キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【SSです】幻想でない軽業師

1 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/20(土) 21:45:02 ID:???
Act.1 その時の結末

後半16分。

45分ハーフ、現時点で5−3でのビハインドという劣勢。

佐野「ハァ……ハァ……!」

フランス国際Jrユース大会、準決勝。
全幻想郷Jrユース対、魔界Jrユース。
どこからどう見てもJrユースという年齢層には見えない選手たちを抱えながら、
両チームはぶつかりあっていた。

ぶつかり合った結果が、先に出したスコアである。
電光掲示板に映るその数字を見ながら、魔界Jrユースの――キャプテンですらない、一選手。
"彼"は、走り回る。
走り回る事しか、今の自分に出来る事は無いと知っているから。

佐野「(ふざけんな……! ふざけんなふざけんなふざけんな!!!!)」

叫びたい気持ちを、押し殺しながら"彼"はひた走る。
その脳裏に、ここまでの道程がフラッシュバックした。

ボール運び程度なら出来ると、幻想郷へと召喚され。
しかしながらゲームメイカーには到底足りないと勝手気ままに烙印を押され、あっさり現実へと送還。
かと思えば使い道はあると言われ、妖怪の賢者に送り込まれた先はサッカー未開の地、命蓮寺。
まるでサッカーの素人ながら、素質はある彼女たちと切磋琢磨をし、
召喚の根本となった賢者の傍らにいる天才に羨望の目を送り、そして要因となった魔王をめざし。

19 :◆ma4dP58NuI :2018/01/21(日) 23:18:52 ID:???
遅くなりましたが復帰ありがとうございます。
私も幻想のポイズンは何度も楽しませていただきました。
特に強くなった反町が全日本を思うままに屠るテストマッチは
何回読んだか分かりません。読むたびにカタルシスで満ち溢れて最高でした。

どうか無理せず、できるだけ長く執筆を続けてもらえれば幸いです。

20 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:13:22 ID:???
>>19
どうも復帰乙ありがとうございます。
テストマッチの時はボーナスゲーム状態でしたね。
無理ない範囲で楽しく書いていければなと思います。

それではこれから投下します。
昨日もでしたが久しぶりにSSを書きますので、文章が支離滅裂でしょうが読んで楽しんでいただければ幸いです。

21 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:14:47 ID:???
Act2.乙女心と秋の空

ドンチャンドンチャン ガヤガヤ

反町「(騒がしいなぁ……まあ、こっちの方がらしいと言えばらしいのかな?)」

フランス国際Jrユース大会。
幻想郷Jrユースとして参加をした、少年(1名)少女(と呼ぶには幾らか不自然な容姿の者も多数)達。
予選リーグを博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、ついでに魂魄妖夢という主力を欠きながらも突破し、
決勝トーナメントからは西ドイツJrユース、魔界Jrユースを彼女たちの帰還もあり突破(妖夢が活躍したとは言ってない)。
そして決勝――全日本Jrユースを相手に3−1で快勝。
見事優勝という栄誉を手に入れた彼女たちはフィールドでもその喜びを分かち合っていたのだが――。

しかしながら、それはそれ。

元来何かあれば宴会、という風土を持つ幻想郷である。
宿舎へと戻ってからの祝勝会は、それは大層派手なもので――。
幻想郷に来て幾月、それでもまだ一介の中学生感の残る反町一樹は、酒気を帯びる一同を遠巻きに見るしか出来なかった。

反町「……っていうか、いいんですかこれ? 外界だと法律違反ですよ……。
   最悪優勝取り消しとか」
輝夜「そこはほら……大人の力で、強引にうまいことやってる!」
反町「(それでいいのかなぁ……)」

常識的に考えて、年齢的に(一応Jrユースとして登録しているJrユースには見えない選手たちも擁するが)飲酒行為など一発アウト。
この場が外部に見られては優勝取り消しもあると反町は心配するが、
そこは色々と上手くやっているようである。
反町の不安を、こちらも日本酒を片手に上機嫌ながら払拭しつつ、
この幻想郷Jrユースを見事に率い優勝に導いた名将(?)。
――選手としては三流ながらも監督としてはそれなりに出来る蓬莱山輝夜はにっこりと笑みながら相槌を打つ。

22 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:16:28 ID:???
輝夜「それはそれとしてお疲れ様、反町くん。 大会MVPに得点王。
   憎き宿敵にも勝てた事だし、悲願を達成出来たって所かしら?」
反町「……ええ、まあ」

決勝戦。
反町はハットトリックとはいかないまでも、全日本Jrユース――後半から出場をした若林源三から決勝点を収め、
その印象的な活躍とゴール数から大会MVPと得点王の二冠を達成している。
Jrユース大会が始まる以前――もっと言えば、オータムスカイズへと、幻想郷へと移籍する以前から比べれば、
まかり間違っても自分では達成出来ないような実績である。
しかしながら、反町の表情はいまひとつ浮つかない。

反町「ただ……宿敵に勝てた……と言っても、俺は森崎には勝ててないんですよね」
輝夜「………………」

そう、反町一樹は森崎有三からゴールを奪ってはいない。
全日本Jrユースとの決勝戦、前半戦は0−0というロースコアゲームで試合を折り返した。
正しくは森崎が反町、魔理沙、リグルという幻想郷の誇る超火力シューターたちに対して常に全力のセービングを行い、
結果的に弱点であるスタミナの消耗を露呈させて後半からは退いただけである。
言ってしまえば、反町達幻想郷はその弱点を突いて森崎を交代に追いやった――それが故の勝利でも言えた。
ただ、反町自身は――全力であった森崎からゴールを奪えなかった、その事実に納得がいっていない。

反町「まだまだです。 俺も……こんな程度で、満足してはいられない」
輝夜「…………(既に全世界を見渡しても、彼以上の、純粋なストライカーはまずいない。
   それでいて、なおこの貪欲なまでの勝利への拘り。
   見るものが見れば持つ者への嫉妬を感じるのでしょうけど、だからこそ彼は強いんでしょうね……)」

ストライカーとしての反町の能力は、言うにも及ばず世界でも最高峰である。
かつて自身を虐げていた日向小次郎も目ではない。
西ドイツで皇帝の異名を持つカール=ハインツ=シュナイダーも敵ではない。
幻想郷で常にトップクラスのFWとしてサッカー界を牽引してきた、レミリア=スカーレット、霧雨魔理沙も足元に及ばない。
ことシュートにおいて、彼は既に頂点を極め――それでも、セービングにおいて頂点とも言える森崎からゴールを奪えなかった事を悔いる。
その貪欲さは美徳でもあり、そしてそれ以上に彼の『欠点』でもあった。

23 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:18:13 ID:???
輝夜「まあ……ひとまずこれで大会は終わりなのだし、しばらくはのんびりした方がいいわ」
反町「そうですね(そうだな、大会は終わるんだし。 これからは試合前に体力温存をする必要も無いんだ。
   久しぶりに朝から練習しても問題は無いんだな)」

のんびりする、という言葉を素直に受け止めた反町はそう考えつつ、
しかし次の輝夜の言葉で現実へと引き戻される。

輝夜「それに、今後どうするかも考えなきゃいけないんじゃないの?」
反町「え?」
輝夜「今までは幻想郷で……ほら、西ドイツのシェスターくんや西尾?くん……じゃなかった、カルツくんとか。
   後は紅魔館の三杉とか、ついでに魔界Jrの佐野くん?だっけ、とかも幻想郷にいたけど。
   ここから先は外の世界に戻るって選択肢も出てくるでしょ?」

思えば。
反町が当初、この幻想郷へとやってきたのは――新造チームを秋姉妹が作る、とし。
八雲紫がスキマを使って呼び出したのが最初である。
そこから秋姉妹と共に共同生活を行いつつ、橙、妖精トリオ、大妖精、にとり、椛、リグルを自チームに勧誘。
負ける事もありながらも仲間たちと切磋琢磨をし、更に仲間を増やし。
色々といざこざはありながらも、『弱小』だったチームを『名門』へと引っ張り上げたのは記憶に新しい。

ただ、そんな彼も――もとはといえば、やはり外の世界の人間である。
外に帰れば両親もいるし、学校もある。
いつまでも幻想郷にいる、という訳にはいかないのだが……。

反町「………………」
輝夜「ま、悩みなさい。 あんたをこの世界に呼んだのはあの八雲紫なんだもの。
   あんたがどんな選択をしようと、その道を選ぶ手助けくらいはしてくれるでしょ」
妹紅「おーい、輝夜ーっ!! 何してんの、ほらほら、かんぱーいっ!!」
輝夜「あー……はいはい、乾杯乾杯」

24 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:20:11 ID:???
このチームを率いたという事からか、それとも単純に年長者としての意見か。
そっと反町にそう呟きながら、相も変わらず熱血漢として賑やかな場を楽しむ妹紅に呼ばれた輝夜は、
苦笑をしながらも返事をし、妹紅の元へと歩んでいく。

反町「(妹紅さんも……変わったよなぁ)」

1人になった反町がそんな輝夜を見ながら視線を動かせば、満面の笑みで盃を交わす妹紅の姿。
思えば、妹紅も反町が出会った時からは考えられない程の変化をした。
かつては世捨て人同然の暮らしをし、クールで斜に構えた態度を取っていた妹紅。
それが反町と静葉の説得を契機にして反町達のチーム――『オータムスカイズ』へと加入。
人妖との関わりを大切にしながら周囲と共に過ごし、その中で心境にも変化があったのか、
やがては不倶戴天の敵としていた輝夜とも和解をし、今では先のように盃を交わすまでの仲となった。

反町「(妹紅さんだけじゃないよな……本当に、いろんな人と知り合った)」

過ごした月日は僅か数か月程度。
ただ、その中で反町は個性的ともいえる人々――もとい、妖怪、神様、その他諸々と知り合った。



25 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:21:48 ID:???
レティ「まいう〜♪」
ヒューイ「まいう〜!」
チルノ「あたいってば暴飲暴食ね!!」
大妖精「チ、チルノちゃん! あんまり食べ過ぎちゃまた後で気持ち悪くなっちゃうよ!」

視線を向ければ、立食形式のパーティーの中、お皿を持って徘徊をする妖怪と妖精の一味を見つける。
かつては先にあったフランス国際Jrユース大会で敵として相対しながらも、
さまざまな衝突がありながら加入し心強い味方として、時折天然な所も見せながら縦横無尽に活躍を見せた風見幽香。

そんな彼女と共に加入をし、幻想郷では希少価値のあるDFとしてオータムスカイズを支えたレティ。

妖精トリオとしてその他大勢のモブ同然の身から、反町と師弟関係を結び――。
その関係については未だに少し互いに距離を測りかねているものの、
彼女自身は既に妖精という枠組みからは外れた……一流と呼べるボランチへと成長を遂げたヒューイ。

そして、そんなヒューイらに忌み嫌われながらもオータムスカイズに入り、
強大なブロックと誰にも負けない根性でオータムスカイズゴールを守り続けたチルノと、
そのチルノを誘い、途中からやけに反町に対して腫れものを触るような態度になった大妖精。

26 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:23:26 ID:???
パルスィ「妬ましい……大会MVPまで取るオータムスカイズが妬ましい……パルパル……!!」
ヤマメ「パルスィもしっかり活躍してたじゃないか。 第三キーパーの身からすりゃパルスィだって相当羨ましいよ」
キスメ「……!」←でもヤマメちゃんもアルゼンチン戦で活躍してたじゃない、とヤマメの肩を叩いて励ますキスメ
妖夢「(そうなんですよね、ヤマメもなんだかんだで出番はあったんですよね……。
    私だけ出番が結局無いまま終わって……ど、どうしてこうなった……)」

更に視線を動かせば、そこにはギリギリと歯ぎしりをしながら恨み節を呟くパルスィの姿。
彼女との付き合いも、思えば弱小だった頃からである。
シュートをひたすらに伸ばし、幻想郷どころか世界でも屈指の実力者となった反町とは対照的に、
怪我に泣きながらもそのセンスをこの大会中に一気に開花させ、ドリブラーとして一躍有名人となった彼女。
今や彼らを弱小なFW、MFと揶揄する者はどこにもいないだろう。

そんなパルスィの傍らには、やはり妬ましパルパルズ時代からのチームメイトが寄り添っている。
大会では第三キーパーながらも、腐らず、自身が求められた場所で活躍をし、
『あの』天才達から無失点で試合を切り抜け、大虐殺試合の立役者となったヤマメ。
無口ながらも心優しい性格と桶の強度だけでブロック一芸を突き詰めたキスメ。

唯一、大会中一度も出番がなかった彼女らのチームメイト魂魄妖夢だけは真実浮かない顔をしていたが、
活躍する者もいればしない者もいるのがスポーツである。

パルスィ「妬ましい……才能がありながらそれを腐らせるあなたが妬ましい……」
妖夢「…………(みんな私に才能があるって言いますけど、本当なんでしょうか。
   知らない内にリグルにすら大きく水をあけられちゃいましたし……どうしてこうなった?)」
ヤマメ「妖夢はしゃーないよ……FWは激戦区も激戦区過ぎるし」
キスメ「…………」←ドンマイ、と妖夢の肩を叩いてる

パルスィは独特の口調で妖夢の事を励ますも、いまいち届かない。
才能とセンスはある、しかし芽が出ない半人前のFW――そう言われ続けた魂魄妖夢。
自分には才能がある、と自覚し無自覚にも傲慢さも少し見え隠れしていた彼女だったが、
彼女はこの大会で結局出番が無かった事に関し、大きく自信を失くしていたという。

27 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:24:49 ID:???
魔理沙「よ、食ってるかにとり?」
にとり「うん、魔理沙! いやぁ、このキューリは美味いねぇ!! 漬物とはまた違う味わいだよ!!
    作り方を穣子に教えさせて、毎日食べたいくらいだね!!」
魔理沙「そっちはどうだ妖精?」
妖精1「ん……ちゃんと食べてる。 それより人間、飲み過ぎじゃない?」
魔理沙「何言ってんだ、めでたい事なんだし飲まない方がおかしーだろ! ほら、お前も飲め飲め!!」
妖精1「わわわっ……」

また違う所では、にとりと妖精1の師弟コンビに、魔理沙が絡んでいた。
ある意味、反町とは対極の位置に存在する霧雨魔理沙。
彼女もまた反町が大会MVPと得点王を両取りした事に思う所が少なからずあるのだろうが、
それでも純粋にこの宴会を楽しみ盛り上げていた。
妖精1の持つ空のグラスに並々と麦酒を注ぐと、妖精1はそれに小さく感謝の言葉を言いながらちびり……と舐めるように飲む。

