キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【影の役者】鈴仙奮闘記30【天才の相棒】

1 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/06/29(月) 22:01:33 ID:???
このスレは、キャプテン森崎のスピンアウト作品で、
東方Project(東方サッカー)とのクロスオーバー作品です。
内容は、東方永夜抄の5ボス、鈴仙・優曇華院・イナバがサッカーで師匠を超えるために努力する物語です。
他の森崎板でのスレと被っている要素や、それぞれの原作無視・原作崩壊を起こしている表現。
その他にも誤字脱字や稚拙な状況描写等が多数あるかと思いますが、お目こぼし頂ければ幸いです。

☆前スレ☆
【レイセンガ】鈴仙奮闘記29【タダシイヨ】
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1432654054/
☆過去ログ・攻略ページ(キャプテン森崎まとめ@Wiki内)☆
http://www32.atwiki.jp/morosaki/pages/104.html

☆あらすじ☆
ある日突然幻想郷にやって来た外来人、アラン・パスカルと中山政男との出会いにより、
師匠、八意永琳に並ぶ選手になると決心した鈴仙・優曇華院・イナバ。

全幻想郷代表選抜大会で活躍し、代表メンバーの一員となる事を夢見てきた鈴仙はある日、
自身が『プロジェクト・カウンターハクレイ』のキャプテン候補に選ばれている事を知る。
それは霊夢や紫達幻想郷に敵対し、以て幻想郷の価値観を覆すという壮大な計画。
更に鈴仙は、全幻想郷代表の下部組織、『リアル・幻想・セブン』の一員として、
乱心した八雲紫と幻想郷を救って欲しいと紫の式・八雲藍から懇願された。

幻想郷を変える為に戦うか、幻想郷を守るために戦うか。そう思い悩む鈴仙の心の隙を突く悪しき者もいた。
それは『プロジェクト・カウンターハクレイ』と『リアル・幻想・セブン』との争いに乗じ漁夫の利を狙う第三勢力。
聖徳ホウリューズの一員にして、『ハイパーカンピオーネ』計画の一翼を担う天性の詐欺師・岬太郎だった。

試合開始前、岬は鈴仙と同じFWの相棒・因幡佳歩の疑心を巧みに利用し、チーム内における不和を演出する。
それは鈴仙により破られ失敗に終わってしまうが、しかし、それでも尚聖徳ホウリューズは強かった。
観客扇動に一芸特化選手、特殊戦術の使用。あらゆる手に苦しめられるルナティックスだったが、
前半終了間際にパスカルが覚醒して1点をもぎ取り、試合は1−1の同点に。
そして迎える後半戦。影の役者がひしめく全幻想郷選抜大会を勝ち抜くのは一体――。

644 :森崎名無しさん:2015/08/14(金) 01:43:54 ID:???
乙でした!
地味に陸の成長が半端ない気がする。

645 :森崎名無しさん:2015/08/14(金) 01:46:40 ID:???
森崎並とはいかんが、補正選べる必殺技が増えたことの強みだな。
ぶっちゃけ本編のもライトニングタイガー防げるほど強いし...

646 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:31:46 ID:???
こんばんは、無判定ですが更新します。
東方紺珠伝がとうとう発表されましたね。
私はコミケに行くほどの余裕は無いのでまだゲットしてないですが、気になって早速キャラや曲のネタバレを見てました。
曲凄い良かったです。1〜3面も良かったのですが、4面以降は本当にツボに嵌りました。特に6面の曲がヤバかったです。
あと、やっぱりえーりんは凄いと思いました(小並感)

>>644
乙ありがとうございます。
今回の陸は本スレWY編相応の実力+必殺空クリアを身に付けた感じですね。
>>645
本編からして雷斬脚で威力83出せてますし、必殺クリアくらいあれば、
森崎ゲルティスミューラーヘルナンデス若林には及ばずとも、
エスパダスやドールマンクラスのGKには充分並べると思います。

647 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:33:15 ID:???
実況「決まった、ゴール!! まず先制点を挙げたのは博麗連合!
魔理沙選手を中心とした猛攻の末、霊夢選手が見事なオーバーヘッドキック……いえ!
『巫女サマーソルト』で紅魔のゴールを奪いました!
1−0! 前半6分で博麗連合が1−0でリード!
やはり紅魔はこのまま、博麗連合の圧倒的な総合力に敗れてしまうのでしょうか〜〜!?」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「す、すげぇえええ!」「人間がどうやったら、あんな空高く飛べるんだ!?」「れーいーむ!」「れーいーむ!」

パスカル(観客席)「ただのオーバーヘッドであの威力か。
キリサメマリサの高低隙の無い大砲は勿論厄介だが、彼女のねじ込みにも要注意だな……」

霞(観客席)「データが出ました! さっきの霊夢さんのシュートは高度5、威力58、誤差補正12です!」

てゐ(観客席)「? 高度と威力は何となく分かるけど、誤差補正って何?」

霞(観客席)「えっと。最終威力を出す際に、打ち出した時のコースとか蹴り方とか敵の位置とか。
色々な要素を加味して加えられる補正値の事です。
基本は6か7位で収束するんですが、今回は理論上最大値の12が出ましたね……。
普通、誤差補正で最大値が出るのは36分の1程度なのですが、霊夢さんは絶好調みたいです」

ウサギC(観客席)「(! dice + ! dice)のことだよね〜」

霞(観客席)「雰囲気無くなるから言わないでよ、Cちゃん!!」



***

648 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:34:55 ID:???

魔理沙「……くそっ」

数多くのシューターによる乱れ撃ち。一流のゴールキーパーをも崩し得る主砲。
そして、絶対的なトップ下による完璧なゴール。
全ての者が理想的だと頷ける筈のゴールを前に、しかし博麗連合のストライカーは納得していなかった。

魔理沙「……(また、決まらなかった……。小町にもアシストして貰ったのに、また……!
しかも、そのミスをまた霊夢に尻拭いして貰って……。私、主人公のクセにカッコ悪すぎだろ)」

魔理沙はこの時、『ブレイジングスター』が必ずや紅魔のゴールを撃ち抜くと確信していた。
――いや、確信するよう努力していた。
自分は『ファイナルスパーク』が無くとも、博麗連合のCFであり幻想郷きってのFWであると。
つまり、今の自分は「まだ」、長年来の親友とも並び立てる存在であると。そう信じていたかった。

魔理沙「(確かにレミリアの奴も目が高い。あの陸ってのは間違いなく一流クラスのゴールキーパーだよ。
だけど、森崎や萃香に敵う程の一流じゃない。あの程度、私は一人でぶっ倒せないとダメなんだよ……!
今みたいに霊夢に助けて貰っちゃ、ダメなんだよ……! やっぱり、『ファイナルスパーク』が無いとダメなのか……?)」

これまでの試合でも、自分は『幻想郷きってのFW』に相応しい活躍をしていない自覚があった。
同格のライバルだった筈のレミリアには大きく水を開けられ、
ゴール数ではレミリアの妹や案外大したことない射命丸にも負けて。
単純なシュートの威力では、レミリアは勿論、勇儀や幽香などの古豪に敵わなくなってきていて。
しかも最近では、自分とは正反対なヘタレFWの鈴仙が、かつての自分の位置に就こうとしている。
方や自分は、苦労して新必殺シュートを編み出しても、それは自身の寿命を引き換えにして放つ代物だった。
……そんな背景があったからこそ、今の何でもないシュート失敗を、魔理沙はひどく気にしていた。

649 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:37:24 ID:???
霊夢「(……魔理沙のやつ、やっぱし不満そうにしてる)」

そして霊夢は当然、魔理沙がそうした苦悩を抱いている事は知っていた。
知っていたし、友人としてどうにかしたいとも思っていた。
――しかし、元来他者との深い関わりを好まぬ(知らぬ?)霊夢は、少し不器用でもあった。

霊夢「……あのね、魔理沙。今の局面は別に悪く無かったと思うわよ。
大体、シュートが入る入らないってのは運なんだし、この位気にしない方が……」

霊夢は自分なりに優しさを籠めた言葉で、魔理沙に働きかけたつもりだった。
しかし、同格だと思いたい友人から為された同情は、魔理沙の心を更に惨めにしただけだった。
だから……彼女の口から思いがけずこうした言葉が零れてしまう事も、ある意味では仕方なかった。

魔理沙「――ふん。随分と攻撃的なトップ下様だな、おい?」

霊夢「……え?」

魔理沙「お前はさっき、ねじ込みに備えてPA内に居たようだけど、
今の局面、レミリアがクリアに成功して中盤を省略される可能性もあっただろ。
もしそうなっていたら、お前のせいで点を取られてたのかもしれないんだぞ!
お前が良いとこどりをしたいって前に上がったせいで、私達はリスクを負わされたんだ!」

魔理沙は苛々と霊夢の判断ミスを詰る。そこに魔法使いらしい論理性は無い。
単に彼女は、自分自身への怒りを霊夢に転嫁しているだけだった。
そして、魔理沙はそこまで分かっているにも関わらず、口から毒を吐かずにはいられなかった。

魔理沙「最初のプレーだってそうだろ? お前は色々めんどいとか言ってるけれど。
実際は自分が居ないとこのチームは。いや……この幻想郷は成り立たないだとか!
天才の自分が凡人共を導いてやらなきゃだとか思ってるんだろ!」

霊夢「……魔理沙。私が凡人を導くなんて面倒な事、する訳ないでしょ?
お金積まれたらどうなるかちょっと自信ないけど。まあとにかく、ちょっと落ち着き――」

650 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:39:57 ID:???
まくしたてるように、これまでの不安を言葉にしていく魔理沙。
霊夢は最初、そんな魔理沙を止めようと思っていたが……不意に発した魔理沙の一言が、
霊夢の希薄な感情に火を付けてしまった。

魔理沙「落ち着いてられるかよ。こんな蛇女がトップ下のチームでさ!
どうせお前は、私みたいな才能の無い無能な奴を無理矢理隣に置いて、優越感に浸りたいだけなんだろ。
――前に言ってた『友達』なんてのは方便で、結局は博麗の巫女である自分の引き立て役が欲しかった……」

霊夢「……!」

―――ぱちんっ。

霊夢「――そんな訳、無いじゃない。ばっかじゃないの……!」

クルッ。スッ……。

歓声に沸くスタジアムが、乾いた音を聞いて静まった。
怒り心頭にセンターサークルへと戻る霊夢と、惚けたように立ち尽くす魔理沙を交互に見比べ、
歓声はたちまちどよめきに変わった。
実況が霊夢と魔理沙の仲たがいをセンセーショナルに報じる中。
既に仲間内での打ち合わせを終えて、キックオフの準備を終えていたレミリアは霊夢を嘲笑する。

レミリア「いやぁ、若いって良いねぇ。私も後485歳くらい若かったら、あんたらの輪の中に入れたのに」

霊夢「勘弁してよ。面倒なのが二人になったら、流石の私も面倒を見切れないから」

霊夢は辛うじて、自分よりも首一つ二つ程背が低いレミリアに対して皮肉を言ってのけた。
レミリアはニヤリと笑って、上目づかいに言い放った。


レミリア「本当だったら仲直り出来るよう、パチェか咲夜辺りに場を取り持つよう命令してるトコだったけど。
貴様等の心の弱さが生んだ不和――我らが勝利の為に、精々利用させて貰うぞ?」

651 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 00:44:37 ID:???
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
明日は大目に更新できればと思っています。
皆様、本日もお疲れ様でした。

652 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 07:37:17 ID:???
ストライカーは点を取りたいんじゃ・・・自分でゴールを決めたいんじゃ・・・
それは意地なんじゃ・・・分かってくれ霊夢・・・

ところで魔理沙が地獄行きしそうなんですが

653 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 07:57:23 ID:???
この魔理沙は後々セーヌ川ダイブをかましてしまいそうだ……


紺珠伝みたいに新作が出ると物語にも微修正を加えたりしますか?


654 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 13:05:53 ID:???
なんか魔王の時みたいになってる。
なんで劣等感覚えるキャラにどこもなってるんだろうね。

655 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 13:31:30 ID:???
努力を惜しまないからじゃない?

656 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 17:55:56 ID:???
こんにちは、更新をしていきます。

>東方新作について
紺珠伝については、微修正程度だったらあると思いますが(キャラが登場したり、敵チームにスポット参戦するなど)
大筋だけは変えないようにしたいと思っています。
新作では永琳や鈴仙と深い関係がありそうなキャラが出て来るみたいなので、絡みのあるシーンは作っていきたいですね。

>>652
霊夢はその辺りの気持ちをあんまり理解していない…訳では無いけれど、
他人の気持ちを何となく察するのに慣れてないようなイメージがありますね。
魔理沙まで地獄に行くと、地獄が飽和してしまいそうなので多分なんとかなりますw
>>653-655
正直に言って、某スレの魔理沙像をかなり強くイメージしています。
また、強靭な精神を持つ森崎と敢えて対比している所もあります。
内心強い劣等感を覚えつつも、それを普段は臆面にも出さず努力を重ねるというのが魔理沙だと思っていますが、
その『普段』が見えないと、ただ鬱屈してるだけなキャラクターに見えてしまうかもしれませんね。
この辺りの描写は、今後予定している、鈴仙との絡みでも出していきたいと思っています。

657 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 17:57:17 ID:???
ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!

実況「先ほど1点のビハインドを許した、紅魔スカーレットムーンズのキックオフで試合再開です!
スカーレットムーンズ、まずはボールをトップ下のパチュリー選手に預け、
手堅くボールをキープして攻め時を見計らっている様子!」

パチュリー「(相手が浮足立った状況の今、こっちは逆に焦らして様子を見るのが吉ね。それに……)」

魔理沙「くそっ……! このボール死ぬまで借りてくぜ、パチュリー!」

タッ、ズザアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

――シュンッ! シュパッ!

