キャプテン森崎 Vol. II 〜Super Morisaki!〜
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【崩落のステージ】Another-C_8【 前篇 】

161 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:44:08 ID:???

すみません、ageちゃいました。
=============================================

バチィィィィィッ!!

三杉「!?」

三杉は突如カミナリにうたれたような意識を覚えた。
…と同時に、走馬灯の如き映像が一瞬の内に脳裏に描かれる。
ハッキリとしないおぼろげな映像の中には自分の姿もあった。
MFではなくDFを…しかもリベロを努めている自分。

片桐「どうした三杉?」

不意に立ち止った自分に対し、片桐が怪訝そうに問いかけて来た。
この人は自分が今在るような感覚の中には居ないと判る。
何が何だか判らない、貧血等で意識を失う前兆か一瞬考えるが…
意識はハッキリとしており、拳を握ってみると感覚にも実感が十分にある。

…やがてその感覚は消失し、何かが入って来たような後味だけが残った。
そして心なしか全身の筋肉に躍動を感じているのだ。

162 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:45:29 ID:???

片桐「どうした、大丈夫なのか?」

返事が出来なかったせいか、今度は心配そうに駈け寄って来た。
不可思議な感覚と脳裏に流れた映像を思い出しながら、三杉は『大丈夫、少し目眩がしただけです』と答える。
正直に説明するのも面倒であるし、したところで白昼夢を見たという結論で終わるだけであろうから。

片桐「本当か? これからフライトは長くなるし、便を遅らせる方が良いんじゃないか?」

三杉「いえ、本当に大丈夫です。 多分、少し寝不足なだけですよ。」

片桐「ふむ、まあそれなら良いが…とにかく早くシートに座った方が良さそうだ。」

三杉「どうも…すみません。」

※三杉のフィジカルが向上してブロックとクリアが2、競り合いとタックルが1ずつ上がりました。
 さらにダイビングオーバーとダイビングブロックを取得しました。


163 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:46:05 ID:???
リーディングシュタイナー!?

164 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:46:34 ID:???

三杉が得も言われぬ感覚を味わったのと全く同じ時刻……
彼と同様の体験をし、そして自らに起こっている変化を実感する者達が居た。
それも、一人や二人ではなかった。


≪東京・ヒューガー特設グラウンド≫

バシュゥゥゥゥゥッ!!!  ズバァッ!!!

若島津「なっ…!」

反町「あっ……ええっ…?」

沢田「若島津さんが反町さんにゴールを決められた!?」

反町(な、何だ今のは…。 若島津の隙が手に取るように判ったし、
    何より蹴り抜いた時の感覚が、今までとは完全に別物だ…。)

若島津「クソっ…ナイスシュートだ反町! だがもう油断はしないぞ、二度とゴールはやらん!」

反町(お、大口を叩いている若島津が小さく見える…!? どうしちゃったんだよ俺は!?)


165 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:47:53 ID:???

≪同じく東京・ふらの高校寄宿先の旅館≫

松山「うぅっ……クッ……」

後輩1「ど、どうしたんですか、キャプテン? 急に泣き出したりして…」

松山「い、いや…何だか判らないけど白昼夢を見た気がしてな…
    その中の自分が物凄く…物凄〜〜〜く報われてないような気が…」

後輩1(きめぇ…)

後輩2(大丈夫かこの先輩…?)

松山「だ、大丈夫だ! すぐに収まる、収める!」


166 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:48:33 ID:???
たしか原作のワールドユース編ではリベロになってたよね、空気だった気がするんでうろ覚えだったけど

167 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:48:55 ID:???

≪ブラジル・サンパウロ≫

スピィィィィィィィン!

アマラウ「なにぃっ!?」
ドトール「鋭い!!」
マウリシオ「ワオ…!」

ペペ「ナイスクロス、バビントーーン!!!」


バシュゥゥッ!!!    ズバァシャッ!!!

マウリシオ「スゲェーじゃないですか、先輩!」

バビントン「えっ…あっ……」

ストラット「本当だぜ、あんな針穴通すパスを出せるんなら最初から言えよ。」

バビントン「う…うん、ごめん…。
      (そ、そんな事より……会いたい、会いたくて堪らない…
       誰だか判らないけど、あの赤い瞳に……
       …何だこの気持ち? どうしちゃったんだボクは…?)」


168 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:49:29 ID:???
反町は物凄くパワーアップするんじゃw

169 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:49:49 ID:???
反町さんが魔王すぎるw

170 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:49:55 ID:???

≪イタリア・ミラノ 夢の中≫

(三杉「嫌悪を抱いて、敵視して…ぶつかり合うのに時間も手順もいらなかった…
     そうじゃないか? 才能だけでなくパーソナリティーにも感じあった…違うか?」)

ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!! ← ときめきの導火線

ガバァッ! ← 布団から跳ね起きる音

ミハエル「ハァッ! ハァッ! ハァッ…ハァッ………
      …な、なんデスか今の夢は………それに、この………うああぁぁぁ…」

看護婦「ドノヴァンくん、大丈夫ですか? 凄くうなされてるみたいでしたけど…」

ミハエル「の、ノープロブレムです! お休みナさい!」

ガバッ! ← 布団にくるまる音

ミハエル(ボクはノーマル、ボクはノーマル、ボクはノーマル、ボクは……)


171 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:51:20 ID:???
ミハエルはここ以外の全てでアブノーマルだからキツイなwww

172 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:51:49 ID:???

