キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【秋空模様の】鈴仙奮闘記36【仏蘭西人形】

1 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/03/26(土) 12:24:01 ID:???
このスレは、キャプテン森崎のスピンアウト作品で、東方Project(東方サッカー)とのクロスオーバー作品です。
内容は、東方永夜抄の5ボス、鈴仙・優曇華院・イナバがサッカーで世界を救う為に努力する話です。
他の森崎板でのスレと被っている要素や、それぞれの原作無視・原作崩壊を起こしている表現。
その他にも誤字脱字や稚拙な状況描写等が多数あるかと思いますが、お目こぼし頂ければ幸いです。

☆前スレ☆
【新天地は】鈴仙奮闘記35【魔境】
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1455897713/
☆過去ログ・攻略ページ(キャプテン森崎まとめ@Wiki内)☆
http://www32.atwiki.jp/morosaki/pages/104.html

☆あらすじ☆
ある日突然幻想郷にやって来た外来人、アラン・パスカルと中山政男との出会いにより、
師匠に並ぶ名選手になると決心した鈴仙・優曇華院・イナバ。
彼女は永琳の庇護下で実力を大きく伸ばし、幻想郷中の勢力が集まった大会でMVPを勝ち取った!

しかしその夜鈴仙は、自身の成長は永琳の計画であった事、その計画の副作用で
月に眠る大いなる厄災――「純狐」が八雲紫の身体を乗っ取り目覚めつつある事を明かされる。
そして、鈴仙は永琳に懇願される。「純狐」の純粋なる狂気を止める者は、
これまでの経験で混沌たる狂気を溜め込み成長した鈴仙以外に居ない。
だからこそ、鈴仙は次に紫が計画した大会――『幻想スーパーJr.ユース大会』に優勝し、
その狂気をもって純狐を倒し、世界を救って欲しい……と。

鈴仙は最初は戸惑いつつも、中山により自身の成長と覚悟を悟り、最後には永琳の願いを受け入れる。
そして、幻想郷の秩序の変革を狙う『プロジェクト・カウンターハクレイ』にて
編成された新チーム・リトルウイングズの一員として、大会に優勝することを誓った。
そして修行のため鈴仙は単身ブラジルに渡り、様々な困難や出会いを経験しつつも、
ブラジルサッカーの登竜門・リオカップで華々しい初勝利を挙げた。

一方その頃、鈴仙と志を同じくして新チームに入った、
元妖怪の山FC所属の反町と秋姉妹は、フランスのサッカースクールにて個人技の開発に努めていた。
フランスユースのメンバー達やアリスさん、そして謎の転校生(予定)を交えた学園生活の行方は……!?

807 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/21(火) 23:47:07 ID:5xxKxztU

反町「……」

反町は暫くぼうっとしたまま、立ち尽くしていた。
この試合が彼に与えた肉体的・精神的疲労はそれだけに耐えがたいものだった。

ピエール「………」

視界には、恐らくは自分と同じような面持ちで佇むピエールと。

早苗「はぁぁ……。負けちゃった。勝てると思ってたんですけど」

普段通りの様子であっけらかんとした風に見える早苗、そして……。

アリス「(これってユニフォームを交換する的な流れのアレよね……?
     ユニフォーム交換を経て、私達は真のライバル(トモダチ)になるのよね……?)」ワキワキ

反町「(アリスさんは何か楽しそうで羨ましいなぁ……)」

いつでもどこでもユニフォームを脱ぐ準備をしているアリスさん位しか居なかった。
ちなみにこの試合にユニフォームは無いため、果たして彼女が何を交換する気でいるのか不明である。
この中で、反町が一番興味を抱いていたのは――今回の試合の元凶でもあるピエールだった。

反町「(俺は……何も知らない。この試合に隠された思惑も、それに巻き込まれた人の考えも……)」

反町は結局、彼がどんな目的で動き、目的を果たせず敗北した今、どんな事を思っているのかを未だ知らない。
試合前、金持ちは良くないと呟いた意外に、その思いを汲み取れる材料が無い。
だからこそ、彼と一度、話をしてみたいと思った。

808 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/21(火) 23:48:54 ID:5xxKxztU

反町「(けれど、どんな風に話しかければ良いのか、戸惑ってしまうな……)」

そしてそこで、反町自身がピエールと深い付き合いをしていない事に気付く。
どんな風に声を掛けて、どんな事を話せば良いだろうか。
暫く考えたり、周囲の様子を見渡したりもした結果、反町が取った行動は――。


A:「どうだピエール。これが俺達の愛の勝利だ!」愛をアピールする。
B:「良かったら、俺達ともトモダチにならないか?」ピエールとトモダチになる。
C:「…………」敢えて言いたい事を語らない。それでピエールも分かってくれる筈だ。
D:ピエールも大事だが、それより早苗さんと話をしよう!
E:そんな事より、この試合大活躍のアリスさんを胴上げだ!
F:その他 自由選択枠

先に2票入った選択肢で進行します。メール欄を空白にして、IDを出して投票してください。

※円滑な進行のため、日を跨いで入った投票についてもカウントします。

809 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/22(水) 00:09:14 ID:???
今日はちょっと疲れたので、投票があっても更新はここまでにします。

810 :森崎名無しさん:2016/06/22(水) 00:23:27 ID:l5o6hXSw
C

811 :森崎名無しさん:2016/06/22(水) 00:56:20 ID:YujgJ59M
B

乙なのです!
今日からお前も友達だ!

812 :森崎名無しさん:2016/06/22(水) 02:11:59 ID:gV8fK69Y
E
見せつけてやるぜお前の見たがってた友情ってやつをよォ!