にとり「妖精1も食べるかい? このキューリはいい、本当にいい!!
    絶妙な酸っぱさと後を引く甘さの見事なハーモニーがだね……!!」
魔理沙「にとりみたいにキューリだけで一皿とはいかねーだろ……何か取ってきてやろーか?」
妖精1「だ、大丈夫。 まだお皿に料理残ってるから」

28 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:26:38 ID:???
キューリのピクルスに感激し通しのにとりは上機嫌でそれを頬張る。ポリポリといい音が鳴る。
そんなにとりの様子を見ながら、妖精1は苦笑しつつももう一度ちびりとお酒を入れた。
この大会、FWはほぼ反町、魔理沙、リグルの三者で固定。
MFについても霊夢、咲夜、ヒューイの三者がほぼ確定であった中――DFに関しては、流動的であった。
咲夜やヒューイがDFの位置につく事もあれば、本職はFWであった紅魔館の門番――。
紅美鈴がそのクリアーの強さを買われて起用された事もある。
そんな中でも、にとりと妖精1、両者は全試合とまでは言わないまでも、それなりには試合出場の機会を得た。
特ににとりにしては自身の出番があった云々以上に、妖精1がそれなりに見どころのある選手だと認められた事が嬉しい。

にとり「かぱぱ! 妖精1のマンツーマンディフェンスは誰にもない、希少な才能だからね!
    ようやく認められて、本当に良かったよ!」
妖精1「……でも、まだまだヒューイには負けてる。 ヒューイは全試合に出て、ずっと活躍してたから」
魔理沙「…………ま、今は喜んでいいんじゃねーか? 前に比べりゃずっとよくなったんだろ?」
にとり「そうだよ妖精1! この大会を機に、お前はいずれは幻想郷を代表するマンマーカーになるんだよ!
    その為にも、また猛特訓しないとね!」
妖精1「ま、またあの変な機械とかつけるの!?」

かつて亀裂が入り修復は不可能かと思われた師弟関係。
しかしながらその思いのたけを妖精1はにとりにぶつけ、ぶつかり合い、やがては和解をした。
才能があると惚れ込んでおきながらまるで面倒を見ていなかったにとりは、
幻想郷にいた頃、大会前の大事な期間を費やし全てを妖精1を鍛え上げる為だけに捧げたのである。

結果、妖精1はその実力を大きく向上させ、先に述べた通り一目置かれる存在にはなった。
だが、まだまだこの程度では満足できていないのはにとり、妖精1、両者ともに同じである。

魔理沙「ま、頑張りな。 熱心な師匠がいてくれるってのはそれだけありがたいことだぜ」
にとり「えへへへ〜、そう? そうかな? ほら妖精1、魔理沙もこう言ってる事だし、頑張るよ!」
妖精1「う、うん……(ヒューイにまだ負けてるのは本当だしね。 ……それにしても、サンタナはどうしてるかなぁ?)」
魔理沙「(……これから伸びる余地があるってのは羨ましい限りだぜ。
     私は……。 私は、考えるだけだ。 こっからどうするのか、どうやるのか、何を為すのか。
     一から出直しだ……なあ、魅魔様)」

29 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 00:28:23 ID:???
一旦ここまでです。

30 :森崎名無しさん:2018/01/22(月) 00:53:15 ID:???
一旦乙です。反町…お前まだシュート力を上げたりないと言うのか…

31 :森崎名無しさん:2018/01/22(月) 01:32:39 ID:???
ああ、懐かしい面々の楽しそうな場面が見れて凄く嬉しい
それはそうと後半だけで3失点とこっそり炎上してるバヤシさん憐れ
彼にもちょっとだけで良いから幸せが訪れますように

32 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 23:56:20 ID:???
>>30
乙ありです。
打てば入るというレベルになるまではもう満足しないんじゃないですかね……(遠い目)
>>31
私も書いてて懐かしいと同時に楽しいです
バヤシさんについては、彼とさとり様のその後とかもかけていけたらと思います。

今日は更新は無しですが当時のデータとかを載せてみたいなと思います。
散々文中でも反町・魔理沙・リグルのFW3人が強い強いと言っていますが実際どれくらい強いかご覧ください。
ちなみに数値はわかりやすいように、本編準拠の76を限界値とするやり方に合わせています。

33 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 23:57:29 ID:???
名前   ド パ シ タ カ ブ せ 高低 ガッツ 総合
反町   73 71 77 72 70 70 70 3/3  880/880 503
魔理沙  74 75 74 75 72 72 74 2/2  900/900 516
リグル  73 74 73 73 70 70 73 3/3  750/750 506

   反町
やや華麗なドリブル(1/4でドリブル力+2)
メイア・ルア(1/4でドリブル力+4)
トリカブトパス(パス力+3)消費ガッツ80
トクシックチャドクガ(パス力+3で高速ワンツー)消費ガッツ80×2 要リグル
猛烈なシュート・ヘディング(シュート・高シュート時1/2で+3)
ポイゾナスドライブ(シュート力+7、吹っ飛び係数5)消費ガッツ200
オータムドライブ(シュート力+9、吹っ飛び係数5)消費ガッツ250
ポイゾナススパーク(シュート力+13、吹っ飛び係数1、要魔理沙)消費ガッツ300×2
コブラバイト(近シュート力+4)消費ガッツ120
ポイゾナスオーバー(低シュート力+5)消費ガッツ250
スベスベマンジュウガニカット(1/4でパスカット力+2)
ポイゾナスタックル(1/2でタックル力+2)
ネオポイゾナスタックル(1/4でタックル力+3)
スキル・ポイゾナスセンス(自身のシュートがキーパーに届いた場合。
    1/2の確率で以降のキーパーと自分の判定時、キーパーのセービング力に−2の補正)
スキル・パス+2
フラグ・ドリブル(7)・パス・タックル(6)・せりあい

34 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/22(月) 23:59:24 ID:???
   魔理沙
強引なドリブル(1/2でドリブル力+2、吹っ飛び係数2)
マジックミサイル(パス力/空パス力+2、吹っ飛び係数3)消費ガッツ60
スターダストミサイル(パス力/空パス力+3、吹っ飛び係数2)消費ガッツ80
東方コンビ(パス力+3でワンツー、要霊夢)消費ガッツ80×2
マスタースパーク(シュート力+6、吹っ飛び係数2)消費ガッツ200
ファイナルスパーク(シュート力+10、吹っ飛び係数2)消費ガッツ300
マスター封印(シュート力+11、吹っ飛び係数2、要霊夢)消費ガッツ250×2
ファイナルポイゾナス(シュート力+13、吹っ飛び係数1、要反町)消費ガッツ300×2
スターダストレヴァリエ(低シュート力+2、吹っ飛び係数5)消費ガッツ120
シュート・ザ・ムーン(高シュート力+2、吹っ飛び係数4)消費ガッツ120
ドラゴンメテオ(高シュート力+6、吹っ飛び係数2)消費ガッツ300
東方ツイン(低シュート力+3、要霊夢)消費ガッツ120×2
アースライトレイ(1/2でタックル力+3、吹っ飛び係数2)
カウンタースパーク(1/4でブロック力+10、ブロックに成功した場合敵シュート力+10で打ち返し)
マジックナパーム(高トラップ力+1)消費ガッツ80
スキル・キャスケットオブスター(味方のパスを受ける際、1/4で完全フリー補正付与。自身のアシスト時、1/2で相手に+1の補正)
フラグ・タックル

35 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 00:00:39 ID:???
   リグル
リグルーレット(1/2でドリブル力+3)
トクシックチャドクガ(パス力+3で高速ワンツー)消費ガッツ80×2 要反町
バグストーム(空トラップ/パス力+1)消費ガッツ80
リトルバグストーム(空トラップ/パス力+2)消費ガッツ100
地上の流星(シュート力+3)消費ガッツ120
地上の彗星(シュート力+8)消費ガッツ250
ドライブスコーピオン(高シュート力+7、吹っ飛び係数3、発動は反町)消費ガッツ200×2
リグルキック(空シュート力+4、吹っ飛び係数3)消費ガッツ200
ネオリグルキック(空シュート力+6、吹っ飛び係数3)消費ガッツ250
ライトニングリグルキック(空シュート力+8、吹っ飛び係数3)消費ガッツ300
リグルタックル(1/4でタックル力+3)
スキル・エースの自覚(自分が点に絡んでいない時のみ発動。
           誰かが点を入れた直後から発動、自身が点に絡むまで全能力+1)
スキル・ドリブル+1
スキル・パス+2
スキル・タックル+1
フラグ・ドリブル・タックル・パスカット・ブロック

36 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 00:06:56 ID:???
……はい、ご覧のとおり、限界値76を超えて反町のシュート力は77で設定していました。
信じられますか?これでも当時はまだシュート力を上げたいって言われてたんですよ。
ドリブルはまあそこそこ。タックルも可もなく不可もなくですが、
とにかくシュートだけはバカみたいに強いです、魔王呼ばわりされますねこれは。
Jrユース時点で日向のライトニングタイガークラスです。それを250消費で打てます。
おまけに1/2でキーパーまで届けば−2補正をかけるスキルまで持ってます。
言ってみれば一度打った後は1/2でストラットのオムニゾーンが発動するようなものです。
……化け物ですね、今改めて見ても。何度も言いますがJrユース時点です。

魔理沙も普通に強いです。というか互換対象である日向以上です。MLvの有無も、スキルで相殺しています。
あまりイメージにないと思いますが、パスが実は相当上手いです。
ドリブルも出来る、ポストプレイで楔になれる、シュートも当然高火力(反町には及ばない)。
普通に一流レベルです……比べる相手が悪い。

リグルも見劣りするかもしれませんが、やっぱり強いです。
ライトニングリグルはネオタイガークラス。来生がネオタイガー打てる全日本とかどう考えても強い。
おまけに来生よりもガッツがありますし、反町の言う事なら(それなりに)聞いてくれます。
スキルも点に絡んでいない場合は常に全能力+1と強力です。
パスカットブロックは出来ませんが、FWとして必要な能力は全て高水準。

そりゃこんな3人いたら……いくらバヤシさんでも3失点です。
バヤシさんの強化点はさとりとの練習でラストフォート会得くらいですので。。。


それでは、お披露目した所でここまで。
明日は多分更新できます。

37 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 00:59:02 ID:???
ストラットと1しか基礎値が違わないのか、もっと引き離せるように鍛えなきゃ(感覚麻痺)

みたいな考えが普通だったと思うと、凄い時代でしたね…

38 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 01:24:40 ID:???
撃てば入る。
それは所詮射之射というもの、好漢いまだ不射之射を知らぬと見える。
ムッとした反町を導いて、老隠者は、そこから二百歩ばかり離れた絶壁の上まで連れて来る。
脚下は文字通りの屏風のごとき壁立千仭、遥か真下に糸のような細さに見える渓流を
ちょっと覗いただけでたちまち眩暈を感ずるほどの高さである。
その断崖から半ば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返ふりかえって反町に言う。
「どうじゃ。この石の上で先刻のシュートを今一度見せてくれぬか」
今更引込もならぬ。老人と入代りに反町がその石をふんだ時、石は微かにグラリと揺ゆらいだ。
強しいて気を励はげましてシュートしようとすると、ちょうど崖の端から小石が一つ転がり落ちた。
その行方を目で追うた時、覚えず反町は石上に伏した。
脚はワナワナと顫え、汗は流れて踵にまで至った。
老人が笑いながら手を差し伸のべて反町を石から下し、自ら代ってこれに乗ると、
「ではシュートというものをお目にかけようかな」と言った。
まだ動悸がおさまらず蒼ざめた顔をしてはいたが、反町はすぐに気が付いて言った。
「しかし、ボールはどうなさる? ボールは?」
老人はボールを持っていなかったのである。
「ボール?」 と老人は笑う。
「ボールの要いる中はまだ射之射じゃ。不射之射には、ボールもスパイクもいらぬ」
ちょうど彼等らの真上、極めて遠い所を一人の若林が悠々とSGGK伝説を描いていた。
その胡麻粒ほどに小さく見える姿をしばらく見上げていた老人が、やがて、
見えざるボールを無形の形に構え、満月のごとくに引絞ってバシィと放てば、見よ、
若林はとめるとも言えずSGGKからジュストのごとくにザルGKへと落ちて来るではないか。
反町は慄然とした。
今にして始めてシュートの深淵を覗き得た心地であった。

39 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 01:41:05 ID:???
FW陣強過ぎる…たぶんMF以降も凄いことになってるんだろうなぁ
最大火力は魔理沙とのコンビ技で威力90、センスが発動すれば92か
0封の森崎が凄すぎる

40 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 02:27:07 ID:???
詳しく見てないけど反町は今でも自分は少しでも気を緩めたら弱者になると思ってるんだろうな
現状世界最強のシューターでも、もっとシュート鍛えなきゃ(使命感)
って考える過剰な程の向上心は疲れないのと思っちまうな

41 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 06:28:21 ID:???
でも、一流FWというには足りない能力が多いから
まだまだ鍛える余地はありそうだし、本人もあると思っているんだろう
個人的にはもう少しドリブルを鍛えるべきだと思うが


>>38
中国古典の列子かな?

