんだ」
ぼそりと漏らした森崎に、サムがくつくつと嗤う。
「仕事もなく呑んだくれる親父に弟の薬代……俺も兄貴も、そりゃあ苦労したって話よ」
「恨み言なら神父にでも聞いてもらいな」
「お前さんに聞かせてるんだよ、東洋人。何せお前らはボルキア人どもに輪をかけてタチが悪い」
「……あァ? 言いがかりも大概にしろよ、蛇野郎」
薄い唇をねらりと舐めて湿らせたサムの言葉に、森崎が刹那、対峙も忘れて胡乱げな顔をする。
「俺以外の東洋人なんざ、街中にゃ殆ど見かけねえぞ」
実際、森崎がこのドルファンでしっかりと認識したのは陽子くらいのものであった。
港湾に足を伸ばせばちらほらと黒い髪の男たちもいるにはいたが、ドルファンは中継港である。
長居することもない彼らが、安い歓楽街のあるシーエアー地区を越えてくることは極めて珍しい。
「ひゃは、そいつぁお前……」
ゆらゆらと揺れる棍の狙いが、森崎の膝から足元へと降り、また這いずるように登ってくる。
「随分と、この街の明るい方ばかり歩いてると見える。流れの傭兵とも思えねえ」
「……どういう意味だ」
「裏町の路地をちょいと曲がりゃあ、すぐに分かることさ」
27 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:56:09 ID:???
森崎が慎重に問うのへ直接は答えようとせず、サムが薄笑いを浮かべた。
楽しげな色のどこにも見えぬ、凄惨な笑みだった。
「そりゃあ、俺らだってヤクは扱ってるさ。けどな、仕切るのはアルビア廻りの極上品よ。
そいつを軍の馴染みや金持ちの旦那方にちぃーっとずつ卸してただけでな。
くたばったお袋の麦粥にかけて、見境なく広めるような真似はしてこなかったんだぜ。
……だが、よ」
ふしる、とタイミングの測りづらい呼吸は、やはりのっぺりと冷たい長虫を思い起こさせる。
「お前ら東洋人が持ち込んだのは、ありゃ何だ。半年保たずにアタマがイカれるようなシャブ、
あんなもん悪魔だって扱わねえ。そいつをシベリアのアカどもと組んで、船一杯仕入れてきちゃよ。
よりにもよってガキども相手にバラ撒きやがるだ? ひゃは、お前ら血の代わりに何が流れてんだ」
粘質の饒舌は、しかし森崎の耳にしか届かない。
怒号のような歓声が、睨み合う二人を押し包んでいる。
少し離れて立つ審判役の男にすら、その声は聞こえていないだろう。
「安いシャブだ、ガキは売女と楽しむだろうさ。染まった女どもは客に勧める。港やヤマの人足だ」
「……」
「目抜き通りはあと何年もしねえ内にシャブ漬けで溢れるだろうぜ。
行きずりのガイジンには知ったことじゃあねえだろうがよ……腐れ外道が」
吐き捨てたサムに、森崎がしばしの沈黙の後、ぼそりと応える。
「……知らねえよ、実際」
言葉と共に踏み出すのには、苛立ちの色も濃い。
まるであずかり知らぬ事柄で責め立てられたところで、返す言葉も思うところもありはしなかった。
一歩目、止まらず二歩、三歩を詰める。
「ダラダラネチネチ、ワケのわかんねえこと言いやがって……!」
28 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:57:11 ID:???
剣は下段、円盾を高く翳しての接近である。
正中線上の急所を庇いつつ間合いを潰す狙いは、サムにとて明らかなことは承知の上だった。
案の定、サムの迎撃は向かって左、盾側に回りつつ森崎の胴を真横に薙ぐ打ち払い。
円の縁を沿うように回ることで距離を確保しながら己が体を軸に遠心力で痛撃を齎さんとする、
淀みのない体捌きである。
厳しい鍛錬によって躰に染みついた、半ば無意識の洗練された動きだっただろうか。
が、その挙動は洗練されていたが故に、いささか淀みがなさすぎた。
「喧嘩だ、つったのはお前だろうが……!」
「!?」
森崎が翳した円盾は、棍の一撃を防ぐためのそれではない。
サムの体捌き、迎撃の軌道を読みきった森崎が選んだのは、盾による打撃であった。
相対するサム自身が踏み込むよりも更に一瞬早くその進行方向へ飛び出した森崎が、
腕ごと円盾を振りぬく。
重い衝撃は、二つ。
「ぐ……!」
「がぁ……ッ!」
腕に伝わる、盾の向こうのサムの顔面がひしゃげる感覚。
そして、サムの振るった棍が相討ちで森崎の胸を横から叩いた、その衝撃である。
互い、ほぼ同時の打撃。
しかし連打へと至ったのは、森崎であった。
予め読んでいた間合いの差である。
サムの打撃は、森崎が先ほどまで立っていた位置を薙ぐのに最適化されている。
想定外に距離を潰した森崎を打ったのは、棍の根本であった。
故に、骨を砕き臓腑を潰すには至らぬ程度には、軽い。
29 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:58:12 ID:???
「おおぉ……ッ!」
漏れる声は、胸郭に響く激痛を、食い縛った奥歯の隙間から吐き出したものである。
振り抜いた腕を、引き戻す。
戻して振り上げ、円盾の鉄で補強された縁取りを、ひしゃげ血を噴くサムの顔面に向けて、叩き落とした。
「―――」
蛇が、沈む。
からりと、棍がその手から離れて転がるのに遅れること、僅か。
膝から崩れ、うつ伏せに倒れたその姿を見やって、審判役の男が片手を上げる。
宣言は、高らかに。
「そこまでッ! 勝者、ユーゾー・モリサキ!!」
デュラン二十六年度収穫祭、剣術大会の優勝者が決まった瞬間である。
歓声が、爆発した。
******
30 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 18:59:12 ID:???
******
※称号が『気のいい剣術大会王者』になりました。
スキル『剣術大会優勝』を獲得しました。
種別:特殊
消費ガッツ:-
効果:剣術値を20、評価値を15プラスする。
******
※称号が『気のいい傭兵団のエース』になりました。
スキル『赤騎士候補』を獲得しました。
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:全人物に対する発言力、全ヒロインの好感度が一段階アップする。
******
31 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:00:13 ID:???
夜の催事場に、篝火は赤々と燃えている。
揺らめく炎に照らされる少女は二人。
一人は瞳に憧れの色を浮かべ、もう一人は視線を合わせようとせずに虚空を睨んでいる。
顔の僅かに赤いのは、指摘すればきっと篝火のせいだと言うのだろう。
楽しげな曲が流れ、笑顔の人々が輪になって踊るその広場の片隅で森崎の眼前に立つのは、
ロリィ・コールウェルとレズリー・ロピカーナである。
「踊っていただけますか?」
「うん!」
「アタシはいい」
周囲のいたるところで見受けられるのと同じ仕草、同じ言葉で手を差し伸べた森崎が、
両極端の即答に苦笑する。
「俺、何か作法間違えたか?」
「ううん、大丈夫だよ、お兄ちゃん!」
「……二人で行ってくれば」
早い者勝ちだと言わんばかりに森崎の手を握ったロリィの頭越し、枇杷茶のスカーフを指先で弄る
レズリーに目線を向ければ、返ってくるのはぶっきらぼうな声音だった。
あくまでも森崎と目を合わせようとしないその態度に、ちくりと悪戯心を刺激された森崎が
口の端で笑みを作りながら、訊く。
「恥ずかしいのか?」
「なっ……!?」
「わあ、お姉ちゃん照れちゃってるんだ〜」
「ロ、ロリィまで……! そ、恥ずかしいとか、そんなんじゃ、」
しどろもどろなレズリーの言葉を、しかし最後まで聞かずにロリィが遮る。
32 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:01:13 ID:???
「じゃあ、ロリィがお手本見せてあげるね。ほら、全然平気でしょ、ってしてあげる!」
「ちょ、ちょっと……」
「それじゃ、お兄ちゃん。お相手お願いしま〜す!」
「おう」
頷いてロリィの手をとった森崎が、そっとその華奢な肩を守るように空いた手を回し、
篝火を囲む輪の中へと入っていく。
「えへへ、ロリィ、踊りは得意なんだよ」
「お、実は俺、こっちの踊りはあんまりよく知らねえんだ。よろしく頼むぜ」
「あ……」
背後の、何かを言いかけたような声は勿論、聞こえていた。
***
33 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:02:14 ID:???