813 :森崎名無しさん:2016/06/22(水) 09:07:03 ID:CKCNlWlg


814 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/23(木) 00:47:51 ID:3ryHKINg
C:「…………」敢えて言いたい事を語らない。それでピエールも分かってくれる筈だ。

反町「(……いや。雄弁が必ずしも良いとは限らない。俺は、俺らしくいよう)」

反町は言いたい事を言わなかった。

反町「(普通の漫画とか小説の主人公だったら、ここで熱血に、ピエール横っ面を叩いてやったのかもしれない。
    あるいは、仲間と一緒に和解を求めるのかもしれないし、説教をしてみせるのかもしれない。
    ――だけど、それを俺が今ここでやる必要は無い。誰かが、代わりにやってくれる)」

反町が至った境地は、一見してこれまでの小市民然とした事なかれ主義と変わらない。
しかし、その内心において大きく異なる。権力や周囲の雰囲気に萎縮し、やむなく言いたい言葉を封じるのではなく、
今の彼は、確固たる自信の下、言いたい事を敢えて言わない事を『選択』していた。
そして、そんな反町の選択は正しかった。

ナポレオン「テメェ、どの面下げて突っ立ってるんだ、ああん!?」

バシイッ!

ピエール「……ハハ。悪いな、ナポレオン。俺は少し、どうかしていたようだ」

ナポレオン「どうかしていただと? ふざけんなよオイ。お前がちょっと気を違えたくらいで、
       意味不明な試合の片棒を担ぐなんてあり得ねえんだ。どういう事情かは敢えて訊かないでやるがよ。
       もうちょっと仲間に相談でもしたらどうだったんだ!?」

ピエール「だったら。俺が相談していたら助けてくれてたかい、ナポレオン?」

ナポレオン「バーカ。誰がテメエなんて助けるか。悩みなら自分で解決しろ。それが不良の世界の常識だ。
       ――ま。暫く練習に付き合ってやる位なら、したかもしれねえがな」

815 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/23(木) 00:50:12 ID:???
ピエール「ナポレオン……、ありがとう」

ナポレオン「感謝される覚えなんてねぇ! ……が、まぁ。そのツラに免じて、今日の事は水に流してやるよ」

ナポレオンはピエールの横っ面を叩いて、不器用ながらも彼自身の寛大さを見せた。

アモロ「……ピエール、ごめんね。僕が気付いてあげられなかったばっかりに……」

ピエール「アモロ……それに、ボッシとルストも」

ボッシ「そうだ、悪いのはピエール、お前だぞ。せめてどうして、こんな試合を組んだのか。
     その理由を説明してくれない事には納得できないな」

ルスト「ま、折角試合に勝てたんだ。教育方針もこれまで通りってなワケで。
    ……試合後はノーサイド。またトモダチやろうぜ、ピエール」

アモロとボッシ、そしてルストはピエールと近しい間柄から、揃って彼に和解を申し立てた。

アリス「そうよ皆! 全ての人がボールくんとトモダチになるべきなのよ!
    そうすれば皆が仲良しになるの!! ハッ!? それで思いついたんだけど、
    世界中の人が皆でサッカーをすれば争いは無くなり、世界が平和になるのでは……?
    皆! サッカーしましょう! サッカーは自由よ! ヒャッホーーーーッ!!」

ピエール「アモロ、ボッシ、ルスト……皆。ありがとう。俺はこれから、皆に全てを話そうと思う。
      俺の信頼できる、かけがえのないトモダチ、として(後ろの方で何か女性の叫び声が聞こえるな……誰だろうか)」

アリスさんは熱血的な説教を試みていたが若干ピントがずれていた上、
肝心のピエールが今仲間との和解の最中だったため、全く相手にしてくれなかった。
……が。彼女もまた、反町とは別の気付きをこの試合で得たようであり、その表情は何時になく充実していた。

反町「(――ほら。俺はここで、皆を見守っていればいよう。こうする事で、場はきっと柔らかくなる。
    言いたい事を言うのは、また別の時で充分だ)」

816 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/23(木) 00:53:09 ID:???
……と、言った所で今日の更新はここまでにします。
>>811
乙ありがとうございます。最後は皆トモダチになります。
和を大事にするフランスユースの誕生ですね。
>>812
Eだったら分岐でアリスさんがスキル・絶対に自信を喪失しないを覚えていたかもしれませんね。

それでは、本日もお疲れ様でした。

817 :森崎名無しさん:2016/06/23(木) 09:07:11 ID:???
乙でした
今思えば>>227はこの試合がループすることを暗示したものだったのかもしれない……

818 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/24(金) 01:59:08 ID:???
すみません、今日は疲れたので更新をお休みします(汗)
>>817
乙ありがとうございます。8回ループにならなくて良かったです(真顔)

819 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:40:00 ID:???
こんにちは、金曜から色々書いてたら1イベントの分量が20kbを超える位の分量になったので、
分けて少しずつ更新します。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


中西「畜生、ここで勝ってれば出世間違い無しやったのに……」

岬「今の日本サッカー協会で出世したって、大した事ないさ」

かつてのフランスJr.ユースメンバーが和解へと向かう中、商機を狙っていた中西は口惜しそうに歯噛みする。
しかし、彼の相棒である岬は普段通りの平然とした様子で試合後のストレッチに取り組んでいた。

中西「ワイらの使命を忘れたのか! ワイらはここで学校事業を成功させて、
    それで日本サッカー協会が抱える資金難を解決。そして、森崎が消えた穴を防ぐという事やったろうが」