魔理沙「……ちっ。お得意の『芸術的なドリブル』か!」

パチュリー「――生憎と、そうカリカリした人間の小娘に分け与えてやるだけの叡智は、持ち合わせていないけど?」

霊夢「馬鹿ね魔理沙。 だからここは一緒にタックルに行こうって言ったのに……!
ええいっ、食らいなさい! 『パスウェイジョンニードル』ッ!」

バシュッ! ズバアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

――クルルルルッ…バッ、バババッ! …スパァァッ!

パチュリー「腰が浮いているわよ。博麗の巫女が、情けない」

霊夢「……今のは『華麗なドリブル』かしら。中々やるじゃない」

658 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 17:58:26 ID:???
パチュリー「(――幸いにも。一対一ならば、私は霊夢や魔理沙が相手でもボールキープで優勢に戦える余裕がある。
いや、私だけじゃない……)――レミィ。後は任せたわ」

バシュウウッ! パシッ。

レミリア「ふん、ご苦労だったなパチェ。後は真打の私に任せなさい」

アリス「吸血鬼と言うのは、どこまで傲慢な種族ね。もう勝った気でいるのかしら?」

衣玖「私は私の仕事をこなすのみ。その仕事には、貴女の足止めも含まれています」

レミリア「ハ。傲慢だって? 私はこれでも、謙虚な吸血鬼として界隈では有名なのよ。
だって、あんた達のような取るに足らない雑魚が相手だって……!」

バッ! グワァァァァッ!

レミリア「――こうやって、全力を以て叩き潰してやってあげてるんだからね!
食らいな雑種共! 紅魔の行進、『スカーレットマーチ』だ!」

ドンッ! ――ドガガガガガガガガ!! バギイィイッ! グシャァァァッ!

アリス「くっ……!」

衣玖「ふ、吹っ飛ばされるのは仕事には無かったのですが……あーれー」

実況「紅魔スカーレットムーンズ! 今度は試合開始時と打って変わって中盤を支配しています!
パチュリー選手とレミリア選手。霊夢選手と魔理沙選手にも劣らない紅魔のゴールデンコンビが猛威を振るう!
先ほどの喧嘩が原因か、イマイチ連携しきれない霊夢選手と魔理沙選手を差し置いて、
じりじりとラインを上げて、博麗連合のゴールを脅かします!」

659 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 17:59:26 ID:???
森崎「チッ、何喧嘩してんだよあいつ等! 幻想郷の選手にゃプロ意識ってモンが無いのか!?」

天子「ないでしょ。だって私らプロじゃないし」

中里「……今更愚痴を言っても始まらぬでゴザるよ、森崎。 それに――敵は今や門前へと来たりっ!」

中里がそう叫ぶと同時に、森崎は怒りの矛をスッと収めて前方に視線を戻す。
そこには、先ほどまで攻勢を伺いボールキープに努めていたスカーレットムーンズの前線メンバー
――レミリア、パチュリー、フランドールの三名がバイタルエリアへと押し寄せていた。

パチュリー「(……試合は前半14分。アクションを起こすならば、今ね)……レミィ、行くわよ!」

レミリア「了解。フランも上がってなさい! まずはアンタに撃たせてあげるから」

サッ……。

フラン「(あのサインは、たしか……アレだったわね)――フフッ、待ちくたびれちゃったわ、お姉様!
私、早く博麗連合のゴールを粉々にしたいわぁ!」

ダッ!

実況「――パチュリー選手はボールを持ったまま、博麗連合のサイド深くへと切り込んでいきます!
そして、フランドール選手をペナルティエリア奥、ゴールの真正面へと向かわせました。
一方、レミリア選手はねじ込みに備えてか、やや離れた位置に陣取ります。
この位置取りからして、まずは同点に並びたいスカーレットムーンズ。
ここはフランドール選手の大型シュート・『495年の波紋』でゴールを狙う算段でしょうか!」

中里「そうはさせまい! 忍法……」

バシュウウッ! ギュウウウンッ! ――スカッ!

660 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 18:00:43 ID:???

中里「ぬ、ぬうっ……! 少し、遅かったでゴザるか……!」

パチュリー「――今のは肝が冷えたわ。もし貴方が一秒早く跳んでいたら。
私のパスですらも弾かれていたでしょうね」

実況「中里選手は自慢の身軽さを活かしてパスカットに向かいましたが……!
しかし、これは後僅かでパチュリー選手の出したセンタリングに届かない!
ボールは予想通り、フランドール選手の頭上へと渡ります!」

萃香「えへへっ、来たね吸血鬼妹! ひっさしぶりに私の『ミッシングパープルパワー』が火を吹くかね、こりゃ。
それとも――私の四天王奥義の出番かな?」

天子「ちょっと、私を忘れないでよね。私はブロックもかなり固い!」

玄爺「………」

森崎「(……………フランドールのシュート、か。あれは俺も見た事はあるが確かに中々のシュートだったな。
あれは俺でも、全力じゃないと完璧にキャッチするのは難しい。
弾くだけなら『がんばりダイビング』でも可能だが……レミリアがねじ込みに来ているのも不安、材料……?)」

フラン「よーっし、いっくよーーーっ!」

グワァァァァァァァァァァァアアアアアッ!

実況「で、出た〜〜! 出た出た出た〜〜〜!
フランドール選手が高いボールに動きを合わせて右脚を鞭のようにしならせ飛び込んで行った〜〜!
これは間違い無く、自慢の『495年の波紋』の体勢! 博麗連合、ここで守れるか〜〜!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

森崎「(………いや。違うな。――何かが、おかしい)」

661 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 18:02:58 ID:???
森崎「(……紅魔の妹は狂気の妹。普通に考えれば狂気に任せてシュートを撃つに決まっている。
……筈だが、こいつ。――妙に聞き分けが良すぎないか……?)」

――フランドールのシュートに対し、観客が騒ぎ、実況が煽り、仲間選手が警戒する中。
この試合ゴールを任されていた森崎は、スローモーションになる光景の中で、
自慢の小賢しい頭をフル回転させていた。

森崎「(……それだけじゃない。フランドールは低空からのシュートを得意とする筈なのに、
パチュリーが上げたさっきのセンタリングは高すぎる。
あの中里をも退けるレベルのパスを撃てる奴が、こんな雑なミスをする訳がねぇ)」

レミリア「(――我ら紅魔は如何な相手だろうと全力で叩き潰す。
けれどその『全力』とは、常に正々堂々公明正大、馬鹿正直で猪突猛進とは限らないのよ……)」

森崎「(そして……アイツの。レミリアの微妙な表情の動き! こいつは間違いねぇ!)
……萃香! これは罠だ! クリアに向かえーーーーーーーっ!」

萃香「へ? クリア!? ……まぁ、別に私の取り柄はブロックだけじゃないけど……さっ!」

バッ! グワアアアアアアアアアアッ……!

視界の隅で、レミリアがほんの僅かに唇を歪ませたのを見て森崎は確信した。
だから、自信を持って、前方の萃香に対してそう指示を出せた。

フラン「え? こ、ここで……ここで来るの!?」

萃香「良く分からんが、お嬢ちゃん。この私が競り合うからには、タダでは帰さないよ!」

グッ! グググッ……ポーーンッ!

662 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 18:04:26 ID:Oahb6gRA
そして、完全に想定外な萃香の動きに対し、フランドールは焦りに動きを強張らせた。
それが隙だと言わんばかりに、萃香が容赦なく空中でフランドールの華奢な身体にチャージを浴びせる。
無論、彼女とて吸血鬼であるため、如何に鬼の四天王が相手であっても一方的にやられるだけでは無かったが。
――しかし、虚を突かれた事もあり、ボールを後方へと零してしまった。

レミリア「……ほう。良く分かったな、私達の狙いが」

森崎「何勿体ぶってんだよ。こんなの、サッカーの世界じゃ常識だろうが」

レミリアは低いボールに動きを合わせつつも、心底驚いたように目を丸くして森崎と対峙している。
そんな彼女を森崎は嘲笑った。

森崎「フランドールはあくまで囮。本当は高いボールをスルーさせて、
俺が体勢を崩した所を、お前が決めるつもりだったんだろ?
あの狂気の妹がかくも献身的なプレーをする訳が無い、という心理的ミスリードのつもりだったのかもしれないが。
ハッキリ言って、バレバレだ。ミステリー小説だったら三流、いや……三十流もいいトコだぜ」

グワアアアアアアアアアアアアアアッ……!

レミリア「――ならば今度、パチェに頼んで古今東西のミステリー小説を掻き集めて貰おうかな。
だが、それはそれ、これはこれだ。……狙いは外れたが、ここで私がシュートを決めれば同じだろう?」

森崎「本気でそう思ってるんだったらおめでたいぜ。だったら俺を止めてみろ」

レミリア「ハハハ。ただの人間が、吸血鬼を前にしてその余裕か。
紅霧異変の時に我が館へと特攻して来た、どこかの白黒を思い出す」

森崎「俺をあんなヘタレと一緒にすんな。それよりも俺は心配だぜ。
お前のそのカリスマぶった態度が、俺のせいで粉々にブレイクしてしまう事がな!」

663 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 18:10:09 ID:???
実況「あ……ああ〜〜〜っと! これはどうした事でしょう!
フランドール選手へのセンタリングは、実はシュートでは無くレミリア選手へのスルーが目的!
しかしそのスルーにいち早く察知した森崎選手により、その狙いは外れた!
ですが……ですが、脅威の身体能力で飛びついたレミリア選手が諦めず、低空でのダイレクトシュートに向かっています!
そして……今! 両雄が真正面でぶつかりあった〜〜〜〜〜!!」


レミリア「――紅く焼き尽くしてくれる、『ダイレクトレッドサン』ッ!」

森崎「――ふざけろ、三下! これが俺の……『がんばりセービング・改』だッ!」

……バッ、シュウウウウウウウウウウウウウッ!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
                           ―――バァァァァァァァァァァアッ!
レミリア「HAーーーーッ!」                  森崎「うおおーーーーーっ!」

……かくして、紅帝は初めて狂王と衝突した。
ダイレクトで放たれた事で威力を増幅されたマスターオブレッドサンが、
森崎のどてっぱらをぶち抜こうと加速し燃える。
その勝負は互角であるかにも見えたが――だがしかし、実は違った。
レミリアが低空シュートに向かい、森崎が全力でのセービングに出た時点で、
この両者にはある程度の実力差があった。そして、今回は――その実力差通りの決着となった。
……すなわち。


ゴオオオオッ………――――ガ シ  イ    イ     イ       イ      ッ!


レミリア「………ッ!」

森崎「……取ったぜ。お前の負けだ、レミリア・スカーレット」

664 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/15(土) 18:11:39 ID:???
……と、言ったところで一旦ここまでです。
続きは深夜までには更新します。

665 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 18:37:19 ID:???
まあジュニアユース直後の森崎のセービング値は明らかにおかしいからなw

666 :森崎名無しさん:2015/08/15(土) 18:50:36 ID:???
一人だけ別世界に足を突っ込んでた状態だったからなぁ・・・

667 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 01:59:30 ID:???
更新を再開します。
>>665-666
流石にJr.ユースそのままだったら無理ゲーですので、
あれよりは弱くなってますが、それでもこれまでのGKと比べて規格外な強さになってます。

668 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:01:44 ID:???
ワッ……ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?

観客席から戸惑いも籠った絶叫が鳴り響く。しかし、これも無理のある事では無かった。
――燃え盛る太陽のシュートは、森崎の掌中に完全に収まっていたからだ。
森崎有三は、幻想郷最高のストライカーであるレミリア・スカーレットに対し……完勝した。

実況「……す、凄い……! これは夢でも見ているのでしょうか!
確かに、確かに森崎選手は前の試合でも星熊勇儀選手が即席で生み出した
倍速二回転大江山嵐――『零歩必殺嵐』を防いだ実績もあったため、
決して今のプレーも不思議ではありません! ですが……やはり何度も見ても凄い物は凄い!
更に凄い事は、この森崎有三という選手は妖怪でも神でも亡霊でも何でもない!
何の力も持たぬ、ごく普通の人間なのです! 人間が、鬼や吸血鬼に勝利したのです!!」

観客「森崎って奴、そんなにすごかったのか!?」「俺、守備嫌いなFWだとずっと勘違いしてた!」
「勇儀姐さんだけじゃなく、レミリアさんのシュートも防ぐなんて……」「もっりさき!」「もっりさき!」

中山(観客席)「少し厳しいシュートだったが……森崎ならばあの程度の水準のシュートは、
これまでも真正面から受けて来ている。勝利は順当だったろう。
無論、あいつでも完璧に防げるかどうかは五分程度だっただろうが……。――ここは、あいつの勝負強さが出たな」

鈴仙(観客席)「(中山さん、嬉しそう……やっぱり森崎君と親友なだけあるわねぇ。
しかし、それにしても……あれが森崎有三! 改めて、本当に規格外のGKだわ……)」

輝夜(観客席)「(えーりんを呼んでも防げる自信が無いわね……アレ。決勝に来たらどうしよ)」

永琳(観客席)「……威力として、レミリア・スカーレットの『ダイレクトレッドサン』は、
星熊勇儀の『零歩必殺嵐』に比較して高くない。
怒りによって、その力が増幅されていたという事実を加味してもね」

慧音(観客席)「だが……レミリア・スカーレットは幻想郷サッカー史でも最古参の選手だ。彼女を信奉している人妖も多い。
だからこそ、星熊勇儀のシュートを防いだ事以上に、今の森崎のセービングは驚きに映っただろう」

669 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:03:04 ID:???
レミリア「――サッカーは強い者が勝つんじゃなくて、勝った者が強い。
だから、お前の勝利は偶然じゃなくて運命なんだろう。 ……忌々しいけどね」

森崎「(……こいつ。『アイツ』と同じような事を言ってやがる)――へっ、負け惜しみはそれだけか?」

レミリア「もし私の作戦が嵌ってたら勝ってた。私はダイレクトよりもバイシクルの方が上手い。
運が悪けりゃあんたが普通に負けてた。さっきのシュートはちょっと調子が悪かった。
私は夜行性だからお昼だと眠くてやる気が出ない。新聞の占いが最下位だった。……えっと。後は」

森崎「思ったより多いな……。――ま、吠えてろ。お前が無駄口を叩けば叩くほど、俺の価値は上がるんだからな」

レミリアの超然とした態度に苛立ちながらも、森崎は早速の次の手を考えていた。
勿論、自分がこれから活躍して目立つ為の手である。

森崎「(さーて。そろそろオーバーラップでもするか? それとも寝釈迦ポーズで敵の神経を逆なでしようか?
いやいやそれともゴールバーで懸垂してセーブ力の練習でも始めようか?)」

そしてその手には、一見して奇行にしか見えない……いや、奇行そのものが多々ある。
むしろ奇行じゃない手の方が少なかったりする。
森崎は練習の合間に付け足している脳内の奇行ノートから、とっておきのヤツを取り出そうとして――。


ズキィィッ……!