「はい、次はお姉ちゃんの番!」
「う……」
満面の笑みで、捧げ持った森崎の手をレズリーへと差し出すロリィ。
困惑と躊躇を絵に描いたように眉尻を下げたレズリーが、差し出された手を見やり、
森崎の方へちらりとだけ目をやって、またロリィへと視線を戻す。
「うぅ……」
「……」
されるがままの森崎は、しかし真っ直ぐにレズリーを見つめている。
言葉は、かけない。
時には沈黙が何よりも強い圧力になると承知していた。
にこにこと向けられるロリィの笑顔と、周囲にさざめく人の波。
篝火を囲う踊りの輪は笛に弦楽器、鼓の音に引かれて動くからくり仕掛けのよう。
差し出される手、行き交う人の笑い声。
揺らめく炎に揺れる影、真っ直ぐに向けられる視線。
綯い交ぜになったそれらと、のしかかるような沈黙が、
「……ええい! わかったよ!」
とうとう、少女を動かした。
少女の一歩目がため息ではなく、己を奮い立たせるような言葉であったことに
我知らず微笑みながら、森崎がうやうやしくレズリーの前に歩み出て、頭を垂れる。
34 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:03:16 ID:???
「では、改めて」
「……」
差し出したのは無骨な手。
おずおずと伸びるのは、白くたおやかな指。
「踊っていただけますか、お嬢さん?」
「……あとで、やっぱりやめときゃよかった、なんて泣き言いうなよ」
言葉と共に、手と手が、触れた。
******
35 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:04:41 ID:Bm8R2SZk
*D26.10月
フレーバーテキスト
*ドロー
今月の巻頭特集は → ! card
スペード→ 日常「燐光石と悪代官」
ハート→ 情報「ダナン造反疑惑」
ダイヤ→ 情報「ヴァン=トルキア継承戦争」
クラブ→ 歴史「ハンガリア革命戦争」
JOKER→ 視点「神父は嗤う」
※ ! と card の間のスペースを消してカードを引いて下さい。
このドローでの分岐は順不同です。JOKERを除いてカード序列による有利・不利は特にありません。
36 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/30(火) 19:18:12 ID:???
今月の巻頭特集は →
ハート8
37 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:54:39 ID:???
******
◎ダナン造反疑惑
D26年、九月十日。
ドルファン王室会議は、その構成員たる五家評議会の一部変更を内外に発表する。
長年参位であったベルシス家を除名し、新たにピクシス分家を参位の地位とするものであった。
ドルファンという国家の中枢、最高意思決定機関である王室会議の五家とは元来、
・『上位』ドルファン王家
それに次ぐ『次席』に
・東部の港湾都市モナークを所領とするピクシス本家
そして『参位』の地位に
・西部カタローネ地方の交易都市エローを治めるエリータス家
・北部国境の都市ダナンを統治するベルシス家
・中部ウエールの大部分を管理するカイニス家
というドルファンの五大都市の主たる貴族によって構成されるものであった。
この中からベルシス家を除名し、宮廷貴族化していたピクシス分家を参位とする発表は
その力の均衡を崩す、明らかな横紙破りである。
しかしその決定を疑問視する声が他家から上がることは、遂になかった。
この国の実情を知る者であればそれを不思議に思うことはない。
何となれば、しばしば傀儡と揶揄される現王デュランに替わり国政の一切を取り仕切っているのが
次席たるピクシス本家当主、アナベル・ピクシスであるのは周知の事実だったのである。
38 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 19:56:56 ID:???
ある者は畏怖を込めて、またある者は憎悪混じりに『怪老』と呼ぶその老人こそが、
このドルファンという国家の事実上の最高権力者である。
その怪老と長年にわたって対立し、唯一の政敵と呼べる存在であったのがこの度除名された
ベルシス家当主、ゼノス・ベルシスである。
現王の王位継承争いに端を発する長らくの暗闘に終止符を打つ一手、それ自体を
疑問視する者がいないのはそういった理由であった。
しかし、政治に敏感な人々の興味を引いたのは、その除名理由である。
「ベルシス家に叛意あり」。
当主ゼノス・ベルシスによる、王家への叛意を挙げたその一文は、様々な憶測を生んだ。
国境都市ダナンを統治し『ドルファンの盾』を自認してきたベルシス家当主による造反疑惑は
先のヴァルファ侵攻に際しての無血開城と相まって、首都城塞市民に格好の話題を提供したのである。
ここで、もしも、という言葉を使おう。
もしも、荒唐無稽な噂の海の中に敢えて一滴の真相を放り込むことで虚実の境をぼやけさせ、
放埒で無責任な邪推の中でそれらすべてが真実味を失っていくことこそが発表の真意だったとするならば、
『怪老』と呼ばれる政治家の老練は、おそるべきものと言えたであろう。
(※情報『続・ダナン造反疑惑』がオープンされました)
******
39 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 20:03:24 ID:???
******
*D26.10月
訓練選択
『今月は何をするの?』
森崎有三
称号:気のいい傭兵団のエース
個人パラメータ
現在のガッツ:95
剣術:146 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:84
ATK:212 DEF:218 SPD:128 ini:25
部隊パラメータ
兵数:289 騎馬:103 練度:15
所属隊員:
トニーニョ(威圧Lv2)
ネイ(鼓舞Lv1)
ジェトーリオ(撹乱Lv1)
カルツ(針鼠Lv1)
レヴィン(破壊Lv1)
40 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/10/30(火) 20:05:12 ID:Bm8R2SZk
剣術・馬術・体術・魅力・礼法・墓守・休憩・部隊訓練・陳情の中から『二種類』選んで下さい。
同じ訓練を二つ選んでも構いません。
陳情を選ぶ際は何を陳情するのかを付記して下さい。
また「剣術・馬術・体術」を選んだ場合は所属する隊員の中から共に訓練する相手を
一人だけ選ぶことができます。誰と訓練をするのかも付記して下さい。
隊員の所持スキルの強化・変化や、イベントによる森崎自身の称号取得が起こる可能性があります。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願い致します。
期限は『10/30 24:00』です。
******
今月の訓練所イベントはあっさりしているのでひとまず後回し、
といったところで本日の更新はこれまでとさせていただきます。
遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
41 :
◆W1prVEUMOs
:2012/10/30(火) 20:49:39 ID:???
馬術・体術
SPDを上げつつATKとDEFもカバーしたいです
42 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/10/30(火) 21:30:04 ID:???
休養 部隊訓練
ガッツは余分にもって置きたいなと思います。部隊訓練は隊長になったのでどんなものなのか観てみたいです。
43 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/10/30(火) 22:49:51 ID:???
馬術 休養
馬術はレヴィンと
ステのバランスとガッツ維持のため。
44 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 19:54:24 ID:???
***
*D26.10月
訓練所イベント
「―――以上が、許商会との先月分の取引概要です。詳細は後ほど書面でご覧下さい。
では次に、本日の報告に移らせていただきます」
やわらかく秋の日差しが差し込む隊長室。
殺風景な部屋の中に響く淀みのない口調は、内務担当のカイル・マクライオンである。
「編成部より、先のダナン派兵で大きな被害を被った騎士大隊の再編成を行うとのことです」
「……大きな被害、ってーと」
背中に暖かな日を浴びながら執務机に頬杖をついて報告を聞いていた森崎が問いただす。
返答は即座に返ってきた。
「右翼第四大隊、および本隊の第二大隊です。両大隊の損耗率は過半数を超えており、
部隊としての機能維持は困難であるとの見解から、第四大隊を一時解体し第二大隊へ異動、
また現存各大隊より中隊規模で第二大隊へ補填するとのことです」
「そらまた……場当たりつーか、なんつーか」
「第四大隊は当面、欠番扱いとなる見込みです。以上で本日の報告を終わります」
森崎の呆れたような感想には口を差し挟むことなく、カイルが手元の資料を閉じる。
45 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 19:55:38 ID:???
