キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【影の役者】鈴仙奮闘記30【天才の相棒】

1 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/06/29(月) 22:01:33 ID:???
このスレは、キャプテン森崎のスピンアウト作品で、
東方Project(東方サッカー)とのクロスオーバー作品です。
内容は、東方永夜抄の5ボス、鈴仙・優曇華院・イナバがサッカーで師匠を超えるために努力する物語です。
他の森崎板でのスレと被っている要素や、それぞれの原作無視・原作崩壊を起こしている表現。
その他にも誤字脱字や稚拙な状況描写等が多数あるかと思いますが、お目こぼし頂ければ幸いです。

☆前スレ☆
【レイセンガ】鈴仙奮闘記29【タダシイヨ】
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1432654054/
☆過去ログ・攻略ページ(キャプテン森崎まとめ@Wiki内)☆
http://www32.atwiki.jp/morosaki/pages/104.html

☆あらすじ☆
ある日突然幻想郷にやって来た外来人、アラン・パスカルと中山政男との出会いにより、
師匠、八意永琳に並ぶ選手になると決心した鈴仙・優曇華院・イナバ。

全幻想郷代表選抜大会で活躍し、代表メンバーの一員となる事を夢見てきた鈴仙はある日、
自身が『プロジェクト・カウンターハクレイ』のキャプテン候補に選ばれている事を知る。
それは霊夢や紫達幻想郷に敵対し、以て幻想郷の価値観を覆すという壮大な計画。
更に鈴仙は、全幻想郷代表の下部組織、『リアル・幻想・セブン』の一員として、
乱心した八雲紫と幻想郷を救って欲しいと紫の式・八雲藍から懇願された。

幻想郷を変える為に戦うか、幻想郷を守るために戦うか。そう思い悩む鈴仙の心の隙を突く悪しき者もいた。
それは『プロジェクト・カウンターハクレイ』と『リアル・幻想・セブン』との争いに乗じ漁夫の利を狙う第三勢力。
聖徳ホウリューズの一員にして、『ハイパーカンピオーネ』計画の一翼を担う天性の詐欺師・岬太郎だった。

試合開始前、岬は鈴仙と同じFWの相棒・因幡佳歩の疑心を巧みに利用し、チーム内における不和を演出する。
それは鈴仙により破られ失敗に終わってしまうが、しかし、それでも尚聖徳ホウリューズは強かった。
観客扇動に一芸特化選手、特殊戦術の使用。あらゆる手に苦しめられるルナティックスだったが、
前半終了間際にパスカルが覚醒して1点をもぎ取り、試合は1−1の同点に。
そして迎える後半戦。影の役者がひしめく全幻想郷選抜大会を勝ち抜くのは一体――。

716 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:19:25 ID:???
こんばんは、今日も書いていきます。
>>712
乙ありがとうございます。
中山さんは「まだ」インチキじゃないので大丈夫です…たぶん。
>>713
乙ありがとうございます。
カウンターシュートは必殺ブロックなので何も問題ないですね。
>>714
乙ありがとうございます。
萃香のカウンターシュートはかなり強いですので、試合の時はまた色々考えて頂ければ嬉しいです。
>>715
姫様はやっぱり幻想郷最速でしたね。人望もナンバーワンですし、すごいなーあこがれちゃうなー(棒)

717 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:20:49 ID:???
ザワザワ……ザワザワ……。

鈴仙(観客席)「え……? 何、アレ……?」

佳歩(観客席)「あの紅魔スカーレットムーンズが無得点で、しかも2点差……。それも、前半戦だけで?」

霞(観客席)「スカーレットムーンズは間違いなく全力。
……いや、むしろ後半戦を顧みず、全力以上の攻勢に出続けていたのに……!」

輝夜(観客席)「……あー、こりゃもう試合終わったわね! 試合結果は33−4かな!?
もう帰ってゲームしてた方が良いんじゃない!?」

妹紅(観客席)「――輝夜、空気読んで」

輝夜(観客席)「ご、ごめん。……流石に悪かったわよ」

ウサギC(観客席)「(33てんとれるいっぽうてきしあいで4しってんするもりさき むのう)」

――萃香が放った渾身のカウンターシュート、四天王奥義『三歩壊廃』。
それはパッと見に分かる破壊力だとか派手さは乏しい。しかし。それは確実にえげつなく、おぞましく。
このフィールド上に漂っていた見えない『何か』を完膚なきまでに破壊し尽ていた。

永琳(観客席)「……見なさい、フィールド上のスカーレットムーンズメンバーを。
嫌味なまでに自信に満ち溢れていた彼女達がああも崩れるなんて。とても、滅多にお目に掛かれないわ」

永琳は僅かな親しみと同情を籠めながら、フィールドを指し示す。
あの永琳がライバルチームの選手に対し、ここまで感傷的になるのも珍しいと思って、
鈴仙はふと目線をフィールド上に向け直すと――そこには、とても「感傷的」では済まされぬ、傷ましい光景が広がっていた。

718 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:21:51 ID:???
パチュリー「……はぁ、はぁ……!(駄目。前半に飛ばして少しでもリードを奪っておく心算が、
蓋を開けてみればこちらは満身創痍で、相手は2点リードだなんて。
こんなの、流石に想定の……範囲内ではあったけど。それでも、やっぱり現実に来ると、きついわね……)」

元々体力の無いパチュリーは自身の酷使が答えて、肩で息をしながら打ちひしがれている。

レミリア「……(――なんてこと。この私が。レミリア・スカーレットが……敵に恐怖している?
敵の攻撃を凌ぎ、中盤を搦め手で突破し、最終ラインに何度も攻撃を重ね……。
それでもなお、敵には奥の手が隠されていたから?
――たったそれだけの理由で、私が怯えてるとしたら……とんだ屈辱ね)」

誇り高く負けず嫌いのレミリアは、もしかしたら人生で初めての敗北感に唇をかみしめている。
その恐怖と屈辱感は、まるで自分が石になって動けなくなる程に強かった。

フラン「……ウフフ。ウフフフフ……(今までがんばったのに。結局こんな結果?
何よ。そんな事聞いていないんだから。だから、きっとこれは夢。
夢だったら……何をしても良いのよね、ウフフ……)」

フランドールの脳内に、再び狂気の衝動が溢れつつあった。
レミリアとの必死の特訓で克服した筈の正気の鎧は、全てを破壊するシュートの前では無力だった。

咲夜「……」

美鈴「……何も、言えませんね」

小悪魔「……パチュリー様。私にはやっぱり……荷が重すぎましたよ……?」

咲夜と美鈴、そして小悪魔。従者達は、自らの無力に対し、完璧に言葉を失っていた。
彼女達に横たわるのは、ズタズタに破壊された誇りと希望。そして勝利への道程のみだった。

719 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:23:25 ID:???
メイド妖精「「「……い、いたい痛い……!」」」「「もうやだよ、怖いよ……!」」

陸「ぐ、ぐああああ……ッ。熱いアル。体中の骨がアメ細工みたくぐにゃぐにゃになってるアル……!」

少なくとも自身にまでボールは来るまい。
そう安堵していた時に、不意打ち的にシュートの衝撃を受けたメイド妖精達と陸は、
もう少し分かり易い意味でズタズタにされていた。
シュートを受けた彼ら彼女らはそのあまりの鋭さに痛み泣き叫び、
遠目で見ていただけの者も、仲間の痛々しい姿にすっかり戦意を喪失していた。


萃香「――私は勇儀程、腕っぷしにゃ自信が無いモンでね」

そんなスカーレットムーンズの様子を見てほくそ笑む小鬼が一匹。
萃香は可愛らしい外見とは裏腹、強者らしく勿体ぶるように語り出した。

萃香「だけどさ、鬼ってのはただの脳筋ってのとも少し違うわけだよ。……勇儀は脳筋だけど。
打ち出の小槌を作ったのだって鬼だし、禅の大家を調べてみても、大体が鬼かその系譜に連なる。
鬼ってのはいわば、この世ならざる強さの権現みたいなもの。
だから、こうやって人の精神を粉々にするって意味での「壊廃」……ってのも、立派な特技なのさ」

森崎「(チッ。ここぞとばかりにカッコつけやがって……。
さっきだって、『超モリサキ』にさえなっていれば、余裕で取れたのに……!)」

レミリア「……………」

彼女の言葉に反応する者は、後ろで恨みがましく負け惜しみをする森崎以外に居なかった。
減らず口のレミリアすらも、まるで年相応の少女のように、萃香の言葉に真剣に耳を傾けていた。

720 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:25:08 ID:???