森崎「……ッ!」


――鋭く走った、自身の腰の痛みによって、その思考は中断された。

670 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:04:35 ID:???
森崎「(くそっ。腰が痛むな……。ま、化けモンクラスのシュートを防いだんだから、しょうがねぇか。
――敵さんはまだまだイケイケだしな。今無理する事でもないだろ)……ほら、天子。やるよ、このボール」

シュッ……。

天子「――フッ……。ここで中里じゃなくて私に来るあたり、天人と忍者のチーム信頼度は違いすぎたみたいね。
いいでしょう。この私の実力、とくと眼に焼き付けておきなさい! 私100メートル走で15秒とか普通に出すし!」

ダダダダダダダダダッ!

先の地霊殿サブタレイニアンローゼスでも感じた、脳髄にビリッと走る瞬間的な腰の痛み。
無意識的に、森崎の思考はこの痛みをきっかけとして、常識的で無難な方向にシフトしていた。
ボール欲しさに今にも暴走しそうなサイドバックの天子にパスを出し、自分はゴールを守る事に専念する。

中里「(……う〜む。いつもの森崎ならばここで無駄に奇行に出たり、
オーバーラップしたりして敵のペースを崩すかと思ったが。ブラジルでの修行で、常識に目覚めたのでゴザろうか)」

そんなゴールキーパーとして至極真っ当な態度に対し疑問を抱く者は当然居ない。
……これまで森崎のチームメイトとして、永らく彼の奇行を目の当たりにして来た中里以外は。
とはいえ、その中里までも、森崎の事情を全て把握している訳では無かったのだが。


***


天子「オラオラオラー、『勇気凛々の剣』でバラバラに引き裂いてくれるわーっ!」

ダッ、ドガドガッ!! バギイイイッ!

美鈴「な、何ですかこの人怖いー!?」

小悪魔「こ、こぁーっ?!」

671 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:06:27 ID:???
実況「森崎選手からボールを受け取った博麗連合の天人サイドバック、
比那名居天子選手は誰にもボールを渡さず、暴力的なドリブルでサイドを抉っていきます!
何という自分勝手で利己的なプレーなのでしょうか! しかしこのスタンドプレーは上手く場に刺さっている〜〜!」

咲夜「……お嬢様にパチュリー様。そして妹様が上がり切った現状、我々の中盤はガラ空きです。
恐らくはそれを狙った、大胆なオーバーラップのようだけど……!」

天子「さーて、どうかしら。仲尼は日月なり、得て踰ゆること無し……ってね。
要するに、天人の存在はあまりにも大きすぎるから、
3回連続で見つめられた程度で、貴女方に推し量れるような存在じゃないって事よ!」

グワァァァアアアアアアアアアアアアッ!!

実況「そして小悪魔選手と美鈴選手と吹き飛ばした天子選手は、必殺シュートの構え!
咲夜選手がメイド妖精と共にブロックへと向かう中、彼女は自信たっぷりの傲慢な表情を変えずに……!」

天子「光栄に思いなさい、地上に這いつくばる小人共!
――この私が直々に……『気炎万丈の剣』で、トドメさすよ!!」

バッ……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
バシュッ!  ……バシュッ、バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

実況「出た〜〜〜! 天子選手得意のパワーショット、『気炎万丈の剣』だ〜〜!
キッチリ九回の爆音を上げながら、紅魔スカーレットムーンズのゴールへと向かって行きます!」

咲夜「……悪くないシュートね。だけど、この程度まで通していて、紅魔のメイド長が務まりますか! 『プライベート……」

バッ! グルウウウウッ……!

咲夜「――スクウェア』!」

バッ……シィィイイイインッ! ……ポムッ。

672 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:08:25 ID:???
実況「お〜っと! ですがここはディフェンスリーダーの十六夜咲夜選手が活躍!
必殺ブロック・『プライベートスクウェア』で天子選手のシュートを完封! 陸選手までボールを運ばせません!」

天子「あ、あんですってぇ〜〜〜! この私のシュートが、キーパーまで届かないだなんて。
荒鷲如きが、貴様の遥か高みに住まう天人様の覇道を邪魔するとは生意気過ぎるわ……!」

ギリッ、ギリギリッ……!

天子「フ……フフ。これで勝ったと思わない事ね……!」

ダッ!

陸「――な、なあ。あの女、逆恨みしててこっち見てて怖いアル……というカ、
なんかアイツが纏う気力が強くなってるような気がするアルけど……」

咲夜「彼女、打たれれば打たれる程興奮するタイプなの。……ああ見えてもね。
だから今も、これまで活躍出来なかった上に、シュートまで容易く止められたという逆境に対して高揚しているんだと思う。
まぁ、それだけならどうぞご勝手に、って話なんだけれど……」

美鈴「あの人、『隠れM』なのか知らないけれど、それで余計にイキイキとプレイしだすんですよね。
それが本当に厄介というか、面倒臭いと言うか。――アイタタ、吹っ飛ばされてお尻が痛いわ……」

小悪魔「でも、これでこっちにボールが渡りました! 咲夜さん、私にボールを下さい。
今からでも『トップスピンパス』で、ボールを前線に上げて見せます!」

咲夜「――そうね。まだ攻めの芽は潰えていないし、
霊夢も1点目までの絶好調は鳴りを潜めている様子。頼むわよ、小悪魔」

バシッ……。

673 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:09:39 ID:???
ボールを奪い取った咲夜はボランチの小悪魔へとショートパス。
少数精鋭の攻撃陣と、タレント不足を数で補う守備陣という、
敢えてアンバランスな布陣を敷いたスカーレットムーンズにとって、
ボランチとして守備と攻撃の楔を果たす小悪魔のポジションは重要である。

小悪魔「(ドリブルも教えて貰ったけれど、あれはほんの付け焼刃。
私にはやっぱりパス一芸しかない。それにしたってパチュリー様にも劣る。
だけど――このパスは私の……紅魔に懸ける想いです!)――『トップスピンパス』よ!」

グワァァァッ、バシュウウウウウウウウウウウウウウッ!
ギュルギュルギュルギュルッ……!

霊夢「……厄介なパスね。アリスが普通に撃ったパス程度の精度はありそう」

小悪魔が前線のパチュリーへと放ったトップスピンパス。その軌道上には霊夢が鎮座していた。
しかし小悪魔はそれを知った上でボールを要求し、パスを放った。
しかし、小悪魔自身、自分のポジションに対し誇りを持っていたし、それに相応しい実力もあったから、
彼女は――周囲の仲間達は失敗を恐れなかった。小悪魔は心の中でこう呟く。

小悪魔「(さっきは普通の人間がレミリア様のシュートを防いでいたけれど。
そうだったら、一介の名無し悪魔が博麗の巫女に勝っても良いじゃないの!)」

……が。現実は物語のように都合良くは運ばなかった。
確かに小悪魔の『トップスピンパス』は、霊夢単独によるパスカットにも匹敵する程の力を持っており、
実際に今回、魔理沙の事で集中出来なかったのか、霊夢は小悪魔のパス軌道を読み切れない様子でいたが……。

674 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:15:13 ID:???
霊夢「――ええい、ややこしい軌道ね。こうなったら……勘で行こうかしら」

バァァァッ! ブウウウ……ッン! ――バチィイッ!

霊夢「――って、あらら。外しちゃった。『ホーミングパスカット』で行けば良かったかしら」

小悪魔「……っ!(――後、少しだったのに……!)」

霊夢は天性の勘で小悪魔のパスの行く先を予想し、結果として初速の遅れのため完全に奪えないでいたが、
それでもボールを再び前方へと零す事に成功していた。

魔理沙「……! ぼ、ボールだ!(『ファイナルスパーク』だ。やっぱり私には『ファイナルスパーク』が無いと……!)」

美鈴「魔理沙さん、目が虚ろですよっ。――『彩光風鈴』!」

バギイイッ! ボーーンッ!

――しかし、博麗連合は博麗連合で、それからが続かない上に、
スカーレットムーンズも決定打を撃てない状況がそこから続いた。
霊夢が前に弾いたボールは魔理沙が競り合いに向かうが、ここは美鈴に敵わない。
衣玖がフォローしたボールは、今度はパチュリーによってカットされるが、
パチュリーは霊夢と対峙し、今度はボールを弾かれてしまう……など。
中盤での小競り合いは試合時間をいたずらに浪費していき、
特に1点のビハインドがある紅魔にとっては苛立たしい時間が続く。

……結果として。アンバランスな戦力差の中生じたこの拮抗が崩れたのは前半も終盤。
32分に、パチュリーが霊夢から弾いたボールを、小悪魔がトラップした時の事だった。

675 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/16(日) 02:16:40 ID:???
……と、言ったところで今日はここまでです。
明日には前半を終わらせ、ハーフタイムに突入できると思っています。
それでは、皆様、本日もお疲れ様でした。

676 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/17(月) 00:34:45 ID:???

ポーンッ、……パシッ。

小悪魔「――き、来た。もう一度、チャンスが」

パチュリー「……時間が無い。そのまま前に出しなさい、小悪魔。
『オフサイドトラップ』の危険はあるけれど、成功率は五分と五分。
私が成功しそうなギリギリの位置をレクチャーするから、そこを狙って」

小悪魔「わ、分かりました。……パチュリー様を信じます!」

グワァァァァァァッ……バシュウウウウウウウウッ!
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルッ!

実況「ボールをフォローした小悪魔選手、今度は長距離のパス!
霊夢選手とパチュリー選手が揉み合った隙を突いて、前線のレミリア選手へと縦ポンだ〜!」

霊夢「……アリス!」

アリス「分かっているわよ、霊夢!」

スッ……!

実況「ですが、元々霊夢選手のワンマンチームでは無く、
それぞれのポジションに一流クラスの選手が勢揃いしている博麗連合は焦らない!
霊夢選手に代わり、第二のゲームメイカーであるアリス・マーガトロイド選手が指揮を執って……!」

677 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/17(月) 00:36:04 ID:???
アリス「(……ロングパス。ゲームを司るパチュリーは霊夢と同じく、
さっきまでの混戦の影響で身動きが取れていない。だったら、ここは……)――皆!」

サッ……!

衣玖「(アリスさんからのサイン。これは……)了解です、ラインを上げましょう」

タッ! タタタタタッ……!

天子「あー、あれね。勝つべからざるは守るなり、勝つべきは攻むるなり……って奴。
あれって、『攻撃は最大の防御なり』ってだけ覚えてる奴が多いけど、
実際は『負けそうな時はちゃんと守っとけ』とも言ってるのよねー」

萃香「何言ってんだ。負けそうな時は飲んで忘れる! これに限るでしょ!」

中里「(拙者は足が速い。ご婦人方と足並みを揃えるよう、少し手加減しなくては)」

玄爺「………」

博麗連合のDF陣は、小悪魔が放ったパスをオフサイドにするという明確な意図で、
兵隊の隊列の如く揃って、最終ラインを大きく上げ始めた。

アリス「(幻想郷にサッカーが流行った時、私は流行に乗り切れなかった。
だけど今は、皆との話題作りの為に研究した戦術がある!
どうかしらパチュリー。今の私のサッカー戦術は、貴女にも負けていない筈よ……)」

森崎「(――脳内で留まっていたアイツの戦術を、実戦化する為に尽力したのは俺だけどな。
自分で教えりゃ良いのに、勿体ぶるから練習に苦労したぜ)」

678 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/17(月) 00:38:31 ID:???