「サマになってきたじゃねーか、カイル」
「あ、いえ、その、……あ、ありがとうございますっ」
「……何で仕事から一歩外れるとそうなるんだ、お前?」
苦笑を抑えきれぬ森崎の前で、カイルが少年のような顔を紅潮させている。
こと与えられた任務については完璧に近い仕事ぶりである。
酒保商人との交渉や傭兵大隊の予算管理、軍部との連絡、書類雑務といったものは
既に大方をこの童顔の青年が取り仕切っていた。
管理業務に慣れぬ森崎が丸投げした結果であったが、この形で上手く回っているのだから
問題はなかろう、などと当の森崎は呑気に考えている。
「優秀だよな。よく気がつくし、読み書きも金勘定もできる」
「や、やめてくださいっ」
あわあわと、顔の前で手を振る仕草。
先ほどまで理路整然と報告をまとめていたのと同一人物であるとはとても思えない。
「地元じゃ手代だったんだろ? 何で傭兵なんかに応募しようと思ったんだ」
「テダイ?」
「おっとスマン、商人の手伝い、だ」
怪訝そうな表情を浮かべるカイルに、森崎が訂正する。
うっかりすると慣れた言葉が口をついて出てくるあたり、精神的な弛緩があるのかもしれなかった。
いかんいかん、気を引き締めねば、と内心で反省する森崎を前にして、カイルが口を開く。
「あ、はい。その……えっと」
もじもじと、足先で「の」の字を書くカイル。
急かしても余計に萎縮するか、赤面してまともに言葉が出なくなるかであると分かっていた。
森崎はぼんやりと飾り柱の木目が何に似ているか、などと考えながら待っている。
46 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 19:56:41 ID:???
「その、ぼ、僕はセサの生まれなんです」
「セサ……ああ、トルキアの端っこにある」
「は、はい、そのセサ公国です」
セサ公国。
古トルキア帝国末期、帝国の大貴族であった某公爵が所領の独立を認められた国家である。
面積はドルファン王国の半分程度。
トルキア半島の北西端に位置する、小国家であった。
「セサは、その、土地が良くないですし、対岸のイングランドに睨まれてちゃんとした港もないですから、
えっと……つまり、すごく貧しい国なんです」
「あー……ま、わかるぜ」
遠い故郷を一瞬だけ思い出して、森崎が頷く。
産業がなく、交易の拠点ともなれない土地は、必然貧しい。
「それに、その、独立したっていっても、今でもトルキア……ヴァン=トルキアの下にいるようなもので、
税も高いですし、僕の家も暮らし向きは、全然楽じゃなくって」
「おいおい、独立なんざ百年以上も前の昔話だろうよ。まだ影響が残ってるってのか?」
「はい……」
首肯したカイルの顔には笑みが浮かんでいる。
楽しげな笑みではない。
眉尻を下げ、口角だけを上げた、困ったような表情。
それは、諦念である。
泣いても喚いても変わらぬ、厳然たる現実を前にして諦念という鎖に縛り上げられた心の、
人の内側から滲み出すような、顔であった。
47 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:02:28 ID:???
「ヴァン=トルキアからの荷がなければ、小麦も塩も手に入りません。
石材も木材も、布だってセサの国の中で賄うには全然足りません。
どれだけ高くたって、僕らはそれを買うしかないんです。止められたら、飢えて死ぬだけです」
セサという国の人間は、きっと皆、こうやって笑うのだろう。
「トルキアに人を出せと言われたら、セサの男たちは駆り出されます。
それが戦でも、麦の刈り入れでも、安い賃金でいいように使われます。
だけど、仕方ないんです。……女たちよりは、幾分ましですから」
「……」
「僕たちは、そうやってトルキアからお金を落としてもらって、そのお金で
トルキアの小麦を買います。何も残らないけど、今日を生きていくことはできます」
静かに言ったカイルが、
「……あ」
森崎の神妙な顔に気づいて、再び頬を紅潮させる。
「す、すいません! ぼ、僕、つい変な話を……!」
「いや、聞いたのは俺だからよ」
「あの、それで、手伝いをさせてもらっていたお店の人が亡くなって、それで、
は、母を食べさせていかなきゃいけなくって、どうせ外に出稼ぎに行くならって」
慌てたように言うカイルを手で制して、森崎が口を開く。
「実入りのいい仕事が、これだったってか」
「は、はい!」
こくこくと、何度も頷くカイル。
48 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:03:45 ID:???
「おっ母さんのためなら、か。孝行息子だな、お前」
「母は、女手ひとつで僕を育ててくれましたから……当然です」
そう言うカイルの栃色の瞳には、心からの慈しみが溢れている。
先ほどまでの乾いた笑みとは打って変わったその目に、森崎がカイルを招き寄せると、
いくさ働きには到底向かぬ細い肩をぽんと叩いた。
「なるほどな……ま、俺も頼りにしてるからよ、給金は弾むぜ」
「あ、ありがとうございます! 僕、一生懸命働きますっ!」
深々と礼をした拍子、秋の日に照らされて、さらさらとした栗毛が輝いた。
******
49 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:04:46 ID:???
//部隊訓練
「―――おい、そこ! そうだ、赤毛のお前だ、ちょっと横見てみろ!
……分かったか、前に出すぎてんだよ! 狙い撃ちにされてえのか!」
森崎の怒声が響き渡るのは、広大な運動場である。
「だああ、違う違う! 盾の隊列を崩すんじゃねえ! テメエが守るのは隣の奴だっての!
逆隣の奴がテメエを守るんだよ! 一箇所でも穴開けたらそこから崩れるんだ、忘れんな!」
九月に入隊した新兵の内、歴戦を重ねた者はほんの数えるほどである。
その他のほとんどは初陣どころか軍事教練など受けたこともない、素人の集団だった。
それも力自慢の荒くれ者揃い、話を聞かぬ列を作らぬ合図を覚えぬ、放っておけばそちらこちらで
喧嘩を始める始末である。
彼らを一人前には届かずとも、少なくとも軍事単位として行動ができるまでにまとめ上げるのが、
隊長として森崎の成し遂げねばならぬ難題であった。
「そこの馬鹿! テメエ、今の太鼓は『止まれ』だ! よし分かった、そんなに走りたきゃ
今から日が暮れるまでに外周10回、ほら好きなだけ走れ! ……あァ!?
……おう、いい度胸だ、なら胸を貸してやる、遠慮しねえでかかってこい!」
教練開始から一週間。
新兵たちの意識改革には、まだ暫くの時間がかかりそうだった。
※部隊練度が20上がりました。
ガッツが30減少しました。
******
50 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:06:12 ID:???
//休養
「くぁ……ちくしょう、久々の休みだってのに、メシを食いに出る気力もねえぞ……」
『うわあ……』
寝台の上に突っ伏した森崎の姿は、さながら馬車に轢き潰された蛙である。
体の芯に鉛でも詰め込まれたような倦怠感に、身を起こすのすら億劫だった。
「人にあれこれ言うってのは、自分の体を苛めるよりよっぽど堪えるな……」
『大変だねえ、隊長さんも』
「他人事だと思いやがって……くそう」
『そんなことないけどさ。まだ若いんだから、シャキッとしなよ、キミ』
呆れたようにどんよりとした顔の前へ舞い降りたピコが、鼻歌交じりに前髪を弄り回して遊ぶのを
追い払おうとする手にも力がない。
ぼんやりと小さな相方の悪戯を見る森崎の瞼が、その重さに負けたように次第に垂れ下がっていく。
「ハラ……へった……な」
もごもごとした呟きは、すぐに小さな寝息に変わった。
こうして森崎は、貴重な一日を寝て過ごしたのである。
※ガッツが100回復しました。
現在のガッツ:165
剣術:146 馬術:66 体術:62 魅力:78 評価:84
ATK:212 DEF:218 SPD:128 ini:25
******
51 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:07:21 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
ご覧の通り、コピペの順番を間違えてイベントテキストが先になってしまいました!
本来、このレスが
>>44
の前に入ります。
お恥ずかしい限りです……。
気を取り直しまして。
それでは早速、
>>39-40
の選択については……
>>42
さら ◆KYCgbi9lqI様の案を採用させていただきます!
そろそろガッツが黄色信号ですからね。
また部隊訓練もこの辺りで消費と上昇値を見ておいた方が戦略も立てやすくなるでしょう。
CP3を進呈いたします。
>>41
今のパラメータは剣術が突出していますからね。
バランスを取っていくのもいいと思います。
ただ、個人訓練の場合は「誰と訓練するか」も付記していただければ幸いです。
初回の訓練からはちょっと手順の変わった部分でして、混乱させてしまって申し訳ないのですが、
何卒よろしくお願いいたします。
>>43
レヴィンとの訓練を選ばれたのはちょっと意外……と思いましたが、カルツも先月で
お披露目が終わっていますし、順番からいけば彼ですよね。
52 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:08:26 ID:???