パチュリー「……帰りましょう、レミィ、皆。前半戦は完璧に私達の負けだったわ。
だから、もう一度考えましょう。――この崩れきった現状を打破する、あんた好みの奇跡の采配をさ」

レミリアに代わって、この場を取り仕切ったのは親友のパチュリーだった。
石像のように固まるレミリアを引きずり、狂気の世界に足を踏み入れつつあるフランドールを宥め、
咲夜と美鈴、そして小悪魔を従え、ロッカールームへと消えて行った。
メイド妖精は始め戸惑っていたがやがて落ち着いて。
控えを含めた6人がかりで、倒れ伏した陸を持ち上げながらそれに続いた。


***


霊夢「……魔理沙」

魔理沙「……………」

スカーレットムーンズが立ち去り、
したり顔の萃香と悔しそうな森崎が仲良く控室へと向かい、天子と衣玖と中里が軽口を叩き合いながら続き。
小町が玄爺の背中に乗って昼寝をする中、集団の輪に入りそびれてあたふたするアリスを見送って。
――博麗連合の絶対的トップ下と絶対的ストライカーは、
二人きり(正確には針妙丸が霊夢のリボンで寝ていて三人だが)となった。霊夢が魔理沙を呼び止めたのだ。

霊夢「そ、その。さっきは悪かったわね、大人気なく手を上げちゃってさ。でも、えっと……」

最後に崩されたとはいえ、悪魔なりの友情で博麗連合の牙城を崩しかけたスカーレットムーンズの姿を見て、
霊夢はやはり自分も、魔理沙と仲直りをしたいと思うようになっていた。
そんなしおらしい気持ちは自分らしくないと霊夢も思っていたのか、最後の方の言葉は消え入るようだったが。

721 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:29:42 ID:???
魔理沙「無理して謝らなくても良いぜ。だって、悪いのは誰がどう見たって私なんだからな」

スッ……。

霊夢「あっ、待ちなさいよ魔理沙。そっちはロッカールームじゃなくて観客席じゃない。まさか……!」

ただ、魔理沙は悲しい事に、霊夢程感傷的にはなっていなかった。
……いや。霊夢に甘えたい気持ちがあったとしても、彼女の弱さはそれを許さなかった。
霊夢の言葉を遮って、魔理沙は彼女とは反対の方向へと向かって行った。

魔理沙「――まさか、恥ずかしくて逃げ出すんじゃないか……ってか?
それはお前の願望だろ。私は単純に、自動販売機で ブランデー入り紅茶 を買いに行くだけだ。
悪いが、私は見苦しくてもやり続けるぜ。この身体が、完全に動かなくなるまでは、な」

カッ。カッ、カッ……。

霊夢「……魔理沙。行っちゃった」

はぁ、と霊夢は溜息を吐く。元々、こういう陰気くさい喧嘩は得意じゃない。
自分はもっと、真正面からグーで殴り合う喧嘩の方が向いている……。
そう心の中で魔理沙へのあてどない愚痴を呟きつつ、
霊夢は仕方なしに他のチームメイトの待つ控室へと向かう事にした。

722 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 00:33:44 ID:???
やけ酒かな?

723 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:35:29 ID:???
針妙丸「ねぇ霊夢。大丈夫? さっき、結構ケンアクなムードっぽかったけど」

霊夢「……何よ。アンタ、途中から起きてて聞いてたのね」

フィールドとは一変し、静かでがらんとした、ロッカールームへと続く廊下。
そこで小人サイズに戻った針妙丸は霊夢の頭上で、心配気に声を掛けてくれた。
霊夢は最初、悪趣味ね、と冗談めいてぼかしつつ、彼女に対し無視を決め込もうとしていたが。

針妙丸「……魔理沙は、自分はボロボロになっても良いから、霊夢と一緒に戦いたい。
でも霊夢は、魔理沙にボロボロになって欲しくない……んだよね?」

霊夢は、針妙丸がふと発したこの一言に対し、どうしても何かを言いたい。伝えたい。
そんな強い気持ちにふと囚われてしまい――。

霊夢「……魔理沙はそう思ってるのかもね。でも、私がそんな事、思う訳ないでしょ?
さっきだって、アレじゃあ試合にならないと思ったから、何とかして連携を取り戻したいって思っただけ。
いわば戦略的説得よ。うん、それ。戦略的説得」

その刹那。こんなにも恥ずかしい気持ちを抱いていた自分に腹が立ってしまい、
針妙丸の問いかけに対し、……霊夢は反射的に嘘を吐いた。

724 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/20(木) 00:38:20 ID:???
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
>>722
台詞に反してかなり余裕タップリですね…>ブランデー入り紅茶

皆様、本日もお疲れ様でした。

725 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 12:18:45 ID:???
この後の展開が読めた


魔理沙「霊夢・・・人間ってのは努力や才能に限界があるなぁ
    私が短い人生で学んだことは人間は努力をすればするほど上を向くのが苦しく
    努力に価値が見いだせなくなるってことだ!」

霊夢「えっ?大丈夫?」

    「人間を超えるものにならねばな・・・
    私は人間をやめるぜ!霊夢ーッ!私は人間を超越するッ!
    霊夢!お前の血でだァーッ!」

吸血鬼となる→吸血鬼なのでチームを裏切る→外に出た瞬間消滅
これに違いない

726 :森崎名無しさん:2015/08/20(木) 13:45:16 ID:???
試合後に川にダイブしないか心配だな。
まぁ後半次第だが

727 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:50:23 ID:???
こんばんは、後半戦の詳細なプロットが出来ましたのでまた更新していきます。
>>725
魔理沙は結局人間で死にそう…と、思いつつ確かにこの展開的には吸血鬼にでもなりそうですねw
>>726
メタ的に言うと、魔理沙が川にダイブしたら決勝がヌルゲーになるので大丈夫です(爆)

728 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:51:46 ID:???
*****


〜紅魔スカーレットムーンズ ロッカールーム〜

レミリア「…………」

咲夜「……(あのお嬢様が、こうも消沈されるとは。従者として、何たる不覚……!)」

フラン「………うー」

美鈴「あ……あはは……。はぁ……」

小悪魔「……ひっく。ぐすんっ……」

陸「……あ、アイタタ! おいメイド妖精、もっとクスリは優しく塗るアルね!」

パチュリー「………」

スカーレットムーンズのロッカールームは、キャプテンであるレミリアを筆頭に静まっていた。
広く感じる控室では、咲夜が苦々しげに歯ぎしりをし、フランドールが不機嫌そうに唸り、
美鈴が愛想笑いと溜息を交互に繰り返し、小悪魔が自身の無力さに泣きじゃくり、
陸がメイド妖精に横柄な注文を投げかけている以外に動きはない。