岬「分かってるよ。僕達が今推し進めている『ツバサ・ヴァイキング計画』
  ――全日本Jr.ユースの有力〜中堅選手を多数、サッカー先進諸国へと留学させ、
  総合力の底上げを図る次善策には、多額の資金が必要だ。
  そしてそれは、君の興したうどんチェーン店の売り上げだけでは足りない事は明白だった。
  だから、資金確保の為の第二の事業として、サッカースクールに目を付けた。……こういう経緯だったよね」

聖徳ホウリューズを抜け出し、再び全日本メンバーに合流した岬は、もはや素の狡猾で計算高い性格を隠してはいなかった。
笑顔のままに権力を得る彼の計画は、彼を捨てた豊聡耳神子の一派により既に暴露されており、今更取り繕う事は困難だった。
とはいえ、日本サッカー協会の重鎮は岬の素性を知ってなお、いや、ますます彼を参謀役として高く評価したため、
素性を明かして振る舞う事は完全なマイナスばかりでは無い。
現に、彼がこうして中西を部下に付け、フランスのサッカー教育事業に乗り出せたのも、上層部の岬に対する篤い信頼があってこそだった。
そして賢い彼は決して、この商機を逃す事はしない。

820 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:41:20 ID:???
岬「――だとしても、資金確保は既に成功しているよ。ほら、見てごらん」

岬は中西に一枚の通帳を渡してみせた。中西が訝りながらそれを開くと、たちまち目を見開いた。

中西「な……なんや。いつの間にか大量にカネが入っとるやないかい!? どうしたんや!?」

岬「詳しくは言わないけれど。僕はこの試合に敗北した時を見据えて色々手を回していた……とだけ言っておこうかな。
  特に手を組んでいた某金持ちの家の当主さんからは、多額のキャッシュをむしり取る事が出来たよ。彼ら、親子そろってカモだね」

中西「色々って……。お前さん、やっぱりワルやな。ワイらの中でも群を抜いてワルや」

岬「そんな事無いさ。だって僕にお金を『寄付』してくれた人も、僕が彼の不法行為を口止めする事を約束したら、
  泣いて喜んでくれたよ。そして僕達もこのお金で笑顔になれる。ついでに、ピエールやその仲間達も笑顔になれる。
  ……ほら。誰ひとり損はしていない。皆笑顔じゃないか。僕のスタンスはこれ。これだけは何も変わりはしないよ」

能面のような笑顔を見せ、岬は全く悪びれずにそう主張する。
所詮は一個の商売人に過ぎない中西は、かつて日本最古の政治家とも肩を並べた事すらある岬太郎の精神に、
ただただ戦慄する事しかできなかった。

821 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:42:46 ID:???
美鈴「(……ぽっと出の出番で負けちゃたけれど、ある程度は活躍する事ができた。
    これまでは上にお嬢様とか咲夜さんとかが居たから、何となく萎縮しちゃってたけれど、
    今日の試合のお蔭で、何となく自信がついたかも)」

他との交流が希薄だった美鈴だったが、彼女は彼女なりに、この試合において何かしらの実感を身に着けていた。
個人技が重視されるサッカーにおいて、スクールにすら所属せずあくまで身一つで技を磨いた彼女は、
ある意味ではシャンパンサッカーをこの場で最も体現している人物かもしれなかった。

美鈴「(ハッ!? まさかお嬢様は最初からこうなる事を見越して私をフランスに……!?
    って、そりゃあないか。しかし、他の皆は大丈夫なのかなぁ。陸君とか咲夜さんは大丈夫そうだけど、
    妹様がどう思っているか……)」

マイペースで何も持たない美鈴が、この試合においてそれ以上の深い思いを抱く事はない。
しかし、この試合における成功体験が彼女に大きな成長を促した事だけは確かだった。

822 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:44:06 ID:???
早苗「(……さようなら、反町君)」

――そして、早苗は一人残された。
彼女は反町への想いを告げる事なく、勝手に嫉妬し勝手に対立した自分自身を恥じていた。
仕方のない事情があったピエールとは違い、早苗は完全なる自分の意思で反町と対立した。
……そんな自分が、許される筈がない。

早苗「(――今日、この学校を出よう。そして何も変わらぬ笑顔で全幻想郷チームに合流すれば良い。
    そうしたら、私はまたいつもの明るくて楽しい風祝の早苗に戻れる……)」

――この学校での思い出は、きっと無かった事なのだ。
自分は守矢神社に仕える風祝。全幻想郷においては霊夢を補佐する影のゲームメイカー。
それ以上でもそれ以下でも無く、普通の女子高生のような生活をする事など、あり得ない。
だから、早く幻想郷に帰って、いつも通りの自分に戻りたい。早苗はそう思って――。

ガシッ。

アリス「――ほら、あんたも私のブレインメディカルなサッカー理論に聞き惚れるのよ!
    良いかしら? まずあんた、ボールくんは見える? ほら、ここに『いる』んだけど、見える?
    まあ愛が無ければ見えないんだけどね。そもそも私とボールくんとの馴れ初めは……」

早苗「あの、えっと、アリスさん……?」

823 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:45:27 ID:???
長い学校生活を経てすっかりキャラ変してしまったアリスさんに捕まった。
早苗はしどろもどろになって捕まったその腕を振りほどこうとするが、アリスさんの瞳は至極真面目だった。
アリスさんは訳知り顔で頷いて、こう静かに言い切った。

アリス「……あんたは、毎日トイレでお弁当を食べてる私を屋上まで案内して、
    ランチに誘ってくれたわ。その恩は、決して忘れるもんですか」

早苗「そ、そうっすか……」

――良い事を言ってるような気はするが、なんかこの場で早苗が求めてるのとは若干違う気がした。
が。……そんなアリスさんの態度に毒気を抜かれたのも確かで。

早苗「(……でも、そうよね。私の想いは結局何も無く終わっちゃったけれど。
   ここには沢山のイイヒトがいる。あんなイイヒト達ばっかりだったら……なんか、私ですら許されちゃう気がするし)」