42 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 12:19:25 ID:???
森崎は最初から超化
早田で反町をマーク、空手でリグルの空中戦封じて、
魔理沙は松山に頑張ってもらうか日向DF起用くらいしか対策思い浮かばん
そうまでしたところで霊夢とパルスィがドリブルで突っ込んでくるっていうね

43 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 17:49:35 ID:???
>>38 満月のごとく引き絞るって何をどう引き絞るんだww

44 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:12:54 ID:???
>>37
今だから言いますけど、殆どのチームにはキックオフシュートが最適解だったと思います。
完全フリー補正+2が乗った上でポイゾナスセンスが乗ったら大体敵はいません。

>>38
大前さんかな?(すっとぼけ)

>>39
MF陣は霊夢・咲夜・ヒューイ・パルスィ(ドリブル一芸)・パチュリー(後悔させないよさん互換)がいますからね……。
唯一弱点はDFなのでしょうが……FW・MFで稼げる優位性がJrユースレベルだと半端ではないですね。

>>40
疲れる事は無いのでしょう。何せ主人公キャラですので……。
というのは冗談としても、純粋に森崎からゴールを奪えなかったのが悔しいだけだと思います。

>>41
一流FWの定義をどうするかですね。
突破力マークの引付決定力と定義するなら魔理沙が幻想郷No.1でしょう。
シュナイダーや出てませんけどカルロスもその条件に当てはまります。
ただ純粋なストライカーとしてなら反町が群を抜きすぎてますね……抜きすぎてます。
ドリブルまで上がってたら、正直ゲームにならないですね……(多分当時何度も思った事)

>>42
反町リグル魔理沙体勢の何が強いって3人揃ってる事なんですよね……。
反町並のシュートを打つFWはいます(WY編のストラットクラスですが)
リグルくらいのシュートを打てる選手もいます、魔理沙並のFWだっています。
ただ3人揃ってるっていうチームは、本編では多分いなかったと思います。
強いて言えばカルロス、ザガロにコインブラをFWに上げたブラジルより少し下くらいの性能かと思いますね。

ちょっとだけ更新します。

45 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:14:18 ID:???
(>>28の続きから)

咲夜「美鈴、お疲れ様。 思ったよりはあなたも出番があったわね」
美鈴「は、はぁ……といってもFWじゃなくてDFとしての方が主でしたけどね、アハハ」
咲夜「正直な所、FWにコンバートをしてもイマイチだったのだし……本格的にDF転向を考えてみたら?
   クリアー一芸とはいえ、何度もお嬢様やフランドール様の得点機会を阻んだのだし」
美鈴「うぐっ……」
咲夜「?」
パチュリー「(……咲夜はどうしてこうなったのかしら)」

一方では、紅魔館から参戦をした3者が優雅に歓談をしていた。
幻想郷の誇るトップボランチにして、この大会(というか一時帰省の際の謎の人物との遭遇により)大きく成長を遂げた十六夜咲夜。
GKとしては役立たず、FWにコンバートしても結果は出ず、
しかし持前のフィジカルと拳法を応用したクリアーだけは他の追随を許さない紅美鈴。
もやしの貴公女として幻想郷の切り札的存在となっていたパチュリー=ノーレッジ(活躍したとは言ってない)。

彼女たちはこの激しいレギュラー争いが繰り広げられる幻想郷Jrユース内において、
一定以上の地位と実績を積んでいた為、表情は決して暗くなかった。
暗くなかったのだが――咲夜の一言により、美鈴は少しばかり呻く。

美鈴「(そうなんですよね……私思いっきりお嬢様とフランドール様の活躍機会奪っちゃったんですよね……)」

今大会、美鈴が起用をされた際に求められた役割はポストプレイヤーの無力化。
イタリアへと派遣された洩矢諏訪子、西ドイツの誇るポストプレイヤーマンフレート=マーガス。
両者に対する切り札として、DFの位置で出場を続けた。

そして、その両チームへと派遣されていたのが――美鈴の雇い主である、
レミリア=スカーレットとフランドール=スカーレットの姉妹である。

46 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:15:52 ID:???
万全を期し、全力で挑む事こそが礼儀、手を抜く事など逆に無礼であるとはいえ、だ。
結果的にはストライカーである2人の活躍機会を奪った事に変わりはなく、
活躍出来たとはいえど美鈴の心中は複雑であった。

そこを銀のナイフでグサグサと突き刺すように言葉を投げかけるのが、我らがKY長である。

パチュリー「……まあ、そこまで重く考えなくても大丈夫でしょ」
美鈴「そ、そうでしょうか?」

流石に見かねたのか、パチュリーが美鈴を慰める。
主君であるレミリアの友人であるパチュリーがそう言うのなら……と、
美鈴としても少しばかりは気持ちが晴れた。

パチュリー「……主君の気持ちを踏みにじりながらものうのうとやれているのもいるんだし、それに比べれば」
美鈴「……そうですね」

否、完全に晴れた。

レミリア=スカーレット――暴君のように思えるが、割と心は広い。
少なくとも、今パチュリーが言ったように、自身の気持ちを大事に思っていた従者に踏みにじられようと、
その従者をなおも手元に置き、必殺シュートの特訓をつける程度には(なお、そのシュートは従者本人には恥ずかしがられる模様)。

咲夜「(……このローストビーフ美味しいわね。 製法が違うのかしら?
    後でレシピとかを聞ければいいのだけれど……)」

ちなみに、当の従者は2人の視線を気にする事なく料理に舌鼓を打っていたという。

47 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:17:14 ID:???
こうして活躍出来た者たちもいれば、当然出来なかった者もいる。
選手兼コーチのパチュリーを含めれば総勢25名。
途中、霊夢ら4名の離脱があったとはいえ、出番すらなかった者すらいた。

うどんげ「私たちまで食べていいのかなぁ……後で料金とか請求されるんじゃ……」
てゐ「気にせず食ってりゃえーウサ。 誰もうどんちゃんの事なんて見てないよ」
うどんげ「ひ、酷いっ!!」

一応、本当に一応、出場機会こそあったものの。
いい所はまるで無し、小さな活躍はしても大きく印象に残る事はまるでない。
極端に役立たずだった訳ではないが、かといって存在感は微塵も感じる事もなかった鈴仙=優曇華院=イナバ。
彼女は自分もこんな豪華な食事を食べていいものかとキョドっていたものの、
傍らにいる少女の言うように誰もうどんげには注目をしていなかった。

憤慨するうどんげをいなしながら、少女――因幡てゐは小さく溜息を吐く。

てゐ「(私の出番が無いとは思ってたし、うどんちゃんも活躍するとは微塵も思わなかったけどさぁ……。
    流石にアルゼンチンがあそこまでの大敗をする、ってのは痛かったなぁ……)」

この大会が終われば自分たちは幻想郷へと戻る。
一時的に海外のチームへと派遣されている選手たちも、元いた勢力へと戻ってゆく事になるだろう。
そうなった時、果たして自分たちのいる――永遠亭の評判はどうなるか。
うどんげ、てゐの活躍が無かったというのはてゐ自身にしても予想の範疇、というか十中八九そうなるだろうと予期していた事だ。
問題点は永遠亭の誇るエース――八意永琳の所属したアルゼンチンが、まさかの大虐殺をされたという事である。

てゐ「(他の国はそこそこやれてただけに、とんでもなくいてーウサ……。
    アルゼンチンに派遣されたのは1人だけ、なんてのも言い訳にしては弱すぎる。
    永遠亭の評判は大暴落……いや、評判が大暴落するだけなら、今までの幻想郷サッカー界としては問題ねーんだけど……。
    帰った後の展開、それにここまでの幻想郷サッカー界の流れを見るに……。
    これ、すっげー痛手になりそうウサ……)」

48 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:19:17 ID:???
お空「うにゅ……(全然活躍できなかったなぁ。 お燐の為にも頑張りたかったのに……。
   それに……あの意地悪な人間が凄く活躍して! くそー……もっともっと強くなりたい!)」
メディスン「…………(何の為にわざわざ外の世界までやってきたんだろ)」

部屋の隅で誰とも言葉を交わさず静かに食事をとる者もいた。
地霊殿のストライカー、霊烏路空。
オータムスカイズ所属のMF、メディスン=メランコリー。
彼女たちも活躍出来た、とは言えない部類の選手たちであった。

お空は一応アルゼンチン戦でゴールを決めはしたものの、それは大虐殺試合の中での1つでしかない。
ある意味印象に残らないという点では、うどんげよりも下だったかもしれない。
この幻想郷Jrユースの選考会に残りながら、無念の途中離脱を果たした親友――火焔猫燐に対して、
面目が立たないという心情は理解できるものだった。

メディスンに至っては、そもそも出場機会すら与えられなかった。
敵の体力を削る接触プレイに、エースキラーの極意。
恵まれた才能を持ちながらも、しかし基礎能力で大きく劣る彼女に終ぞ大会では出番が来なかった。

メディスン「(幽香は今頃どうしてるんだろ……そういえば、なんで髪の毛が伸びたのかも教えてくれなかったなぁ)」

彼女の脳裏によぎるのは、常に彼女を気にかけてくれた風見幽香の事であった。
全幻想郷Jrユースの一員として選出され、戦っていた筈の彼女。
誰よりも焦がれ、会いたい相手は、敵対したチームの大事な友人であり。
このチームに対する未練や愛着は微塵程も無かったという。

49 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 20:21:13 ID:???
短いですが一旦ここまで。

50 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 20:58:34 ID:???
一旦乙です
今更だけど章タイトルでちょっとうるっときた……

51 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:47:42 ID:???
>>50
乙ありです。
ここから章タイトル回収です。ちょっとだけまた投下します。

52 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:49:04 ID:???
反町「(……改めて見ると個性的な面子だなぁ、本当)」

手の中にある杯(中身は酒ではなくジュースにしてもらった)を傾けながら、内心そう思う反町。
実際、全日本にも負けずとも劣らない個性的な面々ばかりだ。
彼女らとの思い出を肴に、しみじみと杯の中(何度も言うがジュース)を啜る反町だったが……。

穣子「反町、飲んでる!?」
反町「おぶふっ!」
リグル「ひえぇ……」
静葉「穣子、そんな急に叩いちゃ駄目でしょ。 ……はい、ハンカチ」

途端、背中を強くたたかれ思い切り口の中身を吐き出す。
中身は綺麗な飛沫となり、いつの間にか目の前にいた蟲の妖怪の顔面を直撃した。
思わず咳き込む反町は手渡されたハンカチでひとまずは目の前にいる少女の顔を拭き……。
続いて裏面を使って自身の口元を拭う。

反町「な、何するんだよ穣子」
穣子「1人でこんな所でボケーッと突っ立ってんのが悪い! 何やってんのよ、優勝の立役者が」

そこまでやってようやく落ち着いてから……反町は振り返り、文句を垂れた。
そこにいるのは――豊穣の女神、秋穣子。
悪びれた様子もなく、快活な笑みを浮かべてそう言い放つ様はいっそ清々しい。
ただ、当の本人が悪気が無く、言葉の通り祝勝会にも関わらず1人でいる反町を見かねて声をかけたというのは事実だろう。
それくらいの事は、決して浅くない関係である反町には理解が出来た。
出来たが、それについて素直に感謝するというのも微妙に気恥ずかしい。
反町はそんな感情を誤魔化すかのように、もう一度口元を拭った。

反町「ありがとうございます静葉さん」
静葉「いいえ。 それより服にはつかなかったかしら? 染みになったりすると大変だから……」
反町「大丈夫です。 ……リグルも悪いな」
リグル「……甘い。 これ美味しいね」
反町「(えぇ……)」

53 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:50:50 ID:???
そのまま、借りていたハンカチを穣子の姉である秋静葉へと返し、
そしてオータムスカイズで常にツートップを張り続けた相棒――リグル=ナイトバグの具合を心配する。
因みに、リグル自身は思った以上に顔にかかったジュースが甘かった為、喜んでいたという。
甘い水は蛍の大好物だからね。仕方ないね。

穣子「にしたってなんでこんな端っこにいんのよ。 あんたがキャプテンで大会MVPまで取ったんだから、
   もっと堂々とど真ん中にデーンと立ってなさいよ」
反町「なんの用事もないのにど真ん中に立つ訳いかないだろ……それに、ここが落ち着くんだよ。
   みんなが騒いでるのを見るだけでも結構楽しいし」
静葉「まぁ……それはわかるわ。 (正直あまり触れたくない人とかもいるし)」
リグル「反町の飲んでた奴どこにあるの?」
反町「さあ? 適当に取ってきた奴だからどこにあるかまでは……」
リグル「ちょっと探してくる!」

駆け出すリグルを見やりながら、反町は彼女たちとの事について考える。
弱小チームだったオータムスカイズを名門へと導いたのは、反町自身の力によるところが大きいと大多数の者は考える。
しかしながら、当の本人は――当然ながらそんな事はあまり考えておらず、
むしろ周囲の者たちの支えと努力があったからこそと考えていた。

反町「(リグルも、昔はシュートしか出来なかったうえ……そのシュートの威力もお世辞にも高いとは言えなかったもんなぁ)」

オータムスカイズの中で、誰が一番成長を遂げたのか。
その質問に対する幻想郷のサッカー通の答えは、大きく二分に分けられる。
1つは、先立って話題に上っていたヒューイ。
名無し妖精の身ながら驚異的なセンスと試合を通しての成長、そして練習の成果により、
フィジカル面に大きな不安こそ残るものの攻撃面もそこそここなす、ボール狩りに長けたボランチとして既に幻想郷を代表する存在である。

そしてもう1つは、リグル=ナイトバグである。
反町の回想通り、当初は空中シュート一芸――かつ、そのシュートの威力もとても高いとは言えない弱小FW。
そこからまずは空中シュートにおいて才覚を発揮、高低どちらでも打てる強力なダイレクトシュートを武器に反町とツートップを組み、
更には何故か無駄に回るドリブル技を開発。ポストプレイもこなし、今や幻想郷全土を見渡してもトップクラスの万能型のCFWだ。

54 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:52:15 ID:???
反町「(静葉さんも……)」

オータムスカイズを誰よりも思っていたのは誰か。
これについても意見は分かれるだろうが、恐らく、1番強くチームを強く思っていたのは秋静葉に違いない。
まだチームの人員自体が足りない頃は、その微笑みを持ってして仲間を勧誘し、
チームが結成してからは中盤の要としてチームを牽引した。

途中、風見幽香が加入をした際にはいざこざがあったものの……。
それも、全てはチームを思っての行動である。
そりゃ誰だってジャイアンがいきなりチームに入れてくれと言って来たら警戒する。
まさか映画版のジャイアンだとは誰も思わない。

反町「(穣子も…………)」

オータムスカイズで反町と最も近しいのは誰か。
――やはりこれも意見が分かれるが……その答えは秋穣子だろう。
日常生活では、反町をはじめとしたメンバー達の食事の用意などの家事を一手に引き受け。
それでサッカーに手を抜く事なく、むしろ熱心に練習には精を出し。

そして時には反町の事を勝気で前向きな姉として引っ張り――。
また時として――その勝気さの裏に潜む弱さも、反町に見せた事もあった。
反町自身、誰よりも自身の心中を理解してくれていると考えているのは穣子である。
数か月という短い期間。しかし、それ以上に濃い関係性が2人にはあったのだ。

55 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:55:15 ID:???
反町「(もしも俺が帰るとすれば……オータムスカイズはどうなるんだ?)」

先ほど、輝夜と話した反町の今後の身の振り方。
もしも外の世界に帰るとなった場合――オータムスカイズはどうなるのだろう、と夢想をする。
自分1人が抜けた所で大丈夫だろう、と安易に考えられる程には、反町は卑屈でもなければ責任感が無い訳でもない。
キャプテンであり、エースストライカーである。その程度の自覚はある。
ただ、だからといっていつまでも幻想郷にいていいものか……という思いもいくばくかはある。
全日本というチームに対して、東邦学園という居場所に対しては未練も決して無かったが、
やはり外の世界にも友人や両親は残してきている。
常識的に考えれば、少なくとも両親を安心させる為にも、一度は帰郷しなければならないだろう。