パチュリー「……(……さっきはレミィにああ言ったけれど。ハッキリ言って今の状況は厳しいわ。
大魔法『フォトシンセシス』でギリギリ体力を持たせている私は勿論の事、
必殺シュートを何度も撃ったレミィやフラン。何度も大型シュートをセービングした陸の体力も心許ない)」

しかし、動かない中にも、頭を必死に回転させて、後半の勝機を見出そうとする者は居た。
それは勿論、紅魔館の自称賢者にして知識人でもある魔法使い、パチュリー・ノーレッジだった。
思索こそが存在意義たる種族魔法使いにとって、魔術の実験であってもサッカーの試合であっても同じ。
彼女は、考える事によりこの2点差をひっくり返す方法を見出そうとしていた。

729 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:52:47 ID:???
パチュリー「(――博麗連合の守備陣について。もう一度おさらいしておきましょうか)」

勝つには勿論これ以上の失点は避けなくてはならないが、それ以前に得点出来なければ負けである。
そう思ったパチュリーは、惚けたレミリアが正気を取り戻すまで、敵の守備戦力を振り返る事にした。

パチュリー「まず……。比那名居天子はタックルとブロック、それと攻撃に優れた攻撃的サイドバック。
性格は自分勝手であり、持ったボールを離さない傾向がある。
彼女は一番挑発の余地と効果がありそうね。……挑発を受けて気を昂らせるタイプだから、その後の報復は怖いけれど。

中里正人はパスカットとボールキープ、その他守備一般に長けた優秀なサイドバック。
一部新聞では覗きの常習犯と噂されているけれど、サッカーにおいては真面目な優等生。
ただ、キャプテンの霊夢よりも森崎を信望している噂があるわ。もしかしたら、指揮系統のブレが隙になるかも。

伊吹萃香。彼女のブロックが恐ろしい事は……言うまでも無いわね。
ただ、何だかんだで彼女のCB歴にはブランクがある。
だから、筋金入りのCBだった八坂神奈子やレティ・ホワイトロックよりは、経験不足による弱みがある筈よ)」

レミリア「………………」

普段なら、この辺りで何らかのツッコミあるいは関係の無い雑談を入れてくれるレミリアは、
やはり石のような棒立ちのまま、特別何かを喋る気配はない。
……気にせず、パチュリーは脳内での情報整理に努める事にする。

パチュリー「(……玄爺も油断ならない選手だけど、私が問題視しているのはそうじゃない。
――要するに、博麗連合の森崎有三。彼を破るにはこの壁を乗り越えなくてはならないという事実。
そして、その森崎有三もまた、彼女達を大きく超える実力の持ち主であるという現実よ。

彼のセービングは間違い無く超超一流。並のシュートでは彼を削る事しかできない。
無論、あれ程の動きをするのだから、おおかた体力不足とか欠点はあるのだろうし、
永遠亭ルナティックスの蓬莱山輝夜みたいに、セービングに長けた反面、一対一の経験値が低いという可能性もある。

730 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:54:12 ID:???
パチュリー「(……だけど、その両者も気軽に試す事はできない。何故なら、博麗連合の守備陣が強力だから。
シュートで削ろうとしたら、伊吹萃香に『カウンターシュート』を放たれて。
ドリブルで一対一を狙おうとしたら、比那名居天子や中里正人のような、タックルの名手に刈られてしまう。
――そして私達は、勝つためには一厘のミスも許されない。 ……こうして考えてみると、絶望的ね)」

……と。ここでパチュリーは大きく溜息を吐いた。
思考を深めれば深める程、自分が泥沼に嵌ってしまう事が分かってしまったからだ。
スカーレットムーンズが勝利するには、後半戦終了までに少なくとも2点を奪わなくてはならない。
しかし、その目標を達成するには現実的な障害が多すぎる。
考えれば考えるほど自身にとって不利な情報が浮かんで来る現状に至り、流石の賢者も辟易していた。

パチュリー「(……ダメだわ。こりゃ。前半戦ラストのように、総力を挙げて点を取りに行けば、
1点を奪える程度の算段ならあるけれど。でも、ウチじゃあそれが精いっぱい。
どう考えても、最低2点。最終的には3点を奪える戦法なんて、思いつかない。
如何に私が賢者と言えども、この現実を。敗北の運命を操り曲げる力なんて持っていないんだから――)」

レミリア「――そうだ! これだ!! この作戦でいきましょ、パチェ、フラン! これなら完璧よ!!

パチュリー「……」

――そこまで言いかけて、パチュリーの意識に冷や水をぶっかける大声が聞こえた。
その迷惑な声を上げたのは、さっきまで自分が心配していた筈の友人だった。

パチュリー「……あんた。さっきシュートを決められて落ち込んでたんじゃ無かったのかしら」

レミリア「ふざけるな。私がそんな子どもみたいに落ち込む訳無いでしょ。くよくよタイムなんて5秒で充分だ。
あれから今まで、どうやって逆転しようかっていう、奇跡の作戦を考えていたのよ」

咲夜「成程……! ――つまり、5秒間は落ち込まれてらっしゃったのですね」

レミリア「……咲夜。あんた最近私に厳しくない?――まぁ、別に良いや。
兎に角、見つかったのよ。にっくきモリサキから、2点程掠め取る方法がさ!」

731 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 00:55:38 ID:???

さっきまでの沈黙はどこへやら、レミリアはまるで妖精のようにかしましく後半戦への希望を語っていた。
それも、パチュリーが先程不可能と断じかけた得点への展望を込みで。

パチュリー「そう。それは良かった。
私も漸く、全力で総攻撃を仕掛ければ辛うじて1点は取れるという試算を出したばかりなの。
だからあんたのその希望的観測は間違いだと、早々に知れて良かったわ」

レミリア「んー? いつ私が総攻撃で2点を取るだなんて言ったか? 私はもっと色々と考えてたんだよ。
いいか、よおく聞いて……」

パチュリー「はいはい……」

子どものままごとに付き合う気持ちで、パチュリーは腰を屈めてレミリアの口元に耳を近づけた。
レミリアは悪戯を披露する子どものような喜色満面で、パチュリーにその戦術とやらを語っていく。
パチュリーは最初、呆れたような顔をしていたが……しかし途中で、その表情が真剣に変わっていった。

パチュリー「……それ、馬鹿っぽいけれど。存外に行ける気がするわ」

レミリア「でしょ? ほら、私の策で2点と、パチェの策で1点。これで3点だ。
後は中国がトチらなければ2−3で試合は終了。私達の勝ちじゃあないか」

陸「(しれっと朕にプレッシャー与えるなアル……)」

この絶望的状況を前に、なおも大胆不敵な態度を取るレミリアを中心に、
一度は破壊し尽された紅魔スカーレットムーンズの士気は回復していく。


レミリア「皆、この試合……勝つぞ! Forza SCARLETMOONS!!」

スカーレットムーンズメンバー「「「「「――おう!!!!!!!!!」」」」」

732 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:04:28 ID:???
そして最後に一言。これで彼女達は再び戦える体勢へと戻った。
パチュリーが幾ら思案しても出ない結論を、レミリアは一発で叩きだしてみせた。
それは如何に知識を上積みしようと再現できない、彼女特有の「カリスマ」と呼ぶに相応しい神通力だった。