アリスの戦術眼。そして博麗連合の統率の取れた動きは確かに優れていた。
オフサイドトラップの成功率は原則五分五分ではあるが、
今回に限ってはスカーレットムーンズの分が悪い事を、パチュリーは認識していた。
昔のような、理論家で頭でっかちな彼女であれば、ここは素直にアリスの勝ちを認め退くべきシーンだった。
……しかし。

パチュリー「(本にある理論では、ここは攻めるべき局面では無い。
だけど……ここ最近の慌ただしい日々のせいで。私は、何というか……往生際の悪さというか、馬鹿になったみたい。
だって、こうしている今だって、敗北の可能性を考慮せず、勝利の可能性を積み上げる事にしか目が無いのだから)」

厄介な友人の影響か。成長しつつある友人の妹の影響か。
はたまた、自分の事をマスターと頼ってくれる、馬の骨も知らぬお人良しのためか。
パチュリーは、博麗連合の見事なオフサイドトラップを見てもなお、
自分が小悪魔に与えた指示は正しく、それにより、自分達の攻撃は成功すると信じていた。信じる事にした。
だから彼女は、ボールが地面に着くよりも、審判の笛を確認するよりも先に。
チームメイトに対して、こう指示を出す事にした。


パチュリー「――皆、上がりなさい。 ……『ファストブレイク』よ!」


―――パチュリーの号令は、紅魔スカーレットムーンズによる、前半最後の猛攻撃の開幕を告げる狼煙となった。

679 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/17(月) 00:40:24 ID:???
……と、言ったところで力尽きたので、今日の更新はここまでです。前半終わりませんでした…(泣)
明日で時間が取れれば前半戦は終わりそうですが、仕事が忙しいかもしれません(汗)
皆様、本日もお疲れ様でした。

680 :森崎名無しさん:2015/08/17(月) 01:41:50 ID:???
乙です

余計な指摘かもしれませんが、オフサイドは
パスを受け取った時ではなく、蹴った瞬間で判断されます
つまり小悪魔がパスを上げたそのときに、レミリアがオフサイドラインより前にいること
その上でレミリアがプレーに関与したときにオフサイドが取られます
※プレーに関与するとは、パスを受けとることはもちろん、
相手の体や視線を遮ることなども該当するようです

なので、小悪魔がパスをしてから、アリス達がディフェンスラインを上げて、
レミリアをオフサイドの範囲に置いても意味がないのです。
むしろ、レミリアをフリー状態にすることになりかねません。
小悪魔がパスをする前に、ディフェンスラインを上げて
レミリアをオフサイドの範囲に置く必要があります。

逆にパスを上げたときにレミリアがオフサイドの位置にいなければ、
その後ディフェンスの裏に走り込んでボールを受けても、オフサイドになりません。
一方、パスを上げたときにレミリアがオフサイドの位置にいた場合、
戻って博麗のディフェンスを追い抜いてボールを受けてもオフサイドを取られます。

長文失礼しました
この描写を見ると、小悪魔がパスしてから
アリスがディフェンスラインを上げるよう指示を出しているように見えたので
的外れや勘違いでしたら申し訳ありません。

681 :森崎名無しさん:2015/08/17(月) 02:22:04 ID:???
追記

本スレの以下の場面、アルシオンのパスの部分がよく分かると思います。

キャプテン森崎43
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1319375285/37-38/

682 :森崎名無しさん:2015/08/17(月) 03:08:29 ID:???
Xだと受け取ってからオフサイド判定だからね
勘違いしてる人って割と多そう

実際俺も試合やwikiで確認するまでそうだと思ってた

ゲームから入る知識ってあってるのも間違ってるのもあるから大変よ

683 :鈴仙奮闘記 ◆pXM64Uz50c :2015/08/18(火) 00:32:33 ID:9hOAKfHs
更新再開します。
>>680-681
乙とオフサイドについて教えていただきありがとうございます。
すみません、今の今まで完全にボール受け取ってからオフサイド判定だと信じ込んでいました…。
このスレでは、多少の現実との齟齬は『こまけぇことは(ry』で済ませていましたが、
アリスやらパチュリーが恥ずかしい事になるので、今回はちょっと描写を変えたいと思います。
>>682
私のことですね(爆)Wまでだとオフサイド自体無かったですし…。
スレを始めるにあたって、色々試合やらルール説明を見て勉強してたのですが、良く分かってなかったみたいです。
テクモ版キャプ翼風サッカーを中心にしつつも、あまりに現実のサッカールールを無視し過ぎないようにはしたいと思います。


※オフサイドのルールミスを踏まえて。
 昨日更新分のうち、>>676-678を無かった事にして、そこの修正版から更新していきます。

684 :>>676修正版@鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:34:06 ID:9hOAKfHs

ポーンッ、……パシッ。

小悪魔「――き、来た。もう一度、チャンスが」

パチュリー「……時間が無い。そのまま前に出しなさい、小悪魔。
『オフサイドトラップ』の危険はあるけれど、成功率は五分と五分。
私が成功しそうなギリギリの位置をレクチャーするから、そこを狙って」

小悪魔「わ、分かりました。……パチュリー様を信じます!」

タッ……!

実況「ボールをフォローした小悪魔選手、今度は長距離のパスに向け大きく足をしならせる!
霊夢選手とパチュリー選手が揉み合った隙を突いた、レミリア選手への縦ポンが狙いか! ですが……!」

霊夢「……アリス!」

アリス「分かっているわよ、霊夢!」

スッ……!

実況「ですが、元々霊夢選手のワンマンチームでは無く、
それぞれのポジションに一流クラスの選手が勢揃いしている博麗連合は焦らない!
霊夢選手に代わり、第二のゲームメイカーであるアリス・マーガトロイド選手が指揮を執ってサインを出す!」

685 :>>677修正版@鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:35:08 ID:???

アリス「(……ロングパス。ゲームを司るパチュリーは霊夢と同じく、
さっきまでの混戦の影響で身動きが取れていない。だったら、ここは……)――皆!」

サッ……!

衣玖「(アリスさんからのサイン。これは……)了解です、ラインを上げましょう」

タッ! タタタタタッ……!

天子「あー、あれね。勝つべからざるは守るなり、勝つべきは攻むるなり……って奴。
あれって、『攻撃は最大の防御なり』ってだけ覚えてる奴が多いけど、
実際は『負けそうな時はちゃんと守っとけ』とも言ってるのよねー」

萃香「何言ってんだ。負けそうな時は飲んで忘れる! これに限るでしょ!」

中里「(拙者は足が速い。ご婦人方と足並みを揃えるよう、少し手加減しなくては)」

玄爺「………」

博麗連合のDF陣はアリスが出したサインにより、最終ラインを大きく上げ始めた。
これは間違いなく『オフサイドトラップ』――最前線のレミリアをオフサイドライン上に取り残す事を企図した計画的なもの。
その証拠として、彼女達の足並みはまるで軍隊の行進のように綺麗に整っていた。

アリス「(幻想郷にサッカーが流行った時、私は流行に乗り切れなかった。
だけど今は、皆との話題作りの為に研究した戦術がある!
どうかしらパチュリー。今の私のサッカー戦術は、貴女にも負けていない筈よ……)」

森崎「(――脳内で留まっていたアイツの戦術を、実戦化する為に尽力したのは俺だけどな。
自分で教えりゃ良いのに、勿体ぶるから練習に苦労したぜ)」

686 :>>678修正版@鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:36:16 ID:???

アリスの戦術眼。そして博麗連合の統率の取れた動きは、確かに優れていた。
オフサイドトラップの成功率は原則五分五分ではあるが、
今回に限ってはスカーレットムーンズの分が悪い事を、パチュリーは認識していた。
昔のような、理論家で頭でっかちな彼女であれば、ここは素直にアリスの勝ちを認め退くべきシーンだった。
……しかし。

パチュリー「(本にある理論では、ここは攻めるべき局面では無い。
だけど……ここ最近の慌ただしい日々のせいで。私は、何というか……往生際の悪さというか、馬鹿になったみたい。
だって、こうしている今だって、敗北の可能性を考慮せず、勝利の可能性を積み上げる事にしか目が無いのだから)」

厄介な友人の影響か。成長しつつある友人の妹の影響か。
はたまた、自分の事をマスターと頼ってくれる、馬の骨も知らぬお人良しのためか。
パチュリーは、博麗連合の見事なオフサイドトラップを見てもなお、
自分が小悪魔に与えた指示は正しく、それにより、自分達の攻撃は成功すると信じていた。信じる事にした。
だから彼女は、小悪魔がボールを蹴り抜くよりも、審判の笛を確認するよりも先に。
チームメイトに対して、こう指示を出す事にした。


パチュリー「――皆、上がりなさい。 ……『ファストブレイク』よ!」


―――パチュリーの号令は、紅魔スカーレットムーンズによる、前半最後の猛攻撃の開幕を告げる狼煙となった。

687 :ここから今日更新@鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:37:25 ID:???

レミリア「そうだパチェ。あんたも中々分かって来たじゃない! ……それっ!」

バァァァッ、グルウウウンッ!

……グワァァァァァァッ……バシュウウウウウウウウッ!
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルッ!

―――――――ダダダダダダダダッ!

偉そうな上に得意げな女の子の声。
地面が揺れる程の大ジャンプ、そしてムーンサルトで回転させた脚が空を切る音。
……そこからコンマ数秒で、トップスピンが強烈に効いたパスの音。
更に数秒後、大人数がドカドカとフィールドを駆け上がる音。
様々な種類の音が連続してフィールドに響き渡り、その土埃とも合わせて観客達は混乱し逆に静まる。
しかし、彼らが暫くしてフィールドを見ると、その状況は劇的に変化していた。

バシッ! バシッ! バシッ。 ――バシュウッ、バシッ! ポムッ。タタタッ……!

霊夢「……スカーレットムーンズが大挙して上がっている。しかし試合は切られる様子が無い。
――私達のトラップは、どうやら不発に終わったみたいね……」

アリス「……そ、そんな! 確かにあの時。
小悪魔がパスを蹴り出した時、レミリアは間違い無くオフサイドラインの後ろに居た筈なのに……!」

レミリア「バーカ。この私の脚力を舐めて貰っては困るわね。これでも軽く、月を一周できる位には鍛えてあるのよ!
(――突然大声出したパチェと、一気に駆けだした皆に審判が気を取られて無かったら、
 ギリギリオフサイド取られてたかもしれないけど……黙ってよっと)」

688 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:38:58 ID:???
スカーレットムーンズはDF、MF、FW。タレント選手、中堅選手、名無し選手。
その全ての選手が連続のパスワークを繰り返しながら、
ガンガンという音が聞こえて来そうな程に激しくラインを上げて行く。
博麗連合が弄した『オフサイドトラップ』が柔の戦術ならば、紅魔が放った『ファストブレイク』はまさしく剛の戦術。
今回はハッタリも戦術として含めた、パチュリーやレミリアの豪気が勝利を招いた。

レミリア「一旦渡すわ。フランにでも繋げて!」

バシュッ……。

メイド妖精F「はい! ……えーいっ!」

グワァッ、バゴオオオッ!

衣玖「――それっ! ……ああ、ダメでした」

天子「今あんた、手抜いて無かった? 流石に妖精メイドのパスだったら取れてたでしょ」

衣玖「いやーその。何だか脳裏にサイコロを振り続ける男の姿が浮かんでしまい、調子が出なくなって……」

天子「どういう原理よ……」

――そして、前半ロスタイムを迎えるより1分早く、スカーレットムーンズは最高の攻撃チャンスを得た。

689 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:40:10 ID:???
フラン「よーし。今度はちゃんとシュートするんだから!」

バイタルエリアには、今しがたボールを得たフランドール・スカーレット。
狂気を制御しつつある彼女は、真に純粋な瞳で今回のチャンスを心より喜んでいた。


咲夜「(万一敵陣にボールが渡れば、私はそれを直ちに刈り取る。そして……ここで決める)」

そこから後方、ゴールから30メートル程の位置には十六夜咲夜。
もっとも、彼女のロングシュートの威力は距離などに影響しないのだが。


パチュリー「(――『フォトシンセシス』があるとはいえ、正直、最後まで持つか厳しいわ。
だけど――この試合は落としたくない。例えこれが、私の人生最後の試合になったとしても……!)」

フランドールの隣には、今回の攻撃成功に大きく寄与した紅魔の司令塔。パチュリー・ノーレッジ。
悲壮な決意を胸に抱きながら、ねじ込み及び零れ球のボールキープに備える。


レミリア「(――ユーゾー・モリサキ。お前は本当に面白いやつだ。この幻想郷で今一番面白いと言っても良い。
そして、そんな面白いヤツに真正面から戦って勝つなんて……それ以上の娯楽が、この世にあるのかしらね?)」

そして、ゴール前には紅魔を統べる永遠に幼き紅き皇帝、レミリア・スカーレットが立つ。
今度は失敗しない。最高のレッドサンで森崎からゴールを奪い、借りを返す。これこそが彼女の目標だった。

690 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:41:33 ID:???
天子「ま、その前に私に防がれちゃあ、意味無いけどね」

玄爺「……!」

中里「(拙者はフォロー要員となるのが吉か……?)」

萃香「(これだけ居るなら、お披露目しちゃおうかな、『四天王奥義』?
――できる事なら、レミリアとやらのシュートで使いたいトコだけど、タイミングが合うかなぁ)」

森崎「へっ、有象無象がゾロゾロと。まあ良いさ、全部この俺のセービングの錆にしてやるよ!」

グッ……!

そして、紅魔の軍勢に対峙するのは5名の選手。
博麗連合が誇る精鋭のDF4名に加え、世界最高のセーブ力を持つ怪物GK・森崎有三。
背丈は低く、手は小さい。鬼のような怪力も無い。
しかし、異常なまでの力への欲望及び、それを掴む為の努力、精神力において、彼に勝てる人妖はそう存在しない。
もっと早く。もっと鋭く。もっと強く。純化され洗練された、強靭な意志の力。
科学でも魔法でも視る事の出来ない、『がんばり』で構成された壁が、博麗連合のゴール前に横たわっていた。

691 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:42:44 ID:???
フラン「……だけど、形がある物は必ず壊れちゃう。
堅い物ほど、強い物ほど。自分は絶対壊れないって思ってる物ほど、その時のショックは大きいのよ」

グワァァァァァァァッ……!

フラン「だから――私が試してあげるね。貴方が壊れたら、どうなるのか!
禁弾……『スターボウブレイク』!」

バッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオン! ドゴオオオオオオオオオオオオッ!