******
*D26.10月 「気のいい傭兵団のエース」森崎有三
メインイベント
『才気』
マルタギニア海の沿岸は、欧州の中でも温暖な気候で知られている。
その一端に連なるドルファンも例外ではなく、冬の雨は多いものの、雪が降ることは
十数年に一度という程度である。
とはいえ無論、常夏というわけにはいかない。
夏が過ぎれば短い秋と長い冬が待っていることに変わりはなかった。
「うぅ、さすがに朝晩は冷えるようになってきたな……」
『……爺むさいよ、その姿勢。ていうかそんなカッコしてるからでしょ』
ピコが白い目を向けるのは背を丸め、腕で体を抱くようにして歩く森崎有三である。
言われた森崎はといえば、半袖の麻シャツから剥き出しの腕を擦りながら相方から目を逸らしている。
『風邪ひいたって知らないんだからね』
「へいへい、っと……いっくし!」
『ほら、言わんこっちゃない。……あれ?』
呆れたようなピコが、ふと何かに目を留める。
つられて目をやった森崎が、眉根を顰めた。
「……何してんだ、あれ」
『さあ……事故かな』
53 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:09:27 ID:???
ひそひそと言い交わす森崎の行く手にあったのは、まるで道を塞ぐように横付けされた馬車である。
兵舎のあるシーエアー地区からフェンネル地区の訓練場に続く閑静な道のこと、
何か近隣に用があって停まっているわけでもあるまいと思いながら見やった馬車は、
近くで見ればひどく豪奢なものだった。
全体を純白に塗られた車体は、森崎もよく目にする粗末な乗合馬車とは比べ物にならない。
精緻な計算のもとに施された彫刻が白い車体を彩り、まるで羽ばたく鳥のようにその全体像を錯覚させる。
金の縁取りはよもや真物かと思わせる重厚な煌めきを陽の下に晒していた。
引く馬も見事な体格の芦毛が二頭。
肉付きといい毛艶といい、一級品の素材を最高の厩舎が磨き上げていることは明らかだった。
無駄に嘶くこともなく、どっしりと構えたその威容は軍馬を扱う森崎から見ても文句のつけようがない。
「羨ましいぜ、実際。一頭くれねえかなあ」
『さもしいよ!』
言いながら、道幅のほとんどを埋めるように停車しているその馬車の脇を抜けようとした森崎の背に、
低い声が刺さる。
「―――やらねえよ馬鹿野郎」
「うわっ!?」
突然の声に、思わず飛び上がる森崎。
いかに油断していたとはいえ、森崎はいくさを生業とする男である。
背後に誰かがいれば、大抵は察知できるつもりでいた。
しかし今、声の主は全く気配を感じさせなかったのだった。
「誰だ!?」
反射的に身構えながら振り返った森崎の目に映ったのは、
「……おん、な?」
「オイ手前ぇ、いま一瞬迷っただろ」
54 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:10:27 ID:???
乱暴に言い放って森崎を睨む、その姿はよくよく見れば確かに女性である。
灰色がかった銀髪を長く伸ばした顔立ちは、むしろ美人といってもいい。
しかし、森崎が迷ったのも無理はなかった。
獰猛とすら言えるような目で森崎を睨みつける彼女の出で立ちはといえば、
糊のきいた純白のカッターシャツに黒のベスト、胸元にはベルベットでできた臙脂のリボンタイ。
そして何より、その足を覆うのはスカートではなく、すっきりとしたラインの黒のパンツであった。
「あ? 女がこんな格好してちゃ悪いのか?」
「いや……悪いってんじゃ、ねえけどよ」
戸惑う森崎が言葉を濁す。
苛立たしげに踏み鳴らす足元も、丹念に磨き上げられた黒の革靴だった。
有り体に言って、富裕な家のバトラーであると主張するような服装である。
が、森崎の知識の中にある限りでは、女性のバトラーや家令など聞いたことがない。
「……」
「……チッ、まあいい」
困惑が顔に浮かんだのが見て取れたのか、女性が露骨に舌打ちして首を振る。
しかし次に出た言葉は、胸を撫で下ろした森崎を再び驚愕させるのに充分であった。
「ユーゾー・モリサキってのは、お前だな」
「なにィ!?」
名指しである。
いかな先月の収穫祭で名が売れたとはいえ、全くの見知らぬ他人からその名が出るとは思わなかった。
「お、俺ってそんなに有名人なのか?」
「は? 何言ってんだ、手前ぇ」
思わず訊いてしまった森崎が、一刀両断にされる。
猛禽類を思わせる灰色の鋭い目が、心底から呆れ返ったように森崎を射貫いていた。
55 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:11:28 ID:???
「……じゃあ、どうして俺の名前を」
「用があって捜してたんだよ。っと、勘違いすんじゃねえぞ」
「……?」
「用があるのはオレじゃない。……あっちだ」
すげなく言った女性が、す、と滑るように歩むと、馬車の扉に正対する。
「お嬢さん、間違いないみたいだぜ」
声は、馬車の中にかけられたものである。
僅かな間を置いて、くぐもった声が返ってくる。
「……そう。開けなさい」
「へいよ、っと」
気の入らぬ声音とは裏腹に、馬車の扉を開けようとする女性の仕草は洗練されている。
隙がない、と言い換えるのが正しいのかもしれない。
背後を取られたのに気づけなかったことを思い出し、渋面を作る森崎の目の前で
軋みひとつ立てずに扉が開いていく。
純白の扉の中は落ち着いた赤を基調とした布張りである。
垂れ下がる壁掛けの複雑な文様、美しい茜色は更紗だろうか。
「―――」
その、小さな赤い世界を睥睨するように座る女がいる。
纏うのは蒼。
どこか、ソフィアやハンナの通う学園の制服を思い起こさせる意匠である。
見慣れぬ仕立てだが、ゆったりと身体を包みながらもその動作を阻害しないよう
細心の注意が払われた、いかにも一品物といった完成度の高さがそこにあった。
膝丈のスカートの下から伸びる足の白さに森崎の目が釘付けになったのは、馬車の車高で
ちょうど目線の正面近くになったからばかりではあるまい。
少女の、脚である。
56 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:12:30 ID:???
ハリに満ちた、どこまでもしなやかな肉付きは成熟した女のそれではあり得ない。
一目、その魅力に心奪われ、二目、その鍛え方に瞠目する。
神のたわむれに描いた曲線の如きふくらはぎから純白の三つ折靴下に隠された踵の腱へと至る
筋に秘められるのは、少女というものが元来持つ、微かな熱と沈み込むようなやわらかさではない。
そこにあるのは、凝集された力の結晶である。
無理やりに鍛え上げた醜い塊ではない、匠の手で研ぎ上げられた刀の如き筋肉が、
理想的な長さと太さを併せ持つ脛骨にふわりと覆いかぶさっている。
腿が見たい、と思った。
ごく自然な心の動きに、一切の邪念はない。
そこにあるのはただ武芸を志す者として完成された肉体という概念を目にしたい、
そういう純粋な感情で、
「……」
見上げた先で、悠然と笑む少女と目が合っていた。
少女が、森崎を見下ろしたまま、言う。
「気は済みまして?」
「……はい」
こくこくと、壊れた水飲み人形のように頷く森崎に同情を寄せる者は、この場にはいなかった。
「聞いていたのとは少し違うようですが……とにかく、モリサキさん、ですわね」
「あ、ああ……」
少女の口からも、やはり森崎の名が出る。
居心地の悪さに曖昧に頷いた森崎に、少女が席を立つこともないまま口を開いた。
「単刀直入に伺います。ハンナ・ショースキーは御存知ですわね」
「え……?」
57 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/01(木) 20:13:38 ID:dUOJLR82
今度こそ、森崎が困惑する。
自分の次は、ハンナ。
話の流れも、相手の意図もまったく読めないのを不気味に思った森崎が―――
*選択
A「さ、さあ……」 とぼけてみる。
B「知ってるといえば、知ってるが……」 一応、答えてみる。
C「綺麗な、脚だな」 欲望に忠実になってみる。(必要CP:5)
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/2 1:00』です。
******
ようやく最後のヒロイン候補登場、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
58 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/11/01(木) 20:42:38 ID:???
こっちの素性を完全に知られてる以上、嘘をつく理由が何もない。
あと別スレで学んだけど、【権力持ってる相手と対立するならちゃんと準備してから】だよ。
思いつきで対立するとひどい目にあう…まあ流されるだけでもひどい目にあうけどw
59 :
傍観者
◆YtAW.M29KM
:2012/11/01(木) 20:47:52 ID:???
…しまった、投票忘れてた。投票はBです。
60 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/01(木) 23:21:54 ID:???