レミリア「……でも。ありがとね、パチェ」

パチュリー「……え? 私は何もしてないけど?」

だがしかし、レミリアは最後、パチュリーにだけ聞こえる声で可愛らしくこう囁いた。
訝しむパチュリーを尻目に、レミリアはこう告白する。

レミリア「――さっき失点した時ね。ぶっちゃけ結構凹んでたのよ、私。
5秒どころか、ずっと立ち直れないかも? ……って、思っちゃったくらいに。
でも、私に代わって場を仕切って、色々と考えてくれてたパチェの姿を見て。
それで……やっぱり、私がやらなきゃダメだって思えたの。 だって――パチェ、頭は良いけど鈍くさいし」

パチュリー「何それ。私にリーダーシップが無い事への嫌味かしら」

レミリア「違うってば。ただ……やっぱ私の相棒と言ったら、パチェだなぁって。そう思ったの。
咲夜は従者だし、美鈴は頼りないし、中国は残念だし、フランは……まだ、私が守ってやらなきゃだし」

パチュリー「……そう。生憎と、それには私も同意だわね」

レミリア「本当? フフ、私達って意外と気が合うのね。……知ってたけど」

733 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:08:49 ID:???
友人の告白を聞いて、パチュリーも実は悪い気がしない。
自然と、二人の声はまるで旧年来の姉妹のように自然とシンクロしていき。
――やがて二人は、同時に一つの結論を出すに至った。


レミリア「やっぱり思ったのよ。紅帝たる私と同格の力を持ち、
     同じ誇りの為に背中を預け合う。あんた以外に適任はいないね。この―― 

                     パチュリー「……貴女も中々懸命ね。賢者の叡智を信じ、それに導かれ共鳴し合う。
                             あんたなら、特別に認めてあげても良いかもね。この――


              レミリア・パチュリー「「天才たる、この私の相棒に!」」


              レミリア・パチュリー「「………………………あれ?」」


果たしてどちらが「天才」で、どちらが「天才の相棒」なのか。
この解決不能な難題を前に、改めて強固なものとなりつつあった二人の友情は……割とアッサリ崩壊した。

734 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/21(金) 01:10:06 ID:???
――と、言ったところで今日の更新はここまでです。
明日は博麗チームの描写を薄味にして、後半開始まで行ければと思っています。
皆様、本日もお疲れ様でした。

735 :森崎名無しさん:2015/08/21(金) 02:35:10 ID:???
その掛け声で三杉スレ思い出す。
乙でした。まさかれーせんもレジスタに...?

736 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:51:25 ID:???
こんばんは。少しだけになりましたが更新再開します。
>>735
乙ありがとうございます。
なんかノリでこのセリフが出て来ました。あのスレは逆境からの逆転が本当に熱かったですよね。
鈴仙も適正はありそうですが、レジスタと言ったら何だかんだでパチュリーさんなイメージですね。

737 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:53:07 ID:???
*****


〜博麗連合2015 ロッカールーム〜


霊夢「……と、言う訳で。後半戦も今までと同じで構わないわ。はい、解散」

逆転の為の秘策に盛り上がるスカーレットムーンズとは裏腹に、
現在2点のリードを得ている王者・博麗連合のハーフタイムミーティングは手短だった。
チームワークとは各人のスタンドプレーの積み重ねから発生する。
キャプテンの霊夢を始めとして、割と多くのチームメイトがそうした考えを持っているが為に、
彼女達が打ち合わせる事は少なく、またそれに対する不満も見られない。

森崎「(いやいやいや……おかしいだろ。紅魔は絶対、後半で何か作戦を変えて来る筈だぞ。
各選手が真っ直ぐ攻めて、真っ直ぐ守るだけじゃ、勝てねーって。――これまでは、それで勝ってたけど)」

……もっとも、不満は「見られない」だけであって存在はする。主に森崎の頭の中に。

森崎「(たしかに、これまでの試合では霊夢みたいな万能選手が臨機応変に動いて、突発的に生じた穴を埋めたりもしていた。
そしてそれが、天子のオーバーラップやアリスの戦術。小町のサボリプレイが際立つ結果にもなっていた。
その辺りは評価してやろうじゃねぇか。美辞麗句を吐いて結局は自分だけが活躍するよか、よっぽど良い。
だが――俺の経験則で言えば、紅魔スカーレットムーンズは、
そんなノビノビとしたプレーだけで勝たせてくれるほど、甘いチームじゃない筈だ)」

森崎は霊夢を評価していない訳では無い。
むしろ日頃の彼基準で言えば、翼に向ける信頼感と同等の物を、森崎は霊夢に対して向けている。
ただ何となく、自分よりも偉そうにしていているのが気にくわない、という感情論が大きい。翼と雰囲気似てるし。

森崎「(何時もなら、俺のシンパを囲って優しく俺流作戦をねじ込んでやる所だが――ちっ。
あの変な白黒帽子ヤローめ、どこで油を売ってやがる?)」

738 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:56:14 ID:???
結局正GKには成れたものの、正キャプテンにはなれなかった森崎は、
それでも諦めず自身の派閥を作って、霊夢に意見する機会を設けていた。
しかし、その際森崎は、利害関係が一致し親睦を深めた魔理沙を通じて意見を発信するようにしている。
一見中立で冷静であるように見れる霊夢はどこか、魔理沙に対して特別に甘い所があるため、
魔理沙をメッセンジャーにすると、自分の意見が通りやすいという利点があると森崎は知っていた。
……しかし、その肝心な魔理沙は居ない。
先ほど霊夢と会い、「飲み物を買いに行く」と言ったきり、戻って来ていなかった。

森崎「(……まぁ、今ムリに言ってやる事でもねぇか。それに不意打ちなら何時だって出来る。
敵を欺くにはまず味方から、とも言うしな。ククク……)」

試合再開3分前を切っても戻ってこない魔理沙を、森崎は待つのを止めた。霊夢への進言もしなかった。
戦略家でもあり奇策家でもある彼は、現在進言しない事で、今思いついた奇策をより効果的に行えると判断したからだ。
この飽きっぽさ……では無く柔軟さも森崎の特徴だった。

森崎「(前半で俺の体力は割と減ったが、それは相手も同じ条件。
だから相手がそう攻めようとも、後半開始直後から特攻することはない筈だ。
さーて。どうやって目立つか考えようかな。無難にゴールトゥゴールか、それとも根釈迦ポーズか……)」

どこまでも前向きに、自由に発想し、そして努力し。森崎は未来を切り開いて来た。
それはこれまでの人生でもそうだったし、この幻想郷にやって来た今もそうである。
だから、きっとこれからの試合、これからの人生でもそうなる筈だ。
そう思って森崎は後半に備えて大きくノビをして――。


……ズキッ!

森崎「……ッ!(――またかよ。また腰が痛みやがった……練習のし過ぎか?)」


腰に鈍く走った痛みが、現実やら限界やらを直視しない、間抜けな自分を嘲笑っているような錯覚を覚えた。

739 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/22(土) 01:59:11 ID:???
……と、いったところで今日の更新はここまでです。明日から後半戦に入ります。
皆さま、本日もお疲れ様でした。

740 :& ◆bKGLVse38s :2015/08/23(日) 00:43:39 ID:???
すみません、今日は飲み過ぎたので更新をお休みさせていただきます。
明日はその分更新したいと思っています(願望)

741 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:02:56 ID:???
*****

〜モリヤスタジアム・フィールド〜

実況「さあ〜〜! 後半戦も間もなくキックオフです! 全幻想郷代表選抜大会、準決勝戦の第2試合!
紅魔スカーレットムーンズ対博麗連合2015の勝負は、現在0−2で博麗連合が大きくリードしています!
前半戦は紅魔も善戦するも、博麗連合の圧倒的総合力に押された展開が目立ちましたが、
果たして後半戦はどうなるのか! 最後の最後まで目が離せません!!」