森崎「何が言いたい。壊れたら、もう一度作りなおせばいいだけだろ。
仮に百回壊れたとしても、俺は百一回作り直せる。そんな男だ!」

バァァッ、バチイイッ!

実況「森崎選手、まずは手堅くパンチング! しかしボールは零れて中里選手の足元へ! ですが……!」

咲夜「食らいなさい、『幻惑ミスディレクション』!」

ズザアアアアアアアアアアアアアッ! ズバッ、ズバズバァァァァアアアアアアア!! ――バチイッ!

中里「ぐううっ……!」

咲夜「ボールを奪ったけれど、こんな所では終われない。
――勝てば官軍、負ければ賊軍。成程確かに貴方の思想は正しいけれど。
生憎と私達は、美しい官軍にならねばならないのです。
だから――ここよ。ここで……決めるのよ! 幻符・『殺人ドール』!」

グワァァァァァァァァァァァッ! バゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
……ドドドドドドドドドドドドドドッ!

692 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:43:50 ID:???
実況「間髪入れずにボールを奪った咲夜選手、ゴールから30メートルの位置で地を這うロングシュート……
『殺人ドール』を放った〜〜〜〜! 距離こそありますが、そうした物はおかまいなしと土煙を上げながら、
シュートはゴールへと向かって行きます!」

森崎「なーにが美しい官軍だ。勝利は皆等しく尊いのに、そうやって選り好みしやがって。
誇りだかゴミだか知らないが、俺はお前等が捨てた汚ねぇ勝利を掴ませて貰うぜ!
――と、御託を並べたは良かったが」

玄爺「……!」

ドーンッ! バシッ!

森崎「……こりゃ傑作だ。名無しに毛が生えた奴にブロックされるのが、美しい勝利なのか、あ?」

咲夜「くっ……!」

玄爺「……! !!」

パチュリー「先の玄爺の動きは、『ヘビーブロック』……。――成程、貴方も流石に、単なる名無しとは格が違うみたいね。
だけど先に言っておく。ブロック一芸だけでは、私に勝てないわよ。それに……」

シュパッ、パシッ。グワァァァァァッ!

玄爺「!……!? ……!」

パチュリー「――やっぱり、ここは私も一発決めておこうかしら。 ………日符!」

グワァアアアアアアアアアアアアアッ!

パチュリー「……『ロイヤル、フレア』……ッ!」

バッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオンッ! バシュウウウウウウウウウッ!

693 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:44:55 ID:???
天子「きゃーっ、届かない! 『無念無想ブロック』さえ決まってれば防げたっぽいのにー!」

萃香「……(これはケン、だね。むしろ本命はその次……!)」

実況「玄爺選手がフォローしたボールはパチュリー選手が即刻奪い返し、
パチュリー選手はそのまま自慢のドライブシュート――『ロイヤルフレア』を放ちます!
並みのストライカーの必殺シュートよりも強烈なこのシュートに、博麗連合のDF陣は追いつけない!」

パチュリー「凡才は良く、自分は努力をしているから天才にも勝てる、って勘違いするわよね。
……ふざけないで。努力の量ならば、多くの天才と呼ばれている者だって、凡才とそう変わらないんだから」

森崎「……ああ、俺もそういう見せかけの良い子ちゃんみたいな奴は大嫌いだな。
だけど、お前こそ勘違いするなよ。まず第一に俺は凡才じゃなくて天才だ。そしてもう一つ……!」

バッ! バババッ!

森崎「――この俺以上に努力してるヤツなんて、この世にゃ存在しねぇ!
だから俺は才能においても、努力においても天下最強なんだよ!
……ぬおりゃーっ! 『がんばりダイビング』だーーーっ!」

バァアアアーーーーーッ! グワァァァァッ…………………ガシィィィィイイイッ!!

実況「森崎選手今度は自分ではじいたーーーっ!
必殺のがんばりダイビングで、零れたボールを完璧に捉え、前方へと送る事に成功します!
これは今度こそ攻撃成功か! ボールは中盤の霊夢選手へと渡っていき……!」

美鈴「 ホ イ チ ョ ー ー ー ッ !!」

バシュンッ!――ポーーンッ!

694 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:46:25 ID:???
霊夢「……割り込んでからの前転クリアか。やるわね、美鈴。高空なら私が勝ってたけど」

美鈴「そりゃあ。だって私は体格を生かしたプレーしか出来ないモンですから。
だから私も小悪魔さんよろしく、フィジカルに特化するよう、重点的に鍛えたんです!」

実況「上がって来ていた美鈴選手、中盤で霊夢選手に競り勝ってボールを逆にクリア!
再び紅魔に攻撃権を戻す事に成功しました!!」

美鈴「弱い者にも価値がある。弱い者にも思想がある。弱い者にも……矜持がある!」

森崎「――ケッ。また戻って来やがったか」

レミリア「感謝するが良い、人間。私達が全員がかりで、お前を恐怖へともてなしているのだからな」

森崎「恐怖ぅ? どっちかと言えば、今までの展開はお笑いに近かったけどな」

レミリア「ならば、今までの前座を詫びさせて貰おうか。なんせ、今美鈴が飛ばしてくれたボールは高いんだからな」

バッ……!

紅帝と狂王は再び対峙する。レミリアは終わりの無い不毛な煽り合いを途中で切り上げると後ろを向く。
美鈴が蹴り出したボールは高い軌道を描いてペナルティエリア付近まで飛んでいた。
それを見て、レミリアは満足気に飛翔した。

レミリア「……私が今大会の為に習得した必殺シュートは3つある。
ひとつはさっきお見せした、『ダイレクトレッドサン』。低空でも撃てるが威力は……まあ、そこそこだ。
フランドールの『495年の波紋』や、八意永琳の『爆宙アポロ』などと、そう威力は変わらない」

グルンッ……バァァッ!

695 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 00:51:09 ID:???
その後、レミリアは空中で一回転。後方から向かってくるボールに照準を合わせ、
小さくスラリとした足を、空に向けてピンと伸ばしてみせた。

レミリア「みっつめは先の試合でも見せたし、何よりフランが居ないと撃てないから置いといて。
……今からお前に見せるのは二つ目のシュート。『バイシクルレッドサン』。
これは『マスターオブレッドサン』を、オーバヘッドキックの体勢で撃つだけの簡単なシュートだけど……。
威力は、こちらの方が大きい。まして、貴様への借りで怒りに震えている現状ならば――そうね。
何の制約も無く個人で撃てるシュートとしては、今大会最強になるんじゃないかしら?」

森崎「――微妙な条件付きの最強だな。案外大した事ないんじゃねぇの、それ?」

レミリア「フフ。……そう思うのならば、まずは括目あれ!」

フワァァッ……グルンッ!

軽口を叩く森崎を無視して、ボールが足を通り越した次の瞬間、
レミリアの脚がカタパルトのように機械的に、しかし正確に力強く振り下ろされた。
シュートを撃つ間際、彼女は短く吠えた。

レミリア「――――――――――H A!」

バッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
ドギュルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!

森崎「(……なっ!)」

この時、森崎は初めて戦慄した。否、戦慄することができた。
生物として当然持つべきである生存本能が働いたのだ。
限界を超えたセービングの為に、無理やり封じ込められ鈍っていた森崎の自己防衛欲求を、
レミリアの人智を超えたシュートは、呼び覚ませてくれた。
しかしそれは、森崎にとってある意味では不幸だった。

696 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 01:00:10 ID:???
森崎「(……く、くそっ! しまった! 身体が一瞬引き攣ってしまった。
あのシュートを食らえばバラバラになる。たったそれだけの恐怖に引きずられて、動きが鈍った!)」

森崎はレミリアのシュートに対し、万全の体勢でセービングに行けなかった。
威力自体は今の『バイシクルレッドサン』も、先ほどの『ダイレクトレッドサン』も、劇的な差は無いにも関わらず。
だからこれはある意味では偶然だったし、もしかしたらこれまでのセービングによる疲労が遠因かもしれない。
ただ、兎にも角にも、森崎はこのシュートへの動きが遅れた。
そして、超一流クラスにおいてその遅れは命取りだった。

森崎「(同じだ。シュナイダーの『バイシクルレッドサン』と……! 殆ど、同じだ!)」

森崎は恐ろしくも気高いレミリアの横顔に、圧倒的な技巧とパワーにかつてのライバルを想起した。
それが現実逃避であると分かっていても、そうしてしまうだけの力が今のレミリアにはあった。

森崎「(……ポスト! ――は期待出来ん。シュートコースは正面下!
枠外やバーも期待は出来んだろうし、そこにぶち当たるようなしょっぱいFWじゃない、あいつは。
だから――要するに、俺が防げないと、負ける! 点をとられちまう!)」

万事休す。森崎の脳裏にそんな単語がよぎった。
世界一の負けず嫌いで弱気が存在しない森崎すら、今のこのシュートはお手上げだった。

―――――――――――――ゴッ!

強い風が吹き抜ける。いや霧だったか、それとも雲か。雪かもしれない。
それはレミリアのシュートが空を切った際に生じたつむじ風だったろうか。
森崎の意識はその風を受けて、ほんの一瞬だけ飛んでしまっていた。

697 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/18(火) 01:01:34 ID:???
レミリア「やったか!?」
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。前半はこれで終了となります。
後ろから来たボールをそのままオーバーヘッドするのは難しそうですが、その辺りはお目こぼしください(汗)
皆様、本日もお疲れ様でした。

698 :森崎名無しさん:2015/08/18(火) 02:05:01 ID:???
フラグ乙

699 :森崎名無しさん:2015/08/18(火) 03:52:16 ID:???
万事休すとかもあるし、体のどこかに当たってくれセービングかな。

700 :森崎名無しさん:2015/08/18(火) 05:57:58 ID:???
シュナは森崎の前でバイシクル作ってないんじゃ?レッドサン違うし

701 :森崎名無しさん:2015/08/18(火) 12:23:47 ID:???
がんばりセービング・改と悟りセービングT(ガッツ回復)・U(一定確率でセーブ成功)の合体技かな?

鈴仙「なにそのチート技」

702 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 00:49:14 ID:???
こんばんは、更新します。
>>698
フラグ乙ありがとうございます。
>>700
すみません、凡ミスと筆が滑りました(汗)
レミリアにシュナイダーの影を感じたという事を言いたかったので、
×:森崎「(同じだ。シュナイダーの『バイシクルレッドサン』と……! 殆ど、同じだ!)」
○:森崎「(同じだ。この力強さ、蹴り出し、そして気高さ……! アイツと――シュナイダーと……!)」
などと、脳内変換して頂ければ幸いです。
>>699,701
森崎じゃなくて仲間も活躍した! ……という風に書こうと思ってます。
今回については、流石に新セービングはないです。そっちのが絶望感があって良いかもですが(笑)

703 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 00:51:36 ID:???
レミリア「……やったか!?」

シュートが放つ圧力による酸素欠乏で倒れた森崎を尻目に、レミリアは空中で思わずそう小さく叫んでいた。
森崎の全力と自分の全力はほぼ互角。ならば、どちらが最後に立つかどうかは、完全なる運否天賦の世界。
そして結果として、レミリアは森崎よりも長く立っていた。

レミリア「(試合時間は……もう残り十数秒。この段階で同点に追いつけたのは大きい!)」

飛び出し気味の位置に居た森崎が倒れ、もはやシュートを邪魔する者は誰も居ない。
粘り強い攻めはスカーレットムーンズの体力を大きく削いだが、
しかし今、それが成果となって同点へと結びつこうとしている。

レミリア「フランが強烈なシュートを放てなければ、今回の攻撃はそこで終了していた。
咲夜がロングシュートを放たなければ、ブロックに向かうDF陣の戦力を削げなかった。
パチェが身を削ってシュートを撃たなければ、森崎の体力は削げなかった。
美鈴がクリアを成功してくれなければ、そもそも私にボールは回らなかった。
そして……小悪魔や中国(陸)。それに他のメイド妖精達が居なければ、この局面はそもそも訪れなかった。
――どうだ博麗連合。どうだ人間共。これが我ら紅魔の力。夜の住民たる悪魔の矜持だ!」

フワッ……バサッ。

そう宣言しながらオーバーヘッドの体勢で、そのまま背中から地面に倒れこむレミリア。
彼女は強い力を持ちながらなお、仲間の結束を信じ切っており――そして、それを最高の形に創り上げた。

霊夢「……凄いわ、レミリア。――私、自分がさっき魔理沙にムキになったのが恥ずかしくなる」

レミリア「おや、やけにしおらしいじゃないか、霊夢? とうとう私の軍門に下る気になった?」

704 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 00:53:53 ID:???
そんなレミリアに、霊夢は何時の間にかゆっくりと歩み寄っていた。
前半終盤から今までの彼女達の攻撃は、今の霊夢には無いものであり、純粋に興味を覚えていたからだ。
しかし、彼女がレミリアの元へ歩み寄ったのは、別の理由が主だった。

霊夢「だけど……この勝負、あんたらの負けよ。
今回はたまたま森崎には勝てたかもだけど、ウチのチームにはもう一人、バケモノが居るからさ」

レミリア「……え?」

霊夢はレミリアに同情していたのだ。彼女達はただでさえ強い上に、仲間と結束し、努力も重ねた。
これが漫画か小説ならば、間違い無く今回はレミリア達が勝つべきシーン。
いや、実際に彼女達は、運の要素も混じっていたとはいえ、最大の敵に勝利した。
それを、……ここで突然、雑魚と思っていた者がしゃしゃり出て来て滅茶苦茶にひっくり返したとすれば、
その物語は面白いだろうか。しかし、今の試合は物語では無い。きちんと現実に行われている試合である。


――よってレミリア達は、面白かろうと、面白くなかろうと。
何時の間にか眼前に広がっていた、この現実を受け止めなくてはならなかった。

705 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 00:55:36 ID:???
                    ド                        ン!