反町「(それに将来を考えればやっぱり高校くらいは出ておかないと……。
    将来……いや、幻想郷で将来を過ごすなら外の世界での学歴は意味無いのか?
    高校を出るってなっても3年はかかる訳だし、その間チームを離れるっていうのも問題だし。
    そもそも高校はどうしよう。 東邦……いや、うーん……別に今更日向は怖くない、けど。
    かといって好き好んであいつが牛耳ってる所で過ごすっていうのもなぁ。
    ただ、他校を受験するのは……そもそも俺受験勉強してないしなぁ。 いや、勉強はそこそこ出来るとは思うけど。
    東邦はエスカレーター式だからまるで対策とかもしてないし……やっぱり幻想郷に残った方が……でも……)」

56 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:56:47 ID:???
むにぃ

反町「ふへ?」
穣子「なーにをまたムッツリ考え込んでんのよ、私と姉さんを前にしときながら」

と、反町が悶々とまた考え事を始めた所で、不意に頬をムニンと引っ張られた。
意識を再び現実へと引き戻してみれば、そこには頬を膨らませながら右手で反町の頬を抓む穣子。
その横では苦笑をしながら、そんな2人の様子を見守る静葉の姿がある。

穣子「こんな時まで難しい顔してうんうん唸る事無いでしょ」
反町「にゃにするんだよ……」
穣子「大会がやっと終わったってのにまだなんか心配事でもあるわけ?」
反町「いや……」
静葉「……何かあるなら、相談に乗るわよ一樹くん?」

口調はあれではあるが、穣子も心配をして言ってくれているのだろう。
その程度の事は、反町にもわかる。
しかしながら――外の世界に戻るべきか否か、2人に相談をしてもいいものだろうか。
2人が引き留めるかもしれない……と考えての躊躇では無い。
恐らくは今後の生き方を決める、大事な人生の岐路である。
だからこそ、これは――。

反町「これは多分、俺が答えを出さないといけない事だから……」

ようやく離してくれた頬を摩りながら、それだけ答えた反町。
穣子は未だに納得がいかない様子ではあったが……これ以上聞いても仕方ないと判断したのか、プイと怒ったように顔を背け。
一方で静葉は困ったように、やはり微笑を浮かべるだけで――。

57 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 21:58:03 ID:???
早苗「反町くーん♪」
反町「へ? え、早苗さん?」

と、そこに反町の耳に飛び込んできたのは――やけに陽気な声。
振り向けばそこには、頬を赤らめグラスを片手にニコニコと笑みを浮かべる緑の巫女。
その背後で疲れ切ったような表情を浮かべぐったりしている、赤の巫女。
東風谷早苗と博麗霊夢、両者の姿があった。

早苗「えへへ、大会お疲れ様でした!」
反町「は、はい……(あれー?なんだか凄く上機嫌だぞ……?)」

かつては常識に囚われず、フィールドで堂々と寝釈迦のポーズを取ってみたりGKながらオーバーラップをしたり、
はたまたゴールバーで懸垂をしてみたりと、それはそれは奇行を幾度となく繰り返してきた早苗。
ただ、反町と出会い常識の大切さを取り戻してからは、以前のような訳のわからない言動やハイテンションは鳴りを潜め、
どちらかといえば大人しい部類の性格へと戻っていた筈である。
ところが、今の早苗はといえば――いつもの様子は失せ、かといって常識に囚われなくなった訳でもない。
一体どうしたのかと目を白黒させる反町だったが……。

穣子「あー……飲んでるのね、早苗」
早苗「はいっ! 飲んでます!!」
反町「つまり……(酔っぱらってるのか……)」
静葉「(あまりお酒に強くないようだものね……おまけに酒癖がいい方でもないし……)」

同じ妖怪の山に住まう者、八百万の神と風祝。
何かと親交がある静葉と穣子は、早苗の様子について見当をつけ、的確に言い当てる。
そう、何が会ったのかと言えば……単に酔っぱらっているだけ。
本来、あまり酒を好んで飲む方ではない早苗であったが、祝勝会で高揚していたという事もあってか、ついぐいぐいと。
一口が二口、二口が三口となっている間にアルコールはどんどん体内に吸収され……ご覧の有様である。

58 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:00:28 ID:???
反町「で、霊夢さんは一体どうしてそんなに疲れ切ってるんです?」
霊夢「……こいつがあんたんとこ行くって言って聞かないのを止めてたのよ」
反町「? なんでまた……」
霊夢「嫌な予感するのよねぇ……すっごい嫌な予感」

酔っ払いを放っておく、というのは――確かにあまりいい事ではない。
が、あくまで所詮は酔っ払いである。
倒れこむ程飲んでいる訳でもなければ、気分を悪くしている訳でもない。
ただ単純にいつも以上にテンションが上がり、いつも以上に気が大きくなっているだけだ。
霊夢がわざわざ早苗の手綱を握る――しかも、反町に会いに行こうとするというのを止めていた、という言葉を聞き、
反町は首を捻るのだが……霊夢は盛大に溜息を吐く。

しかし、そんな事は今の早苗には関係ない。

早苗「反町くん、あの……約束の事なんですがっ!!」
反町「約束?」
穣子「なんかしてたの反町? っていうか早苗、声おっきい」
霊夢「(あーこれは……これは駄目な奴だわ、うん)」

思いのほか大きな声を出した早苗に、一体何事かと会場にいる者たちも反町達に視線を向ける。
そんな視線を知ってか知らずか、早苗は更に声量を上げ、満面の笑みで――。

早苗「はいっ! 大会が終わったら、ほら、その……」
反町「あ――」

早苗「私と正式に、お付き合いしていただけると!!!!!!」

ぶちかました。

………
……


59 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:01:48 ID:???















         「「「「「はあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?!?!?」」」」」

















60 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:03:35 ID:???
反町一樹と東風谷早苗。
2人の出会いは遥か昔である。
かつて常識に囚われないとしていた早苗は、常識にまるで捉えられないシュート力を持つ反町に一目ぼれ。
その後、早苗は紆余曲折を得てやっぱり常識は大切ですねと無意味にオーバーラップをする事を控えるようになり、
また、反町もなんだかんだで容姿端麗で(常識が戻れば)大和撫子。
男の理想とするタイプを具現化したような早苗に惹かれたのは当然の事であり、
両者は紅魔杯が終わった際、人知れず両想いの恋人となっていた。

しかしながら、その後全幻想郷Jrユースというチームに召集されるとわかっていた2人。
真面目な反町と常識的な感性を取り戻した早苗である。
大会が終わるまでは2人の関係を黙っていよう、と約束をしたのだが――。

反町「(そういや……大会終わったから、黙ってる必要も無いのか!)」

無論、あけすけに話すような必要も無い。無いが――今の東風谷早苗は酔いどれである。

1.酔っ払い
2.フランス国際Jrユース大会優勝でテンション上がりっぱなし
3.それよりとっとと愛しの反町くんとちゅっちゅしたい

これらの要因が重なり合い、早苗はとんでもない爆弾発言をした。
大声で、である。

ざわ……!
               ざわ……!!

61 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:07:05 ID:???
これには思わず、周囲の者たちもどよめくのだが……。

早苗「……反町くん、お答えを」
反町「え、え? いや、その……(まさかいきなり来るとは思わなかったっていうか!? え、ここで俺が答え出すの!?)」

東風谷早苗は反町一樹が逃げる事を許早苗。
魔王がにげるコマンドを選ぶ事を選択出来ないとはどういう事かと混乱する反町だったが、
それでも……それでも……!

反町「(そ、そうだよな。 思えばようやく……)はい……そうですね、ようやく表に出せますね早苗さん」

反町個人としても、思春期。
色々と豊満でグラマーで浮き球3/3な早苗が相手な事はあり、また、それは差し置いても好きあっている仲である。

逃げる事は当然なく、肯定の意志を小さくうなずきながら告げ――。

早苗「えへへ……ぎゅーっ!」
反町「(う、うわーっ!? うわーっ!? ああああああああっ!?!?!?!)」

それを聞いて、早苗はやはり満面の笑みで……反町の腕に絡みついてきた。
一同が絶句をする中で――それだけ、このビッグカップルの誕生は衝撃だったのだろう――。
ともかく、早苗は幸せそうに反町の腕に絡みついてきた。
これに対して反町は右腕に伝わるたわわな幸せと恥じらいとどうしていいのかわからなさに翻弄される。
反町一樹15歳、6点フェイスの男は言うほど女性に慣れていない。

早苗「うふふふ……」
反町「さ、早苗さん?」
早苗「これからは……これからは、我慢だってしなくていいんですもんね?」
反町「え、え、ええ……まあ……その……」
早苗「じゃあ……」

言いながら、早苗はすっと身を翻し――。

62 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:08:53 ID:???














ちゅっ……


















63 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:10:27 ID:???
その光景を見て――ようやく一同は、2人の関係性について、確信を得た。

魔理沙「ぅぁ……」

割と初心な者は、濃厚なそれを見て、思わず顔を赤らめ。

大妖精「あ、あわわわ……!?」
にとり「ひゅいぃ!?!?!?!?!?(恐ろしいねぇ! 恐ろしいねぇ!!!)」

臆病な者は、とりあえず理解の範疇外の――想定外の出来事に懼れ抱き。

咲夜「(え?え? え!? ずっと年下の早苗が私より先に彼氏手に入れた!?
    って、いやいやそういう事じゃなくて!! えっと、そう、ここは……ここは、友人として祝福すべきね!?)
   お、おめでとう早苗!! お幸せに!!」
妹紅「めでたいっ! 凄くめでたいね!! 反町、良かったねぇ!!」
松岡コーチ「心も身体も熱くなってきた!!」

その場がシンと静まり返ってるにも関わらず、祝福する者もいたり。

パルスィ「パ……パル……パ……パルルルルル……!!!!!」
ヤマメ「ちょ、やめなよパルスィ!! 妖夢、止めて!!」
妖夢「お任せ下さい! この魂魄妖夢、サッカーならともかく! 腕力や弾幕勝負で2ボスに負ける事などあんまりない!!」

水を得た魚のように嫉妬する者もおり。

リグル「ああ……このジュース美味しいなぁ。 おかわりください」
ヒューイ「(うーん、早くご飯来ないかな。 焼き肉と言ったら白米だよ)」

そもそも話を聞いていない者もいた。

64 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:13:34 ID:???
そんな中で、それらとはまた違う反応を示す者もいる。

霊夢「(言わんこっちゃない……やっぱり面倒な……ああもう、面倒な!!)」

酒を飲ませた早苗を、この場で反町に合わせる訳にはいかない。
そう"第六感"を働かせていた霊夢は、執拗に早苗を引き留めていたが……そんな霊夢を振り払った早苗がしでかした事は、
案の定この場を混乱させるにふさわしい爆弾であった。
大きく溜息を吐きながら、霊夢は頭を抱える。
勘の良すぎる彼女は、ここから大まかに何が起こるかを理解し始めていた――。
恐らく、幻想郷のルール自体が変わってしかねないという状況になりうる自体になる事に。

静葉「(これは……拙い……)」
てゐ「(……ここでそうくるんだー、うわーうわー。 やめてよー……これ以上永遠亭苦しめるのやめてよー……)」
輝夜「(ちょっと待ってちょっと待って……これ、幻想郷サッカー界的に考えて大問題じゃない?)」
パチュリー「(紅魔杯優勝チームの守矢フルーツズキャプテンと、トーナメント敗退ながら……。
       この全幻想郷JrユースでMVPを獲得。 文字通り、世代最高の選手の栄誉を手に入れた選手のカップル……。
       さて、これは……)」

一方で冷静に、この状況を分析しようとする者もいた。
彼女たちは頭を動かす事が仕事である。故に、考えた。
このビッグカップルの誕生が、一体幻想郷サッカー界に何を齎すのか――どう影響を及ぼすのか。
杞憂に終わればそれが1番である。だが――少なくとも、杞憂に終わるとは思えない、と3者は考える。

65 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:15:33 ID:???
そして――。

穣子「………………うそ」

少女は――その口づけを目の前で見ていた少女は、ぽつりとそれだけ呟いた。
その表情は、うかがい知れない。声色からも、感情は読み取れない。
祝福か、嫉妬か、羨望か、怒りか、驚愕か。
……ただ、ただ、その一言だけからは、何を感じたかは図り知る事が出来ない。
ただ、しかし。

その少女の瞳に映る少年は、はにかみ、照れながら。
それでも嫌悪する様子は一切見せず――しかし、幸せそうにしていた、というのは事実。

反町「ぷはっ!?ちょ、さ、早苗さん!?」
早苗「えへへへへ……」
穣子「…………」

今この時。

少年の隣に立つのは、少女ではなく――もっと格上の神の風祝。
そして、少女よりもずっと少年に近しい位置につけた――現人神であった。

66 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/23(火) 22:18:33 ID:???
一旦ここまで。
個人的に、一番東方サッカーでの互換キャラではなく(二次創作の東方サッカーでなく1つの東方とキャプ森のクロスとして)
上手く置換出来たのが早苗さんかなと思ってます。
以下がその要因。

・東風谷早苗森崎有三説
1.当初早苗さんは霊夢さんの二番煎じ、ルイージ説があった
 →森崎も翼に対して嫉妬や羨望や恨みやまぜこぜの感情を抱いてる。
2.森崎は常識に囚われない
 →早苗さんも常識に囚われない(後に改善)
3.森崎の最大のライバルは翼
 →早苗さんのライバルも多分霊夢
4.早苗さんは大事な所で決める(ヒロインレース大勝利、紅魔杯優勝)
 →森崎もサンパウロ戦では負けたが紅白戦で劇的な勝利を決めたり本編ラストもガッチリキャッチした。
5.森崎の両親も本編で一応ご登場
 →早苗さんの両親的存在な神奈子様諏訪子様もポイズンスレでは出てる。
6.森崎には恋人の陽子さんがいる。
 →早苗さんも恋人がいる。

Q.E.D.証明完了


今日は多分ここまでです。次は一旦幻想郷に帰ってから、早苗さんのご両親的存在に反町が挨拶に行くところからになると思います。
それでは。

67 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:31:22 ID:???
乙です
永遠亭は紺珠伝組(主にサグメ様とか純狐さんとか)+綿月姉妹が入ればまだワンチャンあるから(震え声)
そして芋様……分かっていても涙を禁じ得ない。

68 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:37:38 ID:???
乙でした

付き合うことになったとは言え、保護者への挨拶がまだだったな
早苗の常識戻すのに協力したから好感度はそれなりにあるはずだが
でも幻想郷に残らないと早苗と別れることになる可能性が高いのよね
信仰不足で二柱が現代にいられなくなったから幻想郷に来たわけだし
反町は今マジで人生の岐路に立っている状態なんだな……

69 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:46:48 ID:???
>>43
普通に考えると脚だろうが、アローシュートみたいに手で脚掴んでるのかも
老人が石の上で脚掴んで何もないところを蹴る絵面はシュールだが

70 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:47:01 ID:???
安定のリグルである

71 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:47:49 ID:???
うーん穣子の気持ちを考えると素直に祝福できねぇ
添い寝までした幽香さんにもなんて説明すれば良いんだ

72 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 22:58:58 ID:???
え、重婚すればいいじゃないか
だって常識にはとらわれてはいけないんだから!