観客「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「お嬢様頑張ってー!」「魔理沙ー! ファイナルスパークやってー!」「総領娘様ー!」「フランちゃーん!」
「森崎!」「森崎!」「霊夢!」「霊夢!」「パチュリー!」「中国!」「咲夜さん!」「萃香さーん!」「じゃ、僕はアリスさんで…」

実況「ご覧ください、この観客達の大歓声を! もはや決勝戦と称しても違和感が無いまでの熱気! 盛り上がり!
そして〜! そして今、両チームのメンバーが最後の35分間を戦いにフィールドへと入って行きます!
博麗連合2015は前半戦からメンバー・陣形の変更は無し。
ハクレイタイプの4−3−3で、揺るぎない王者の意志を滲ませつつ後半戦へと向かいます!
一方紅魔スカーレットムーンズは……!」

ザッ、ザッ……。

佳歩(観客席)「――あ。あの布陣は……!」

鈴仙(観客席)「えっ。……あ、ほ、ホントだ。めちゃくちゃ陣形が変わってる……!?」

佳歩の素っ頓狂な声に釣られて、紅魔スカーレットムーンズの布陣を見た時、鈴仙は一瞬ではあるが言葉を詰まらせた。
彼女達の布陣が、前半戦の時に比べ大きく変わっていたからである。
周囲の観客席からも若干のどよめきが聞こえる中、実況は続けた。

実況「――スカーレットムーンズ、後半戦は……なんと!
幻想郷きっての超攻撃的チームである彼女達らしからぬ布陣を敷いて来ました!
具体的なフォーメーション表は……以下の通りになります!」

742 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:06:04 ID:???

〜後半開始時の両チームフォーメーション〜

−−@−− @森崎
−−A−− A玄爺
B−D−C B天子 D萃香 C中里
−−−−−
E−I−G E衣玖 I霊夢 Gアリス 
−−−−−
−−−J− J針妙丸  
F−H−− F小町 H魔理沙
博麗連合2014:4−3−3
紅魔スカーレットムーンズ:4−6−0
−−−−−
−−−−−
−−H−J Hフラン Jレミリア
I−−−− Iパチュリー
−FEG− E小悪魔
C−D−B C美鈴 D咲夜
−−A−−
−−@−− @陸


743 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:07:37 ID:???
実況「スカーレットムーンズはゼロトップ! この布陣自体は確かに斬新ですが、
かつても人里FCが永遠亭ルナティックスとの練習試合にて組んだ事もあるため、
珍しさこそありますが、決して奇策とまでは言えない陣形です。
ですが、スカーレットムーンズは更に変化を加えて来ている!
中心選手であるパチュリー選手とレミリア選手をサイドに寄せて、フランドール選手を中央に置くという、
これまた幻想郷的には新しい配置を押し出してきました! これには、果たしてどういう意図があっての事でしょうか!!」

慧音(観客席)「……本来、0トップとはセンタートップが柔軟にボールをキープしたり、
少ないタッチでウインガーへとパスを出したり、自身が上がって決めに向かうことに特化させた戦術。
決してこれ自体は、攻めのタレントに恵まれるスカーレットムーンズにとって、おかしい布陣では無い。が……」

妹紅(観客席)「あれ? それだったら、センタートップはシュートに特化した選手のフランじゃなくって、
万能的にパスやポストプレイも出来る、レミリアかパチュリーにさせた方が良いんじゃないか?
私達がルナティックス入りする前にやった練習試合では、そんな理由でパスカル君をセンターに置いてたし」

輝夜(観客席)「――ていうか、ぶっちゃけ前半動きすぎたから、二人とも休んでるだけじゃないの?
んで、フランドールはまだ余力が残ってたし真ん中に置いただけ〜……ってのは?
0トップにしたのは、中盤でパスワークして、点差をこれ以上拡げたく無かったからとか」

つかさ(観客席)「あの誇り高いレミリアさん達が、そんな逃げのような戦術をするとは思えません。きっと、何か理由がある筈です……!」

中山(観客席)「(博麗連合は見た感じ、敵の戦術を受けて柔軟に攻め方を変える腹だろうが。
きっと、それだけでは立ちいかない状況も出て来るだろう。
そして、そんな状況は大体、森崎が喜んで奇策をしそうな場面だ。
……フフ。この後半戦、楽しみだなァ)」

鈴仙(観客席)「(中山さんの目が森崎の方を見つめて輝いてる。まるで、恋する乙女みたいね……)」

744 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:15:02 ID:???

レミリア「……前半戦の借り。必ず返させて貰うわよ」

霊夢「はいはい、頑張ってね(……魔理沙は戻って来たけれど。結局、あれから何も話せなかったなぁ……)」

魔理沙「…………(――もう何も怖くない。怖くないぞ。だって私は決めたんだから。私は、霊夢と……!)」

パチュリー「………(――大丈夫。私の知恵とレミィのカリスマ。
そして皆の結束があれば、私達の作戦はきっと必ず成功する。……博麗連合。この試合、私達の勝ちよ)」

森崎「(案の定、また何かやって来たな……スカーレットムーンズめ。
だが、奇策とは使いどころを見極めてこそ奇策なんだ。ただのヤケクソじゃ、俺にゃ勝てねぇぞ)」

観客席が両チームの戦術と戦略に思いを巡らせ、
一方フィールドでは両チームの両雄が互いに睨み合い、想いをぶつけ合う。
そんな一触即発の緊張状態の中。


――ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!


――全幻想郷選抜大会の準決勝戦第二試合の後半の開幕が、高らかに宣言された。

745 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/23(日) 22:16:55 ID:???
…と、言ったところで一旦ここまで。続きは24時頃に更新します。

746 :森崎名無しさん:2015/08/23(日) 22:28:30 ID:???
一旦乙です

魔理紗「私は、霊夢と……ツインシュートを決める!」

鈴仙「なにぃ!?」

てゐ「ぶっつけで新技編み出すとかないわー」

霞「え?」

747 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:02:40 ID:???
……と。
開始直前は紅魔の巻き返しによる、鮮やかな逆転劇が期待されたにも関わらず。

パシッ……。パシッ……。パシッ……。

パチュリー「……小悪魔、お願い」

バシッ……。

小悪魔「は、はいっ。えっと……咲夜さんっ!」

バシッ……!

咲夜「ありがとうございます。……パチュリー様!」

実況「えー……。只今、後半戦が始まり5分が経過しようとしています。
後半戦はスカーレットムーンズのボールで試合開始でしたが、
スカーレットムーンズは単純なボール回しに終始し、一向に攻め入る気配がありません。
既に2点のリードを得ている博麗連合も、不要に隙を作る事を避けてか、様子見を続けており、
その結果、試合はずっと膠着状態に陥っております……」

観客「ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
「なんだなんだよー!」「もっと攻めろスカーレットムーンズ!」「魔理沙ー! ボール刈れー!」
「戦え…!」「あーあ。帰ろうかしら」「いや、これからだ。きっとこれから、ファストブレイクが…」

現実の試合は、観客達の意向にそぐわぬ塩試合の様相を見せていた。
互いに積極的に攻める事なく、たまのプレスにはパチュリーや小悪魔などパス巧者により躱される。
そして、躱された霊夢としても、必要以上の深追いはしない。
激しい必殺シュートの応酬や、大人数での烈しいプレスに慣れた幻想郷の一般人妖は、
そうしたプレイを得意とする筈の両チームが、無難なパスワークを続ける事に不満を覚えていた。
……が、スカーレットムーンズは当然、動揺する気配は見せなかった。