早苗は、もう暫くこの場所に立ち止まってみる事にした。
肩の力を抜いて見た秋の景色は、これまで以上に美しく見えた。


そして、反町は――。


824 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:47:01 ID:???
〜エンディング〜
【そして、秋はまた訪れる】



指導教官「えー。これまで皆と共に学んでいた反町君達に東風谷君だが、
       兼ねてからの計画通り、留学を終えて母国に帰る事となった」

クラスメート「えーっ」「知ってはいたが、やっぱり寂しいよな」「俺達の事忘れるなよなー」

――あの激戦から早数日。平穏だが充実して貴重な日々を過ごした反町達は、
いよいよ留学期間を終え、その実力をそれぞれの場所で活かす事となった。

反町「…………」

穣子「やっぱり、皆とお別れするのは寂しいね……」

静葉「終わりがあるからこそ、新たな始まりが待ち遠しくなる。私は、この終わりを大事にしたいわね」

アリス「皆ー! また一緒にサッカーやりましょうねー! ボールは皆のトモダチよー!」

早苗「私は反町君達とは別の立場ですけど、本当にお世話になりました。ありがとうございます」

指導教官「彼らはわが校のカリキュラムをしっかりとこなし、また、自分自身の課題にしっかりと向き合い、
       そして大きな成果を出してくれた。君たちも見習うようにな」

指導教官が月並みな激励を掛ける中、反町は一人思い出していた。
つい数日前、レジスタンス対生徒会チームとの試合が終わった夜の出来事を。


825 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:48:07 ID:???
*****


反町「あの……穣子さん」

穣子「一樹君。……ほんとに来てくれたんだね。良かった……」

――反町は試合終了間際に告げられた言葉に従い、夜の校舎で穣子と一緒に居た。
そよ風が木を撫でる音と虫の鳴き声以外に音が無く、
窓の外から覗かせる月と星以外に光が無い世界にたった二人で、他の人は消えてしまったように思えた。

穣子「今日、勝てて良かったね……」

反町「ええ。そりゃあもう。皆のお蔭だとしか言いようが無いです」

普段の素朴で元気な穣子とは違う様子に内心でどぎまぎしながら、
俺は盛大に外しちゃいましたけどね、と反町は苦笑いしながら答える。
穣子はそんな事ないよ1点決めたじゃん、と笑顔で応じてくれたが、やはりぎこちないと思えた。

反町「…………」

穣子「…………」

やがてやってくる沈黙。
反町がお喋りでない以上、穣子が口を閉ざしてしまったら何の会話も生まれない。
暫く二人は、風や虫の音に耳を澄ませるしかなかった。
が、そんな中で不意に穣子が決然と口を開いた。

穣子「……一樹君。やっぱり、あなたは……私達なんかと、一緒にいるべきじゃないよ」

826 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 12:49:58 ID:???
――と、言った所で一旦ここまでです。

827 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:02:36 ID:???

反町「そんな。どう、してそんな事言うんですか。俺達、今まで楽しくやって来たのに……」

だから反町は珍しく感情的になって問いただした。自分は勿論、穣子の事を大切に思っている。
そもそも反町が今ここで修行を続けているのも、穣子と静葉を守りたいという想いがあってこそだ。
だからこそ、反町はそんな自分の想いすら否定しようとする穣子の真意が知りたかった。

穣子「……これまでの学校生活とかさ。今日の試合とかさ、見てて思ったんだよ。
    一樹君は、私達みたいな幻想の住人と一緒じゃなくても、普通の人間として、
    外の世界の人達と仲良くなれる。一緒にサッカーを楽しめるって。
    そして、……その方が、一樹君の人生にとっても良いに決まってるって」

穣子が言わんとする事を、反町は何となく理解できた。
いや、それは穣子が言わずとも反町自身が考えていた事だった。
考えていて、でも今の生活が楽しいから。それで、胸の奥底に閉じ込めていた事だった。

反町「――幻想郷は、現実世界から忘れられた、捨てられた妖怪や人間が住む場所。
    だけど俺は、まだ完全に忘れ去られていない。全日本にも親しい奴がいたし、
    ここフランスでも、多くの仲間に恵まれた。……だから、穣子さんは。
    俺は今の一件が終わったら、外の世界に戻れば良いと。そう思うんですね」

穣子は静かに頷いた。

穣子「元々は私が悪いよ。私が、神様の癖して一樹君の事を好きになっちゃったのが駄目だったよ?
    でも、その時はそれでも良いと思った。一樹君はひとりぼっちだったし、支えてあげたいって思った。
    だけど――フランスに来てから確信したんだ。それは、私の都合の良い思い込みだったんだって。
    一樹君は強いよ。だから、私達がいなくてももう、皆と上手くやっていけるんだって……」

反町「それは……」

828 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:03:39 ID:???

反町は穣子を否定できなかった。幻想郷で二人と暮らしている時は実感できなかったが、
彼は今まさに、世界から断絶されようとしているのだ。

幻想郷と外界との往来が激しい現状においてはピンと来ない問題ではあるが、
反町はかつて妖怪の山の天狗達から、現状がイレギュラーである事は再三聞かされている。
八雲紫の――あるいは彼女を利用しようとしている『純狐』の――計略や鈴仙の活躍により、
幻想郷の結界が希薄化・崩壊したため、今だけはこうして容易に幻想郷と外界を行き来できる。
しかし、自分が鈴仙達と共に戦い勝利した場合、結界の崩壊は間違い無く修復され、
幻想郷は再び、現実とは混じりようの無い世界へと戻ってしまうだろう。
もしそうなれば……反町が再び、この現実世界で暮らす事が出来るかは不明だ。

反町「……………」

穣子「――ごめんね。変な事言っちゃって。今すぐに決めて欲しい訳じゃないんだよ?
   でもね。やっぱり一樹君には真面目に考えて欲しかったんだ……」

反町「……………はい」

反町はこれ以上答えられなかった。
何も言わずに彼女を抱き寄せられなかった自分は、臆病なのか賢明なのか。
それすらに分からぬまま、穣子とは何となく疎遠のままに数日が過ぎ――。

829 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:04:59 ID:???