B向こうはこちらの事を把握してますから、隠す必要はないかなと思います。
森崎ならハンナのライバルだなぐらいの事は気付くのではないかと思います。
61 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:06:00 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>57
の選択については……
>>60
さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
そうですね、状況的に相手が誰なのかは察知してもおかしくありません、ということで
その辺りを本編に反映させていただきました。
CP3を進呈いたします。
>>58-59
はい、この相手はともかく、本当に危険な相手にノリや思いつきで喧嘩を売っていくのは
猛獣に徒手空拳で挑むようなものですね。
そういった行動に対してご都合主義的フォローは入りづらいので、気をつけたいところです。
勿論、状況を見て戦力差を判断し、それを埋める策を用意した上で挑むのであれば別ですけど。
負けられない戦いは、負けないようにして勝ちましょう!
62 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:07:01 ID:???
***
B「知ってるといえば、知ってるが……」
誤魔化しても無駄だと判断し、森崎が答える。
調べをつけた上で問うているのは、単なる枕詞か、それとも何かを試しているのか。
そもそも名指しでこちらを捜しあてたという相手だ。
組織力、資金力には疑問を差し挟む余地がない。
言葉を濁したのは相手の意図が読めないからだが、しかし森崎の返答に馬車の中の少女は
小さく首肯しただけで悠然とした笑みのまま、眉筋ひとつ動かさない。
埒が明かない、と内心で舌打ちした森崎が、一石を投じるべく口を開く。
「そういうあんたは……リンダ・ザクロイド、か?」
「あら、わたくしをご存知でしたの」
少女の、成熟した女性を思わせるような切れ長の目がぴくりと動く。
やはり少女はリンダ・ザクロイド。
ハンナが唯一勝てないという、国内最速の女で間違いないらしい。
投じた石の、水面に起こした波紋を確認して森崎が首を振る。
「いいや、俺はハンナからそんな奴がいるって名前を聞いていただけだ」
思わせぶりに、ちらりと目線を送る。
少女、リンダは先を促すような視線を返してきた。
幾ばくかの興味を引くことには成功したらしい。
63 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:08:02 ID:???
「ただザクロイドといやあ、この国の燐光石市場を仕切ってる大商人だ。
外様の俺でもそこかしこで聞く名前だからな、さすがに引っかかってたんだよ」
「……」
一瞬、リンダの表情が曇ったように見えた。
大商人、と森崎が口にした刹那のことである。
ほんの僅かに下がった眉尻は、しかし森崎が目を凝らして確かめるより早く、元に戻ってしまう。
気にはなったが、しかしおくびにも出さず言葉を続ける森崎。
「そこへ、そのすげえ馬車ン中からお嬢様が出てきて唐突にハンナのことを訊かれたわけだ。
そんな金持ちの心当たりはあんたしかいなかった、ってことさ、リンダお嬢さん」
「……」
言い終え、肩をすくめてみせた森崎をじっと見ていたリンダが、す、と手を動かす。
どこから取り出したのか、白い指に摘まれていたのは豪奢な扇である。
薄紫の絹張りにレースの装飾、縁を彩る毛皮の純白は白貂だろうか。
それ自体がひとつの作品と呼べるような扇が、リンダの口元を隠すように広げられる。
「多少の目端は効くようですわね。無礼な物言いには目を瞑りましょう」
「そりゃどうも。……で、何の用だい」
扇で口元を隠されれば、表情は途端に読めなくなる。
なるほど上流階級かと感心しながら森崎が問い返すと、リンダが目を細めて言う。
もとより細く切れ長の瞳が下弦の月のように弧を描くその様は、銀色の長い髪も相まって、
どこか伝説に謳われる狐を連想させる。
「ハンナ・ショースキーに今の練習を指示したのは貴方、ということですが」
「……」
蒼を纏う狐が、断言する。
どこから調べたのか見当もつかないが、あるいはハンナ自らが聞かれるままに答えた可能性もあるか、
などと考えていた森崎の沈黙をどう捉えたのか、リンダの瞳が僅かに気色ばんだように見えた。
64 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:09:02 ID:???
「あの娘、貴方の言葉を真に受けてそればかり練習してましてよ。
毎日毎日、体力任せの追い込みばかりで技術を磨く気配もありません」
言葉にするうち苛立ちが増してきたのか、リンダの声音は次第に厳しいものになっていく。
「飾らずに言いますわ―――あのままでは、わたくしと勝負になりませんの」
傲然とすら呼べる言葉を、しかしリンダ・ザクロイドという少女は一片の迷いも驕りもなく言い放つ。
彼女の口から出るとき、それは単なる事実なのであろう。
そんな風に、耳にした者すべてに思わせる響きがあった。
「歯がゆくてよ、ユーゾー・モリサキ」
しかしまた同時に少女の目は、そんな事実の存在を許せぬとばかりに激しい炎を宿している。
ぎり、と手にした扇の骨が軋む音が聞こえた。
「わたくしは、わたくしを超えようとするものにその全力を要求します。
そうでなければならないと、わたくしはこの世の条理を差配しますわ、モリサキ」
リンダの瞳は、その名を呼びながらも既に森崎を見てはいない。
その目から燃え上がった炎が銀色の髪を伝い白い喉を焼いて漏れいづるような、それは言葉である。
少女が、ついには赤い布張りの椅子から腰を浮かしかけたとき。
「お嬢」
短く声をかけたのは、それまでじっと馬車の扉の脇に立っていた黒服の女性である。
効果は覿面だった。
「……失礼、つい取り乱してしまいましたわ」
65 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:12:09 ID:6O72Var6
冷水を浴びせかけられたように、はっと女性を見やったリンダが、すぐに表情を消す。
代わりに浮かんだのは、元通りの悠然とした笑みである。
その変遷を見やって小さく息をついた森崎が、ゆっくりと二呼吸ほどを置いてから口を開いた。
「……で、結局あんたは何が言いたいんだい。用がないなら仕事に行きたいんだが」
「モリサキさん。貴方、責任持ってあの娘をしつけ直してくれませんこと?」
明快な即答だった。
対する森崎はといえば―――
*選択
A「わかった、引き受けよう」 安請け合いする。
B「気にはかけておくさ」 やや肯定的に答える。
C「こう見えて忙しい身なんだ」 否定的に答える。
D「心配しなくても、あいつはいつも全力だぜ」 話をそらす。
E「報酬でも出るのか?」 即物的に答える。
66 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/06(火) 19:14:28 ID:6O72Var6
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/6 24:00』です。
******
妙な部分でレスが切れてしまい失礼いたしました、といったところで
本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
67 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/06(火) 23:22:45 ID:???
Bハンナにアドバイスしたのはハンナがあまりにも酷い練習や心構えをしてたからだ。
一応アドバイスした以上多少気には懸けるが正式なコーチになるつもりはないし出来ない。
それに自分は傭兵だと付け加えたいです。
68 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/11/07(水) 00:55:02 ID:???
投票機会を逃してしまいましたけど
「それは人にものを頼む態度じゃねえだろ」とか
「ハンナの知らないところでアンタが敵に塩を送っちゃダメだろ」とか
いろいろツッコミどころが多いお嬢さんだと思いましたw
69 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 19:58:03 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>65-66
の選択については……
>>67
さら ◆KYCgbi9lqI様のご回答を採用させていただきます!
そうですね、素人が正式なコーチになると安請け合いしたところで、本作の世界には
ネットもなければ陸上の教本が売っている本屋さんもありませんからね……。
台詞の付け加え、多少アレンジしつつ本編に組み込ませていただきました。
CP3を進呈いたします。
>>68
ツッコミどころ、山ほど搭載してますねw
まあ、たぶん頼みごとをしているという意識はないんですよあの人。
一般的なラインからエキセントリックな方向に踏み出しているという意味では、
ヒロインズよりもむしろ傭兵たちの方に近いメンタルの持ち主かもしれません。
70 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 19:59:40 ID:???
***
B「気にはかけておくさ」 やや肯定的に答える。
明言も確約もする気はないと言下に匂わせながら、さりとて正面から否定することもしない。
我ながら煮え切らぬ態度だ、と内心で苦笑する森崎の、しかしそれは偽りなく本心に近い。
自分には専門的な技術も知識もない、何よりそれに割ける時間がない。
しかしハンナのことを頭から無視することもまた、できなかった。
できる限りのことはしてやりたいと思うが、できることはもうやってしまったと、森崎は考えている。
それはつまり、後は遠くから見守るだけということに等しい。
「……」
すわ激昂するかと見上げた馬車の中の少女は、しかし意外にも静かに森崎を見ていた。
手にした扇が、二度、三度と開かれては閉じる。
絹の擦れる微かな音が、爽やかな朝の空気に混じってひどく長閑に響いた。
四度目に開いた扇で口元を隠して、リンダがようやく声を出す。
「貴方は、傭兵でしたわね」
「ああ、俺は傭兵でね」
「わかりましたわ」
短いやり取りは、しかし必要十分な重みをもって双方を首肯させた。
「時間を取らせてしまいましたわね」
「この程度なら構わんさ。半日がかりで練習に付き合わされたわけじゃねえ」
71 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 20:00:45 ID:???