748 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:03:44 ID:???
パチュリー「(……ここまでは想定の範囲内。
博麗連合は機会があればボールを得ようとはするけれど、焦ってボールを奪いには来ない。
人数を掛けた、MF6人がかりのパスワークの成功は。少なくとも5分程度は保証されている筈よ。
そして残りは――私とレミィの立てた策で、時間を稼ぐ)」

アリス「(攻めにくいわね)」

そしてそこから、後半開始から8分が経っても尚、両チームとも大きく動く気配は無かった。
博麗連合の参謀役を自称するアリスも、ここに来てパチュリーの狙いがいよいよ掴めなくなる。

アリス「(もしも0トップを活かして柔軟に攻めたいのなら、幾らでもチャンスがあった筈よ。
私や霊夢が、カット出来そうなパスに向かって行った時とか、魔理沙が前に飛び出しプレスに向かった時とか。
だけど、その都度紅魔は攻めず、単にGKへとボールを戻して、試合を落ち着けるだけだった。
私達がボールを奪えた機会も何度かあったけど、中盤の数とタレントでゴリ押しして、すぐに奪って終わりだし。
――この4−6−0はやっぱり、攻撃の為では無く。単に、中盤でのパスワークを充実させたいだけの策だった……?)」

確かにパスワークだけならば、この戦略はそこそこ上手く行っている。
実際、レミリア、パチュリーが左右サイドに鎮座している為にサイドからの攻撃は難しく、
かと言って中央ではフランドールの能力も決して低くない上に、
メイド妖精による『特攻スライディング部隊』があり、決して分が良いとは言い難い。
また、中盤を越えても幻想郷屈指のタックラーである咲夜は健在だ。
――が、それはおかしい。
果たして、あのスカーレットムーンズが何の意味も無く、2点差の状況でパスワークを続けるだろうか。
そう考えたアリスの頭は情報整理を続けていき。

アリス「(――無論、霊夢あたりが突っ込めば軽く崩れる程度の壁。
でも、万が一にでも霊夢が敗れた時のリスク――中央のスペースが空いてしまう――に対し、
私達が得られるリターンは、ダメ押しの3点目のみと少ない。
――このまま、相手がいつかパスワークを中断して攻めに向かうのを待って。
それに迎え撃てば、良いのかしら……?)」

――と。そこまで思考して、アリスは一つの事実に気付いた。

749 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:05:34 ID:???
アリス「(このパスワークの起点って……パチュリーが主になっているわね。
それに伴って全体的にスカーレットムーンズの布陣が左寄りになって来ている。
勿論、無理さえなければボールを奪いに行きたい私達の陣形も。
これは――スペースの空いた右サイド側。レミリアへの、不意打ち的なサイドチェンジが狙い……?)」

ふとそのまま右サイド側を見ると、アリスの推測を補強するように、
レミリアが少しずつではあるが、じわりじわりと自身の立ち位置を前方へと位置させていた。
後半戦開始以来、静かなプレーに徹していたレミリアが、中央に位置する霊夢を見てニヤリと笑う。
霊夢ははじめ無視しようと思っていたらしいが、キラキラ目を輝かせるレミリアを見て、リップサービスっぽく呟いている。
アリスはこうした友達のっぽい会話(?)への憧れもあって、二人の会話に聞き耳を立てた。

霊夢「……見え見えの罠っぽいわよねぇ、右サイド(レミリア)側は。
わざと隙を作って、私やアリスをパスカットに向かわせたい意図が透けて見えるわ。
こっそり右サイドへサイドチェンジをする! ……と、見せかけて。そのまま左サイドのパチュリーに持たせて、
左サイドをドリブルで突破させるってのが、本来の目的じゃなくて?」

レミリア「――ククク、さっすが霊夢ね。気付かなかったら、そろそろ1点差になっていた筈なんだけど」

霊夢の追及――どうやら彼女も、アリスと同じ結論に達していたようだ――に対し、
レミリアは……何の惜しげも無く自身の手をさらけ出してしまった。

レミリア「これは私とパチェが考えた逆転計画の一部なのよ」

霊夢「……自分で策を暴露するなんて。とんだ酔狂ね」

レミリア「だって。バレてるんだもの。仕方ないわよ」

アリス「そ――そうよ。こっちの陣形の偏りはサインを出して直させて貰ったわ。だから、サイドチェンジはもう見え見え。
真っ直ぐ行こうにも、ウチの陣営と真正面から戦うのは厳しい筈よ?」

750 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:06:44 ID:???
レミリアへのサイドチェンジを警戒させることによるパチュリーへのマークの解除。
そしてそれに伴う、パチュリーによる左サイドのドリブル突破。
当初紅魔が考えていたでろう逆転計画については、もはや警戒が行き届いているため、成就は難しい筈だ。
アリスはしたり顔で会話に横から入って、レミリア達にその事実を突きつける。
……しかし。レミリア達の反応はアリスの想像していたそれとは、少し違っていた。

レミリア「ふーん。ま、確かにそうね。でもねぇ、実は私達の策はもう成功してるんだよ」

アリス「何ですって……?」

霊夢「はあ? 今になって負け惜しみ?」

パチュリー「……複雑な手段に対して、その目的は単純って事よ。
私達のパスワークは、不意打ち的な奇襲の為じゃなくて。……ごく簡単な、選手の釣り出しよ」

そう言って、パチュリーはボールをキープした状態で前方へと駆けだした。
彼女の前方には――二人の選手が居た。

天子「おらおらーっ! さっさとボール寄越しなさいー! もう待つの飽きたのよーーっ!」

衣玖「面倒に巻き込まれては困りますからね。キッチリ、仕事はさせて頂きますよ」

ダッ! ダダダッ!

レミリア「奇襲云々は単なる目くらまし。私達が無駄にダラダラパスワークをしているんだって事を悟らせない為のね。
『紅魔がダラダラパスワークを続ける筈が無い。そろそろどこかで攻めに出ようとしている。そのタイミングを掴もう』
――と、思わせ試合を膠着させる一方で。
オーバーラップ好きのDFがしびれを切らして、家来を連れて上がってくれるのを待つべく、時間を稼いでいた訳よ!」

751 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:13:29 ID:L/uFyMJA
アリス「……! 成程。色々理屈を付けたけれど、それは全部私達へのミスリード用。
今回のパスワークの目標は、あくまでも時間を稼ぐこと。そして、それにより気の短い選手を釣り出す事だけだったのね!」

パチュリー「態々リスクの高いサイドチェンジをせずとも、相手の方から陣形を崩してくれるのを狙う。
気長な策に思えるけれど、負けている時程焦らずゆっくり崩すのが定石……と、言う事よ」

タッ。

パチュリーはボールを持って前方の二選手と対峙した。
天子は優秀なタックラーだし、その前方のSH・永江衣玖も能力は平凡ながらタックルに技を持つ。
通常の選手ならば、間違いなくボールを奪われる事を覚悟すべき局面だが。

咲夜「……パチュリー様の勝ちです。世界最高峰のドリブル力を持つ上に、
『芸術的なドリブル』や『華麗なドリブル』など優れた技も持つ。……生半可な相手では、太刀打ちできません」

パチュリー「……そういう事。じゃあ、そのまま前に行かせて貰うわね」

タッ。タタタタタタッ……!