≪再び成田空港≫

片桐「気分はどうだ?」

三杉「大丈夫ですよ、本当にもうなんでも…」

ビジネスクラスのゆったりしたシートに座った三杉は、エコノミーとの差を実感していた。
片桐は本気で心配をしてくれているのか、何度も体調を窺ってくる。
しかし現実に気分は悪くなく、意識もハッキリスッキリとしていた。
さっきの体験が嘘だったのではないかと、自分に問い詰めたいくらいであるが…
脳裏に見えたおぼろな映像はまだ忘れていない。

三杉(本当に…何だったんだ?)

その疑問に答えてくれる物など居る筈もない。
それを知りながらも三杉は何度も問い直すのだった。


173 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:52:34 ID:???
あとは翼がバスケ選手の記憶を取り戻せば完璧だな

174 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:52:49 ID:???

…そうこうしている内に飛行機がゆっくりと動き始めた。
飛び立つために滑走路へと移動を開始したのである。

三杉は窓から建物の方を覗き込んだ。
弥生はまだ空港に居て、こちらを見送ろうとしてくれているだろうか?
そんな感傷を少しだけ胸に抱き、そしてすぐに振り払った。
甘い時間はもう終わったのだ、ちゃんと切り替えよう・・・そう自分に言い聞かせて。

やがて飛行機はゆったりとした移動から、急激な加速を始めた。
もう何度も味わった慣れているGの感覚に晒される。
・・・その瞬間、三杉は再び奇妙な感覚に襲われた。

三杉(グッ・・・?)

先程の入ってくる感覚とは違い、意識が乖離していくような感じ。
胸にかかるGと相成って、胃液が逆流するほどの不快感が三杉を襲う。
そのまま三杉の意識は混濁して行き・・・


ポーン・・・

シートベルト着用のランプが消えた。
高度が必要な所にまで達し、安定航行に入ったサインである。


175 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:53:09 ID:???
戦闘力的には反町よりバビ様のがパワーアップしてるよなw

176 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:53:30 ID:???
モリサキはカラオケの腕前がRX級に上手くなったんだね。
言わなくてもよくわかります

177 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:54:19 ID:???

三杉(・・・・・・あれ、僕は?)

周囲の風景に三杉は戸惑った。
たった今まで自分は片桐と共に搭乗手続きをしていた筈だったのだが・・・。
どう見てもここは機内、エコノミーではなくビジネスのシートの上。
首を横に向けると、隣には片桐が座っている。

三杉(・・・・・・どういう事だ?)

片桐「どうした、やはり気分が優れないか?」

三杉「えっ・・・いや・・・・・・」

片桐「無理をせず少し寝ろ、寝不足と言ってたろう?
    話はその後でも良い、たっぷり14時間は隣席なんだからな。」

三杉「・・・・・・はい。」

混乱する思考の中、三杉が思っていたのは・・・
『寝不足だなんて言ったかな?』という小さな疑問であった。

※三杉のブロックとクリアと競り合いとタックルが1ずつ下がりました。
 ダイビングオーバーとダイビングブロックを失いました。

178 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:55:45 ID:???
でもブロックとクリアは微妙に強化されたままなのね

179 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:55:48 ID:???
ちょw あっさり忘れたw

180 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/06(木) 18:56:31 ID:???
切りが良いので本日はここまでです。
次回も暫く長文が続きますが、宜しくお願い致します。
ちなみに今週末と週明けは、引越しで更新が全く無理だと思うと予告しておきます。
それではー

181 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:56:50 ID:???
ナンデスはモデナでの日々や童帝達との友情の記憶が流れ込んできたりしてないのか

182 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 18:58:10 ID:???
森崎ならメイドブリーダーといいものを見た記憶だろうww

183 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:01:33 ID:???
小田Jr(における小田父)とか、異世界(森崎もそうだが、ピエールあたり)あたりも出てきたら面白いな。
あと色々な意味で銀シュナのシュナイダー。

184 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:02:31 ID:???
いろんな意味で岩見には別世界の記憶が流れ込んできてないことを祈りますw

185 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:03:36 ID:???
彼は聖闘士だからな。危険だ。

186 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:03:44 ID:???
岩見はマズイなwwwww ちょっと前の練習の時のあれも伏線だったのかもな。

187 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:04:00 ID:???
これは誰かが世界の境界をいじったのかな?

188 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:09:38 ID:???
今頃、フランシス以外のフランスメンバーがキャプテン(笑)の変態サディスト少女をハブってたような気がしてんのかなww

189 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:12:57 ID:???
…まて、やばいぞ! フランスから魔王がやってくるぞ!

190 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:15:02 ID:???
別世界の記憶といえば岩見もヤバイが井沢の方がもっとヤバイ気が・・・

191 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:19:54 ID:???
井沢ちゃんは地味だが強いしね
……早苗様が規格外すぎるからアレなんだけど

滝も相当強くなるな。

192 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:20:07 ID:???
井沢はヤバすぎて逆に活用できないんじゃねーかなー。
早苗様とかはさすがにやってこないだろうし。

193 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:23:57 ID:???
岬くんはヘタれ要素のみをインストールされるのか…

194 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:27:32 ID:???
バビがウサミミを思い出してるのと同時刻、森崎は黒髪の女戦士や銀髪のマージ、ついでに良男とお笑い芸人のことを思い出してるのかな

195 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:30:09 ID:???
>>194
翼にその世界の記憶が流れ込んでたら発狂しかねんな、ただでさえ思い悩んでから

196 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:31:01 ID:???
翼は高台から若林邸にフライハイしまくった夢をみているはずw

197 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:34:30 ID:???
アモロの超強化はあるかな?
きれいなリア充アモロになったら爆発しろw
キャプアモさんの方だともっとエラいことになるがww

198 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:35:07 ID:???
翼にバスケ選手の記憶が流れてたとしたら、たぶん全日本のキャプテンは目指してもエースは目指さなくなるねw