諧謔は、しかし少女には通じなかった。
眉筋一つ動かさぬまま、リンダが問う。
「祭典には、おいでになって?」
「ああ、そのつもりだが」
「では、その折にまたお目にかかりますわ。月桂の冠を戴く者として」
「剛毅な話だ」
月桂冠といえば、古来より各種競技の優勝者にのみ贈られる栄光の証だった。
紫水晶色の瞳を細めた笑みは、己が勝利を微塵も疑わぬ自信と自負とに満ちている。
しばらくそうして森崎を見つめていたリンダが、やがて満足したように視線を移した。
はたりと、扇が畳まれる。
それが合図であったかのように動いたのは、黒服の女である。
「ジーン。いいわ、出して」
「へいへい、お嬢様。閉めますよ」
ジーンと呼ばれた女が投げやりな言葉とは裏腹に洗練された所作で馬車の扉を閉めると、
赤の世界が、蒼を纏う少女と共に、白の装飾の向こうへと消える。
外鍵をかけると、御者台に乗り込んだのはジーンであった。
慣れた仕草で手綱をとって、微動だにしない芦毛の馬たちの尻をひと撫で。
「さ、仕事に戻るぜ、お前たち。……どいてくんな!」
愛おしむように口にした前半は、手綱の先にいる馬たちに。
乱暴に言い放った後半は勿論、馬車の傍に立つ森崎に告げたものである。
72 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 20:01:45 ID:???
「そらっ!」
掛け声一閃、堂々たる体躯の馬たちが統制の取れた動作で歩み出す。
引かれた馬車の車輪が、石畳を噛んでごとりと鳴った。
美しい純白の車体は、見る間に遠ざかっていく。
『さ、仕事に戻るよ、キミ』
「……ああ」
ふわりと肩に降りてきた相方の、ジーンの声真似をしてみせたのに答える森崎は
狐に摘まれたような顔で歩き出すのだった。
******
※称号が『親切な傭兵団のエース』になりました。
人物称号の変動のため、スキルの獲得はありません。
******
73 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 20:02:47 ID:???
***
数日後のことである。
「よう、乗ってかねえか」
疲れた体を引きずるように歩く森崎にそんな声がかけられたのは、傾いた陽ももう幾ばくかで
城壁にかかろうかという、セリナ運河沿いの道端であった。
「んあ……?」
「おいおいおい、傭兵団の隊長さんがそんな間抜け面してんじゃねえよ。オレだよ、オレ」
振り返った森崎の眼前にあったのは、人の顔ではない。
灰白色の長い鼻面、つぶらでありながら理知的な瞳、そして奇妙に饐えた臭い。
「……馬?」
「こっちだ、こっち」
芦毛の馬面が、ふるると湯気の出るような鼻息を森崎に吹きかけた、その斜め上方。
手綱を伝って視線を移せば、森崎の背より高い位置に腰掛けて親指で自らを指していたのは
長い銀髪に鋭い眼差し、そして男装に身を固めた麗人だった。
乗っているのは、やはり先日と同じ白い馬車の御者台である。
「……ああ。確か……ジーン、とかいったか」
「うわ」
「何だよ」
「オレ、お前に名乗った覚えねえぞ」
鷹のような目が細められ、じとりと森崎を睨む。
心なしか上体も森崎から遠ざかるように反らされているように見えた。
森崎が、ほとんど反射的に取り繕う。
74 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 20:03:59 ID:???
「いや……こないだ、お前ンとこのお嬢さんがそう呼んでただろ、それで」
「うへえ」
「だから、何だよ!」
「お前、女の名前だけは一度聞いたら忘れない方のヤツか?」
「あのな……こっちは疲れてんだよ、喧嘩なら他所に売ってくれ。じゃあな」
ため息をついて片手を上げた森崎が、踵を返す。
途端、慌てたような声が背中に降ってきた。
「ああ、待て待て! 悪かったよ!」
「……」
森崎と並ぶように、芦毛の馬体が一歩進む。
うんざりしたように見上げる森崎に、ジーンが取り成すように口の端を上げた。
「兵舎に帰るんだろ? 疲れてんなら余計にさ、途中まで乗っけてやるから」
「いや、メシ食いにキャラウェイ通りまで寄ってくつもりだが……」
「ならそこまで送るからよ! ほれ、ここ座りな」
ばんばんと、ジーンが掌で叩いたのは板張りの御者台である。
己の隣を示す彼女に、森崎は―――
75 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 20:05:45 ID:c7UWe0nE
*選択
A 「……わーったよ」
B 「いや、それは悪いだろ」
C 「なら客席に乗せてくれ」
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/9 24:00』です。
******
本作のジーンはヒロイン候補ではありません、念のためw
といったところ、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
夜遅くまでのお付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
76 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/09(金) 21:34:13 ID:???
【ピココール】
彼女の目的はなんだと思う?深い意味があると思う?
77 :
ピコ
◆ALIENo70zA
:2012/11/09(金) 22:26:06 ID:???
>>76
うーん…まあ、親切で言ってくれてるわけじゃあないだろうねえ。
そんなに悪い人には見えないけど、知り合いってほどの仲でもないしね。
78 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/11/09(金) 22:59:55 ID:???
A
まあリンダ関係でなんかあるんでしょうが、警戒するようなとこでもないと思うので。
こっちがヒロインじゃないんだ、残念w
79 :
◆W1prVEUMOs
:2012/11/09(金) 23:17:33 ID:JLVj1x3Q
A
ヤバそうなの以外は積極的に巻き込まれるてみる
80 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/09(金) 23:21:04 ID:???
B少しは警戒した方が良いかもね。
81 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:12:29 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>75
の選択については……
>>78
◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
はい、まだリンダシナリオの導入ですし、いきなり罠選択肢というわけではありませんね。
変わったばかりの人物称号が揺れることはあるかもしれませんけど。
CP3を進呈いたします。
ジーンはシナリオプロットも用意しておりませんが、事件も何もなしでただ一緒に出かけて
ワイワイするとかお酒を呑むとか喧嘩するとかそれなりの関係になってみるとか、だけでよければ
チャレンジで可能ということにしておきますw
……あれ、もしかしてそっちの方が需要あるんじゃ……
そのうちGMは考えるのをやめた。
>>79
そうですね、親虎のいびきが聞こえるような穴でなければ積極的に入っていくのもいいと思います。
中盤以降はヤバげな選択も次第に増えてくるかもしれませんが……!
>>80
今回は特段の危険はありませんでしたが、引っ掛かりを覚えたらピココールというのは
極めて確かな攻略手段だと思います。
ロールバックのない本作では転ばぬ先の杖が重要ですからね。
82 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:13:30 ID:???
***
A「……わーったよ」
ジーンの強引な誘いに、半ば諦めるように森崎が肩をすくめる。
途端、ジーンがにかりと笑う。
「よっしゃ! じゃ、そっちから上がってこいよ」
その笑みは、しっかりと化粧をすれば男たちを一網打尽にできるような整った顔立ちを崩すような、
どちらかと言えば男臭い笑い方ではあったが、ジーンという女にはそれが妙に似合っている。
決して男装のせいばかりではない、彼女らしさというものに近いのだろう、などと考えながら
森崎が踏み板から御者台に上がる。
「ほいよ、っと……結構高いんだな」
「そりゃ周りが見えねえと危ないからな」
言われ、改めて周りを見回す森崎。
なるほど確かに、高い視点からの世界はいつもより遥かに広く感じられる。
「アトレ、スオウ、ちょっと余計な荷物を載せるぜ。我慢してくれよな」
「ちぇ、ひでえ言われようだぜ」
「はは、まあこいつらにとっちゃお前一人なんざ軽いもんだけどな」
言って前方、ふるりと長い尾を揺らす馬たちを見やったジーンの目は、
ほとんど慈愛と呼んでも差し支えないような優しさを湛えている。
83 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:15:11 ID:???