73 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 23:19:45 ID:???
そもそも幻想郷って一夫一婦制なんだろうか
そこら辺すごい適当にやってそうなイメージ

74 :森崎名無しさん:2018/01/23(火) 23:27:06 ID:???
重婚したらパルスィ爆発しそう

75 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:36:40 ID:???
>>67
乙ありです。すみませんその原作このスレで取り扱ってないんですよ……。
というのは置いておいて、実際このスレでは神霊廟までのキャラしか出ない予定です。
その中でも1分ですね……具体的には命蓮寺に関係する2人くらい。
なので残念ながら永遠亭は……。

>>68
乙ありです。
好感度は高いですが、それと娘との交際を認めるかどうかはまた別で……。

>>70
リグルだからしょうがない。

>>71-74
早苗「浮気は絶対許早苗」



短いですが出来た所まで投下します。

76 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:38:09 ID:???
Act.3 東風谷早苗大勝利!希望の未来へレディ・ゴー!!

早苗の大告白から数日――幻想郷Jrユースへと選出されていた選手たち。
そして、各国へと派遣されていた選手たちは幻想郷へと帰還していた。
そんな中、当然ながらあのショッキング過ぎる告白は瞬く間に幻想郷中へと広まった。
当然である。多くの勢力からの代表が集結する、幻想郷Jrユース。
そこで起こった大事件が、噂にならない筈もない。

新聞屋が何度も取材に来ようとする中、何度も突っぱねていたのは守矢神社総本山。
祀られる八坂神奈子と洩矢諏訪子の二柱は、そもそも自分たちは何も聞いて無いと答えていた。
実際、彼女たちは何も聞かされていなかったのだ。

そう、聞かされてなかった。
彼女たちは自分が誰よりも信頼し、信頼されていると思っている早苗から、
よもやあの反町と両想いになっているとは何も聞いていないのである。

無論、早苗にもプライベートはある。
その身を神奈子と諏訪子の為に、現実世界を捨て去り幻想郷へと共についてきた早苗。
そんな彼女にも、自分の世界というものは必要だったし、彼女たちもそれを容認していた。

神奈子「しかしだな……まだ早くないか。 あの紅魔館のメイドだってあの年になって浮いた話の1つも無いんだぞ」

本殿――(とは名ばかりで、実際は彼女たちが住まう住居と化している)でそう呟いたのは、
東風谷早苗の保護者代わり、八坂神奈子である。
彼女は何やら先ほどからしきりにその辺りを行ったり来たり、うろうろと落ち着かない様子であった。

諏訪子「むしろ遅すぎるんじゃない? 彼氏の1人や2人、むしろ早苗の器量なら外の世界だっていなかったのがおかしい。
    幻想郷の世相基準で考えるなら、結婚してたっておかしくないんだし」

そんな神奈子の言葉にあっさりと返したのは、祀られるもう1柱――やはり保護者代わりの洩矢諏訪子である。
彼女はバリバリと、ちゃぶ台につきながら煎餅を頬張っていた。

77 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:39:33 ID:???
神奈子「いや、いや! 幻想郷基準で考える事は無いだろう、早苗は外の世界出身なんだぞ。
    感性だって基本はそっちのままの筈だ。 やっぱり早すぎる」
諏訪子「……感性云々言ったらさぁ、常識に囚われなくなくなった時期あった時点で、
     やっぱそういう尺度に当てはめるべきじゃないと思うんだけど」
神奈子「うぐぅ……」

神奈子と諏訪子。
両者はほぼ立場的には対等と言えたが、口の上手さでは諏訪子の方に分があるらしい。
致し方なく、神奈子は口を閉ざし……諏訪子と同じちゃぶ台に腰掛けると、懐から煙管を取り出す。

諏訪子「あれま、久しぶりに見た。早苗に『臭いです』って言われてからやめてたのに」
神奈子「…………」

茶化すような諏訪子の言葉を無視しながら、神奈子は肺の中の煙を吐き出す。
思い出すのは、早苗とのこれまでの記憶だった。
諏訪子と神奈子を祀る風祝として外の世界で生まれ、しかし、その頃の神奈子たちは既に神としての力を大きく失っていた。
信仰が薄まり存在すら消え失せようとする中、
しっかりと神奈子達と意志疎通が出来たのは早苗の生まれ持った才能だったのだろう。
事実、早苗の前の代――更にその前を遡っても、意志疎通はおろか、姿を見えた者も少ない。

故に、神奈子たちは早苗を可愛がったし、早苗は神奈子たちを慕った。
元々、神奈子たちが幻想郷へとやってきたのは外の世界で失われた信仰を取り戻す為。
そのお手伝いをしたいと自ら申し出、外の世界を捨ててまでついてきてくれたのが早苗である。

78 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:41:08 ID:???
神奈子「(そうだ、早苗は私たちの為に外の世界まで捨ててついてきてくれたんだよ。
     いわば私たちの子供――いや、それ以上の絆で結ばれていると言っても過言じゃない。
     大事に思うのは当然だろう)」

結果、神奈子たちは早苗を溺愛した。
信仰が薄れ、存在すらあやふやになった中でようやく自分たちを見つけてくれた希望。
そして、自分たちが新たな世界へ向かう際、両親や友人――大切なものを捨ててついてきてくれた少女。
溺愛しない方がおかしい、と神奈子は考える。

諏訪子「まぁ落ち着きなよ、早苗に相応しいかどうか見極める為にこれから会うんでしょ。気に入らなけりゃ追い払いなよ」
神奈子「あ、あぁ……ふぅ……」

早苗「ただいま戻りましたーっ!!」
神奈子「!!!」
諏訪子「はーいはいはい、おかえりー」

そして、非常に元気な早苗の声が本殿(ぶっちゃけ日本家屋の普通の茶の間)に木霊した。
瞬間、神奈子は体を一層硬直させ――煙管に溜まった灰を思わずポロリと落とし。
逆に諏訪子は軽やかなステップで早苗の声の方へと向かっていく。

79 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:43:18 ID:???
それから数秒後。

諏訪子「やあやあいらっしゃい、こうしてサッカー以外で会うのはあんまり無かったね。
    会ったのは……試合や、試合観戦の時偶然にとかそれくらいだった気がするもんね」

やたらと愛想のいい諏訪子を先頭に。

早苗「いえ、でも……ここに来ていただいた事もあるんですよ。 紅魔杯が終わった後に、その……」

頬を染めながら、その諏訪子の後ろにつける早苗が姿を現し。

反町「は、はい。 挨拶が遅れてすみませんでした」

最後に――問題の男。
早苗と付き合っている、と聞いている男がひょっこり顔を出した。

反町「お、お久しぶりです神奈子さん。 Jrユース大会ではお世話になりました」
神奈子「……うむ、よいよい」

神奈子の姿を見るや否や、頭を下げる反町に威厳たっぷりに豊満な胸を張り返す神奈子。
その瞳は、反町の事を値踏みするかのように、不躾にも上から下まで見やっている。
――噂になる事数日。もはや隠すとかありえないレベルで広まった為、
早苗が反町との関係について説明する為に連れてくる――と告げていたのが、この日であった。

早苗「あっ! 神奈子様、また煙管を……!! それは臭いがつくからと、あれほど!!」
神奈子「あ、う、うん……ごめんよ。 と、とと」

なお、威厳たっぷりに決めた神奈子であったが、
目ざとく早苗に煙管を吸っていた事を注意されると慌ててポイした。

80 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/24(水) 20:45:09 ID:???
一旦ここまで。

81 :森崎名無しさん:2018/01/24(水) 22:46:02 ID:???
完全におとんとおかんですなぁ
ご両親にご挨拶とはなんとも気の早いことで
そしてさりげなくディスられる咲夜さん可哀そう

82 :森崎名無しさん:2018/01/25(木) 07:56:23 ID:???
昔は壊れたルイージとか言われたのに……
人って変われるもんだねぇ

83 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/25(木) 22:34:08 ID:???
本日は更新無しです。明日には投下出来ると思います。

>>81
割とこのスレでの微妙に可哀想な咲夜さんは書いてて好きだったりします。
>>82
常識が戻らず、オーバーラップを繰り返したり寝釈迦をしたりする早苗さんも書いてみたかった……。

84 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:03:05 ID:???
神奈子「ん、んん……」

いまいち恰好がつかない形となってしまったものの、そこはそれ。
一つ咳払いをしてから、神奈子は彼の人――反町に視線をやる。
頬をかきながら困ったように反町はその視線を受けつつ……しかし、自身の視線を彷徨わせる事はない。
彼自身としても、この場は一世一代の大舞台。
割と小心者ながら、精一杯情けない姿は見せないように――と頑張っているのだろう。

神奈子「(そういえばそんなのこの子の人となりは知らないんだよねぇ……。
     見た感じは、真面目そうではあるんだが……早苗の常識を取り戻してくれた訳だし……)」
諏訪子「ほらほら早苗も反町くんも座って座って」
反町「は、はい! あ……よければこちら、皆さんで呑んでください」
神奈子「むっ!? それは!?」
諏訪子「あらら、気を遣わなくてもいいのに。 ありがとうね」

値踏みをする神奈子とは対照的に諏訪子が反町に腰掛けるよう勧め、
ようやく反町も立ったままの状態から人心地つく。
その際、手から下げていた荷物を差し出した。

呑んでください――という言葉通り、それは『日本酒』である。
この日、早苗と共に守矢神社へと来訪するにあたり、反町が事前に準備。
決して潤っているとは言えない懐事情ながらも、事前に人里の酒商店に行き、
そこの店員さんたちにお勧めを見繕ってもらった手土産だ。

……こういった場合に、酒を手土産とするのはどうかと反町本人も迷いはしたが、
早苗との相談の結果、お菓子などよりはこちらの方が喜ぶと聞いての判断である。

85 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:04:06 ID:???
神奈子「(あれは……銘酒『ふぁいなるふらっしゅ』!!
     『びっぐばんあたっく』や『ぎゃりっくほう』はまだ市場に出回っているが……手に入れるのは相当困難な筈!)」

事実、神奈子は声には出さないものの内心は大層喜んでいた。
――ちなみに、この酒を勧めてくれた店員さんは、口では文句を言いながらも、
手土産にするのならばこれくらいでなければならないだろうと格安で譲ってくれたという。

思わず今晩の晩酌が楽しみになる神奈子だが、それは表情には出さず。
腕を組んだまま対面に座る反町を見やる。

神奈子「(……少し近すぎるんじゃないか?)」

彼の隣には早苗が腰かけたのだが、些か距離が近い――ように思える。
実際は別にぴたりとくっついている訳でもなく、また、反町にとっては完全アウェーという状況の中、
早苗が彼の隣につけるのは何ら不思議ではないのだが……当然神奈子はそんな思考など持っていない。

その後、諏訪子がお茶を淹れ、4人に差し出し、それを一口啜った所で……。

反町「改めまして……オータムスカイズのキャプテンをやっている、反町一樹です。
   その……東風谷早苗さんと」
早苗「…………」

すすっ、と反町の方に体を寄せる早苗。当然ムッとするが、黙っている神奈子。
諏訪子はにやにやしていた。

86 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:05:31 ID:???
反町「お付き合いをさせていただいてます」
神奈子「………………」

知っていたことではある、が――やはりショックである。
隣で反町自身の口からそういった言葉が出た事で照れている早苗も含めて。
無論、神奈子とて反町の事が嫌いな訳ではない。
先に言ったように、反町のお蔭で早苗の常識は戻ったのだから……むしろ感謝をしているくらいである。

ただ、それとこれとは話が別なのだ。
保護者の心は色々と複雑である。

神奈子「うむ……うむ。 そうか」

よって、神奈子はそう返すだけが精いっぱいであった。

諏訪子「そうかいそうかい、いやぁ、こんなかっこいい子が早苗の彼氏なんて勿体ないねぇ」
反町「い、いえそんな! こちらこそ早苗さんのような人が俺を好きでいてくれるなんてまだ信じられないくらいで」
神奈子「(確かに顔は悪くないけど……特別よくもないだろう! 点数つけるなら6点が関の山だ!)」

やたらと親しみを込めて喜び言う諏訪子の言葉に内心反論しながら、それでも神奈子はぐっと堪えた。
奥歯をかみしめながら、腕を組んだまま反町に問いかける。

神奈子「……いつからだい?」
反町「その……紅魔杯が終わった後からです。 正式にお付き合いを始めたのは、幻想郷に戻ってきてからですが」
神奈子「1ヵ月以上前じゃないか。 私たちの所に挨拶に来るのが遅かったんじゃないか?」

どちらかと言えば、1ヵ月程が経過した時点で両親(的な存在)に挨拶に来る時点で早いくらいである。
ただ、幻想郷基準で言えば、やはり古式ゆかしい日本の風習が残っている。
好きあって付き合うだけでもお互いの家やらなにやらとの関係がややこしいくらい絡み合う為、
神奈子としてはもっと早く挨拶に来るのが礼儀ではないのかと指摘をした。
というか単純にイチャモンをつけたいだけだった。

87 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:06:49 ID:???
諏訪子「何言ってんだい、紅魔杯が終わった後って言ったらもうすぐにJrユース大会が始まる頃じゃないか。
    私たちだって準備があったし、反町くんだってそうだよ。
    そんな時間取れなかったんじゃないの?」
早苗「それにその……Jrユース大会では同じチームで活動する事が決まっていましたから。
   公私混同を避ける為にも、公表をするのはやめましょうとお互い話し合って決めたんです。
   ご報告が遅れて申し訳ありません」
諏訪子「いやいや謝る事じゃないよ、年頃の男女が好き合えばすぐにでもイチャイチャしたいだろうに。
    それをぐっと堪えるなんて中々出来る事じゃない。 真面目じゃないか、早苗も反町くんも。 ねぇ神奈子」
神奈子「……ぐむぅ」