*****

指導教官「……と、言う訳だ。間もなく彼らを送るバスが来るから、
      それまで皆は、彼らとの最後の時間を過ごして欲しいと思う」

クラスメート「「「「はーい」」」」

反町「(……何時の間にか話が終わってる。結局、俺はあれから何も言えなかったな……)」

クラスメートの合唱を聞いて、反町は意識を現在に戻した。
あれから穣子とは殆ど口を聞けておらず、偶に話す事があっても、どこかよそよそしくぎこちない。
この事について誰かに相談する事も性格上できず、反町は一人思い悩んでいた。

反町「(――これまで忘れていたけれど、俺はやっぱり、恐れている。
    皆と離れ離れになって、幻想郷で生涯を終える事を……)」

――仮にこのまま反町が新チームに合流し、皆で強敵に打ち勝ち、そしてその先は?
昔ならば、幻想郷で和を大切にするチームを作ってサッカーを楽しもうと。
そう無邪気に思えていたかもしれない。しかし、十年先、二十年先の自分はこの選択に後悔しないのだろうか。

830 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:49:02 ID:???

ピエール「ソリマチ、サナエ、秋姉妹の二人、そしてアリスさん。
     俺は君たちに色々教えて貰ったような気がするよ。
     だから、ここで改めて礼を言いたい」

アリス「(感謝されるのは嬉しいけれど、どうしてこの期に及んで私だけさん付けでよそよそしいのぉ……?)」

ルスト「俺は結局、最期まで足手纏いだったな。でも、次にある大会ではこうはいかないぞ?」

穣子「うん。楽しみにしてるね」

ボッシ「ソリマチに伝えてくれ。次に会った時はネオサーブルをも超えるファイナルノワールで、
    お前達からゴールを奪ってみせるってな!」

静葉「分かったわ(最後の黒って、いよいよ意味が分からないわね……)」

アモロ「色々あったけど、僕も皆のお蔭で強くなれたと思うんだ。
    それに、皆凄く仲良しにもなれたし。本当にありがとう。僕、今本当にサッカーが楽しいよ」

早苗「私は何もしてませんよ。ただ、皆さんが互いを信じあう気持ちが強かっただけです。
   でもこれって、何気に凄い奇跡ですから。大事にしてくださいね?」

ナポレオン「ソリマチ。テメェは俺に勝ったんだ。新チームだかリトルウイングズだか知らんが、
      そこで一流のストライカーになってねぇと承知しねえぞ」

反町「ああ……」

仲間達の暖かい言葉すらも、今の反町の心には響かない。
フランスという自由の国で得た仲間も、いつかは幻想の壁に隔絶されてしまうかもしれないと思うと。
また、彼らの絆を繋ぎとめるには愛する神と離別するしかないのだと思うと、全てが虚しく思えた。
そして、僅かばかりの惜別の時はすぐに終わり、反町一行に早苗を含めた五人は、
生徒達に見送られ、玄関に停まったバスに乗り、それぞれの目的地へと彼らを運ぶ空港へと向かう。

831 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/26(日) 18:50:16 ID:???
一旦ここまでです。

832 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/27(月) 00:36:10 ID:???
*****

……気付けば反町は、ひらり、はらりと紅葉の舞う場所に立っていた。
どこかで見た事があるような、しかしどこにも無いような幻想的な空間に独り居るにも関わらず、
不思議と孤独感や不安感は覚えなかった。

??「――ねぇ。キミ、寒くないの?」

そこには気付けば、一人の少女が立っていた。
銀杏を落とした川のように、さらっとして綺麗な金色の髪。
大きな鳶色の瞳は瑞々しい果実で、すらりと伸びた手足は稲の穂のようにしなやかだった。
反町はその少女を知っていた。

反町「穣子さん。……俺は、本当に貴女の事が好きだったのでしょうか……?」

反町が幻想郷で一番最初に親しくなり、そしてそのまま恋仲まで発展した収穫と豊穣の神。
神にも関わらず素性はとても純朴で愛らしい穣子を、今や反町は直視できなかった。

穣子「……大丈夫。あなたは、昔からずうっと私を信じてくれました。
    ありがとう。ずっと、ずっと……会いたかった」

――穣子は、優しく反町に語り掛けた。
普段の子どもっぽい口調とは違う、穏やかで大人びた佇まいは、
本物の女神のような(本物の女神なのだが)を想起させた。

反町「昔から……?」

穣子「ええ。だから、私達は巡り合えた。そして、きっとこれからも……」

穣子はそれだけを言い残すと、秋の色に解けていった。
――決して終わる事の無い紅葉の雨が降り注ぎ、永遠の豊穣を喜ぶ楽園の中。
反町は再び孤独に取り残された。

833 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/27(月) 00:39:23 ID:???
*****