199 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 19:46:51 ID:???
城山監督は今頃、別次元の破天荒な自分の記憶が流れ込んできて混乱してるだろうなw

200 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 20:06:51 ID:???
そしてジェンティーレは、パスタ屋開店へ向けて歩み出すのか…………w

201 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 20:12:31 ID:???
>会いたい、会いたくて堪らない…誰だか判らないけど、あの赤い瞳に……
自分としてもまた森崎板でバビンゲコンビの活躍が見れる日が来ることを望んでます・・・

202 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 21:45:51 ID:???
翼にバスケ選手の記憶が流れたらエースを目指すつもりはなくてもエースになってそう。周りが壮絶にヘタレになって

203 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 21:54:26 ID:???
新田は今の自分が一番幸せだと認識するんだろうなぁ

204 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 21:56:18 ID:???
モリブレム新田も幸せだけど、ここの新田には負けるもんなw

205 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 22:06:59 ID:???
ここの新田が本当に幸せになるのはまだ先だと思う。
早く伝説の超ストライカーに目覚めろー!まにあわなくなってもしらんぞー!

206 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 22:52:46 ID:???
幻想郷の住人たちにも別次元の自分の記憶が流れてるのかだろうか?
そうだったら魔理沙、うどんげ、紫は精神崩壊を起こしかねんなw

207 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 23:42:12 ID:???
幻想的なことはアルシオンサイドしか起こらないと思いきや
その時ふしぎなことが起こった!
三杉→忘れた ミハ→思い出したくない
他→強化
ここからがフィオにとっての本当の戦いだ……

全日本は幻想的な奴ら何人追加されたんだw

208 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 23:51:03 ID:???
反町の強化だけは勘弁してください…絶対勝てんわw

209 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 23:52:35 ID:???
おいおい…リーディングシュタイナーが発動したらもう1人恐ろしいFWが日本にいることを忘れてないか…?

210 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 23:53:10 ID:???
ラムカーネがツインバスターライフル使えるようになってくれているかもw

211 :森崎名無しさん:2011/10/06(木) 23:56:15 ID:???
>>209 大前?反町と大前のツートップとか反則そのものじゃねえかwww

212 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 00:32:26 ID:???
うにーん…
リーディングシュタイナーって何じゃろなー、という感じのスレ主ですわんばんこ。

ええと…反響が予想を超え過ぎに思えて怖くなってきましたのでちょっとだけ。
今回の描写は言ってみれば只の演出でしかありません。
三杉が忘れたと同じように他の人間も忘れました。(三杉と同じく気持ち程度パワーアップ分はあったかもです)
それだけご理解下さい。

213 :森崎名無しさん:2011/10/07(金) 00:44:54 ID:???
乙です
そこらへんはみんな分かってると思いますよ

214 :森崎名無しさん:2011/10/07(金) 00:45:23 ID:???
リーディングシュタイナーってのは、まあ「並行世界の自分の記憶を共有できる能力」って説明で大きく間違ってないかと。
この盛り上がりについても、大体の人はわかってやってると思いますよ。
少なくとも私は「そこまで大きく他スレ能力は使えないだろ、常識的に考えて」と思いつつ盛り上がってました。

215 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 00:55:51 ID:???
すすすすみません。
そう言って下さってホッとしました。

あとリーディングシュタイナーのご説明ありがとうございます。
まあそれに近いような事が何かの影響で受動的に起こったとお思い下さい。
それでは改めてお休みなさい。

216 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 18:53:14 ID:???

>>178の続きから
=============================================

不可思議な状況において疲労感だけは確かな三杉は、片桐の言葉に甘えて意識を落とす事にした。
再び目覚め、片桐との間に言葉が交わされるその時まで…
暫しの間、世界に何が起こったのかを語る事にしよう。

時間軸はほんの少しだけ遡る。
事件の発端、その中心地はイタリア・トスカーナ州のアレッツォ地方…
フィレンツェの中心から南東に一時間ほど離れたこの場所で起こった。


蓮子「あそこが世界の中心かぁ……本当かねえ?」

秘封倶楽部の中心人物の一人、宇佐美蓮子は言葉に疑問の色を隠さず呟いた。
うん、いや、私の事なんだけどね。
手をつなぎ隣で歩いているメリーと顔を見合わせ、同じタイミングで首を傾げる。

城壁に囲まれた小さな田舎町のアレッツォ。
まあトスカーナ州の町の一つらしく、ルネッサンスを色濃く残した場所なんだけど…
間もなく私達が到着するのはそんな田舎町を更に外へ飛び出した、文字通り何にもない盆地。
周囲が山地に囲まれているせいか、所々に大きな岩が転がっていたりするくらい。

この丑三つ刻、人工の灯りなんて勿論ないけれど、上を見上げれば広大な星空が存在している。
星の明りがこれほど明るいとは、この私もちぃとばかり驚いた。


217 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 18:54:17 ID:???

蓮子「ねえナム、本当にこんな所で大丈夫なの?」

ナムリス「ええ、モナリザが示す場所はあそこで間違いありません。」

今回の秘封倶楽部活動の発起人であるナムリス・ユブンタイ、通称ナムが普段通りの冷静さで答えた。
そう、全てはこのナムの提案だった。
夏休みの欧州旅行、その2つの目的…まあメリーの里帰りに便乗して出てきた提案だったけれど。

メリーが里帰りの予定を話した時に、ナムが急にメリーのお父さんに会いたいと言いだしたんだ。
何のつもりなのか、もしや娘さんを僕に下さいとか言いだすつもりなのかと…
私はちょっとばかしキツイ口調でナムに問い質したんだけれど。
どうやらメリーのお父さんは昔、世界的に有名なサッカー選手だったみたい。
アリー・ハーン? だっけ? オランダ代表でWカップで準優勝した時のメンバーらしい…
…と言うかナムがサッカーに興味があるなんて全然知らなかった件。
おっとっと、話が本題とずれ過ぎたかな。


218 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 18:56:13 ID:???