とはいえ、イチャモンはただのイチャモンである。
あっさりと正論で返されれば、神奈子としても口を噤むしかない。

神奈子「(確かに真面目そう……ではある。 いや、実際そうなんだろうけど……)」

88 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:08:18 ID:???
諏訪子「ところで反町くんはさ、今後どうするかとかは決めているの?」
反町「今後、ですか?」
神奈子「そ、そうだよ。 うむ……君は八雲紫に拉致同前にこの幻想郷にやってきて、
    帰る方法が無い故にサッカーに興じていたようだけど、既にJrユース大会を通じて外の世界への道も開けた」
反町「………………」
神奈子「外の世界に戻るのか、幻想郷に留まるのか。 そのくらいは考えたのか?」

諏訪子の言葉に追従するように神奈子が畳みかけると、反町は言葉に詰まったように呻きながら視線を下にする。
その様子を見て、神奈子は何も考えていないようだなと感じ、更に続けようとするが――。

諏訪子「まあまだJrユース大会が終わって少ししか日が経ってないもんね。
    自分の人生を決める事なんだから、ゆっくり考えて納得出来る方を選んだ方がいいよ」
神奈子「……うぅん」

先手を取られて二の句は次げない。
実際、まだ反町は齢15の少年である。
人生の岐路に立たされて、どちらを選ぶか即断出来る程達観した価値観を持っている訳でもなければ決断力に優れている訳でもない。
悩み、迷うのも自明の理と言えたし、むしろ即決していた方が怪しいだろう。

89 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:09:32 ID:???
諏訪子「今日は反町くんも晩御飯食べていけるんだよね?」
反町「は、はい。 チームには断りを入れてますので、団欒のお邪魔にならなければ是非……」
諏訪子「いやいや、いつも同じ面子での食事だからね。 賑やかなのはいい事だよ。
    それじゃあ用意しないとね、早苗も手伝ってくれるかい?」
早苗「はい……あ、でも……」

ここで夕飯を作りに行っては、茶の間に残るのは神奈子と反町だけである。
早苗の目から見ても、神奈子がいまいち反町に気を許していないというのはわかっていた。
果たして反町を1人残してしまっていいのだろうか、と立ち上がろうとしたまま中腰で静止してしまうのだが……。

反町「(大丈夫です、何を言われても大丈夫ですから)」
早苗「(反町くん……わかりました。 それでは、反町くんの為にめいっぱい美味しいご飯を作ってきますね!)」

視線を交わすと、反町は力強くうなずき――早苗はそんな反町を見てから、ようやくその腰を上げ台所へと向かった。

諏訪子「(若いっていいなぁ……ピュアッピュアだね! 私もあんな頃があったねぇ)」
神奈子「(あんなに見つめ合って……いやらしい!!)」

なお、保護者2人はそれぞれ相反する感想を抱いていたという。

90 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:10:52 ID:???
神奈子「………………」
反町「………………」

そして、である。
残された2人は無言のまま茶の間にいた。
元々、決して口数が多い訳ではない反町と神奈子。
おまけに今は彼女のご実家で挨拶という世の男性緊張してしまう場面ランキングトップ5には入ろうかという状況の反町に、
未だに反町に対して何とも言えない感情を隠せない神奈子だ。
言い知れぬ緊張感が漂い、反町にとって居心地の悪い沈黙が場を支配するのだが……。

神奈子「……早苗はね」
反町「! は、はい」
神奈子「早苗はね、いい子なんだよ」

不意に、ぽつりと神奈子がそう切り出した。

神奈子「小さい頃から、私や諏訪子の姿が見えて……それはそれは慕ってくれた。
    信仰が無くなり、神力が落ち、この幻想郷へと渡る時にも……早苗はついてきてくれたんだ」

先にも記したように、神奈子たちが幻想郷へとやってきたのは外の世界で失った信仰を再び得る為。
この妖怪の山を拠点として、人妖問わず、信仰を集めようとしている。
その活動が叶ってか、2柱は外の世界では考えられない程の信仰を幻想郷で集める事が出来た。

そして、その活動の中心には早苗がいる。

神奈子「妖怪の山の連中とも上手く付き合っているし、人里に出ては信仰を得られないか勧誘もしている。
    私たちの為に、本当によく頑張ってくれてるんだ……」
反町「…………」
神奈子「私はね、そんな早苗の事を大切に思ってる」

91 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:12:09 ID:???
それは偽らざる神奈子の本心だった。
反町がそれなりに真面目だという事も、ここまでの短い間の会話でよくわかる。
だが、果たしてそんな反町が――早苗を幸せにしてくれるのか。
真面目であるというのは美徳ではある、しかし、それが万人に幸せを与える存在かと言えば否である。

神奈子「早苗は君の事を好いていると思う。 あんなに嬉しそうで、照れている早苗を私は見た事が無い。
    悔しいが、それは認める。
    だけどね、君は――君は、もしかしたら外の世界に帰るかもしれないのだろう?」
反町「それは……」

反町自身、その答えは出せていない。
一生を決める事である。答えがそう簡単に出せる筈がない。

神奈子「そうなれば遠距離恋愛という話では済まない。 ……もしも君が、外の世界に帰るつもりなのだとしたら、
    その時は……綺麗に早苗を振ってやってほしい。 そうでないなら、そちらの方が残酷だ」

生涯を幻想郷で過ごすと決めた少女。
反町が外の世界へと帰るのならば、当然ながら2人は離れ離れとなる。
思い合いながらも触れ合う事が出来ない、それは神奈子の言う通り残酷な事だった。

反町「………………」
神奈子「勘違いしないで欲しいが、君を責めている訳じゃない。 諏訪子も言ったけど、迷ってもいいと私は思う。
    ただ、半端なやさしさは人を傷つけるだけだとわかって欲しいだけだ。
    そして……」

神奈子「もしも幻想郷に残ってくれる、という選択肢を取るなら。
    ……よければ我々のチームに移籍をしてくれないか、と私は考えている」
反町「……え?」

92 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:13:23 ID:???
その神奈子の言葉は、正に青天の霹靂であった。
今まで反町の考えにあったのは、即ち。
外の世界に戻り、どこの高校に通うかはともかくとして――外の世界のいち学生、いちサッカー選手として生活をしていくか。
はたまた、幻想郷に残り、オータムスカイズのキャプテンとしてこれからもチームに為に戦っていくか。
その2択であった。

ただ、神奈子の提案した1つの案を聞いて気づく。

反町「(俺が……守矢フルーツズに移籍する?)」

3つ目の選択肢について。

神奈子「さっきも言ったように、早苗は私たちの為に活動をしてくれている。
    サッカーをしているのも、言ってみれば、信仰を集める為だ。 幻想郷じゃサッカーがブームだからね。
    君がうちに加入をしてくれるなら、早苗だって心強いだろう。
    オータムスカイズのままなら、当然、敵同士という事になる。
    特に君はFW、早苗はGKだ。 直接相対する事になるんだ。 ……そして、それは直接、早苗の活動を邪魔する事にも繋がる」
反町「………………」

それは考えた事が無かった。
無論、自分のシュートを受けて再起不能になりそうになった(というか実際なった)人物がいる事も、
反町はある程度把握はしている。
地霊アンダーグラウンドの古明地さとり、全日本の若林源三。
どちらも天才GKと謳われながらも反町に蹂躙され、精神崩壊まで行った。

それ程までに自分に影響力があるとは彼自身は思っていなかったが、ともかく、事実として存在する。
今後、自分がオータムスカイズで活動をするならば――当然、守矢フルーツズと戦う事もあるだろう。
そして、その時は当然……反町はストライカーとして、早苗の守るゴール目掛けてシュートをぶち込むに違いない。

その時、早苗はどうなるのか。早苗が仕える2柱はどうなるのか。

反町「(でも……)」

93 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:15:46 ID:???
それがわかった上で尚、反町は考える。
早苗の事が大切である事は間違いない、思いがようやく通じ合えた人だ。大切でない訳がない。
ただ、それと同じく、反町にとってはオータムスカイズも大切であった。

自分が全日本からも、東邦学園からも離れ、生まれ変わる切っ掛けとなれたチーム。
秋穣子、秋静葉の姉妹と共に、チームメイトを集める所から始まった。
最初は無名。木端妖怪と名前も無い妖精、そして反町のような箸にも棒にもかからない選手しかいなかったチーム。
そこから皆で練習をし、切磋琢磨し、仲間をそろえ、時にはぶつかり合い、更に時には別れもありながら……。
オータムスカイズはようやく、名門と言えるだけのチームへと変貌をした。

反町「(それに、信仰っていうなら……穣子や静葉さんだって)」

そもそも、信仰を集める為にサッカーをしているというのは、神奈子たちだけではない。穣子たちも同様である。
いつか、何故サッカーをするのかと聞いた時、そう答えてくれたのは誰だったか。
ともかく、早苗の活動を邪魔しない為に守矢へ移籍するというのなら――それは逆に、穣子たちを苦しめる事と同じになる。

神奈子「……なんなら、吸収合併という形でもいい。 オータムスカイズの選手たちが入ってくれるなら、
    こちらとしてもありがたい事だからね。 大所帯だろうが、面倒は見させて貰うよ」
反町「(その口ぶりだと……母体は守矢フルーツズになる、って感じだな。 いや、仕方ないのか……。
    元々のチームとしての"格"はあちらの方が上なんだし、それに紅魔杯で俺達は負けたんだ。
    それに、にとりや穣子、静葉さんにとっては神奈子さん達が上司に当たるらしいし……)」

神奈子の妥協にも思える提案も、反町にとっては苦いものだった。
チームメイト全員と移籍が出来るとしても、それはオータムスカイズの名が消えるという事である。
これまで反町達が築き上げてきたチームそのものが、消えてしまうのだ。

反町「………………」
神奈子「まあ、考えておいてくれ。 ああ、そうだ。 ちなみにね」

パンパンッ!

反町「?」

94 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:17:09 ID:???
ガラガラガラガラッ!!!!

西尾?「ワシじゃあ!!」
反町「ゲ、ゲェーッ!? 西尾?……じゃなかった、カルツ!?」

意味ありげに呟いた神奈子が手を鳴らすと、ガラガラッ!と戸を開けて現れたのは――。
なんと、西ドイツJrユース所属の仕事師――ヘルマン=カルツ。否……。

西尾?「カルツじゃないわい! ワシは西尾浩司?じゃあ!!」
反町「えぇーっ!?」

そう、そこにいたのはかつて守矢フルーツズに在籍。
その後、フランス国際Jrユース開催にあたって本名と素性を包み隠さず打ち明け、
西ドイツへと帰った筈の男……カルツ改め、西尾浩司?がいた。

反町「ど、どうして西尾?じゃなくてカルツが……」
西尾?「だからワシは西尾?じゃ!! まったく、どこをどう見ればこのゲルマ……ゴホン、静岡魂溢れるワシが外国人に見えるんかのう」
反町「(今、ゲルマン魂って言いそうになった! 絶対ゲルマン魂って言いそうになった!!)」

それにしても一体これはどうしたことだろう、と反町は混乱する。
そもそも、この西尾浩司?は早苗に助っ人として呼ばれた際、
異母兄弟であるという西尾浩司という男の偽名を名乗っていた――と説明をした。
その後、静岡愛はあるが西ドイツに帰らない訳にはいかん、何せワシにはゲルマン魂があるから……と、
謎の愛国心を見せながら帰国をし、Jrユース大会で戦った事は記憶に新しい。

反町「どうしてここにいるんだ? 西ドイツに残ったんじゃないのか? えっと……西尾?」
西尾?「西ドイツに残るじゃと!? 何を言うちゅうがじゃ! ワシは生まれも育ちも静岡生まれ静岡育ちじゃぞ!!」
神奈子「……話が進まないから私から話そう。 西尾?くんについてなんだがね……」

95 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:19:12 ID:???
曰く、こうである。
元々、西尾?もとい――カルツは確かにゲルマン民族であり、ゲルマン魂溢れたゲルマンっ子だ。
しかしながら、この守矢フルーツズにも愛着があり、そう容易くは離れがたいと考えていたという。
どうするか迷っていた訳ではある西尾?……改め、カルツ。
ハンブルグに残るか、それとも守矢フルーツズに残るか。

神奈子「ただ、ハンブルグに残ると何か嫌な事が起こりそうな予感がして……うちに残ってくれたみたいなんだよ」
反町「そ、そうなんですか……」

具体的には事無かれ主義のパサーやら人殺しシュート(反町の事じゃない)を打つMFが加入をしそうで、
心労が増えそうだという事だった。
やたら具体的だと思いながらも、一応は納得を示す反町。

反町「でも……良かったのか? えっと……西尾?」
西尾?「何がじゃ?」
反町「それは、外の世界を捨てるって事じゃないのか? 両親や、友達……寂しくないのか?」
西尾?「無論、寂しさはある。 じゃがの、郷土愛は死なずじゃ」

反町の質問に、西尾?はドン、と胸を叩きながら言う。

西尾?「神奈子さんはの、いざユース大会などが開かれる事があれば、ワシに国に戻ってもいいちゅうてくれとる。
    ……言ってみれば、これはワシにとってはサッカー留学みたいなもんじゃ」
反町「サッカー留学……」
神奈子「勿論、反町くんにしてもそうだ。 日本で代表としてサッカーをしたいというなら、私が八雲紫にも話をつける」
反町「(全日本で……? …………)」

その提案は、あまり反町にとっては魅力的とは思えないものではあった。
元々、反町は西尾?のように郷土愛に富んでいる訳ではない。
日の丸をつけて闘うという事にある程度の憧れはあれど、そこまで熱心ではなかった。
むしろ反町が気になったのは、サッカー留学という言葉である。

反町「(海外サッカーでは……よく選手が移籍をして、そのチーム、その土地のいい所を吸収するって聞くもんな)」

96 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:20:55 ID:???
西尾?「守矢はいいチームじゃぞ。 なんといっても、アットホームじゃき」
反町「………………」

それを言うなら、オータムスカイズもそうだ、と反町は返したかった。
……妖精トリオとチルノ。風見幽香と静葉らといった問題点は抱えてはいるが。
それでも、皆が仲良くやっている……と、反町は思う。

神奈子「カル……じゃなかった、西尾?くんもうちにはいてくれる。
    反町くんも、同じ外来人として、やりやすい環境ではあると思う。
    ……すぐに答えは出さなくていい。 ただ、考えてみてくれないか?」
反町「………………」

元の世界に戻る。
元のチームに戻る。
それに代わる第三の選択肢――新たな環境に身を置く。

2つの選択肢で迷っていた少年は、更に新たな選択肢を提示され――そして、迷っていた。
迷う程に、3つ目の選択肢は彼にとって魅力的な提案だったという。

………

ちなみに。

反町「あの……ところでなんで、あいつまた西尾?なんて名乗ってるんです?」
神奈子「ああ……なんでも、幻想郷の原風景を見ていたら、やはり和名を名乗るのが礼儀じゃろう……らしいよ。
    本人曰く、『ワシはゲルマン育ちの静岡県人じゃ』らしいから」
西尾?「うーむ、やはりおでんは黒はんぺんに限るわい! それにしても美味いのう!
    料理上手なゲルマ……大和撫子の早苗さんとよい仲になってるとは、反町も憎い奴じゃわい!!」
早苗「やだそんな……あ、西尾?くん、おかわりいりませんか? まだまだありますよ黒はんぺん! だし粉も!!」
諏訪子「(舞い上がってるなぁ、早苗……西尾?くんがゲルマンって言いそうになったのに突っ込み入れてない)」

夕食はなんとも賑やかに滞りなくとられたもよう。

97 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/26(金) 22:22:24 ID:???
一旦ここまで。
次回は反町の決断を書けたらと思います。

98 :森崎名無しさん:2018/01/27(土) 00:27:40 ID:???
カル…西尾?くん馴染み過ぎ
シュナイダーも居なくなったし若林含め他のメンツよりはこっちのがやり易いかもしれませんね
反町が日本代表に復帰するのは考えて無かったなー。
復帰したらどうなるかもちょっとで良いから見てみたいです。

99 :森崎名無しさん:2018/01/27(土) 00:55:17 ID:???
そういえば今静岡県でハリネズミが野生化しちゃってちょっとした問題になってるんだよな
西尾?くんと何か因果関係が……?