             萃香「――へへっ。私がサッカーでこの技を出すのも数百年ぶりだ!」


               本当の意味で、最後の最後まで戦場に立っていた人物。
     それは、森崎でもレミリアでも無く――博麗連合のCBとして出場していた古豪・伊吹萃香だった。
          彼女はバイタルエリア手前から、まるで巨人のような一歩を踏み出した。


               パチュリー「……もしや。あの伝説は本当だったの言うの?
         鋼鉄の小さな巨人。伊吹萃香は幻想郷きってのGKであるが、それは彼女の本職では無い。
               彼女の本職とは……センターバックである――と、いう伝説は……!」


           萃香「そうだよ。幻想郷でサッカーが流行った時は、人手不足でGKばかりやらされてたからね。
      ホントはGKでもこの技が出来ればいいんだけど、ペナルティエリア内で三歩の踏み込みは距離的にできん。
             だから、比較的自由に動けるDFの方が、本来の私向きなのさ……っと!」

706 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 00:59:20 ID:???
                   ド                           ン!!

                 地球の裏まで続く穴が開いてしまったかのような二歩目。
               パチュリーはこれで萃香の狙いを完璧に察知する事ができた。
           しかし、萃香が後はゴールへと向かうだけのボールに照準を合わせた時点で、
                       彼女に出来る事は失われていた。

      レミリア「……森崎は囮。本命はお前だったという事か。人間に正GKを奪われた乙な鬼は外面。
            弱いと見せかけその実、自分が最も得意とするポジションに居座る為の!」

  萃香「まさか。そんな野暮ったい事、この私がするもんか。森崎は正真正銘、私よりも強いGKだからそこに居る。
         だけど、博麗連合には私よりも強いDFは居ない。だから私はここに居る。それだけさ」

   グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

          そして、ボールの後ろ側にいた筈の萃香は、あっという間に正面へと回り込んでいた。
     自身の身体を疎にして、妖力を爆発させた彼女にとって、自身からボールまでの三歩はあまりに短かった。

             萃香「この技にも制約がある。まず、タイミングが重要だから毎回は使えない点。
           そして、無理で道理をひっくり返す分、普通の『カウンターシュート』よりも消耗は大きい。
                  だけどね……! こいつはその分、まっこと強力だよ!

                         レミリア「…………ふん」

  レミリアの脳内に流れる不都合な運命。彼女は精一杯のしかめっ面で、それを歓迎する事しか出来なかった。
               萃香はゴールの奥深くでボールに動きを合わせ、こう宣言した。



                   萃香「食らいな。四天王奥義―――『三歩壊廃』!!

707 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 01:00:47 ID:???









―――バシュッ!
      ……ゴオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

708 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 01:03:32 ID:???









世界中の全てが崩壊したような音を奏でる、勇儀の『三歩必殺』と違い、萃香の『三歩壊廃』が発した音はあまりに小さい。
壊し廃する為の三歩は、世界のいかなる秩序をも崩しはしない。
しかし、萃香によって弾かれたレミリアの『バイシクルレッドサン』は、
僅かにしか発しない轟音の中に、とてつも無い破滅が植え付けられており。
それは――今や唯一ゴールを守っていると言っても過言では無い陸の手元、いや足元で爆発する事となった。

陸「な、なんじゃ……コラ。紅魔大人(レミリア)が蹴ったシュートを、
何時の間にかシュートに割り込んでいた鬼の子が蹴り返して……こっちに、こっちに……!
こここ、ここここここ……こ っ ち に 、 向 か っ て 来 て る ア ル〜〜〜〜〜!!???」

ォォォォォ……オオオオオオオオオオオオオオ オ オ オ オ オ    オ     オ    ッ  !!

撃ち返された太陽の弾幕は、反射された際には青白い炎となって帰って来ていた。
火を蹴り出す程度ならば簡単だ。簡単ながら修行を受けた陸なら容易く出来る事だ。
しかし、彼女はそれすらを良しとしなかった。
何故なら、今反射されたシュートは青白いとは言え、まさしく太陽そのものだったからだ。


陸「あ、アイヤ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!! ら、らら……『雷斬脚』〜〜〜〜ッ!」

ゴオオオオオッ! ダッ、バギイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

709 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 01:08:57 ID:ZnMjp8fs
この絶望的状況下でも、ボールがゴール前へとやって来るまでの僅かな時間で、陸は本能的に右脚を差し出す事ができた。
これは陸がサッカーにおいても天賦の才を抱いている事の証拠にはなったが、それ以上の効果は無い。
反転する太陽を、僅か人間一人の力で制圧する事は、努力とか奇跡とかそうした理屈は抜きにして、物理的に不可能だった。

ゴッ……! ゴォッ。ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! ボオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

陸「あ、あが、っ……! や、焼ける……! も、燃えるアル……! まだ、死にたく、無いアルね……!!」

シュートに対して足を触れたは良いものの、陸の限界はそこまでであり、
残りはシュートに対して掛かっていた強烈な縦回転をなぞるように、陸はボールが持つ重力に引っ張られて行った。
陸の身体は縦に大きく吹き飛び、撃ち返されたシュートは横方向――ゴールへの垂直直線運動を続ける。
そして、その結果は当然だった。そう。信じたくないにしろ……これは、ごく当然の結果だった。


ズバァァァッ! ……ピピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!
ピッ、ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ……!


――萃香による得点。そして前半の終了を示すホイッスルが同時に鳴る。
それは友情を繋ぎ、同点という名の希望を掴んだ筈の紅魔スカーレットムーンズは一転。
前半終了時点で2点のビハインドという、最悪の現実を叩き付けられた事を証明していた。


紅魔スカーレットムーンズ 0 − 2 博麗連合2015

710 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 01:10:43 ID:???
大会得点ランキング(表記はメインキャラのみ):
12ゴール レミリア、鈴仙
9ゴール  フランドール、射命丸
8ゴール  魔理沙
7ゴール  勇儀
6ゴール  来生、屠自古
5ゴール  星、諏訪子、霊夢
4ゴール  森崎、神子、反町
3ゴール  早苗、謎の向日葵仮面
2ゴール  神奈子、ピエール、メルラン、天子、赤蛮奇、空、佳歩、岬
1ゴール  妹紅、咲夜、美鈴、サニー、リリーB、ぬえ、響子、永琳、萃香
       影狼、藍、幽々子、幽香、針妙丸、パチュリー、小田、椛、パスカル


大会アシストランキング(表記はメインキャラのみ):
6アシスト パチュリー、霊夢
5アシスト 小町
4アシスト てゐ、神子
3アシスト 早苗、ピエール、小悪魔、マミゾウ
2アシスト 森崎、反町、はたて、岬、空、お燐、ウサギB、レミリア、アリス
1アシスト 鈴仙、影狼、大妖精、橙、諏訪子、佳歩
       衣玖、針妙丸、リリーW、ルナサ、ぬえ、永琳、妹紅

711 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/19(水) 01:13:11 ID:???
レミリア敗北!(チームが負けたとは言ってない)
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
萃香さんが実はDF本職的な話や、四天王奥義の存在については随所でチラつかせていましたが、
それを今明らかにした格好です。
ただ、後半戦はスカーレットムーンズがもうちょっと活躍する予定です。

それでは、皆様、本日もお疲れ様でした。

712 :森崎名無しさん:2015/08/19(水) 07:12:21 ID:???
カウンターシュート持ちのDFだと!?インチキ選手も大概にしろ!(中山さんからは眼をそらす)
乙です

713 :森崎名無しさん:2015/08/19(水) 16:45:21 ID:???
何?DFはシュートを撃たないのではないのか!?
乙でした

714 :森崎名無しさん:2015/08/19(水) 18:16:22 ID:???
インビシ1回でも跳ね返されたらかなり厳しくなるね

乙です

715 :森崎名無しさん:2015/08/19(水) 22:42:28 ID:???
三歩壊廃の威力: 759 TNTトン

上記威力による各キーパーごとの飛行速度・距離および香典(または見舞金)合計
・輝夜
速度:毎秒 840 キロ 距離: 589 キロ 見舞金 847 万円
・にとり
速度:毎秒 81 キロ 距離: 1017 キロ 香典 558 万円
・アモロ
速度:毎秒 597 キロ 距離: 809 キロ 香典 104 万円

716 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:19:25 ID:???
こんばんは、今日も書いていきます。
>>712
乙ありがとうございます。
中山さんは「まだ」インチキじゃないので大丈夫です…たぶん。
>>713
乙ありがとうございます。
カウンターシュートは必殺ブロックなので何も問題ないですね。
>>714
乙ありがとうございます。
萃香のカウンターシュートはかなり強いですので、試合の時はまた色々考えて頂ければ嬉しいです。
>>715
姫様はやっぱり幻想郷最速でしたね。人望もナンバーワンですし、すごいなーあこがれちゃうなー(棒)

717 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:20:49 ID:???
ザワザワ……ザワザワ……。

鈴仙(観客席)「え……? 何、アレ……?」

佳歩(観客席)「あの紅魔スカーレットムーンズが無得点で、しかも2点差……。それも、前半戦だけで?」

霞(観客席)「スカーレットムーンズは間違いなく全力。
……いや、むしろ後半戦を顧みず、全力以上の攻勢に出続けていたのに……!」

輝夜(観客席)「……あー、こりゃもう試合終わったわね! 試合結果は33−4かな!?
もう帰ってゲームしてた方が良いんじゃない!?」

妹紅(観客席)「――輝夜、空気読んで」

輝夜(観客席)「ご、ごめん。……流石に悪かったわよ」

ウサギC(観客席)「(33てんとれるいっぽうてきしあいで4しってんするもりさき むのう)」

――萃香が放った渾身のカウンターシュート、四天王奥義『三歩壊廃』。
それはパッと見に分かる破壊力だとか派手さは乏しい。しかし。それは確実にえげつなく、おぞましく。
このフィールド上に漂っていた見えない『何か』を完膚なきまでに破壊し尽ていた。

永琳(観客席)「……見なさい、フィールド上のスカーレットムーンズメンバーを。
嫌味なまでに自信に満ち溢れていた彼女達がああも崩れるなんて。とても、滅多にお目に掛かれないわ」

永琳は僅かな親しみと同情を籠めながら、フィールドを指し示す。
あの永琳がライバルチームの選手に対し、ここまで感傷的になるのも珍しいと思って、
鈴仙はふと目線をフィールド上に向け直すと――そこには、とても「感傷的」では済まされぬ、傷ましい光景が広がっていた。

718 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:21:51 ID:???
パチュリー「……はぁ、はぁ……!(駄目。前半に飛ばして少しでもリードを奪っておく心算が、
蓋を開けてみればこちらは満身創痍で、相手は2点リードだなんて。
こんなの、流石に想定の……範囲内ではあったけど。それでも、やっぱり現実に来ると、きついわね……)」

元々体力の無いパチュリーは自身の酷使が答えて、肩で息をしながら打ちひしがれている。

レミリア「……(――なんてこと。この私が。レミリア・スカーレットが……敵に恐怖している?
敵の攻撃を凌ぎ、中盤を搦め手で突破し、最終ラインに何度も攻撃を重ね……。
それでもなお、敵には奥の手が隠されていたから?
――たったそれだけの理由で、私が怯えてるとしたら……とんだ屈辱ね)」

誇り高く負けず嫌いのレミリアは、もしかしたら人生で初めての敗北感に唇をかみしめている。
その恐怖と屈辱感は、まるで自分が石になって動けなくなる程に強かった。

フラン「……ウフフ。ウフフフフ……(今までがんばったのに。結局こんな結果?
何よ。そんな事聞いていないんだから。だから、きっとこれは夢。
夢だったら……何をしても良いのよね、ウフフ……)」

フランドールの脳内に、再び狂気の衝動が溢れつつあった。
レミリアとの必死の特訓で克服した筈の正気の鎧は、全てを破壊するシュートの前では無力だった。

咲夜「……」

美鈴「……何も、言えませんね」

小悪魔「……パチュリー様。私にはやっぱり……荷が重すぎましたよ……?」

咲夜と美鈴、そして小悪魔。従者達は、自らの無力に対し、完璧に言葉を失っていた。
彼女達に横たわるのは、ズタズタに破壊された誇りと希望。そして勝利への道程のみだった。

719 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:23:25 ID:???
メイド妖精「「「……い、いたい痛い……!」」」「「もうやだよ、怖いよ……!」」

陸「ぐ、ぐああああ……ッ。熱いアル。体中の骨がアメ細工みたくぐにゃぐにゃになってるアル……!」

少なくとも自身にまでボールは来るまい。
そう安堵していた時に、不意打ち的にシュートの衝撃を受けたメイド妖精達と陸は、
もう少し分かり易い意味でズタズタにされていた。
シュートを受けた彼ら彼女らはそのあまりの鋭さに痛み泣き叫び、
遠目で見ていただけの者も、仲間の痛々しい姿にすっかり戦意を喪失していた。


萃香「――私は勇儀程、腕っぷしにゃ自信が無いモンでね」

そんなスカーレットムーンズの様子を見てほくそ笑む小鬼が一匹。
萃香は可愛らしい外見とは裏腹、強者らしく勿体ぶるように語り出した。

萃香「だけどさ、鬼ってのはただの脳筋ってのとも少し違うわけだよ。……勇儀は脳筋だけど。
打ち出の小槌を作ったのだって鬼だし、禅の大家を調べてみても、大体が鬼かその系譜に連なる。
鬼ってのはいわば、この世ならざる強さの権現みたいなもの。
だから、こうやって人の精神を粉々にするって意味での「壊廃」……ってのも、立派な特技なのさ」

森崎「(チッ。ここぞとばかりにカッコつけやがって……。
さっきだって、『超モリサキ』にさえなっていれば、余裕で取れたのに……!)」

レミリア「……………」

彼女の言葉に反応する者は、後ろで恨みがましく負け惜しみをする森崎以外に居なかった。
減らず口のレミリアすらも、まるで年相応の少女のように、萃香の言葉に真剣に耳を傾けていた。

720 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:25:08 ID:???