天子「おっ、来たわね! でもこの私が特別にあんたのボールを刈ってやるわ!」

衣玖「総領娘様。本当に良かったんですか? 何の指示も無くオーバーラップして……」

天子「えー。DFと言ったらオーバーラップするもんでしょう? だって、そっちのが楽しいじゃない?」

パチュリー「(タックル基礎力……目算で天人が52ポイント、使いが48ポイントと言ったところかしら。
基礎力で54ポイントのドリブル力を持つ私なら、充分勝機があるわね)」

752 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:16:02 ID:L/uFyMJA
――二人と対峙しても、世界屈指のドリブル力を持つパチュリーは引かなかった。
天子の『天地開闢プレス』や衣玖の『龍魚ドリル』を相手にしても、パチュリーは充分勝ち得る自信があった。
……いや。ここで手筈通りにやらなければ、逆転すべき1点も取る事は出来ないだろう。
タックルが来る前にパチュリーは一度大きく息を吸ってタイミングを整えて……。

天子「でりゃーーーっ!」

衣玖「ハッ!」

ズザアアアアアアアアアアアアアアアッ、ズザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

パチュリー「――食らいなさい、これが私の『芸術て――ゴホゴホッ!!」


ドゴオオンッ! ドガドガッ!


パチュリー「む……むぎゅうううううううっ!!」

――パシッ。

天子「あれ。……案外大した事なかったわね」


――天子が言う通り。彼女の当初の見込みよりも数倍は案外大したことなく……パチュリーは敗北した。

753 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/24(月) 01:21:00 ID:L/uFyMJA
……と、言ったところで今日の更新はここまでです。
また、500kbと結構なところまで行ったので、今のうちに新スレのスレタイも募集したいと思います。

【】鈴仙奮闘記31【】

の形で考えて下さると幸いです。
次スレは、紅魔VS博麗戦を終わらせた上で、決勝前最後の自由行動。
そして、永遠亭ルナティックス最後の試合である、大会決勝戦へと入っていければと思っています。

>>746
一旦乙ありがとうございました。
マスター夢想スパーク封印は東方サッカーでもありますが、威力的にはそこそこですねー。
今の魔理沙の性格だったら、霊夢とのコンビプレイは難しそうですね。

それでは、皆様、本日もお疲れ様でした。


754 :森崎名無しさん:2015/08/24(月) 07:12:55 ID:???
【崩れゆく】鈴仙奮闘記31【負けず嫌い】

755 :森崎名無しさん:2015/08/24(月) 18:26:47 ID:???
【これが】鈴仙奮闘記31【私のサッカーだ!】
【ストライカーの】鈴仙奮闘記31【条件】
【ルナティックスの】鈴仙奮闘記31【晴れ舞台】
【誰だって】鈴仙奮闘記31【譲れないものがある】


756 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:19:57 ID:Nar5QZ/Q
こんばんは、今日もこのスレで更新します。
埋めネタはしばらくやれる時間が無く、本編の更新に力を割きたいので、
容量ギリギリまでこのスレを更新したいと思います。
>>754さん、>>755さん。スレタイ提案ありがとうございます!

757 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:21:31 ID:Nar5QZ/Q


パチュリー「…………」


レミリア「………」

美鈴「………え!? 負けてる! パチュリー様が案外アッサリ負けてるー!?」

小悪魔「ぱ、パチュリー様ぁ……? 大丈夫ですか、パチュリー様ー!?」

パスワークによる敵SBの釣り出し及び、レミリアを囮にしたパチュリーによるサイド突破作戦。
0−2の現状をひっくり返す為のスカーレットムーンズの秘策……
と、思われる何かは、想像以上に案外大したことなく終わってしまった。
パチュリーは必殺のドリブルを出す前に咳き込んでしまい動きを停止。
そしてそのまま、タックルに向かって来た天子の手により思いっきり吹っ飛ばされてしまったためである。

実況「……え。え〜っと。パチュリー選手、ここでオーバーラップして来た博麗連合の左サイドバック。
天界出身の超攻撃的DF・比那名居天子選手によりボールを奪われてしまいました!
パチュリー選手の実力ならば、充分に勝利出来る勝負かと思われましたが……やはりここは、前半からの疲労が祟ったか!?」

パチュリー「はぁ、はぁ、はぁ……! ゴホゴホッ!」

咲夜「パチュリー様。もしや持病の喘息が……!?」

パチュリー「この間身に付けた、喘息を封じる回復魔法――『フォトシンセシス』は少し、欠陥があったみたいね。
どうやら私の体力の低下に合わせて、魔法の効きが弱くなってしまっている……ゴホッ!ゴホッ!」

小悪魔「そんな! それじゃあ、もう試合だって続行不可能じゃないですか。
このまま続けたら、呼吸困難になって死んじゃいますよ!」

758 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:22:50 ID:???
そして同時に、パチュリー本人による体力と魔力切れ申告も、この状況の深刻さに拍車を掛けていた。
総合力で大きく突き放されている紅魔スカーレットムーンズが逆転をするには、
霊夢と魔理沙に並ぶかそれ以上の実力を持った、パチュリーとレミリアの両方の存在が不可欠。
しかし今早くも、勝利に向かう為の車の両輪の片方は、既に壊れかけているように見える。
現にパチュリーは、咲夜にも小悪魔にも分からないように、こう静かに呟いていた。


パチュリー「そう……死ぬ。死ぬってのも――案外、悪くないかもねぇ」




759 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:24:24 ID:???
天子「へっへー。良い顔してんじゃない。どんよりと霧がかって、あんた達の気質とぴったり。
蛇足を為す者、終に其の酒を失えり。――お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ? ……って意味よ!
――ヘイ、衣玖!」

バシィッ!

衣玖「待ってました、総領娘様。ここは私の仕事時ですね」

ポムッ。 ……グワァァァァアアアッ……!

実況「パチュリー選手からボールを奪い取った天子選手、
そのまま近くのMFにして天子選手の実質的な世話係となりつつある永江衣玖選手にパス!
そして衣玖選手、咲夜選手がタックルに近づく前にその右脚を振り上げて……!」

衣玖「これが私の仕事。『竜宮の使い遊泳弾』よ!」

――バギュウウンッ! ゴオオオッ!

美鈴「なッ……! は、早い! そして鋭い……!」

小悪魔「ふ、ふええ……! 私の『トップスピンパス』と互角じゃないですかー!?」

衣玖「あら、勘違いしないで下さいな。今のパスは私の仕事の半分です」

咲夜「半分……? それって、どういう意味かしら?」

衣玖「良い質問ですね。残りの半分は――今からシュートに向かう総領娘様を見れば分かりますよ」

760 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:26:35 ID:???
ニッコリと咲夜に営業スマイルを向けた衣玖は、美鈴と小悪魔を飛び越え、
絶対の自信でボールをフォローした天子の方を示した。
そこでは、天子が――『フリーでは無いが、とてつもなく安定した体勢』でボールを持ち、バイタルエリアの中央に立っていた。

天子「いやー。やっぱり衣玖のパスは最高!
精度は霊夢やアリスに劣るけど、この抜群のパスの収まり具合は誰にも真似できないわよね!
さっすが『空気を読む程度の能力』なだけあるわー! 褒美に イチゴ牛乳 を奢ってやろうじゃない!」

衣玖「恐悦至極に存じます(飲み物なんかより有給が欲しいです)」

パチュリー「ゴホッ、ゴホッ……。そう言えば、聞いた事があるわね。
天界の竜宮の使いはパスの名手。彼女達によって届けられたパスは、
『アシストが付く局面で、パスを受けた者のシュート力を2分の1で1増幅させる力がある』……って伝説」

陸「何アルか、その具体的な伝説。1って何アル、1って! 後2分の1ってどうやって調べたアルか!」

天子「そんなのはどうだっていいの!
兎に角、衣玖だって霊夢とアリスの影に隠れがちだけど凄いって事よ。パスだけはね!
――と、いう訳で行くわよ……!
今度は、さっきの『気炎万丈の剣』なんかとは格が違う。マジで決める時の技なんだから……!」

              ブウンッ、ザクッ! ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ………!!
  ――グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!!