100 :森崎名無しさん:2018/01/27(土) 01:27:16 ID:???
サイヤ人は商売種族だっ!!!! なめるなよーーーーーーーーっ!!!!!

101 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/27(土) 23:55:04 ID:???
>>98
シュナイダーがハンブルグに残っていれば帰ったかもしれませんが、
原作程仲良くない若林しかいないなら(更にその後問題児が来るなら)守矢かなと思います。
このスレですと、三杉も中学時点で心臓病が完治している為、ユース編ではそれなりにパワーアップすると思うので、
それに加えて反町までとなるとチートクラスに強くなりそうですね……。
>>99
野生の西尾?くんが大量発生……?(難聴)
>>100
???「ホーッホッホ、見てごらんなさい、綺麗な閉店セールですよ!」


本日も更新は無しです。
多分大体2日に1回くらいのペースになっていくかなと思います。
のんびりとお待ちいただければ幸いです。

102 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:08:45 ID:???
その日の事である。
守矢神社での夕食を終え、早苗に送ってもらい帰路についた反町。
帰宅した頃は既にチームメイトの全員が(幽香だけは、Jrユース大会が終わってからも帰宅をいていなかったが)寝静まる中、
反町は自室でこれからの身の振り方について改めて考え直していた。

反町「(俺には3つの道がある。 1つは、外の世界に戻る事……)」

今更東邦学園に戻るというつもりは無い。
以前にも考えた事であるが、やはり日向が牛耳る学園に残るという気持ちは彼には微塵もなく。
しかし、外の世界には友人や両親も確かにいた。
どの高校に進学をするかはともかくとして、安寧に暮らすならばそれが1番最良の選択肢だっただろう。

反町「(2つ目は……この幻想郷に残って、オータムスカイズのキャプテンとしてこれからも活動を続けていく事)」

自分がこの幻想郷へと呼ばれたのは、正に自身の人生において1番大きな転機であった。
これからどんな分かれ道が現れようと、それは間違いのないものである。
きっとあのまま全日本Jrユースにいたままならば、自分は恐らく、十把一絡げのその他大勢役。
なんでもこなせるFWと言われながらその実ただの器用貧乏。
見る所のないまま、ユース世代で消えて行ってしまっていたと言っても過言ではない。

そんな自分が変われたのは、やはり幻想郷へとやってきたお蔭である。
オータムスカイズを設立し、このチームを、『和を大切にするチーム』として運営しようとし、
仲間たちと切磋琢磨をしてここまで大きくした。
結果、反町も……そしてチームも、名門と呼ばれる程にまで成長を遂げる事が出来た。

迷いながら、それでも、これまでの反町ならば2つ目の選択肢に比重がやや傾いていた。
ただ、今日、知ってしまった……3つ目の選択肢がある事に。

反町「(そして……3つ目。 幻想郷に残り……守矢フルーツズに移籍をする……)」

………

103 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:09:54 ID:???
コンコンッ!

反町「え? は、はい!(誰だ?もうみんな寝てる時間だぞ)」

考え事をする室内に、やや大きめのノックの音が響く。
その音量に少しばかり驚きながらも、反町は返事をしてドアを開け……。

穣子「こんばんわ。 と、ついでにおかえりなさいね」
反町「穣子?」

そこにいたのは、秋穣子。
こんな時間にどうしたのだろうか、と首を傾げる反町に対し、穣子は苦笑しながら中に入れるかどうか問う。
立ち話というのもなんだし、と……反町は了承をし穣子を部屋の中に招き入れ……。

穣子「にしても……相変わらず殺風景ねぇ、あんたの部屋」
反町「うるさいなぁ……」

穣子はその部屋の中を見て、一つそう呟いた。
確かに反町自身、殺風景ではあると思う。
何せ部屋の中にあるのは既にいつでも寝る準備が出来るようにとしていたお布団。
それに簡易的な机と、時計くらいなものだ。
生活する上で必要最低限のものしか置いていない、と言えるだろう。
趣味や道楽に使っているような――人間味のある内装では、少なくとも無かった。

何せこれまで、この幻想郷に来て、ずっと反町は突っ走っていたのだ。
弱小チームを中堅に、強豪に――そして、名門へと育て上げるまで。
練習をし、練習をし、また練習をして。
弱い自分たちが強くなる為には練習をするしかないと、ただそう信じて時間のほぼ全てを練習へと注ぎ込んだ。

結果、反町がそれらしい装飾なりを買いそろえる時間は無かったと言える。
アルバイトなどを探し、ポケモンなどを売り払おうと考えた事もあったが、結局それも中途半端であった。

104 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:10:55 ID:???
穣子「ま、いいわ。 とりあえず座りなさいよ」
反町「俺の部屋だぞ? ……まあ座るけど」
穣子「うん、よろしい」

穣子に促されるまま、着席をする反町。
穣子もまた、その対面に座り……再び、口を開く。

穣子「で? 八坂様達に会ってきたのよね? ちゃんとご挨拶出来た? 粗相はしなかったでしょうね?」
反町「小学生じゃないんだぞ、そんな言い方ないだろ……まあ、緊張はしたけどちゃんと話は出来たと思う」
穣子「そう? なら、いいけど」

相も変わらず反町を子ども扱いしているとしか思えない言葉に辟易しながら、
ともかく今日あった事を反町は説明した。
早苗がわざわざ迎えに来てくれた事、諏訪子がにまにましながらも愛想よく反町を歓迎してくれた事、
カルツ――もとい、西尾?が謎の郷土愛を見せながら、守矢フルーツズに残っていた事。

そして――。

反町「神奈子さんから言われた」

最初は不機嫌そうで、反町に対してやけに敵意を剥き出しにしていた神奈子が――。
しかし、やがて、早苗についてのこれまでを語り……これからの事について語った事を。即ち……。

反町「……守矢フルーツズに、移籍をしないかって」
穣子「……そう」

105 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:12:40 ID:???
正直な所を言って、これを穣子に対して話すべきかどうかも、反町は迷った。
オータムスカイズのキャプテンである反町は、それ相応の責任というものも持ち合わせている。
そんな反町が他所からの引き抜きがあり、それに対して迷いを見せているとなれば……。
神奈子と反町、双方にとっても、あまりいい噂は立たないだろう。

だが、それでも……反町は穣子には話しておきたかった。
それが穣子がこんな事を誰にも話さないと信じての事だったのか。
はたまた、迷いを誰かに打ち明けて楽になりたいという気持ちがあったのか。
それはわからないが――いずれにせよ、反町が穣子の事を信頼しての吐露であったのは違いない。

そんな告白に対して、穣子は少しだけ驚いた様子を見せながら……。

穣子「で? あんたはどうするの?」
反町「…………こんな事言ったらどうかと思われるかもしれないけど、迷ってる」

外の世界に帰るか。オータムスカイズに残るか。守矢フルーツズに移籍をするか。
3つの選択肢は、提示された時から、ずっと反町の脳裏に焼き付いて離れなかった。
これがもし、自分の中に小さな自分たちがいて、それらが多数決を取り決定するという方式なら……反町はここまで迷っていなかっただろう。
しかし、当然ながら反町の中にはそんな便利な機能などついていない。
故に迷う。

106 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:14:28 ID:???
反町「どれもこれも……選べないんだ。 どれが正しいのかもわからない。
   神奈子さんに話を聞いた時は、確かにそれも魅力的だなって思った。
   でも、こうして穣子の顔を見たら……この家に帰ってきたら、やっぱりオータムスカイズにいたい。
   ……両親の顔を見たら、多分外の世界に戻りたいと思うんだろうな」

優柔不断なんだ、と、自嘲気味に言う反町に対して……。

穣子「空中☆お芋チョップ!」

ぺちっ

反町「いてっ!」

穣子はその必殺技をぶちかました。

107 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:16:20 ID:???
ぺちん、といい音を立てて反町の額に突き刺さる穣子の手刀。
いや、手刀でぺちんなんて音は立たないだろと思いながらも反町は首を傾げながら額を摩り……穣子を見やる。

穣子「男ならとっとと決めなさい! 情けない!!」
反町「うっ……しょ、しょうがないだろ。 一生を決める事なんだから!!」

そう、一生を決める事だ。
厳密にいえばそれは外の世界に帰るか否かの選択が主ではあるのだが、
仮に幻想郷に残るとしてもオータムスカイズに残るか守矢フルーツズに移籍をするかではやはり大きな違いがある。
だからこそここまで反町は悩みに悩んでいたのだが、穣子はそんな言葉を鼻で笑い飛ばした。

穣子「一生を決める事だからって、うじうじ考えてるだけじゃ埒あかないでしょ!
   大体がさ……一生を決める事って言っても、あんたが考えてるのずっとずっと、すぐそこの事ばっかじゃない」
反町「はぁ? どこがだよ!?」
穣子「外の世界に帰ったら両親や友人がいる。 ええ、いるでしょうね。 いつまで?
   外の世界に戻ったら、ずっとその人たちと生活するの?」
反町「それは……いや、そういう話じゃないだろ!?」
穣子「そういう話よ、これは」

些か乱暴ではある、あるが――穣子の言葉にも、一理くらいはある。
今の反町は、あくまで立場としては中学生。
当然ながら親元で過ごし、そして友人らと仲良く遊ぶというのが普通だ。
だが、反町も大人になれば親元は離れる。進路が違えば友人と会う機会も少なくなる。

穣子「要は早いか遅いかの話でしょ? 違う?」
反町「いや……」
穣子「幻想郷に残るにしたってそうよ。 オータムスカイズを離れたくない、
   って言ったって、このチーム出来てまだ半年すら経ってないくらいよ?」
反町「………………」
穣子「私だって愛着はある。 でも、それに引きずられてちゃ駄目でしょ」

108 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:17:39 ID:???
穣子「……もっと先の事考えなさいよ」
反町「先の事って……なんだよ?」
穣子「将来、どうなりたいとか。 どうしたいとか、あるんじゃない?」
反町「………………」

将来、と言われても、反町には当然明確なビジョンというものは無かった。
反町一樹15歳、将来を考えてもおかしくない年齢ではあるが、そんなこと考えずアッパラパーに遊び呆けてるのが大半の年代である。
しかし、ことここに至って、反町は考える。

反町「(Jrユース大会の時は……)」

いつだったか、偶然観客席で西ドイツのダブルストライカーと相対した事があった。
即ち、西ドイツの皇帝――カール=ハインツ=シュナイダー。
そして、紅魔館の吸血鬼――レミリア=スカーレット。
彼女たちを前にして、あの大会でNo.1のストライカーとなると宣言をした反町。

実際、反町はその証明として西ドイツに快勝。
それどころか得点王と大会MVPのW受賞までし、名実ともに大会No.1ストライカーとなったのは記憶に新しい。

反町「(シュナイダーやレミリアさん達だけじゃない……)」

ウルグアイのラモン=ビクトリーノことブラックファルコンと、星熊勇儀。
イタリアのフランドール=スカーレット。
フランスのルイ=ナポレオン。
魔界の魅魔と……幽香。
そして、全日本の日向小次郎と比那名居天子。

いずれとも戦い……しかし、ストライカーとして勝利をしてきた。
だが、まだ足りない。

109 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:18:57 ID:???
反町「(フランス国際Jrユース大会では……確かに、俺は得点王が取れた。
    だけど……あの大会には、ブラジルをはじめとして、他の強豪国と呼ばれるチームも参加はしていなかった。
    それに……俺は、森崎から一度もゴールを奪えていない……)」

祝勝会の際、輝夜に対して吐露した心情――森崎有三からゴールを奪えなかった事への、悔しさ。
頂点を掴んだ、掴んだが――それでも、まだ目指すべき場所がある。辿り着きたい境地がある。

反町「俺は……俺は、世界一のストライカーになりたい」
穣子「………………」
反町「誰にも文句を言わせないくらい、お前が一番だって言われるくらいの決定力を手に入れて。
   ……そして、どんなキーパーが相手でも負ける事が無い。
   世界一のストライカーに、俺はなりたい」

この幻想郷へとやってきたのは、反町からしてみれば偶然であった。
チームを作ったのも、成行きだった。
劇的な成長を遂げたのは、ただ勝ちたいが故だった。

成長をして、強くなり――その上で、自分が何をしたいのか……何になりたいのか。

反町一樹はこの時、初めて考え、結論を出した。
先ほどまで迷っていた三択とは違い、スッパリと、綺麗に。
それを聞いて、穣子は少しだけ寂しそうに笑みを浮かべ……。

穣子「……なら、どうするのが近道か。 わかるんじゃない?」
反町「………………」

言われ、反町は考えた。

110 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:20:20 ID:???
まず、外の世界へと戻るというもの――強くなる、という一点を考えれば……まずその選択肢は消えた。
『秀才』である反町にはわかっていた。
確かに前回のJrユース大会で、全日本は準優勝という、アジアの島国にしても優秀な成績を収めたと言える。
だが、そもそも世界と日本とのサッカーのレベル差というものは、大きく開いている。
Jrユースレベルならともかく、この先――ユースレベルとなってくるとどうなるのか。
予想をするのは、決して難しい事ではなかった。