パチュリー「……帰りましょう、レミィ、皆。前半戦は完璧に私達の負けだったわ。
だから、もう一度考えましょう。――この崩れきった現状を打破する、あんた好みの奇跡の采配をさ」

レミリアに代わって、この場を取り仕切ったのは親友のパチュリーだった。
石像のように固まるレミリアを引きずり、狂気の世界に足を踏み入れつつあるフランドールを宥め、
咲夜と美鈴、そして小悪魔を従え、ロッカールームへと消えて行った。
メイド妖精は始め戸惑っていたがやがて落ち着いて。
控えを含めた6人がかりで、倒れ伏した陸を持ち上げながらそれに続いた。


***


霊夢「……魔理沙」

魔理沙「……………」

スカーレットムーンズが立ち去り、
したり顔の萃香と悔しそうな森崎が仲良く控室へと向かい、天子と衣玖と中里が軽口を叩き合いながら続き。
小町が玄爺の背中に乗って昼寝をする中、集団の輪に入りそびれてあたふたするアリスを見送って。
――博麗連合の絶対的トップ下と絶対的ストライカーは、
二人きり(正確には針妙丸が霊夢のリボンで寝ていて三人だが)となった。霊夢が魔理沙を呼び止めたのだ。

霊夢「そ、その。さっきは悪かったわね、大人気なく手を上げちゃってさ。でも、えっと……」

最後に崩されたとはいえ、悪魔なりの友情で博麗連合の牙城を崩しかけたスカーレットムーンズの姿を見て、
霊夢はやはり自分も、魔理沙と仲直りをしたいと思うようになっていた。
そんなしおらしい気持ちは自分らしくないと霊夢も思っていたのか、最後の方の言葉は消え入るようだったが。

721 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:29:42 ID:???
魔理沙「無理して謝らなくても良いぜ。だって、悪いのは誰がどう見たって私なんだからな」

スッ……。

霊夢「あっ、待ちなさいよ魔理沙。そっちはロッカールームじゃなくて観客席じゃない。まさか……!」

ただ、魔理沙は悲しい事に、霊夢程感傷的にはなっていなかった。
……いや。霊夢に甘えたい気持ちがあったとしても、彼女の弱さはそれを許さなかった。
霊夢の言葉を遮って、魔理沙は彼女とは反対の方向へと向かって行った。

魔理沙「――まさか、恥ずかしくて逃げ出すんじゃないか……ってか?
それはお前の願望だろ。私は単純に、自動販売機で ブランデー入り紅茶 を買いに行くだけだ。
悪いが、私は見苦しくてもやり続けるぜ。この身体が、完全に動かなくなるまでは、な」

カッ。カッ、カッ……。

霊夢「……魔理沙。行っちゃった」

はぁ、と霊夢は溜息を吐く。元々、こういう陰気くさい喧嘩は得意じゃない。
自分はもっと、真正面からグーで殴り合う喧嘩の方が向いている……。
そう心の中で魔理沙へのあてどない愚痴を呟きつつ、
霊夢は仕方なしに他のチームメイトの待つ控室へと向かう事にした。

722 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 00:33:44 ID:???
やけ酒かな?

723 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:35:29 ID:???
針妙丸「ねぇ霊夢。大丈夫? さっき、結構ケンアクなムードっぽかったけど」

霊夢「……何よ。アンタ、途中から起きてて聞いてたのね」

フィールドとは一変し、静かでがらんとした、ロッカールームへと続く廊下。
そこで小人サイズに戻った針妙丸は霊夢の頭上で、心配気に声を掛けてくれた。
霊夢は最初、悪趣味ね、と冗談めいてぼかしつつ、彼女に対し無視を決め込もうとしていたが。

針妙丸「……魔理沙は、自分はボロボロになっても良いから、霊夢と一緒に戦いたい。
でも霊夢は、魔理沙にボロボロになって欲しくない……んだよね?」

霊夢は、針妙丸がふと発したこの一言に対し、どうしても何かを言いたい。伝えたい。
そんな強い気持ちにふと囚われてしまい――。

霊夢「……魔理沙はそう思ってるのかもね。でも、私がそんな事、思う訳ないでしょ?
さっきだって、アレじゃあ試合にならないと思ったから、何とかして連携を取り戻したいって思っただけ。
いわば戦略的説得よ。うん、それ。戦略的説得」

その刹那。こんなにも恥ずかしい気持ちを抱いていた自分に腹が立ってしまい、
針妙丸の問いかけに対し、……霊夢は反射的に嘘を吐いた。

724 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:38:20 ID:???
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
>>722
台詞に反してかなり余裕タップリですね…>ブランデー入り紅茶

皆様、本日もお疲れ様でした。

725 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 12:18:45 ID:???
この後の展開が読めた


魔理沙「霊夢・・・人間ってのは努力や才能に限界があるなぁ
    私が短い人生で学んだことは人間は努力をすればするほど上を向くのが苦しく
    努力に価値が見いだせなくなるってことだ!」

霊夢「えっ?大丈夫?」

    「人間を超えるものにならねばな・・・
    私は人間をやめるぜ!霊夢ーッ!私は人間を超越するッ!
    霊夢!お前の血でだァーッ!」

吸血鬼となる→吸血鬼なのでチームを裏切る→外に出た瞬間消滅
これに違いない

726 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 13:45:16 ID:???
試合後に川にダイブしないか心配だな。
まぁ後半次第だが

727 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:50:23 ID:???
こんばんは、後半戦の詳細なプロットが出来ましたのでまた更新していきます。
>>725
魔理沙は結局人間で死にそう…と、思いつつ確かにこの展開的には吸血鬼にでもなりそうですねw
>>726
メタ的に言うと、魔理沙が川にダイブしたら決勝がヌルゲーになるので大丈夫です(爆)

728 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:51:46 ID:???
*****


〜紅魔スカーレットムーンズ ロッカールーム〜

レミリア「…………」

咲夜「……(あのお嬢様が、こうも消沈されるとは。従者として、何たる不覚……!)」

フラン「………うー」

美鈴「あ……あはは……。はぁ……」

小悪魔「……ひっく。ぐすんっ……」

陸「……あ、アイタタ! おいメイド妖精、もっとクスリは優しく塗るアルね!」

パチュリー「………」

スカーレットムーンズのロッカールームは、キャプテンであるレミリアを筆頭に静まっていた。
広く感じる控室では、咲夜が苦々しげに歯ぎしりをし、フランドールが不機嫌そうに唸り、
美鈴が愛想笑いと溜息を交互に繰り返し、小悪魔が自身の無力さに泣きじゃくり、
陸がメイド妖精に横柄な注文を投げかけている以外に動きはない。

パチュリー「……(……さっきはレミィにああ言ったけれど。ハッキリ言って今の状況は厳しいわ。
大魔法『フォトシンセシス』でギリギリ体力を持たせている私は勿論の事、
必殺シュートを何度も撃ったレミィやフラン。何度も大型シュートをセービングした陸の体力も心許ない)」

しかし、動かない中にも、頭を必死に回転させて、後半の勝機を見出そうとする者は居た。
それは勿論、紅魔館の自称賢者にして知識人でもある魔法使い、パチュリー・ノーレッジだった。
思索こそが存在意義たる種族魔法使いにとって、魔術の実験であってもサッカーの試合であっても同じ。
彼女は、考える事によりこの2点差をひっくり返す方法を見出そうとしていた。

729 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:52:47 ID:???
パチュリー「(――博麗連合の守備陣について。もう一度おさらいしておきましょうか)」

勝つには勿論これ以上の失点は避けなくてはならないが、それ以前に得点出来なければ負けである。
そう思ったパチュリーは、惚けたレミリアが正気を取り戻すまで、敵の守備戦力を振り返る事にした。

パチュリー「まず……。比那名居天子はタックルとブロック、それと攻撃に優れた攻撃的サイドバック。
性格は自分勝手であり、持ったボールを離さない傾向がある。
彼女は一番挑発の余地と効果がありそうね。……挑発を受けて気を昂らせるタイプだから、その後の報復は怖いけれど。

中里正人はパスカットとボールキープ、その他守備一般に長けた優秀なサイドバック。
一部新聞では覗きの常習犯と噂されているけれど、サッカーにおいては真面目な優等生。
ただ、キャプテンの霊夢よりも森崎を信望している噂があるわ。もしかしたら、指揮系統のブレが隙になるかも。

伊吹萃香。彼女のブロックが恐ろしい事は……言うまでも無いわね。
ただ、何だかんだで彼女のCB歴にはブランクがある。
だから、筋金入りのCBだった八坂神奈子やレティ・ホワイトロックよりは、経験不足による弱みがある筈よ)」

レミリア「………………」

普段なら、この辺りで何らかのツッコミあるいは関係の無い雑談を入れてくれるレミリアは、
やはり石のような棒立ちのまま、特別何かを喋る気配はない。
……気にせず、パチュリーは脳内での情報整理に努める事にする。

パチュリー「(……玄爺も油断ならない選手だけど、私が問題視しているのはそうじゃない。
――要するに、博麗連合の森崎有三。彼を破るにはこの壁を乗り越えなくてはならないという事実。
そして、その森崎有三もまた、彼女達を大きく超える実力の持ち主であるという現実よ。

彼のセービングは間違い無く超超一流。並のシュートでは彼を削る事しかできない。
無論、あれ程の動きをするのだから、おおかた体力不足とか欠点はあるのだろうし、
永遠亭ルナティックスの蓬莱山輝夜みたいに、セービングに長けた反面、一対一の経験値が低いという可能性もある。

730 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:54:12 ID:???
パチュリー「(……だけど、その両者も気軽に試す事はできない。何故なら、博麗連合の守備陣が強力だから。
シュートで削ろうとしたら、伊吹萃香に『カウンターシュート』を放たれて。
ドリブルで一対一を狙おうとしたら、比那名居天子や中里正人のような、タックルの名手に刈られてしまう。
――そして私達は、勝つためには一厘のミスも許されない。 ……こうして考えてみると、絶望的ね)」

……と。ここでパチュリーは大きく溜息を吐いた。
思考を深めれば深める程、自分が泥沼に嵌ってしまう事が分かってしまったからだ。
スカーレットムーンズが勝利するには、後半戦終了までに少なくとも2点を奪わなくてはならない。
しかし、その目標を達成するには現実的な障害が多すぎる。
考えれば考えるほど自身にとって不利な情報が浮かんで来る現状に至り、流石の賢者も辟易していた。

パチュリー「(……ダメだわ。こりゃ。前半戦ラストのように、総力を挙げて点を取りに行けば、
1点を奪える程度の算段ならあるけれど。でも、ウチじゃあそれが精いっぱい。
どう考えても、最低2点。最終的には3点を奪える戦法なんて、思いつかない。
如何に私が賢者と言えども、この現実を。敗北の運命を操り曲げる力なんて持っていないんだから――)」

レミリア「――そうだ! これだ!! この作戦でいきましょ、パチェ、フラン! これなら完璧よ!!

パチュリー「……」

――そこまで言いかけて、パチュリーの意識に冷や水をぶっかける大声が聞こえた。
その迷惑な声を上げたのは、さっきまで自分が心配していた筈の友人だった。

パチュリー「……あんた。さっきシュートを決められて落ち込んでたんじゃ無かったのかしら」

レミリア「ふざけるな。私がそんな子どもみたいに落ち込む訳無いでしょ。くよくよタイムなんて5秒で充分だ。
あれから今まで、どうやって逆転しようかっていう、奇跡の作戦を考えていたのよ」

咲夜「成程……! ――つまり、5秒間は落ち込まれてらっしゃったのですね」

レミリア「……咲夜。あんた最近私に厳しくない?――まぁ、別に良いや。
兎に角、見つかったのよ。にっくきモリサキから、2点程掠め取る方法がさ!」

731 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:55:38 ID:???