もう一つの目的は純粋に秘封倶楽部の活動に関する事。
ナムが以前言っていた、世界のカードと太陰大極図の類似性についてのプレゼンから始まった。

世界のカードとは、マルセイユタロットの最後のカード“世界”の事を言う。
そのカードには四隅の象徴の中に“楕円”があり、その更に内側で両極のある棒を両手にした女性が、
軽やかに踊っている…と言う、『何故これが“世界”なのか?』と思うしかない絵が描かれている。
ナム曰く、“世界”の楕円はウロボロス(世界の卵)、女性は両性具有者。
まあ胸は丸に点で乳房には見えず、陰部は布で隠されているから、そう言われてみれば女性とは断言できない。
(参考:ttp://web-box.jp/dazake/monagazou/world.jpg)

それに対して太陰大極図は中心に大極、その周囲は大陽と大陰を示す両儀が回転し、四隅には根象徴的な四象。
(参考:ttp://web-box.jp/dazake/monagazou/sisyou.jpg)


219 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 18:57:40 ID:???

両者確かに似ていると言えなくもないが、話としてはやや強引かなと私は思った。
しかしナムが凄かったのはここから・・・彼はこの二つの他にも類する例を沢山挙げて来たのだ。
新約聖書ヨハネ黙示録四章七節“黙示録の十字”、“四神相応図”、“四天王”、四大州・・・
中央に相反する陽と陰があり、四隅に根源的な象徴が置かれるこの構図は確かに世界中にあった。
そこには東洋も西洋もなく、世界や理を表す物が描かれる場合は全て、
相反する物の回転・循環・律動と、周囲に配置された四つの根源で示されていたのだった。

遠く離れた東洋と西洋において全く同種の物が語り継がれている場合、
そこに何らかの真理が隠されているのではないかと、以前からもナムは述べており・・・
世界の中心、太極には、メリーが夢の中で辿り着いた境界の向こうが在るとの推察を主張したのだ。

そして、『・・・で、具体的に太極の場所は何処なのか?』・・・という私達の当然のツッコミに対し、
待っていたとばかりにナムが持ち出してきたのがモナリザだった。


220 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 18:59:04 ID:???

蓮子「メリー、大丈夫?」

メリー「うん・・・・・・平気。」

口数の少ない相方が心配になり、私は問い掛けてみた。
その返事は、およそいつものメリーのそれと同じとは思えなかった。
目的地に近付くうちに、この相方の緊張が高まっているような気はしていたが・・・
今の返事でそれは間違いではない事が明らかになった。

蓮子(メリーの目には、既に何かが視えているのかも知れない・・・
    それこそ世界の中心、それを隔てる境界が。)

・・・だとしたら、なんと言う巨大な境界なのだろうか?
私達4人はとてつもない所に来てしまったのかも知れないと、今更ながらに私も寒気を覚える。

ナムリス「アルシオン、キミは何か感じる物はあるかい?」

アルシオン「いや・・・。」

私が不安感を覚え始めた所に、出来すぎたようなタイミングでナムは問い掛けた。
その問い掛けに無愛想に答えたのはアルシオンくん。
以前、ナムが私に解析を頼んだスポーツテストのビデオ・・・そのビデオに写っていた人物が彼である。
ナムの紹介で出会って間もないせいか、アルシオンくんの事はまだよく判らない。
判っているのは、彼が尋常ではなく深い目をしている事と・・・
私の持つ物理知識を総動員しても解析できない程の運動能力を持つ“瞬間がある”という事だけ。


221 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 19:00:08 ID:???

蓮子(ナム曰く、彼が大陽でメリーが大陰らしいけど・・・)

ナムリス「さあアレッツォの四つの景色を組み合わせたモナリザの背景・・・その中心も間もなくですね。」

メリー「・・・・・・」

蓮子(男性を描いた左半面、女性を描いた右半面、そして下地に描かれたキリスト・・・
    モナリザが“世界”を、その中心地を示しているってのは世迷言じゃなかったって事か。)

こうして私達はその場所へと辿り着いた。
太極へ至る境界が存在する地に。


222 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 19:02:11 ID:???

蓮子「メリー・・・・・・貴女、視えているの?」

メリー「・・・うん。」

私ことマエリベリー・ハーンは、心配そうに聞いてきた蓮子にそう答えた。
正直に言うと、私にはさっきからずっと視えていたのだ・・・この巨大すぎる境界、その光景が。

ナムリス「ふむ・・・残念ながらボクには何も見えません。 アルシオン、キミはどうです?」

アルシオン「何も。」

ナムリス「はい。 ・・・一応聞きますけれど、蓮子先輩は?」

蓮子「なんも見えないわよ。」

ナムリス「ですよねー。 ・・・メリー先輩、宜しければ何が見えるのか教えて頂けませんか?」

どうやら私以外の誰にもこの光景が視えないらしかった。
蓮台野の時は蓮子にもナムにも見えたのに。
仕方なく、私は蓮子たちに自分が視えている物を伝える事にした。


223 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 19:03:29 ID:???