ならば取るべき道は、幻想郷へ残るというもの。
オータムスカイズに残るか、守矢フルーツズに移籍をするか――二択に絞られる。

反町「(強くなりたいなら……強くなる、という観点だけを見るなら……)」

練習設備は、守矢フルーツズの方が整っていた。
オータムスカイズが練習で使用をしているのは、人里近くのコート。
決して設備が整っている訳ではなく、そして移動をするのも多少不便ではある。

逆に守矢フルーツズは、専用の練習グラウンドを神社のすぐ近くに設置していた。
乾と坤を創造するらしい二柱が主に手作業と河童たちの手伝いをもとに作ったというそれは、
地面が土の人里近くのコートと違い芝が生え、電気が通っているらしく夜間に練習出来るようライトもある。
おまけに神社からは近い、と文句のつけようがなかった。

反町「(それに……大妖精と早苗さん……)」

そして、反町が主に練習相手としたいのはGK――オータムスカイズならば大妖精、守矢フルーツズなら早苗となる。
どちらも幻想郷を代表するレベルで高い技術を持ったキーパー同士であったが……。

反町「(大妖精……俺のシュート練習にあまり付き合ってくれないんだよな)」

反町も薄々感づいてはいたが、大妖精は反町の事を――。
というよりは、反町のシュートを畏怖している。

111 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:21:21 ID:???
元々気弱な性格である大妖精。
反町が何人もの守備陣を吹き飛ばし、派手にゴールを決める所を見て最初は頼もしく見ていたものの、
しかし、やがてそれは自分の身に降りかかったらどうしようという恐怖心と成り下がっていた。
当然ながら、そんなシュートを食らう練習を、彼女が付き合ってくれる道理はない。

逆に早苗ならどうだろう、と反町は思う。
彼女も基本的には好戦的なタイプではないが――だからといって、臆病ではない。
Jrユース大会が始まる以前は、幾度となく反町の暴力的なシュートを受けながら、吹き飛びながらも、
何度も立ち上がり果敢にゴールを守ろうとしていた。
お互い思いを通じ合えたから、というだけでなく。
共にサッカーをするという上でも……練習を行う上でも、彼女はきっと反町の大きな助けになるに違いない。

反町「………………」

2つの事柄を考えるに、強くなる為には――。

穣子「守矢に行きたいんでしょ?」
反町「…………」

守矢に行った方が、一層、レベルアップを図りやすくなる。
少なくとも、反町はそう結論づける事が出来た。

だが、それでもなお――迷う。

反町「俺は……このチームを立ち上げた時、言ったんだ。 『和を大切にするチーム』にしたいって」
穣子「ん、そうね。 覚えてる」

112 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:22:36 ID:???
チームメンバーを集め、キャプテンに就任した時、反町はそう宣言した。
東邦学園とは違う、全日本とも違う、仲間との協調と和を大切にしたチームにしたいと。
……実際の所はともかくとして、少なくとも、反町はそうなるよう努めてきたつもりだったし、
これからもそうしていきたいと思っていた。

反町「その俺が、チームを抜けてどうするんだ? ……神奈子さんの話では、吸収合併でも構わないと言ってたけど」
穣子「それは無理ね。 ……私達が抜けるつもりがないから」
反町「……うん」

或いは、まだ、オータムスカイズが守矢に吸収されるという形でならそれもよかったかもしれない。
だが、それは穣子たちが否定をする。

『信仰』

穣子と静葉は、信仰を集める為にサッカーをしている。
無論、吸収合併された所で、彼女たちに出番が来て、相応に活躍をすれば……それなりに集まるかもしれない。
ただ、それはあくまでそれなりだ。
チームの顔は、やはり『守矢フルーツズ』と名乗る以上は、守矢に名を連ねる神々である。

穣子「それに信仰云々は抜きにしたって、私はこのチームに愛着あるしね。 さっきは半年も経ってないとは言ったけどさ」
反町「それを言うなら、俺だって……!!」
穣子「あんたは違うでしょ。 明確に、やりたい事が見つかったんだもん。
   ……惰性や責任感で、このチームに残り続けるなんて……そんなのあんたが許しても、私が許さない」

反町がなお縋ろうとしても、キッパリと穣子は言い切った。

穣子「あんたはあんたの夢を追いなさい。 ……ここまでずっと、チームの為に頑張ってきたんだもん。
   あんたが多少の我儘を言った所で、バチは当たらないわよ」
反町「……いいのかな」
穣子「とーぜん! この私が『バチが当たらない』って言ってんのよ?」
反町「………………」

113 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:23:52 ID:???
選択肢を出され、迷い、項垂れていた少年は――女神の後押しを受け、一歩踏み出す事を決意した。
目の前の女神は、いつもの快活な笑みを浮かべている。

穣子「いつか言ったでしょ? あんたには感謝してるって。
   何があっても、私は絶対あんたにご利益を与えてあげるって」

それはいつの事だったか。
ヒューイやリグルを始めとして伸びていく選手たち、新たに加入をした戦力。
それらに押しつぶされそうになった時期が、穣子には確かにあった。
その際、助けてくれたのは誰か。見捨てなかったのは誰か。
穣子は確かに記憶をしている。

穣子「八坂様達には及ばないけど、これでも神様なんだからね!
   信仰してくれた人間には、とーぜん! その分の見返りを与えないと!」
反町「………………」
穣子「皆が反対するなら、私が話つけてやるわ。 あんたはあんたの事だけ考えなさい」
反町「……うん」
穣子「勿論、あんたが守矢に移ろうが何しようが、私達だって負ける気はないけどね!
   私達にほえ面かかされて、間抜けな顔しないようにあんたも頑張りなさいよ!」
反町「ああ……ありがとう、穣子。俺……」
穣子「………………」

反町「俺、守矢フルーツズに移籍するよ」
穣子「…………ん、それでよし!」

………
……


114 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:25:36 ID:???
それから一言、二言、2人は会話を交わし……穣子は反町の部屋を出た。

穣子「ふぅ……」

部屋を出るなり溜息一つ――それでも、パンパン、と、顔を張ると自分の部屋に戻ろうとして……。

静葉「……一樹くんとは話が出来た?」
穣子「姉さん……」

廊下で、静葉と顔を合わせる。
ぎこちなく首を縦に振る穣子に対し、静葉は無言で自身の部屋を指さし穣子を招き入れ……。
穣子はそれに素直に従い、2人は静葉の部屋で対面をする。

静葉「…………それで?」
穣子「ん……やっぱ、姉さんの言う通り、八坂様に勧誘されたってさ」
静葉「そう……(やっぱり、そうなるわよね……)」

今日、反町が守矢神社へ挨拶に行くと言っていた際――否、もっと前。
即ち、あの祝勝会で度胆を抜かれる大告白があった際から、静葉はそうなる事を予感していた。

愛する者と戦うよりは、チームを共にして支えとなるという選択肢。
ついでに言えば守矢のFWはポストプレイヤーである諏訪子――純粋なストライカーである反町は、喉から手が出る程欲しい筈だ。
感情論で言っても、理屈で言っても、早苗と反町が互いに愛し合っており、
そしてその早苗があの2柱に信仰を捧げている以上は自然な流れである。

静葉「それで……一樹くんは?」
穣子「迷ったって。 愛着のあるオータムスカイズに残るか、それとも家族のいる外の世界に戻るか、それに守矢に移籍するか。
   でも……聞いたの。 あいつ、世界一のストライカーになりたいって」
静葉「……うん」
穣子「だったらね……どこに行くのが1番いいか、わかるんじゃない?って……私言ったの」
静葉「…………そう(早苗を支える訳でもなし、ね)」

115 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:27:31 ID:???
穣子の言葉を聞きながら、静葉はそう考える。
無論、そういう気持ちも多分にはあるのかもしれない――ただ、揺れ動いていた1番の要因となったのは、
そういった感情ではなく、実利の面だった……というのは、静葉の脳裏にしっかりと刻まれている。
目の前にいる妹は、自分がそう背中を押したのだからかは知らないが、そんな事を考えている由は無いが。

穣子「そしたら……反町は、守矢に行きたいみたいでさ」
静葉「ええ……」
穣子「ハッパかけてやったわ! ならうじうじ迷ってないで、とっとと行きなさいって!
   これまでこのチームを支えてきたんだもん、そんくらいの我儘、皆許してくれるわよって」
静葉「……そう」

それは静葉にとっては予想の範疇で――しかし、当たって欲しくは無かった事である。
許す許さないで言えば、静葉としても……許さざるを得ない。
そもそも幻想郷サッカー界では選手の移籍自体、頻繁に起こっている。
反町が――例えキャプテンだとしても、オータムスカイズを離れるという事に、誰も文句を言う道理はない。
道理はないが……あまりにも、痛すぎる損失だ。

静葉「(穣子なら……そうね、穣子なら、そういうわよね……)」

今日、穣子が反町の部屋を訪れ、今後の事について話し合うという事も静葉は知っていた。
或いは穣子の言葉なら、反町が思い直し、オータムスカイズに残る選択肢を選ぶのではないかとも思って。
――神奈子に誘われた際、反町の気持ちがそちらに傾くというのは、静葉にはわかりきっていた事である。
ここよりも、外の世界よりも、優れた環境である守矢フルーツズ。
ただ『強くなる』という一点だけを見れば、その選択肢を選ばない筈が無い。

それでも、静葉は反町がオータムスカイズにかける愛着にかけたかった。
穣子に対する感情にかけたかった。
しかしながら、それは敵わなかった――と、知った。
それを伝えた穣子の後押しがあったからなのか、純粋に実利だけを見ての選択だったのか、反町ではない彼女にはわからなかったが。

116 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:29:07 ID:???
静葉「……寂しくなるわね(そしてそれ以上に、チームとしては戦力の大幅ダウンが逃れられない。
   一樹くんだけじゃなく……他の事を考えると)」
穣子「まあね……でもさ、仕方ないじゃない」
静葉「穣子……」

穣子を励ましながらこの先を考えていた静葉は……しかし、視界に映った穣子の顔を見て声を失くす。
彼女は笑っていた。笑いながら――大粒の水滴を、ポロポロとその瞳から流していた。

穣子「あいつは……強くなりたいって、言ってるんだもん。 もっともっと、だってさ。
   大会で得点王取っても、MVP取っても、まだまだ満足してないのよ」
静葉「………………」
穣子「私だってさ、もっとあいつと同じチームで一緒にいたかった。 けどさ、もう、邪魔だもん」

静葉はゆっくりと静葉に近づき、その背中を摩る。

静葉「………………」

いつだか、フランス国際Jrユース大会の際――試合中、体力を使い果たして倒れこんだ穣子。
医療室へと担ぎ込まれ、大事には至らなかったものの気絶をして眠り……。
その際、見舞いへとやってきた静葉との問答を思い出す。

穣子は確かに、反町に対して親愛の感情を抱いていた。
それが男女のそれだったのか、或いは家族としてだったのかはわからない。
少なくとも、その時は、弟みたいなものだから、放っておけないから、と穣子は言っていた筈だ。
そう、放っておけなかった。
放っておきたくなかった。
ずっとそばで、彼の成長を見守り――彼と共にありたかった。

117 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:30:54 ID:???
穣子「だけど、あいつは早苗が好きだって言うし、早苗もあいつが好きだし!
   強くなれて、思い人のいる所にいれるなら、それが1番じゃない!」
静葉「……そうね」

しかし、それは叶わない。
いつかの時に静葉が言ったように、少年は成長をする。いつまでも見守るという事は出来ない。
そして、どれだけ絆を結んでも、それは男女の愛にはきっと敵わないのだろう。

穣子「私は、あいつに言ったわ。 いつかあいつに受けた恩は、信仰は、必ず返してやるって」
静葉「………………」
穣子「それが女神である私の誇りだって。 でも、でもね……私、あいつにまだ何も出来てない……」

それは違う、と静葉は言いたかった。
確かにサッカーではずっと反町の世話になっていた、反町がここまで引っ張ってきた――それは疑いようの余地も無いだろう。
だが、日常生活でも――そして、繋がりとしても、誰よりも支え続けていたのは穣子だ。
いきなり幻想郷へとやってきて、右も左もわからない反町を助けていたのは、穣子だ。
……それを言っても、彼女は納得しないのだろうから、静葉はじっと口を噤んでいたが。

穣子「私だって、別れたくない……」
静葉「………………」

それがきっと、穣子の本音なのだろう。
それでも、彼女は、自身の誇りや、何よりも反町の事を思って、身を引く事を決断した。

静葉「(一樹くんを……引き留めたい、所なのだけど)」

誰よりも近くにいた穣子がそう言うのだ。一体、どうして静葉が引き留める事が出来るだろう。
それは静葉だけではなく、このオータムスカイズにいる――他の誰にも言える事だ。
穣子がそう決断をした、ならば、それに口を挟める者など――空気を読まない何人かはいるだろうが、それもまた、静葉が許さない。

118 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:32:35 ID:???
穣子「反町と離れるなんて……やだよぉ……」
静葉「………………」

いつしか静葉のやや寂しい胸に顔を埋めながら、嗚咽し、穣子は呟いた。
静葉はやはり、黙ってその頭を撫でてやる。

静葉「よく頑張ったわね、穣子。 本当に……よく頑張ったわ」
穣子「うぅぅ……」
静葉「(ただ……穣子と一樹くんは、神と人としては、あまりにも近すぎた。
    ……結果的には、これが良かったのかもしれない。 ……穣子には、残酷な事かもしれないけれど)」

穣子を慰めながら、そうも思う静葉。
確かに穣子と反町の関係は、近かった――近すぎた。
それを考えれば、反町がオータムスカイズから離れる事も、決して悪い事ばかりではないと。

彼女はまだ知らない、白熱した幻想郷サッカーブームが、これから更なる盛り上がりを見せていく事を。

静葉「(……後は、私が頑張る番ね。 穣子の為にも……このチームの為にも)」

彼女は知っていた、反町が守矢フルーツズに移籍する上で、何名かの選手が反町に続き移籍をする可能性を。

静葉「(このチームが得てきた名声を……失墜させる訳にはいかない)」

誰もまだ知らない、稔りに稔った秋の空に……静かに終焉の日が近づいていた事を。

反町一樹が守矢フルーツズへの移籍をチームメイトに発表したのは、その翌日の事である。

119 :幻想でない軽業師 ◆0RbUzIT0To :2018/01/28(日) 22:36:13 ID:???
早苗「(ヒロインレースに)勝ったッ!第3部完!!」
という事で早苗さん大勝利で一旦ここまで。
ここまでの流れは賛否両論あると思いますが、多分、あの時あのまま続いていたとしても、仮にJrユース大会後の進路は、
反町は守矢移籍ルートになっていたかなと思います。

次回は、反町移籍を受けてのオータムスカイズチームメイトの動向などを書けたらと思います。
それでは。

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