「……へえ」
「あ? どうかしたか」
「いや、なんでもねえよ」
「変な奴だな。……出すぞ、落ちんなよ」
右の一頭、アトレと呼ばれた方はそんな目線を知ってか知らずか、耳をくるりと動かして歯を剥いた。
左のスオウは我関せずとばかりに鼻を鳴らしている。
ジーンが手綱を軽く揺らすと、そんな二頭がぴたりと揃って歩を進めるのだった。
***
がたごとと、車輪が石畳を噛むたびに体が揺れる。
高級な馬車の面目躍如というべきか、乗合馬車とは比べ物にならないほど微かな揺れではあったが、
それでもまったくの静謐というわけにはいかない。
直接乗馬するときのように縦に揺られる感覚ではなく、微妙に一定でない加速が体を前後に揺らす。
睡魔を誘うようなリズムである。
「……」
訓練による披露が泥のようにこびりついた身体には、まさに甘美な毒であった。
こくりと、つい船を漕ぎそうになる森崎。
「うわ、おいばか寄っかかんな」
「……ああ、すまん」
御者台は本来、一人用の仕事場である。
見栄のためか、それとも他に何か実用性があるのか、比較的大きなスペースを取ってあるこの馬車のこと、
ひどく狭苦しいということはないものの、二人が並んで座ればどうしても互いの体温を感じるような
距離にならざるを得ない。
微かな温もりがまた森崎を微睡みへと誘おうとしたとき、ジーンが口を開いた。
84 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:16:12 ID:???
「この間は済まなかったな」
「……この間?」
僅かな間を置いたのは、小さな欠伸を噛み殺したせいである。
「ああ、どっかの男装美人が出会い頭に因縁つけてきたことか」
「うちのお嬢がいきなり突拍子もないこと言い出して、だ。ぶっ飛ばされてえのかこの野郎」
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、ジーンの口元は上がっている。
どうやら今日は機嫌がいいようだった。
「というかお前、朝弱い方のヤツか?」
「あァ?」
唐突な言葉に、ジーンが怪訝な顔をする。
先ほどの意趣返しだと気づかれる前に、森崎が先を促した。
「で、こないだがどうしたって」
「ああ。や、悪気はねえんだ、お嬢には」
「だろうな」
適当な相槌。
しかし半ばまではその通りであろうとも思っている。
リンダという少女の瞳や言葉に、悪意や嘲弄の響きはなかった。
「ただ、まあ……どうにも言葉が足りねえ。それでよく相手を怒らせちまってな」
「はは」
思わず失笑する。
直截すぎる物言いは、森崎自身が経験したことである。
85 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:17:23 ID:???
「なまじ頭が回りすぎるんだな。だから二手、三手先だけ見て話をしちまう。
次の手を選ぶ余地がねえなら、口にする意味もねえとか考えてんだ」
「……」
がたん、と車体が揺れた。
前を行く馬、アトレとスオウはぶるりと尻を振るのみで、特に気にした風もない。
「あのお嬢さん、困ったことに相手もそれができて当たり前だと思っててな」
「難しいだろうな」
「難しいよ。だが前置きも説明も斟酌もねえ。先回りして次の選択肢だけ相手に放り投げる悪い癖が、
いくら言っても治らねえ。お嬢にとっちゃチェスか何かと同じ括りなんだ、相手と話すってのは」
「……そりゃもう、会話じゃねーだろ」
「じゃねえな、実際」
苦い笑みが、声音にまで滲んでいる。
「お前もこの間、無茶な頼みごとを押し付けられたと思っただろ。勝手なこと言いやがって、とか」
「まあな」
「お嬢としちゃな、ありゃ交渉のテーブルを用意したつもりなんだ」
「……はァ?」
さすがに看過できず、疑念を漏らす森崎。
先日の一件は指示や命令、強要の類ではあっても交渉と呼べるものではないと、記憶が告げていた。
ジーンがちらりと森崎を見て、薄い唇を歪める。
「まあ、言いたいことはわかるぜ。……つーか、いつものことだからな」
「……」
「お嬢……いや、ザクロイドの人間が生きてるのは、打算と腹芸と算盤勘定が服着て歩いて、
年がら年中互いの足を引っ張り合ってるような世界でよ」
冷たい風は、歩くよりも強く森崎の顔に吹き付ける。
肩に伝わる微かな温もりだけが、救いだった。
86 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:18:24 ID:???
「ま、そんな連中の常識じゃ、無理も無茶もまず単に様子見でふっかけてるだけ、
鵜呑みにする奴が馬鹿ってなもんでよ。袖にするフリされるフリ、段々と見返りをチラつかせて、
ようやくそこから話が始まるってわけだ」
「……」
ふん、と息をつく森崎。
言葉を返すことはない。
「あん時、お前があっさり話を蹴ったのも……蹴ったんだよな? まあ当然だとは言ってたぜ。
今の時点で、しかもあの要求でザクロイドが用意できる対価は、お前の立場じゃ大した益がねえ。
実は交渉の材料がありませんでしたの、なんて笑ってやがったよ」
「……何だそりゃ」
「ま、そんな顔すんなって」
森崎の渋い顔に、ジーンが破顔する。
「直感だか計算だか知らねえが、あれで顔繋ぎの印象は悪くなかったってことみたいだぜ。
俺としちゃ、単に面倒を避けただけって札に銀貨一枚だがよ」
悪戯っぽく言うジーンに、森崎は―――
87 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/10(土) 13:21:19 ID:/ZNkLYhM
*選択
A「……さてね」 煙に巻く。
B「俺の勘も捨てたもんじゃねえな」 勘だという。
C「ま、そんなとこだろうとは思ってたよ」 計算だと主張する。
D「大当たりだ。ほれ、持ってけ」 銀貨を取り出す。
森崎の行動としてどれか一つを選択して下さい。
その際【選択理由】を必ず付記していただくようお願いいたします。
期限は『11/10 24:00』です。
******
こんな感じで10月はあっさり目に過ぎていきます、といったところで
まだ早い時間ではありますが、本日の更新はこれまでとさせていただきます。
お付き合い、ありがとうございました。
それではまた、次回更新にて。
88 :
◆W1prVEUMOs
:2012/11/10(土) 15:20:27 ID:x6/rndoU
B
勘ピューターのスキルがゲット出来れば有利かもと思い
89 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/10(土) 21:14:57 ID:???
B傭兵が最後に頼るのは勘と言うか嗅覚ですからね。
90 :
◆9OlIjdgJmY
:2012/11/10(土) 23:59:09 ID:???
A まあ実際、勘でも計算でもなく、正直な心情喋っただけですし。
91 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:26:17 ID:???
皆様、ご回答ありがとうございます。
それでは早速、
>>87
の選択については……
>>90
◆9OlIjdgJmY様のご回答を採用させていただきます!
ですよねー、ということでズバッと斬っていただきましたw
CP3を進呈いたします。
>>88
スキル名:勘ピューター Lv1
種別:パッシブ
消費ガッツ:-
効果:行動判定の際に! numnumダイスを振り80以上が出れば結果が一段階良くなる。
69以下の場合は結果が一段階悪化する。この判定にはCP/EPによる数値加減ができない。
成功時に経験値が加算され、一定値が貯まるとLvアップする。
イベントで『ミスター』と呼ばれる偉大な人物に会うことができれば更なる強化も……!?
……勘をスキルにするのは、やってみると難しいものですねw
しかしながら面白いご提案ありがとうございます。
CP1を進呈いたします。
>>89
はい、危機察知能力は経験に裏付けされた勘、とでもいうべきものですしね。
実際のプレイ上においても、難しい局面で最後にモノを言うのはプレイヤーの皆様の
冴え渡る勘働き、という部分はあります。
92 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:27:43 ID:???
***
A「……さてね」 煙に巻く。
言った森崎の、しかしそれは偽らざる本音である。
結果的にどう評されているにせよ、あの時点で相手方の事情を汲み取って話をしていたわけではない。
さりとて直感と呼べるような閃きに従ったわけでもなく、ただ当然と思える対応をしただけである。
あさっての方を向きながら空惚ける森崎に、今度はジーンが渋い顔をする番だった。
「何だそりゃ」
「はは」
笑った森崎が、ぐ、と背を伸ばす。
凝り固まった筋が伸びていく感覚を楽しみながら、だしぬけに口を開く。
「で、俺はどこに連れてかれてるんだ?」
「お、気づいてたのか」
「当たり前だ」
がたごとと、馬車が揺れる。
「わざわざ城の北側を回りやがって、キャラウェイ通りなんざとうに通り過ぎてるだろ。
もうマリーゴールド近くまで来てるじゃねえか」
「お前、この春にドルファンに来たんだろ? よく分かるな」
「そりゃな……」
と、辺りを見渡した森崎の目に映るのは、閑静な、というよりは独特の静謐に包まれた邸宅街である。
道の両脇にはどこまでも高く続く塀、点在する緑は手入れの行き届いた生垣だった。
猥雑なシーエアーや庶民の家々が立ち並ぶフェンネル、牧歌的なカミツレではありえない光景であり、
かといって城央近くの喧騒や人通りもないとなれば、いかに新参者の森崎といえど迷う余地がない。
93 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:29:03 ID:???