メリー「水。  そう、湖・・・。」

蓮子「!」

ナムリス「湖が見えると・・・!」

メリー「正確には・・・今私達が居る、この場所が湖の中なのよ。」

そう告げて、私は空を見上げた。
そこに視えていたのは星空なんかではない。
水面の上は霧に包まれた風景、そして畔に建っているのは・・・
・・・見覚えがある。 血の様な紅、大きさに比べて少なすぎる窓・・・。
間違えようが無い・・・夢の中で見たのと同じ、お茶を御馳走になったあの洋館だ。

ナムリス「湖の中・・・! 描かれていた水平線に、輪郭が示す波紋!
      モナリザが水面下を描いた物だという仮説にピッタリ一致しました!」

興奮するナムの心の震えが、今の私には感じ取れた。
異様な程に神経が研ぎ澄まされているのが自分でも判る。
そして・・・言いようの無い不安が同時に溢れ出していた。
取り返しのつかない事になってしまうような・・・私を彩る世界の全てが失われてしまうような・・・。
逃げ出したい気持ちとは裏腹に、足は一歩も動かなかった。
そして両手は何かに誘(いざな)われるかの様に空へ・・・洋館へと向けて伸ばされた。

・・・稲妻にうたれた様な衝撃を感じ、私はそこで意識を失った。
最後に私の頭にあったのは『蓮子が無事でありますように・・・』という願いだった。


224 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 19:05:51 ID:???
一旦ここまでです。
出来れば今日のうちに、次の区切りまで更新したいですが・・・
無理だった場合、次回更新は12日以降となります。

225 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:40:58 ID:???

≪極めて近く限りなく遠い世界・紅魔館≫

妖怪の山の麓に位置する、昼間になると霧に包まれる湖。
通称霧の湖の畔に建っている、赤い色調を持つ紅魔館。
大図書館や地下室、時計台などを館内に持つこの屋敷には悪魔が棲んでいる。

その悪魔とは、女主人・・・ツェペシュの末裔を名乗り、500年以上の時を生きていると言われ・・・
この世界で最高峰に位置される才能・技能を有するカリスマの具現、レミリア・スカーレット。

そのレミリアは今この瞬間、血が沸騰しそうな程の怒りに駆られたところだった。
肩書きの大仰さからは想像できない程に幼く可愛らしいその外見を震わせ・・・

レミリア「・・・!!」


シャキンッ!!

遂に怒りに堪えられなくなったのか、力を込めて右腕で手刀を振るわせた。
何もない空間に向けて払われた手刀は、鋭い風圧を伴ない・・・
宙を文字通り斬り裂いたかのような錯覚を覚えさせる程であった。


226 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:42:07 ID:???

ピキッ・・・・

・・・否、空間は切り裂かれていた。
・・・・・・・・・様に見えた。

レミリア「この悪戯は貴女の仕業? 答えなさい、スキマ・・・!」

焼けるような視線でレミリアが睨みつけた空間は、徐々にその裂け目を広げて行き・・・
パクリと開いた裂け目、無数の目玉と漆黒の中から、人の形をした膨大なエネルギーが姿を現した。
スキマ妖怪という通称で知られる八雲紫である。

紫「誓って言うわ、今ここに居る私がやったのではない。」

レミリア「貴女以外の誰にこんな事が出来る!? しかも都合良く私の私室にやってきておいて!!」

紫「私はこの異変を元に戻すために来ただけよ。 トリガーとなった貴女を媒体にしてね。」

レミリア「人の能力を勝手に2度も使わせるとでも!?」

いきり立ったレミリアが、もはや我慢ならぬという勢いで紫に飛び掛ろうとした時・・・
レミリアは信じられぬ光景を目にして、その動きを抑えた。

紫「お願いします・・・協力して下さい。」

レミリア(スキマが・・・! この大妖が私に頼み乞うているですって!?)


227 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:43:18 ID:???

その万能無敵な能力も然ることながら、何手も先を見通す頭脳を持ち・・・
常に冷静に微笑を浮かべる『胡散臭い』という言葉の代名詞、八雲紫。
その紫が神妙な顔で誰かにお願いを乞うというこの光景は、レミリアならずとも誰も見た事が無い物だった。
これを見てしまったレミリアは、内包していた怒りを興味へと変換する事にした。
・・・膨大な精神力を必要とする作業ではあったが。

レミリア「判った、協力する事にするわ。 ただし全て説明しなさい。」

紫「感謝するわ。」

端的に礼を告げ、紫はレミリアに手をかざす。
レミリアの持つ『運命を操る程度の能力』・・・今しがた操られた運命を逆流させる作業に入った。

紫「・・・・・・」

レミリア「・・・やはり解せないわね。 対象が私である事を抜きにしても、
      貴女以外にこんな事を出来る妖怪が存在するとは思えないわ。」

紫「・・・レミリア。 貴女は普段、自らの持つ『運命を操る程度の能力』を自分の中に留めている。
   貴女の能力はノルマル・オープンだから・・・そうしなければ近付く者全てが変わってしまう。」

レミリア「・・・・・・」


228 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:44:27 ID:???

紫「・・・貴女が最後にその能力を使ったのは、この館のメイド長に対して。
   倫敦の殺人鬼、銀のナイフを操るヴァンパイアハンター、時間を止める吸血鬼・・・
   貴女は多世界に存在するメイド長の運命を一つにした。 ・・・それが貴女の能力の本質。」

レミリア「そんな事はお前に言われるまでもない、結論を話せ。」

紫「慌てないで。 確かに私の『境界を操る程度の能力』なら、貴女の能力のON-OFFを操る事くらい出来る。
   ・・・けれど私は、この大切な幻想郷を揺るがすような異変を起こす気は毛頭ないわ。」

レミリア「・・・・・・チッ!」

紫「私ではない・・・。 けれど、それを行ったのは私と同じ能力を持つ者よ。」

レミリア「それは誰だ! 何処に居る!?」

紫「多世界に存在する私ではない私・・・その一人よ。
   何処に居るかは探しているけれど、どうしても見つける事が出来ないの。
   強力な結界を張ったか・・・それともこの時間軸から消失したか・・・。」

レミリア「ぬぬぬ・・・じゃあ私は誰を八つ裂きにすればいいの!?」


229 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:45:29 ID:???