実況「……こ、これは〜〜! 天子選手、腰に帯刀していた緋色に光る剣――『緋想の剣』を地に突いて、
そのまま念じながらゆっくりと右脚を捻りながら上げ始めます。
すると、周囲から様々な光――これは人間や妖怪の「気質」でしょうか!?
――が、磁石のように天子選手の中へと吸い込まれていく!」

           天子「天界から見れば、妖怪も人間も同じヒトに類するモノ。人類に過ぎない。
               そして私は、そんな全人類の気質を集めて――緋想の天に変えてやる!
               食らいなさい! ――『全人類の…………緋想、天』―――!」

761 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:27:52 ID:???

              バァァッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
       ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
                  ビイイイイイイイイイイイイイイイイイ………ンン!!

実況「そして……放たれた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
これは! これこそが比那名居天子選手最強のシュート! 周囲の気質をも自分の力に変えて放つ、
最強の緋い弾丸シュート! ……『全人類の緋想天』!!
気質の層が赤いレーザーのようになって、紅魔スカーレットムーンズのゴールを突き破りに向かいます!」

咲夜「……凄いシュートね。これがDFの放ったシュート?
他のチームだったら、文句なしでエースストライカーになれるわよ。勿体無い」

天子「駄目よ。他の雑魚チームなんて行ったら、この私が目立って当然になっちゃうじゃん。
私はそんなぬるま湯みたいな世界よりも、もっと生きてそこにある現実と戦いたいの!」

咲夜「そう。天人とは思えない程殊勝な、良い発言ですわね。
……けれど、永遠を生きる天人のお遊戯と、一瞬に生きて死ぬ人間の戦いとを一緒にされては困るわ!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……!
バァッ! グルンッ!
          ――――――バギイイイイイッ!!

咲夜「―――ッ!!」

天子「あらあら……。見事な反転ブロックでしたけど。それで吹っ飛ばされるのが、人間の戦い方かしら?
だとすると、心底馬鹿馬鹿しいわね。特攻するだけならサルでも出来るっつーの」

咲夜「……まさか。人間は人間である限り、無為な討ち死にはしないわよ。
人間は動物と違って、仲間の死に意味を持たせる事ができるの。――ですよね、陸君?」

陸「……ああ、あんたのお蔭で見えたアルよ。 ……このシュートの目指すべきコースがァッ!」

762 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:30:05 ID:???
バァァッ!

陸「チェスト〜〜〜! 『雷斬脚』〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオッ! バギイイッ………ググッ……ポロン。

メイド妖精A「あっ……! わ、私前に蹴ります! 魔理沙さんとかが来ないうちに!」

グワァァッ、バゴオオオッ……!

天子「……へーえ。吹っ飛ばされるのを見越して、最初から威力減衰とコースの割り出しに努めたのね。
ゆゆうじょうぱぱわーって奴? ――私やっぱり、そういうの案外嫌いじゃないかも」

実況「天子選手の大型シュートは、十六夜咲夜選手のブロックと陸選手のセービングの合わせ技により防がれた!
魔理沙選手や小町選手がタックルに来る前に、
メイド妖精選手がボールを前に出し……これは幸運にも小悪魔選手がフォローに成功しました!
スカーレットムーンズ、ここから逆転なるでしょうか〜〜〜!?」

輝夜(観客席)「……ねえ。今しれっと止めてたけどさ。あのシュート、わりかし強くなかった?」

霞(観客席)「最新型のスカ……シュート力測定器によると――。
シュート威力は61に衣玖さんのアシスト強化があって更にプラス1。62ポイントでした。
これは鈴仙さまの『マインドエクスプロージョン』にも匹敵する威力です」

てゐ(観客席)「(……あれ? でもそんな天人サマの最強シュートに並ぶ威力のシュートを
平然と出せる鈴仙って。ひょっとしなくても、かなりヤバい選手じゃない……?)」

妹紅(観客席)「っていうか。パチュリーって本当に大丈夫かな? まだ咳してるみたいだけど」

鈴仙(観客席)「ううーん。パチュリーさんには色々お世話になってるから、心配だなぁ……
(――でも、変ねぇ。パチュリーさんの様子について、何となく違和感があるような、ないような。
何というか……その、何かを狙っているような。それこそ、捨て身の覚悟でやるべき「何か」を……?)」

763 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:46:50 ID:???
パチュリー「(―――――)……ゴホ、ゴホ」

レミリア「(……パチェ。大分消耗した風に見えるわね。――この辺が、潮時かしら)」

実況「……ボールをフォローしたボランチの小悪魔選手、小町選手からの申し訳程度のタックルを
『やや華麗なドリブル』で捌きつつ、パスの出し先を考えている模様です!
頼みの綱であるパチュリー選手が喘息の発作で大きく消耗する中、小悪魔選手は責任重大だ!」

小悪魔「(最初はパチュリー様にサイドを上がって貰うって話だったけれど。
パチュリー様があの状態じゃあ、攻めて頂くのは厳しいかも。
だったら、さっき丁度前に上がって頂いて。
今も右サイド側上がり目の位置に居る、レミリアお嬢様に決めて貰おうかな……?)
――お、お嬢様! 今から私がレミリアお嬢様にパスを出しますっ!!」

グワアアアアアアッ、バシュウウウウウウウウウッ! ――ギュルギュルギュルギュルギュルギュル…………!

レミリア「おや……私に出してくれるの? 嬉しいねぇ。
考えてみれば、私はあんた(小悪魔)の直接の上司でも無いのに、色々と付き合って貰って」

この時、スカーレットムーンズはパチュリーの失態から立ち直りつつあった。
天子が放った『全人類の緋想天』を、普段は水と油な咲夜と陸が協力し止めたという事実が、
彼女達に再び結束の大切さと諦めない事の重要さを再確認させてくれていた。
だから、パチュリーとレミリアの考えたという策が失敗したとしても、このまま辛抱強く攻めて行けば、あるいは――。
小悪魔はそんな強い想いで、前方のレミリアへと会心の『トップスピンパス』を放った。


バッ! ……スカッ、スウッ!


アリス「……ッ、届かないわね」

霊夢「……なかなかやるじゃない」

764 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2015/08/25(火) 00:48:39 ID:???
そのパスは、パスカットの名手であるアリスや、
そのアリスをも上回るパスカット力を誇る霊夢ですら触れる事も出来なかった。
このパスはレミリアまで通る。そしてきっと今度こそ、レミリアが決めてくれる。

――根拠も無くそう信じていた小悪魔は、その後、自身の考えが如何に浅はかだったかを知る事となった。
その理由はいくつかあるが、まず小悪魔は一つ事実を誤認しかけていた。


??「………遅い」

――タッ。シュッ。  ……パシッ。


ボールは、レミリアまで通らなかったのだ――何者かによる巧みなパスカットによって。
その者は、霊夢にも負けず劣らず精度の高い技術によって、小悪魔のパスをまるで読んでいたかのように胸でトラップした。
……が。「パスをカットされた」という事実について、小悪魔にとって驚くべきことでは無い。
驚くべきこそは、その「何者か」の正体だった。

小悪魔「――え? な、なんで……?」


パチュリー「………………ゴホッ、ゴホッ。…………ボール、頂いたわ」


小悪魔からレミリアへの会心のパスを奪い取ったのは、博麗連合の選手では無い。
「何者か」の正体とはつまり、小悪魔も良く知るどころか、尊敬し敬愛すべき選手。
紅魔スカーレットムーンズが誇るガラスの大図書館―――パチュリー・ノーレッジその人だった。

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