さっきまでの沈黙はどこへやら、レミリアはまるで妖精のようにかしましく後半戦への希望を語っていた。
それも、パチュリーが先程不可能と断じかけた得点への展望を込みで。

パチュリー「そう。それは良かった。
私も漸く、全力で総攻撃を仕掛ければ辛うじて1点は取れるという試算を出したばかりなの。
だからあんたのその希望的観測は間違いだと、早々に知れて良かったわ」

レミリア「んー? いつ私が総攻撃で2点を取るだなんて言ったか? 私はもっと色々と考えてたんだよ。
いいか、よおく聞いて……」

パチュリー「はいはい……」

子どものままごとに付き合う気持ちで、パチュリーは腰を屈めてレミリアの口元に耳を近づけた。
レミリアは悪戯を披露する子どものような喜色満面で、パチュリーにその戦術とやらを語っていく。
パチュリーは最初、呆れたような顔をしていたが……しかし途中で、その表情が真剣に変わっていった。

パチュリー「……それ、馬鹿っぽいけれど。存外に行ける気がするわ」

レミリア「でしょ? ほら、私の策で2点と、パチェの策で1点。これで3点だ。
後は中国がトチらなければ2−3で試合は終了。私達の勝ちじゃあないか」

陸「(しれっと朕にプレッシャー与えるなアル……)」

この絶望的状況を前に、なおも大胆不敵な態度を取るレミリアを中心に、
一度は破壊し尽された紅魔スカーレットムーンズの士気は回復していく。


レミリア「皆、この試合……勝つぞ! Forza SCARLETMOONS!!」

スカーレットムーンズメンバー「「「「「――おう!!!!!!!!!」」」」」

732 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:04:28 ID:???
そして最後に一言。これで彼女達は再び戦える体勢へと戻った。
パチュリーが幾ら思案しても出ない結論を、レミリアは一発で叩きだしてみせた。
それは如何に知識を上積みしようと再現できない、彼女特有の「カリスマ」と呼ぶに相応しい神通力だった。

レミリア「……でも。ありがとね、パチェ」

パチュリー「……え? 私は何もしてないけど?」

だがしかし、レミリアは最後、パチュリーにだけ聞こえる声で可愛らしくこう囁いた。
訝しむパチュリーを尻目に、レミリアはこう告白する。

レミリア「――さっき失点した時ね。ぶっちゃけ結構凹んでたのよ、私。
5秒どころか、ずっと立ち直れないかも? ……って、思っちゃったくらいに。
でも、私に代わって場を仕切って、色々と考えてくれてたパチェの姿を見て。
それで……やっぱり、私がやらなきゃダメだって思えたの。 だって――パチェ、頭は良いけど鈍くさいし」

パチュリー「何それ。私にリーダーシップが無い事への嫌味かしら」

レミリア「違うってば。ただ……やっぱ私の相棒と言ったら、パチェだなぁって。そう思ったの。
咲夜は従者だし、美鈴は頼りないし、中国は残念だし、フランは……まだ、私が守ってやらなきゃだし」

パチュリー「……そう。生憎と、それには私も同意だわね」

レミリア「本当? フフ、私達って意外と気が合うのね。……知ってたけど」

733 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:08:49 ID:???
友人の告白を聞いて、パチュリーも実は悪い気がしない。
自然と、二人の声はまるで旧年来の姉妹のように自然とシンクロしていき。
――やがて二人は、同時に一つの結論を出すに至った。


レミリア「やっぱり思ったのよ。紅帝たる私と同格の力を持ち、
     同じ誇りの為に背中を預け合う。あんた以外に適任はいないね。この―― 

                     パチュリー「……貴女も中々懸命ね。賢者の叡智を信じ、それに導かれ共鳴し合う。
                             あんたなら、特別に認めてあげても良いかもね。この――


              レミリア・パチュリー「「天才たる、この私の相棒に!」」


              レミリア・パチュリー「「………………………あれ?」」


果たしてどちらが「天才」で、どちらが「天才の相棒」なのか。
この解決不能な難題を前に、改めて強固なものとなりつつあった二人の友情は……割とアッサリ崩壊した。

734 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:10:06 ID:???
――と、言ったところで今日の更新はここまでです。
明日は博麗チームの描写を薄味にして、後半開始まで行ければと思っています。
皆様、本日もお疲れ様でした。

735 :森崎名無しさん:2015/08/21(金) 02:35:10 ID:???
その掛け声で三杉スレ思い出す。
乙でした。まさかれーせんもレジスタに...?

736 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:51:25 ID:???
こんばんは。少しだけになりましたが更新再開します。
>>735
乙ありがとうございます。
なんかノリでこのセリフが出て来ました。あのスレは逆境からの逆転が本当に熱かったですよね。
鈴仙も適正はありそうですが、レジスタと言ったら何だかんだでパチュリーさんなイメージですね。

737 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:53:07 ID:???
*****


〜博麗連合2015 ロッカールーム〜


霊夢「……と、言う訳で。後半戦も今までと同じで構わないわ。はい、解散」

逆転の為の秘策に盛り上がるスカーレットムーンズとは裏腹に、
現在2点のリードを得ている王者・博麗連合のハーフタイムミーティングは手短だった。
チームワークとは各人のスタンドプレーの積み重ねから発生する。
キャプテンの霊夢を始めとして、割と多くのチームメイトがそうした考えを持っているが為に、
彼女達が打ち合わせる事は少なく、またそれに対する不満も見られない。

森崎「(いやいやいや……おかしいだろ。紅魔は絶対、後半で何か作戦を変えて来る筈だぞ。
各選手が真っ直ぐ攻めて、真っ直ぐ守るだけじゃ、勝てねーって。――これまでは、それで勝ってたけど)」

……もっとも、不満は「見られない」だけであって存在はする。主に森崎の頭の中に。

森崎「(たしかに、これまでの試合では霊夢みたいな万能選手が臨機応変に動いて、突発的に生じた穴を埋めたりもしていた。
そしてそれが、天子のオーバーラップやアリスの戦術。小町のサボリプレイが際立つ結果にもなっていた。
その辺りは評価してやろうじゃねぇか。美辞麗句を吐いて結局は自分だけが活躍するよか、よっぽど良い。
だが――俺の経験則で言えば、紅魔スカーレットムーンズは、
そんなノビノビとしたプレーだけで勝たせてくれるほど、甘いチームじゃない筈だ)」

森崎は霊夢を評価していない訳では無い。
むしろ日頃の彼基準で言えば、翼に向ける信頼感と同等の物を、森崎は霊夢に対して向けている。
ただ何となく、自分よりも偉そうにしていているのが気にくわない、という感情論が大きい。翼と雰囲気似てるし。

森崎「(何時もなら、俺のシンパを囲って優しく俺流作戦をねじ込んでやる所だが――ちっ。
あの変な白黒帽子ヤローめ、どこで油を売ってやがる?)」

738 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:56:14 ID:???
結局正GKには成れたものの、正キャプテンにはなれなかった森崎は、
それでも諦めず自身の派閥を作って、霊夢に意見する機会を設けていた。
しかし、その際森崎は、利害関係が一致し親睦を深めた魔理沙を通じて意見を発信するようにしている。
一見中立で冷静であるように見れる霊夢はどこか、魔理沙に対して特別に甘い所があるため、
魔理沙をメッセンジャーにすると、自分の意見が通りやすいという利点があると森崎は知っていた。
……しかし、その肝心な魔理沙は居ない。
先ほど霊夢と会い、「飲み物を買いに行く」と言ったきり、戻って来ていなかった。

森崎「(……まぁ、今ムリに言ってやる事でもねぇか。それに不意打ちなら何時だって出来る。
敵を欺くにはまず味方から、とも言うしな。ククク……)」

試合再開3分前を切っても戻ってこない魔理沙を、森崎は待つのを止めた。霊夢への進言もしなかった。
戦略家でもあり奇策家でもある彼は、現在進言しない事で、今思いついた奇策をより効果的に行えると判断したからだ。
この飽きっぽさ……では無く柔軟さも森崎の特徴だった。

森崎「(前半で俺の体力は割と減ったが、それは相手も同じ条件。
だから相手がそう攻めようとも、後半開始直後から特攻することはない筈だ。
さーて。どうやって目立つか考えようかな。無難にゴールトゥゴールか、それとも根釈迦ポーズか……)」

どこまでも前向きに、自由に発想し、そして努力し。森崎は未来を切り開いて来た。
それはこれまでの人生でもそうだったし、この幻想郷にやって来た今もそうである。
だから、きっとこれからの試合、これからの人生でもそうなる筈だ。
そう思って森崎は後半に備えて大きくノビをして――。


……ズキッ!

森崎「……ッ!(――またかよ。また腰が痛みやがった……練習のし過ぎか?)」


腰に鈍く走った痛みが、現実やら限界やらを直視しない、間抜けな自分を嘲笑っているような錯覚を覚えた。

739 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:59:11 ID:???
……と、いったところで今日の更新はここまでです。明日から後半戦に入ります。
皆さま、本日もお疲れ様でした。

740 :& ◆bKGLVse38s :2015/08/23(日) 00:43:39 ID:???
すみません、今日は飲み過ぎたので更新をお休みさせていただきます。
明日はその分更新したいと思っています(願望)

741 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:02:56 ID:???
*****

〜モリヤスタジアム・フィールド〜

実況「さあ〜〜! 後半戦も間もなくキックオフです! 全幻想郷代表選抜大会、準決勝戦の第2試合!
紅魔スカーレットムーンズ対博麗連合2015の勝負は、現在0−2で博麗連合が大きくリードしています!
前半戦は紅魔も善戦するも、博麗連合の圧倒的総合力に押された展開が目立ちましたが、
果たして後半戦はどうなるのか! 最後の最後まで目が離せません!!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「お嬢様頑張ってー!」「魔理沙ー! ファイナルスパークやってー!」「総領娘様ー!」「フランちゃーん!」
「森崎!」「森崎!」「霊夢!」「霊夢!」「パチュリー!」「中国!」「咲夜さん!」「萃香さーん!」「じゃ、僕はアリスさんで…」

実況「ご覧ください、この観客達の大歓声を! もはや決勝戦と称しても違和感が無いまでの熱気! 盛り上がり!
そして〜! そして今、両チームのメンバーが最後の35分間を戦いにフィールドへと入って行きます!
博麗連合2015は前半戦からメンバー・陣形の変更は無し。
ハクレイタイプの4−3−3で、揺るぎない王者の意志を滲ませつつ後半戦へと向かいます!
一方紅魔スカーレットムーンズは……!」

ザッ、ザッ……。

佳歩(観客席)「――あ。あの布陣は……!」

鈴仙(観客席)「えっ。……あ、ほ、ホントだ。めちゃくちゃ陣形が変わってる……!?」

佳歩の素っ頓狂な声に釣られて、紅魔スカーレットムーンズの布陣を見た時、鈴仙は一瞬ではあるが言葉を詰まらせた。
彼女達の布陣が、前半戦の時に比べ大きく変わっていたからである。
周囲の観客席からも若干のどよめきが聞こえる中、実況は続けた。

実況「――スカーレットムーンズ、後半戦は……なんと!
幻想郷きっての超攻撃的チームである彼女達らしからぬ布陣を敷いて来ました!
具体的なフォーメーション表は……以下の通りになります!」

742 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:06:04 ID:???

〜後半開始時の両チームフォーメーション〜

−−@−− @森崎
−−A−− A玄爺
B−D−C B天子 D萃香 C中里
−−−−−
E−I−G E衣玖 I霊夢 Gアリス 
−−−−−
−−−J− J針妙丸  
F−H−− F小町 H魔理沙
博麗連合2014:4−3−3
紅魔スカーレットムーンズ:4−6−0
−−−−−
−−−−−
−−H−J Hフラン Jレミリア
I−−−− Iパチュリー
−FEG− E小悪魔
C−D−B C美鈴 D咲夜
−−A−−
−−@−− @陸


743 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:07:37 ID:???
実況「スカーレットムーンズはゼロトップ! この布陣自体は確かに斬新ですが、
かつても人里FCが永遠亭ルナティックスとの練習試合にて組んだ事もあるため、
珍しさこそありますが、決して奇策とまでは言えない陣形です。
ですが、スカーレットムーンズは更に変化を加えて来ている!
中心選手であるパチュリー選手とレミリア選手をサイドに寄せて、フランドール選手を中央に置くという、
これまた幻想郷的には新しい配置を押し出してきました! これには、果たしてどういう意図があっての事でしょうか!!」

慧音(観客席)「……本来、0トップとはセンタートップが柔軟にボールをキープしたり、
少ないタッチでウインガーへとパスを出したり、自身が上がって決めに向かうことに特化させた戦術。
決してこれ自体は、攻めのタレントに恵まれるスカーレットムーンズにとって、おかしい布陣では無い。が……」

妹紅(観客席)「あれ? それだったら、センタートップはシュートに特化した選手のフランじゃなくって、
万能的にパスやポストプレイも出来る、レミリアかパチュリーにさせた方が良いんじゃないか?
私達がルナティックス入りする前にやった練習試合では、そんな理由でパスカル君をセンターに置いてたし」

輝夜(観客席)「――ていうか、ぶっちゃけ前半動きすぎたから、二人とも休んでるだけじゃないの?
んで、フランドールはまだ余力が残ってたし真ん中に置いただけ〜……ってのは?
0トップにしたのは、中盤でパスワークして、点差をこれ以上拡げたく無かったからとか」

つかさ(観客席)「あの誇り高いレミリアさん達が、そんな逃げのような戦術をするとは思えません。きっと、何か理由がある筈です……!」

中山(観客席)「(博麗連合は見た感じ、敵の戦術を受けて柔軟に攻め方を変える腹だろうが。
きっと、それだけでは立ちいかない状況も出て来るだろう。
そして、そんな状況は大体、森崎が喜んで奇策をしそうな場面だ。
……フフ。この後半戦、楽しみだなァ)」

鈴仙(観客席)「(中山さんの目が森崎の方を見つめて輝いてる。まるで、恋する乙女みたいね……)」

744 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:15:02 ID:???

レミリア「……前半戦の借り。必ず返させて貰うわよ」

霊夢「はいはい、頑張ってね(……魔理沙は戻って来たけれど。結局、あれから何も話せなかったなぁ……)」

魔理沙「…………(――もう何も怖くない。怖くないぞ。だって私は決めたんだから。私は、霊夢と……!)」

パチュリー「………(――大丈夫。私の知恵とレミィのカリスマ。
そして皆の結束があれば、私達の作戦はきっと必ず成功する。……博麗連合。この試合、私達の勝ちよ)」

森崎「(案の定、また何かやって来たな……スカーレットムーンズめ。
だが、奇策とは使いどころを見極めてこそ奇策なんだ。ただのヤケクソじゃ、俺にゃ勝てねぇぞ)」

観客席が両チームの戦術と戦略に思いを巡らせ、
一方フィールドでは両チームの両雄が互いに睨み合い、想いをぶつけ合う。
そんな一触即発の緊張状態の中。


――ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!


――全幻想郷選抜大会の準決勝戦第二試合の後半の開幕が、高らかに宣言された。

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