紫「・・・あの子を唆(そその)した人間。 あの瞬間、あの子の側に感じた気配は3人。
   その人間の姿も見つける事がまだ出来ていないわ。
   けれど必ず見つけ出す・・・そして私自身で借りを返すわ。」

レミリア「・・・フンッ。」

それから暫しの間、紫はレミリアに手を伸ばし続けていたが・・・今、ようやく下ろした。

紫「・・・終わったわ。」

レミリア「・・・全て元通りなの?」

紫「いいえ、少しだけ残滓が残ってしまった・・・量子力学の壁の影響ね。
   同様に、元々の効果も完全では無かったようよ?
   あの世界の中で強い想いを持った存在と、同じかそれ以上に強い想いを持った多世界の一人が、
   互いに惹かれ合って混ざっただけみたい。 あのメイド長のようにチャンポンではないわ。
   もしも完全に戻すには、貴女をあの世界に連れて行かなければならない・・・」

レミリア「冗談じゃないわ、私の腰はそこまで軽くないの。 今日だって特別なんだからね。」

紫「分かってるわ、これ以上貴女の手を煩わせるつもりはないから。 でも・・・。」

レミリア「なによ。」

紫「・・・いいえ、それじゃまた・・・。」


230 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:46:51 ID:???

レミリアの質問に答える事なく、紫はスッと紅魔館から消え去っていた。
レミリアは一瞬だけスキマが開いた空間を暫し睨んでいたが・・・
やがて欠伸をし、天蓋ベッドへと身体を横たえた。




『一度生まれてしまった引力は、微弱ながらも消えずに残ったまま・・・
 奇跡でも起きない限り有り得ない話だけど、再び運命が混ざる可能性はゼロじゃない。
 それにあの子と・・・側に居た筈の3人は、間違いなく一つになってしまった儘・・・。
 笑えないわね、本当にあの娘がもう一人の八雲紫になってしまっただなんて・・・』


スキマの中で紫は独り・・・思考を弄んでいた。
彼女にしては珍しく、心に悲しみと悔恨を抱きながら・・・


231 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:52:14 ID:???
本日の更新はここまでです。
次回は再び三杉達の世界に戻り、向こうの世界の人はあと10スレくらいは出てこないと思います。


『予告』
頬に涙を濡らし、嗚咽するアルシオン。
あの瞬間に彼が見た物は・・・?
そして覚醒するスターバースト。
星をも砕きかねない異形の力を身につけてしまったアルシオン。
もはや彼を止める力を持つ者は誰も居ない。

ってな感じでお楽しみに〜さよなら〜

232 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/07(金) 20:57:06 ID:???
追記

色々と俺設定+矛盾点も多々かと思います。
ついでに幻想キャラの言動も私は掴めておらず、イメージと異なる彼女らを書いてしまったかも知れません。
不快に思った方がいらっしゃいましたら、ここでお詫び申し上げます。

233 :森崎名無しさん:2011/10/07(金) 21:15:16 ID:???
カンピオーネ戦は人類の知るサッカーになるのだろうか…w

234 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/08(土) 15:51:55 ID:???
>>223
アルシオンはこれまでシュナイダー、ピエールなど各国のトップエースクラスでした。
けれど今回の事で頭一つ抜けた存在になったという話です。
人類レベルなのは間違いないのでご安心下さい(笑)

他のメンバーはパルマ戦並みのレベル(才)に上がって再び相見える形になります。


12日まで更新は出来ませんが質問なんかあれば受け付けますよー

235 :森崎名無しさん:2011/10/08(土) 21:43:47 ID:???
乙でしたー

236 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 19:56:21 ID:???

>>285 乙感謝です、どもー。
=============================================

≪イタリア・アレッツォ地方(?)≫

その身に稲妻を受けたかのような衝撃、目の前に浮かんでは消えるイメージ。
神秘的な感覚の全てが消失し、地に足が着いている実感を取り戻すまで…
どれほど永い時間が過ぎていったのか、彼には判らなかった。
物理的な時間量としては数秒程度であったが、体感では1週間にも1ヶ月にも感じられたからだ。
世界中を見れば彼と同じような体験をした人間は何人か居たわけだが、その体感濃度は彼の方が濃かった。
境界との距離が近かったせいか、それとも鍵となる人物の側に居たせいかは判らない。

ナムリス(ここは……さっきと変らぬ世界の中心か。
      どうやら計画通りには行かなかったのだな……しかし。)

周囲の風景を視認し、ナムリスは自分の居る場所が先程と変わっていない事を悟った。
自らが夢見た境界の向こう側…“ゲンソーキョー”に行けなかった事にナムリスは軽く落胆する。
しかしそれに準ずる大きな財産を得た事を、彼はちゃんと理解していた。


237 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 19:57:36 ID:???

ナムリス(腐海に浸食された世界、神聖土鬼帝国、世界を焼き払った巨人…
      シュワの墓所と教団、その技術… そして。)

ナムリスは身体に力を込め、自らの肉体をまじまじと見返した。
見掛けは変わっていないが、その中身は自分の知るソレとは明らかに別物。
パワー、スピード、耐久力の全てが規格外となっている実感があった。
今ならばオルミーガと殴り合いをしてもそうそう負ける事はないのでは、と思える程に。

ナムリス(なるほど、これがヒドラの肉体という物か……。
      この記憶……別のオレも、オレらしく狂っていたな。
      フフ、いいじゃないか。 化け物の肉体と墓主の知識…悪くない結果だ。)

得た物をひとしきり確認して満足すると、続いてナムリスは他の者がどうなったかに気を向けた。
倒れて気を失っている少女と蒼白な顔で天を仰ぐ少年の2人だけ…
前者は宇佐美蓮子、後者はアルシオンであった。
注意深く周囲を見回したが、マエリベリー・ハーンの姿は何処にも見当たらない。

238 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 19:58:46 ID:???