ブロロロロ……

アリス「……フランス紀行も中々悪くなかったわね。
    私としては都会派の象徴・パリに行けなかったのが心残りだけど」

早苗「パリは良いですよ! 何故ってロンドンはどんよりしてるけど、晴れたらパリですし!」

アリス「フフ……その程度の知識、私も知っているわ。カルメンは麺よりもパエリアが好きなのよね?」

早苗「おお、それを先に言われちゃうとは。アリスさんってやっぱり博識ですね! 私、尊敬しちゃいます!」

反町「――あれ。俺、夢を……?」

反町は目を覚ました頃には、空港へと向かう車内での会話は程ほどに盛り上がっていた。
集団生活という名の荒療治を経て、何だかんだで最低限のコミュニケーション能力を身に着けたアリスさんも、
今ではある程度は早苗と馴染んで雑談に興じていた。

静葉「……反町君。もうすぐ空港に着くそうよ」

反町「静葉さん。ありがとうございます。俺、結構眠って……」

静葉「ええ、グッスリと眠っていたわ。最近あまり、眠れていなかったんじゃないかしら?」

反町「はい。まあ……色々悩み事とか、ありまして」

834 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/27(月) 00:40:45 ID:???
5人掛けのコンパートメントで、反町の隣に静葉は座っていた。
向こうには穣子がアリスさんと早苗の隣、反町とは斜め正面の位置で押し黙っている中。
――反町の『悩み事』を知る静葉は、穣子に悟られないような小さい声で、不意にこう囁いた。

静葉「この前の試合を思い出してみて。貴方は、貴方が思っている以上に力を持っている。
   それを正しく認識して使う事が出来るなら。……だから、自分自身を信じて。一樹君」

反町「静葉、さん……?」

静葉「――本当は、私に出る幕なんて無かったもの。貴方は優しいから色々と考えるでしょうけど、
    今だけは考えなくても良い。……だから、フランスを発つまでに、あの子に答えを示してあげて」

反町「静葉さん、待ってください。俺はまだやっぱり分からない。答えって一体……!」

静葉「あ〜。楽しい学校生活ももう終わりかぁ。これからウン十年間も社会の歯車になるくらいなら、
   もう人生終わりにしちゃおうかなぁ〜♪」チャキッ

穣子「え!? お姉ちゃんまた死んじゃうの!? いやー、死なないでぇー!?」

反町が静葉の真意を聞こうにも、これ以上は許さないとカッターナイフを振り回されて分からない。
ただ一つ確かなのは、静葉が反町と穣子との間に抱える問題を知り、理解した上で。
――自らの想いを押し殺してでも、二人が幸せになれる方法を考えてくれているという事だけだった。

835 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/27(月) 00:48:49 ID:efozeoc6
すみません、後半部分を書き直していたら今日中に終わらなかったので、続きはまた今度にします。
ただ、次のパートで反町の章は終わりにして、鈴仙の章に戻る予定です。
また、容量が500kbを越えたので、スレタイも募集させて頂きます。

【】鈴仙奮闘記37【】

の形で書いて提案して頂ければ大変嬉しいです。
次スレは、鈴仙の章に戻って、ザガロ達一行+一部スウェーデンメンバー(ブローリン等)が加わった、
サントス戦が中心になると思います。

それでは、本日も遅くまでお疲れ様でした。

836 :森崎名無しさん:2016/06/27(月) 01:01:17 ID:???
【熱戦烈戦】鈴仙奮闘記37【超激戦】
【ブルーツ波】鈴仙奮闘記37【大放出】
【ポーピー】鈴仙奮闘記37【デデーン】
乙でした

837 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:44:47 ID:g5cRU4+s
>>836
乙とスレタイ提案ありがとうございます!
反町の章が結構重い感じになっちゃったので、
鈴仙の章Aは割と軽いノリで行きたいと思ってます。

838 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:46:08 ID:g5cRU4+s
早苗「さて……私は日本に向かいますので、ここで暫しのお別れですね。
   皆さんは確か、これからブラジルに行って、鈴仙さんのリオカップに合流するんでしたっけ?」

静葉「ええ。大会スケジュール的には大体2回戦……サントス戦が始まる前には合流する感じかしらね」

早苗「そうですかぁ。私はこれからあの変なTシャツコーチの変な特訓を受けると思うと、気が重くなりますよ」

アリス「ラズリーと名乗る謎の女コーチだったわね。……今の全幻想郷代表の様子は随分と興味深いわ。
    これまでには無い人物が暗躍して、これまでには無い陰謀が蠢いている。
    ――でも、良かったのかしら? 立場上は敵である私達に、色々と教えてくれたのは有り難いけれど」

早苗「――少しでも、この前の試合の罪滅ぼしになるかもしれないと思いまして。
    ……でも、まぁ。私なんてどうせあのそうそうたるメンバーだったらほんの端役ですし、
    秘密主義の紫さんからはなーんにも情報は入ってこないし。
    多分、この位しゃべっちゃっても全然大丈夫だと思います。……あ、私の飛行機、来ちゃいました」

――そして空港の搭乗口で、反町達一行と早苗は別れた。
待合室でこれからの事を少しだけ語り合い、暫く経って別々の飛行機へと乗る。
早苗は日本。反町達はブラジル。フランスの地で偶然出会った彼らは地球の反対側へと離別する。

早苗「皆さん。こんな私にもフランスで仲良くしてくれて、本当にありがとうございました。
    お蔭で神奈子様達にも沢山、楽しい思い出話が出来ると思います。
    ううん、楽しいだけじゃない。色々な事を、勉強する事が出来ました」

839 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:48:10 ID:???
律儀な早苗は、別れ際にメッセージを残してくれた。

早苗「アリスさん。貴女は不器用だけど、トモダチを想う心の熱さだけは本当に凄いと思いました。
   皆で笑顔で幻想郷に帰れた後も、きっとトモダチになって下さいね?」