「そもそも、お前が俺なんかを送ってくれる理由、ないだろ」
「まあな」
長い銀髪を夕陽の朱に染めながら、ジーンはどこまでも悪びれない。
口笛すら吹き始めたその横顔に、森崎が小さくため息をついた。
肩から伝わる体温は、それでも秋の夕暮れどきには心地いい。
***
純白の馬車がようやくその足を止めたのは、とある広大な敷地の片隅である。
国立公園の一角のような光景に、森崎がジーンに尋ねる。
「……ここは?」
一体どれほどの広さを持つのだろうか。
面積では森崎たちが日々の鍛錬を行なっている訓練所に勝るとも劣らないように見える。
決定的に違うのは、その質である。
荒れ放題の訓練所とは違い、この敷地には小石一つ見当たらない。
一面に広がった芝生は丁寧に刈り込まれ、整然とその背を揃えていた。
「ここか? ま、ザクロイドが持ってる運動場だ」
「なにィ!?」
愕然とジーンを見やる森崎。
嘘や冗談を言っている顔ではなかった。
「デカいことはいいことだ、ってのがお館様の信条でな」
「それにしたって……」
94 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:31:17 ID:???
見渡す限りの芝生は、夕暮れの下で奇妙な紫色へとその姿を染め変えている。
紫の絨毯は遥か視界の果てまで続くようにすら思えた。
「ハデなことはいいことだ、ってご主人様の信条が出てねえだけマシさ」
「……?」
そう言ったジーンの声音は、どこか苦々しいものを含んでいるように聞こえた。
しかし森崎が何かを聞き返すよりも早く、ジーンがそのなめらかな曲線を描く顎で遠くの方を指す。
「ほら、あっちだ」
「……あれは、リンダ……か?」
陽は既に落ちかけている。
薄暗い視界の中、言われてみれば動く影がかろうじて幾つか見える。
目を凝らせば、件の少女であるようにも思えた。
「……よくは見えねえが、そうなのか?」
「ここからじゃ遠いか。よし、もう少し近づくぞ」
言うが早いか、ジーンは手綱を手近な樹に括りつけると芝生の縁を沿うように歩き始める。
「何やってんだ、置いてくぞ」
「おい、俺には何がなんだか……」
「しっ、ここから先は大声出すなよ。お前に気づかれると話がややこしくなるからな」
「はァ!?」
胡乱げな森崎の態度を気にすることもなく、ジーンが先に歩いていく。
仕方なくその後を追いながら、森崎が問う。
「……で、何がしたいんだ、お前は」
言われた通りに声を潜めるあたりが人の好さというものであっただろうか。
95 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:33:04 ID:???
「一度、見といてほしかったんだよ」
「あ?」
「天才ってやつを、さ」
何を、と問いを重ねようとした森崎の耳に、そのとき飛び込んできたのは男の声である。
森崎の無論知らない、しかし妙に耳に馴染んだ声音。
怒号だった。
それも、感情に任せたものではない。
相手の精神にどう響き、どう動かすことができるかを計算し尽くした大喝。
「……教練か」
「ああ」
聞き覚えがあるのも当然である。
それは森崎自身もまた毎日のように発している種類の声だった。
叩き込む、という言葉の意味を、身体のみならず精神にも浸透させるための大音声。
あるときは限界に近い疲労から半ば強引に奮い立たせ、あるときは無駄な反骨心や自尊心を打ち砕いて
無意識のレベルにまで機械的な反復を刷り込む、ほとんど人格の改造に近いそれは、
日常に生きる人をいくさという非日常へと適応させるための儀式である。
人が己で定めた枷を打ち壊し、環境が厳格に要求する新たな枠をその首に嵌めてやって初めて、
多くの人間は情動の外側で人を殺せるようになる。
裏を返せば、そうでなければ大多数の人は、人の外側に出られない。
「―――、―――ッ! ―――!!」
そして今、人をそうでないものに変えるための声音をその身に受けているのは、一人の少女である。
96 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:36:02 ID:???
暮れゆく空の色を写し取って紫色から群青色へと変わりゆく芝生の中に、
ぽっかりと穴の開いたように赤土のトラックがある。
その赤土とほとんど変わらない色に染まって倒れ伏すのが、リンダ・ザクロイドだった。
細い身に纏った薄い練習着も、そこから伸びる白く長い手足も、後ろできつくまとめられた長い髪も、
そのすべてが土に汚れて酷い有様である。
流れ出す汗は土を泥に変え、べったりと全身に貼り付けている。
負けいくさで踏み躙られ、打ち棄てられた屍の如き、それは姿だった。
怒号が、響いた。
鞭に打たれたように屍がゆらりと立ち上がり、怒号の方を向く。
少女の側に立つのは、数人の男たちである。
いずれも一目、鍛錬に鍛錬を重ねたことが分かる体つきをしていた。
彼らの顔には、一切の緩みも余裕もない。
厳しい顔つきで何かを話し合うと、中の一人が少女に向けて声をかける。
少女が、頷いた。
その拍子にほつれた前髪を伝って垂れた汗の、沈みゆく陽に照り映えるのが、
不思議と森崎の目に映った。
「―――」
少女の表情にも、先日森崎が見たような悠然とした笑みは、どこにもない。
息を切らし苦痛に歪み、それでも俯かず、射殺すような目をぎらぎらと光らせて、
気高さを放り捨て優雅さの欠片もなく、それでもただ、真摯に。
少女は、立っていた。
「……」
「あれが、リンダ・ザクロイドって女だ」
ジーンが、ぼそりと告げた。
その視線は横に立つ森崎には向けられず、真っ直ぐに少女を見据えている。
97 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:37:03 ID:???
「他人の事情に斟酌しねえ。世間知の中で変に賢しくなっちまっていかすかねえ。
手前勝手に相手を振り回して省みねえ。嫌な女さ」
女、とジーンは口にした。
おそらくは一回り以上も歳の離れた少女を、女と評してジーンは続ける。
「それでもオレは目が離せねえ。どうしたって、あのお嬢さんから目が離せねえ。
恩じゃねえ。義理でもねえ。ただ見ていてえから目が離せねえ」
「……」
「ほとんど惚れちまってんのかもな、ハハッ」
最後は冗談めかして言葉を切ったジーンに、しかし森崎は愛想笑いを返さない。
ジーンが、やがて森崎を横目でちらりと見やり、固めた拳で軽くその胸を叩く。
「今日、お前を連れてきたのに深い意味はねえよ。ま、嫁の自慢みてえなもんだと思ってくれや。
お前がこの先、あのハンナってのとどう関わっていくかも知らねえしな。……けどよ」
間は、呼吸一つ分。
「お前とはこれっきりになる気がしねえんだよ。いつか『こっち側』にくる目だって、
まあ、なくはねえと睨んでる。……俺の、当てにならねえ勘だがな」
今度こそ曇りなく、にかりと笑ってジーンがそう言うと、トラックの方へと目を戻す。
「……おっと、最後に通しで走るみたいだな。折角だ、しっかり見てってくれ」
無理やりに連れてきておいて折角だも何もないものだ、と苦笑しながら、しかし森崎の目は
スタートラインへと歩む少女に吸い寄せられていく。
競技者というものは、とその背を見ながら、森崎は思う。
競技者というものは誰しも、その戦場に立つとき、同じ空気を纏うのだろうか、と。
少女の後ろ姿はそれほどに、ハンナのそれと重なって見えたのだった。
98 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:39:06 ID:???
******
エントリーNo.1
リンダ・ザクロイド
基礎値:122
特性:不明
スキル:女王の威風(一位をキープしている際、ダイスを10プラスする)
PBスコア:947(D25.11 スポーツの祭典 本戦)
***
99 :
異邦人
◆ALIENo70zA
:2012/11/13(火) 19:40:07 ID:GHuJRN6Y
***
★
*スタート
セクションスコア1= 122*{1+(! numnum/100)}
★
*コーナー1
セクションスコア2= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}
★
*バックストレート1
セクションスコア3= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}
★
*バックストレート2
セクションスコア4= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}
★
*コーナー2
セクションスコア5= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}
★
*ホームストレート
セクションスコア6= 122*{1+(! numnum +【女王の威風10】/100)}
★
※★ごとにそれぞれ、 ! と numnum の間のスペースを消して数値を出して下さい。
00は100として扱います。
***
100 :
さら
◆KYCgbi9lqI
:2012/11/13(火) 19:43:50 ID:???
★
*スタート
セクションスコア1= 122*{1+(
56
/100)}
★
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