ナムリス「メリー先輩…? 何処に居るんです、メリー先輩!?」

蓮子とアルシオンの様子も気にかかったが、彼は先ず居なくなった人間の名を呼んでいた。
マエリベリーは彼にとって、失いたくない掛け替えの無い人物だからである。
ゲンソーキョーと現世を繋ぐ最も重要な鍵、マエリベリー・ハーン。

ナムリス「(返事が無い、気配も無い…クソっ!) 蓮子先輩!! 起きて下さい!」

蓮子「う、あ……な、ナム…? ハッ)メリーは!? メリーは何処!?」

ナムリス「それが何処にも姿が見えないんです!」

蓮子「メリー…! メリーが………メリーが行っちゃった…」 ボロボロ

力無く大粒の涙を溢し出す蓮子。
困ったナムリスは要領を得ぬまま、必死にメリーの事を蓮子から聞きだしたところ…
蓮子は気を失う直前にメリーの言葉を聞いたのだと言った。
自分の無事を祈る言葉が、段々と消え入るのを蓮子は知覚していたらしい。
それが永遠の別れの言葉である予感…いや、確信を蓮子はその時に感じたという事である。


239 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:00:08 ID:???

ナムリス(なんて事だ…! 理論が証明されても、鍵を失ったら意味が無い!
      ここからっ! オレの夢はまだここからだと言うのにっ…!!)

蓮子「ナム…ナムゥ……メリーを探してよぉ………ヒック…
    あたしも探すから…一生かけて探すから……力を貸してよぉ…」

ナムリス「当たり前だ!」

蓮子「本当…?」

ナムリス「(メリー先輩…いや、マエリベリーはオレが必ず見つけ出す…)
      蓮子先輩、逆にオレの方こそ貴女の力を貸して貰いますよ!」

蓮子「う、うえぇぇ……」

泣きじゃくる蓮子と猛るナムリス。
両者は方向性は正反対だが、メリーが消えた喪失感を共有出来ていた。
蓮子は自分の持つ唯一無比の能力をどうにか利用して…
ナムリスは既に持つ財力と、新たに得た能力を利用して、メリーを探しだす事を誓い合った。


240 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:01:37 ID:???

……この時、世界では彼らと同様の体験をした者が、次々に記憶と能力を失っていた。
次元の壁の向こう側で八雲紫が『運命を操る程度の能力』を反転させたからである。
しかしナムリス(達)だけはそれらを失う事は無かった。
メリーの最後の祈りは境界を阻つ結界となって、彼らの身を覆っていたからである。
その事をナムリスと蓮子が知る由も無かったが・・・。


一方、少し離れた場所で天を仰いでいたアルシオン…
彼の耳には何も・・・傍で行われた2人の騒ぎすら入ってこなかった。
まるで世界が隔離されているかのように、アルシオンは自意識の中に閉じこもっていた。
『運命を操る程度の能力』によって彼の中に入ってきたモノの、余りの大きさのせいであろう。


241 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:04:15 ID:???

もう一つの世界でのアルシオンは、どうやら今の彼よりも幾分か年上のようだった。
しかしそれでもアルシオンと同じようにサッカーを愛し、同じようにネズミのアニメーションを愛していた。

アルシオン「オレは…」

そこでの彼は順風満々の少年〜青年時代を過ごしていた。
彼のサッカーの上手さは街の内外に知られ、国内最大のクラブチームがスカウトに来るほど…
地元、国内、世界とそのステージを順調に登っていったが、躓く事は皆無。
彼は若くして世界に認められ、フランスのビッグクラブに入団…その才能は国境を越える事に成功したのだ。
また結婚も早く、苦しい時は妻が支えてくれていた。

アルシオンは今の今まで自分が不幸だなどと思った事はなかった。
しかし、もう一人の自分の姿は余りに眩しく映るほど幸福であった…あの時までは。

クロアチアの独立、突如始まった戦争。
アルシオンが先日ラジオで耳にして情報を求めた内戦は、もう一人の自分も体験していた。
それまで隣人だった人間同士が、その日を境に殺し合いを始めたのである。
フランスで故郷の惨状に絶望する彼の気持ちが、アルシオンにも実感として入り込んで来ていた。
続いて、上から押し潰してくる様なスポーツ制裁が彼(ら)の身に降って湧いた…。
サッカーをする自由を・・・権利を踏み躙られ、国外退去を強いられながらも空港に閉じ込められていた。
誇りと夢と希望をいっぺんに奪われ、苦しみに地に臥す彼。
アルシオンの中に入り込んできたのはそこまでである。


242 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:05:15 ID:???

アルシオン「オレは・・・」

もう一度彼は同じように呟いた。
その顔を注意深く見れば、頬に薄く涙が流れているのが判ったであろう。
ジョアンと旅を始めてからの9年間、どんな時であっても彼が涙を流す事はなかったのに。

アルシオン「父さん、母さん・・・。」

失われた記憶・・・思い出せなかった顔。
入ってきたイメージの中に、今まで懐かしいと感じる事も出来なかった両親の姿があった。
それは当然記憶にない顔だったが…しかし自分の両親だと一瞬で理解する事ができた。
何となくしか感じられなかった心の欠乏が埋まり・・・同時に失くしていた本来の記憶も戻った。

楽しみにしていた試合・・・レッドスターvs地元ラドニツキ・ニシュ。
その試合中に突然起こった乱闘。
自分を連れて出口へと急ぐ両親・・・しかし父は誰かに肩を掴まれ、倒されて殴られていた。
何度も何度も殴られ、棒で叩かれ、声を発する事も微動だにする事も無くなってしまった。
絶叫する母と自分。
その瞬間にショックで気を失った事まで明確に思い出せた。


243 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:06:18 ID:???