アリス「さ、さあ。どうかしら。考えてあげるわ(わ、私にもようやく、ボール君以外のトモダチができた……?
     どうしよう。今まで散々トモダチ欲しいって言ってたけど、いざ本当にできそうだとちょっと怖い……)」

早苗「静葉さん。貴女とは妖怪の山の同郷ではあるけれど、ここで色んな側面を知る事が出来ました。
    貴女の高い知識と緻密さは本当に頼りになりました。……主にペーパーテストの時に」

静葉「居眠りは関心しないわ。夜更かししないで、きちんと寝なくちゃ駄目よ?」

早苗「穣子さん。普段は元気一杯だけど、皆の事を沢山考えていますよね。
    だけど、考えるだけで抱え込みすぎちゃあダメですよ?」

穣子「うん……ありがとね、早苗ちゃん」

早苗「反町君……」

反町「……………」

そして、最後に早苗は反町に向き合った。昔からずっと反町を見ていた早苗は、
反町に対して言いたい事が沢山あった。しかし、早苗はここで思わぬ行動を取った。

――ぺしっ。

反町「あいたっ」

840 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:54:20 ID:???
早苗は挨拶の代わりに、反町の頭をぺちんと叩いた。
本気で殴られた訳では無いので痛みはないが、それでも不意を突かれた事にびっくりして後ずさる。
そんな反町を見て、早苗は笑顔で、一言だけ言いたい事を言う事にした。

早苗「言いたい事を言わずとも、言葉は伝わる。貴方が教えてくれた事ですよ、反町君?」

早苗はこれまで反町の無言の言葉に感銘を受け、刺激され、そして教えられてきた。
神や妖怪では無く、同年代の少女だからこそ、早苗は反町に対して等身大のエールを送れた。
そして――ここで漸く、バス内での静葉の視線が、あの時から見ていた夢が、これまでの自分の人生が、
目の前に居る少女の淋しげな後ろ姿へと繋がった。

反町「……穣子さん」

穣子「一樹、君……」

だから、早苗が去ってからすぐに、反町は意を決して穣子に声を掛けた。
穣子は一瞬だけ目を見開くも、その後反町の意志を察して真剣な表情を作った。

静葉「(――分かってくれた)……アリスさん。私達ちょっと外しましょうか」

アリス「え? 何で?」

静葉「(この人、悪い人じゃないのは充分分かったけど、本当に空気が読めないのね……)
    ――良いから、行きましょう。フランスみやげで、 しゃぶしゃぶ とか一緒に買いましょう」

アリス「え!? 一緒にお買い物!? それってあの、『リアルが充実している人』のみが体験できるという、
    恍惚めいた神聖体験の事……!? 行く、是非行くわ!」

静葉「――そう、良かった(……『皆』ももうすぐ来る事でしょうし。頑張るのよ、反町君……)」

841 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:55:35 ID:???
早苗が去り、静葉とアリスさんが自然と反町から離れたため、待合室は暫くの間、反町と穣子の二人きりになった。
沈黙が場を支配する中、口火を切ったのは穣子だった。

穣子「考えてくれたんだよね。色々と……」

反町は何も言わなかった。しかし、その無言はこれまでのような嫌な無言ではない。
彼はフランスでの修行で、言いたい事を言わずとも自分の意思を伝えられる術を身に着けていたのを、
静葉や早苗のお蔭で思い出していた。

反町「――――」

ぎゅっ……。

穣子「ふ、ふええっ!?」

だから反町は、穣子の呼びかけに答える代わりに、彼女の手を握った。
手を握った事は初めてでは無いし、それ以上の事をした経験だってある。

反町「………!」

じっ……。

反町は次に、穣子の瞳をしっかりと見た。
絶対に離さない。だけど、絶対に後悔しない。後悔させない。
彼の無言のメッセージは、穣子にも確かに伝わっていた。

穣子「――無理だよ。私達、きっとずっとは幸せになれないよ……。
    幻想の世界と現実の世界とは決して交じり合えないんだよ、やっぱり……」

842 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:56:42 ID:???
反町「……」

反町は首を横に振った。確かに、今の自分にはその為の方法は分からない。
だけど、自分達は一人じゃない。二人でも無い。
自分達には、一緒に悩んで、一緒に戦ってくれる仲間達がいる。
それを伝える為に、反町は続けて――。

反町「―――――」

スッ……。

穣子「え? 後ろ……?」

反町は、黙って後ろに向かって手を差し出した。その先には――。



ナポレオン「おいソリマチィ! さっさと抱いちまえー! 男だろー!」

ピエール「……サプライズで空港まで見送りに来たつもりが。これでは俺達が邪魔物みたいだな」

ボッシ「なに言ってるんだよピエール。ソリマチ達がそんな水臭い事言う訳ないって!」

ルスト「今は、どう見てもお取込み中ではあるがな……」

アモロ「ありがとう皆! 僕――僕達、絶対次の大会までに強くなるよ!!」

ジョルジュ「フランスユースのチームワークは世界一と。そう呼べるようになってやるぜ!」

ドゴール「俺達も、ピエールに頼り切りにならないDFを目指す!」

ブラボー「俺もだ! もうピエールにばかり負担を押し付けないぞ!」

843 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 00:58:37 ID:???
……自分達には、仲間が居る。それも一人では無く、沢山の『トモダチ』が。
そして、何があろうとも、『トモダチ』の絆は決して無駄にはならない。
反町はそれを、フランスでの学校生活で。文化祭で。サッカーの試合で。
充分に学んで来たのを思い出していた。

反町「…………」

穣子「……うん。ゴメンね。私、忘れちゃってた」

……俺だって、早苗さんに引っ叩かれるまでは気付かなかったさ。
そんな情けない本音を敢えて隠し、反町は穣子を優しく抱き留めた。
級友達の祝福やからかいの声をバックに、反町は無言で指を空へと向ける。

反町「(穣子さんが不安に思う気持ちは正しい。そして、仲間が居るから大丈夫と、
     楽観的に考える俺は間違っているかもしれない。でも、それを考えるのは俺じゃなくても良い)」

静葉「(普段は明るくリードできる穣子。ふとした瞬間に無言で傍に居てくれる反町君。
    ……やっぱりお似合いね、あの二人)」

アリス「(え? 今どうしてこんなに盛り上がってるの……? 分からない。
     皆の楽しいと、私の楽しいが一致しないよぉ……?)」

反町は言いたい事を言わない。その代わり、自分に出来る精一杯の仕事をこなす。
これまでもそうして来たし、これからも、そうしていき――自分を信頼してくれる仲間を増やす。
仲間が楽しく居られる空気を創る。その事できっと、理想論めいた大きな夢だって叶う筈だ。
反町はそう信じて、全てを自らの翼として飛び立つ事を誓った。

844 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 01:03:55 ID:???
穣子「……一樹君。ごめんね。……でも、ありがとうね。――ずっと、ずっと一緒だよ」

反町「…………」

泣きじゃくる穣子を、反町は力強く抱きしめた。
言いたい事を言わずとも、自分にはこの全身がある。魂がある。それだけで充分だと思った。

反町「(俺は……穣子さんが好きだ。でも、静葉さん、アリスさん、フランスで得た仲間、早苗さん。
     これから出会う皆との絆も大事にしたい。だったら、俺は……それを繋ぎとめられるような。そんな存在になる。
     そして、穣子さんと幸せになれて、皆が笑いあえる、和を大切にできる。
     そんな素敵なチームを、この秋空(オータムスカイ)の下で作りたい。いや――作ってみせる。これが、俺の目標だ!)」


*****



ゴオオオオ……ッ。

早苗「(同じ場所に居れないのは残念だけど、私には分かりますよ、反町君。
    ……きっと、今の貴方は穣子さんだけじゃなく、多くの信頼できるトモダチに囲まれて、笑っているに決まってます)」

反町達よりも一足先に空高く飛んだ早苗もまた、彼らの幸せを心から願っていた。
そして――これから自分に待ち受ける暗雲に対しても、彼らのような明るい心を持ち続けたいと思った。

早苗「(私じゃあ魔理沙さんの代わりになれないのは分かってる。
    でも、私だって、貴女に追いつきたいと思い続けたライバルの一人です。だから、待っててくださいね……霊夢さん)」

やがて、反町達も空に向かって旅立つだろう。それは自分には感知できぬ、全く新しい物語。
だが、その物語の事を、これまでと同様に愛したい。早苗はそう思って、窓から見える秋空を見送った。

845 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 01:06:21 ID:???


                かくして、少年少女の愛と友情の物語は一旦の結末を迎えた。

              無論、彼らの先に待ち受ける困難は、生易しい言葉で語れはしない。

             だが、彼らは同時に、言葉以上に大事な物がある事を、この旅で学んだ。


               ――そして、物語は西欧の地を離れ、再び約束の地へと収束する。

               無言の愛と友情を学んだ彼らは、『彼女』に対し一体何を齎すのか。

                  その全ては依然、この物語を司る女神に委ねられていた。



                                                     −反町の章 完−

846 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 01:08:30 ID:???


*反町の章クリアボーナスとして、主人公キャラの反町、静葉、穣子、アリスさんの全能力が+1されます。
*また、穣子との好感度ボーナスとして、反町と穣子の高低の浮き球が+1されます。
*更に、反町と穣子の最大ガッツが+50されます。
*更に、穣子と反町が判定時、季節は秋(=秋ジスタ発動可)になります。
*静葉との好感度ボーナスとして、静葉の高い浮き球が+1されます。
*アリスさんとの好感度ボーナスとして、アリスさんのファンタジスタフラグが進行した…かもしれません。



847 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/06/28(火) 01:10:50 ID:g5cRU4+s
…と、言った所で今日の更新はここまでです。
次回から久しぶりの鈴仙パートに移りますが、容量も511kbとほぼいっぱいなので、次回は新スレで更新したいと思います。
スレタイ案がありましたら、引き続き募集しますので、

【】鈴仙奮闘記37【】

の形で書いて提案して頂ければ大変嬉しいです。
それでは、本日も遅くまでお疲れ様でした。


848 :森崎名無しさん:2016/06/28(火) 17:01:30 ID:???
【ウサギと】鈴仙奮闘記37【ウナギ】

849 :森崎名無しさん:2016/06/28(火) 18:24:08 ID:???
【かばやきは】鈴仙奮闘記37【おいしい】

850 :森崎名無しさん:2016/06/28(火) 20:02:53 ID:???
【フランス組】鈴仙奮闘記37【参戦】

851 :森崎名無しさん:2016/06/28(火) 22:13:59 ID:???
【秋空と】鈴仙奮闘記37【土用の鰻】

852 :鈴仙奮闘記 ◆85KeWZMVkQ :2016/09/19(月) 01:23:44 ID:xfnCvXu6
落ちていない気がするので、新スレのURLを貼りつけます。
【熱戦烈戦】鈴仙奮闘記37【超激戦】
http://capmori.net/test/read.cgi/morosaki/1467125220/

これからも拙作を宜しくお願いします。

853 :森崎名無しさん:2016/09/19(月) 19:40:55 ID:???
うめ

854 :森崎名無しさん:2016/09/19(月) 19:41:56 ID:???


855 :森崎名無しさん:2016/09/21(水) 20:33:57 ID:???
うめ

512KB (08:00PM - 02:00AM の間一気に全部は読めません)
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