アルシオン「うっ・・・クッ・・・・・・ウアアアァァァァァッ!!!!」

絶叫と共にアルシオンは地に臥した。
四つん這いになって、何度も何度も拳を地面に叩きつける。
涙と鼻水が混ざった液体を土の上にボタボタ垂らし、彼は泣き叫ぶ。

アルシオン「これが人か! これが世界か・・・!」

幸せであると信じ続けた9年間は、幸せでも何でもなかった。
それを壊した煮えくり返るような不幸の後に残った、砂粒程の希望でしかなかった。
そしてもう一つの世界に見た幸せも、勝手な人間達の起こした争いによって叩き壊されていた。
それは今この瞬間も、故郷の地では人が殺されていると言う事実も伝えていた。

これらを一度に受け止めきれる器をアルシオンは持っていなかった。
ジョアンと歩いた夜の道だけが『世界』であったアルシオンには、余りに大きすぎる体験だった。
絶望と一口に言ってしまうのも生温い絶望が・・・アルシオンの感情を掻き毟(むし)り、血だらけにした。


244 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:07:31 ID:???

アルシオン「こんな物が世界と言うならば・・・!!!」

その結果、アルシオンの中で何かが弾け飛んだ。


         アルシオン「砕 け 散 れ ぇ っ ! !」


アルシオンは側にあった巨大岩を蹴り飛ばしていた。
普通の人間ならば脳がリミッターをかけ、“自分の足が砕け散らないように”力をセーブする筈だが・・・
今のアルシオンには、そんなブレーキがかかる事はなかった。
そして次の瞬間・・・


   B a k k o o o o o o o o o o o o o o m ! !


巨大岩が粉々になって飛散する光景が描かれたのだった。
アルシオンの絶叫と巨大岩の破壊音は、暫しのあいだ夜のアレッツォの空に響き続けた。
その夜空には、夏の間は姿を消している筈の星・・・Alcyoneが強く悲しく光っていたのだった。


245 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/12(水) 20:09:50 ID:???
今日はこれだけです。
次回(早ければ明日)は三杉の視点に戻って話が再開します。
それでは退屈な幕間が続いておりますが、次回もまた宜しくお願い致します。

246 :森崎名無しさん:2011/10/12(水) 20:10:52 ID:???
ラ・オツデシタ

247 :森崎名無しさん:2011/10/12(水) 20:35:57 ID:???
ラ・オツデシター!

248 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/13(木) 16:58:54 ID:???

>>246-247 ラ・オツカンシャですらー
=============================================

ナムリス(なんとまあ…星をも砕きそうな蹴りだ。)

大岩が砕け散る様は当然ナムリスの目にも入っていた。
ヒドラの肉体と呼ばれる物を得た彼でも、この光景には驚愕を顕わにしていた。
巨大な岩を一蹴りで砕くのは、どうやら今の彼を以ってしても難しいと見える。

アルシオンは今の一撃を振り抜いた後、ヨロヨロとバランスを崩し始めた。
ナムリスは慌ててアルシオンに駈け寄り、その身体を支えた。

ナムリス「アルシオン、そんなフラフラで大丈夫か?」

アルシオン「うるさい…」 ゼェ…ゼェ…

ナムリス「(ふむ…今は気を荒だてさせてはマズイのだろうな…。)
      判った、取り敢えず座って息を落ち着かせろ。」

息を荒く答えるアルシオンの態度には、明らかに拒絶の意が見られた。
先程の体験の中で相当の物を見てしまったのだと予想はつくが、具体的には何も判らない。
個人的な理由からアルシオンの事を失いたくないナムリスは、
今の所は何も言わず、彼を岩畳に座らせ息を落ち着かせる事にした。


249 :アナカン ◆lphnIgLpHU :2011/10/13(木) 17:01:49 ID:???

ナムリス(さて、これからどうする…。 マエリベリーを探すのは当然…これは数と時間を使うしかあるまい。 
      …となると、オレの身体は暫くはアルシオンと共に在るべきだろうな…。
      懸念は2つ……ミラルパと青き衣の奴の存在。 奴らがオレと同じように、
      あの世界の知識と記憶を得ていたとしたら…きっと面倒な事になるからな。)

同じように岩畳に腰を掛け、ナムリスは2人の人物の顔を脳裏に思い浮かべた。
入って来た記憶にある世界で自身の弟であった、超常の力を持つ皇弟ミラルパと・・・
そして弟が恐れた存在…土鬼の土着宗教にて『世界を救う救世主』とされた青き衣の者。
後者については伝承の類に過ぎない筈だったが、その具現と思しき女を向こうのナムリスは見ている。
いずれの人物も、向こうのナムリスにとっては忌々しく邪魔な存在であった。

ナムリス「どうやら向こうのオレは歓迎していたようだが・・・
      こちらの世界では決して遭いたくないところだな。」

そう呟いて夜空を見上げたナムリス・ユブンタイ。
目的の知れぬ狂気を宿した目は、今だけは星々の美しさの中を泳いでいた。

…同じ時間、遥か遠く離れた地において、ナムリスと同じ星を見ている少年が居た。
砂の海が広がる大地と、星の海が瞬く空。
この両者の境界の少し上を、大きな屋敷のベランダから見つめながら…少年は呟いた。

???「宇宙の心……? 泣き叫ぶような声が聞こえる気がする…」


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